説明

グリコシル化抗体

【課題】グリコシル化されているFc領域を持ち、それにより、抗体のFc領域に結合される主要コア炭化水素構造が十分にフコシル化されている組換え抗体、およびCHO(チャイニーズハムスター卵巣)宿主細胞の提供。
【解決手段】Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトのIgG1型またはIgG3型の抗体、およびその使用。該抗体は、糖鎖内のフコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNA(N−グリコリルノイラミン酸)が1%またはそれ未満であり、かつ/またはN末端α1,3ガラクトースの量が1%またはそれ未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発現され、かつグリコシル化されているFc領域を持ち、それにより、抗体のFc領域に結合される主要コア炭化水素構造が十分にフコシル化されている組換え抗体に関するものである。本発明はまた、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)宿主細胞、このようなCHO宿主細胞の選択方法およびこのような組換え抗体の使用に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
天然型における免疫グロブリンまたは抗体は、通常2つの軽鎖および2つの重鎖から構成される四量体の糖タンパク質である。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgM、およびIgGのような異なるクラスに、およびIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4のようないくつかのサブクラスに抗体を割り当てる定常ドメインを含む。IgG1およびIgG3クラスのヒト抗体は、通常ADCC(抗体依存性細胞障害)を媒介する。
【0003】
抗体様であり、かつ、例えば、受容体、リガンドまたは酵素のような異種タンパク質の結合ドメイン、および抗体のFc領域を含む、公知の他の分子もある。このようなFc融合タンパク質は、例えば、Stabila, P., et al., Nature Biotech 16 (1998) 1357-1360および米国特許第5,610,297号に記載される。
【0004】
モノクローナル抗体は、ADCC、食作用、補体依存性細胞障害(CDC)、および半減期/クリアランス速度の4つのエフェクター機能を誘発する。ADCCおよび食作用は細胞結合抗体とFcγR(Fcγ受容体)との相互作用によって、CDCは細胞結合抗体と補体系を構成する一連のタンパク質との相互作用によって、媒介される。CDCは、C1q結合性C3活性化および/またはFc部分についてのFc受容体結合に関連する。C1q結合性C3活性化および/または抗体定常部分についてのFc受容体結合を低減する場合には、通常補体系を活性化せず、C1qに結合せず、かつC3を活性化しないIgG4抗体が用いられる。または、L234AおよびL235AまたはD265AおよびN297A(国際公開公報第99/51642号)のようなある一定の変異を有するとともにγ-1重鎖定常領域を含むFc部分が用いられる。
【0005】
エフェクター機能を改善するために抗体の定常ドメインを改変することが、当技術水準において周知である。このような方法が、例えば国際公開公報第99/54342号において記載される。
【0006】
Routier, F.H. et al., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207は、CHO-DUKX細胞において発現されるヒト化IgG1抗体のグリコシル化パターンを報告している。この抗体は、80%のフコシル化比を示す0.8:3.0のFuc:Manモル比を示す。Niwa, R. et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160は、CHO DG44で組換え生成される抗CD20 IgG1およびIgG3抗体について約90%のフコシル化を報告している。Mimura, Y et al., J. Immunol. Methods 247 (2001) 205-216は、ブチレートが機能とグリコフォームプロファイルを維持しながら、CHO-K1細胞においてヒトキメラIgG生成を増加していることを報告している。オリゴ糖のプロファイルは、非フコシル化グリカン構造の相当な含有量を示す。Raju, T.S., BioPress International 1 (2003) 44-53は、治療的な免疫グロブリンの生物活性に対する発現システムによるグリコシル化の変動の衝撃および専門用語を報告している。Ma., S., Anal. Chem,. 71 (1999) 5185-5192は、リツキシマブの炭化水素分析を報告している。リツキシマブは、9〜10%のフコシル化を示す(Niwa, R. et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160)。Fujii, S., J. Biol. Chem. 265 (1990) 6009-6018は、ウシIgGが約11%の非フコシル化IgGを含むことを報告している。Mizouchi, T., J. Immunol. 129 (1982) 2016-2020は、ヒトIgGの約14%がフコシル化されないことを報告している。Bergwerff, A.A., Glycoconjugate J. 12(1995) 318-330は、マウスSP2/0において生成される抗体がN-グリコリルノイラミン酸(NGNA)オリゴ糖を大量に含むことを報告している。Nahrgang, S. et al., Animal Cell Technology:Products from Cells, Cells as Products, Bernard, A. et al. (編), Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, NL, 1999, pp.259-261は、一過性形質移入後のIgG1のCHO発現について、全体的に乏しいグリコシル化が見い出されることを報告している。Lund. J. et al., Mol. Immunol. 30 (1993) 741-748は、マウスのトランスフェクトーマ(transfectoma)細胞においてマウス-ヒト キメラ抗体の組換え生成を報告している。IgG1抗体は、13%の量がフコシル化されない。Patel, T. P. et al., Biochem. J. 285 (1992) 839-845は、ハイブリドーマ細胞およびマウスの腹水由来の抗体のグリコシル化について報告している。Niwa, R. et al., J. Immunol. Methods 306 (2005) 151-160はCD20 IgG1抗体についてCHO DG44における組換え生成後の91%のフコシル化を、Mori, K. et al., Biotech. Bioeng. 88 (2004) 901-908は94%のフコシル化を、報告している。Davies, J., et al., Biotechnol. Bioeng. 74 (2001) 288-294は、変化させたグリコフォームを有する抗体の発現がADCCの増加につながることを報告している。Sheeley, D.M., et al., Anal. Biochem. 247 (1997) 102-110は、異なる発現システムにおける抗体のグリコシル化を比較している。Shields, R.L., et al., J. Biol. Chem. 277 (2002) 26733-26740は、ヒトIgG1 Fcにおけるフコースの欠如によりFcγRIII結合およびADCCが向上することを報告している。約90%がフコシル化されている抗Her2抗体もまた、相当量のADCCを示す。Zhu, L., et al., Nature Biotechnol. 23 (2005) 1159-1169は、ニワトリの卵におけるヒト抗体の生成について報告している。国際公開公報第2004/087756号および国際公開公報第2005/005635号は、改良されたIGF-1Rに対する抗体を開示している。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトのIgG1型またはIgG3型の抗体であり、該糖鎖のフコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNAの量が1%もしくはそれ未満であり、かつ/またはN末端のα-1,3-ガラクトース量が1%もしくはそれ未満であることを特徴とする該抗体を含む。
【0008】
本発明によって、「量」は、100%としてのかつ実施例3で算出されるG0、G1、G2(マンノース(4および5)を含まない)の合計に関連するAsn297における糖鎖内の該糖の量を意味する。
【0009】
本発明によって、さらに99.4%もしくはそれ以上、99.5%もしくはそれ以上、または99.9%もしくはそれ以上フコシル化されている抗体および/またはCHO宿主細胞を提供することが可能である。
【0010】
好ましくは、NGNA量は、0.5%またはそれ未満であり、より好ましくは0.1%またはそれ未満であり、かつLCMS(液体クロマトグラフィー/質量分析)によって検出不可能でさえでもある。
【0011】
好ましくは、N末端のα1,3 ガラクトースの量が0.5%またはそれ未満であり、より好ましくは0.1%またはそれ未満であり、かつLCMSによって検出不可能でさえもある。
【0012】
糖鎖は、好ましくは、CHO細胞において組換えによって発現される抗体のAsn297に付着されるN結合グリカンの特徴を示す。
【0013】
好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。好ましくは、抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0014】
本発明は、Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトIgG1型またはIgG3型の抗体であり、糖鎖内において、フコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNA量が1%もしくはそれ未満であり、かつ/またはN末端のα1,3 ガラクトース量が1%またはそれ未満であることを特徴とする該抗体を組換えにより発現させることが可能であるCHO細胞をさらに含む。
【0015】
このような細胞株は、2006年6月21日にアクセッション番号DSM ACC 2795において、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)、ドイツによって、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託された細胞株hu MAb<IGF-1R>B1-4E10_9-16)である。
【0016】
好ましい糖の量は上記である。
【0017】
好ましくは、CHO細胞は、DHFRの両対立遺伝子の欠失(例えば、DG44)もしくは機能的不活性化またはDHFRの一方の対立遺伝子の欠失およびDHFRの第2の対立遺伝子の機能的不活性化(例えば、DXB11)を含むCHO細胞である。
【0018】
本発明は、ヒトの医学療法における使用のための本発明に係る組成物をさらに含む。
【0019】
本発明に係る組成物の抗体は、好ましくは、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト抗体、IgG1もしくはIgG3重鎖定常部分またはIgG1もしくはIgG3重鎖定常部分を含む単鎖抗体である。
【0020】
本発明は、医用薬剤の製造のための本発明に係る抗体の使用をさらに含む。好ましくは、医用薬剤は、T細胞による疾患、自己免疫疾患、感染症、癌疾患の治療のための免疫抑制に有用である。
【0021】
本発明は、本発明に係る抗体を含む薬学的組成物をさらに含む。
【0022】
本発明のさらなる目的は、Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトIgG1型またはIgG3型のモノクローナル抗体であり、該糖鎖のフコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNA量が1%またはそれ未満であり、かつ/またはN末端α1,3ガラクトース量が1%またはそれ未満であることを特徴とする該抗体の組換え生成のためのCHO細胞の選択方法であって、IgG1抗体またはIgG3抗体およびDHFR遺伝子によって形質移入されたCHO細胞をDHFRおよびMTX選択圧下で培養する段階、単一クローンをつつき、このクローンを拡大する段階、および本発明に係るグリコシル化パターンを持つ抗体を生成するクローンを選択する段階を含む方法である。好ましくは、培養は、少なくとも2週間、好ましくは少なくとも3週間行われる。
【0023】
本発明のさらなる目的は、モノクローナル抗体の組換え生成のための本発明に係るCHO細胞の使用である。
【0024】
本発明のさらなる目的は、本発明に係るCHO細胞におけるモノクローナル抗体の組換え生成のための方法である。
【0025】
CHO細胞は、異種性ポリペプチドの組換え発現に有用である宿主細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の抗体におけるならびに対照抗体および比較抗体におけるADCC活性またはその欠如を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
抗体は、重鎖定常領域における保存位置に炭化水素構造を含み、各アイソタイプが、タンパク質の構築、分泌または機能的活性に可変的に影響を及ぼすN結合炭化水素構造の異なるアレイを保有する(Wright, A., and Morrison, S.L., Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32)。付着型N結合炭化水素構造は、プロセシングの程度に依存してかなり変化し、かつ高マンノース、多分岐複合オリゴ糖ならびに二分岐複合オリゴ糖を含むことができる(Wright, A., and Morrison, S. L., Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32)。
【0028】
IgG1型およびIgI3型の抗体は、保存されたN結合グリコシル化部位を各CH2ドメインのAsn297に有する糖タンパク質である。Asn297に付着された2つの複合二分岐オリゴ糖は、CH2ドメイン間に埋められ、ポリペプチドバックボーンとの広範囲の接触を形成し、かつそれらの存在は、抗体が抗体依存性細胞障害(ADCC)のようなエフェクター機能を仲介するために必須である(Lifely, M.R. et al., Glycobiology 5 (1995) 813-822; Jefferis, R., et al., Immunol Rev. 163 (1998) 59-76; Wright, A. and Morrison, S.L., Trends Biotechnol. 15 (1997) 26-32)。
【0029】
本明細書で使用される場合の「ヒトIgG型のFc領域」という用語はまた、好ましくは免疫グロブリン(抗体)のFc領域についての天然型対立遺伝子変種ならびに置換、追加または欠失であるがAns297グリコシル化に影響を及ぼさない改変を有する変種を含む。例えば、1つまたは複数のアミノ酸を、生物学的機能の実質的な喪失のない免疫グロブリンのFc領域のN末端またはC末端から欠失させることができる。このような変種は、活性に対して極めてわずかしか影響を及ぼさないように当技術分野で公知の一般的な規則に従って選択されることができる(Bowie, J.U., et al., Science 247 (1990) 1306-1310参照のこと)。
【0030】
「抗体」という用語は、本発明に係る特徴的な特性が保持される限り、抗体全体、抗体断片、ヒト抗体、ヒト化抗体、および遺伝子操作された抗体を含むがこれらに限定されない抗体の様々な形態を含む。このため、本発明に係る抗体は、グリコシル化Asn297を含むIgG1型またはIgG3型の少なくとも機能的に活性な(FcR結合)Fc部分を含む。
【0031】
本明細書で用いられる場合の「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、同一のアミノ酸配列の抗体分子の調製物を指す。従って、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から得られる可変領域および定常領域を有する単一の結合特異性を示す抗体を指す。
【0032】
「キメラ抗体」という用語は、1つの供給源または種由来の、可変領域、すなわち結合領域、および異なる供給源または種から得られる定常領域の少なくとも一部を含み、通常組換えDNA技術によって調製されるモノクローナル抗体を指す。ネズミ可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が特に好ましい。このようなネズミ/ヒト キメラ抗体は、ネズミ免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントおよびヒト免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含む発現される免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を作製する方法は、現在では当技術分野で周知の組換えDNA技術および遺伝子形質移入技術を含む(例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号参照のこと)。
【0033】
「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が親免疫グロブリンと比較した場合に異なる特異性の免疫グロブリンのCDRを含むよう改変されている抗体を指す。好ましい態様において、ネズミCDRは、「ヒト化抗体」を調製するためにヒト抗体のフレームワーク領域に接ぎ合わされる(例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270参照のこと)。特に好ましいCDRは、キメラ抗体および二機能性抗体のための上記の抗原を認識する配列を表しているものに対応する。
【0034】
本明細書で用いられる場合の「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から得られた可変領域および定常領域を有する抗体を含むよう意図されている。このような領域は、例えば、Johnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218およびその中で参照されるデータベースによって記載され、本発明に係る特性が保持される限り有用である。ヒト抗体は、当技術水準において周知である(van Dijk, M.A., and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。免疫化を受けて、内因性免疫グロブリン生成のないヒト抗体の完全レパートリーを作製するかまたはこの抗体を選択することができる形質転換動物(例えばマウス)において、ヒト抗体はまた生成されることができる。このような生殖系列変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、抗原曝露されるとヒト抗体の生成をもたらす(例えば、Jakobovits, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555;Jakobovits, A., et al., Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann, M., et al., Year Immunol. 7 (1993) 33-40参照のこと)。ヒト抗体はまた、ファージディスプレーライブラリーにおいて生成されることができる(Hoogenboom, H.R., and Winter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388;Marks, J.D., et al., J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole et al.およびBoerner et al.の技術はまた、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p.77 (1985);およびBoerner, P., et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。ヒト抗体は、抗体の様々な形態、好ましくは、本発明に係る特徴的な特性が保持される限り、抗体全体、抗体断片および遺伝子操作された抗体(変種または変異体抗体)を含むがこれらに限定されないモノクローナル抗体を含む。特に好ましいのは、組換えヒト抗体である。
【0035】
本明細書で用いられる場合の「組換えヒト抗体」という用語は、このような宿主細胞に形質移入される組換え発現ベクターを用いて、本発明に係る宿主細胞から単離される抗体のような、組換え手法によって調製、発現、産生または単離されるすべてのヒト抗体を含むよう意図されている。
【0036】
「定常ドメイン」は、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、エフェクター機能などの他の機能を示す。IgG1に対応する重鎖定常領域はγ1鎖と呼ばれる。IgG3に対応する重鎖定常領域はγ3鎖と呼ばれる。ヒト定常γ重鎖は、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5編, Public Health Service, National Insititutes of Health, Bethesda, MD. (1991)によって、およびBrueggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361;Love, T.W., et al., Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527によって、詳細に記載されている。IgG1型またはIgG3型の定常ドメインは、Asn297においてグリコシル化されている。本発明に係る「Asn297」は、Fc領域の297位あたりに位置するアミノ酸のアスパラギンを意味し;抗体の些細な配列差異に基づいて、Asn297はまた、いくらかのアミノ酸(通常はせいぜい±3アミノ酸)上流または下流に位置することもできる。例えば、本発明に係る1つの抗体において、「Asn297」はアミノ酸298位に位置する。
【0037】
ヒトIgG1またはIgG3のグリコシル化は、最大2つの Gal(ガラクトース)残基で終わるコアのフコシル化二分岐複合オリゴ糖グリコシル化として、Asn297において起こる。これらの構造は、末端のGal残基量に依存して、G0、G1(α1,6またはα1,3)またはG2グリカン残基として呼ばれる(Raju, T.S., BioProcess International 1 (2003) 44-53)。抗体Fc部分のCHO型グリコシル化は、例えばRoutier, F. H., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207によって記載される。
【0038】
本明細書で用いられる場合の「可変領域」(軽鎖(VL)の可変領域、重鎖(VH)の可変領域)とは、抗体の抗原への結合に直接関与する軽鎖および重鎖のそれぞれの対を示す。
【0039】
本発明によって、本発明に係るグリコシル化パターンを示すモノクローナル抗体の組成物を組換え発現によって提供することができる抗体生成CHO宿主細胞を、選択することができる。このようなCHO宿主細胞は、このような抗体の組換え発現のための1つまたは複数の発現ベクターを含む。好ましくは、宿主細胞はこのベクターで安定に形質移入され、抗体をコードする核酸は、CHO宿主細胞ゲノムに組み込まれる。
【0040】
「CHO細胞」という用語は、二機能的に不活性化された、好ましくは欠失されたdhfr対立遺伝子(ジヒドロ葉酸還元酵素欠損(dhfr-))に基づくチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の様々な形態を含む。このようなdhfr-細胞およびそれらの作製方法は、例えば、Urlaub, G.. et al., Cell 33 (1983) 405-412;Urlaub, G. et al., Som. Cell Molec. Genet. 12 (1986) 555-566;Kolkekar et al., Biochemistry 36 (1997) 10901-10909に記載される。好ましくは、細胞はDG44細胞株である。このようなCHO dhfr-細胞を、全dhfr遺伝子座を除去するためにγ放射線を用いて作製することができる。非変異野生型細胞において、dhfrは、グリシン、プリン、およびチミジレートの新規合成に必須の酵素である。これにより、プラスミド上でコードされるdhfr遺伝子がdhfr-欠損細胞株における優性の選択マーカーとしておよびタンパク質の発現用の遺伝子増幅器として用いられることが可能となる。DG44細胞のdhfr-変異は安定であり、かつ不可逆性である。ヒトIgG1型またはIgG3型の抗体のための発現ベクターとDHFR遺伝子とによる同時形質移入に成功したCHO細胞は、dhfr+表現型を持つと考えられ、かつ増幅のために、チミジンおよびヒポキサンチンを欠き、任意でメトトレキサート(MTX)を含む培地でコロニーを培養することによって容易に選択されることができる。
【0041】
DG44細胞は、当技術水準で周知であり、例えば、Invitrogen Corp.(USA)から細胞株として、例えば市販されている。DG44細胞は、懸濁液中でおよび/または無血清培地中で接着増殖することができる。本明細書で用いられる場合の「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養」という表現は相互互換的に用いられ、CHO dhfr-細胞株(2つの欠失されたdhfr対立遺伝子)のこのような呼称すべては子孫を含む。従って、「形質転換体」および「形質転換細胞」という語は、移行数に関わりなく初代の対象細胞およびそれから得られる培養物を含む。すべての子孫は、意図的なまたは偶然の変異のため、DNA含有量において正確には同一ではない可能性があることも理解される。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされるように本発明に係るグリコシル化特性を有する変種子孫が含まれる。
【0042】
好ましくCHO dhfr-細胞株は、1つの選択マーカー遺伝子としての少なくともDHFRとともに同時増幅される。例えば選択マーカーを含むほ乳類発現ベクターおよび抗体遺伝子は、受容CHO細胞に同時形質移入される。得られたコロニーを選択することができ、予想される表現型を示すコロニーが抗体を発現することができる。追加の選択マーカーは、優性の性質を持つか、またはこの性質を持たなくてもよい。同時形質移入で使用するための追加の選択マーカーの例には、アデノシン脱アミノ酸酵素(Kaufman, R.J., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 3136-3140)アスパラギン合成酵素(Cartier, M., et al., Mol.Cell Biol. 7 (1987) 1623-1628)、大腸菌(E. coli)trpB遺伝子およびサルモネラ(Salmonella)hisD遺伝子(Hartman, S.C., and Mulligan, R.C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988) 8047-8051)、M2マウスリボヌクレオチド還元酵素(Thelander, M., and Thelander, L., EMBO J. 8 (1989) 2475-2479)、ヒト多剤耐性遺伝子(Kane, S.E., et al., Gene 84 (1989) 439-446)、グルタミン合成酵素(Bebbington, C.R. et al., DNA Cloning, Vol. III, D.M. Glover (編), IRL Press,163-188頁, 1987)、キサンチングアニンホスホリボシル転移酵素(gpt)(Mulligan, R.C., and Berg, P., Science 209 (1980) 1422-1427)、ハイグロマイシンB(Santerre, R. F., et al., Gene 30 (1984) 147-156)、ネオマイシン遺伝子(Southern, P. J. and Berg, P., J. Mol. Appl.Genet. 1 (1982) 327-341)が含まれる。
【0043】
選択マーカーはまた、抗体をコードする遺伝子を増幅できる基礎を提供することができる。CHO細胞株の同時形質移入において、ベクターDNAは、細胞の染色体へ同じ遺伝子座に組み込まれることが多い。このため、増幅の基礎として選択マーカーの1つのみを使用することで、通常両遺伝子のコピー数の平行した増幅を生じる。このような手法における使用のための1つの特定の選択マーカーは、MTXの濃度増加を用いることによって所望の増幅を得ることができるようにするdhfrである。第2の好ましい選択マーカーは、メチオニンスルスルホキシイミン(MSX)の添加によって増幅を可能にするGSである。
【0044】
選択マーカーは、当然それらの発現を提供するようにDNAの調節エレメントの制御下にある。選択マーカーとしてdhfrを使用する場合には、調節エレメントは好ましくはDNA腫瘍ウイルス由来のようなウイルス供給源のものである。特に好ましいのは、SV40またはアデノウイルス主要後期プロモーターの使用である。この点について、プロモーターからエンハンサーエレメントを除去し、このように効率的にそれを「損なう(crippling)」ことが特に都合がよい。強力なプロモーターを用いた場合には、この改変により、メトトレキセート選択の各濃度における遺伝子増幅のレベルが他の方法で行うよりも増加することが可能になる。選択マーカーとしてネオマイシンを使用する場合において、適切なプロモーターの例はマウスのメタロチオネインプロモーターである。
【0045】
本明細書で用いられる場合の核酸または核酸分子という用語は、DNA分子およびRNA分子を含むよう意図されている。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0046】
核酸は、それが他の核酸配列と機能的な関係に置かれる場合に、「機能的に連結」される。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与する前タンパク質として発現される場合には、ポリペプチドのためのDNAに機能的に連結されるか;プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合には、コード配列に機能的に連結されるか;またはリボソーム結合部位は、それが転写を促進するために配置される場合には、コード配列に機能的に連結される。一般的には、「機能的に連結される」とは、連結されるDNA配列が、シスであり、かつ分泌リーダーの場合には隣接し、読み枠内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接しなくてもよい。連結は、都合のよい制限酵素部位においてライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが従来の実施に従って用いられる。
【0047】
本発明に係る抗体は、好ましくは組換え手法によって生成される。このような方法は、当技術水準において幅広く公知であり、後に続く抗体ポリペプチドの単離と通常は薬学的に許容される純度までの精製とを伴う原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現を含む。タンパク質発現のために、軽鎖および重鎖またはそれらの断片をコードする核酸は、標準的な方法によって発現ベクターに挿入される。発現はCHO宿主細胞において行われ、抗体は好ましくは溶解後に細胞または上清から回収される。
【0048】
抗体の組換え生成は、当技術水準において周知であり、例えばMakrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の概説論文において記載されている。
【0049】
抗体は、細胞全体に、上清に、細胞可溶化物に、または部分精製形態もしくは実質的に純粋な形態に存在してもよい。精製は、他の細胞成分または他の夾雑物、例えば他の細胞の核酸またはタンパク質を、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動法、および当技術分野において周知の他のものを含む標準的な技術によって除去するために行われる(Ausubel, F., et al.編. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987))。
【0050】
原核生物に適した対照配列は、例えば、プロモーター、任意でオペレーター配列、およびリボソーム結合部位を含む。真核生物細胞は、プロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを用いることが公知である。
【0051】
モノクローナル抗体を、例えばプロテインA-セファロース、ハイドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリン精製手順によって、ハイブリドーマ培養液から適切に分離することができる。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて、ハイブリドーマから容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞はこのようなDNAおよびRNAの供給源となることができる。一旦同定および単離されると、DNAは発現ベクターに挿入され、このベクターは、その後、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得るために、他の方法では免疫グロブリンタンパク質を生成しないCHO細胞に形質移入される。
【0052】
別の局面において、本発明は、薬学的に許容される担体とともに製剤化される本発明の組成物を含む薬学的組成物を提供する。好ましくは、国際公開公報第98/22136号に係る薬学的組成物が用いられる。このような組成物は、例えば、1ml中に、2.0mgの抗体、15mM リン酸緩衝液 pH6.5、30mM 塩化ナトリウム、25mg マンニット、アルギニン 10mg、0.1mg Tween(登録商標)20を含む。
【0053】
本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される担体」は、任意のおよびすべての溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、ならびに生理学的に適合性である同様のものを含む。好ましくは、担体は、静脈内、筋内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば注射または注入)に適している。
【0054】
「薬学的に許容される塩」は、抗体の所望の生物活性を保持し、いずれの望まない毒物学的影響も与えない塩を指す(Berge, S.M., et al., J. Pharm. Sci. 66 (1977) 1-19参照のこと)。このような塩は本発明に含まれる。このような塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、塩化水素塩のような非毒性無機酸から得られるものを含む。
【0055】
本発明の組成物は、当技術分野において公知である様々な方法によって投与されることができる。当技術者によって理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に依存して変化すると考えられる。
【0056】
ある一定の投与経路によって本発明の化合物を投与するには、化合物の不活性化を防ぐために、化合物を材料で被覆するかまたは化合物を材料と同時投与する必要がある場合がある。例えば、化合物は、適切な担体、例えば、リポソーム、または希釈液中で被験者に投与されてもよい。薬学的に許容される希釈液は、生理食塩水および水溶性緩衝溶液を含む。
【0057】
薬学的に許容される担体は、無菌の注射可能な溶液もしくは分散系の即時調製用の無菌の水溶性の溶液または分散系および無菌粉末を含む。薬学的に活性のある物質のためのこのような媒質および薬剤の使用は当技術分野で公知である。
【0058】
本明細書で用いられる場合の「非経口投与」および「非経口で投与される」という句は、通常注射による、経腸投与および局所的投与以外の投与様式を意味し、静脈内、筋内、動脈内、硬膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、髄腔内、硬膜外、および胸骨内(intrasternal)の注射ならびに注入を含むが、これらに限定されない。
【0059】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤のような補助剤を含んでもよい。微生物の存在の防止は、殺菌手順、上記による、および様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、および同様のものの包含による両方で確実にされることができる。糖、塩化ナトリウム、および同様のもののような等張剤を組成物へ含めることも望ましい場合がある。さらに、注射可能な薬学的形態の吸収の延長が、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延する薬剤の包含によって引き起こされてもよい。
【0060】
選択される投与経路に関わらず、適した水和形態で用いられてもよい本発明の化合物および/または本発明の薬学的組成物は、当技術分野において公知である従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0061】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、特定の患者、組成物、および投与様式についての、この患者に毒性のない、所望の治療応答を実現するために有効である活性成分の量を得るように、変化されてもよい。選択される投与量レベルは、用いられる本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、用いられる特定の化合物の排出速度、治療期間、その他の薬剤、化合物および/または用いられる特定の組成物と併用される材料、年齢、性別、体重、体調、全体的な健康および治療される患者の以前の病歴、ならびに医学分野で周知の同様の因子を含む多様な薬物動態因子に依存すると考えられる。
【0062】
組成物は、無菌であり、かつ組成物がシリンジで送達可能な程度で流体である必要がある。水に加えて、担体は、等張性緩衝生理食塩溶液、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール、および同様のもの)、ならびにそれらの適した混合物であることができる。
【0063】
適切な流動性は、例えば、レシチンのような被覆剤の使用によって、分散については必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持されることができる。多くの場合、組成物中に、等張物質、例えば、糖、マンニトールまたはソルビトールのような多価アルコール、ならびに塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期間の吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを組成物中に含むことによって、引き起こされることができる。
【0064】
以下の実施例および図面は、本発明、添付の特許請求の範囲に記載されるその真の範囲の理解を助けるために提供される。本発明の精神から逸脱することなく記載される手順において改変がなされうることが理解される。
【実施例】
【0065】
実施例
細胞株
組換えIgG発現のための細胞株の作製に用いられる親細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、CHO-DG44である(Flintoff, W.F. et al., Somat. Cell Genet. 2 (1976) 245-261; Flintoff, W.F. et al., Mol. Cell. Biol. 2 (1982) 275-285; Urlaub, G. et al., Cell 33 (1983) 405-412;Urlaub. G. et al., Somat. Cell Mol. Genet. 12 (1986) 555-566)。CHO-DG44細胞は、酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の内因性の両遺伝子座を喪失している。
【0066】
CHO-DG44細胞は、MEM alpha Minus Medium(Gibco No.22561)、10%透析済みFCS(Gibco No.26400-044)および2mmol/L L-グルタミン、100μM ヒポキサンチン、16μM チミジン(HT補充)中で増殖された。
【0067】
プラスミド
発現システムは、CMVプロモーターを含んだ。この発現システムは表1に記載される。抗体として、IGF-1R(国際公開公報第2005005635号;AK18またはAK22)に対する抗体を用いた。
【0068】
(表1)


【0069】
実施例1
形質移入および選択
発現プラスミドの形質移入は、Fugene(Roche Diagnostics GmbH)を用いて行った。形質移入の1日後に、DG44細胞は、MEM alpha Minus Medium、10% 透析済みFCSおよび2mmol/L L-グルタミンおよび20nM メトトレキセート(MTX)からなる選択圧下に置いた。選択圧下3週間後に、単一クローンをプレートから選び、拡大した。
【0070】
上清を回収し、抗体の存在をヒトIgG特異的ELISAで分析した。サブクローンをさらに拡大し、特異的な抗体生成について分析した。
【0071】
クローンを懸濁培地および20mM MTX含有無血清培地HyQ SFM4 CHO-Utility(HyClone #SH30516)中で増殖するよう適合させた。平行して、糖パターン(glycopattern)プロファイルを決定した。2.0%またはそれ未満の脱フコシル化(defucosylation)(オリゴ糖の全モル量に関する)を提供するサブクローンを選択した。
【0072】
実施例2
培養および生成
3×105細胞/mlを30mlの培地で満たした125mL 攪拌フラスコ(Corning)中で37℃、5% CO2、100rpmにおいて10日間増殖させた。細胞密度をCASYカウンターによって測定し、上清をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって抗体濃度の測定のために採取した。約20mlの各上清をプロテインAクロマトグラフィーによってさらなる生化学的検討のために精製した(PBSで平衡化、25mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH5.2で洗浄、100mM クエン酸ナトリウム緩衝液 pH2.8で溶出、10mM NaOHでCIP)。
【0073】
実施例3
抗体の糖構造(glycostructure)分析
精製された抗体材料を液体クロマトグラフィー/質量分析(LCMS)ペプチドマップ解析によって分析した。試料を、還元し(0.4M TRIS/HCl、8M グアニジン/HCl、pH 8.5、DTT(3mg/ml))、カルボキシメチル化し(ヨード酢酸)、トリプシンで切断した。ペプチド-糖ペプチド混合物を、RP-HPLCで分離し、エレクトロスプレー質量分析によってオンラインで分析した。ペプチドを含む糖構造m/zスペクトルを積分した。結果を表2に示す。
【0074】
(表2)グリコシル化変種の相対量

Man:それぞれ4個および5個のマンノース残基を持つ高マンノース構造。
G0、G1、G2:1個、2個または3個の末端ガラクトース残基を有するフコシル化二分岐複合体型炭化水素を有する還元された重鎖。
nonFuc:フコースを有さない二分岐複合体型炭化水素を有する還元された重鎖。
【0075】
CHO細胞株クローン5(hu MAb<IGF-1R>B1-4E10_9-16)は、2006年6月21日にアクセッション番号DSM ACC 2795において、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)、ドイツによって、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託された。
【0076】
様々なクローンの培養に用いられる培地は、Hyclone(クローン4〜6について用いられたHyQ SFM4 CHO-Utility)またはSigma(クローン1〜3およびクローン7について用いられたC-8862)より入手した。
【0077】
LCMSペプチドマップ解析は、すべての糖ペプチドについてのすべての電荷状態の特異的なイオンクロマトグラムの積分によって行われた。
【0078】
GlcNacを二分することで、NGNAおよび高マンノースが同様に決定された。
【0079】
GlcNacおよびNGNAを二分することは検出不可能であった。GlcNacおよびNGNAを二分することは検出不可能であるため、NGNA量は0.5%またはそれ未満であり、また0.1%またはそれ未満である。二分しているGlcNacの量もまた0.5%またはそれ未満、および0.1%またはそれ未満である。
【0080】
グリコシル化の例示的な計算(クローン3)を表3に示す(表3a:クローン3、表3b:クローン5;H27と命名されたasn298を含むペプチド)。
【0081】
(表3a)


面積:ピーク面積
H27_G0〜H27_G4:x末端ガラクトースを有するフコシル化二分岐複合体型炭化水素(例えば4個のガラクトース単位を有するG4)を有する糖ペプチド H27(Asn298を含む)
Fucを含まない相対量:マンノース(4および5)糖構造(高マンノース)を含まないすべてのG0、G1、G2に関してのFucのパーセンテージ
H27_G1_1NGNA〜H27_G3_2NGNA:1〜2個のN-グリコリル-ノイラミン酸を持つx末端ガラクトース単位(例えば2単位を有するG2)を有するフコシル化二分岐複合体型炭化水素を有するAsn298を含む糖ペプチドH27
【0082】
(表3b)グリコシル化の例示的な計算(クローン5)

1)x末端ガラクトースを有するフコシル化二分岐複合体型糖構造(それぞれ0、1、2、3および4)
2)追加のn-グリコリルノイラミン酸残基を有するx末端ガラクトースを有するフコシル化二分岐複合体型糖構造(それぞれ0、1、2、3および4)
3)フコシル化二分岐複合体型糖構造(主に方法の人工産物)
4)それぞれ4個または5個のマンノース残基を持つ高マンノース構造
5)非フコシル化糖構造
【0083】
実施例4
抗IGF-IR HuMAbによる抗体媒介エフェクター機能の決定
作製されたHuMAb抗体の免疫エフェクター機序を誘発する能力を決定するために、抗体依存性細胞障害(ADCC)研究が行われた。
【0084】
作製されたHuMAb抗体の免疫エフェクター機序を誘発する能力を決定するために、抗体依存性細胞障害(ADCC)研究が行われた。
【0085】
ADCCにおける抗体の作用を研究するために、IGF-IRを発現するDU145前立腺癌細胞(HTB-81;2〜4mlのRPMI-FM中1×106)を、1μl bis(アセトキシメチル)2,2':6',2''-ターピリジン-6,6''-ジカルゴキシレート(BATDA)溶液で細胞培養器において25分間37℃で標識した。細胞を10mlのRPMI-FMで4回洗浄し、10分間200×gでブレーキをかけながら回転させた。その後、細胞を1mlあたり1×105細胞の濃度まで調整した。50μlの体積に相当する丸底プレートの1ウェルにつき5,000細胞を蒔いた。HuMAb抗体は、50μlの体積の細胞培養用培地中に25〜0.1ng/mlの範囲の最終濃度で添加された。続いて、50μlのエフェクター細胞、全血から直前に単離されたPBMCまたは軟膜から精製されたエフェクター細胞を、E:T比を25:1の範囲で添加した。プレートを、ブレーキをかけながら1分間200×gですぐに遠心分離し、2時間37℃でインキュベートした。インキュベート後、細胞を10分間200×gで遠心沈殿し、20μlの上清をOptiplate 96-Fマイクロタイタープレートに移した。200μlのユーロピウム溶液(室温において)を添加し、混合物を15分間攪振盪機でインキュベートした。得られた蛍光をPerkin ElmerのEU-TDAプロトコールを用いて時間分解型蛍光光度計で測定した。
【0086】
ADCCによる細胞溶解の規模は、それぞれの標的細胞からの2,2':6',2''-ターピリジン-6,6''-ジカルボキシレート(TDA)の自発的放出について補正された、界面活性剤によって溶解された標的細胞からのTDAの最大放出の%として表される。「ADCCなし」を示す抗体の参照標準として、KLH(スカシ貝ヘモシアニン)に対する(モノクローナル)抗体または約35.000ドナーから単離されたIgG混合物を用いる。IGF-IRに対する75%フコースを含まない抗体を陽性対照として用いた。本発明に係る抗体は標準抗体のTDA放出の3×SD内であるTDA放出を示した(図1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトIgG1型またはIgG3型の抗体であって、該糖鎖内のフコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNA量が1%またはそれ未満であり、かつ/またはN末端α1,3ガラクトース量が1%またはそれ未満であることを特徴とする、抗体。
【請求項2】
NGNA量が0.5%またはそれ未満であることを特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
N末端α1,3ガラクトース量が0.5%またはそれ未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の抗体。
【請求項4】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトIgG1型またはIgG3型の抗体を組換えによって発現することができるCHO細胞であって、該抗体が、該糖鎖内でフコース量が少なくとも99%であり、さらにNGNA量が1%またはそれ未満であり、かつ/またはN末端α1,3ガラクトース量が1%またはそれ未満であることを特徴とする、CHO細胞。
【請求項6】
2つのDHFR対立遺伝子の欠失を含むことを特徴とする、請求項5記載のCHO細胞。
【請求項7】
CHO細胞株DSM ACC 2795。
【請求項8】
ヒト医学療法における、請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項9】
医用薬剤の製造のための、請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項10】
T細胞による疾患、自己免疫疾患、感染症、癌疾患の治療のための免疫抑制用の医用薬剤の製造のための、請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項12】
DHFR選択圧下で、IgG1抗体またはIgG3抗体を形質移入したCHO細胞を培養する段階、単一クローンを選び、このクローンを拡大する段階、および本発明に係るグリコシル化パターンを有する抗体を生成するクローンを選択する段階
を含む、Asn297において糖鎖でグリコシル化されているヒトIgG1型またはIgG3型のモノクローナル抗体の組換え生成のためのCHO細胞の選択方法であって、
該抗体が、該糖鎖内のフコース量が少なくとも99%であり、さらに、NGNA量が1%またはそれ未満であり、かつ/またはN末端α1,3ガラクトース量が1%またはそれ未満であることを特徴とする、方法。
【請求項13】
モノクローナル抗体の組換え生成のための、請求項5〜7のいずれか一項記載のCHO細胞の使用。
【請求項14】
請求項5〜7のいずれか一項記載のCHO細胞における、モノクローナル抗体の組換え生成のための方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−254996(P2012−254996A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165498(P2012−165498)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2009−504627(P2009−504627)の分割
【原出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】