説明

グランド型ピアノのダンパー

【課題】 ダンパーフェルトの弦への当たり方を容易に調整でき、それにより、ダンパーの止音性能およびピアノの演奏性を向上させることができるグランド型ピアノのダンパーを提供する。
【解決手段】 水平に張られた弦Sの上側に設けられ、主ダンパーヘッド35、および主ダンパーヘッド35の下面に貼り付けられた主ダンパーフェルト36を有するダンパー本体31と、主ダンパーヘッド35の弦Sの延び方向の少なくとも一端部側に隣接し、変形可能な調整部材32を介して主ダンパーヘッド35に連結された補助ダンパーヘッド38、および補助ダンパーヘッド38の下面に貼り付けられた補助ダンパーフェルト39を有する補助ダンパー33と、を備え、補助ダンパーフェルト39の下面は、主ダンパーフェルト36の下面よりも下側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平に張られた弦に離接することによって、弦の振動を許容または停止するグランド型ピアノのダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパーとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパーは、グランドピアノ用のものであり、単一のダンパーヘッドと、ダンパーヘッドの下面に固定された2つの主ダンパーフェルトおよび2つの補助ダンパーフェルトを備えている。弦の延び方向において、2つの主ダンパーフェルトは、ダンパーヘッドの中央付近に配置され、2つの補助ダンパーフェルトは、主ダンパーフェルトの両外側に配置されている。補助ダンパーフェルトは主ダンパーフェルトよりも厚く、補助ダンパーフェルトの下面は、主ダンパーフェルトの下面よりも下側に位置している。
【0003】
鍵が押鍵されると、ダンパーが上方に移動し、主・補助ダンパーフェルトが弦から離れることによって、打弦された弦の振動が許容される。その後、鍵が離鍵されると、ダンパーが下方に移動し、補助ダンパーフェルトが弦に当接した後、主ダンパーフェルトが弦に当接することによって、打弦された弦の振動が段階的に減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭55−63581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のダンパーでは、補助ダンパーフェルトがダンパーヘッドに固定されているため、補助ダンパーフェルトの上下方向および左右方向の位置、ならびに角度を容易に調整することができない。このため、補助ダンパーフェルトが弦に当接するタイミングや角度、位置(以下、総称して「弦への当たり方」という)が所望の状態からずれたとしても、これらを容易に調整することができない。その結果、ダンパーの所望の止音性能が得られず、ひいてはピアノの演奏性が低下する。
【0006】
例えば、ダンパーペダルの踏込み量を調節することによって、離鍵状態でダンパーフェルトを弦に若干、触れさせた状態にする、いわゆるハーフペダルを行う場合、補助ダンパーフェルトが弦に当接するタイミングがずれていても、これを容易に調整できないため、演奏者が意図するハーフペダル効果を得ることができない。
【0007】
また、1鍵あたりの弦の本数が2本または3本であって、これらの弦をスリットや傾斜面を形成した1つのダンパーフェルトで止音する場合、補助ダンパーフェルトの左右方向の位置や角度がずれているためにスリットおよび傾斜面が弦に良好に係合しないときでも、これを容易に調整できないため、弦の振動を十分に減衰させることができず、ダンパーの良好な止音性能を得ることができない。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ダンパーフェルトの弦への当たり方を容易に調整でき、それにより、ダンパーの止音性能およびピアノの演奏性を向上させることができるグランド型ピアノのダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、複数の鍵ごとに水平に張られた弦から上方に離れることによって、弦の振動を許容し、弦に上方から当接することによって、弦の振動を停止するグランド型ピアノのダンパーであって、弦の上側に設けられ、主ダンパーヘッド、および主ダンパーヘッドの下面に貼り付けられた主ダンパーフェルトを有するダンパー本体と、主ダンパーヘッドの弦の延び方向の少なくとも一端部側に隣接し、変形可能な調整部材を介して主ダンパーヘッドに連結された補助ダンパーヘッド、および補助ダンパーヘッドの下面に貼り付けられた補助ダンパーフェルトを有する補助ダンパーと、を備え、補助ダンパーフェルトの下面は、主ダンパーフェルトの下面よりも下側に位置していることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、例えば鍵が押鍵されると、ダンパーの下面に貼り付けられた主ダンパーフェルトおよび補助ダンパーフェルトが弦から上方に離れることによって、弦の振動を許容する。その後、鍵が離鍵されると、主ダンパーフェルトおよび補助ダンパーフェルトが弦に上方から当接することによって、弦の振動を停止する。この場合、補助ダンパーフェルトの下面が、主ダンパーヘッドの下面よりも下側に位置するので、補助ダンパーフェルトが弦に当接した後、主ダンパーフェルトが弦に当接することによって、弦の振動を段階的に減衰させる。
【0011】
また、補助ダンパーヘッドが、主ダンパーヘッドの弦の延び方向の少なくとも一端部側に隣接し、変形可能な調整部材を介して主ダンパーヘッドに連結されているので、調整部材を変形させることによって、補助ダンパーヘッドおよびその下面に貼り付けられた補助ダンパーフェルトの上下方向および左右方向の位置、ならびに角度を調整することができる。さらに、この調整を、補助ダンパーフェルトを取り付けたまま、行うことができる。このため、補助ダンパーフェルトの弦への当たり方が所望の状態からずれたとしても、これをダンパーごとに容易に調整でき、その結果、ダンパーの止音性能およびピアノの演奏性を向上させることができる。
【0012】
例えば、調整部材により補助ダンパーフェルトの上下方向の位置を調整し、補助ダンパーフェルトが弦に当接するタイミングを調整することによって、演奏者が意図するハーフペダル効果を容易に得ることができる。また、複数の弦をスリットおよび傾斜面が形成された補助ダンパーフェルトで止音する場合には、補助ダンパーフェルトの左右方向の位置および角度を調整し、スリットおよび傾斜面を弦に良好に係合させるようにすることで、ダンパーの良好な止音性能を得ることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパーにおいて、調整部材は、金属製の線材で構成され、主ダンパーヘッドおよび補助ダンパーヘッドの互いに対向する面に差し込まれていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、金属製の線材で構成された調整部材を曲げるだけで、補助ダンパーヘッドおよび補助ダンパーフェルトの位置および角度を調整できる。また、この調整を、調整部材を繰り返し曲げることによって行えるため、補助ダンパーフェルトの弦への当たり方の調整を、非常に容易に行うことができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のグランド型ピアノのダンパーにおいて、補助ダンパーフェルトは、主ダンパーフェルトよりも柔らかいことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、補助ダンパーフェルトが主ダンパーフェルトよりも柔らかいので、ダンパーフェルトが弦に当接する際、補助ダンパーフェルトが弦に当接し、圧縮された状態で、主ダンパーフェルトが弦に確実に当接する。このため、弦の振動を、補助ダンパーフェルトである程度、減衰させた後、主ダンパーフェルトで減衰させることができる。したがって、主・補助ダンパーフェルトによる弦の振動の段階的な減衰を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態によるダンパーを備えたグランドピアノの鍵盤装置を示す側面図である。
【図2】図1のダンパー、鍵およびその周辺部を拡大して示す斜視図である。
【図3】ダンパー本体および補助ダンパーと弦との位置関係を離鍵状態および押鍵状態においてそれぞれ示す断面図である。
【図4】図1のダンパーのダンパーヘッドと弦との位置関係を示す側面図である。
【図5】第1実施形態のダンパーヘッドの変形例を示す側面図である。
【図6】第2実施形態によるダンパーのダンパーヘッドを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるダンパー1を備えたグランドピアノ(以下「ピアノ」という)2の鍵盤装置3を、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、ピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」とし、説明を行うものとする。
【0019】
同図に示すように、鍵盤装置3は、筬4、鍵盤5、アクション6および複数のハンマー7(いずれも1つのみ図示)を備えている。鍵盤5は、複数(例えば88個)の鍵5a(1つのみ図示)で構成されている。鍵5aは、その中央部において、筬4に立設されたバランスピン8に揺動自在に支持されており、前後方向に延びている。
【0020】
アクション6は、鍵盤5の後部の上方に配置されており、鍵5aごとに、ウィッペン11、レペティションレバー12およびジャック13を有している。ウィッペン11は、その後端部において、ウィッペンフレンジ11aを介してウィッペンレール10に回動自在に支持され、中央において鍵5aに載置されている。レペティションレバー12およびジャック13は、ウィッペン11に回動自在に取り付けられている。
【0021】
各ハンマー7は、鍵5aごとに設けられ、前後方向に延びるハンマーシャンク7aと、ハンマーシャンク7aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド7bを備えており、ハンマーシャンク7aの前端部において、シャンクフレンジ7cを介してハンマーシャンクレール14に回動自在に支持されている。
【0022】
以上の構成によれば、鍵5aが押鍵されると、鍵5aがバランスピン8を中心として図1の時計方向に回動するのに伴い、ウィッペン11が、鍵5aで突き上げられ、反時計方向に回動する。このウィッペン11の回動に伴い、レペティションレバー12およびジャック13が上方に移動し、ジャック13がハンマー7を突き上げることによって、ハンマー7が、時計方向に回動し、その上方に水平に張られた弦Sを打弦する。
【0023】
図1および図2に示すように、本発明に係るダンパー1は、鍵盤5の後方に配置されており、鍵5aごとに設けられた複数のダンパーレバー22およびダンパーヘッド23(いずれも1つのみ図示)を備えている。
【0024】
各ダンパーレバー22は、その後端部において、ダンパーレバーフレンジ24を介してダンパーレバーレール21に回動自在に支持され、前後方向に延びている。また、ダンパーレバー22は、リフティングレール29に載置されている。リフティングレール29は、上下方向に延びるリフティングレール突揚棒30に載置されており、このリフティングレール突揚棒30の下端部は、ダンパーペダル(図示せず)に連結されている。離鍵状態では、ダンパーレバー22の前端部は、対応する鍵5aの後端部に上方から対向している。
【0025】
また、ダンパーレバー22の中央には、ダンパーワイヤフレンジ25が回動自在に取り付けられている。ダンパーワイヤフレンジ25の上面にはダンパーワイヤ27が固定され、上方に延びている。ダンパーワイヤ27は、ダンパーワイヤガイドホルダ28のガイド孔28aに通されており、その上端部に前記ダンパーヘッド23が取り付けられている。
【0026】
ダンパーヘッド23は、ダンパー本体31、調整部材32および補助ダンパー33で構成されており、弦Sの上側に配置されている。ダンパー本体31および補助ダンパー33は、ピアノの通常のダンパーヘッドを分割したものである。図1〜図4は、中音域用の弦Sおよびダンパーヘッド23を示している。この弦Sは、高炭素鋼製の3本のミュージックワイヤMWで構成されており、これらのミュージックワイヤMWは、互いに同じ高さに、所定の等間隔で、左右方向に並設されている(図3)。
【0027】
ダンパー本体31は、主ダンパーヘッド35と、主ダンパーヘッド35に取り付けられた2つの主ダンパーフェルト36、36を有している。主ダンパーヘッド35は、木材で構成されており、前後方向に延びている。主ダンパーヘッド35の左側面の中央付近には、穴35aが形成されており、この穴35aに、右方に曲げられたダンパーワイヤ27の上端部が係合している。また、主ダンパーヘッド35の背面には、左右2つの穴35b、35b(図4(a)に1つのみ図示)が形成されている。
【0028】
2つの主ダンパーフェルト36、36は、ダンパーワイヤ27の前後に配置され、アンダーフェルト37を介して主ダンパーヘッド35の下面に貼り付けられている。図3(a)に示すように、各主ダンパーフェルト36の左右の側面は、下方に向かって内方に傾斜する傾斜面36a、36aになっており、また、下面の中央には、三角形状のスリット36bが形成され、これらは、各主ダンパーフェルト36の前後方向の全体にわたって延びている。その結果、傾斜面36a、36aおよびスリット36bによって、主ダンパーフェルト36には、楔状の2つの係合部36c、36cが形成されている。
【0029】
補助ダンパー33は、補助ダンパーヘッド38と、補助ダンパーヘッド38に取り付けられた補助ダンパーフェルト39を有している。補助ダンパーヘッド38は、主ダンパーヘッド35の後端部の後ろ側に隣接するように配置されている。補助ダンパーヘッド38の前面には、左右2つの穴38a、38a(図4(a)に1つのみ図示)が形成されている。補助ダンパーフェルト39は、主ダンパーフェルト36よりも柔らかいフェルトで構成されており、アンダーフェルト40を介して、補助ダンパーヘッド38の下面に貼り付けられている。
【0030】
図3(b)に示すように、補助ダンパーフェルト39の断面形状は、主ダンパーフェルト36と同じであり、左右の側面の傾斜面39a、39aと下面の中央のスリット39bによって、補助ダンパーフェルト39には、その前後方向の全体にわたって、楔状の2つの係合部39c、39cが形成されている。
【0031】
調整部材32は、2本の線材32a、32a(1本のみ図示)で構成されている。線材32aは、手で曲げることが可能で、かつ曲げられた後に形状が保持されるような硬さを有する金属、例えば銅やアルミニウムで構成されている。線材32a、32aの一端部は主ダンパーヘッド35の穴35b、35bに、他端部は補助ダンパーヘッド38の穴38a、38aにそれぞれ差し込まれ、固定されており、それにより、補助ダンパーヘッド38は、調整部材32を介して主ダンパーヘッド35に連結されている。また、補助ダンパー33は主ダンパー31に対して後ろ下がりに傾斜しており、補助ダンパーフェルト39の下面は、主ダンパーフェルト36の下面よりも下側に位置している。
【0032】
次に、図4などを参照しながら、上述した構成のダンパー1の動作について説明する。同図(a)に示す離鍵状態では、ダンパーヘッド23の主ダンパーフェルト36および補助ダンパーフェルト39は、弦Sに上方から当接している。この状態では、図3(c)および(d)に示すように、主・補助ダンパーフェルト36、39の各係合部36c、39cは、隣り合う2本のミュージックワイヤMW、MWの間に係合し、スリット36b、39bは、中央のミュージックワイヤMWに係合している。
【0033】
この状態から鍵5aが押鍵されると、鍵5aは、図1の時計方向に回動し、ダンパーレバー22に接触し、これを押圧する。これにより、ダンパーレバー22は、その後端部を中心として反時計方向に回動する。この回動に伴い、ダンパーワイヤ27がダンパーワイヤホルダ28のガイド孔28aで案内されながら、ダンパーワイヤフレンジ25、ダンパーワイヤ27およびダンパーヘッド23が上方に移動する。これにより、主ダンパーフェルト36および補助ダンパーフェルト39が弦Sから離れる(図4(b))。そして、その状態で、アクション6により駆動されたハンマー7が弦Sを打弦することによって、弦Sの振動が許容され、ピアノ音が発生する。
【0034】
その後、鍵5aが離鍵されると、ダンパーレバー22が時計方向に復帰回動するのに伴い、上述した動作と逆の動作で、ダンパーヘッド23などが下方に移動する。このダンパーヘッド23の移動に伴い、より下側に位置する補助ダンパーフェルト39がまず弦Sに当接することにより(同図(c))、弦Sの振動をある程度、減衰させる。その後、補助ダンパーフェルト39が圧縮された状態で、より上側に位置する主ダンパーフェルト36が弦Sに当接することにより(同図(d))、弦Sの振動をさらに減衰させることによって、弦Sの振動が停止され、止音される。
【0035】
また、ダンパーペダルが踏込み操作されると、リフティングレール29がリフティングレール突揚棒30で突き上げられることによって、上方に回動する。これにより、すべてのダンパーレバー22が上方に回動し、主・補助ダンパーフェルト36、39が弦Sから一斉に離れることによって、すべての弦Sの振動が許容され、ダンパーペダル効果が付与される。
【0036】
さらに、補助ダンパーフェルト39の弦Sへの当たり方が所望の状態からずれている場合には、補助ダンパーフェルト39の位置および角度が調整部材32によって調整される。例えば、補助ダンパーフェルト39が弦Sに当接するタイミングがずれている場合には、補助ダンパーヘッド38を摘み、力を加えることにより線材32a、32aを上方または下方に曲げることによって、補助ダンパーフェルト39の上下方向の位置を調整する。また、補助ダンパーフェルト39の左右方向の位置や角度がずれているために、その係合部39cが弦Sに良好に係合しない場合には、線材32a、32aを左方または右方に曲げることによって、補助ダンパーフェルト39の左右方向の位置および角度を調整する。
【0037】
以上ように、本実施形態によれば、調整部材32を構成する線材32a、32aを手で曲げるだけで、補助ダンパーフェルト39の上下方向および左右方向の位置、ならびに角度を容易に調整でき、演奏者が意図するハーフペダル効果や、ダンパー1の良好な止音性能などを容易に得ることができる。その結果、ダンパー1の止音性能およびピアノ2の演奏性を向上させることができる。また、上述した調整を、補助ダンパーフェルト39を取り付けたまま、調整部材32を繰り返し曲げることによって行えるため、補助ダンパーフェルト39の弦Sへの当たり方の調整を、非常に容易に行うことができる。
【0038】
また、補助ダンパーフェルト39が主ダンパーフェルト36よりも柔らかいので、ダンパーフェルトが弦Sに当接する際、補助ダンパーフェルト39が弦Sに当接し、圧縮された状態で、主ダンパーフェルト36が弦Sに確実に当接する。このため、弦Sの振動を、補助ダンパーフェルト39である程度、減衰させた後、主ダンパーフェルト36で減衰させることができる。したがって、主・補助ダンパーフェルト36、39による弦Sの振動の段階的な減衰を良好に行うことができる。
【0039】
図5は、ダンパーヘッド23の変形例を示している。同図に示すように、ダンパーヘッド42は、ピアノの通常のダンパーヘッドをダンパー本体43とし、これに調整部材32を介して補助ダンパー33を取り付けたものである。ダンパー本体43の前後方向の長さは、第1実施形態のダンパー本体31よりも長く、その分、補助ダンパー33を合わせたダンパーヘッド42全体の前後方向の長さが、第1実施形態のダンパーヘッド23全体の長さよりも大きくなっている。
【0040】
以上の構成により、この変形例においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1実施形態と比較し、ダンパーヘッド42がより長いため、弦Sの振動をより良好に減衰させることができ、ダンパーヘッド42による止音動作をより良好に行うことができる。さらに、ダンパーヘッド42は既存のダンパー本体43に補助ダンパー33を取り付けるだけで構成できるため、第1実施形態のダンパー1よりも低コストで製造することができる。
【0041】
次に、図6を参照しながら、本発明の第2実施形態によるダンパー51について説明する。なお、同図では、第1実施形態のダンパー1と同じ構成部品については、同じ符号が付されている。同図に示すように、ダンパー51は、ダンパー1の調整部材32に代えて、調整部材52を用いたものである。この調整部材52は、熱可塑性樹脂で構成されたブロック状のものであり、主ダンパーヘッド35の背面と補助ダンパーヘッド38の前面との間に介在した状態で設けられ、両者35、38を連結している。ダンパー51の他の構成は、第1実施形態のダンパー1と同じである。
【0042】
本実施形態では、補助ダンパーフェルト39の位置および角度を調整する際には、調整部材52を加熱することによって軟化させた後、補助ダンパーヘッド38を介して調整部材52に力を加えることによって、補助ダンパーフェルト39の所望の位置および角度が得られるように調整部材52を変形させ、その状態を調整部材52が硬化するまで保持する。これにより、補助ダンパーフェルト39の位置および角度を容易に調整することができる。したがって、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、弦Sの振幅がより大きい部分に当接し、弦Sの振動をより効果的に減衰させるために、補助ダンパー33を主ダンパーヘッド35の後ろ側に配置しているが、前側に配置してもよく、あるいは、後ろ側および前側の両方に配置してもよい。
【0044】
また、実施形態では、3本のミュージックワイヤMWで構成された弦Sを、1つのスリット39bおよび2つの係合部39cを有するダンパーヘッド35で止音する中音域用のダンパー1を例にとり説明したが、弦の本数、スリットの有無、スリットおよび係合部の数や音域にかかわらず、本発明を適用してもよいことはもちろんである。さらに、主ダンパーヘッド35に前後2つの主ダンパーフェルト36、36を設けているが、前後方向の長さがより小さな高音域用のダンパーヘッドでは、主ダンパーフェルトを1つだけ設けてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜変更することが可能である。
【0045】
また、実施形態は、本発明をアコースティックタイプのグランドピアノ2に適用した例であるが、これに限らず、消音タイプなどの他のタイプのグランドピアノに適用してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
1 ダンパー
2 グランドピアノ(グランド型ピアノ)
5a 鍵
23 ダンパーヘッド
31 ダンパー本体
32 調整部材
32a 線材
33 補助ダンパー
35 主ダンパーヘッド
36 主ダンパーフェルト
38 補助ダンパーヘッド
39 補助ダンパーフェルト
42 ダンパーヘッド
43 ダンパー本体
51 ダンパー
52 調整部材
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵ごとに水平に張られた弦から上方に離れることによって、当該弦の振動を許容し、当該弦に上方から当接することによって、当該弦の振動を停止するグランド型ピアノのダンパーであって、
前記弦の上側に設けられ、主ダンパーヘッド、および当該主ダンパーヘッドの下面に貼り付けられた主ダンパーフェルトを有するダンパー本体と、
前記主ダンパーヘッドの前記弦の延び方向の少なくとも一端部側に隣接し、変形可能な調整部材を介して前記主ダンパーヘッドに連結された補助ダンパーヘッド、および当該補助ダンパーヘッドの下面に貼り付けられた補助ダンパーフェルトを有する補助ダンパーと、を備え、
前記補助ダンパーフェルトの下面は、前記主ダンパーフェルトの下面よりも下側に位置していることを特徴とするグランド型ピアノのダンパー。
【請求項2】
前記調整部材は、金属製の線材で構成され、前記主ダンパーヘッドおよび前記補助ダンパーヘッドの互いに対向する面に差し込まれていることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノのダンパー。
【請求項3】
前記補助ダンパーフェルトは、前記主ダンパーフェルトよりも柔らかいことを特徴とする、請求項1または2に記載のグランド型ピアノのダンパー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−53416(P2012−53416A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198025(P2010−198025)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)