グリコサミノグリカンの新規な分析方法

【課題】陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーにより、簡便に複数のグリコサミノグリカンを一回の分析で同時に分析できる、効率良い分析方法を提供する。
【解決手段】被検物質であるグリコサミノグリカンを構成単位の二糖類に分解し、その二糖類をグライコブロッティングにより捕捉した後、酸処理することで遊離させ、続けて還元的アミノ化することで蛍光ラベル化したものを陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーを用いて分析すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学、生物学、薬学、創薬、医学等の分野において有用なグリコサミノグリカンの新規な分析方法に関するものである。特に、本発明は、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムによる液体クロマトグラフィーにより、2種以上のグリコサミノグリカンを同時に分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の成分を含む溶液試料の分離分析に、液体クロマトグラフィーが以前より使用されている。その際、疎水性分子の分析には逆相型カラム、親水性分子の分析には順相型カラムが用いられている。しかしながら、生体試料の場合、疎水性分子と親水性分子が混在しており、従って、このような生体試料を分離分析するには、通常、逆相型カラムを装着した装置と順相型カラムを装着した装置2台でそれぞれの分子を分析する必要があったり、或いは逆相型トラップカラムで疎水性分子のみを精製してから逆相型カラムを使って分析したり、逆に順相型トラップカラムで親水性分子のみを精製してから順相型カラムを使って分析する必要があり、分析作業が煩雑になる問題があった(非特許文献1〜3参照)。特に糖鎖分子については分析する方法が限られており、操作が煩雑とされ、以前より、より簡便で有効な分析が求められていた。
【0003】
そのような中、グリコサミノグリカン(GAG)は、主に細胞膜、細胞外基質(ECM)にタンパク質結合型あるいは非結合型として存在する多糖類として知られ、細胞工学、再生医療等の分野で注目されている物質である。その化学構造はウロン酸とへキソサミンからなる基本の二糖構造が繰り返され、種々の程度の硫酸化を受けることがある。構成する二糖類の違いにより、主にコンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類、へパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類、ヒアルロン酸化合物類の3種に分類される。例えば、コンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類はウロン酸(グルクロン酸或いはイズロン酸)(β1→3)N-アセチルガラクトサミン、へパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類はウロン酸(グルクロン酸或いはイズロン酸)(β1→4)N-アセチルグルコサミン、ヒアルロン酸はグルクロン酸(β1→3)N-アセチルグルコサミンの二糖類から構成されている。また、硫酸化修飾の組み合わせにより非常に多様性に富んだ構造を持っている。これらグリコサミノグリカンは、分子サイズの大きさや硫酸化のパターンの違いにより、特徴的な粘弾性に由来する物理化学的性質と様々な機能性タンパク質との相互作用を介する生物的性質を併せ持つ重要な生体物質として知られている。これらグリコサミノグリカンは、通常、二糖単位まで分解し、その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、high performance liquid chromatography)を利用して分離し、吸光度或いは蛍光強度によって分析される。しかしながら、GAGの場合、HPLCにおける分離が不十分であるため、コンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類、へパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類、ヒアルロン酸化合物類の中から、1種類のグリコサミノグリカンだけしか分析ができていなかった(非特許文献4〜8参照)。その他に、LC/MS(liquid chromatography/mass spectrometry)を用いて、HPLCによる分離の後に、多段階タンデム質量分析法(MSn)によって分析する方法も報告されているが、グリコサミノグリカンを構成する二糖類は、実に多くの異性体が存在するため煩雑なMSn解析が必要なこと、また、上述の通り、その二糖類を分離することが困難であることから、コンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類、へパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類、ヒアルロン酸化合物類のいずれか一つに限定して分析しているのが現状であった(非特許文献9〜11参照)。従って、従来技術では精製及び分析の過程において相当な労力が必要であり、複数種のグリコサミノグリカンの定性・定量分析を一度に行う事は困難であった。
【0004】
以上の課題を解決するために、特許文献1において、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーによって、少なくとも2種以上の糖鎖異性体分子及び糖ペプチド異性体分子を同時に分離、分析する技術が示されている、しかしながら、ここでの方法は糖鎖異性体分子或いは糖ペプチド異性体分子を分解させることなく、比較的大きな分子、もしくは高分子量の状態で分析しているものであるため、実際に分離、分析できる試料は限定されるという問題があった。ここで、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーは、例えば両極性を有する生体試料に対し有効な手法と期待されるが、今までのところ、この方法を利用して糖鎖を詳細に分離、分析する方法は見出されていなかった(特許文献2〜4参照)。
【0005】
従来のグリコサミノグリカン二糖分析法では、一般的に逆相イオンペアークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法が用いられるため、多大なイオン化効率の低下を招くなど質量分析計との接続の相性が悪い方法であり、イオン化効率の低下を招くことなく質量分析計と容易に接続できる分離手法は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−93585号公報
【特許文献2】特表2010−509566号公報
【特許文献3】特表2005−536488号公報
【特許文献4】特表2002−537417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Anal. Chem., 75, 5628-5637 (2003)
【非特許文献2】Anal. Chem., 76, 6560-6565 (2004)
【非特許文献3】J. Proteome Res., 3, 556-566 (2004)
【非特許文献4】Anal. Sci., 8, 793-797 (1992)
【非特許文献5】J. Chromatogr. A, 830, 197-201 (1999)
【非特許文献6】Anal. Biochem., 269, 367-378 (1999)
【非特許文献7】J. Biol. Chem., 275, 2269-2275 (2000)
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 284, 25714-25722 (2000)
【非特許文献9】J. Am. Soc. Mass Spectrom., 11, 916-920 (2000)
【非特許文献10】Anal. Chem., 75, 2985-2995 (2003)
【非特許文献11】J. Chromatogr. B, 824, 139-147 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
糖鎖生物学が進歩し、種々の糖鎖化合物を分析する機会が増えているが、従来技術では、分析に時間と労力が必要であった。本発明の目的は、このような課題を解決するためものであり、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーにより、簡便に複数のグリコサミノグリカンを一回の分析で同時に分析できる、効率良い分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、生体由来試料からグリコサミノグリカンを二糖まで分解を行い、最終的に蛍光ラベル化した分析試料とし、両性イオンカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによって、複数のグリコサミノグリカンを1度の分析で同時に分離・分析ができるようになることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。本発明は、簡便性、網羅性において従来法を上回る分析法であり、種々の生体物質に含まれるグリコサミノグリカンの分析を行うことができるようになる。
【0010】
すなわち、本発明は、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーによって、少なくとも2種以上のグリコサミノグリカンを同時に分析することを特徴とした糖鎖分析方法を提供するものである。また、本発明は、その糖鎖分析方法として、被検物質であるグリコサミノグリカンを構成単位の二糖類まで分解させ、その二糖類をグライコブロッティングにより捕捉した後、酸処理することで遊離させ、続けて還元的アミノ化することで蛍光ラベル化したものを分析する方法を提供するものである。本発明は、複数のグリコサミノグリカンを同時に測定するという世界に類のない新規な発想による極めて重要な発明と考えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のグリコサミノグリカンを1度の分析で同時に測定できるようになる。簡便性、網羅性において従来法を上回る分析法であり、種々の生体物質に含まれるグリコサミノグリカンの分析ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で用いたグリコサミノグリカンの種類とそれより得られる構成二糖類及び分析時に用いた内標物質の概要を示す図である。
【図2】実施例1で得られた蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖の調製と両性イオンクロマトグラフィーによる分離、分析例を示す図である。
【図3】実施例2において、培養細胞(NIH/3T3)より得られた蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖の両性イオンクロマトグラフィーによる分離分析例を示す図である。
【図4】実施例3において、培養細胞(CHO, 2 x 106 cell)より得られた蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖の絶対量及び相対量の再現性データを示す図である。
【図5】実施例4において、蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖をLC/MSにより分離・分析を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーによって、少なくとも2種以上のグリコサミノグリカンを同時に分析する方法に関するものである。その際、陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相は、例えば、有機樹脂で構成されるコアの表面に共有結合した多数の非芳香族両性イオン基を有するものであることができる。このような固定相は、例えば、特表2002−529714号公報に記載されている。より具体的には以下に説明する。
【0014】
上記固定相における「有機樹脂」とは、合成あるいは天然由来の有機重合体あるいは共重合体を示し、モノあるいはオリゴビニールモノマーユニットの、例えば、スチレンとその付加誘導体、アクリル酸あるいはメタクリル酸、アルキル アクリレートとメタクリレート、ハイドロキシアルキル アクリレートとメタクリレート、アクリルアミドとメタクリルアミド、ビニルピリジンとその付加誘導体、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アルキレン ジアクリレート、アルキレン ジメタクリレート、オリゴエチレン グリコール ジアクリレートとオリゴエチレン グリコール ジメタクリレートで5ケのエチレン グリコール 繰り返しユニットを持つものまで、アルキレン ビス(アクリルアミド)、ピペリジン ビス(アクリルアミド)、トリメチロールプロパン トリアクリレート、トリメチロールプロパン トリメタクリレート、ペンタエリスリオール トリアクリレートとテトラアクリレート、そして、これらの混合物からなる。また、それは、炭水化物の重合体である、アガロース、セルロース、デキストラン、キトサン、それらの交差結合誘導体であることもできる。このような有機樹脂は固定相のコア(核)となる。
【0015】
「非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)」とは、同じペンダント状基に正と負の電価を同時に持つ、付加されたイオン性の非芳香族官能基に関し、結果としてその使用中の主な条件下で総電荷がないものを言う。この様な基は、バックボーンとなる重合体に直接的に結合されるモノマー単位として存在するか、あるいは、少なくとも部分的に非芳香族両性イオンモノマーユニットからなる直鎖あるいは交差結合した重合体あるいは共重合層で、結果としてバックボーン重合体に結合したペンダント状基のおのおのには多価の非芳香族両性イオン基があるものを言う。
【0016】
非芳香族両性イオン基は、非芳香族イオン基が生体高分子の分離に適用され得る水のpH領域において、解離或いは水素イオン付加平衡を行う事が出来るかによって"強"あるいは"弱"と分類される。非芳香族強イオン基の例としては、スルホン酸や4級アンモニウム基があり、一方弱イオン基の例としてはカルボキシル基やアルキル- あるいはハイドロキシアルキル-アミンがある。強/強 非芳香族両性イオン基の例としてスルホアルキルアンモニオベタイン類、スルホアルキルアルセノベタイン類、ホスホノアルキルアンモニオベタイン類、そしてホスホノアルキルアルセノベタイン類がある。弱/強 非芳香続両性イオンは、一つの強電荷と一つの弱電荷からなり、これは、基が両性イオン性であれば総電荷はゼロであり、或いは、弱イオン基が水素イオン付加しているか、陰イオン基として解離しているか或いは中間の形かで、正か負となる。弱/弱両性イオン基は、例として、a)中性側鎖をアルキルカップリングでα−アミノ基と結合したα−アミノ酸、或いはb)α位保護したアミノ酸で側鎖にある反応基で結合させ、電荷を持たない共有結合を形成し、その後、α−アミノ基を脱保護するものがあり、どちらの場合も、周囲のpHに依存して、正や負あるいは総電荷ゼロの電荷を持つことの出来る両性のペンダント状基を形成する。総電荷ゼロの状態においては、解離性であるか水素イオン付加され得るこれらの基は、反対電荷を一つずつ持つ両性イオンと中性/中性、非両性イオン型の間の平衡状態にある。
【0017】
ビニール系モノマーで強-強非芳香族両性イオン基を共有結合したものの例としては、3-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,4-(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンジメチルアンモニオ)-1-ブタンサルホネート,2-メタクリルオキシエチルホスホリルクロリン,4-[(2-アクリルアミド-2-メチルプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタノエート,および3-[N-デシル,N-(2-メタクリルオキシエチル) N-メチル]アンモニオプロパンサルホネートがある。
【0018】
この様な非芳香族両性イオン基を形成する重合体化モノマーを以下では"両性イオンモノマー(zwitterionic monomer)"と呼ぶ。同様に、非芳香族両性イオン基を形成する多孔性選択吸着体を以下"多孔性両性イオン選択吸着体(porous zwitterionic sorbent)"と呼ぶ。
【0019】
重合体/共重合体の選択は重要ではなく、従って多くの異なった種類の有機樹脂を使ことができる。表面の密な両性イオン官能基によリ提供される静電的なバリアーは、その下にある分離担体が生体高分子と相互作用することを遮蔽する。従って有機樹脂の役目は主に非芳香族両性イオン基の為の安定な分離担体となることである。従って選ばれた有機樹脂が化学的手法を使って結合することが可能な反応基を表面に持っている限り、重合体/共重合体の選択は重要ではない。よって、多くの異なった種類の有機樹脂に対し、非芳香族両性イオン性ペンダント性基を結合することができる。
【0020】
具体的には、非芳香族両性イオンモノマーが、有機樹脂の選択吸着分離担体を構成するモノマーの中の一部として含まれることができ、多孔性の両性イオン吸着体を提供できる。
【0021】
選択吸着分離担体は多孔性である。より特定すれば、その孔の直径は、溶出溶液の全体の流路を与えるために、5〜50nmの範囲であることができ、好ましくは7〜40nmの範囲である。
【0022】
非芳香族両性イオン基は、例えば、グラフト重合法で、非芳香族両性イオン基を持つモノマーが、分離担体の表面に結合される。具体的には、非芳香族両性イオン基が、非芳香族両性イオン基をもつモノマーが架橋モノマーと一緒に重合させられることで、選択吸着分離担体の構造全部を構成することもできる。より具体的には、非芳香族両性イオン基が分離担体にアルキル基の活性化で結合され、そして、それは続いてω−ジアルキルアミノアルキルスルホン酸と反応させ、分離担体上に非芳香族両性イオン基を形成する。表面に結合された非芳香族両性イオンペンダント基が、この分野で知られた反応手法を使い、適切に活性化された選択吸着分離担体上にジアルキルアミン(オプションとしていずれかあるいは両方のアルキル置換基に水酸基を含む)を取り込み、次にアルキルスルホンを反応させることで得られる。ある特定の具体例では、選択吸着分離担体は一体型の多孔性ポリマーである。"非芳香族両性イオン基(zwitterionic non-aromatic group)"とは、一つの同定できるペンダント性基として有機樹脂分離担体に結合された官能基に関し、当該官能基は陰と陽のイオン電荷の両方を持つものとして特徴づけられ、有機樹脂分離担体上に、直接的に、或いは活性化をした後に有機樹脂分離担体上に存在する官能基を覆う反応によるか、或いはそれらの性質を持った官能機を持つモノマーを重合することにより有機樹脂分離担体に結合されたものである。
【0023】
選択吸着分離担体は、その有機樹脂の表面が適切な反応可能な官能基を持つことで活性化されたものであってもよい。そのような官能基としては、エポキシ基、塩化アルキル基あるいは臭化アルキル基のようなハロゲン化アルキル基、および、アミノアルキルスルホン酸のアミノ基をアルキル化できるもので、その反応で選択吸着分離担体上に共有結合した非芳香族両性イオン基を形成する事ができるものを言う。
【0024】
具体例としては、上記の反応の結果できる両性イオン基が、ω−スルホアルキル-トリアルキルアンモニウム(スルホベタイン)基であることで、ここでは、少なくともアンモニア基の一つのアルキル誘導基が選択吸着分離担体に共有結合で結合され、いずれかあるいは両方のアルキル基が水酸基を持つことができることである。
【0025】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムは、上述のZIC(Ziwitterionic Ion Chromatography)カラムであることができ、このカラムは市販品として入手可能である。ZICカラムは、従来は、無機の陰イオンおよび陽イオンや小さな有機分子イオンの分離に使用されていたが、本発明者らの検討の結果、驚くべきことに、分子量が大きい複数のグリコサミノグリカンを容易に分離することができることを見いだした。
【0026】
本発明の方法では、上記カラムに後述するグリコサミノグリカンの構成二糖類を含む試料を供給した後、このカラムに有機溶媒または有機溶媒と水または水溶液の混合物を供給することで、目的分子の分離を行う。
【0027】
有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等を用いることができ、特に、アセトニトリル、メタノールが好ましい。またはこれら有機溶媒は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0028】
有機溶媒と水または水溶液を併用する。水溶液の場合、水溶液の塩濃度やpHを調整することができる。水溶液が塩を含む場合、塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等を用いることができる。特に、質量分析計を検出器として用いる場合には、揮発性の酢酸アンモニウムや炭酸アンモニウム好ましい。また、これら塩は、単独で使用することができるが、2種以上を併用することもできる。
【0029】
有機溶媒と水または水溶液の混合物において、有機溶媒の濃度は例えば、40%以上であることができ、有機溶媒100%を用いることもできる。有機溶媒と水または水溶液の混合物または有機溶媒をカラムに送液し、目的分子を分離する。有機溶媒の濃度を分離分析時間中に、連続的にまたは断続的に変化させることもでき(一般に液体クロマトグラフィーで使用されているグラジエント法)、それにより分離分析の効率を高めることもできる。
【0030】
また、溶液の塩濃度やpH(また、必要に応じて温度も)最適化し、分離の効率(分離時間や分離能)を高めることができる。また、塩濃度やpHを分離分析時間中に連続的にまたは断続的に変化させること(グラジエント法)、分離分析の効率を高めることもできる。また、本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を少なくとも1回同じカラムにリサイクルすることができる。1回のカラム通過では分離が充分でない場合には、少なくとも1回、同じカラムに溶出液をリサイクルすることができる。リサイクルすることで、分離が不十分な2以上の成分の分離を促進することができる。
【0031】
本発明は、かくして得られた陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーを使って、少なくとも2種以上のグリコサミノグリカンを同時に分析することを特徴とするものである。その際、対象となるグリコサミノグリカンは特に限定されるものではないが、コンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類、ヘパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類、ヒアルロン酸化合物類、ケラタン硫酸類等が挙げられる。本発明はグリコサミノグリカンを構成する二糖類に分解した後に分析が行われる。ここで、コンドロイチナーゼABCのようなコンドロイチン硫酸とデルマタン硫酸(CSとDS)及びへパラン硫酸とへパリン(HSとHP)由来の二糖を測定するために、CSとDSを両方切断するような酵素、或いはHSとHPを両方切断するような酵素を使用すると、二糖になるともともとのCSとDSを構成する二糖(量・質)、HSとHPを構成する二糖(量・質)の区別はできなくなる。しかしながら、グリコサミノグリカンを分解する酵素の種類を変えることで、CSとDSを構成する二糖の量・質の区別、HSとHPを構成する二糖単位の量・質の区別がつくようになる。その方法は何ら限定されるものではないが、例えば、上述のコンドロイチナーゼABC(CSとDSを両方切断する酵素)を用いた二糖分析の結果と、コンドロ一ナーゼAC I フラボ or AC II アルスロ(DSは切断せず、CSのみ切断する酵素)を用いた二糖分析の結果やコンドロ一ナーゼ B(CSは切断せずDSのみを切断)を用いた二糖分析の結果を照らし合わせることで、CSを構成する二糖の量・質、DSを構成する二糖の量・質が検討できるようになる。このことは、HSとHPも同様である。本発明であれば、従来技術では極めて煩雑であった分離、分析方法を著しく簡便にしかも効率良く分析できるようになる。本発明においては、これらのグリコサミノグリカンを2種類以上、同時に分析するものであり、そのグリコサミノグリカンの種類、及びその数は3種でも良く、また4種類でも良く、特に限定されるものではない。また、その目的分子であるグリコサミノグリカンの分子量も特に制限はないが、例えば、100から数百万の分子量を有するものが対象となる。
【0032】
本発明は、上述した被検物質であるグリコサミノグリカンを構成単位の二糖類まで分解させ、その二糖類をグライコブロッティングにより捕捉した後、酸処理することで遊離させ、続けて還元的アミノ化することで蛍光ラベル化したものを分析する必要がある。その構成単位の二糖類まで分解する方法については特に限定されないが、通常、コンドロイチナーゼABC (Proteus vulgaris)、コンドロ一ナーゼAC I フラボ (Flavobacterium heparinum)、コンドロ一ナーゼAC II アルスロ(Arthrobacter aurescens)、コンドロ一ナーゼB (Flavobacterium heparinum)、ヘパリナーゼ (Flavobacterium heparinum)、ヘパリチナーゼ (Flavobacterium heparinum)、ヒアルロニダーゼSD (Streptococcus dysgalactiae)、ケラタナーゼ (Pseudomonas sp.)、ケラタナーゼII (Bacillus sp.)等の酵素が利用される。その際の酵素濃度、基質濃度、処理温度、処理時間等の条件は常法に従えば良く特に限定されるものでない。得られた二糖類は必要に応じて、ろ過、ゲルろ過、吸着カラム等を利用して精製しても問題なく、その際の処理条件も何ら限定されるものではない。
【0033】
本発明では、得られたグリコサミノグリカンを構成単位の二糖類に対して蛍光ラベル化する必要がある。その蛍光ラベル化までの工程は何ら限定されるものではないが、例えば当該二糖類に対して直接、蛍光ラベル化する方法、或いは当該二糖類をグライコブロッティング法にてヒドラジド基を有する担体表面に固定し、その後、酸処理を行ないながらこの担体から二糖類を遊離させ、還元末端(ヘミアセタール構造)を有する糖鎖の状態とさせ、引き続き、アミノ基を有する化合物によって還元的アミノ化することで糖鎖の還元末端が開環した状態とさせ、蛍光ラベル化する方法が挙げられる。ここで、グライコブロッティング法とは、ヒドラジド基含有ポリマービーズと糖鎖の還元末端との間をヒドラゾン形成によって糖鎖特異的に結合することを特徴とする糖鎖精製方法であり、糖鎖または糖鎖誘導体を生体試料より、簡単な操作で精製する技術である。その方法を実施するには通常、ヒドラジド基、アミノオキシ基等を有する担体表面が良く用いられ、その担体は再表2008−018170号公報に従って得られるものでも良く、既存のBlotGlyco(住友ベークライト社製)を利用しても良い。捕捉方法は、上述の担体をカラムに充填し二糖類が溶解した液体を通過させても良く、担体を二糖類の溶液中へ投与する方法でも良く、担体があらかじめ充填された反応容器内に二糖類の溶液を連続的に投入して撹拌を行っても良い。捕捉反応の条件は特に限定されるものではなない。
【0034】
本発明では、こうして得られた担体に捕捉された二糖類を酸処理によって遊離させる。その際に利用される酸としては、酢酸、トリフルオロ酢酸、塩酸等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、その際の酸濃度、処理温度、処理時間等の各処理条件は常法に従えば良く特に限定されるものでない。
【0035】
本発明では、その酸処理された二糖類を還元的アミノ化を行う必要がある。その際に利用される還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ボラン・ピリジンコンプレックス、ピコリンボラン等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、その際の還元剤濃度、処理温度、処理時間等の各処理条件は常法に従えば良く特に限定されるものでない。また、その際に利用される蛍光ラベル化剤としては、2−アミノベンズアミド、2−アミノピリジン、2−アミノアクリドン、BIDIPY ヒドラジド、2−アミノベンズヒドラジド等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、蛍光ラベル化剤の代わりに、PMP(1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン)等のようなUVラベル化剤を利用しても良い。また、その際の蛍光/UVラベル化剤濃度、処理温度、処理時間等の各処理条件は常法に従えば良く特に限定されるものでない。かくして、本発明の二糖類は蛍光/UVでラベル化した化合物となる。
【0036】
本発明は、生体由来試料からグリコサミノグリカンを二糖まで分解を行い、その二糖類を蛍光ラベル化したものを分析試料として利用すれば、両性イオンカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーによって、複数のグリコサミノグリカンを1度の分析で同時に分離、分析ができるようになる。
【0037】
分離した分子の分析は、目的分子の種類に応じて適宜の方法を使用することができるが、例えば、質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)を用いることができる。質量分析(MS)及び/または核磁気共鳴(NMR)以外にも、紫外吸光光度計(UV)、エバポレイテイブ光散乱検出器(ELS)、電気化学検出器等を用いることができる。
【0038】
本発明の方法においては、カラムから溶出した分子または分析した分子を、さらに分取することができる。目的分子を分取することで、分取した分子をさらに利用することができる。分取法としては、例えば、フラクションコレクター等を用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0040】
[実施例1]
グライコブロッティング法に従い糖鎖を捕捉した後、HO/酢酸/アセトニトリルによる酸処理(80℃、45min)により糖鎖を遊離させた後、還元的アミノ化反応(60℃、2時間)により2−アミノベンズアミド(蛍光)ラベル化グリコサミノグリカン二糖を得た。両性イオン性カラムは、ZIC-HILIC (2 x 150 mm)を用いた。ZICカラムの固定相は、シリカ表面にN,N−ジメチル−N−メタクリオイルオキシエチル−N −(3−スルホプロピル)アンモニウムベタインを共有結合させたものである。溶離液A(ミリQ水)、溶離液B(アセトニトリル)、溶離液C(200 mM 酢酸アンモニウム)を用い、A/B/C=5/90/5(0 min)→ A/B/C=13/82/5(20 min)→A/B/C=35/60/5(60 min)のグラジエント溶出法を用いた。流速は0.2 mL/minで一定であり、カラムオーブンによりカラム温度は30℃に保った。蛍光検出は、励起波長 330 nm、蛍光波長 420nmで測定した。図2に蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖を精製・調製する方法と、両性イオンカラムを用いた分離例を示す。その際、グリコサミノグリカン二糖として、図1で示した既知の18種の化合物(定量分析のための内標物質;イソマルトトリオースを含む)を用いた。この結果から、コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸、へパラン硫酸/へパリン、ヒアルロン酸の三種のグリコサミノグリカン二糖を分離させられることが分かった。
【0041】
[実施例2]
NIH/3T3(マウス線維芽細胞様細胞株)の細胞ペレット(1 x 106cell)を500μLのクロロホルム/メタノール比率が2/1, 1/1, 1/2の順に超音波処理・遠心分離を行い脱脂した後、プロナーゼによるタンパク質の消化を37℃で12時間行った。その後、終濃度が80%エタノール/5%酢酸ナトリウムになるように試料を調製し、4℃で2時間静置した。その後、遠心処理によりペレットを回収した。回収したペレットを、各5mUのコンドロイチナーゼABC(Proteus vulgaris)、ヘパリナーゼ(Flavobacterium heparinum)、ヘパリチナーゼ(Flavobacterium heparinum)、ヒアルロニダーゼSD(Streptococcus dysgalactiae)により、グリコサミノグリカンを分解した。その後、内部標準物質を加え、上述のグライコブロッティング法による精製と還元的アミノ化による蛍光ラベル化を行い、ZIC-HILICカラムにより分離・分析を行った。図3に培養細胞NIH/3T3(1 x 106 cell)より調製した蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖を本方法により分析した結果を示す。この結果から、培養細胞など複雑な生体試料に含まれる微量なコンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸、へパラン硫酸/へパリン、ヒアルロン酸の三種グリコサミノグリカン二糖を分離、分析できることが分かった。
【0042】
[実施例3]
図4に、上述と同様の実験操作により、培養細胞CHO-K1(チャイニーズハムスター由来上皮性細胞株)の細胞ペレット(2x106cell)に含まれるグリコサミノグリカン二糖分析を繰り返し行い、得られたデータの再現性例を示した。絶対量は添加した内標の量から見積もった。この結果から、培養細胞に含まれるグリコサミノグリカンの絶対量及び相対量ともに良い再現性を示すことが分かった。
【0043】
[実施例4]
図1の既知物質から蛍光ラベル化グリコサミノグリカン二糖を調製し、約10 pmolのサンプルをZIC-HILICカラムに導入し、分離液を直接ESI−MSに接続し、負イオンモードでの測定を行った。図5に、図1に示した既知物質を蛍光ラベル化したグリコサミノグリカン二糖をLC/MSで分析したマススペクトルの一部を示した。従来のグリコサミノグリカン二糖分析法では、一般的に逆相イオンペアークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法が用いられるため、多大なイオン化効率の低下を招くなど質量分析計との接続の相性が悪い方法であったが、本分析法では高濃度の有機溶媒(75%程度のアセトニトリル水溶液)、また揮発性かつ低濃度の塩溶媒(10 mM程度の酢酸アンモニウム)でHPLCの分離が可能であるため、質量分析計との接続も容易であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、複数のグリコサミノグリカンを1度の分析で同時に測定できるようになる。簡便性、網羅性において従来法を上回る分析法であり、種々の生体物質に含まれるグリコサミノグリカンの分析ができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン及び陽イオン交換基を有する固定相を用いたカラムを利用した高速液体クロマトグラフィーによって、少なくとも2種以上のグリコサミノグリカンを同時に分析することを特徴とした糖鎖分析方法。
【請求項2】
グリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸或いはデルマタン硫酸からなる化合物類、ヘパラン硫酸或いはヘパリンからなる化合物類、ヒアルロン酸化合物類、ケラタン硫酸類のいずれかである、請求項1記載の糖鎖分析方法。
【請求項3】
陰イオン交換基が4級アンモニウム基である、請求項1、2のいずれか1項記載の糖鎖分析方法。
【請求項4】
陽イオン交換基が硫酸基、及び/またはリン酸基である、請求項1〜3のいずれか1項記載の糖鎖分析方法。
【請求項5】
糖鎖分析が、被検物質であるグリコサミノグリカンを構成単位の二糖類に分解し、その二糖類をグライコブロッティングにより捕捉した後、酸処理することで遊離させ、続けて還元的アミノ化することで蛍光ラベル化したものを分析する方法である、請求項1〜4のいずれか1項記載の糖鎖分析方法。
【請求項6】
蛍光試薬が、2−アミノベンズアミド、2−アミノピリジン、2−アミノアクリドンのいずれか1つ以上のものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の糖鎖分析方法。
【請求項7】
請求項1〜6の方法に従い当該糖質を分析した後に、続けて質量分析を行う、請求項1〜6のいずれか1項記載の糖鎖分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−108056(P2012−108056A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258385(P2010−258385)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】