説明

グランドピアノのアクション

【課題】ジャックボタンスクリューの重量を軽くし、ウイッペンやジャックの押鍵操作に対する追従性を向上したグランドピアノのアクションを提供する。
【解決手段】このジャックボタンスクリュー50を備えるアクションは、グランドピアノのアクションであり、このジャックボタンスクリュー50は、スクリュー51とボタン52とが樹脂で一体に形成されている。従来のアクションでは、スクリュー部分を金属で構成していたため重く、そのため、押鍵追従性が悪かったが、このアクションはスクリュー部分を樹脂で構成し軽いので、従来のアクションより押鍵追従性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グランドピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グランドピアノのアクション機構100は、図3に示すように、押鍵すると、非演奏者側を支点に演奏者側が回転して持ち上がるウイッペン101を備えている。
そして、このウイッペン101には、長手方向の中央から支柱101aが立設され、また、ウイッペン101の演奏者側の先端には、ジャック102が取り付けられ、さらに、支柱101aとジャック102との間には、スプーン103が立設されている。
【0003】
そして、支柱101aには、ジャック102を非演奏者側に付勢するバネ101bが取り付けられている。
ジャック102は、略L字状に形成され、短い方の辺が演奏者側を向き、長い方の辺(以下「長辺102a」と呼ぶ)が上方を向くように、各辺の角部を支点に揺動可能にウイッペン101に取り付けられている。
【0004】
また、ジャック102の長辺102aの長手方向中央付近には、長辺102aに略垂直にジャックボタンスクリュー104が設置されている。このジャックボタンスクリュー104は、ジャック102がバネ101bに付勢されて非演奏者側に傾くことによって、スプーン103の先端に当たるようにされている。
【0005】
グランドピアノのアクション機構100では、押鍵されるとウイッペン101が持ち上げられ、これにともないジャック102も持ち上げられ、ジャック102の昇降運動は、シャンクローラー105を介してハンマーシャンク106の回動運動に変換される。
【0006】
その際、ジャック102がハンマーシャンク106を持ち上げる力をハンマーシャンク106に効率よく伝達するために、ジャック102の長方辺102aの上端面上にシャンクローラー105が乗るようにジャックボタンスクリュー104をスプーン103に対して進退させて、ジャック102のウイッペン101に対する角度が調整されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したジャックボタンスクリュー104は、図4に示すように、金属材料で形成されたスクリュー104aの先端に、スプーン103に当たる先端側にフェルト104cが備えられた樹脂または木材のボタン104bが螺合された構造となっていた。
【0008】
つまり、従来のジャックボタンスクリュー104は、スクリュー104aが金属で構成されているため重量が重くなってしまい、その結果、回動運動を行うウイッペンやジャックの押鍵操作に対する追従性が悪くなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、ジャックボタンスクリューの重量を軽くし、ウイッペンやジャックの押鍵操作に対する追従性を向上したグランドピアノのアクションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた発明である請求項1に記載のグランドピアノのアクションは、長手方向の一端を支点に鍵の動きに応じて遊端側が上下に回動するウイッペンと、前記ウイッペンの遊端側に、揺動可能に支持されるジャックと、前記ジャックよりも、前記ウイッペンの支点側の前記ウイッペン上から立設されたスプーンと、前記ジャックに螺合可能なスクリュー部、該スクリュー部の先端に設けられたボタン部とを有し、前記スクリュー部の前記ジャックへの螺入量を可変することで、前記ボタン部を前記スプーンに対して進退させることが可能なジャックボタンスクリューと、前記ジャックを付勢して前記ウイッペンの支点側に傾けることで、前記ボタン部を前記スプーンに当接させる付勢手段とを備え、前記ジャックボタンスクリューを前記スプーンに対し進退させることで、前記付勢手段により前記ウイッペンの支点側に傾いた前記ジャックの傾き量を調整するグランドピアノのアクションにおいて、前記ジャックボタンスクリューは、前記スクリューが樹脂又は木材で形成され、前記ボタンも樹脂又は木材で形成され、前記ボタンの前記スプーンに当接する側にはフェルトが取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
この請求項1に記載のアクションは、ジャックボタンスクリューを構成するスクリュー部分が樹脂又は木材で構成されているので、スクリュー部分を金属で構成したジャックボタンスクリューを用いる場合に比べて、アクションの重量が軽くなる。
【0012】
とりわけ、ジャックボタンスクリューは、ウイッペンの支点から遠いところに設置されているので、重量を軽くすることで、押鍵によりウイッペンを回動する際の慣性質量を非常に軽くすることができる。
【0013】
従って、この請求項1に記載のアクションを用いれば、従来のアクションに比べ、ウイッペンやジャックの押鍵操作に対する追従性を向上することができる。
次に、請求項2に記載したように、請求項1に記載のグランドピアノのアクションにおいて、ジャックボタンスクリューは、樹脂又は木材を用いてスクリューとボタンとが一体に形成されていることが好ましい。
【0014】
スクリューとボタンとを一体に構成すると、それらを組み立てる工程が省略され、また、組立による精度的なバラツキを抑えることができるので、アクションの軽量化を図ることができるとともに、精度向上及び製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態のグランドピアノのアクションの正面図である。
【図2】ジャックボタンスクリューの正面図である。
【図3】従来のグランドピアノのアクションの正面図である。
【図4】従来のジャックボタンスクリューの正面図で、一部透過図で示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態のグランドピアノのアクション1は、図1に示すように、非演奏者側の端部がウイッペンレール11から立ち上がったウイッペンフレンジ12に揺動可能に支持されたウイッペン10を備えている。
【0017】
ウイッペン10は、鍵90が押鍵され、鍵90が筬中91を支点に揺動して、非演奏者側が持ち上げられると、鍵90の非演奏者側に設けられたキャプスタンスクリュー92によって持ち上げられて回動する。
【0018】
このウイッペン10の長手方向中央には、支柱13が上方に向かって立設され、演奏者側の端部には、ジャック20が揺動可能に取り付けられ、さらに、支柱13とジャック20とが取り付けられる部分の略中間付近からはスプーン14が立設されている。
【0019】
支柱13の上端には、レピティションレバー30が揺動可能に取り付けられ、このレピティションレバー30の演奏者側の先端近傍には、ジャック20の上端部が挿通可能な図示しない挿通孔が形成されている。
【0020】
ジャック20は、略L字状に形成され、長い方の辺21(長辺21)と、短い方の辺22(短辺22)との角部を支点に揺動するようウイッペン10に取り付けられている。
このとき、ジャック20は、長辺21がウイッペン10から上方に向かい、短辺22が演奏者側に向かうように、ウイッペン10に取り付けられる。
【0021】
また、アクション1は、支柱13を支点に、レピティションレバー30の演奏者側を上方に向かって付勢するとともに、ジャック20を非演奏者側に向かって付勢するバネ40を備えている。
【0022】
また、ジャック20の長辺21には、この長辺21に垂直に螺合されたジャックボタンスクリュー50を備えている。
このジャックボタンスクリュー50は、バネ40の付勢力によってジャック20が非演奏者側に傾いているため、先端がスプーン14の上端に当接している。
【0023】
そのため、このジャックボタンスクリュー50をジャック20に対して進退させることによって、スプーン14に対して進退させると、ジャック20のウイッペン10に対する傾斜角度を調整することができる。そして、このようにすることでジャック20の長辺21の上端面上に、後述するシャンクローラ71が乗るように調整することができる。
【0024】
また、このジャックボタンスクリュー50は、図2に示すように、スクリュー51と、このスクリュー51の先端に設けられたボタン52とが樹脂で一体に形成されており、ボタン52の先端にフェルト53が設けられ、このフェルト53がスプーン14(図1参照)に当接するよう、ジャック20の長辺21に螺入されている。
【0025】
アクション1は、図1に示すように、ハンマーシャンクレール60から下方に向かって立設され、ジャック20の短辺22の演奏者側の先端の上方に配置されたレギュレーティングボタン61を備えている。
【0026】
また、アクション1は、ハンマーシャンクレール60の非演奏者側に揺動可能に取り付けられたハンマー70を備えている。
ハンマー70は、ハンマーシャンクレール60に回動可能に取り付けられる支点近傍の下部にシャンクローラ71を備えていて、非押鍵時には、ジャック20の長辺21の上端面上にシャンクローラ71が乗るようにしてハンマー70を支持している。
【0027】
上記のように構成されたアクション1では、押鍵されると、ウイッペン10の演奏者側が上方に向かって回動し、この回動に伴ってジャック20、さらには、このジャック20に押されてハンマー70もハンマーシャンクレール60を支点に回動する。
【0028】
そして、ジャック20の短辺22の先端がレギュレーティングボタン61に当接すると、ジャック20の長辺21の先端が演奏者側に移動するようジャック20が回動して(図1では時計回り)、ジャック20の長辺21の先端がシャンクローラ71からはずれる。
【0029】
その後ハンマー70は、さらに上昇を続けて打弦をした後に下方に移動し、シャンクローラ71がレピティションレバー30上に乗り、ジャック20の短辺22の先端がレギュレーティングボタン61から離れると、ジャック20がバネ40によって非演奏者側に付勢され、ジャック20の長辺21の上端面上に再びシャンクローラ71が乗る。
【0030】
以上説明したアクション1は、ジャックボタンスクリュー50を構成するスクリュー51が樹脂で構成されているので、金属で構成されているジャックボタンスクリューを用いる場合に比べて、アクション1の重量を軽くすることができる。
【0031】
とりわけ、ジャックボタンスクリュー50は、ウイッペン10の支点から遠いところに設置されているので、重量を軽くすることで、押鍵によりウイッペン10を回動する際の慣性質量を非常に軽くすることができる。
【0032】
従って、本実施形態のアクション1を用いれば、従来のアクションに比べ、ウイッペンやジャックの押鍵操作に対する追従性を向上することができる。
さらに、本実施形態のアクション1を用いれば、ジャックボタンスクリュー50のスクリュー51とボタン52とを一体に構成しているため、それらを組み立てる工程が省略され、また、組立による精度的なバラツキを抑えることができるので、アクションの軽量化を図ることができるとともに、精度向上及び製造コストを低減することができる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、ジャックボタンスクリュー50のスクリュー51とボタン52とを樹脂で一体に形成したが、木材で一体に形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…アクション、10…ウイッペン、11…ウイッペンレール、12…ウイッペンフレンジ、13…支柱、14…スプーン、20…ジャック、21…長辺、22…短辺、30…レピティションレバー、40…バネ、50…ジャックボタンスクリュー、51…スクリュー、52…ボタン、53…フェルト、60…ハンマーシャンクレール、61…レギュレーティングボタン、70…ハンマー、71…シャンクローラ、90…鍵、91…筬中、92…キャプスタンスクリュー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端を支点に鍵の動きに応じて遊端側が上下に回動するウイッペンと、
前記ウイッペンの遊端側に、揺動可能に支持されるジャックと、
前記ジャックよりも、前記ウイッペンの支点側の前記ウイッペン上から立設されたスプーンと、
前記ジャックに螺合可能なスクリュー部、該スクリュー部の先端に設けられたボタン部とを有し、前記スクリュー部の前記ジャックへの螺入量を可変することで、前記ボタン部を前記スプーンに対して進退させることが可能なジャックボタンスクリューと、
前記ジャックを付勢して前記ウイッペンの支点側に傾けることで、前記ボタン部を前記スプーンに当接させる付勢手段と
を備え、
前記ジャックボタンスクリューを前記スプーンに対し進退させることで、前記付勢手段により前記ウイッペンの支点側に傾いた前記ジャックの傾き量を調整するグランドピアノのアクションにおいて、
前記ジャックボタンスクリューは、
前記スクリューが樹脂又は木材で形成され、前記ボタンも樹脂又は木材で形成され、前記ボタンの前記スプーンに当接する側にはフェルトが取り付けられていることを特徴とするグランドピアノのアクション。
【請求項2】
請求項1に記載のグランドピアノのアクションにおいて、
前記ジャックボタンスクリューは、樹脂又は木材を用いて前記スクリューと前記ボタンとが一体に形成されていることを特徴とするグランドピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−73504(P2012−73504A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219467(P2010−219467)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)