説明

グランド型ピアノの大屋根装置

【課題】大屋根の開放状態を柔軟に調整できることで、音響効果を高めることができるとともに、大屋根全体としての形状のバリエーションの増大を図ることができるグランド型ピアノの大屋根装置を提供する。
【解決手段】ピアノ本体の側板に取り付けられ、ピアノ本体の上面を開閉するための大屋根3を備えたグランド型ピアノの大屋根装置1であって、各々が左右方向に延びるとともに互いに前後方向に並設され、大屋根3を構成する複数の屋根片4と、側板に固定され、各屋根片4を、左右の一方の端部において、前後方向に水平に延びる第1軸線を中心として回動自在に支持するとともに屋根片4の延び方向に沿って延びる第2軸線7aを中心として回動自在に支持する屋根片支持装置5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グランドピアノやグランド型の電子ピアノなどに適用され、ピアノ本体の上面を開閉するグランド型ピアノの大屋根装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の一般的な大屋根を備えたグランドピアノを示している。このグランドピアノ21は、前部に鍵盤22aを有するとともにフレームや響板、弦などを内蔵するピアノ本体22と、このピアノ本体22の最上部に設けられた大屋根23とを備えている。大屋根23は、一般にラワン合板などからなり、大屋根後24および大屋根前25で構成されている。大屋根後24は、低音側(左側)の奥行きが高音側(右側)のそれよりも長い所定形状に形成され、左端部において、前後2つの屋根角蝶番26、26を介して、ピアノ本体22の側面を構成する側板27の左部に回動自在に取り付けられている。また、大屋根後24の下面の所定位置には、大屋根23が開放された際に、後述する大屋根突揚げ棒31の先端部が当接した状態でこれを受ける突揚げ棒受け皿24aが固定されている。一方、大屋根前25は、平面形状が横長矩形状に形成されており、大屋根後24の前端部に、大屋根蝶番28を介して回動自在に取り付けられ、大屋根後24に対して折り畳み可能になっている。
【0003】
このように構成された大屋根23は、グランドピアノ21の非演奏時や保管時には、ピアノ本体22の内部機構を保護するために、図7(a)に示すように、水平な状態で閉鎖される。一方、演奏時には、演奏音を前方の演奏者側に直接、伝えるようにしたり、演奏音を大屋根後24の下面で反射させたりすることなどによって、より豊かな音量や響きを得るために、同図(b)に示すように、大屋根23が、大屋根突揚げ棒31で支持されることによって、右上がりに傾斜した状態で開放される。また、グランドピアノの機種によっては、互いに長さが異なる複数(例えば3本)の大屋根突揚げ棒を備えているものもあり、このようなグランドピアノでは、大屋根23を複数段(例えば3段)の開放角度位置に設定することが可能である。
【0004】
また、上記のようなグランドピアノにおいて、大屋根を複数に分割したものとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このグランドピアノでは、大屋根後が、例えば前後2つに分割され、前側の屋根後前部および後ろ側の屋根後後部がそれぞれ、ピアノ本体の側板の左部に回動自在に取り付けられ、互いに独立して開閉可能に構成されている。また、このグランドピアノには、屋根後前部および屋根後後部にそれぞれ対応する2つの突揚げ棒が設けられており、各突揚げ棒によって、屋根後前部および屋根後後部が互いに異なる開放角度で支持されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−83960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、屋根後を2分割した上記のグランドピアノでは、屋根後前部および屋根後後部が、左端部の回動支点を中心として、それぞれ所定の開放角度に開放されるにすぎない。そのため、このグランドピアノでは、その周囲の環境(ピアノの設置場所や設置空間の大きさなど)や、演奏される楽曲に対する大屋根の開放状態の柔軟性が低く、演奏時における音響効果を十分に得られるとは言えない。また、大屋根全体としての形状のバリエーションも多いとは言えない。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、大屋根の開放状態を柔軟に調整できることで、音響効果を高めることができるとともに、大屋根全体としての形状のバリエーションの増大を図ることができるグランド型ピアノの大屋根装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ピアノ本体の側板に取り付けられ、ピアノ本体の上面を開閉するための大屋根を備えたグランド型ピアノの大屋根装置であって、各々が左右方向に延びるとともに互いに前後方向に並設され、大屋根を構成する複数の屋根片と、側板に固定され、各屋根片を、左右の一方の端部において、前後方向に水平に延びる第1軸線を中心として回動自在に支持するとともに屋根片の延び方向に沿って延びる第2軸線を中心として回動自在に支持する屋根片支持装置と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、大屋根を構成する複数の屋根片の各々が、ピアノ本体の側板に固定された屋根片支持装置により、左右の一方の端部において回動自在に支持されている。具体的には、各屋根片は、前後方向に水平に延びる第1軸線を中心として回動自在であるので、ピアノ本体の上面を閉鎖する水平な状態に対する開放角度を調整することができる。加えて、各屋根片は、その延び方向に沿って延びる第2軸線を中心としても回動自在であるので、各屋根片の下面の向きも調整することができる。これらにより、大屋根の開放状態を、ピアノの周囲の環境や演奏される楽曲などに応じて、柔軟に調整することができ、それにより、演奏時における音響効果を高めることができる。また、大屋根全体としての形状のバリエーションの増大を図ることもできる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノの大屋根装置において、屋根片支持装置は、屋根片ごとに設けられた複数の屋根片支持装置で構成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、屋根片支持装置が、屋根片ごとに設けられているので、大屋根の設計変更などによる屋根片の数の増減に、容易に対応することができる。また、屋根片支持装置のメンテナンスや故障時の交換などの際に、必要な屋根片支持装置のみをメンテナンスしたり、交換したりすることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のグランド型ピアノの大屋根装置において、各屋根片支持装置は、各屋根片を、第1軸線を中心として任意の回動角度位置に保持可能なラチェット機構を有していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、屋根片支持装置のラチェット機構により、対応する屋根片を、第1軸線を中心とする任意の回動角度位置に保持できるので、屋根片を所望の開放角度位置に容易に調整することができる。また、各屋根片支持装置のみで、対応する屋根片を、開放状態に保持することができるので、従来と異なり、大屋根を支持する突揚げ棒を省略することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2または3に記載のグランド型ピアノの大屋根装置において、屋根片支持装置およびこれに支持された屋根片は、互いに嵌合しかつ相対的に回動自在に構成されるとともに第2軸線が中心を通る凹部および凸部の一方をそれぞれ有しており、各屋根片は、凹部と凸部の接触面における摩擦力により、第2軸線を中心として任意の回動角度位置に保持可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、屋根片支持装置およびこれに支持された屋根片が、上記の凹部および凸部の一方をそれぞれ有しており、屋根片が、凹部と凸部の接触面による摩擦力により、第2軸線を中心とする任意の回動角度位置に保持される。このように、屋根片支持装置および屋根片に設けられた凹部および凸部による比較的簡単な構成により、屋根片の下面の向きを容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるグランドピアノの大屋根装置を示す斜視図であり、(a)は大屋根装置の全体図、(b)は屋根片支持装置を拡大して示す図である。
【図2】屋根片支持装置のラチェット機構の一例を示す図である。
【図3】図2のラチェット機構の動作を示す図である。
【図4】開放された大屋根の一形態を示す斜視図であり、(a)は大屋根を上方から見たときの状態、(b)は大屋根を下方から見たときの状態を示す。
【図5】開放された大屋根の他の一形態を示す斜視図であり、(a)は大屋根を上方から見たときの状態、(b)は大屋根を下方から見たときの状態を示す。
【図6】開放された大屋根の他の一形態を示す斜視図であり、大屋根を上方から見たときの状態を示す。
【図7】従来の一般的な大屋根を備えたグランドピアノを示す斜視図であり、(a)は大屋根を閉鎖した状態、(b)は大屋根を開放した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態によるグランド型ピアノの大屋根装置を示している。なお、この大屋根装置1は、前述した図7のグランドピアノ21の大屋根23に代えて、ピアノ本体22に取り付けられるものである。
【0018】
図1(a)に示すように、この大屋根装置1は、各々が左右方向に延びるとともに、互いに前後方向に並設され、全体として前記大屋根23と同じ平面形状を有する大屋根3を構成する複数(本実施形態では7つ)の屋根片4と、屋根片4ごとに設けられ、対応する屋根片4を、その左端部において回動自在に支持する複数(本実施形態では7つ)の屋根片支持装置5とを備えている。
【0019】
各屋根片4は、ラワン合板などで構成され、一般的な大屋根とほぼ同様の厚さを有するとともに、平面形状がほぼ横長矩形状に形成されている。図1(b)に示すように、各屋根片4の左端部には、左方に開放する凹部4aが形成されている。この凹部4aは、屋根片4の前後方向の中央部に位置し、屋根片4の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、断面が所定の径を有する円形に形成されており、屋根片支持装置5の後述する凸部7aが嵌入されている。
【0020】
図1(b)に示すように、屋根片支持装置5は、ピアノ本体22の側板27に取り付けられる固定部6と、対応する屋根片4に取り付けられる可動部7と、これらの固定部6と可動部7を連結するとともに、可動部7に取り付けられた屋根片4を、所望の開放角度位置に保持するためのラチェット機構8とを備えている。このラチェット機構8は、固定部6に対し、屋根片4が取り付けられた可動部7を、基準となる水平な位置(以下「基準位置」という)から所定の回動角度(例えば60度、屋根片4を開放する際の最大角度)までの角度範囲内において、任意の回動角度位置に保持可能であればよく、種々のものが採用可能である。
【0021】
図2は、ラチェット機構8の一例を示している。同図に示すように、ラチェット機構8は、前後方向(図2の表裏方向)に水平に延びる支軸11(第1軸線)を中心として回動自在に構成され、周縁部の所定範囲において多数の歯12aを有する回動体12と、支軸11と平行に延びる支軸13を中心として回動自在に構成され、回動体12の歯12aに噛み合い可能な複数の歯14aを有するロック爪14とを備えている。回動体12の複数の歯12aはいずれも、図2の時計方向に傾斜するように形成されている。一方、ロック爪14は、図示しないばねによって、複数の歯14aが回動体12の歯12aに噛み合うように回動する方向に付勢されている。したがって、ロック爪14の歯14aが回動体12の歯12aに噛み合った状態では、回動体12を、支軸11を中心として反時計方向にのみ回動させることが可能であり、また、回動体12は、その回動した角度位置において、ロック爪14により、時計方向への回動が阻止された状態にロックされる(図3(a)参照)。
【0022】
なお、図示しないが、上記のラチェット機構8には、可動部7の回動角度に応じて、ロック爪14を回動駆動するためのカムが設けられている。具体的には、このカムは、可動部7が基準位置から大きな所定の回動角度(例えば60度、以下「ロック解除角度」という)を超えて回動したときに、ロック爪14をばねの付勢力に抗して時計方向に回動するように押圧し、ロック爪14の歯14aを回動体12の歯12aから離れた状態に保持する(図3(b)参照)。これにより、回動体12の時計方向への回動が許容され、可動部7を基準位置まで戻すことが可能となる。また、カムは、可動部7が基準位置に戻ったときに、ロック爪14への押圧を解除し、それにより、ロック爪14は、ばねの付勢力によって反時計方向に回動して元の位置に戻り、ロック爪14の歯14aが回動体12の歯12aに再度、噛み合う(図3(c)参照)。
【0023】
また、可動部7には、上記ラチェット機構8の回動体12の支軸11と直交する方向に所定長さ延びる凸部7a(第2軸線)が設けられている。この凸部7aは、断面円形に形成され、屋根片4の凹部4aとほぼ同じ径を有しており、前述したように、屋根片4の凹部4aに嵌入されている。また、屋根片4は、上記凸部7aを中心として、手動で回動することが可能になっており、加えて、凹部4aと凸部7aの接触面における摩擦力により、回動した位置に保持可能になっている。
【0024】
以上のように構成されたラチェット機構8および凸部7aを備えた屋根片支持装置5により、各屋根片4は、閉鎖時の水平な状態に対し、所望の開放角度に開放することができるとともに、屋根片4の下面の向きを、演奏者側である前側寄りに設定したり、演奏者と反対側である後ろ側寄りに設定したりすることができる。
【0025】
図4〜図6は、以上のように構成された大屋根装置1の大屋根3において、各屋根片4を開放した状態を例示している。図4では、演奏者に近い前側の屋根片4が、閉鎖時の水平な状態に対する開放角度が大きくなるように開放されるとともに、屋根片4の下面の向きが前側寄りに設定されている。また、図5では、前後方向の中央付近の屋根片4が、閉鎖時の水平な状態に対する開放角度が大きくなるように開放されるとともに、前側の屋根片4の下面の向きが後ろ側寄りに、後ろ側の屋根片4の下面の向きが前側寄りに設定されている。さらに、図6では、各屋根片4がほとんど開放されない状態で、前側の屋根片4の下面の向きが前側寄りに、後ろ側の屋根片4の下面の向きが後ろ側寄りに設定されている。
【0026】
以上詳述したように、本実施形態によれば、大屋根3を構成する複数の屋根片4の各々が、閉鎖時の水平な状態に対し、所望の開放角度に開放できるとともに、屋根片の下面の向きも調整することができる。これにより、大屋根3の開放状態を、ピアノの周囲の環境や演奏される楽曲などに応じて、柔軟に調整することができ、それにより、演奏時における音響効果を高めることができる。また、大屋根3全体としての形状のバリエーションの増大を図ることもできる。
【0027】
また、屋根片支持装置5が、屋根片4ごとに設けられているので、大屋根3の設計変更などによる屋根片4の数の増減に、容易に対応することができる。加えて、屋根片支持装置5のメンテナンスや故障時の交換などの際に、必要な屋根片支持装置5のみをメンテナンスしたり、交換したりすることができる。
【0028】
さらに、屋根片支持装置5のラチェット機構8により、対応する屋根片4を、任意の回動角度位置に保持できるので、屋根片4を所望の開放角度位置に容易に調整することができる。また、各屋根片支持装置5のみで、対応する屋根片4を、開放状態に保持することができるので、従来と異なり、大屋根を支持する突揚げ棒を省略することができる。
【0029】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、屋根片支持装置5を、屋根片4ごとに設けたが、各屋根片4を、左右いずれかの同一端部において支持する場合には、複数の屋根片支持装置5を一体に構成することも可能である。また、実施形態では、すべての屋根片4を、その左端部において屋根片支持装置5によって支持したが、すべての屋根片4を、その右端部において支持したり、隣接する屋根片4において互いに異なる左右の端部において支持したりすることも可能である。さらに、実施形態では、屋根片支持装置5側に凸部7aを設ける一方、屋根片4側に凹部4aを設けたが、これらの凹凸関係を逆にすることも可能である。
【0030】
また、実施形態で示した屋根片4および屋根片支持装置5の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 大屋根装置
3 大屋根
4 屋根片
4a 屋根片の凹部
5 屋根片支持装置
6 屋根片支持装置の固定部
7 屋根片支持装置の可動部
7a 可動部の凸部(第2軸線)
8 ラチェット機構
11 支軸(第1軸線)
21 グランドピアノ
22 ピアノ本体
23 大屋根
27 側板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピアノ本体の側板に取り付けられ、当該ピアノ本体の上面を開閉するための大屋根を備えたグランド型ピアノの大屋根装置であって、
各々が左右方向に延びるとともに互いに前後方向に並設され、前記大屋根を構成する複数の屋根片と、
前記側板に固定され、前記各屋根片を、左右の一方の端部において、前後方向に水平に延びる第1軸線を中心として回動自在に支持するとともに当該屋根片の延び方向に沿って延びる第2軸線を中心として回動自在に支持する屋根片支持装置と、
を備えていることを特徴とするグランド型ピアノの大屋根装置。
【請求項2】
前記屋根片支持装置は、前記屋根片ごとに設けられた複数の屋根片支持装置で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のグランド型ピアノの大屋根装置。
【請求項3】
前記各屋根片支持装置は、前記各屋根片を、前記第1軸線を中心として任意の回動角度位置に保持可能なラチェット機構を有していることを特徴とする請求項2に記載のグランド型ピアノの大屋根装置。
【請求項4】
前記屋根片支持装置およびこれに支持された前記屋根片は、互いに嵌合しかつ相対的に回動自在に構成されるとともに前記第2軸線が中心を通る凹部および凸部の一方をそれぞれ有しており、
前記各屋根片は、前記凹部と前記凸部の接触面における摩擦力により、前記第2軸線を中心として任意の回動角度位置に保持可能に構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のグランド型ピアノの大屋根装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−208204(P2012−208204A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72105(P2011−72105)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)