説明

グリケーション阻害剤及びその利用

【課題】食品用添加剤および組織障害予防・治療剤、飲食品、外用剤として使用でき、副作用を生じさせることのないグリケーション阻害剤の提供。
【解決手段】アグリモニー、ウィッチヘーゼル、甘葉懸鈎子、ハゴロモソウ、チャノキ、サラシア・オブロンガ、ガラナなどより選ばれる植物を抽出溶媒として有機溶媒または有機溶媒および水を組み合わせたものを用いて抽出された抽出物の1種又は2種以上を含有することを特徴とするグリケーション阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物の抽出物又はその成分を有効成分とし、グリケーションにより生じる各種組織障害の予防及び治療・改善効果を有する、安全性の高いグリケーション阻害剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境条件の悪化や生活様式の変化、社会生活の複雑化に伴うストレスの増加等により、老化が促進される要因が増えている。しかし一方で、日本人の平均寿命が延び、高齢者の占める割合が増えるとともに、若々しく健康に暮らすことの大切さが見直されてきている。従って、老化の進行を抑制することは、万人の待ち望んでいるところでもある。
【0003】
老化の進行には様々な要因が関与しているが、その要因の1つに非酵素的蛋白糖化反応が挙げられている。これは、還元糖とアミノ酸又は蛋白質の結合により、蛋白質本来の機能に障害をもたらす反応であり、グリケーション(褐変反応)と呼ばれている。生体内の種々の生理機能は蛋白質が司っており、糖化された蛋白は本来の機能を発揮できず、各種の機能障害をもたらすと考えられる。このグリケーションの初期段階反応物質は、アマドリ化合物と呼ばれる蛋白質と糖の結合物であり、更にこの反応は、脱水、重合を経て蛍光性、褐色化、分子内及び分子間架橋形成を特徴とする終末糖化物質(advanced glycation end products: AGE)になる。
【0004】
これらAGEは、加齢とともに生体内に蓄積し、加齢で認められる種々の組織障害、例えば、皮膚、血管壁、関節、肺等の結合組織の硬化(例えば、非特許文献1〜4参照)に関連することが示唆されており、皮膚の肥厚やしわの形成、動脈硬化、関節炎、心肺機能低下等の原因になると考えられている。また、白内障(例えば、非特許文献5参照)にも関連していると考えられている。また、グリケーションは加齢による組織障害の原因となるだけではなく、日光性弾力繊維症、アルツハイマー病、糖尿病合併症等の疾病に関与することが推測されている。例えば、日光性弾力線維症の皮膚組織にはAGEの一種であるカルボキシメチルリジン(CML)が検出されており、CMLの蓄積が深いしわや皮膚組織の硬化等の病変に関わっていることが示唆されている(例えば、非特許文献6参照)。また、アルツハイマー病におけるβ-アミロイドペプチドの脳内蓄積にAGEが関与していることが示唆されている(例えば、非特許文献7参照)。
【0005】
更に、糖尿病における腎障害、網膜症にAGEの蓄積が関係していることも示唆されている(例えば、非特許文献8参照)。このようなAGEの蓄積に対し、その元となるグリケーションを阻害する薬剤としてアミノグアニジンが知られている。この化合物は、糖尿病合併症である網膜症、腎障害、神経障害に有効であることがモデル動物で確認されており(例えば、非特許文献9参照)、糖尿病合併症の治療薬として米国で治験が進められている。しかし、アミノグアニジン服用により頭痛、悪心等の副作用が報告されており、医師の指導のもとに服用する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bai P. et al., Conn Tissue Res 1992; 28:1-12
【非特許文献2】Sakata N. et al., Atherosclerosis 1995 ;116:63-75.
【非特許文献3】Verzijl N. et al., Biochem J 2000 ;350 Pt 2:381-7.
【非特許文献4】Bellmunt MJ. et al., Lung 1995;173:177-85.
【非特許文献5】Prabhakaram M. et al., Mech Ageing Dev 1996 ;91(1):65-78
【非特許文献6】Mizutari K. et al., J Invest Dermatol 1997 ;108(5):797-802
【非特許文献7】Vitek MP. et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994 ;91(11):4766-7 0
【非特許文献8】McCance DR. et al., J Clin Invest 1993; 91: 2470-8
【非特許文献9】Brownlee M., Diabetes Care 1992;15:1835-43.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、高いグリケーション阻害効果を有し、かつ副作用を生じさせることのない、安全性の高いグリケーション阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、このような事情に鑑み、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の植物の抽出物が高いグリケーション阻害効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、アグリモニー、アシュワガンダ、アニス、アマチャヅル、甘葉懸鈎子、銀杏、ウイキョウ、ウイッチヘーゼル、ウコン、エキナセア、エゾウコギ、エルダー、エルバ・マテ、オオバコ、オリーブ、オレガノ、オレンジ、柿、カキドオシ、カミツレ、ガラナ、含羞草、菊、ギムネマ、キャッツクロー、キャットニップ、キラウェイ、キンギンカ、グァバ、クコヨウ、くまざさ、クミクスチン、黒大豆、くわ、シナモン、ケツメイシ、ゴーヤ、コーラナッツ、ゴカヒ、ゴツコラ、コリアンダー、コンフリー、サキシマスオウ、サフラワー、サラシア・オブロンガ、サンザシ、サンシチニンジン、しそ、ジュウヤク、ジュニパーベリー、ジンジャー、杉、スギナ、ステビア、スペアミント、セイジ、セイボリー、セイヨウサンザシ、仙▲査▼、タイム、タヒボ、ダンデライオン、チャービル、チャノキ、チャボトケイソウ、チョウジ、デイジー、ディル、トチュウ、ニクズク、南姜、ネトル、ハイビスカス、白猪母邱、白花蛇舌草、ハゴロモソウ、バジル、ハス、半枝連、ヒース、ピーチ、ヒソップ、びわ、フィーバーフュー、フクギ、藤、プランタゴ・サイリュウム、ブルーベリー、ブルーマロウ、ペニーロイヤル、ベニバナ、ペパーミント、ホップ、ポリジ、ポンドアップル、マシュマロー、マジョラム、マリーゴールド、マレイン、マロウスモール、マロウブルー、ミフクラギ、ミルクシスル、メグスリノキ、メデゥスイート、モッカ、ヤエヤマ アオキ、ヤクルマギク、ヤローフラワー、ユーカリ、ヨクイニン、ヨモギ、ラズベリー、ラベンダー、リンデン、ルイボス、レモングラス、レモンタイム、レモンバーベナ、レモンバーム、ローズヒップ、ローズピンクバッツ、ローズマリー、ローズレッド、ローレル、羅布麻、ワイルドストロベリーより選ばれる植物の抽出物の1種又は2種以上を含有することを特徴とするグリケーション阻害剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は上記グリケーション阻害剤を含有する組織障害予防・治療剤並びに組織障害予防・治療効果を有する飲食品及び外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグリケーション阻害剤は、高いグリケーション阻害効果を有するものである。
【0012】
従って、本発明のグリケーション阻害剤はグリケーション或いはグリケーションによって生じる終末糖化物質(AGE)等の蓄積によって引き起こされる、各種組織障害の予防及び治療・改善効果を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、各群のラットの1週間ごとの体重を示す図面である。
【図2】図2は、各群のラットの1日あたりの摂餌量を示す図面である。
【図3】図3は、各群のラットの血管の蛍光強度を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグリケーション阻害剤(以下、単に「阻害剤」という)の有効成分は、下記の表1及び表2に示す植物の抽出物である。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
これら植物の抽出物の中でも、アグリモニー、銀杏、ウイッチヘーゼル、オレガノ、セイボリー、グァバ、クミクスチン、サラシア・オブロンガ、しそ、チャノキ、ジュニパーベリー、杉、セイジ、タイム、チョウジ、甘葉懸鈎子、ハゴロモソウ、ヒース、びわ、エルバ・マテ、メグスリノキ、ユーカリ、ヨモギ、ラズベリー、羅布麻、ルイボス、レモンタイム、レモンバーム、ローズヒップ、ローズマリー、ローズレッド、ワイルドストロベリー、ガラナ、フクギより選ばれる植物の抽出物が好ましく、特に、アグリモニー、ウィッチヘーゼル、甘葉懸鈎子、ハゴロモソウ、メグスリノキ、チャノキ、サラシア・オブロンガ、ガラナより選ばれる植物の抽出物が好ましい。
【0018】
これら抽出物は、1種又は2種以上で本発明の阻害剤の有効成分として使用することができる。
【0019】
上記植物の抽出物の製造方法は特に制限されるものではなく、通常用いられる方法により製造することができる。また、抽出条件も特に制約はなく、例えば、上記植物の各種部位(全草、花、萼、種子、果実、葉、枝、樹皮、根皮、根茎、根等)をそのまま又は裁断、粉砕あるいは細紛した後、搾取又は溶媒で抽出することにより製造される。
【0020】
このうち、溶媒を用いた抽出は、一般に使用する溶媒に合わせて常圧〜加圧下で常温〜溶媒の沸点の温度条件下で10分〜1週間程度行えばよい。抽出に使用する溶媒としては、植物種や処理工程にあわせて通常用いられる溶媒を適宜選択して用いればよく、例えば、水やアルコール類(例えば、メタノール、無水エタノール、エタノール等の低級アルコール、又はプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール)、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類又はキシレン、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒が挙げられる。なお、食品や化粧品素材として用いる場合等、有機溶媒が残留が好ましくない場合は、特に水やエタノール等を選択することが好ましい。これらの溶媒は単独で用いることもできるが、2種類以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0021】
具体的には、例えば以下の方法が使用できる。すなわち、植物原体あるいは乾燥物を細砕し、抽出溶媒を5〜20倍量加え、常圧下、室温で1週間程度静置、又は抽出溶媒の沸点付近で10〜30分程抽出してから濾過して得られた濾液を減圧乾固あるいは凍結乾燥して植物抽出物を得る。
【0022】
上記のようにして得られた植物の抽出物はそのままの状態で使用することもできるが、必要に応じ、その効力に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えても良い。このような精製処理としては、通常の手段を任意に選択して行えば良く、例えば濾過又はイオン交換樹脂や活性炭カラム等を用い、吸着・脱色・精製等を行なえば良い。更に、凍結乾燥又は濃縮処理等により溶液状、ペースト状、ゲル状、又は粉末状の精製物を得ることができる。
【0023】
本発明の阻害剤は、上記のようにして得られた植物抽出物をそのまま、あるいは公知の医薬品担体と組合せ、製剤化することにより調製される。この阻害剤は、組織障害予防・治療剤等の医薬品や、医薬部外品として使用できるが、化粧品等の外用剤あるいは飲食品に配合することにより、組織障害予防・治療効果を有する外用剤あるいは飲食品とすることもできる。
【0024】
具体的に本発明の阻害剤を含有する組織障害予防・治療剤等の医薬品や医薬部外品を調製するには、本発明の阻害剤と通常の医薬品や医薬部外品に使用される分散補助剤、賦形剤等の担体や添加剤と混合し、粉剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、リモナーデ剤等の内服剤や、ゲル、乳液状、クリーム、軟膏、発布剤、入浴剤等の外用剤の形とすれば良い。
【0025】
上記担体としては、マンニトール、乳糖、デキストラン等の水溶性の単糖類、オリゴ糖類又は多糖類;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のゲル形成性又は水溶性のセルロース類;結晶性セルロース、α―セルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム及びそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性のセルロース類;ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシメチル澱粉、架橋澱粉、アミロース、アミロペクチン、ペクチン及びそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性の多糖類;アラビアガム、トラガントガム、グリコマンナン及びそれらの誘導体等の水吸収性でかつ水難溶性のガム類;ポリビニルピロリドン、架橋ポリアクリル酸及びその塩、架橋ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート及びそれらの誘導体等の架橋ビニル重合体類;リン脂質、コレステロール等のリポソーム等分子集合体を形成する脂質類糖を挙げることができる。
【0026】
また、添加剤としては微生物培養代謝物、紫外線吸収/遮断剤、美白剤、メラニン色素還元/分解剤、ターンオーバーの促進作用/細胞賦活剤、収斂剤、活性酸素消去剤、抗酸化剤、過酸化脂質生成抑制剤、抗炎症剤、殺菌・消毒薬、保湿剤、頭髪用剤、酸化剤、染料剤、栄養強化剤、乳製品、保湿剤、ホルモン類、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性蛋白質又はその分解物、動・植物性多糖類又はその分解物、動・植物性糖蛋白質又はその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、角質溶解剤、創傷治療剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤、苦味料、調味料、酵素等を挙げることができる。
【0027】
本発明の阻害剤は、グリケーション阻害作用を有するものであり、これを含有する組織障害予防・治療剤は、グリケーションにより生じる動脈硬化症、白内障、アルツハイマー症、腎不全、透析製アミロイドーシス、結合組織硬化に伴う各種疾患、日光弾力線維症、皮膚の肥厚等の各種組織障害の予防及び治療・改善効果を有するものである。
【0028】
上記組織障害予防・治療剤の投与量としては、剤形や疾患等に合わせて適宜調整すればよいが、内服剤であれば、製剤全量中、前記植物抽出物を固形分換算で、0.5〜60質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは5〜60%、特に好ましくは5〜10%の範囲で配合すればよい。一方、外用剤であれば、製剤全量中、固形分換算で、0.0001〜30%、好ましくは0.001〜20%、特に好ましくは0.5〜20%の範囲で配合すればよい。更に、入浴剤として使用する場合は、200〜300Lの浴湯対し外用剤と同程度の濃度になるように処方を考慮すれば良い。
【0029】
一方、本発明の阻害剤を含有する化粧品等の外用剤も、本発明の阻害剤を化粧料原料等に有効量添加する以外は通常の化粧品等の外用剤を製造するのと同様に製造される。使用される化粧料原料は上記の組織障害予防・治療剤において、担体および添加剤として例示した物のうち、化粧料等の外用剤に使用が認められるものを使用することができる。
【0030】
更に、本発明の阻害剤を含有する飲食品は、本発明の阻害剤を飲食品原料等に有効量添加すること以外は通常の飲食品を製造するのと同様に製造される。
【0031】
これら飲食品の例としては、パン、ビスケット、ホットケーキ、麺、錠菓等のデンプンを主体とする食品、チーズ、バター、ヨーグルト等の乳製品、ガム、キャンディー、和菓子等の菓子類、ハム、ソーセージ等の畜肉食品、ちくわ、かまぼこ等の魚肉食品、魚介類食品、ドレッシング、醤油、ジャム、ふりかけ等の調味料、茶、ジュース、清涼飲料、乳酸菌飲料、酒類等の飲料等が挙げられ、これら飲食品への本発明阻害剤の配合量は、前記植物抽出物の固形分換算で0.01〜60%、好ましくは0.01〜20%、特に好ましくは0.1〜15%程度とすれば良い。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0033】
製 造 例 1
植物熱水抽出物の製造:
表3に記載の各植物の25gを500mLの沸騰水中にて常圧下で30分間抽出した。得られた抽出液をガーゼで濾過した後、室温まで冷却し、凍結乾燥して植物熱水抽出物(実施品1〜111)を得た。
【0034】
製 造 例 2
植物エタノール抽出物の製造:
表4に記載の各植物の乾燥体の2.5gを50mLのエタノール中にて、常圧下、室温で1週間抽出した。得られた抽出液をガーゼで濾過した後、濾液を減圧乾固して植物エタノール抽出物(実施品112〜214)を得た。
【0035】
製 造 例 3
植物含水エタノール抽出物の製造:
ウイッチヘーゼル(幹)、ローズマリー、ジュニパーベリー、ヨモギ、びわ(葉)、グァバ(葉)の各植物の25gを500mLの50%含水エタノール中にて、常圧下、室温で1週間抽出した。得られた抽出液をガーゼで濾過した後、濾液を減圧乾固して植物含水エタノール抽出物を得た。
【0036】
試 験 例 1
植物熱水抽出物のグリケーション阻害作用の測定:
グリケーションの初期段階反応物質は、アマドリ化合物と呼ばれる蛋白質と糖の結合物である。更にこの初期段階反応物質は脱水、重合を経て蛍光を持つ終末糖化物質(AGE)を形成する。従って、AGE量を測定することで、グリケーションの阻害作用が測定できる。
【0037】
検体としては、製造例1で得られた植物熱水抽出物(実施品1〜111)を用い、AGE量の測定はナカザワらの方法(Nakazawa-H et al., J. Agric. Food Chem., 48, 180-185 (2000))を一部改変して行った。なお、既知のグリケーション阻害剤であるアミノグアニジンを本試験の陽性対照として用いた。
【0038】
各検体は蒸留水で最終濃度10、2、0.4、0.08、0.016、0.0032mg/mLになるように調整し、スクリューキャップ付き試験管に500μLずつ分注後オートクレーブ滅菌して試料とした。また、陽性対照は、アミノグアニジンを蒸留水で200、100、50、25、12.5、6.25mMになるように調製し、これを滅菌済みの試験管にフィルター滅菌しながら500μLずつ分注して調製した。なお、対照には蒸留水を用いた。
【0039】
上記の検体、陽性対照および対照の各々の試験管にフィルター滅菌済みの40mg/mLの牛血清アルブミン(bovine serum albumin, fractionV; Sigma社製、以下、「BSA」という)、1MのD−フラクトース(最終濃度0.5M)を含有する400mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4、最終濃度200mM)を500μLずつ添加し、37℃で7日間遮光下で反応させた。ブランクとしては、D−フラクトースが入っていない試験管を用意した。
【0040】
反応終了後、各試験管に10%トリクロロ酢酸溶液1mLを添加、攪拌し、冷却遠心(4℃、3,000rpm、5分)を行った後、上清をデカントで除去し、更に沈殿を5%トリクロロ酢酸溶液2mLで2回洗浄した。洗浄終了後、沈殿を200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)2mLに溶解した。溶解した沈殿物200μLを蛍光測定用96穴プレートに移し、蛍光プレートリーダーSPECTRAmaxGEMINI XS(モレキュラーデバイス社)を用いて、励起波長350nm、蛍光波長425nmで蛍光を測定し、以下の数式1に従いグリケーション阻害率を算出した。
【0041】
【数1】

【0042】
さらに、横軸に試料の濃度、縦軸にグリケーション阻害率をとった対数グラフを作成し、50%阻害活性を示す濃度(IC50)を算出した。得られた結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
( 結 果 )
表3に示した通り、各植物抽出物は何れもAGEの形成を阻害し、グリケーション阻害効果が認められた。また特に、ウイッチヘーゼル(幹)、ジュニパーベリー、ハゴロモソウ、ルイボス、ローズレッド、ウイッチヘーゼル(葉)、チャノキ(茎葉)、セイボリー、グァバ(葉)、ヒース、甘葉懸鈎子、ユーカリ、チョウジ、アグリモニー、オレガノ、ラズベリー(葉)、ワイルドストロベリー、レモンバーム、ローズマリー、タイム、ヨモギ、サラシア・オブロンガ、セイジ、銀杏(葉)、杉(葉)、レモンタイム(葉)、メグスリノキ、クミクスチン、びわ(葉)、エルバ・マテ、しそ、マンネンロウ、ローズヒップ、羅布麻のIC50は、アミノグアニジンのIC50、0.28mg/mLと同等、あるいはそれ以上の値を示し、優れたグリケーション阻害作用を有することが確認された。
【0045】
試 験 例 2
植物エタノール抽出物のグリケーション阻害作用の測定(1):
検体としては、製造例2で得られた植物エタノール抽出物(実施品112〜214)を用いた。測定は試験例1の方法を一部改変して行った。即ち、各検体をエタノールで0.4mg/mLになるように調整し、滅菌済みの試験管にフィルター滅菌しながら500μLずつ分注し、試料とした。また、陽性対照としては、アミノグアニジンを蒸留水で0.4mg/mLになるように調整し、これを滅菌済みの試験管にフィルター滅菌しながら500μLずつ分注したものを用いた。
【0046】
一方、BSAを40mg/mL、D−fructoseを1Mになるように0.4Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)に溶解し、更に、この溶液5容に対し、蒸留水を4容加えた後、フィルターで滅菌処理し、BSA−fructose反応液とした。
【0047】
試験は、上記BSA−fructose反応液を、オートクレーブ滅菌したねじ口試験管に無菌的に900μLずつ分注し、更に試料又は陽性対照を100μLずつ添加した。これらの試験管を遮光下で37℃、7日間反応させた。なお、対照にはエタノールを100μL添加したのみのものを用い、ブランクにはD−fructoseが入っていないBSA溶液を用意した。
【0048】
反応終了後、各試験管に10%トリクロロ酢酸溶液を1mL加えて攪拌し、冷却遠心(4℃、3,000rpm、5分)を行った後、上清をデカントで除去し、更に沈殿を5%トリクロロ酢酸溶液2mLで2回洗浄した。洗浄終了後、沈殿を200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)2mLに溶解した。この溶液200μLを蛍光測定用96穴プレートに移し、蛍光プレートリーダーSPECTRAmax GEMINI XS(モレキュラーデバイス社)を用いて、励起波長350nm、蛍光波長425nmで蛍光を測定し、前述の式1に従いグリケーション阻害率(メイラード反応阻害率)を算出した。得られた結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
( 結 果 )
表4に示した通り、抽出溶媒にエタノールを用いた場合でも、各植物抽出物は何れもAGEの形成を阻害し、グリケーション阻害効果が認められた。また特に、ウィッチヘーゼル(幹)、ウィッチヘーゼル(葉)、ハゴロモソウ、フクギ、ガラナ、甘葉懸鈎子、チャノキ(茎葉)、アグリモニー、サラシア・オブロンガ、メグスリノキは、アミノグアニジンと同等、あるいはそれ以上の値を示し、優れたグリケーション阻害作用を有することが確認された。
【0051】
試 験 例 3
植物エタノール抽出物のグリケーション阻害作用の測定(2):
検体としては、製造例2で得られた実施品のうち、試験例2で効果の高かったウィッチヘーゼル(幹)、ウィッチヘーゼル(葉)、ハゴロモソウ、フクギ、ガラナ、甘葉懸鈎子、チャノキ(茎葉)、アグリモニー、サラシア・オブロンガを用いた。これら検体はエタノールで0.2〜0.002mg/mLになるように調整し、試験に供した。測定は試験例2の方法に従い、グリケーション阻害率及びIC50を算出した。得られた結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
( 結 果 )
表5に示したように、何れの植物抽出物もAGEの形成を阻害し、優れたグリケーション阻害効果を示した。特に、ウィッチヘーゼル(幹)、ウィッチヘーゼル(葉)、ハゴロモソウ、フクギ、ガラナ、甘葉懸鈎子、チャノキ(茎葉)、アグリモニーはアミノグアニジンと同等、あるいはそれ以上の値を示し、低濃度であっても優れたグリケーション阻害作用を有することが確認された。
【0054】
製 造 例 4
ウィッチヘーゼル(幹)熱水抽出物の調製:
ウィッチヘーゼル(刻み乾燥樹皮)50gを量りとり、沸騰水1L中に入れて30分間煮出した。室温に放置して冷ました後、3枚重ねのガーゼで漉し、抽出液を凍結乾燥して、抽出粉末6.8g(収率13.6%)を得た。
【0055】
製 造 例 5
ウィッチヘーゼル(葉)熱水抽出物の調製:
ウィッチヘーゼル(刻み乾燥葉)50gを量りとり、沸騰水1L中に入れて30分間煮出した。室温に放置して冷ました後、3枚重ねのガーゼで漉して、抽出液を凍結乾燥して、抽出粉末7.2g(収率14.4%)を得た。
【0056】
製 造 例 6
ハゴロモソウ熱水抽出物の調製:
ハゴロモソウ(刻み乾燥全草)50gを量りとり、沸騰水1L中に入れて30分間煮出した。室温に放置して冷ました後、3枚重ねのガーゼで漉し、抽出液を凍結乾燥して、抽出粉末10.6g(収率21.2%)を得た。
【0057】
製 造 例 7
ウィッチヘーゼル(幹)エタノール抽出物の調製:
ウィッチヘーゼル(刻み乾燥樹皮)2.5gを量りとり、エタノール50mL中に浸漬し、遮光下で室温1週間放置した。濾紙で漉した後、濾液を100mL容のナスフラスコに入れてロータリーエバポレーターで減圧乾固し、エタノール抽出物230mg(収率9.2%)を得た。
【0058】
製 造 例 8
ウィッチヘーゼル(葉)エタノール抽出物の調製:
ウィッチヘーゼル(刻み乾燥葉)2.5gを量りとり、エタノール50mL中に浸漬し、遮光下で室温1週間放置した。濾紙で漉した後、濾液を100mL容のナスフラスコに入れてロータリーエバポレーターで減圧乾固し、エタノール抽出物360mg(収率14.4%)を得た。
【0059】
製 造 例 9
ハゴロモソウエタノール抽出物の調製:
ハゴロモソウ(刻み乾燥全草)2.5gを量りとり、エタノール50mL中に浸漬し、遮光下で室温1週間放置した。濾紙で漉した後、濾液を100mL容のナスフラスコに入れてロータリーエバポレーターで減圧乾固し、エタノール抽出物160mg(収率6.4%)を得た。
【0060】
製 造 例 10
ラズベリー(果実)熱水抽出物の調製(1):
ラズベリー(生果実)の60gにイオン交換水200mLを加え、常圧下で30分間煮沸して抽出液を得た。次いでこの抽出液を室温まで冷却した後、ろ紙で濾過し、凍結乾燥して熱水抽出物3.14g(収率5.2%)を得た。
【0061】
上記で得られた熱水抽出物について試験例1と同様にグリケーション阻害作用を測定した。その結果、ラズベリー(果実)熱水抽出物のIC50は0.112mg/mlであった。
【0062】
製 造 例 11
ラズベリー(果実)熱水抽出物の調製(2):
ラズベリー(冷凍果実)の57.8gにイオン交換水200mLを加え、常圧下で30分間煮沸して抽出液を得た。次いでこの抽出液を室温まで冷却した後、ろ紙で濾過し、凍結乾燥して熱水抽出物4.8g(収率8.3%)を得た。
【0063】
上記で得られた熱水抽出物について試験例1と同様にグリケーション阻害作用を測定した。その結果、ラズベリー(果実)熱水抽出物のIC50は0.108mg/mlであった。
【0064】
試 験 例 4
動物体内における植物熱水抽出物のグリケーション阻害作用の測定:
検体としては、製造例1で得られたグアバ(葉)熱水抽出物(実施品9)およびワイルドストロベリー(葉)熱水抽出物(実施品17)を用いた。また、動物としては、6週齢の雄性脳卒中易発症高血圧ラット(SHR−SP/Izm)を18匹用いた。ラットは1週間の予備飼育後、コントロール、グアバ(葉)熱水抽出物(GvEx)、ワイルドストロベリー(葉)熱水抽出物(WSEx)投与群の3群(各6匹)に分け、それぞれ、表6の組成の飼料を4週間与えて飼育した。これら各群のラットの1週間ごとの体重と1日あたりの摂餌量を測定した。その結果を図1および図2に示した。
【0065】
4週間飼育後の各群のラットを麻酔した後、放血死させ、胸部大動脈を摘出した。摘出した大動脈を脱脂後、凍結乾燥を行い、細かく破砕した。次いで、これの一定量を取り、プロナーゼで24時間処理した後、上清を回収し、サンプルとした。このサンプルの蛍光強度を励起波長370nm、発光波長430nmで測定し、AGE量を算出した。その結果を図3に示した。なお、蛍光強度とAGE量の関係は、例えば、文献(J. Hypartension, 17(4), 1999., p483, 左段8〜24行目)に記載されている。
【0066】
【表6】

【0067】
( 結 果 )
各群のラットの1週間ごとの体重と1日あたりの摂餌量に有意な差は認められなかった。また、血管中のAGE量はコントロール群と比べWSEx群およびGvEx群の両方で減少していた。
【0068】
以下に本発明によるグリケーション阻害剤の配合例を、典型的な実施例として挙げ説明する。
【0069】
実 施 例 1
乳液:
製造例3により得られた、ウィッチヘーゼル(幹)、ローズマリー、ジュニパーベリー、ヨモギの各植物の植物含水エタノール抽出物を用いて乳液を作成した。
【0070】
(成 分) (質 量 %)
1.スクワラン 5.0
2.オリーブ油 5.0
3.ホホバ油 5.0
4.セチルアルコール 1.5
5.グリセリンモノステアレート 2.0
6.ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル 3.0
7.ポリオキシエチレン(20)ソオルビタンモノオレート 2.0
8.1,3−ブチレングリコール 1.0
9.グリセリン 2.0
10.植物含水エタノール抽出物 5.0
11.香料 適 量
12.防腐剤 適 量
13.精製水 残 部
【0071】
得られた乳液は、使用感にも優れた極めて有用なものであった。
【0072】
実 施 例 2
顆粒浴用剤:
製造例2により得られた、ウィッチヘーゼル(幹)、ローズマリー、ヨモギの各植物の植物エタノール抽出物を用いて顆粒浴用剤を作成した。
【0073】
(成 分) (質 量 %)
1.炭酸水素ナトリウム 60.0
2.無水硫酸ナトリウム 30.0
3.ホウ砂 5.0
4.植物エタノール抽出物 5.0
【0074】
得られた浴用剤は、使用感にも優れた極めて有用なものであった。
【0075】
実 施 例 3
薬剤:
以下に示す薬剤を混和して、その混合物を打錠した。なお、植物抽出物としては試験例3でグリケーション阻害作用を確認した実施品を使用した。
【0076】
(成 分) (1錠当たりの質量(mg))
1.植物抽出物 10
2.乳糖 190
3.バレイショデンプン 39
4.微結晶セルロース 30
5.合成ケイ酸アルミニウム 30
6.ステアリン酸カルシウム 1
【0077】
得られた錠剤は、安定なものであり、服用し易いものであった。
【0078】
実 施 例 4
清涼飲料水:
製造例6で得られたハゴロモソウの熱水抽出物100mgと砂糖5gを炭酸ソーダ水100mLに混合し、清涼飲料水を製造した。
【0079】
得られた清涼飲料は、淡黄色の飲料であり、清涼感のある味も良好なものであった。
【0080】
実 施 例 5
チョコレート:
湯煎で溶かしたミルクチョコレート100gに製造例5で得られたハゴロモソウのエタノール抽出物100mgを添加して、よくかき混ぜた後、型に流し込んで冷やして固めた。
【0081】
得られたチョコレートは、食感も良く、味も良好であり、通常のチョコレートに比べて遜色のないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のグリケーション阻害剤は、高いグリケーション阻害効果を有し、グリケーション或いはグリケーションによって生じる終末糖化物質(AGE)等の蓄積によって引き起こされる、各種組織障害の予防及び治療・改善効果を得ることができるものである。また、本発明のグリケーション阻害剤の有効成分は植物由来のため安全性が高いものである。
【0083】
従って、本発明のグリケーション阻害剤は、医薬品や医薬部外品として使用することができ、また化粧品や飲食品等に配合することができるものである。
以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アグリモニー、アシュワガンダ、アニス、アマチャヅル、甘葉懸鈎子、銀杏、ウイキョウ、ウイッチヘーゼル、ウコン、エキナセア、エゾウコギ、エルダー、エルバ・マテ、オリーブ、オレガノ、オレンジ、柿、カキドオシ、カミツレ、ガラナ、含羞草、菊、ギムネマ、キャッツクロー、キャットニップ、キラウェイ、キンギンカ、グァバ、クコヨウ、くまざさ、クミクスチン、黒大豆、くわ、シナモン、ケツメイシ、ゴーヤ、コーラナッツ、ゴカヒ、ゴツコラ、コリアンダー、コンフリー、サキシマスオウ、サフラワー、サラシア・オブロンガ、サンザシ、サンシチニンジン、しそ、ジュウヤク、ジュニパーベリー、ジンジャー、杉、スギナ、ステビア、スペアミント、セイジ、セイボリー、セイヨウサンザシ、仙▲査▼、タイム、タヒボ、ダンデライオン、チャービル、チャノキ、チャボトケイソウ、チョウジ、デイジー、ディル、トチュウ、ニクズク、南姜、ネトル、白猪母邱、白花蛇舌草、ハゴロモソウ、バジル、ハス、半枝連、ヒース、ピーチ、ヒソップ、びわ、フィーバーフュー、フクギ、藤、プランタゴ・サイリュウム、ブルーベリー、ブルーマロウ、ペニーロイヤル、ベニバナ、ペパーミント、ホップ、ポリジ、ポンドアップル、マシュマロー、マジョラム、マリーゴールド、マレイン、マロウスモール、マロウブルー、ミフクラギ、ミルクシスル、メデゥスイート、モッカ、ヤエヤマ アオキ、ヤクルマギク、ヤローフラワー、ユーカリ、ヨクイニン、ヨモギ、ラズベリー、ラベンダー、リンデン、ルイボス、レモングラス、レモンタイム、レモンバーベナ、レモンバーム、ローズヒップ、ローズピンクバッツ、ローズマリー、ローズレッド、ローレル、羅布麻、ワイルドストロベリーより選ばれる植物を抽出溶媒として有機溶媒または有機溶媒および水を組み合わせたものを用いて抽出された抽出物の1種又は2種以上を含有することを特徴とするグリケーション阻害剤。
【請求項2】
植物が、アグリモニー、ウィッチヘーゼル、甘葉懸鈎子、ハゴロモソウ、チャノキ、サラシア・オブロンガ、ガラナより選ばれるものである請求項第1項記載のグリケーション阻害剤。
【請求項3】
有機溶媒がエタノールである請求項第1項記載のグリケーション阻害剤。
【請求項4】
飲食品用添加剤である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載のグリケーション阻害剤。
【請求項5】
請求項第1項記載のグリケーション阻害剤を含有する組織障害予防・治療剤。
【請求項6】
請求項第1項記載のグリケーション阻害剤を含有する組織障害予防・治療効果を有する飲食品。
【請求項7】
請求項第1項記載のグリケーション阻害剤を含有する組織障害予防・治療効果を有する外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248212(P2010−248212A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134667(P2010−134667)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【分割の表示】特願2004−21332(P2004−21332)の分割
【原出願日】平成16年1月29日(2004.1.29)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】