グリコサミノグリカンの減容抽出方法およびプロテオグリカン含有沈殿生成方法
【課題】作業性を高め、効率的にグリコサミノグリカンやプロテオグリカンを分離抽出する技術を提供する。
【解決手段】生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させる、グリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【解決手段】生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させる、グリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカンの減容抽出方法およびプロテオグリカン含有沈殿生成方法に関し、特に、抽出効率を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカン(以降、必要に応じてGAGと適宜表記するものとする)はムコ多糖とも称され、コアプロテインに結合したものはプロテオグリカンと称される。プロテオグリカンはコラーゲンなどと共に細胞外マトリックスや細胞表面に広く存在している。
【0003】
近年、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンは、健康食品分野、化粧品分野、および、医療分野で注目されてきている物質であり、その抽出技術や精製技術が開発されつつある。
【0004】
しかしながら、グリコサミノグリカンの含有量は、生物や部位によっても異なるが、鯖頭では0.1wt%〜0.05wt%、カラスカレイの皮では0.1wt%〜0.05wt%、イカ軟骨0.4wt%〜0.2wt%、豚皮では0.3wt%〜0.2wt%、イカ皮では約0.2wt%、臍帯では約0.3wt%、豚小腸では0.2wt%〜0.1wt%である。いずれにせよ、一般的には生体組織の0.05wt%〜0.4wt%の割合しか存在しないため、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンの効率的な抽出方法が模索されている。ただし、鮭の鼻軟骨部分は、3wt%と特異的に含有量が多い。
【0005】
たとえば、効率化を図るため、その含有率の高い原料、具体的には、牛や魚の軟骨を原料とする方法が知られている。そして、その処理方方法としては、基本的にアルカリ処理による抽出工程とエタノール添加による沈殿工程を経て、必要に応じて再精製をおこなうものである(特許文献2,3)。また、プロテオグリカンについては、酸処理により抽出し、精製する技術も開発されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平2001−172296号
【特許文献2】特許第3448710号
【特許文献3】特開2002−69097号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
グリコサミノグリカンにしてもプロテオグリカンにしても、最終的にはエタノール等により沈殿させ、この沈殿から適宜再精製をおこない、純度を高める。
【0008】
ここで、エタノールによる沈殿処理は、一般的に、対象溶液(グリコサミノグリカンが溶解した抽出液)の2倍〜3倍の添加量が必要とされている。このとき、たとえば、原材料を酸処理もしくはアルカリ処理により抽出する場合にあっては、原材料の重量もしくは体積の3倍量〜10倍量の酸もしくはアルカリの添加が必要であるため、沈殿処理の際に必要なエタノール量は、原材料を基準とすると6倍量〜30倍量となり、重畳的に増加してしまうという問題点があった。また、エタノールは安価ではないため、極力使用量を抑えたいという要請も存在する。
【0009】
加えて、グリコサミノグリカンやプロテオグリカンは、もともと含有率が低いため、沈殿には他のタンパク質やアミノ酸などが混在し、再精製(後工程)の段階で更に分離等の複数工程が必要となるという問題点もあった。すなわち、従来では沈殿効率が悪いという問題点や後工程が複雑であって、結局のところ精製効率が悪いという問題点があった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、作業性を高め効率的にグリコサミノグリカンやプロテオグリカンを分離抽出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、中間沈殿を生成させ、これからグリコサミノグリカンを再抽出するため、その後添加すべきエタノール等を大幅に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は概ね原料の1/2程度以下に減容することが可能となる。
【0013】
原料(生体由来の組織)をアルカリ処理して、これから直ちにエタノール添加により沈殿を生成する従来法の場合には、原料中に多様なタンパク質が絡み合って存在しているため、アルカリ量は必然的に多く添加する必要があり、たとえば、原料重量または体積の5倍量以上を添加して処理し、この液量の2倍量〜3倍量のエタノール、すなわち、原料からすると10倍量〜15倍量以上のエタノールが必要になる。
【0014】
一方、中間沈殿からグリコサミノグリカンを精製する場合には、いわば一旦篩にかけられているので処理効率が向上し、中間沈殿の重量または体積の2倍量〜3倍量の処理液(請求項1に係る発明の場合には、無機塩が溶解した酸性水溶液)を添加すればよい。したがって、原料体積の半分以下となっている沈殿量に対して2倍量〜3倍量の液量が基準となり、これに2倍量〜3倍量のエタノールを添加すればよいので、原料からすると2倍量〜5倍量程度のエタノールを添加すれば精製が可能となる。加えて、pHを調整してあるので塩の作用により極めて効率よくグリコサミノグリカンを遊離ないし抽出可能となり、精製効率も著しく向上する。
【0015】
なお、生体由来の組織とは、動物由来のものであって、処理効率を高めるために適宜ミンチ状に前処理されていることが好ましい。アルカリ性水溶液を添加するとは、アルカリ処理をするということであり、酸性水溶液を添加するとは、酸処理をするということができる。アルカリ性水溶液の例としてはNaOH、Ca(OH)2、Ba(OH)2、KOH、Mg(OH)2などの水溶液を挙げることができる。酸性水溶液の例としては、酢酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、硫酸などの水溶液を挙げることができる。このほか、クエン酸、ヒドロキシクエン酸、ガラクツロン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、フマル酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸の水溶液を挙げることができる。なお、アルカリ濃度や酸濃度、またその添加量は適宜調整可能である。また、処理時間や抽出時間や温度も適宜調整されるものとする。また、中間沈殿を生成した後など必要に応じて遠心分離またはろ過するものとする。
【0016】
また、無機塩を含むとは、無機塩が溶解しているという意味であり、また、略同じpHに調整した酸性水溶液とは、pHの差が大きくない、たとえば、pHが7に近いような弱酸であっては0.5も相違せず、pHが3に近いようなところでは、1〜2も相違しないことをいう。
【0017】
また、請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで酸性タンパク質を添加した後に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0018】
すなわち、請求項2に係る発明は、生体組織由来のいわば内在性タンパク質を分解した後にグリコサミノグリカンが結合ないし付着しやすいタンパク質を利用して沈殿させることにより、請求項1に係る発明より中間沈殿を更に減容する。これにより、その後に必要なエタノール等を更に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は概ね原料の1/3程度以下に減容することが可能となる。
【0019】
なお、プロテアーゼを添加する際には適宜至適条件でおこなうものとし、反応時間や失活処理は適宜おこなわれるものとする。また、プロテアーゼ処理後や中間沈殿の生成後などには必要に応じて遠心分離または濾過するものとする。また、略同じpHに調整した酸性水溶液とは、pHの差が大きくない、たとえば、pHが7に近いような弱酸であっては0.5も相違せず、pHが3に近いようなところでは、1〜2も相違しないことをいう。
【0020】
また、請求項3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、酸性タンパク質が、大豆タンパク質、カゼイン、アルブミン、または、グルテンであることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項3に係る発明は、グリコサミノグリカンを効率的に沈殿させるタンパクを用いる方法を提供可能となる。
【0022】
また、請求項4に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1、2または3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、酸性水溶液を添加した後のpHを5以下とすることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項4に係る発明は、多数の硫酸基とカルボキシル基を有して強く負に帯電しているグリコサミノグリカンを効率的に沈殿させることが可能となる。
【0024】
また、請求項5に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、グリコサミノグリカンの減容抽出方法において、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項5に係る発明は、生体組織由来のいわば内在性タンパク質を分解した後にグリコサミノグリカンが結合ないし付着しやすいタンパク質を利用して沈殿させ、pHを調整することなくグリコサミノグリカンを再抽出できるため、請求項1に係る発明より中間沈殿を更に減容し、かつ、簡便にグリコサミノグリカンを再抽出可能となる。これにより、簡便な前処理を経て、その後に必要なエタノール等を更に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は原料の1/25程度以下に減容することが可能となる。なお、塩基性タンパク質を添加する前に、pH調整をして沈殿を生成させ、これを一旦除去する工程を適宜加えてもよい。
【0026】
なお、プロテアーゼを添加する際には適宜至適条件でおこなうものとし、反応時間や失活処理は適宜おこなわれるものとする。また、プロテアーゼ処理後や中間沈殿の生成後などには必要に応じて遠心分離またはろ過するものとする。
【0027】
また、請求項6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して弱酸性の段階で生成する一次沈殿を取り除き、残液に塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0028】
すなわち、請求項6に係る発明は、原料に対する中間沈殿の量を1/40以下と劇的に減容でき、その後に必要なエタノール等を極めて少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となると共に、至適条件の調整が不要であり、作業効率を向上させることが可能となる。なお、無機塩を含んだ水溶液は酸性であることが好ましい。
【0029】
また、請求項7に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項5または6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、塩基性タンパク質が、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、または、ヒストンであることを特徴とする。
【0030】
すなわち、請求項7に係る発明は、グリコサミノグリカンを効率的に沈殿させるタンパクを用いる方法を提供可能となる。
【0031】
また、請求項8に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1〜7のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、無機塩が、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2であることを特徴とする。
【0032】
すなわち、請求項8に係る発明は、安価な原料により経済的に処理をおこなうことが可能となる。また、無機塩であることにより、有機物を使用する場合に比して等電点の変動やグリコサミノグリカンの変質、不純物(雑分)の混入を抑制可能となる。このほか、Na2SO4、K2SO4、MgSO4、または、CaSO4を用いても良い。なお、添加量については、酸性水溶液の場合には10wt%以上であることが好ましく、塩基性タンパク質を用いる場合には、5wt%以上の濃度であることが好ましい。
【0033】
また、請求項9に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、生体由来の組織を、魚の下ごしらえの際に発生する残渣としたことを特徴とする。
【0034】
すなわち、請求項9に係る発明は、水産加工場において廃棄される魚の頭部、内臓、皮、骨を原料とするので残渣削減のみならず有価物を抽出可能となる。また、BSE問題により敬遠されがちな牛を原料としないため、需要者志向にも適合する。
【0035】
また、請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法は、魚の軟骨に酸性水溶液を添加してプロテオグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に塩基性タンパク質を添加することによりプロテオグリカンを含む沈殿を得ることを特徴とする。
【0036】
すなわち、請求項10に係る発明は、中間沈殿を生成してプロテオグリカンを効率的に抽出可能にする。
【0037】
また、請求項11に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法は、請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法において、生体由来の組織が、サケの鼻軟骨であることを特徴とする。
【0038】
すなわち、請求項11に係る発明は、特異的に大きく発達しかつプロテオグリカンの含有量も特異的に多い(約3wt%)鮭の鼻軟骨を原料とするため、効率的なプロテオグリカンの精製が可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、作業性を高め効率的にグリコサミノグリカンやプロテオグリカンを分離抽出する技術を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。実施の形態1では、グリコサミノグリカンを抽出、精製する技術について説明し、実施の形態2では、プロテオグリカンを抽出する技術について説明する。
【0041】
〔実施の形態1〕
<実験例1>
実験例1では、鯖頭部を原料としてグリコサミノグリカンを抽出する方法について説明する。
まず、鯖頭670gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、3リットルの0.5M(mol/リットル以下同じ。)のNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとり、この濾しとったアルカリ抽出液に、酢酸を最終濃度が5vol%となるまで添加して、複合沈殿を生成した。この沈殿を遠心分離して350gの中間沈殿を回収した。
【0042】
中間沈殿に、10wt%のNaClを含み、先の酸処理と同様の5vol%の酢酸溶液400mlを添加し、グリコサミノグリカンを液体側に抽出した(なお、この抽出液には一部コアタンパク質を伴ったプロテオグリカンも存在すると考えられるが以降では特に断らない限りグリコサミノグリカンとして評価するものとする)。
【0043】
次に再精製をおこなった。具体的には、グリコサミノグリカンの抽出された液に、2倍量のエタノール800mlを添加して、4℃で一夜放置して沈殿を生成させた。得られた沈殿を遠心分離により回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に590mgの固形物を得た。
【0044】
グリコサミノグリカンは、ウロン酸とアミノ糖の二糖の繰り返し構造からなり、ウロン酸の約2倍〜3倍がグリコサミノグリカンの重さとなる。ウロン酸重量は簡便に測定できるため、ウロン酸重量をもってグリコサミノグリカンの精製評価をおこなうこととした。回収された590mgの固形物の中のウロン酸量は246mgであった。したがって、回収された590mgの固形物はほぼグリコサミノグリカンからなると評価できた。
【0045】
なお、再精製重量(590mg)は、中間沈殿量(350g)のおよそ0.17wt%となっている。これは、原料中に存在するグリコサミノグリカンが0.05wt%〜0.1wt%であることを考えると、単純には2倍〜3倍に精製効率が上昇したといえる。
【0046】
しかしながら、中間沈殿を生成させる場合には、従来法に比べて、次のメリットも生じる。
まず、従来法では、原料(670g)に添加した約5倍量のアルカリ水溶液(3リットル)に対して2倍量のエタノール添加、すなわち、6リットルのエタノール添加が必要とされるところ、本方法では、中間沈殿(350g)の減容効果に伴い、もともと添加すべき酸性水溶液を約半分にできるだけでなく、いわば一次精製されているため、沈殿と略同量(400ml)の酸性水溶液を添加すれば再抽出が可能となる。すなわち、この抽出液に対して2倍量のエタノール添加、すなわち、800mlのエタノール添加で十分となる。したがって、本方法では従来法に比してエタノール量を1/7にできる。
次に、従来法では、他のタンパク質も沈殿し、雑多な沈殿の中から、更に精製処理を経る必要がある。しかしながら、本方法では、pHを沈殿生成時と同じくして再抽出をおこなっているため、目的外の雑成分が混入しにくく、上述したように従来法のような更なる精製処理は不要となる。
【0047】
よって、実験例1に示したように、中間沈殿を生成すると、重畳的に精製効率が上昇するといえる。
【0048】
<実験例2>
次に、中間沈殿中に取り込まれるグリコサミノグリカンのpH依存性について調べた。
まず、鯖頭をミンチ状にして10gをとりわけ、これに、100mlの0.5NのNaOH水溶液を添加して、16時間冷蔵して抽出をおこなった。
次いで、固形分を濾過し、遠心分離により上澄みを取り分けた。この上澄みに酢酸を滴下していき、沈殿量の変化を調べた。鯖頭100gあたりに換算した沈殿量とpHとの関係を図1に示す。図示したように酸性になると急激に沈殿が生じることが確認できた。pHが4以下であると沈殿量に変化がほとんど生じず30mg程度の中間沈殿が生じることが確認できるため、減容効果は約1/3といえる。
【0049】
次に、各pHにおいてNaClを10wt%溶解した溶液で中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出したものを、ウロン酸を指標にして鯖頭100gからの抽出量として比較した。図2に結果を示す。なお、各pHにおける左側の棒グラフは、アルカリ抽出液に酢酸を順次滴下し中間沈殿を生成させる際の各pHにおける上澄みに残存しているグリコサミノグリカンをウロン酸を指標にしたものである。
【0050】
図から明らかなように、pHが5以下であれば、グリコサミノグリカンは沈殿に多く含まれるようになり、特にpHが4以下であれば、ほぼ中間沈殿側に移ることが確認できる。
【0051】
実験例1および実験例2から、中間沈殿により後の精製を含めて処理効率を向上させることが可能であることを確認でき、また、グリコサミノグリカンをほぼ抽出・精製できることが分かった。また、グリコサミノグリカンは、pHが小さくないと沈殿しないタンパク質に結合または付着する性質を有することを確認できた。なお、グリコサミノグリカンそのものは酸性水溶液では沈殿しないため、タンパク質に結合または付着させて選択的に抽出する技術は画期的であるといえる。
【0052】
<実験例3>
実験例1および実験例2をふまえて、より処理効率を向上させることを検討した。実験例1では中間沈殿は原料の1/2となるものの、いまだ沈殿量は多い。そこで、抽出されたタンパク質等をプロテアーゼで分解して、その後、酸性タンパク質を添加し、これにプロテオグリカンを結合ないし付着させて沈殿させることを試みた。
【0053】
まず、鯖頭150gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、750mlの0.5MのNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとり、アルカリ抽出液700mlを得た。このアルカリ抽出液を酢酸により中和し、そこから100mlを分けとり、アクチナーゼE(純正化学社製)を100mg添加して、60℃で24時間インキュベーションしタンパク質分解をおこなった。この反応液を100℃で10分間処理しプロテアーゼを失活させ、遠心分離により上澄みを分離した。
【0054】
この上清7mlに、大豆タンパク質(和光純薬社製)87.5mg(予め0.1NのNaOH水溶液2.5mlに溶解させたもの)を添加して攪拌し、30分間放置した。その後、酢酸500μlを添加して複合沈殿を生成させ、更に30分間放置した。これを遠心分離し、中間沈殿495mgを回収した。この沈殿に10%NaClを含む5%酢酸溶液3mlを添加してグリコサミノグリカンを再抽出した。
【0055】
この抽出液に2倍量のエタノールを添加して、4℃で一夜放置後、遠心分離で沈殿を回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に2.7mgの固形物を得た。この固形物のウロン酸含量を測定したところ812μgであったため、得られた固形物はほぼグリコサミノグリカンからなると評価できた。
【0056】
なお、再精製重量(2.7mg)は、中間沈殿(495mg)のおよそ0.55wt%となっている。よって、精製効率としては、従来法より6倍〜11倍上昇したといえる。
【0057】
またこの場合は、中間沈殿(495mg)は換算原料(150g×(100/700)×(7/100)=1.5g)の約1/3となっているため、実験例1より更に効率的な抽出が実現できているといえる。また、プロテアーゼでタンパク質分解をしているため、その後添加するエタノールによる沈殿の際に、雑分の沈殿を抑制できるという効果も奏する。
【0058】
<実験例4>
次に、大豆タンパク質以外の酸性タンパク質の種類を検討することとした。ここでは、カゼイン(等電点:pH=約4.6、和光純薬社製)、卵アルブミン(等電点:pH=約4.7。以降では適宜アルブミンと表記する。)、グルテン(等電点:pH=約4〜5、和光純薬社製)、ゼラチン(等電点:pH=約4.5〜7、和光純薬社製)を検討した。なお、大豆タンパク質(和光純薬社製)の等電点はpH=4.2〜4.5である。また、参考のため、塩基性タンパク質も検討した。塩基性タンパク質としてはプロタミン(等電点:pH=約10〜12)を用いた。
【0059】
実験例3と同様な酵素分解処理をした後、不溶物を除去した上澄みに同量(1mg)のタンパク質をそれぞれ添加して中間沈殿を得、10%NaClを含む酢酸水溶液でグリコサミノグリカンを抽出し、エタノール処理した後のウロン酸量を測定した。結果を図3に示す。なお、図では、タンパク質を添加しなかった場合の結果もあわせて表示した。
【0060】
図から明らかなように、カゼイン、大豆タンパク質、アルブミン、グルテン等の酸性タンパク質を添加すると、グリコサミノグリカンを共に沈殿させる作用があることを確認した。このうち、特に大豆タンパク質とアルブミンが沈殿効率が高いことが確認できた。
【0061】
また、タンパク質を添加しない場合には沈殿が生じず、結果として、プロテアーゼ処理によりタンパク質がきちんと分解されていること、グリコサミノグリカンは、酸性溶液中で単独では沈殿しないことが確認できた。なお、タンパク質が分解されていることは、雑分が混ざることなく添加タンパク質により沈殿が生じ、精製効率を高めることにつながる。
【0062】
驚くべきは、塩基性タンパク質であるプロタミンを添加した場合に、酸性タンパク質中で最も抽出効率の高かった大豆タンパク質よりもグリコサミノグリカンの抽出量が高かった点である。よって、以降では、まず、プロタミンを添加する場合の酵素処理の有無と至適pHの検討(実験例5,6)、プロタミンと他の塩基性タンパク質との抽出効率の比較(実験例7)、最適条件下における酸性タンパク質と塩基性タンパク質を用いた抽出効率の比較(実験例9)をおこなうこととした。
【0063】
<実験例5>
実験例5では、アルカリ抽出液をプロテアーゼ処理した後に失活させ(pHを調製して一旦沈殿を除去し)、その後プロタミンを添加し、得られた中間沈殿からグリコサミノグリカンを抽出し、これをウロン酸量により評価した。図4は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図5は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量とpHとの関係を示した図である。
【0064】
図4や図5から明らかなように、プロタミンを添加する場合には、pHに関係なく中間沈殿が同程度に生じ、再抽出されるウロン酸も同程度であることが分かった。したがって、プロタミンを添加する場合には、pHコントロールが不要であることを示しており、操作性を高めることができることが分かった。特に、中間沈殿の量が1/40〜1/130となり、その後添加するエタノールを劇的に少なくできることが確認できた。
【0065】
<実験例6>
次に、プロテアーゼ処理することなくプロタミン添加した場合のグリコサミノグリカンの抽出結果を検討することとした。実験例2のようにアルカリ抽出液に酢酸を添加していき、酸性となると多くの沈殿が発生すること、および、プロタミン添加の場合には実験例5の結果からpHに依存しにくいことから、pHが大きい場合(pH≧6)の検討をおこなうこととした。図6は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図7は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量とpHとの関係を示した図である。
【0066】
まず、図6と図4を比べて分かるように、プロテアーゼ処理した方が中間沈殿が少なくなることが分かった。また、一般的な傾向として同じアルカリ性であってもpHが小さくなるほどグリコサミノグリカンの再抽出量が多くなることが分かった。
【0067】
実験例5および実験例6から、プロタミンはプロテアーゼ処理した後に添加すると、減容効果が極めて高く、また、pH調製が不要であり、操作性を高めることが分かった。
【0068】
<実験例7>
次に、プロタミン以外の塩基性タンパク質の検討をおこなった。実験は、鯖頭のアルカリ抽出液を至適条件(至適pHおよび至適温度)においてプロテアーゼ(アクチナーゼE)処理し、失活させた後に、不溶物を除去した上澄みに種々の塩基性タンパク質を添加して中間沈殿を生成させた。その後、この中間沈殿から10%NaCl水によりグリコサミノグリカンを抽出し、ウロン酸量を測定した。用いた塩基性タンパク質は、ポリアルギニン(等電点:pH=10.8、MPバイオメディカル社製)、ポリリジン(等電点:pH=9.8、和光純薬社製)、ヒストン(等電点:pH=約11、MPバイオメディカル社製)、リゾチーム(等電点:pH=約11、和光純薬社製)、なお、添加重量は同量とした。
【0069】
図8は、鯖頭40mgから得られた中間沈殿の量である。図9は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量を比較した図である。
【0070】
図8に示したように、いずれも塩基性タンパク質の添加により中間沈殿が生じ、酸性タンパク質の添加の場合に比して中間沈殿を更に少なくできることが確認できた。また、図9に示したように、概ね同程度のグリコサミノグリカンの抽出が可能となることが確認できた。
【0071】
<実験例8>
次に、無機塩の種類と濃度を変える実験をおこなった。
実験は、まず、実験例1と同様の方法で鯖頭のアルカリ抽出液を酢酸処理して中間沈殿を生成し、これに中間沈殿生成時と同pH(概ねpH=3.5)の溶液であって、所定濃度の無機塩(NaCl,KCl、MgCl2,CaCl2)水溶液によりグリコサミノグリカンを抽出した。
【0072】
鯖頭100gあたりのウロン酸量に換算したグリコサミノグリカンの抽出量と無機塩濃度との関係を図10に示す。図から明らかなように、無機塩の種類にほとんど依存せず、概ね10wt%濃度で抽出量が一定となることが確認できた。
【0073】
次に、実験例3でプロタミンを用いた場合と同様にして、鯖頭のアルカリ抽出液をプロテアーゼ処理し、不溶物を除去した上澄みにプロタミンを用いて中間沈殿を生じさせ、これに中間沈殿生成時と同pH(アクチナーゼEを用いたため、概ねpH=7)の溶液であって、所定濃度の無機塩(NaCl,KCl、MgCl2,CaCl2)水溶液によりグリコサミノグリカンを抽出した。
【0074】
鯖頭100gあたりのウロン酸量に換算したグリコサミノグリカンの抽出量と無機塩濃度との関係を図11に示す。図から明らかなように、無機塩の種類にほとんど依存せず、概ね5wt%濃度で抽出量が一定となることが確認できた。
【0075】
<実験例9>
次に、大豆タンパク質、アルブミン、プロタミンについて、最適条件にてグリコサミノグリカンを最大限抽出した場合の抽出効率を検討した。すなわち、アルカリ抽出液をプロテアーゼ処理し、不溶物を除去した上澄みに、タンパク質を最適添加量を添加し、大豆タンパク質およびアルブミンについては至適pHにて中間沈殿を生成せしめて回収し、プロタミンに関しては添加による中間沈殿を回収し、沈殿時のpHにて10%NaCl溶液を用いてグリコサミノグリカンを再抽出した。図12は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図13は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量を比較した図である。
【0076】
図13では、最適条件ではグリコサミノグリカンの精製量は同レベルということができるが、図12の中間沈殿を見ると、明らかに塩基性タンパク質であるプロタミンを添加した方が添加量が少なくて済み、また、中間沈殿生成量も少なく、効率的であることが確認できる。
【0077】
以上、実験例4〜9の結果より、プロテアーゼ処理する場合には、塩基性タンパク質を添加するとpH調製をしなくても沈殿が生じ、その添加量も酸性タンパク質を用いた場合よりも少なくて済み、かつ、中間沈殿の生成量も少ないため効率的であるということが確認できた。
【0078】
<実験例10>
プロテアーゼ処理をする場合には、pH調製、温度調整、処理時間の調整、失活処理が必要となる。よって、プロテアーゼ処理よりも簡便な中間沈殿低減方法を模索することとした。図2に示したように、グリコサミノグリカンは、強酸雰囲気下で沈殿するタンパク質に付着ないし結合していると考えられる。したがって、弱酸性と強酸性との二段階で中間沈殿を生成させることとした。
【0079】
まず、鯖頭50gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、250mlの0.5MのNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとりアルカリ抽出液240mlを得た。このアルカリ抽出液24mlをとりわけ、酢酸を添加してpH5.8とし、弱酸性の段階で一旦、沈殿を生成させた。遠心分離により固体部分を除去し、プロタミン62.5mgを蒸留水1mlに溶解した液を加えて、中間沈殿を生ぜしめ、30分間室温で放置した。再度遠心分離して中間沈殿113mgを回収した。
【0080】
中間沈殿に、10wt%のNaClを含み、5vol%の酢酸溶液5mlを添加し、グリコサミノグリカンを液体側に抽出した。
【0081】
次に再精製をおこなった。すなわち、2倍量のエタノール10mlを添加し、4℃で一夜放置して沈殿を生成させた。得られた沈殿を遠心分離により回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に5.6mgの固形物を得た。ウロン酸を測定したところ、1.6mgであった。
【0082】
なお、グリコサミノグリカンを含有する中間沈殿は113mgであり、原料は50×24/240=5gなので、減容効果は、およそ1/44である。したがって、本方法はプロテアーゼによる減容効果と同程度の減容が可能となり、実質的には、操作性を向上させる方法であるといえる。
【0083】
なお、以上の例では、鯖頭部を用いる例について説明したが、これに限らず、グリコサミノグリカンはその含有量は少ないものの、生物組織に普遍的に存在する。したがって、水産物加工場でこれまで、残渣として廃棄等していた、頭部、骨、皮、内臓を用いて、有価物を製造できる方法を提供可能になったといえる。
【0084】
〔実施の形態2〕
次に、プロテオグリカンを減容抽出する方法について説明する。これまでの実験例で、プロタミンに代表される塩基性タンパク質は、グリコサミノグリカンの抽出に有効であることが分かった。そこで、グリコサミノグリカンがコアタンパク質に結合して存在していることから、プロタミンを用いてプロテオグリカンを効率的に抽出することとした。ここでは、抽出実績のある鮭の鼻軟骨を用いることとした。
【0085】
<実施例11>
まず、鮭鼻軟骨16.3gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、80mlの5%酢酸を添加し二昼夜抽出した。固液分離をおこなったところ、無色透明な酢酸抽出液67mlが得られた。この抽出液6.7mlにプロタミン16.8mgを添加して攪拌したところ複合沈殿が得られた。これを30分間放置した後、遠心分離で沈殿104mgを回収し、10%NaClを含む5%酢酸溶液5mlを用いてプロテオグリカンを抽出した。
【0086】
この抽出液に2倍量のエタノールを添加して、4℃で一夜放置後、遠心分離で沈殿を回収した。この沈殿をエタノールで洗浄後、減圧乾燥器でエタノールを除去したところ、16.7mgの固形物を得た。この固形物のウロン酸含量は6.7mgであった。
【0087】
プロタミンを用いると沈殿が生じ、その減容効果は、0.104/1.63≒1/16であり、効率的な抽出処理を実現できることを確認した。
【0088】
<実験例12>
次に、プロタミンを用いた場合の沈殿生成のpH依存性を検討した。鮭の鼻軟骨を原料として、実験11と同様にして酢酸抽出液を得、この液200μlを、pH調整をすると共にプロタミン500μgを添加して、中間沈殿量を比較した。結果を図14に示す。なお、図では鼻軟骨40mgを用いた場合の中間沈殿生成量としている。図から、pHは8以下であると中間沈殿の生成量が少なくなるので好ましいことが確認できた。
【0089】
また、それぞれのpHにおいて、10%NaCl溶液300μlでプロテオグリカンを再抽出したものをウロン酸量として評価した。結果を図15に示す。図示したように、pHが小さい方が抽出効率が良いといえるが、実施の形態1と同様にプロタミンを用いた場合にはpHにさほど依存しないという同様の結果となった。
【0090】
<実験例13>
最後に、プロタミン類似タンパク質、すなわち、塩基性タンパク質である、ポリアルギニン、ポリリジン、ヒストン、リゾチームを用いて、中間沈殿の生成量とプロテオグリカンの抽出量とを比較した。
【0091】
まず、鮭鼻軟骨の酢酸抽出液200μl(上澄)を作成し、これに、各タンパク質500μg添加して30分間放置した。これを遠心分離し中間沈殿を分離し重量を測定した。また、その後10%NaCl水溶液300μlでプロテオグリカンを抽出し、ウロン酸量を測定した。結果を図16および図17に示す。なお、同条件におけるプロタミンによる中間沈殿の結果も示した。
【0092】
図16から明らかなように、鼻軟骨40mgあたりに換算した中間沈殿の量は、概ね同じであり、図8に示した鯖頭の結果(アルカリ抽出)と同様の傾向を示した。また、図17に示したように、リゾチームの結果を除いて、プロテオグリカンの量も同程度であることが確認できた。以上より、塩基性タンパク質を用いた場合のプロテオグリカンの抽出も、減容効果が確認でき、効率的な抽出ないし精製が可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、中間沈殿により減容化ができ、また、中間精製がなされているといえるので、作業性を高め効率的な抽出が可能となる。また、プロテオグリカンを抽出する場合には、鮭の鼻軟骨が有効であるが、鯖の鼻軟骨を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酸滴下によるpH変化に伴う中間沈殿量を示した図である。
【図2】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酸滴下によるpH変化→中間沈殿→酸処理と同pHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図3】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→酸性タンパク質添加→酸処理→中間沈殿→酸処理と同pHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図4】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各pHにおいてプロタミン添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図5】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各pHにおけるプロタミン添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図6】鯖頭を用い、アルカリ抽出→pH調整して沈殿除去→各pH(塩基側)においてプロタミン添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図7】鯖頭を用い、アルカリ抽出→pH調整して沈殿除去→各pH(塩基側)におけるプロタミン添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図8】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各種プロタミン類似タンパク質を添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図9】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各種プロタミン類似タンパク質添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図10】鯖頭を用いてアルカリ抽出→酸処理の場合の中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出する際の無機塩濃度による抽出量をウロン酸量により評価した図である。
【図11】鯖頭を用いてアルカリ抽出→酵素処理→プロタミン添加の場合の中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出する際の無機塩濃度による抽出量をウロン酸量により評価した図である。
【図12】鯖頭を用いて、アルカリ抽出液を酵素処理した後にタンパク質を添加して中間沈殿を得る場合において、最適条件における中間沈殿量を比較した図である。
【図13】鯖頭を用いて、アルカリ抽出液を酵素処理した後にタンパク質を添加して中間沈殿を得る場合において、最適条件におけるグリコサミノグリカンの最抽出量を比較した図である。
【図14】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出→各pHにおいてプロタミンを添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図15】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出→各pHにおいてプロタミンを添加して得られた中間沈殿から、同じpHの無機塩溶液によりプロテオグリカンを再抽出した際のプロテオグリカン量を示した図である。
【図16】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出溶液に各種塩基性タンパク質を添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図17】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出溶液に各種塩基性タンパク質を添加して得られた中間沈殿から無機塩溶液添加してプロテオグリカンを再抽出した際のプロテオグリカン量を示した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカンの減容抽出方法およびプロテオグリカン含有沈殿生成方法に関し、特に、抽出効率を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカン(以降、必要に応じてGAGと適宜表記するものとする)はムコ多糖とも称され、コアプロテインに結合したものはプロテオグリカンと称される。プロテオグリカンはコラーゲンなどと共に細胞外マトリックスや細胞表面に広く存在している。
【0003】
近年、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンは、健康食品分野、化粧品分野、および、医療分野で注目されてきている物質であり、その抽出技術や精製技術が開発されつつある。
【0004】
しかしながら、グリコサミノグリカンの含有量は、生物や部位によっても異なるが、鯖頭では0.1wt%〜0.05wt%、カラスカレイの皮では0.1wt%〜0.05wt%、イカ軟骨0.4wt%〜0.2wt%、豚皮では0.3wt%〜0.2wt%、イカ皮では約0.2wt%、臍帯では約0.3wt%、豚小腸では0.2wt%〜0.1wt%である。いずれにせよ、一般的には生体組織の0.05wt%〜0.4wt%の割合しか存在しないため、プロテオグリカンやグリコサミノグリカンの効率的な抽出方法が模索されている。ただし、鮭の鼻軟骨部分は、3wt%と特異的に含有量が多い。
【0005】
たとえば、効率化を図るため、その含有率の高い原料、具体的には、牛や魚の軟骨を原料とする方法が知られている。そして、その処理方方法としては、基本的にアルカリ処理による抽出工程とエタノール添加による沈殿工程を経て、必要に応じて再精製をおこなうものである(特許文献2,3)。また、プロテオグリカンについては、酸処理により抽出し、精製する技術も開発されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平2001−172296号
【特許文献2】特許第3448710号
【特許文献3】特開2002−69097号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
グリコサミノグリカンにしてもプロテオグリカンにしても、最終的にはエタノール等により沈殿させ、この沈殿から適宜再精製をおこない、純度を高める。
【0008】
ここで、エタノールによる沈殿処理は、一般的に、対象溶液(グリコサミノグリカンが溶解した抽出液)の2倍〜3倍の添加量が必要とされている。このとき、たとえば、原材料を酸処理もしくはアルカリ処理により抽出する場合にあっては、原材料の重量もしくは体積の3倍量〜10倍量の酸もしくはアルカリの添加が必要であるため、沈殿処理の際に必要なエタノール量は、原材料を基準とすると6倍量〜30倍量となり、重畳的に増加してしまうという問題点があった。また、エタノールは安価ではないため、極力使用量を抑えたいという要請も存在する。
【0009】
加えて、グリコサミノグリカンやプロテオグリカンは、もともと含有率が低いため、沈殿には他のタンパク質やアミノ酸などが混在し、再精製(後工程)の段階で更に分離等の複数工程が必要となるという問題点もあった。すなわち、従来では沈殿効率が悪いという問題点や後工程が複雑であって、結局のところ精製効率が悪いという問題点があった。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、作業性を高め効率的にグリコサミノグリカンやプロテオグリカンを分離抽出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、中間沈殿を生成させ、これからグリコサミノグリカンを再抽出するため、その後添加すべきエタノール等を大幅に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は概ね原料の1/2程度以下に減容することが可能となる。
【0013】
原料(生体由来の組織)をアルカリ処理して、これから直ちにエタノール添加により沈殿を生成する従来法の場合には、原料中に多様なタンパク質が絡み合って存在しているため、アルカリ量は必然的に多く添加する必要があり、たとえば、原料重量または体積の5倍量以上を添加して処理し、この液量の2倍量〜3倍量のエタノール、すなわち、原料からすると10倍量〜15倍量以上のエタノールが必要になる。
【0014】
一方、中間沈殿からグリコサミノグリカンを精製する場合には、いわば一旦篩にかけられているので処理効率が向上し、中間沈殿の重量または体積の2倍量〜3倍量の処理液(請求項1に係る発明の場合には、無機塩が溶解した酸性水溶液)を添加すればよい。したがって、原料体積の半分以下となっている沈殿量に対して2倍量〜3倍量の液量が基準となり、これに2倍量〜3倍量のエタノールを添加すればよいので、原料からすると2倍量〜5倍量程度のエタノールを添加すれば精製が可能となる。加えて、pHを調整してあるので塩の作用により極めて効率よくグリコサミノグリカンを遊離ないし抽出可能となり、精製効率も著しく向上する。
【0015】
なお、生体由来の組織とは、動物由来のものであって、処理効率を高めるために適宜ミンチ状に前処理されていることが好ましい。アルカリ性水溶液を添加するとは、アルカリ処理をするということであり、酸性水溶液を添加するとは、酸処理をするということができる。アルカリ性水溶液の例としてはNaOH、Ca(OH)2、Ba(OH)2、KOH、Mg(OH)2などの水溶液を挙げることができる。酸性水溶液の例としては、酢酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、硫酸などの水溶液を挙げることができる。このほか、クエン酸、ヒドロキシクエン酸、ガラクツロン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、ギ酸、フマル酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸の水溶液を挙げることができる。なお、アルカリ濃度や酸濃度、またその添加量は適宜調整可能である。また、処理時間や抽出時間や温度も適宜調整されるものとする。また、中間沈殿を生成した後など必要に応じて遠心分離またはろ過するものとする。
【0016】
また、無機塩を含むとは、無機塩が溶解しているという意味であり、また、略同じpHに調整した酸性水溶液とは、pHの差が大きくない、たとえば、pHが7に近いような弱酸であっては0.5も相違せず、pHが3に近いようなところでは、1〜2も相違しないことをいう。
【0017】
また、請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで酸性タンパク質を添加した後に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0018】
すなわち、請求項2に係る発明は、生体組織由来のいわば内在性タンパク質を分解した後にグリコサミノグリカンが結合ないし付着しやすいタンパク質を利用して沈殿させることにより、請求項1に係る発明より中間沈殿を更に減容する。これにより、その後に必要なエタノール等を更に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は概ね原料の1/3程度以下に減容することが可能となる。
【0019】
なお、プロテアーゼを添加する際には適宜至適条件でおこなうものとし、反応時間や失活処理は適宜おこなわれるものとする。また、プロテアーゼ処理後や中間沈殿の生成後などには必要に応じて遠心分離または濾過するものとする。また、略同じpHに調整した酸性水溶液とは、pHの差が大きくない、たとえば、pHが7に近いような弱酸であっては0.5も相違せず、pHが3に近いようなところでは、1〜2も相違しないことをいう。
【0020】
また、請求項3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、酸性タンパク質が、大豆タンパク質、カゼイン、アルブミン、または、グルテンであることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項3に係る発明は、グリコサミノグリカンを効率的に沈殿させるタンパクを用いる方法を提供可能となる。
【0022】
また、請求項4に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1、2または3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、酸性水溶液を添加した後のpHを5以下とすることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項4に係る発明は、多数の硫酸基とカルボキシル基を有して強く負に帯電しているグリコサミノグリカンを効率的に沈殿させることが可能となる。
【0024】
また、請求項5に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、グリコサミノグリカンの減容抽出方法において、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項5に係る発明は、生体組織由来のいわば内在性タンパク質を分解した後にグリコサミノグリカンが結合ないし付着しやすいタンパク質を利用して沈殿させ、pHを調整することなくグリコサミノグリカンを再抽出できるため、請求項1に係る発明より中間沈殿を更に減容し、かつ、簡便にグリコサミノグリカンを再抽出可能となる。これにより、簡便な前処理を経て、その後に必要なエタノール等を更に少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となる。後述するように、中間沈殿は原料の1/25程度以下に減容することが可能となる。なお、塩基性タンパク質を添加する前に、pH調整をして沈殿を生成させ、これを一旦除去する工程を適宜加えてもよい。
【0026】
なお、プロテアーゼを添加する際には適宜至適条件でおこなうものとし、反応時間や失活処理は適宜おこなわれるものとする。また、プロテアーゼ処理後や中間沈殿の生成後などには必要に応じて遠心分離またはろ過するものとする。
【0027】
また、請求項6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して弱酸性の段階で生成する一次沈殿を取り除き、残液に塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とする。
【0028】
すなわち、請求項6に係る発明は、原料に対する中間沈殿の量を1/40以下と劇的に減容でき、その後に必要なエタノール等を極めて少なくでき、また、精製度も著しく向上させることが可能となると共に、至適条件の調整が不要であり、作業効率を向上させることが可能となる。なお、無機塩を含んだ水溶液は酸性であることが好ましい。
【0029】
また、請求項7に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項5または6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、塩基性タンパク質が、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、または、ヒストンであることを特徴とする。
【0030】
すなわち、請求項7に係る発明は、グリコサミノグリカンを効率的に沈殿させるタンパクを用いる方法を提供可能となる。
【0031】
また、請求項8に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1〜7のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、無機塩が、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2であることを特徴とする。
【0032】
すなわち、請求項8に係る発明は、安価な原料により経済的に処理をおこなうことが可能となる。また、無機塩であることにより、有機物を使用する場合に比して等電点の変動やグリコサミノグリカンの変質、不純物(雑分)の混入を抑制可能となる。このほか、Na2SO4、K2SO4、MgSO4、または、CaSO4を用いても良い。なお、添加量については、酸性水溶液の場合には10wt%以上であることが好ましく、塩基性タンパク質を用いる場合には、5wt%以上の濃度であることが好ましい。
【0033】
また、請求項9に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法は、請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法において、生体由来の組織を、魚の下ごしらえの際に発生する残渣としたことを特徴とする。
【0034】
すなわち、請求項9に係る発明は、水産加工場において廃棄される魚の頭部、内臓、皮、骨を原料とするので残渣削減のみならず有価物を抽出可能となる。また、BSE問題により敬遠されがちな牛を原料としないため、需要者志向にも適合する。
【0035】
また、請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法は、魚の軟骨に酸性水溶液を添加してプロテオグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に塩基性タンパク質を添加することによりプロテオグリカンを含む沈殿を得ることを特徴とする。
【0036】
すなわち、請求項10に係る発明は、中間沈殿を生成してプロテオグリカンを効率的に抽出可能にする。
【0037】
また、請求項11に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法は、請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法において、生体由来の組織が、サケの鼻軟骨であることを特徴とする。
【0038】
すなわち、請求項11に係る発明は、特異的に大きく発達しかつプロテオグリカンの含有量も特異的に多い(約3wt%)鮭の鼻軟骨を原料とするため、効率的なプロテオグリカンの精製が可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、作業性を高め効率的にグリコサミノグリカンやプロテオグリカンを分離抽出する技術を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。実施の形態1では、グリコサミノグリカンを抽出、精製する技術について説明し、実施の形態2では、プロテオグリカンを抽出する技術について説明する。
【0041】
〔実施の形態1〕
<実験例1>
実験例1では、鯖頭部を原料としてグリコサミノグリカンを抽出する方法について説明する。
まず、鯖頭670gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、3リットルの0.5M(mol/リットル以下同じ。)のNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとり、この濾しとったアルカリ抽出液に、酢酸を最終濃度が5vol%となるまで添加して、複合沈殿を生成した。この沈殿を遠心分離して350gの中間沈殿を回収した。
【0042】
中間沈殿に、10wt%のNaClを含み、先の酸処理と同様の5vol%の酢酸溶液400mlを添加し、グリコサミノグリカンを液体側に抽出した(なお、この抽出液には一部コアタンパク質を伴ったプロテオグリカンも存在すると考えられるが以降では特に断らない限りグリコサミノグリカンとして評価するものとする)。
【0043】
次に再精製をおこなった。具体的には、グリコサミノグリカンの抽出された液に、2倍量のエタノール800mlを添加して、4℃で一夜放置して沈殿を生成させた。得られた沈殿を遠心分離により回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に590mgの固形物を得た。
【0044】
グリコサミノグリカンは、ウロン酸とアミノ糖の二糖の繰り返し構造からなり、ウロン酸の約2倍〜3倍がグリコサミノグリカンの重さとなる。ウロン酸重量は簡便に測定できるため、ウロン酸重量をもってグリコサミノグリカンの精製評価をおこなうこととした。回収された590mgの固形物の中のウロン酸量は246mgであった。したがって、回収された590mgの固形物はほぼグリコサミノグリカンからなると評価できた。
【0045】
なお、再精製重量(590mg)は、中間沈殿量(350g)のおよそ0.17wt%となっている。これは、原料中に存在するグリコサミノグリカンが0.05wt%〜0.1wt%であることを考えると、単純には2倍〜3倍に精製効率が上昇したといえる。
【0046】
しかしながら、中間沈殿を生成させる場合には、従来法に比べて、次のメリットも生じる。
まず、従来法では、原料(670g)に添加した約5倍量のアルカリ水溶液(3リットル)に対して2倍量のエタノール添加、すなわち、6リットルのエタノール添加が必要とされるところ、本方法では、中間沈殿(350g)の減容効果に伴い、もともと添加すべき酸性水溶液を約半分にできるだけでなく、いわば一次精製されているため、沈殿と略同量(400ml)の酸性水溶液を添加すれば再抽出が可能となる。すなわち、この抽出液に対して2倍量のエタノール添加、すなわち、800mlのエタノール添加で十分となる。したがって、本方法では従来法に比してエタノール量を1/7にできる。
次に、従来法では、他のタンパク質も沈殿し、雑多な沈殿の中から、更に精製処理を経る必要がある。しかしながら、本方法では、pHを沈殿生成時と同じくして再抽出をおこなっているため、目的外の雑成分が混入しにくく、上述したように従来法のような更なる精製処理は不要となる。
【0047】
よって、実験例1に示したように、中間沈殿を生成すると、重畳的に精製効率が上昇するといえる。
【0048】
<実験例2>
次に、中間沈殿中に取り込まれるグリコサミノグリカンのpH依存性について調べた。
まず、鯖頭をミンチ状にして10gをとりわけ、これに、100mlの0.5NのNaOH水溶液を添加して、16時間冷蔵して抽出をおこなった。
次いで、固形分を濾過し、遠心分離により上澄みを取り分けた。この上澄みに酢酸を滴下していき、沈殿量の変化を調べた。鯖頭100gあたりに換算した沈殿量とpHとの関係を図1に示す。図示したように酸性になると急激に沈殿が生じることが確認できた。pHが4以下であると沈殿量に変化がほとんど生じず30mg程度の中間沈殿が生じることが確認できるため、減容効果は約1/3といえる。
【0049】
次に、各pHにおいてNaClを10wt%溶解した溶液で中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出したものを、ウロン酸を指標にして鯖頭100gからの抽出量として比較した。図2に結果を示す。なお、各pHにおける左側の棒グラフは、アルカリ抽出液に酢酸を順次滴下し中間沈殿を生成させる際の各pHにおける上澄みに残存しているグリコサミノグリカンをウロン酸を指標にしたものである。
【0050】
図から明らかなように、pHが5以下であれば、グリコサミノグリカンは沈殿に多く含まれるようになり、特にpHが4以下であれば、ほぼ中間沈殿側に移ることが確認できる。
【0051】
実験例1および実験例2から、中間沈殿により後の精製を含めて処理効率を向上させることが可能であることを確認でき、また、グリコサミノグリカンをほぼ抽出・精製できることが分かった。また、グリコサミノグリカンは、pHが小さくないと沈殿しないタンパク質に結合または付着する性質を有することを確認できた。なお、グリコサミノグリカンそのものは酸性水溶液では沈殿しないため、タンパク質に結合または付着させて選択的に抽出する技術は画期的であるといえる。
【0052】
<実験例3>
実験例1および実験例2をふまえて、より処理効率を向上させることを検討した。実験例1では中間沈殿は原料の1/2となるものの、いまだ沈殿量は多い。そこで、抽出されたタンパク質等をプロテアーゼで分解して、その後、酸性タンパク質を添加し、これにプロテオグリカンを結合ないし付着させて沈殿させることを試みた。
【0053】
まず、鯖頭150gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、750mlの0.5MのNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとり、アルカリ抽出液700mlを得た。このアルカリ抽出液を酢酸により中和し、そこから100mlを分けとり、アクチナーゼE(純正化学社製)を100mg添加して、60℃で24時間インキュベーションしタンパク質分解をおこなった。この反応液を100℃で10分間処理しプロテアーゼを失活させ、遠心分離により上澄みを分離した。
【0054】
この上清7mlに、大豆タンパク質(和光純薬社製)87.5mg(予め0.1NのNaOH水溶液2.5mlに溶解させたもの)を添加して攪拌し、30分間放置した。その後、酢酸500μlを添加して複合沈殿を生成させ、更に30分間放置した。これを遠心分離し、中間沈殿495mgを回収した。この沈殿に10%NaClを含む5%酢酸溶液3mlを添加してグリコサミノグリカンを再抽出した。
【0055】
この抽出液に2倍量のエタノールを添加して、4℃で一夜放置後、遠心分離で沈殿を回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に2.7mgの固形物を得た。この固形物のウロン酸含量を測定したところ812μgであったため、得られた固形物はほぼグリコサミノグリカンからなると評価できた。
【0056】
なお、再精製重量(2.7mg)は、中間沈殿(495mg)のおよそ0.55wt%となっている。よって、精製効率としては、従来法より6倍〜11倍上昇したといえる。
【0057】
またこの場合は、中間沈殿(495mg)は換算原料(150g×(100/700)×(7/100)=1.5g)の約1/3となっているため、実験例1より更に効率的な抽出が実現できているといえる。また、プロテアーゼでタンパク質分解をしているため、その後添加するエタノールによる沈殿の際に、雑分の沈殿を抑制できるという効果も奏する。
【0058】
<実験例4>
次に、大豆タンパク質以外の酸性タンパク質の種類を検討することとした。ここでは、カゼイン(等電点:pH=約4.6、和光純薬社製)、卵アルブミン(等電点:pH=約4.7。以降では適宜アルブミンと表記する。)、グルテン(等電点:pH=約4〜5、和光純薬社製)、ゼラチン(等電点:pH=約4.5〜7、和光純薬社製)を検討した。なお、大豆タンパク質(和光純薬社製)の等電点はpH=4.2〜4.5である。また、参考のため、塩基性タンパク質も検討した。塩基性タンパク質としてはプロタミン(等電点:pH=約10〜12)を用いた。
【0059】
実験例3と同様な酵素分解処理をした後、不溶物を除去した上澄みに同量(1mg)のタンパク質をそれぞれ添加して中間沈殿を得、10%NaClを含む酢酸水溶液でグリコサミノグリカンを抽出し、エタノール処理した後のウロン酸量を測定した。結果を図3に示す。なお、図では、タンパク質を添加しなかった場合の結果もあわせて表示した。
【0060】
図から明らかなように、カゼイン、大豆タンパク質、アルブミン、グルテン等の酸性タンパク質を添加すると、グリコサミノグリカンを共に沈殿させる作用があることを確認した。このうち、特に大豆タンパク質とアルブミンが沈殿効率が高いことが確認できた。
【0061】
また、タンパク質を添加しない場合には沈殿が生じず、結果として、プロテアーゼ処理によりタンパク質がきちんと分解されていること、グリコサミノグリカンは、酸性溶液中で単独では沈殿しないことが確認できた。なお、タンパク質が分解されていることは、雑分が混ざることなく添加タンパク質により沈殿が生じ、精製効率を高めることにつながる。
【0062】
驚くべきは、塩基性タンパク質であるプロタミンを添加した場合に、酸性タンパク質中で最も抽出効率の高かった大豆タンパク質よりもグリコサミノグリカンの抽出量が高かった点である。よって、以降では、まず、プロタミンを添加する場合の酵素処理の有無と至適pHの検討(実験例5,6)、プロタミンと他の塩基性タンパク質との抽出効率の比較(実験例7)、最適条件下における酸性タンパク質と塩基性タンパク質を用いた抽出効率の比較(実験例9)をおこなうこととした。
【0063】
<実験例5>
実験例5では、アルカリ抽出液をプロテアーゼ処理した後に失活させ(pHを調製して一旦沈殿を除去し)、その後プロタミンを添加し、得られた中間沈殿からグリコサミノグリカンを抽出し、これをウロン酸量により評価した。図4は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図5は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量とpHとの関係を示した図である。
【0064】
図4や図5から明らかなように、プロタミンを添加する場合には、pHに関係なく中間沈殿が同程度に生じ、再抽出されるウロン酸も同程度であることが分かった。したがって、プロタミンを添加する場合には、pHコントロールが不要であることを示しており、操作性を高めることができることが分かった。特に、中間沈殿の量が1/40〜1/130となり、その後添加するエタノールを劇的に少なくできることが確認できた。
【0065】
<実験例6>
次に、プロテアーゼ処理することなくプロタミン添加した場合のグリコサミノグリカンの抽出結果を検討することとした。実験例2のようにアルカリ抽出液に酢酸を添加していき、酸性となると多くの沈殿が発生すること、および、プロタミン添加の場合には実験例5の結果からpHに依存しにくいことから、pHが大きい場合(pH≧6)の検討をおこなうこととした。図6は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図7は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量とpHとの関係を示した図である。
【0066】
まず、図6と図4を比べて分かるように、プロテアーゼ処理した方が中間沈殿が少なくなることが分かった。また、一般的な傾向として同じアルカリ性であってもpHが小さくなるほどグリコサミノグリカンの再抽出量が多くなることが分かった。
【0067】
実験例5および実験例6から、プロタミンはプロテアーゼ処理した後に添加すると、減容効果が極めて高く、また、pH調製が不要であり、操作性を高めることが分かった。
【0068】
<実験例7>
次に、プロタミン以外の塩基性タンパク質の検討をおこなった。実験は、鯖頭のアルカリ抽出液を至適条件(至適pHおよび至適温度)においてプロテアーゼ(アクチナーゼE)処理し、失活させた後に、不溶物を除去した上澄みに種々の塩基性タンパク質を添加して中間沈殿を生成させた。その後、この中間沈殿から10%NaCl水によりグリコサミノグリカンを抽出し、ウロン酸量を測定した。用いた塩基性タンパク質は、ポリアルギニン(等電点:pH=10.8、MPバイオメディカル社製)、ポリリジン(等電点:pH=9.8、和光純薬社製)、ヒストン(等電点:pH=約11、MPバイオメディカル社製)、リゾチーム(等電点:pH=約11、和光純薬社製)、なお、添加重量は同量とした。
【0069】
図8は、鯖頭40mgから得られた中間沈殿の量である。図9は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量を比較した図である。
【0070】
図8に示したように、いずれも塩基性タンパク質の添加により中間沈殿が生じ、酸性タンパク質の添加の場合に比して中間沈殿を更に少なくできることが確認できた。また、図9に示したように、概ね同程度のグリコサミノグリカンの抽出が可能となることが確認できた。
【0071】
<実験例8>
次に、無機塩の種類と濃度を変える実験をおこなった。
実験は、まず、実験例1と同様の方法で鯖頭のアルカリ抽出液を酢酸処理して中間沈殿を生成し、これに中間沈殿生成時と同pH(概ねpH=3.5)の溶液であって、所定濃度の無機塩(NaCl,KCl、MgCl2,CaCl2)水溶液によりグリコサミノグリカンを抽出した。
【0072】
鯖頭100gあたりのウロン酸量に換算したグリコサミノグリカンの抽出量と無機塩濃度との関係を図10に示す。図から明らかなように、無機塩の種類にほとんど依存せず、概ね10wt%濃度で抽出量が一定となることが確認できた。
【0073】
次に、実験例3でプロタミンを用いた場合と同様にして、鯖頭のアルカリ抽出液をプロテアーゼ処理し、不溶物を除去した上澄みにプロタミンを用いて中間沈殿を生じさせ、これに中間沈殿生成時と同pH(アクチナーゼEを用いたため、概ねpH=7)の溶液であって、所定濃度の無機塩(NaCl,KCl、MgCl2,CaCl2)水溶液によりグリコサミノグリカンを抽出した。
【0074】
鯖頭100gあたりのウロン酸量に換算したグリコサミノグリカンの抽出量と無機塩濃度との関係を図11に示す。図から明らかなように、無機塩の種類にほとんど依存せず、概ね5wt%濃度で抽出量が一定となることが確認できた。
【0075】
<実験例9>
次に、大豆タンパク質、アルブミン、プロタミンについて、最適条件にてグリコサミノグリカンを最大限抽出した場合の抽出効率を検討した。すなわち、アルカリ抽出液をプロテアーゼ処理し、不溶物を除去した上澄みに、タンパク質を最適添加量を添加し、大豆タンパク質およびアルブミンについては至適pHにて中間沈殿を生成せしめて回収し、プロタミンに関しては添加による中間沈殿を回収し、沈殿時のpHにて10%NaCl溶液を用いてグリコサミノグリカンを再抽出した。図12は、鯖頭80mgから得られた中間沈殿の量である。図13は、鯖頭100gに換算した場合の、ウロン酸量を比較した図である。
【0076】
図13では、最適条件ではグリコサミノグリカンの精製量は同レベルということができるが、図12の中間沈殿を見ると、明らかに塩基性タンパク質であるプロタミンを添加した方が添加量が少なくて済み、また、中間沈殿生成量も少なく、効率的であることが確認できる。
【0077】
以上、実験例4〜9の結果より、プロテアーゼ処理する場合には、塩基性タンパク質を添加するとpH調製をしなくても沈殿が生じ、その添加量も酸性タンパク質を用いた場合よりも少なくて済み、かつ、中間沈殿の生成量も少ないため効率的であるということが確認できた。
【0078】
<実験例10>
プロテアーゼ処理をする場合には、pH調製、温度調整、処理時間の調整、失活処理が必要となる。よって、プロテアーゼ処理よりも簡便な中間沈殿低減方法を模索することとした。図2に示したように、グリコサミノグリカンは、強酸雰囲気下で沈殿するタンパク質に付着ないし結合していると考えられる。したがって、弱酸性と強酸性との二段階で中間沈殿を生成させることとした。
【0079】
まず、鯖頭50gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、250mlの0.5MのNaOH水溶液を添加し、一夜抽出した。液を濾しとりアルカリ抽出液240mlを得た。このアルカリ抽出液24mlをとりわけ、酢酸を添加してpH5.8とし、弱酸性の段階で一旦、沈殿を生成させた。遠心分離により固体部分を除去し、プロタミン62.5mgを蒸留水1mlに溶解した液を加えて、中間沈殿を生ぜしめ、30分間室温で放置した。再度遠心分離して中間沈殿113mgを回収した。
【0080】
中間沈殿に、10wt%のNaClを含み、5vol%の酢酸溶液5mlを添加し、グリコサミノグリカンを液体側に抽出した。
【0081】
次に再精製をおこなった。すなわち、2倍量のエタノール10mlを添加し、4℃で一夜放置して沈殿を生成させた。得られた沈殿を遠心分離により回収した。この沈殿をエタノールで洗浄し、減圧乾燥器でエタノールを除き、最終的に5.6mgの固形物を得た。ウロン酸を測定したところ、1.6mgであった。
【0082】
なお、グリコサミノグリカンを含有する中間沈殿は113mgであり、原料は50×24/240=5gなので、減容効果は、およそ1/44である。したがって、本方法はプロテアーゼによる減容効果と同程度の減容が可能となり、実質的には、操作性を向上させる方法であるといえる。
【0083】
なお、以上の例では、鯖頭部を用いる例について説明したが、これに限らず、グリコサミノグリカンはその含有量は少ないものの、生物組織に普遍的に存在する。したがって、水産物加工場でこれまで、残渣として廃棄等していた、頭部、骨、皮、内臓を用いて、有価物を製造できる方法を提供可能になったといえる。
【0084】
〔実施の形態2〕
次に、プロテオグリカンを減容抽出する方法について説明する。これまでの実験例で、プロタミンに代表される塩基性タンパク質は、グリコサミノグリカンの抽出に有効であることが分かった。そこで、グリコサミノグリカンがコアタンパク質に結合して存在していることから、プロタミンを用いてプロテオグリカンを効率的に抽出することとした。ここでは、抽出実績のある鮭の鼻軟骨を用いることとした。
【0085】
<実施例11>
まず、鮭鼻軟骨16.3gをフードプロセッサーでミンチ状にした。これに、80mlの5%酢酸を添加し二昼夜抽出した。固液分離をおこなったところ、無色透明な酢酸抽出液67mlが得られた。この抽出液6.7mlにプロタミン16.8mgを添加して攪拌したところ複合沈殿が得られた。これを30分間放置した後、遠心分離で沈殿104mgを回収し、10%NaClを含む5%酢酸溶液5mlを用いてプロテオグリカンを抽出した。
【0086】
この抽出液に2倍量のエタノールを添加して、4℃で一夜放置後、遠心分離で沈殿を回収した。この沈殿をエタノールで洗浄後、減圧乾燥器でエタノールを除去したところ、16.7mgの固形物を得た。この固形物のウロン酸含量は6.7mgであった。
【0087】
プロタミンを用いると沈殿が生じ、その減容効果は、0.104/1.63≒1/16であり、効率的な抽出処理を実現できることを確認した。
【0088】
<実験例12>
次に、プロタミンを用いた場合の沈殿生成のpH依存性を検討した。鮭の鼻軟骨を原料として、実験11と同様にして酢酸抽出液を得、この液200μlを、pH調整をすると共にプロタミン500μgを添加して、中間沈殿量を比較した。結果を図14に示す。なお、図では鼻軟骨40mgを用いた場合の中間沈殿生成量としている。図から、pHは8以下であると中間沈殿の生成量が少なくなるので好ましいことが確認できた。
【0089】
また、それぞれのpHにおいて、10%NaCl溶液300μlでプロテオグリカンを再抽出したものをウロン酸量として評価した。結果を図15に示す。図示したように、pHが小さい方が抽出効率が良いといえるが、実施の形態1と同様にプロタミンを用いた場合にはpHにさほど依存しないという同様の結果となった。
【0090】
<実験例13>
最後に、プロタミン類似タンパク質、すなわち、塩基性タンパク質である、ポリアルギニン、ポリリジン、ヒストン、リゾチームを用いて、中間沈殿の生成量とプロテオグリカンの抽出量とを比較した。
【0091】
まず、鮭鼻軟骨の酢酸抽出液200μl(上澄)を作成し、これに、各タンパク質500μg添加して30分間放置した。これを遠心分離し中間沈殿を分離し重量を測定した。また、その後10%NaCl水溶液300μlでプロテオグリカンを抽出し、ウロン酸量を測定した。結果を図16および図17に示す。なお、同条件におけるプロタミンによる中間沈殿の結果も示した。
【0092】
図16から明らかなように、鼻軟骨40mgあたりに換算した中間沈殿の量は、概ね同じであり、図8に示した鯖頭の結果(アルカリ抽出)と同様の傾向を示した。また、図17に示したように、リゾチームの結果を除いて、プロテオグリカンの量も同程度であることが確認できた。以上より、塩基性タンパク質を用いた場合のプロテオグリカンの抽出も、減容効果が確認でき、効率的な抽出ないし精製が可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、中間沈殿により減容化ができ、また、中間精製がなされているといえるので、作業性を高め効率的な抽出が可能となる。また、プロテオグリカンを抽出する場合には、鮭の鼻軟骨が有効であるが、鯖の鼻軟骨を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酸滴下によるpH変化に伴う中間沈殿量を示した図である。
【図2】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酸滴下によるpH変化→中間沈殿→酸処理と同pHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図3】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→酸性タンパク質添加→酸処理→中間沈殿→酸処理と同pHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図4】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各pHにおいてプロタミン添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図5】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各pHにおけるプロタミン添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図6】鯖頭を用い、アルカリ抽出→pH調整して沈殿除去→各pH(塩基側)においてプロタミン添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図7】鯖頭を用い、アルカリ抽出→pH調整して沈殿除去→各pH(塩基側)におけるプロタミン添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図8】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各種プロタミン類似タンパク質を添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図9】鯖頭を用い、アルカリ抽出→酵素処理→各種プロタミン類似タンパク質添加→中間沈殿→プロタミン添加の際のpHにおける無機塩溶液によるグリコサミノグリカンの再抽出量を示した図である。
【図10】鯖頭を用いてアルカリ抽出→酸処理の場合の中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出する際の無機塩濃度による抽出量をウロン酸量により評価した図である。
【図11】鯖頭を用いてアルカリ抽出→酵素処理→プロタミン添加の場合の中間沈殿からグリコサミノグリカンを再抽出する際の無機塩濃度による抽出量をウロン酸量により評価した図である。
【図12】鯖頭を用いて、アルカリ抽出液を酵素処理した後にタンパク質を添加して中間沈殿を得る場合において、最適条件における中間沈殿量を比較した図である。
【図13】鯖頭を用いて、アルカリ抽出液を酵素処理した後にタンパク質を添加して中間沈殿を得る場合において、最適条件におけるグリコサミノグリカンの最抽出量を比較した図である。
【図14】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出→各pHにおいてプロタミンを添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図15】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出→各pHにおいてプロタミンを添加して得られた中間沈殿から、同じpHの無機塩溶液によりプロテオグリカンを再抽出した際のプロテオグリカン量を示した図である。
【図16】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出溶液に各種塩基性タンパク質を添加して得られた中間沈殿量を示した図である。
【図17】鮭鼻軟骨を用いて、酸抽出溶液に各種塩基性タンパク質を添加して得られた中間沈殿から無機塩溶液添加してプロテオグリカンを再抽出した際のプロテオグリカン量を示した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項2】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで酸性タンパク質を添加した後に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項3】
酸性タンパク質が、大豆タンパク質、カゼイン、アルブミン、または、グルテンであることを特徴とする請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項4】
酸性水溶液を添加した後のpHを5以下とすることを特徴とする請求項1、2または3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項5】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項6】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して弱酸性の段階で生成する一次沈殿を取り除き、残液に塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項7】
塩基性タンパク質が、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、または、ヒストンであることを特徴とする請求項5または6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項8】
無機塩が、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項9】
生体由来の組織を、魚の下ごしらえの際に発生する残渣としたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項10】
魚の軟骨に酸性水溶液を添加してプロテオグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に塩基性タンパク質を添加することによりプロテオグリカンを含む沈殿を得ることを特徴とするプロテオグリカン含有沈殿生成方法。
【請求項11】
生体由来の組織が、サケの鼻軟骨であることを特徴とする請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法。
【請求項1】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項2】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで酸性タンパク質を添加した後に酸性水溶液を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含み沈殿生成の際のpHと略同じpHに調整した酸性水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項3】
酸性タンパク質が、大豆タンパク質、カゼイン、アルブミン、または、グルテンであることを特徴とする請求項2に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項4】
酸性水溶液を添加した後のpHを5以下とすることを特徴とする請求項1、2または3に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項5】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液にプロテアーゼを添加してタンパク質を分解し、次いで塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項6】
生体由来の組織にアルカリ性水溶液を添加してグリコサミノグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に酸性水溶液を添加して弱酸性の段階で生成する一次沈殿を取り除き、残液に塩基性タンパク質を添加して沈殿を生成させて減容し、この沈殿を、無機塩を含んだ水溶液にさらすことにより、グリコサミノグリカンを水溶液中に溶出させることを特徴とするグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項7】
塩基性タンパク質が、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、または、ヒストンであることを特徴とする請求項5または6に記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項8】
無機塩が、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項9】
生体由来の組織を、魚の下ごしらえの際に発生する残渣としたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のグリコサミノグリカンの減容抽出方法。
【請求項10】
魚の軟骨に酸性水溶液を添加してプロテオグリカンを含む抽出液を得、この抽出液に塩基性タンパク質を添加することによりプロテオグリカンを含む沈殿を得ることを特徴とするプロテオグリカン含有沈殿生成方法。
【請求項11】
生体由来の組織が、サケの鼻軟骨であることを特徴とする請求項10に記載のプロテオグリカン含有沈殿生成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−124811(P2010−124811A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306264(P2008−306264)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(598142117)株式会社 ダイマツ (1)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(598142117)株式会社 ダイマツ (1)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]