説明

グリコサミノグリカン分解酵素の活性測定方法

【課題】 グリコサミノグリカン分解酵素の活性を簡便、迅速、安価かつ高感度に、再現性・定量性良く測定する方法を提供すること。
【解決手段】(A)「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」と検体を接触させ、当該グリコサミノグリカンに検体中のグリコサミノグリカン分解酵素を作用させるステップ、(B)前記作用後のグリコサミノグリカンを蛍光偏光分析法によって検出するステップ、及び(B)で得られた検出結果と、検体中のグリコサミノグリカン分解酵素の活性とを関連づけるステップを少なくとも含む、検体中のグリコサミノグリカン分解酵素の活性測定方法。「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」を少なくとも含有するグリコサミノグリカン分解酵素の活性測定剤。フルオレセイン−5−チオセミカルバジドとヒアルロン酸とが共有結合していることを特徴とする、ヒアルロン酸誘導体又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカン分解酵素の活性測定方法及び活性測定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中で使用する略号は以下の通りである。
ABEE:4−アミノ安息香酸エチルエステル(4-amino benzoic acid ethyl ester)
CH:コンドロイチン
CS:コンドロイチン硫酸
DS:デルマタン硫酸
EDC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethyl-aminopropyl)-carbodiimide)
FP分析法:蛍光偏光分析法(fliorescence polarization assay method)
GAG:グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography)
HA:ヒアルロン酸(hyaluronic acid)
HAase:HA分解酵素
Hep:ヘパリン
HPLC:高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography)
HS:ヘパラン硫酸
KS:ケラタン硫酸
MBTH:3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン ヒドラゾン(3-methyl-2-benzothiazolinone hydrazone)
MES:2−モルホリノエタンスルホン酸(2-morpholinoethanesulfonic acid)
RI:示差屈折(Differential refractive index)
TFA:トリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid)
特許文献1には、GAG分解酵素の活性を測定する方法として、第1の重合高分子イオン(GAG)及びこれと逆の電荷を持つ蛍光標識された第2の重合高分子イオン(例えばポリリジン、ポリアルギニン、キチン等)とを相互作用させ、イオン結合させて、その複合体をFP分析する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,630,295号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、GAG分解酵素の活性を、簡便、迅速、安価かつ高感度に、再現性・定量性良く測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、「蛍光物質が結合したGAG」とFP分析法を採用することによって、GAG分解酵素の活性を、簡便、迅速、安価かつ高感度に、再現性・定量性良く測定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記(A)〜(C)の全てのステップを少なくとも含む、検体中のGAG分解酵素の活性測定方法(以下、「本発明方法」という。)を提供する。
【0007】
ステップ(A):「蛍光物質が結合したGAG」と検体を接触させ、当該GAGに検体中のGAG分解酵素を作用させるステップ。
【0008】
ステップ(B):前記作用後のGAGをFP分析法によって検出するステップ。
【0009】
ステップ(C):ステップ(B)で得られた検出結果と、検体中のGAG分解酵素の活性とを関連づけるステップ。
【0010】
ここにいうGAGは、カルボキシル基を有するGAGであることが好ましい。またこのGAGはHA、CH、CS、HS又はHepであることが好ましい。
【0011】
また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質は、GAGのカルボキシル基部分に結合していることが好ましい。この蛍光物質は、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドであることが好ましい。また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質とGAGとの結合は、共有結合であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、「蛍光物質が結合したGAG」を少なくとも含有する、GAG分解酵素の活性測定剤(以下、「本発明測定剤」という。)を提供する。
【0013】
ここにいうGAGは、カルボキシル基を有するGAGであることが好ましい。またこのGAGはHA、CH、CS、HS又はHepであることが好ましい。
【0014】
また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質は、GAGのカルボキシル基部分に結合していることが好ましい。この蛍光物質は、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドであることが好ましい。また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質とGAGとの結合は、共有結合であることが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドとHAとが共有結合していることを特徴とする、HA誘導体又はその塩(以下、「本発明誘導体」という。)を提供する。この誘導体において、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドのヒドラジノ基とHAのカルボキシル基とがヒドラジド結合していることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法は、これを用いることにより、簡便、迅速、安価かつ高感度に、高い再現性と高い定量性をもって検体中のGAG分解酵素活性を測定することができ、極めて有用である。さらに本発明測定剤は、本発明方法のより簡便かつ迅速な実施を可能にすることから非常に有用である。また本発明誘導体は、本発明方法や本発明測定剤の有効成分等として用いることができ、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
<1>本発明方法
本発明方法は、下記(A)〜(C)の全てのステップを少なくとも含む、検体中のGAG分解酵素の活性測定方法である。
ステップ(A):「蛍光物質が結合したGAG」と検体を接触させ、当該GAGに検体中のGAG分解酵素を作用させるステップ。
ステップ(B):前記作用後のGAGをFP分析法によって検出するステップ。
ステップ(C):ステップ(B)で得られた検出結果と、検体中のGAG分解酵素の活性とを関連づけるステップ。
【0018】
以下、ステップごとに説明する。
(1)ステップ(A)
本ステップは、「蛍光物質が結合したGAG」と検体を接触させ、当該GAGに検体中のGAG分解酵素を作用させるステップである。
(1−1)蛍光物質が結合したGAG
ここにいう「蛍光物質」は、GAGに結合しうるものであり、かつFP分析法によって検知しうるものである限りにおいて特に限定されず、種々のフルオレセイン誘導体、蛍光標識リガンド等が例示される。このようなものとしては、例えば、フルオレセイン−5−チオセミカルバジド、ローダミン、クマリン、テキサスレッド、ウンベリフェロン、エオシン、ピレン等が例示される。なかでも、GAGのカルボキシル基部分に結合するものが好ましく、このようなものとしては、例えば、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドテキサスレッド ヒドラジド、1−アミノメチルピレン、カスケードブルーカダベリン等が例示される。なかでもフルオレセイン−5−チオセミカルバジドが好ましい。
【0019】
また、蛍光物質が結合されるGAGも、活性測定の対象となるGAG分解酵素の基質となり得るGAGである限りにおいて特に限定されない。このようなGAGとしては、HA、CH、CS、DS、KS、HS、Hep等が例示されるが、カルボキシル基を有するGAGであることが好ましい。カルボキシル基を有するGAGとしては、HA、CH、CS、DS、HS、Hepが例示されるが、なかでもHA、CH、CS、HS及びHepからなる群から選ばれることが好ましい。そのなかでも、HA又はCHが好ましい。
【0020】
またGAGは塩であってもよい。塩としては、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩や、ジエタノールアミン塩、シクロへキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩などが例示される。
【0021】
蛍光物質が結合されるGAGは、本発明方法における活性測定の対象となるGAG分解酵素の種類に応じて、当業者が適宜選択することができる。
例えばHAaseを活性測定の対象とする場合には、GAGとしてHAを用いることができる。同様に、例えば、ヘパラン硫酸分解酵素を活性測定の対象とする場合には、GAGとしてヘパラン硫酸を用いることができる。
蛍光物質が結合されるGAGのサイズも特に限定されない。例えば、HAであれば重量平均分子量が1万〜300万程度のものを例示することができる。なかでも重量平均分子量が2万〜200万程度のものが好ましく、重量平均分子量4万〜120万のものがより好ましい。CHとしては、例えば重量平均分子量1千〜5万程度のものを用いることができる。
【0022】
このようなGAGは、公知の方法で製造することができ、また市販のものを用いることもできる。
【0023】
「蛍光物質が結合したGAG」における「蛍光物質」と「GAG」との結合様式は、両者が何らかの形で結合するものである限りにおいて特に限定されないが、共有結合であることが好ましい。
【0024】
すなわち本発明における「蛍光物質が結合したGAG」として特に好ましいのは、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したHA、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したCS、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したDS、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したKS、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したHS及びフルオレセイン−5−チオセミカルバジドが共有結合したHepである。
【0025】
また、「蛍光物質」が結合しているGAG上の位置も特に限定されないが、GAGのカルボキシル基であることが好ましい。
【0026】
また、「蛍光物質」としてフルオレセイン−5−チオセミカルバジドを用いる場合には、そのヒドラジノ基とGAGのカルボキシル基とがヒドラジド結合しているものが好ましい。
【0027】
すなわち、本発明における「蛍光物質が結合したGAG」として最も好ましいのは、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドのヒドラジノ基と、HAのカルボキシル基とがヒドラジド結合しているHAである。
【0028】
また、GAGに結合している蛍光物質の分子数も特に限定されないが、2分子以上であることが好ましい。
蛍光物質をGAGに結合させる方法(「蛍光物質が結合したGAG」の製造方法)は、蛍光物質とGAGとを結合させることができる方法である限りにおいて特に限定されない。具体例については実施例を参照されたい。
(1−2)検体
本発明方法における「検体」は、活性測定の対象となるGAG分解酵素が含有されているか、又は含有されている可能性があるものである限りにおいて特に限定されない。また検体は、予め精製されている必要もない。すなわち、検体中に、活性測定の対象とするGAG分解酵素以外のGAG分解酵素やその他の蛋白質等が含有されていても、本発明方法では活性測定の対象とするGAG分解酵素を特異的に測定することができる。
【0029】
検体として具体的には、GAG分解酵素溶液、細胞培養上清、組織抽出物、体液(例えば血液、尿等)等が例示される。
(1−3)「蛍光物質が結合したGAG」と検体との接触等
「蛍光物質が結合したGAG」と検体を接触させる方法は、「蛍光物質が結合したGAG」と検体中のGAG分解酵素分子とが接触する状態となる限りにおいて特に限定されない。なおこれらを接触させた後、酵素反応させるためにインキュベートすることが好ましい。インキュベートの条件は、検体中のGAG分解酵素が「蛍光物質が結合したGAG」に作用してこれを分解する反応が惹起される条件である限りにおいて限定されない。具体例については実施例を参照されたい。
【0030】
「蛍光物質が結合したGAG」と検体を接触させることによって、当該GAGに検体中のGAG分解酵素が作用して、当該GAGが低分子化されることになる。
(2)ステップ(B)
ステップ(B)は、前記作用後のGAGをFP分析法によって検出するステップである。
【0031】
ステップ(A)において「蛍光物質が結合したGAG」がGAG分解酵素の作用によって低分子化されるが、その程度は検体中に存在するGAG分解酵素の活性に依存する。本ステップは、「蛍光物質が結合したGAG」の低分子化の程度をFP分析法で検出するステップである。したがって、「前記作用後のGAG」とは、GAG分解酵素の作用を受けた後の「蛍光物質が結合したGAG」を意味する。
【0032】
FP分析法は、公知の方法で行うことができ、そのための各種装置も市販されており、いずれをも使用することができる。具体例は実施例を参照されたい。
【0033】
前記作用後のGAGを、このようなFP分析法によって検出することにより、その検出結果が得られる。
(3)ステップ(C)
ステップ(C)は、ステップ(B)で得られた検出結果と、検体中のGAG分解酵素の活性とを関連づけるステップである。
【0034】
ステップ(B)において、「蛍光物質が結合したGAG」の低分子化の程度が検出される。低分子化の程度は検体中に存在するGAG分解酵素の活性に依存することから、ステップ(B)で得られた検出結果(低分子化の程度の指標となる)と検体中のGAG分解酵素の活性とを関連づけることにより、検体中のGAG分解酵素の活性を測定することができる。
【0035】
「ステップ(B)で得られた検出結果」は、FP分析法によって得られた生データ(例えば、mP値など。)であってもよく、当該生データから所定の数式等を用いて算出された値(例えば、分子量として算出された値など。)であってもよい。
【0036】
検体中のGAG分解酵素の活性が高ければ、「蛍光物質が結合したGAG」の低分子化の程度が高くなるので、これを利用して、「ステップ(B)で得られた検出結果」と検体中のGAG分解酵素の活性との関連づけを行うことができる。
【0037】
例えば、「ステップ(B)で得られた検出結果」として、GAGの低分子化の程度が高いほど高い値を示すもの(例えば、mP値など。)を用いる場合には、当該値が高いほど、検体中のGAG分解酵素の活性は高いと関連づけることができる。
【0038】
また、「ステップ(B)で得られた検出結果」として、GAGの低分子化の程度が高いほど低い値を示すもの(例えば、分子量として算出された値など。)を用いる場合には、当該値が低いほど、検体中のGAG分解酵素の活性は高いと関連づけることができる。
【0039】
なお、本発明方法における「活性測定方法」とは、定量的な測定のみならず、定性的な測定(GAG分解酵素の存否の検出)をも含む概念である。したがって、「ステップ(B)で得られた検出結果」と検体中のGAG分解酵素の活性との関連づけは、定量的なものであっても、定性的なもの(GAG分解酵素活性の有無についての関連づけ)であってもよい。
【0040】
定量的な関連づけは、活性のレベルが既知のGAG分解酵素を用いた結果をもとに予め検量線や関係式を作成しておき、これを用いることによって行うことができる。
【0041】
このような関連づけを行うことにより、検体中のGAG分解酵素の活性を測定することができる。測定される「活性」は、純然たる「酵素の活性」のみならず、酵素の濃度、重量、分子数等として求めてもよい。
【0042】
本発明測定方法は、このようなステップ(A)〜(C)のステップを全て含んでいる限りにおいて、さらに他のステップが加わってもよい。
<2>本発明測定剤
本発明測定剤は、「蛍光物質が結合したGAG」を少なくとも含有する、GAG分解酵素の活性測定剤である。
【0043】
「蛍光物質が結合したGAG」の説明は、本発明測定方法における説明と同じである。
【0044】
したがって、GAGはカルボキシル基を有するGAGであることが好ましく、このGAGはHAであることが好ましい。また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質は、GAGのカルボキシル基部分に結合していることが好ましく、この蛍光物質は、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドであることが好ましく、また「蛍光物質が結合したGAG」における蛍光物質とGAGとの結合は共有結合であることが好ましい。
本発明測定剤は、このような「蛍光物質が結合したGAG」を少なくとも含有する限りにおいて特に限定されず、さらに医薬的又は試薬的に許容される担体(例えば、緩衝剤や安定化剤など。)が含まれていてもよい。また、GAG分解酵素の活性測定に使用する「蛍光物質が結合したGAG」以外のコンポーネント(例えば、PBS、GAG分解酵素の標準品など。)とセットにしたキットの形態であってもよい。
【0045】
本発明測定剤は、前記の本発明測定方法に従って使用することができる。
<3>本発明誘導体
本発明誘導体は、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドとHAとが共有結合していることを特徴とする、HA誘導体又はその塩である。
【0046】
フルオレセイン−5−チオセミカルバジドとHAとを共有結合させる方法としては、
EDCのような水溶性カルボジイミドの存在下で、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドに存在するアミノ基やヒドラジノ基を、HA上のカルボキシル基に結合させる方法が例示される。
【0047】
なかでも、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドのヒドラジノ基とHAのカルボキシル基とがヒドラジド結合していることが好ましい。
【0048】
「塩」としては、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩や、ジエタノールアミン塩、シクロへキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩などが例示される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
<1>材料
以下に、本実施例で用いた材料を説明する。
MES溶液:2.1 gのMES(同仁化学製)を100 mlの蒸留水に溶解し、5 Mの水酸化カリウムでpH 5.5に調整し、これを0.22 μm 孔径のフィルター(ミリポア社製)を用いて濾過滅菌した。
EDC溶液:EDC(SIGMA社製)を0.1 M MES溶液に溶解し、100 mg/mlに調製した。
HA:以下の3種類のHAを用いた。
【0050】
ブタ皮由来の重量平均分子量4万〜6万のHA(生化学工業株式会社製。以下、「HA−L」という。)。
【0051】
鶏冠由来の重量平均分子量約90万のHA(生化学工業株式会社製。以下、「HA−H1」という。)。
【0052】
鶏冠由来の重量平均分子量約90万のHA製剤(商品名:アルツ、生化学工業株式会社製。以下、「HA−H2」という。)
CH:サメ軟骨由来のCH(生化学工業株式会社製)。
<2>方法と結果
1.本発明誘導体の調製
GAG(HA−L、HA−H1、HA−H2及びCH)を、それぞれ終濃度が10 mg/mlになるように0.1 M MESに溶解し、GAG溶液を調製した。このGAG溶液 1 mlに、50 mM フルオレセイン−5−チオセミカルバジド(Molecular Probes社製) 100 μl、100 mg/ml EDC 50 μlを加え、混合溶液を調製した。この混合溶液を室温で一晩インキュベートした後、14000 rpm、室温で10分間遠心し、少量の沈殿を得た。上清を新しいチューブに移した後、室温で1〜2日間PBSに対して透析し(時折PBSを交換する)、遊離のフルオレセイン−5−チオセミカルバジドを除き、本発明誘導体(フルオレセイン−5−チオセミカルバジドのヒドラジノ基がHAのカルボキシル基にヒドラジド結合しているHA)を得た。
【0053】
この本発明誘導体を蒸留水に希釈し、492nmにおける吸光度を測定した結果、GAGにフルオレセイン−5−チオセミカルバジドが結合していることが確認された。
2.蛍光偏光装置を用いたHAaseの活性測定
蛍光標識されたGAG(HA−H1又はCH)各20 μl、5M NaCl 3μl(終濃度150mM)、3M 酢酸ナトリウム(pH 5〜pH 6)1.7μl(終濃度50mM)、及び、種々のレベルの活性を有するHAase溶液を混合し、100 μlの混合溶液を調製した。この混合溶液を37℃で4時間インキュベートして酵素反応させた。
【0054】
反応後の溶液を、PBSで100〜500倍に希釈して十分に撹拌した。撹拌後、この溶液を蛍光偏光システム(Associates of Cape Cod社製)に付し、mP値を測定した。
【0055】
HAaseの活性と検出されたmP値との関係を図1及び図2に示す。図中の丸印は蛍光標識されたHA−H1を用いた結果を、四角印は蛍光標識されたCHを用いた結果を示す。その結果、HA−H1とCHのいずれを用いた場合においても、HAaseの活性と検出されたmP値との間には高い相関性が見られた。特にHAaseの活性が0〜100単位の範囲では、直線的な相関(相関係数:0.95〜0.98)が見られた。
【0056】
したがって本発明方法によって、GAG分解酵素の活性を測定できることが示された。また、図1及び図2は、そのまま検量線として用いることができる。
【0057】
また、0〜100単位のHAaseを用いてこの測定を3回行った結果を、標準誤差とともに図3に示す。図中の斜線の棒グラフはHA−H1の結果を、白抜きの棒グラフはCHの結果をそれぞれ示す。0.1単位のHAaseを用いたCHの結果と、100単位のHAaseを用いたHA−H1の結果については、実施していないため表示していない。図3より、本発明方法は、再現性及び正確性が高い方法であることが示された。
【0058】
また、蛍光標識されたHAとして、蛍光標識されたHA−L及びHA−H2を用いて同様に測定した結果、いずれも蛍光標識されたHA−H1を用いた場合と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明方法は、簡便、迅速、安価かつ高感度なGAG分解酵素活性の測定に利用することができる。また本発明測定剤は、本発明方法のより簡便かつ迅速な実施に利用することができる。また本発明誘導体は、本発明方法や本発明測定剤の有効成分等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】HAaseの活性(0〜1000単位)と、mP値との関係を示す図である。
【図2】HAaseの活性(0〜100単位)と、mP値との関係を示す図である。
【図3】HAaseの活性(0〜100単位)と、mP値との関係の再現性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)の全てのステップを少なくとも含む、検体中のグリコサミノグリカン分解酵素の活性測定方法。
ステップ(A):「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」と検体を接触させ、当該グリコサミノグリカンに検体中のグリコサミノグリカン分解酵素を作用させるステップ。
ステップ(B):前記作用後のグリコサミノグリカンを蛍光偏光分析法によって検出するステップ。
ステップ(C):ステップ(B)で得られた検出結果と、検体中のグリコサミノグリカン分解酵素の活性とを関連づけるステップ。
【請求項2】
グリコサミノグリカンが、カルボキシル基を有するグリコサミノグリカンであることを特徴とする、請求項1に記載の活性測定方法。
【請求項3】
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸又はヘパリンであることを特徴とする、請求項2に記載の活性測定方法。
【請求項4】
「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」における蛍光物質が、グリコサミノグリカンのカルボキシル基部分に結合していることを特徴とする、請求項2又は3に記載の活性測定方法。
【請求項5】
蛍光物質が、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の活性測定方法。
【請求項6】
「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」における蛍光物質とグリコサミノグリカンとの結合が、共有結合であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の活性測定方法。
【請求項7】
「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」を少なくとも含有する、グリコサミノグリカン分解酵素の活性測定剤。
【請求項8】
グリコサミノグリカンが、カルボキシル基を有するグリコサミノグリカンであることを特徴とする、請求項7に記載の活性測定剤。
【請求項9】
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸又はヘパリンであることを特徴とする、請求項8に記載の活性測定剤。
【請求項10】
「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」における蛍光物質が、グリコサミノグリカンのカルボキシル基部分に結合していることを特徴とする、請求項8又は9に記載の活性測定剤。
【請求項11】
蛍光物質が、フルオレセイン−5−チオセミカルバジドであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の活性測定剤。
【請求項12】
「蛍光物質が結合したグリコサミノグリカン」における蛍光物質とグリコサミノグリカンとの結合が、共有結合であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の活性測定剤。
【請求項13】
フルオレセイン−5−チオセミカルバジドとヒアルロン酸とが共有結合していることを特徴とする、ヒアルロン酸誘導体又はその塩。
【請求項14】
フルオレセイン−5−チオセミカルバジドのヒドラジノ基とヒアルロン酸のカルボキシル基とがヒドラジド結合していることを特徴とする、請求項13に記載のヒアルロン酸誘導体又はその塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−25625(P2006−25625A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205239(P2004−205239)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】