説明

グリコシアミジン誘導体

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は腎障害の診断用試薬として有用な新規グリコシアミジン誘導体及びその塩に関する。
(従来の技術)
尿毒症、慢性腎炎、尿路閉塞等の腎障害においては腎臓の機能低下による糸球体濾過値の低下がみられるため、腎障害の診断検査において、糸球体濾過値を測定する検査法がよく用いられており、中でも血漿及び尿中のクレアチニン濃度を指標としたクレアチニンクリアランス試験が繁用されている。
本発明者らは、腎障害におけるクレアチニン等の代謝に関して研究を行った結果、腎障害患者の尿中から新規な化合物を単離同定した。この化合物は腎不全等の病態時に産出亢進され体内蓄積が起こるものであり、血清、脳脊髄液等の体液及び尿中での該化合物の有無及びその量を指標として腎不全など各種腎障害の診断を簡便に行うことができる。
(発明が解決しようとする問題点)
本発明の目的は、腎障害の診断検査における標準品等の試薬として有用なグリコシアミジン誘導体を提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
本発明グリコシアミジン誘導体は、下記の一般式(I)で表される化合物である。


一般式(I)において、R1、R2及びR3は各々同一若しくは異なって水素又は低級アルキル基、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル等の直鎖又は分枝上の炭素数1乃至3のアルキル基を示す。又、Rは水素又はアセチル基を表す。
上記一般式(I)で表される化合物は、互換異性体として下記一般式(II)又は(III)の形で表すこともできる。


〔式中、R1、R2、R3及びRは前記一般式(I)と同じ基を表す〕
本発明グリコシアミジン誘導体は、前記の一般式(I)で表される化合物の薬学的に許容される塩を包含し、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、その他アルミニウム等との金属塩、又は、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、乳酸等の有機酸との付加塩、或いはアンモニア、有機アミン等の有機塩基との塩が挙げられる。
これらの塩は公知の方法により遊離の本発明グリコシアミジン誘導体より製造でき、或いは相互に変換することができる。
本発明化合物において光学異性体が存在する場合には、本発明はこのDL体、D体及びL体のいずれをも包含する。
次に、本発明化合物の製造方法の一例を述べる。例えば、下記一般式(IV):

〔式中、R1、R2及びR3は前記一般式(I)と同じ基を表す。〕
で表される化合物の1位、3位及び/又は2位アミノ基を、t−ブトキシカルボニル等の一般に用いられているアミノ基の保護基で保護した後、四酢酸鉛等の酸化剤で処理し、5位にアセトキシ基を導入する。常法に従ってアミノ基の保護基を脱離し、例えばトリフルオロ酢酸を用いてt−ブトキシカルボニルを脱保護した後、一般に行われている方法によってアセトキシ基の還元を行うことによって、5−ヒドロキシグルコシアミジン誘導体を得ることができる。
得られた本発明化合物は、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等の通常の手段により精製し、融点、元素分析、IR、NMR、UV、マススペクトル等により同定を行った。
(実施例)
実施例1.(1)10gの1−メチルグリコシアミジン及び29gのt−ブトキシカルボニル無水物を300mlのジメチルホルムアミドに溶かし、60℃で一晩攪拌した。反応溶液を濃縮乾固し、残渣に100mlの水を加え100mlの酢酸エチルで2度抽出した。有機層を減圧下濃縮乾固し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(70%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、12.6gのN2−t−ブトキシカルボニル−1−メチルグリコシアミジンを淡黄色針状結晶として得た。
融 点;109−110℃ 同様にて以下の化合物を得た。
N2−t−ブトキシカルボニル−3−メチルグリコシアミジン3−t−ブトキシカルボニル−N2−メチルグリコシアミジン1,N2−ジ−t−ブトキシカルボニルグリコシアミジン(2)11.6gのN2−t−ブトキシカルボニル−1−メチルグリコシアミジン及び36.2gの四酢酸鉛を300mlの乾燥ベンゼンに溶かし、90分間還流した。反応溶液を室温にもどし少量の水を加え、生じた沈澱及び水層を除去後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた溶液をシリカゲルショートカラムに通した後、減圧下濃縮乾固し5−アセチル−N2−t−ブトキシカルボニル−1−メチルグリコシアミジンを油状物として得た。これを精製せずに次の反応に用いた。
同様にして以下の化合物を得た。
5−アセチル−N2−t−ブトキシカルボニル−3−メチルグリコシアミジン5−アセチル−3−t−ブトキシカルボニル−N2−メチルグリコシアミジン5−アセチル−1,N2−ジ−t−ブトキシカルボニルグリコシアミジン(3)上記生成物に100mlのトリフルオロ酢酸を加え、室温で1時間攪拌して保護基を脱離し、5−アセチル−1−メチルグリコシアミジンを得、精製することなく次の反応に用いた。
同様にして以下の化合物を得た。
5−アセチル−3−メチルグリコシアミジン5−アセチル−N2−メチルグリコシアミジン5−アセチル−グリコシアミジン(4)溶媒を減圧下留去し、残渣に1N塩酸を100ml加え、室温で2日間攪拌した。反応溶液を減圧下濃縮乾固し、得られた粗結晶を酢酸エチルで洗浄後、エタノールから再結晶して8.1gの5−ヒドロキシ−1−メチルグリコシアミジン塩酸塩(化合物1)を得た。
融 点:191℃(分解)
元素分析:C4H8N3O2Clとして C% H% N% 計算値: 29.02 4.87 25.38 実測値: 29.10 4.82 25.70 Mass(EI,70eV):m/z129(M+),127,101,73,56,42 NMR(DMSO−d6):δ=3.01(3H,s),5.13(1H,d,J=6Hz),7.69(1H,d,J=6Hz),9.28(1H,s),9.42(1H,s)
同様にして以下の化合物を得た。
5−ヒドロキシ−3−メチルグリコシアミジン塩酸塩(化合物2)
融 点:186℃(分解)
NMR(DMSO−d6):δ=3.07(3H,s),5.35(1H,d,J=9Hz),7.43(1H,d,J=9Hz),7.83(1H,br.s),8.47(1H,br.s),8.54(1H,br.s)
5−ヒドロキシ−H2−メチルグリコシアミジン塩酸塩(化合物3)
融 点:172℃(分解)
NMR(DMSO−d6):δ=2.92(3H,s),5.30+5.36(1H,s),7.39+7.54(1H,br.s),9.54+9.65(1H,br.s),9.97+10.50(1H,br.s),12.48(1H,br.s)
5−ヒドロキシグリコシアミジン塩酸塩(化合物4)
融 点:220℃(分解)
NMR(DMSO−d6):δ=4.82(1H,d,J=7.8Hz),6.21(1H,d,J=7.8Hz),7.07(1H,br.s),7.64(1H,br.s),7.83(1H,br.s)
(発明の効果)
本発明化合物1は腎不全患者において産生亢進及び体内蓄積が認められた。血清、脳脊髄液等の体液や尿中の化合物1の定量は病態把握に重要であるが、都に腎不全患者の血清中での該化合物の有無及び量的推移は腎不全の診断に極めて有用であり、簡便な診断法を提供するものである。
従って、本発明化合物は腎不全、尿毒症、慢性腎炎、尿路閉塞等の各種腎臓障害の診断検査における標準品等の試薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(I):

〔式中、R1、R2及びR3は各々同一若しくは異なって水素又は低級アルキル基、Rは水素又はアセチル基を表す。〕
で表されるグリコシアミジン誘導体及びその塩。
【請求項2】5−ヒドロキシ−1−メチルグリコシアミジン及びその塩。
【請求項3】体液又は尿中の下記一般式(I):

〔式中、R1、R2及びR3は各々同一若しくは異なって水素又は低級アルキル基、Rは水素又はアセチル基を表す。〕
で表されるグリコシアミジン誘導体又はその塩を測定する検査法。
【請求項4】体液又は尿中の5−ヒドロキシ−1−メチルグリコシアミジン又はその塩を測定する検査法。
【請求項5】一般式(I):

〔式中、R1、R2及びR3は各々同一若しくは異なって水素又は低級アルキル基、Rは水素又はアセチル基を表す。〕
で表されるグリコシアミジン誘導体又はその塩を含有する腎障害診断検査用試薬。
【請求項6】5−ヒドロキシ−1−メチルグリコシアミジン又はその塩を含有する腎障害診断検査用試薬。

【特許番号】第2957217号
【登録日】平成11年(1999)7月23日
【発行日】平成11年(1999)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−24134
【出願日】平成2年(1990)2月1日
【公開番号】特開平2−288867
【公開日】平成2年(1990)11月28日
【審査請求日】平成9年(1997)1月24日
【出願人】(999999999)日本臓器製薬株式会社