説明

グリオキシル酸の製造方法

【課題】 安価な原料であるエチレングリコールからの、酵素または微生物を用いた効率的なグリオキシル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物、及び、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリオキシル酸を生成させる。または、エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物、及び、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリオキシル酸を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物及び/または微生物由来の酵素を用いることによるエチレングリコールからグリオキシル酸を製造する方法に関する。グリオキシル酸はバニリン、エチルバニリンなどの合成原料として用いられ、農薬、更には医薬品の合成の中間体としても有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来よりグリオキシル酸の製造方法としては、グリオキサールの硝酸酸化などの化学的手法が知られており、また現在はグリオキシル酸のほとんどがこれら化学的手法により製造されている。しかしながら、グリオキサールの硝酸酸化などの化学的手法はグリオキシル酸以外の有機酸などの副生成物を生じやすく、製造されたグリオキシル酸の品質に好ましくない影響を与え、これらを除去するためには煩雑な工程を必要とする。又、大量に使用された硝酸などの中和工程で生成する大量の塩類廃棄物の処理が問題となる。
【0003】
グリオキシル酸の生化学的製造方法としては、植物由来のグリコール酸オキシダーゼを用いグリコール酸をグリオキシル酸へ変換する方法(特許文献1,2,3参照)や微生物によるグリコール酸からのグリオキシル酸への変換方法(特許文献4,5参照)およびグリオキサールを微生物または酸化還元酵素によりグリオキシル酸へ変換する方法(特許文献6,7参照)などが知られている。
【0004】
グリコール酸オキシダーゼを用いる場合、基質であるグリコール酸が比較的高価であり、汎用化学品であるグリオキシル酸を製造する場合、経済性に問題がある。一方で、多くの酵素は高濃度のグリオキサール存在下では失活してしまう。そのため、グリオキサールを基質として反応する場合、高濃度仕込み反応が出来ない。このような理由により、安価な基質からの効率的なグリオキシル酸の製造方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特表平7−502895号公報
【特許文献2】特表平8−508159号公報
【特許文献3】国際公開第03/100043号パンフレット
【特許文献4】特開平7−163380号公報
【特許文献5】特開平8−322581号公報
【特許文献6】国際公開第2004/072281号パンフレット
【特許文献7】特願2005−035892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、安価な原料であるエチレングリコールからの、酵素または微生物を用いた効率的なグリオキシル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酸化酵素による複数の酸化反応を組合せることにより、エチレングリコールからグリオキシル酸を効率的に製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1発明は、下記第1反応、第2反応および第3反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とするエチレングリコールからのグリオキシル酸の製造方法に関する。
(第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
(第2反応)第1反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキサールを生成させる。
(第3反応)第2反応で生じたグリオキサールに、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキシル酸へ変換する。
【0007】
また、本発明の第2発明は、下記第1反応、第2反応および第3反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とするエチレングリコールからのグリオキシル酸の製造方法に関する。
(第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
(第2反応)第1反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコール酸を生成させる。
(第3反応)第2反応で生じたグリコール酸に、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキシル酸を生成させる。
かくして、本発明の製造方法において、グリオキシル酸は、安価な原料であるエチレングリコールから効率良く製造されることが可能となる。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明は、前述のごとく、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ、グリオキサールをグリオキシル酸へ、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼとも言うが、以下は酸化酵素と記載する)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物を組合せて用いることを特徴とするエチレングリコールからのグリオキシル酸の製造方法である。
【0009】
すなわち、本発明の第1発明は、エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる第1の反応を行い(下記化学反応式の(1))、グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリオキサールを生成させる第2の反応を行い(下記化学反応式の(2))、グリオキサールに、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリオキシル酸へ変換する第3の反応を行う(下記化学反応式の(3))ことを特徴とするグリオキシル酸の製造方法である(下記化学反応式の(1)→(2)→(3))。
【0010】
また、本発明の第2発明は、エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させて、グリコールアルデヒドを生成させる第1の反応を行い(下記化学反応式の(1))、グリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリコール酸を生成させる第2の反応を行い(下記化学反応式の(4))、グリコール酸に、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は微生物を作用させてグリオキシル酸へ変換する第3の反応を行う(下記化学反応式の(5))ことを特徴とするグリオキシル酸の製造方法である(下記化学反応式の(1)→(4)→(5))。
【0011】
【化1】

【0012】
尚、本発明は、反応に使用する酵素が酸化酵素(オキシダーゼという場合もある)であることも大きな特徴の一つである。酸化酵素(オキシダーゼ)の反応様式を以下の化学反応式に示すが、本反応では、基質以外には酸素または酸素と水があれば反応は進行する。一方、同様な酸化反応を脱水素酵素(デヒドロゲナーゼとも言う場合もある)を用いて行うことも可能な場合もあるが、この場合、反応にはNAD+やNADP+などの高価な補酵素が必要であるが、酸化酵素(オキシダーゼ)を用いれば、このような補酵素を必要としない点で有利である。
【0013】
【化2】

【0014】
第1発明および第2発明における第1の反応で使用する酸化酵素、すなわちエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素としては、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、例えば、アルコールオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼが挙げられる。
【0015】
アルコールオキシダーゼの起源としては特に限定されないが、酵母、カビ、細菌が産生するアルコールオキシダーゼが挙げられ、例えばピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、トルロプシス(Toluropsis)属、オガタエア(Ogataea)属に属する酵母が産生するアルコールオキシダーゼが挙げられる。
グリセロールオキシダーゼとしては、酵母、カビ、細菌が産生するグリセロールオキシダーゼが挙げられ、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属が産生するグリセロールオキシダーゼが挙げられる。
【0016】
上記以外の酵素では、アスペルギルス属に属する微生物、例えばアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)、その一例としてアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)AIU 031株(FERM P−20785)が産生するエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素が挙げられる。同該AIU 031株は本発明者らにより土壌から分離・同定され、前記寄託番号にて独立法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)に寄託されている。
【0017】
本発明では、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素として、最終生成物であるグリオキシル酸に対する酸化活性を実質的に持たないものを使用することが好ましい。さらに、第2発明の第1反応に使用する場合、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力(上記化学反応式(2))を有さないもの、またはその能力が低いものが望ましい。しかし、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素がグリコールアルデヒドにも作用し、グリオキサール又はグリコール酸へ変換する能力を有する場合も、反応条件を好適に設定することにより、これらの酵素も本発明に使用することが可能である。好適な条件の一つとして、これら第1反応に使用する酵素の上記化学反応式(2)に対する活性量に比べ、第2反応に使用する酵素の量を多くし、反応の流れをグリコールアルデヒドからグリオキサール又はグリコール酸(上記化学反応式(1)→(4))へ傾けることが挙げられる。
【0018】
第1発明における第2の反応で使用する酸化酵素、すなわちグリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、アースロバクター(Arthrobacter)属、リゾビアレス(Rhizobiales)目、パエニバシルス(Paenibacillus)属等に属する微生物が産生する酸化酵素が挙げられる。
【0019】
上記微生物の代表的なものとして、例えば特開2005−245236号公報記載のアースロバクター・スピーシーズ(Arthrobacter sp.)KNK154(FERM P−19153)、リゾビアレス(Rhizobiales)KNK054(FERM P−19156)が挙げられ、また、パエニバシルス・スピーシーズ(Paenibacillus sp.)AIU AL311(FERM P−20786)が挙げられる。尚、上記微生物KNK154、KNK054およびAIU AL311は、本発明者らにより土壌から分離・同定され、前記寄託番号にて独立法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)に寄託されている。
【0020】
本発明では、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素として、最終生成物であるグリオキシル酸に対する酸化活性を実質的に持たないものを使用することが好ましい。
【0021】
第1発明における第3反応で使用する酸化酵素、すなわちグリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、グリオキシル酸を蓄積させるという点で、グリオキシル酸に対して活性を有さないか、または低い活性しか有さない酵素が好ましい。このような酵素としては、例えば、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属等に属する微生物が産生するアルデヒドオキシダーゼが挙げられる。
【0022】
上記微生物の代表的なものとして、国際公開第2004/072281号パンフレット記載のステノトロフォモナス・スピーシーズ(Stenotrophomonas sp.)KNK235(FERM P−19002)、ストレプトミセス・スピーシーズ(Streptomyces sp.)KNK269(FERM BP−08556)、シュードモナス・スピーシーズ(Peudomonas sp.)KNK058(FERM BP−08555)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK254(FERM P−19003)、ミクロバクテリウム・スピーシーズ(Microbacterium sp.)KNK011(FERM BP−08554)、アクロモバクター・スピーシーズ(Achromobacter sp.)NBRC 13495、セルロモナス・スピーシーズ(Cellulomonas sp.)JCM 2471、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 13506、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15012、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15014、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15015、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15013、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15516、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)JCM 6201、モルガネラ・モルガニ(Morganella morganii)NBRC 3848等が挙げられる。
【0023】
そのほか、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)AIU 362(FERM P−20363)、バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)等も挙げることが出来る。
【0024】
尚、上記微生物KNK235、KNK269、KNK058、KNK254、KNK011、AIU 362、AIU 129は本発明者らにより土壌から分離・同定され、前記寄託番号にて独立法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)に寄託されている。NBRC 13495、NBRC 13506、NBRC 15012、NBRC 15014、NBRC 15015、NBRC 15013、NBRC 15516およびNBRC 3848は独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC;〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存されており、同機関より入手可能である。JCM 2471およびJCM 6201は、独立行政法人理化学研究所微生物系統保存施設(JCM;〒351−0198 埼玉県和光市広沢2−1)に保存されており、同機関より入手可能である。
【0025】
第2発明における第2反応で使用する酸化酵素、すなわちグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有するものであれば特に限定されない。我々は、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属に属する微生物が、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(アルデヒドオキシダーゼ)を産生することを見出したが(国際公開第2004/072281号パンフレット)、更にこれら酸化酵素について詳細な検討を行った結果、これら酸化酵素はグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有することを今回明らかにした。
【0026】
第2発明の第2反応に用いる酵素としては、例えば、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、バークホルデリア(Burkholderia)属等に属する微生物が産生するアルデヒドオキシダーゼが挙げられる。
【0027】
上記微生物の代表的なものとして、国際公開第2004/072281号パンフレット記載のステノトロフォモナス・スピーシーズ(Stenotrophomonas sp.)KNK235(FERM P−19002)、ストレプトミセス・スピーシーズ(Streptomyces sp.)KNK269(FERM BP−08556)、シュードモナス・スピーシーズ(Peudomonas sp.)KNK058(FERM BP−08555)、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)KNK254(FERM P−19003)、ミクロバクテリウム・スピーシーズ(Microbacterium sp.)KNK011(FERM BP−08554)、アクロモバクター・スピーシーズ(Achromobacter sp.)NBRC 13495、セルロモナス・スピーシーズ(Cellulomonas sp.)JCM 2471、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 13506、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15012、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15014、セルロモナス・タルバタ(Cellulomonas turbata)NBRC 15015、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15013、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)NBRC 15516、セルロシミクロビウム・セルランス(Cellulosimicrobium cellulans)JCM 6201、モルガネラ・モルガニ(Morganella morganii)NBRC 3848等が挙げられる。
【0028】
そのほか、シュードモナス・スピーシーズ(Pseudomonas sp.)AIU 362(FERM P−20363)、バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)等も挙げることが出来る。
【0029】
本発明では、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素として、最終生成物であるグリオキシル酸に対する酸化活性を実質的に持たないものを使用することが好ましい。
【0030】
第2発明における第3反応で使用する酸化酵素、すなわちグリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有するものであれば特に限定されないが、グリオキシル酸を蓄積させるという点で、グリオキシル酸に対して活性を有さないか、または低い活性しか有さない酵素が好ましい。グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、従来から知られているホウレンソウなどの植物由来のグリコール酸オキシダーゼが挙げられる。また、礒部らは、微生物が産生するグリセロールオキシダーゼがグリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有することを報告しており(特開平7−163380号公報およびBiosci.Biotech.Biotech.,59(4),575−581(1995)記載)、そのようなグリセロールオキシダーゼとしては、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物が産生するグリセロールオキシダーゼが挙げられる。
【0031】
また、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素としては、2−ヒドロキシ酸オキシダーゼが挙げられる。ここで言う「2−ヒドロキシ酸オキシダーゼ」とは、脂肪族カルボン酸の2位の位置に水酸基を有するもの、いわゆる2−ヒドロキシ酸に作用し、対応する2−ケト酸を生成する能力を有する酸化酵素を意味する。本発明のグリオキシル酸の製造に利用できる2−ヒドロキシ酸オキシダーゼとしては、例えば、国際公開第03/100043号パンフレット記載のアースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物、例えばアースロバクター・スピーシーズ KNK−GA1(FERM BP−8375)が産生する(D)−2−ヒドロキシ酸オキシダーゼが挙げられる。
【0032】
本発明で使用する「酸化酵素」は、単一にまたは部分的に精製された酵素であってもよい。本発明で使用する微生物は、これら酵素の産生能を有する微生物の培養物またはその処理物を使用することも可能である。「微生物の培養液」とは、菌体を含む培養液あるいは培養菌体を意味し、「その処理物」とは、例えば、粗抽出液、凍結乾燥菌体、アセトン乾燥菌体、またはそれら菌体の磨砕物等を意味する。さらに上記酸化酵素又は微生物は、公知の方法で固定化されて用いることができる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。上記酸化酵素の産生能を有する微生物としては、野生株または変異株、あるいは上記酵素のDNAをベクターに組込み、これを宿主内に導入してなる形質転換体(組替え体)であってもよい。また、本発明で使用する酸化酵素の産生能を有する形質転換体は、酸化酵素をコードするDNAを宿主のゲノムに安定的に組み込むことによっても製造できる。一方で、本発明で使用する複数の酸化酵素を同一宿主細胞内に導入した形質転換微生物の培養物またはその処理物を用いれば、別々に両酵素を発現する微生物を培養する必要はないため、より効率的にグリオキシル酸が製造できる。このような形質転換体は、使用する酸化酵素をコードするDNAを、同一のベクターに組込み、これを宿主に導入することにより製造できるし、また、それぞれのDNAを不和合性の異なったベクターにそれぞれ組込み、それらを同一の宿主に導入することによっても製造できる。一方、宿主としては、大腸菌などの細菌、酵母、カビ、放線菌などを使用することが可能である。
【0033】
本発明の第1発明、第2発明共に、その第1、第2および第3の各々の反応をそれぞれ別々の反応容器中で行うことによりバッチ方式で実施することも出来るが、各反応を行う酵素又は微生物を単一容器中に添加し、ワン・ポット方式で3種類の反応を同時進行させることにより実施することが可能である。その場合、第1、第2および第3反応を行う酵素又は微生物の量を調整することにより、第1反応および第2反応で生成するグリコールアルデヒド、及び、グリコール酸又はグリオキサールを順次、速やかに変換することが可能であり、それらが反応系に高濃度に蓄積することがないため、酵素の失活が押さえられ好ましく、また生産工程の効率化においても好ましい。
【0034】
第1発明において、ワンポット方式で反応を行い第1反応で生成したグリコールアルデヒドを第2反応により速やかにグリオキサールへ変換することは、グリコールアルデヒドの高濃度蓄積による酵素の失活を押さえると共に、グリコールアルデヒドがグリコール酸へ変換される副反応(上記化学反応式(4))を押さえることが出来、好ましい。したがって、第2反応で使用する酵素量(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する活性量)としては、第1反応で使用する酵素の量(エチレングリコールをグリコ−ルアルデヒドへ変換する活性量)に比べ、極端に低いことは、好ましくなく、その使用量としては、好ましくは、第1反応で使用する酵素量(エチレングリコールをグリコ−ルアルデヒドへ変換する活性量)の1/2以上、好ましくは等量以上、より好ましくは2倍以上が望ましい。一方で、第1反応の基質であるエチレングリコールの濃度を下げ、第1反応により生じるグリコールアルデヒドの量を制限することにより、上記のように、第1反応の酵素量と第2反応の酵素量を精密に制御せずとも、第1反応で生成したグリコールアルデヒドを第2反応によりスムースにグリオキサールへ変換することも可能である。このような場合、エチレングリコール濃度は1M以下、好ましくは500mM以下、より好ましくは100mM以下に設定することが望ましい。この場合、反応途中で、エチレングリコールの濃度を測定しつつ、反応の進行と当時に、順次エチレングリコールを添加し、所定の濃度範囲に管理することで、連続的に反応を行うことが出来る。
【0035】
また、第1発明の第3反応(グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する)に使用する酵素は、アルデヒド基をカルボン酸へ変換する反応を触媒する酵素であり、前記化学反応式(4)のグリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する活性を有する場合がある。したがって、第3反応で使用する酵素が前記化学反応式(4)の活性も有する場合、第2反応に使用する酵素の量(エチレングリコールをグリオキサールへ変換する活性量)は、第3反応で使用する酵素が有する前記化学反応式(4)の活性量よりも過剰であることが好ましい。
【0036】
第2発明においては、先に述べた通り、第1反応に使用する酵素、すなわちエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酵素としては、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力(上記化学反応式(2))を有さないもの、またはその能力が低いものが望ましい。しかし、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する活性を有する酸化酵素がグリコールアルデヒドにも作用し、グリオキサールへ変換する活性を有する場合も、反応条件を好適に設定することにより、これらの酵素も本発明に使用することが可能である。このような条件として、第2反応に使用する酵素量(グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する活性量)が第1反応に使用する酵素のグリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する活性量の1/2以上、好ましくは等量以上、さらに好ましくは2倍以上が望ましい。
【0037】
第1反応、第2反応及び第3反応の反応条件は使用する酵素、基質濃度により異なるが、反応は酸素存在下で行い、反応温度は10〜70℃、熱安定性の観点から10〜50℃が好ましく、pHは4〜12、酵素の最適反応pH、pH安定性の観点からpH5〜9が好ましい。基質であるエチレングリコールは、第一反応のエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する酵素を効率的に働かせるために、高く設定した方かよく、100mM以上、更に1M以上が好ましい。その一方で、前述の通り、グリコールアルデヒドの高濃度の蓄積を回避するための一つの方法として、エチレングリコールを低濃度に維持することが有効な場合がある。その場合は逆に、エチレングリコールの濃度は、1M以下、好ましくは500mM以下、さらに好ましくは100mM以下に制限することが好ましい。また酸素の反応液への溶解を促進するため、反応は振とう、攪拌条件下で行なわれることが好ましい。さらに大気圧以上の加圧下で反応を行うことにより、反応液への酸素の溶解度が向上し、反応がより進む場合もある。
【0038】
尚、酸化酵素による酸化反応によって、過酸化水素が生成するが、この過酸化水素は酵素を失活させたり、グリオキシル酸をギ酸へと分解する場合もある。しかし、反応系にカタラーゼを添加することにより生成した過酸化水素を分解、除去し、酵素の失活やグリオキシル酸の分解を防ぐことが可能である。使用するカタラーゼは、過酸化酵素を速やかに分解、除去するという観点から、使用する酸化酵素の活性の10倍以上、好ましくは100倍以上、さらに好ましくは1000倍以上の活性量を使用する事が望ましい。また、さきに述べた形質転換体に酸化酵素と共にカタラーゼを組換え発現させることにより効率良く過酸化水素を分解することが可能である。一方、形質転換体の宿主として、もともとカタラーゼを産生する能力を有する微生物を使用することが好ましい。メタノール酵母は、もともと菌体内にカタラーゼを産生すると同時に、本発明の第1発明および第2発明における第1反応、すなわちエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有するアルコールオキシダーゼを菌体内に高濃度に産生することが知られており、これらメタノール酵母を形質転換体の宿主として利用することは、反応の効率化の点で好ましい。
【0039】
本発明に使用する酸化酵素の活性(オキシダーゼ活性)の検出、定量は、以下の化学反応式に示すように、酸化反応により生成する過酸化水素を4−アミノアンチピリン(以下4−AA)とN−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(以下TOOS)を反応させ、生成するキノンイミン色素を検出、定量することにより行うことができる。
【0040】
【化3】

【0041】
具体的には、100mMリン酸緩衝液(pH7)中、基質(エチレングリコール、グリコールアルデヒド、グリオキサール、グリコール酸、又は、グリオキシル酸;エチレングリコールは1000mM、それ以外は20mM)、0.69mM 4−アミノアンチピリン(4−AA)、1.09mM N−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、5U/ml ペルオキシダーゼ(POD)および酸化酵素を含む1.0mlの反応液を30℃でインキュベートし、反応液の色の変化(紫色へ変化)の目視による確認または、555nmの吸光度の増加を測定することにより行った。尚、本発明において、1分間に1μmolのHを生成する酵素活性を1unitと定義する。
【発明の効果】
【0042】
本発明の方法によれば、汎用化学品として有用なグリオキシル酸を安価な原料であるエチレングリコールから効率的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)アスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)AIU 031(FERM P−20785)株からのエチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する酸化酵素の粗酵素液の調製
コレステロール2g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素二カリウム2g、リン酸二水素ナトリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、酵母エキス1g、Tritn X−100 1g(いずれも1L当り)の組成よりなる培地(pH6.5)を調整し、500ml容坂口フラスコに150ml分注し、高圧蒸気滅菌を行った(120℃、20分)。これら培地に予め同培地で前培養しておいたアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)AIU 031の培養液を1ml植菌し、30℃で2日間振盪培養を行った。このようにして得られた培養液から遠心分離により菌体を集め、20mMリン酸緩衝液(pH7)で洗浄後、同緩衝液5mlに懸濁し、0.5mmガラスビーズを用いて細胞破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、約5mlの無細胞抽出液を得た。本無細胞抽出液をセントリプラス YM−10(ミリポア社製)を用いて濃縮し、0.5mlの濃縮液(粗酵素液)を得た。
【0044】
(実施例2)リゾビアレス KNK054(FERM P−19156)株からの、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する酸化酵素の精製
エチレングリコール10g、酵母エキス0.1g、Nutrient broth(Difco社製)8g、リン酸二水素カリウム3g、リン酸水素二カリウム7g(いずれも1Lあたり)の組成よりなる培地(pH7)を調製し、5Lジャーファーメンターに同培地を4L分注し、高圧蒸気滅菌を行った(120℃、20分)。
これらの培地に予め同培地で前培養しておいたリゾビアレス KNK054の培養液を40mLを植菌し、30℃、通気0.5vvm、攪拌600rpmで3日間培養を行う。本ジャーファーメンター培養を繰り返し96Lの培養液を取得し、ついで得られた培養液96Lから遠心分離により菌体を集め、50mMリン酸緩衝液(pH7)にて洗浄後、同緩衝液800mLに懸濁した。得られた菌体懸濁液をダイノミル(Dyno−Mill社製)で破砕後、遠心分離により菌体残渣を除き、無細胞抽出液2350mLを得た。さらに本無細胞抽出液2350mLに攪拌しながら、5%硫酸プロタミン溶液を55.2mL加え、その後遠心分離により沈殿物を除き、粗酵素液を得た。この粗酵素液に冷却したスターラーで攪拌しながら所定量の硫酸アンモニウムを添加し、硫酸アンモニウム濃度50−65%で沈殿するタンパク質を遠心分離により集めた。
【0045】
得られたタンパク質を50mMリン酸緩衝液(pH7)で溶解し、同緩衝液に対し透析を行った後、同緩衝液で予め平衡化したDEAE−トヨパール650M(東ソー社製)カラム(260mL)にチャージし、0−0.3Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた。この活性画分に終濃度1Mになるように硫酸アンモニウムを添加し、予め1M硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7)で平衡化したPhenyl−トヨパール650M(東ソー社製)カラム(160mL)にチャージし、1−0.2Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた後、硫酸アンモニウムを60%飽和になるまで添加し、遠心分離により、沈殿したタンパク質を集め、50mMリン酸緩衝液(pH7)で溶解し、同緩衝液に対し透析を行った。本透析後の酵素液を0.15M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7)で予め平衡化したSuperdex 200HR16/60(Amersham Pharmacia Biotech社製)カラム(120mL)にチャージし、同緩衝液で溶出を行ったところ、分子量115000Daに相当する画分に、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集め、以後の実験に使用した。
【0046】
(実施例3)アースロバクター・スピーシーズ KNK154(FERM P−19153)株からの、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する酸化酵素の精製
エチレングリコール10g、酵母エキス0.1g、Nutrient broth(Difco社製)8g、リン酸二水素カリウム3g、リン酸水素二カリウム7g(いずれも1Lあたり)の組成よりなる培地(pH7)を調製し、5Lジャーファーメンターに同培地を4L分抽し、高圧蒸気滅菌を行った(120℃、20分)。
【0047】
これらの培地に予め同培地で前培養しておいたアースロバクター・スピーシーズ KNK154の培養液を40mLを植菌し、30℃、通気0.5vvm、攪拌500rpmで3日間培養を行う。本ジャーファーメンター培養を繰り返し32Lの培養液を取得し、ついで得られた培養液32Lから遠心分離により菌体を集め、50mMリン酸緩衝液(pH7)にて洗浄後、同緩衝液930mLに懸濁した。得られた菌体懸濁液をダイノミル(Dyno−Mill社製)で破砕後、遠心分離により菌体残渣を除き、無細胞抽出液1600mLを得た。この無細胞抽出液に冷却したスターラーで攪拌しながら所定量の硫酸アンモニウムを添加し、硫酸アンモニウム濃度40−60%で沈殿するタンパク質を遠心分離により集めた。
【0048】
得られたタンパク質を50mMリン酸緩衝液(pH7)で溶解し、同緩衝液に対し透析を行った後、同緩衝液で予め平衡化したDEAE−トヨパール650M(東ソー社製)カラム(260mL)にチャージし、0−0.3Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた。この活性画分に終濃度1Mになるように硫酸アンモニウムを添加し、予め1M硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7)で平衡化したPhenyl−トヨパール650M(東ソー社製)カラム(160mL)にチャージし、1−0.3Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた。活性画分を限外ろ過により濃縮さらに50mMリン酸緩衝液(pH7)にてブッファー交換を行った後、同緩衝液で予め平衡化したResouce Q(Amersham Pharmacia Biotech社製)カラム(6ml)にチャージし、0−1.0Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により溶出したところ、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集めることにより、電気泳動的に単一な酵素標品を得た。
【0049】
(実施例4)パエニバシルス・スピーシーズ AIU AL311(FERM P−20786)株が産生するグリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素の粗酵素液の調製
エチレングリコール50g、酵母エキス0.5g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸2水素カリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム・2水和物0.5g(いずれも1リットル当り)の組成からなる培地(pH5.5−6.0)を調整し、500ml容坂口フラスコに150ml分注し、高圧蒸気滅菌を行った(120℃、20分)。これら培地に予め同培地で前培養しておいたパエニバシルス・スピーシーズ AIU AL311の培養液を1.5ml植菌し、30℃で2日間振盪培養を行った。このようにして得られた培養液から遠心分離により菌体を集め、10mMリン酸緩衝液(pH7)で洗浄後、同緩衝液5mlに懸濁し、0.5mmガラスビーズを用いて細胞破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、約5mlの無細胞抽出液を得た。本無細胞抽出液をセントリプラス YM−10(ミリポア社製)を用いて濃縮し、0.5mlの濃縮液(粗酵素液)を得た。
【0050】
(実施例5)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株が産生するグリオキサールをグリオキシル酸へ変換する酸化酵素の粗酵素液の調製
酵母エキス10g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム1.3g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム0.1g(いずれも1リットル当たり)の組成からなる培地(pH7)60mlを500ml坂口スラスコに入れ(3本)、高圧蒸気滅菌後、同培地で予め培養したセルロモナス・セルランスNBRC15516の培養液1.2mlを植菌し、30℃、130rpmで48時間、振盪培養した。得られた培養液を集め、遠心分離により菌体を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7)に懸濁した(50ml)。この菌体懸濁液を超音波破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、30ml無細胞抽出液を得た。本無細胞抽出液をセントリプラス YM−10(ミリポア社製)を用いて濃縮し、4mlの濃縮液(粗酵素液)を得た。
【0051】
(実施例6)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株からの、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する酸化酵素の精製
酵母エキス10g、硫酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム1g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム・2水和物0.1g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH7)60mlを500ml坂口フラスコに入れ高圧蒸気滅菌後、Cellulosimicrobium cellulans NBRC15516株を1白金耳植菌し、28℃で2日間振とう培養し、前培養液を得た。次いで、5Lミニジャーに上記組成の培地3Lを入れ、高圧蒸気滅菌後、前培養液60mlを植菌し、28℃、通気0.5vvm、攪拌400rpmで27時間培養を行った。同様の培養を繰返して得た合計45Lの培養液のpHを7に調整し、遠心分離により、菌体と45Lの培養液上清を得た。菌体と培養液上清に、グリオキサール対する酸化活性が検出されたが、精製の容易さを考慮し、培養液上清から目的の酸化酵素を精製することとした。得られた培養液上清を攪拌型ウルトラホルダーUHP150(アドバンテック東洋社製)を用いて2.4Lに濃縮後、氷冷下、攪拌しながら所定量の硫酸アンモニウムを添加し、硫酸アンモニウム0〜60%飽和の範囲で沈澱する蛋白質を遠心分離により集めた。得られた蛋白質を20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)で溶解し、充分量の同緩衝液に対して透析を行った後、同緩衝液で予め平衡化したDEAE−トヨパール650Mカラム(300ml)にアプライし、塩化ナトリウム0〜0.5Mの濃度勾配により溶出し、活性画分を集めた。この活性画分に硫酸アンモニウムを終濃度1Mとなるよう添加し、予め1M硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウム緩衝液pH7で平衡化したPhenyl−トヨパール650M(60ml)にアプライし、硫酸アンモニウム1〜0.5Mの直線濃度勾配で溶出し、活性画分を集めた。得られた酵素液を20mMリン酸カリウム緩衝液pH7に透析し、次いで、予め同緩衝液で平衡化したResourceQ(アマシャムファルマシアバイオテック社製)カラム(6ml)にアプライし、塩化ナトリウム0.35Mを含む同緩衝液で洗浄後、塩化ナトリウム0.35〜0.5Mの直線濃度勾配で溶出し、活性画分を集めた。得られた酵素液を限外濾過濃縮し、0.15M塩化ナトリウムを含む20mMリン酸カリウム緩衝液pH7で平衡化したSuperdex200HRカラム(24ml)(アマシャムファルマシアバイオテック社製)にアプライし、同緩衝液で溶出し、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集めることにより、電気泳動的に単一な酵素標品を得た。
【0052】
(実施例7)バークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)からのグリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素の精製
酵母エキス0.625g、硝酸アンモニウム2.5g、リン酸水素2カリウム1.25g、リン酸2水素ナトリウム1.25g、硫酸マグネシウム・7水和物0.25g、塩化カルシウム・2水和物0.625g(いずれも1L)あたり)の組成よりなる培地(pH5.5−6.0)を調整し、500ml容坂口フラスコに150ml分注し、高圧蒸気滅菌後(120℃、20分)、メンブランフィルターで除菌した5% 2−メトキシエタノール水溶液を培地中の2−メトキシエタノール濃度が1%になるように添加した。これら培地に予め同培地で前培養しておいたバークホルデリア・スピーシーズ(Burkholderia sp.)AIU129の培養液(一次種母液)を1.5ml植菌し、30℃で2日間振盪培養して二次種培養液を調製した。続いて、この二次種培養液20mlを上記培地と同一組成の液体培地2 Lを入れた3 L容フラスコに植菌し、30℃で5日間振盪培養した。このようにして培養した10Lの培養液から菌体を集めて、以下の方法で酵素を精製した。尚、酵素の精製にはリン酸緩衝液 pH7.5を用いた。
【0053】
10L培養液から集菌した菌体(湿重量:25.5g)を10mMリン酸緩衝液に懸濁し、10℃以下の温度で0.5mmガラスビーズを用いて16分間(2分x8回)細胞破砕した。この細胞破砕液を遠心分離して菌体残渣を除去し、上清画分を粗酵素液として酵素の精製に用いた。細胞破砕液から菌体残渣を除去して調製した粗酵素液を、10mMリン酸緩衝液で平衡化したDEAE−Toyopearlカラム(2.5×20cm)に吸着させた。本カラムを50mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液1Lで洗浄した後、酵素を50mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液(300ml)と0.3M NaClを含む10mMリン酸緩衝液(300ml)を用いて直線濃度勾配法で溶出した。DEAE−Toyopearlカラムから溶出された活性画分に1M量の固形の硫安を添加し、生成した不溶物を除去した。この酵素液を1.0M硫安を含む10mMリン酸緩衝液で平衡化した50mlのPhenyl−Topopearlカラム(2.5x11cm)に通液した後、カラムを0.6M硫安を含む10mMリン酸緩衝液で十分洗浄した。次に目的とする酵素を0.6M硫安を含む10mMリン酸緩衝液(200ml)と10mMリン酸緩衝液(200ml)を用いて直線濃度勾配法で溶出した。Phenyl−Topopearlカラムから溶出された酵素活性画分を限外濾過膜で2ms/cmまで脱塩濃縮した後、50mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液で平衡化したDEAE−Toyopearlカラム(1.5×20cm)に吸着させた。本カラムを50mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液で十分洗浄した後、酵素を50mM NaClを含む10mMリン酸緩衝液(150ml)と0.3M NaClを含む10mMリン酸緩衝液(150ml)を用いて直線濃度勾配法で溶出した。DEAE−Toyopearlカラムからの溶出液を限外濾過膜で濃縮し、この濃縮酵素液に45%飽和になるように硫安を添加した後、1時間攪拌放置し、生成した沈殿物を遠心分離で集めた。続いて、この上清画分に55%飽和まで硫安を添加し、生成した沈殿物を遠心分離で集め、さらに65%飽和まで硫安を添加し、生成した沈殿物を遠心分離で集めた。そして55%飽和と65%飽和の沈殿画分の酵素を0.6M硫安を含む10mMリン酸緩衝液で溶解した。上述の硫安塩析で得た酵素液を1.0M硫安を含む10mMリン酸緩衝液で平衡化した50mlのPhenyl−Topopearlカラム(2.5x11cm)に通液し、カラムを0.6M硫安を含む10mMリン酸緩衝液で十分洗浄した。次に目的とする酵素を0.6M硫安を含む10mMリン酸緩衝液(200ml)と10mMリン酸緩衝液(200ml)を用いて直線濃度勾配法で溶出した。Phenyl−Topopearlカラムからの溶出液を限外濾過膜で0.2mlまで濃縮した後、50mMリン酸緩衝液で平衡化したToyopearl HW−55カラム(1×45cm)でゲル濾過を行い、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集めることにより、電気泳動的に単一な酵素標品を得た。
【0054】
実施例8)アースロバクター・スピーシーズ KNK−GA1(FERM BP−8375)株からの、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する酸化酵素の精製
アースロバクター・スピーシーズ KNK−GA1株を500ml容坂口フラスコ中グルコース20g、酵母エキス1g、Nutrient broth8g(いずれも1Lあたり)の組成よりなる培地(pH7)100mlに植菌し、28℃で1日培養し、前培養液を得た。ついで、5リットル容ミニジャー中にグリコール酸5g、酵母エキス1g、リン酸二水素カリウム3.5g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、硫酸マグネシウム7水和物0.5g、硫酸亜鉛7水和物0.02g、硫酸第一鉄7水和物0.03g、硫酸銅5水和物0.002g、塩化カルシウム2水和物0.1g、塩化ナトリウム0.3g(いずれも1Lあたり)の組成よりなる培地(pH7)3Lに、得られた前培養液を植菌し、0.5vvm、350rpm、pH7.2以下(水酸化ナトリウム水溶液でコントロール)で培養を行い、培養7、21、27、32時間目にグリコール酸をそれぞれ15gずつ添加し、45時間培養した。
【0055】
ついで、得られた培養液から遠心分離により菌体を集め0.05Mリン酸緩衝液(pH7)1.2Lに懸濁した。
得られた菌体懸濁液をダイノミルにより破砕後、遠心分離により上清液1.1Lを得た。上清液に5%硫酸プロタミン水溶液を62ml添加し30分間攪拌後、遠心分離により沈殿物を除き、1.2Lの上清液を得た。
得られた上清液1.2Lを氷冷下スターラーで攪拌しながら、所定量の硫酸アンモニウムを添加し、硫酸アンモニウム25−40%で沈殿するタンパク質を遠心分離により集めた。
得られた硫安沈殿タンパクを320mlの0.05Mリン酸緩衝液(pH7)で溶解し、同緩衝液15Lにより透析を行った後、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で予め平衡化したDEAE−トヨパール650M(東ソー製)カラム(カラム直径:4cm、高さ:20cm)にチャージし、0−0.2Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により、流速90ml/hrで溶出させ活性画分を集めた。得られた活性画分に硫酸アンモニウム濃度が0.6Mになるように1.2M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液を添加後、0.6M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で予め平衡化したPhenyl−トヨパール650M(東ソー製)カラム(カラム直径:2.4cm、高さ:24cm)にチャージし、0.6M−0Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により、流速70ml/hrで溶出させ活性画分を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7)により透析した。その後、透析後の液を、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で予め平衡化したSuperQトヨパール650M(東ソー製)カラム(カラム直径:2.4cm、高さ:20cm)にチャージし、0M−0.3Mの塩化ナトリウム直線濃度勾配により、流速50ml/hrで溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分の硫酸アンモニウム濃度が0.4Mになるように調整し、0.4M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で予め平衡化したButyl−トヨパール650S(東ソー製)カラム(カラム直径:1.4cm、高さ:10cm)にチャージし、0.4M−0Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により、流速30ml/hrで溶出させ活性画分を集めた。その後、活性画分の硫酸アンモニウム濃度を0.6Mに調整した後、0.6M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液(pH7.2)で予め平衡化したRESOURCE 15PHE(Amersham pharmacia biotech社製)カラム(6ml)にチャージし、0.6M−0Mの硫酸アンモニウム直線濃度勾配により流速2ml/minで溶出させ、280nmのタンパク吸収と活性が一致する溶出ピークを得た。活性フラクションを集めることにより、電気泳動的に単一な酵素標品を得た。
【0056】
(実施例9)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリオキサール→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア・パストリス(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、1U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例2で得たリゾビアレス KNK054(FERM P−19156)由来酸化酵素の精製酵素(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換)、0〜0.5U(グリオキサール酸化活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素の粗酵素液(グリオキサールをグリオキシル酸へ変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、反応液100μlに200μlの200mM過塩素酸水溶液を添加し、遠心分離後(15000rpm、10分間)、上清をHPLCにより分析した。本反応により生成したグリコールアルデヒド、グリオキサール、グリオキシル酸を表1に示す。上記3種の酸化酵素により、エチレングリコールがグリオキシル酸へ効率良く変換されていた。
【0057】
【表1】

【0058】
[HPLC分析条件]
カラム:Shodex Rspak KC−811(昭和電工社製)を二本連結
検出:RI(エチレングリコール、グリコールアルデヒド、グリオキサール、グリコール酸、グリオキシル酸)
UV(グリコール酸、グリオキシル酸)
カラム温度:40℃
溶離液:50mM過塩素酸水溶液
流速:1ml/min
検出時間:エチレングリコール;22.6分、グリコールアルデヒド;17.9分、グリオキサール;15.7分、グリコール酸;18.5分、グリオキシル酸;15.7分
【0059】
(実施例10)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリオキサール→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、1U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例3で得たアースロバクター・スピーシーズ KNK154(FERM P−19153)由来酸化酵素の精製酵素(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換)、0.5U(グリオキサール酸化活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素の粗酵素液(グリオキサールをグリオキシル酸へ変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例9と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、52mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0060】
(実施例11)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリオキサール→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、1U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例2で得たリゾビアレス KNK054(FERM P−19156)由来酸化酵素の精製酵素(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換)、0.5U(グリオキサール酸化活性)/mlの実施例6で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516由来の酸化酵素の精製酵素(グリオキサールをグリオキシル酸へ変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例9と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、47mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0061】
(実施例12)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリオキサール→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、1U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例2で得たリゾビアレス KNK054(FERM P−19156)由来酸化酵素の精製酵素(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換)、0.5U(グリオキサール酸化活性)/mlの実施例7で得たバークホルデリア(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)由来の酸化酵素の精製酵素、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMリン酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例9と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、52mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0062】
(実施例13)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリオキサール→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、1U(エチレングリコール酸化活性)/mlの実施例1で得たアスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)AIU 031(FERM P−20785)株由来酸化酵素の粗酵素液(エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換)、1U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例2で得たリゾビアレス KNK054(FERM P−19156)由来酸化酵素の精製酵素(グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換)、0.5U(グリオキサール酸化活性)/mlの実施例7で得たバークホルデリア(Burkholderia sp.)AIU 129(FERM P−20787)由来の酸化酵素の精製酵素、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMリン酸緩衝液(pH8.0)0.3mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例9と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、78mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0063】
(実施例14)グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する酸化酵素の取得
酵母エキス5g、硝酸アンモニウム2g、リン酸水素2カリウム1g、リン酸水素1ナトリウム・2水和物1.3g、硫酸マグネシウム・7水和物0.2g、塩化カルシウム0.1g(いずれも1リットル当り)の組成よりなる培地(pH7)10mlを大型試験管に分注し、高圧滅菌後、表1記載の微生物を1白金耳植菌し、28℃で2日間振とう培養した。得られた培養液を遠心分離し、菌体を集め、1mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH7)に懸濁した。この菌体懸濁液を超音波破砕し、遠心分離により菌体残渣を除き、無細胞抽出液を得た。このようにして得られた無細胞抽出液について、グリコールアルデヒド、グリオキサールに対する酸化活性(オキシダーゼ活性)を測定した。その結果を表2にまとめる。その結果、これら菌株の無細胞抽出液には、グリオキサールと共にグリコールアルデヒドに対して酸化活性(オキシダーゼ活性)が存在することが明らかとなった。
【0064】
【表2】

【0065】
[酸化活性測定方法]
100mMリン酸緩衝液(pH7.0)中、20mM 基質(無添加、グリコールアルデヒド、又は、グリオキサール)、0.69mM 4−アミノアンチピリン(4−AA)、1.09mM N−エチル−(2−ヒドロキシ−3−スルフォプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、2U/ml ペルオキシダーゼ(POD)、および0.2mlの上記無細胞抽出液を含む1.0mlの反応液を試験管中で、30℃で振とうし、目視で生成するキノンイミン色素を検出した。
【0066】
(実施例15)グリコールアルデヒドからのグリコール酸の合成
300mMリン酸緩衝液(pH8.0)中、20mMグリコールアルデヒド、5000U/mlカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)および0.2mlの実施例14で得た無細胞抽出液を含む1.0mlの反応液を試験管中で、30℃で6時間振とうしながら反応を行った後、反応液100μlに200μlの200mM過塩素酸水溶液を添加し、遠心分離後(15000rpm、10分間)、上清をHPLCにより分析した。その結果を表3に示す。いずれの無細胞抽出液においても、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する活性が見出された。本反応では、反応系にNAD+、NADP+などの補酵素を添加していないことからデヒドロゲナーゼタイプの酵素では反応が進行しないこと、更に実施例14で示したように、反応に使用した無細胞抽出液中にはグリコールアルデヒドに対するオキシダーゼ活性が存在することより、本実施例におけるグリコール酸の生成は、オキシダーゼすなわち酸化酵素によるものであると推測される。
【0067】
[HPLC分析条件]
カラム:Shodex Rspak KC−811(昭和電工社製)を二本連結
検出:RI(エチレングリコール、グリコールアルデヒド、グリコール酸、グリオキサール、グリオキシル酸)
UV(グリコール酸、グリオキシル酸)
カラム温度:40℃
溶離液:50mM過塩素酸水溶液
流速:1ml/min
検出時間:エチレングリコール;22.6分、グリコールアルデヒド;17.9分、グリオキサール;15.7分、グリコール酸;18.5分、グリオキシル酸;15.7分
【0068】
【表3】

【0069】
(実施例16)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株から得た精製酵素を用いたグリコール酸の合成反応
20mMグリコールアルデヒド、0.1U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例6で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素の精製酵素、10000U/ml カタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例15と同様な方法でHPLC分析を行った。その結果、18mMグリコール酸が生成していた。
【0070】
(実施例17)セルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株粗酵素液を用いたグリコール酸の合成反応
20mMグリコールアルデヒド、0.1U(グリコールアルデヒドオキシダーゼ活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516株由来の酸化酵素の粗酵素液、10000U/ml カタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMTris−HCl(pH8.0)0.5mlを試験管中、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例15と同様な方法でHPLC分析を行った。その結果、17mMグリコール酸が生成していた。
【0071】
(実施例18)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリコール酸→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、0.2U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516由来の酸化酵素の粗酵素液(グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換)、0または0.5U(グリコール酸酸化活性)/mlのホウレンソウ由来グリコール酸オキシダーゼ(シグマ社製)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMトリス−HCl緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、反応液100μlに200μlの200mM過塩素酸水溶液を添加し、遠心分離後、上清をHPLCにより分析した。その結果、27mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0072】
(実施例19)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリコール酸→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、0.6U(エチレングリコール酸化活性)/mlのピキア属酵母(Pichia pastris)由来のアルコールオキシダーゼ(シグマ社製)、0.2U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516由来の酸化酵素の粗酵素液、0.5U(グリコール酸酸化活性)/mlの実施例8で得たアースロバクター・スピーシーズ KNK−GA1株由来酸化酵素の精製酵素(グリコール酸をグリオキシル酸へ変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMトリス−HCl酸緩衝液(pH8.0)0.5mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例15と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、53mMのグリオキシル酸が生成していた。
【0073】
(実施例20)エチレングリコールからグリオキシル酸の合成反応(エチレングリコール→グリコールアルデヒド→グリコール酸→グリオキシル酸)
1Mエチレングリコール、1U(エチレングリコール酸化活性)/mlの実施例1で得たアスペルギルス・スピーシーズ(Aspergillus sp.)AIU 031の酸化酵素の粗酵素液(エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換)、0.5U(グリコールアルデヒド酸化活性)/mlの実施例5で得たセルロシミクロビウム・セルランス NBRC15516由来の酸化酵素の粗酵素液(グリコールアルデヒドからグリコール酸への変換)、0.5U(グリコール酸酸化活性)/mlの実施例8で得たアースロバクター・スピーシーズ KNK−GA1由来酸化酵素の精製酵素(グリコール酸をグリオキシル酸へ変換)、10000U/mlのカタラーゼ(Bovive Liver由来;ナカライ社製)を含む300mMトリス−HCl酸緩衝液(pH8.0)0.2mlを試験管中で、28℃、6時間振盪しながら反応を行った後、実施例15と同様な方法で、HPLC分析を行った。その結果、42mMのグリオキシル酸が生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールをグリオキシル酸へ変換するグリオキシル酸の製造方法であって、下記第1反応、第2反応および第3反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とする製造方法:
(第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
(第2反応)第1反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキサールを生成させる。
(第3反応)第2反応で生じたグリオキサールに、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキシル酸へ変換する。
【請求項2】
エチレングリコールをグリオキシル酸へ変換するグリオキシル酸の製造方法であって、下記第1反応、第2反応および第3反応からなる酸化反応を連続して行うことを特徴とする製造方法。
(第1反応)エチレングリコールに、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコールアルデヒドを生成させる。
(第2反応)第1反応で生じたグリコールアルデヒドに、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリコール酸を生成させる。
(第3反応)第2反応で生じたグリコール酸に、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素(オキシダーゼ)、又は、当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を作用させてグリオキシル酸を生成させる。
【請求項3】
エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素が、アルコールオキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、及び、アスペルギルス・オクラゼウス(Aspergillus ochraceus)から得られる酸化酵素からなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化酵素である請求項1および2のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールオキシダーゼがピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、トルロプシス(Toluropsis)属、及び、オガタエア(Ogataea)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られるアルコールオキシダーゼであり、前記グリセロールオキシダーゼがアスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物から得られるグリセロールオキシダーゼである請求項3記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項5】
グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素が、リゾビアレス(Rhizobiales)目、アースロバクター(Arthrobacter)属、及び、パエニバシルス(Paenibacillus)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られる酸化酵素である請求項1、3および4のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項6】
グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素が、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、及び、バークホルデリア(Burkholderia)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られる酸化酵素である請求項1、3、4および5のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項7】
グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素が、ステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、セルロシミクロビウム(Cellulosimicrobium)属、モルガネラ(Morganella)属、及び、バークホルデリア(Burkholderia)属からなる群から選ばれる少なくとも1つの微生物から得られる酸化酵素である請求項2、3および4のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項8】
グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素が、グリコール酸オキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、及び、2−ヒドロキシ酸オキシダーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化酵素である請求項2、3、4および7のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項9】
前記2−ヒドロキシ酸オキシダーゼがアースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物から得られる(D)−2−ヒドロキシ酸オキシダーゼである請求項8記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項10】
エチレングリコールを含む反応液に、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物、グリコールアルデヒドをグリオキサールへ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物、および、グリオキサールをグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を添加して、同一反応容器中、第1反応、第2反応および第3反応を同時進行させて行うことからなる請求項1、3、4、5および6のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項11】
エチレングリコールを含む反応液に、エチレングリコールをグリコールアルデヒドへ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物、グリコールアルデヒドをグリコール酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物、および、グリコール酸をグリオキシル酸へ変換する能力を有する酸化酵素又は当該酸化酵素を産生する微生物の培養物若しくはその処理物を添加して、同一容器反応中、第1反応、第2反応および第3反応を同時進行させて行うことからなる請求項2、3、4、7、8および9のいずれか記載のグリオキシル酸の製造方法。

【公開番号】特開2007−228924(P2007−228924A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56942(P2006−56942)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発事業の委託研究」、産業活力再生特別措置法30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】