説明

グリコペプチドホスホン酸誘導体の塩酸塩

【課題】テラバンシンの安定性を改良すること
【解決手段】約2.4重量%〜4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩が、開示される。開示された塩は、他の塩酸塩と比較して周辺温度での安定性を改善した。またそのような塩を調製するためのプロセスもまた、開示される。1つの実施形態では、本発明は、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩に関する。さらに別の実施形態では、本発明は、テラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含み、その組成物のpHが、約2.5〜約5.0の範囲にある組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、グリコペプチド抗生物質のホスホン酸誘導体の塩酸塩に関し、その塩は抗生物質薬剤を含有する薬学的組成物を、処方するために有用である。本発明はまた、そのような塩を調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
グリコペプチド(例えば、ダルバヘプチド(dalbaheptides))は、種々の微生物により産生される、周知の抗生物質の種類である(非特許文献1を参照のこと)。これらの複雑な多環ペプチド化合物は、主要なグラム陽性細菌に対して非常に有効な抗細菌性薬剤である。
【0003】
同一人に譲渡された特許文献1は、全体として本明細書に参考として援用されるが、広範囲のグラム陽性細菌に対して効果的な抗細菌活性を有する強力な抗生物質薬剤である新規な種類のグリコペプチドホスホン酸誘導体を開示する。
【0004】
詳細には、本出願は、下記式1の化合物を開示する。
【0005】
【化1】

本化合物は、テラバンシンとして当該分野では公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,635,618号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.Nagarajan編、Glycopeptide Antibiotics、Marcel Dekker,Inc.New York(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薬学的組成物および処方物の調製においてテラバンシンを効率的に使用するために、周辺温度での貯蔵中の安定性が改善された塩の形態を持つことは非常に望ましいことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を提供する。驚くべきことに、そのような塩酸塩は、テラバンシンの他の塩酸塩と比較して、周辺温度での貯蔵中の安定性が改善されることが分かってきた。
【0010】
従って、1つの実施形態では、本発明は、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩に関する。
【0011】
別の局面では、本発明は、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を調製するためのプロセスに関し;そのプロセスは、
(a)約4.8重量%より大きい塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含む組成物を提供する工程であって、ここで該組成物は、約2.0以下のpHを有する、工程;
(b)該組成物のpHを約2.5〜約5.0に調整し、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を形成する、工程;ならびに
(c)工程(b)で生成された該テラバンシンの塩酸塩を単離する、工程
を包含する。
【0012】
さらに別の実施形態では、本発明は、テラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含み、その組成物のpHが、約2.5〜約5.0の範囲にある組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、後述するとおりの効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、それらのサンプルが25℃で貯蔵される場合の時間に対する、テラバンシン塩酸塩の8個のサンプルに存在するプソイドアグリコンのHPLC面積%を示す図である。
【図2】図2は、それらのサンプルが25℃で貯蔵される場合の時間に対する、テラバンシン塩酸塩の8個のサンプルに存在するアグリコンのHPLC面積%を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
本発明は、周辺温度での貯蔵中の安定性が改善された特定のテラバンシン塩酸塩に関する。そのような塩は、薬学的組成物および処方物を調製するために有用である。
【0016】
本発明を説明するのに、以下の用語は、他に示さない限り以下の意味を有する。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「塩酸塩(hydrochloride salt)」または「塩酸(hydrochloride)」とは、塩酸と問題の化合物、即ちテラバンシンとの反応から調製される塩をいう。明確に述べない限り、特定の化学量論はこの用語の使用には含まれない。
【0018】
用語「塩素イオン含量」とは、その塩酸塩の形態における問題の化合物のサンプルに存在する塩素イオン重量%(wt.%)をいう。この用語は、問題の化合物に存在する任意の共有結合した塩素置換基、即ちテラバンシンの芳香環(環Cおよび環E)上の塩素置換基を含まない。従って、用語「塩素イオン含量」とは、サンプルの非共有的に結合した塩素イオン含量をいう。本発明の化合物を説明する場合に、上記塩素イオン含量は、サンプルの本質的に無水の重量、即ちサンプルの全重量からサンプルの水の量を差引いた値を基礎にして計算される。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「不活性溶媒」および「不活性希釈剤」とは、それが溶媒または希釈剤として用いられる反応条件下で本質的に不活性である、溶媒または希釈剤をいう。
【0020】
用語「水性溶媒系」とは、水および少なくとも1種の不活性有機溶媒または不活性有機希釈剤を含む溶液をいう。
【0021】
数値の範囲が与えられる場合、その範囲の上限と下限との間の含量が他に明確に示されない限り、下限の単位の10分の1までのその範囲内の各数値およびその記述された範囲における如何なる他の記述された数値、またはその範囲内の他の如何なる数値も本発明内に含まれることが理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立してより小さな範囲に含まれ得、また本発明内に含まれ、記述範囲において特定して除外された任意の限度に従う。記述された範囲が、限度の1つまたは両方を含む場合、それらの含まれる限度のいずれかまたは両方がまた、本発明に含まれる。
【0022】
1つの局面では、本発明は約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩に関する。
【0023】
別の局面では、本発明は、約2.4重量%〜約4.6重量%を含む、約2.4重量%〜約4.7重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩に関する。
【0024】
別の局面では、本発明は、約3.7重量%〜約4.4重量%(例えば、約3.9重量%〜約4.4重量または約3.7重量%〜約3.9重量%)を含む、約3.7重量%〜約4.6重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩に関する。
【0025】
サンプル中に存在する塩素イオンの重量%は、例えば、United States Pharmacopeia(USP)23、第221節、1726頁(1995)に概要が説明してある方法または当業者に公知の多くの他の技術により決定され得る。例えば、1つの通常の技術は、硝酸銀での電位差計滴定である。別の技術は、硝酸銀の添加時にサンプルから沈殿する塩化銀の量の重量測定を基礎とする。あるいは、サンプル中に存在する塩素イオンの重量%を決定する他の適切な方法が、使用され得る。
【0026】
テラバンシン塩酸塩サンプル中に存在する水の量は、著しく変動し得るので、そのサンプル中に存在する如何なる水の量も上記サンプルの塩素イオン含量を計算する前に差引かれる。
【0027】
さらに、塩素イオン含量が、計算されるサンプルの重量は、テラバンシン塩酸塩に存在するいかなる不純物も含む。テラバンシン塩酸塩サンプル中に存在する不純物の量は、代表的には、約15%未満であり、例えば12%未満である。
【0028】
従って、サンプルの塩素イオン量が、以下のように決定される:
【0029】
【化2】

水含量は、代表的にはUnited States Pharmacopeia(USP)25、第921節、2085〜2088頁(2002)に概要が説明されている電位差滴定Karl Fischer法を使用して決定されるが、当業者に公知の他の技術を使用しても決定され得る。
【0030】
参考として、テラバンシン一塩酸塩(分子量1792.06)(0%HO)は、塩素イオン含量1.98重量%を有する。対応してテラバンシン二塩酸塩(分子量1828.52)およびテラバンシン三塩酸塩(分子量1864.98)は、それぞれ塩素イオン含量3.88重量%および5.70重量%を有する。
【0031】
従って、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有する、本発明のテラバンシン塩酸塩は、テラバンシン1モル当量当たり、約1モル当量より多くかつ約3モル当量未満の塩酸に相当する。1つの局面では、本発明は、テラバンシン1モル当量当たり約1.5〜約2.5モル当量の塩酸を有するテラバンシン塩酸塩に関する。本発明の塩酸塩に関する好ましい化学量論は、テラバンシン1モル当量当たり約2モル当量の塩酸である。
【0032】
グリコペプチドのような薬学的化合物の分解生成物は、そのような分解生成物が親分子と比較してそれらの生物学的活性または治療的効果が異なり得るので、重要なことである。例えば、これはバンコマイシンの不純物を議論する、J.Dianaら、Journal of Chromatography A、996:115〜131(2003)を、参照のこと。
【0033】
周辺温度で貯蔵する際に、テラバンシンの特定の塩酸塩が、少量の望ましくない分解生成物および不純物を生成することが判明してきた。主要な2つの分解生成物は、(1)テラバンシンのプソイドアグリコン不純物;および(2)テラバンシンのアグリコン不純物(これらの構造は下に示される)である。プソイドアグリコン不純物は、テラバンシンの脂質化されたバンコサミン部分の加水分解から誘導され、そしてアグリコン不純物は、テラバンシンのグルコース部分の加水分解により誘導される。
【0034】
【化3】

以前に開示された、テラバンシンを調製するためのプロセスは、pHが約2未満の溶液からテラバンシン塩酸塩を単離し、それにより約5重量%より多い塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を生じ、即ちテラバンシンのほぼ三塩酸塩であるテラバンシン塩酸塩を提供した。そのような塩のサンプルロットは、2日間20〜30℃で乾燥した後、合わせて約8%のプソイドアグリコンおよびアグリコン分解副生物を含有した。制御された条件下で2週間25℃で約5重量%より多い塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を貯蔵したときに、0.6%より多いプソイドアグリコンおよび0.4%より多いアグリコンの増加が観察された。
【0035】
反対に、同様な条件下で、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有する
テラバンシン塩酸塩は、0.2%未満のプソイドアグリコンおよび0.07%未満のアグリコン不純物の増加が実証された。従って、周辺温度で本発明の塩の貯蔵中に生成するプソイドアグリコン不純物およびアグリコン不純物は、以前に開示された塩酸塩により生成する不純物より有意に少ない。
【0036】
第二の実施形態では、本発明は、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を調製するためのプロセスに関する。上記プロセスは、第1工程(a)で、約4.8重量%より多い塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を含む組成物を提供する工程、および第2工程(b)で、上記組成物のpHを調整する工程を包含する。
【0037】
本発明のプロセスは、本明細書で記載するテラバンシン塩酸塩の一般的な合成スキームから直接得られる溶液を使用し得るか、または上記組成物は、単離されたテラバンシン塩酸塩を再溶解して形成され得る。従って、本発明の1つの局面では、工程(a)の組成物は、テラバンシン塩酸塩の合成プロセスから直接得られる。本発明の別の局面では、4.8重量%より多い塩素イオン濃度を有する単離されたテラバンシン塩酸塩は、工程(a)の組成物を構成するよう再溶解される。例えば、4.8重量%より多い塩素イオン含量を有する凍結乾燥されたテラバンシン塩酸塩は、工程(a)の組成物を構成するように再溶解され得る。
【0038】
上記プロセスの工程(a)で、上記組成物は、テラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含み、ここで上記組成物は、pHが約2.0以下である。工程(a)で用いられる上記水性溶媒系は、代表的には水および少なくとも1種の有機希釈剤を含む。水と組み合わせて使用する適切な有機希釈剤は:(1)水と混和可能である;および(2)テラバンシン塩酸塩に対して化学的に不活性である、希釈剤である。有用な有機希釈剤としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ジオキサンなどが挙げられる。例えば、有機希釈剤は、アセトニトリル、メタノールおよびエタノールからなる群より選択される。特定の実施例では、工程(a)の組成物は、アセトニトリルおよび水を含む。工程(a)の水性溶媒系は、水に対して約40%〜約60%(v/v)のアセトニトリル溶液である場合、特に興味深い。
【0039】
工程(a)の組成物におけるテラバンシン塩酸塩の好ましい濃度は、約5mg/mL〜約30mg/mLである。例えば、テラバンシン塩酸塩の濃度は、工程(a)の初期組成物において、約20mg/mL〜約30mg/mLであり得る。
【0040】
本発明の工程(b)において、上記組成物のpHが、約2.5〜約5.0の範囲に調整される。1つの局面では、上記プロセスの工程(b)において、上記組成物のpHは、約3.0〜約5.0の範囲内に調整される。例えば、工程(b)において、上記組成物のpHが、約3.0〜約4.5(例えば、約3.0〜約4.0)の範囲に調整され得る。工程(b)において、上記組成物のpHが、約3.5〜約4.5の範囲に調整され得る。例えば、上記組成物のpHが、約3.5〜約4.0の範囲に調整される。1つの局面では、上記組成物のpHが、約4.0〜約4.5の範囲に調整され得る。
【0041】
工程(b)において、上記組成物のpHは、代表的には工程(a)の組成物へのアルカリ水酸化物の滴下添加により調整される。任意の適切なアルカリ水酸化物が使用され得るが、例としては、水酸化バリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。上記組成物のpHを調整するために、水酸化ナトリウムの使用は特に興味深い。
【0042】
最後に第3工程(c)において、テラバンシン塩酸塩は当該分野での多くの公知の方法
により工程(b)の組成物から単離される。例えば、テラバンシン塩酸塩は、沈殿され得そして遠心分離またはろ過され得る。
【0043】
本発明の1つの局面では、工程(c)において、テラバンシン塩酸塩は、沈殿およびろ過により上記組成物から単離される。例えば、過剰な有機希釈剤は、上記組成物のテラバンシン塩酸塩を沈殿させるのに使用され得る。工程(b)の組成物からテラバンシン塩酸塩を沈殿させるために、工程(c)において使用され得る適切な有機希釈剤は:(1)水と混和可能である;および(2)テラバンシン塩酸塩に化学的に不活性であり;および(3)工程(b)の組成物に添加される場合、テラバンシン塩酸塩の沈殿が生じる、希釈剤である。有用な有機希釈剤としては、例としてアセトニトリル、メタノール、エタノール、アセトンなどが挙げられる。本発明の1つの局面では、工程(c)において、工程(b)の組成物にアセトニトリルが添加され、テラバンシン塩酸塩を沈殿させる。本発明の別の局面では、アセトンが工程(b)の組成物に添加され、テラバンシン塩酸塩を沈殿させる。
【0044】
所望の場合、工程(c)において単離された沈殿は、必要に応じて適切な有機希釈剤で洗浄され得る。例えば、工程(b)の組成物にアセトニトリルが添加されテラバンシン塩酸塩を沈殿させる場合、得られる沈殿は、必要に応じてアセトニトリル、引き続いてメチル−t−ブチルエーテル(MTBE)で洗浄される。あるいは、アセトンがテラバンシン塩酸塩を沈殿させるために使用される場合、得られる沈殿は、必要に応じてアセトン、引き続いてMTBEで洗浄される。
【0045】
本明細書に記載される本発明のプロセスの工程(a)、工程(b)および工程(c)は、一般的に内部温度が約15℃〜約30℃、代表的には約20℃〜約25℃の範囲で行われる。
【0046】
代表的には、本発明のプロセスが行われる場合、全てのろ過、洗浄工程、乾燥工程および篩い分け工程は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で行われる。
【0047】
別の実施形態では、本発明は、テラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含む組成物に関し、ここでその組成物のpH値は、約2.5〜約5.0の範囲である。本発明のさらなる局面では、本発明は、上記組成物に関し、ここで上記組成物は、本明細書で記載される特定のpH値の任意の1つである。
【0048】
本発明において、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量、または本明細書に記載される任意の特定の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を調製する、本明細書に記載されるプロセスの任意の1つにより調製される生成物もまた、包含される。
【0049】
(一般的合成手順)
テラバンシンまたはその塩は、以下の一般的な方法および手順を使用して、容易に入手可能な出発物質から調製され得る。代表的または好ましいプロセス条件(即ち、反応温度、時間、反応体のモル比、溶媒、圧力など)が所定される場合、他のプロセス条件もまた、他で既述されない限り使用され得ることが理解される。最適反応条件は、使用される特定の反応体または溶媒により変化し得るが、そのような条件は、慣用的な最適化手順により当業者により決定され得る。さらに従来からの保護基は、特定の官能基が望ましくない反応を起す事を防ぐために必要であり得ることは当業者には、明白である。
【0050】
テラバンシンまたはその塩は、2002年8月23日に出願した米国出願番号第10/226,988号;2002年8月23日に出願した同第10/226,676号および2002年8月23日に出願した、同第10/226,428号に記載される。それらの
開示は全体として、本明細書に参考として援用される。これらの3つの公開公報に開示された手順のいずれもテラバンシンまたは塩を調製するために使用され得る。
【0051】
例として、バンコマイシンまたはその塩は、N−保護されたデシルアミノアセトアルデヒドを使用して、最初に還元的にバンコサミンアミノ末端にアルキル化される。例えば1モル当量のバンコマイシンまたはその塩は、N−Fmoc−デシルアミノアセトアルデヒドのような、N−保護された−デシルアミノアセトアルデヒドの1モル当量以上および不活性希釈剤中の適切な塩基と合させられて組成物を形成する。好ましくは、上記アルデヒドの約1〜約2モル当量が、上記プロセスのこの工程に使用される。この組成物において、イミンおよび/またはヘミアミナールの混合物は、バンコマイシンの上記アルデヒドと上記塩基性窒素原子、即ちバンコサミン窒素原子およびN末端(ロイシニル)窒素原子との間に形成されると考えられる。
【0052】
代表的には、バンコマイシンまたはその塩およびそのアルデヒドは、過剰量の適切な塩基の存在下で不活性希釈剤として組合わせられて、混合物を形成する。適切な不活性希釈剤、または溶媒の組合わせとしては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、アセトニトリル/水などまたはそれらの混合物が挙げられる。
【0053】
バンコマイシン塩を中和し、イミンおよび/またはヘミアミナールの形成を容易にするこの工程において、有機塩基(例えばアミン)、アルカリ金属カルボン酸塩(即ち、酢酸ナトリウムなど)、無機塩基(例えば、アルカリ金属炭酸塩(即ち、炭酸リチウム、炭酸カリウムなど)))を含む、任意の適切な塩基が使用され得る。代表的には、この工程で使用される塩基は、第3級アミン(例として、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリンなど)である。
【0054】
上記プロセスの第1工程は、代表的には約0℃〜約75℃、好ましくは周辺温度(即ち約20〜25℃)の範囲の温度で、約1〜約24時間、好ましくは約6〜12時間、またはイミンおよび/またはヘミアミナールの形成が、実質的に完結するまで行われる。
【0055】
イミンおよび/またはヘミアミナール混合物の形成が実質的に完結する場合、その混合物は、過剰の酸で酸性化される。上記プロセスのこの工程に、任意の適切な酸が使用され得る。例として、カルボン酸(例えば、酢酸、トリクロロ酢酸、クエン酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)、鉱酸(例えば、塩酸、硫酸またはリン酸)などが挙げられる。一般的に、この工程で使用される酸は、トリフルオロ昨酸または酢酸である。上記酸は、代表的にはバンコマイシン(および塩基)に対して1モル過剰に添加される。
【0056】
この酸性化の工程は、代表的には約0℃〜約30℃、好ましくは約25℃で、約0.25〜約2.0時間、好ましくは約0.25〜約1.5時間で行われる。
【0057】
一般的に、極性のプロトン性溶媒(例としてメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールなど)が、この工程の間に添加される。あるいは、極性のプロトン性溶媒/非プロトン性溶媒の混合溶媒(例えばメタノール/テトラヒドロフラン、メタノール/1,2−ジメトキシエタンなど)もまた、使用され得る。
【0058】
酸性化工程の後に、上記混合物は、還元剤と接触させられイミンおよび/またはヘミアミナールを還元する。グリコペプチド中に存在する官能基に適合する適切な還元剤が、プロセスの工程に使用され得る。例えば、適切な還元剤としては、アミン/ボラン錯体(例
えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸亜鉛、トリアセトキシヒドロホウ酸ナトリウム、ピリジン/ボラン、t−ブチルアミン/ボラン、N−メチルモルホリン/ボラン、アンモニア/ボラン、ジメチルアミン/ボラン、トリエチルアミン/ボラン、トリメチルアミン/ボランなど)が挙げられる。
【0059】
代表的には、上記還元(即ち、還元剤による処理)は、プロトン性溶媒、例えばアルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、またはブタノール)、水などの存在下で行われる。一般的に、極性のプロトン性溶媒は、この還元工程の間存在する。上記極性のプロトン性溶媒は、上述の酸性化工程の間に添加され得る。
【0060】
上記プロセスの還元工程は、代表的には約0℃〜約30℃の範囲の温度で、好ましくは、約25℃で、約0.5〜約24時間で、好ましくは約1時間〜約6時間、または還元が実質的に完結するまで行われる。
【0061】
所望の場合、還元的アルキル化生成物のn−デシルアミノエチル側に存在する保護基は、合成の次の工程前に除去され得る。例えば、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)保護基が使用される場合、この基は、代表的にはt−ブチルアミンのようなアミンでの処理により除去され得る。この反応は一般的には、還元的アルキル化と同じ反応容器で行われ、N3’’−[2−(デシルアミノ)エチル]バンコマイシンを生じる。
【0062】
還元的アルキル化から得られるグリコペプチド誘導体は、次いで塩基性条件下でレゾルシノール部分においてアミノメチルホスホン酸およびホルムアルデヒドと結合されて、テラバンシンまたはその塩を生じる。この工程は、代表的には塩基の存在下で、過剰のアミノメチルホスホン酸(例えば、約2モル当量〜約10モル当量)と約1モル当量のホルムアルデヒド(例えば約0.9モル当量〜約1.1モル当量)と、還元的アルキル化から得られる約1モル当量のグリコペプチド誘導体またはそれらの塩とを接触させて行われる。
【0063】
上記プロセスのこの工程で用いられるホルムアルデヒドは、代表的には水性溶液、例えば必要に応じて約5重量%〜約15重量%のメタノールを含む、37重量%水溶液(即ちホルマリン)に添加される。
【0064】
この反応において、例えば有機塩基(例えば第3級アミン)、および無機塩基(例えばアルカリ金属水酸化物(即ち水酸化ナトリウム)を含む、任意の適切な塩基が使用され得る。代表的には、その塩基は、例としてトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの第3級アミンである。アミンを含むホスホノに対する塩基のモル比は、約3:1〜約5:1である。代表的には、上記混合物のpHは、約10〜約11である。この反応は、例えば水、アセトニトリル/水などのような不活性希釈剤中で行われる。例えば上記プロセスのこの工程は、約3:2〜完全に水の範囲の容量/容量比を有するアセトニトリル/水または水で行われ得る。
【0065】
上記プロセスのこの工程は、代表的には約−20℃〜約30℃の範囲の温度で、例えば約−10℃〜約−5℃で、約6〜約48時間、またはその反応が実質的に完結するまで行われる。
【0066】
得られた化合物または塩は、沈殿、ろ過などを含む従来の手順により単離される。代表的な単離手順において、上記混合物のpHは、塩酸水溶液のような適切な酸の添加により約2〜約3の間に調整される。一般的に上記混合物の温度は、酸性化の間は約5℃より下で維持される。次いで、例えばアセトニトリルのような有機希釈剤が、反応性生物の沈殿を促進するために添加され、そして得られた沈殿はろ過により収集され、必要に応じてさらなる希釈剤で洗浄される。あるいはこの溶液は本発明の塩酸塩を直接形成するために使
用され得る。
【0067】
所望の場合、上で形成された沈殿は、逆相HPLCまたは他のクロマトグラフフィー的方法(例えば、レジンクロマトグラフィー)を使用してさらに精製される。レジンクロマトグラフィーに使用される種々の適切なポリスチレン−ジビニルベンゼンレジンは、例えばTosoHaas(Montgomery、PA)、Rohm & Haas(Philadelphia、PA)、Mitsubishi Chemical Industries Ltd.(Tokyo、Japan);およびDow Chemical Co.(Midland、MI)から市販されている。
【0068】
上記レジンは、過剰の水で湿潤させ、そして酸性化された水および/または酸性化された極性有機溶媒の水溶液で洗浄されて調製される。精製されるべきテラバンシンのサンプルは、必要に応じて極性の有機溶媒を含有する酸性化された水、に溶解される。
【0069】
適切な極性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルなどが挙げられる。第1および第2の水性溶液の酸性化のための適切な酸としては、酢酸、トリフルオロ昨酸、塩酸、硫酸、リン酸などの酸が挙げられる。上記サンプル溶液のpHは、好ましくは約2と約5との間である。上記サンプル溶液の小部分を取り出し、分析の標準として使用した。
【0070】
上記サンプル溶液をカラムに載せて酸性化された極性有機溶媒の第2溶液で溶出し、これをカラムから画分で収集した。代表的には、第2酸性化水溶液は、約10mMの酸の濃度であり、比例的に約1:3〜約1:15の極性有機溶媒:水の比である。
【0071】
各画分は、例えば、薄層クロマトグラフィーまたはHPLCにより、サンプルの存在、濃度および純度をモニターする。設定された閾値、例えば、例として約85%純粋なテラバンシン(またはその塩)より高いサンプル純度を有する画分は、貯留される。代表的には、貯留されるべき化合物1の濃度は、約0.5〜約5.0mg/mLである。
【0072】
テラバンシンの濃度を上げるために、上述の収集された貯留画分は、第2のポリスチレンレジンカラムに載せられた。この手順はまた、任意の第2塩(上述の精製工程の間に上記酸とテラバンシンとの相互作用により形成される)を塩酸塩に変換する、塩交換プロセスとして役立つ。代表的にはテラバンシンは、塩酸塩として調製される。しかしながら、上述の精製工程の間に少量の異なる塩が形成され得る。
【0073】
早期の精製工程の間に収集された貯留画分は、水で希釈され、例えば上記画分は約2倍に希釈され、第2レジンクロマトグラフィーカラムに載せられ得る。アセトニトリル:水:塩酸の、例えば容量比で、10:90:0.5の溶液は、カラムの洗浄に使用される。アセトニトリル−水の約40〜60:60〜40の容量比の溶液は、画分がモニターされる間、カラムから問題の化合物を溶出するために使用される。所望の閾値、例えば5mg/mLより高いサンプル濃度を含む画分は、貯留される。さらなる精製または濃縮のために、このレジンクロマトグラフィー精製工程は、多数回繰り返され得る。あるいは、上記精製生成物は沈殿およびろ過、または当業者に公知の方法による溶出物から単離され得る。
【0074】
代表的には、得られた貯留画分は、pH2.0以下のアセトニトリル水溶液中で5.0重量%より多い塩素イオン濃度を有するテラバンシン三塩酸塩である。
【0075】
本明細書で記載される本発明のプロセスに関して、工程(a)の組成物は、上述の濃縮および塩交換工程で収集された貯留画分であり得、またはその画分はさらに乾燥または凍
結乾燥のように2つあるので加工され得、その後水性溶媒系に再溶解され得、工程(a)の組成物を構成する。
【0076】
上の反応において用いられる方法は、当該分野では周知である。適切な試薬は、市販で入手できるか、または市販の出発材料および従来の試薬を用いて従来の手順で調製され得る。例えば、Advanced Organic Chemistry、Jerry March、第4版、1992、John Wiley and Sons、New York、ページ959;およびFrank R.Hartley(編)、The Chemistry of Organophosphorous Compounds、vol.1〜4、John Wiley and Sons、New York(1996)、およびそれらに引用されている参考文献を参照のこと。
【0077】
本発明の化合物を調製するさらなる詳細および方法は、以下の実施例に記載される。
【0078】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されるもので本発明の範囲を限定するものと決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0079】
以下の実施例において、以下の略号は以下の意味を有する。規定されていない如何なる略号も、一般的に受容されている意味を有する。他で記載されない限り、全ての温度は摂氏度(℃)である。
【0080】
ACN=アセトニトリル
BV/h=1時間当たりの床容量
DMF=N,N−ジメチルホルムアミド
eq.=モル当量
Fmoc=9−フルオレニルメトキシカルボニル
MTBE=メチル−t−ブチルエーテル
TLC=薄層クロマトグラフィー
TFA=トリフルオロ酢酸
以下に記載される実施例において、HPLCサンプル分析は、Agilentにより供給され、5μのポアサイズでC14シリカが充填されているZorbax RP−Bonus 4.6mm × 250mm カラム付きAgilent(Palo Alto、CA)Series 1100 instrumentを使用して行った。検出は,254nmのUV吸光度によった。移動相Aは、2%−98%−0.1%ACN−HO−TFA;および移動相Bは90%−10%−0.1%ACN−HO−TFAであった。1.0mL/分の流速が、移動相Bの勾配を含む移動相Aに以下のように使用された:10〜43%B 30分間;43%B 5分間;43〜100%B 5分間;100〜10%B 1分間;および10%B 14分間。
【0081】
以下の実施例において、バンコマイシン塩酸塩半水和物は、Alpharma、Inc.Fort Lee、NJ07024(Alpharma AS、Oslo Norway)から購入した。他の試薬および反応体は、Aldrich Chemical Co.、(Milwaukee、WI)から入手できる。また、他で注記しない限り、試薬、出発物質および溶媒は市販の供給業者(例えば、Aldrich、Fluka、Sigmaなど)から購入し、さらなる精製をしないで使用した。
【0082】
Model 703ポンプ/攪拌器を備えたBrinkmann Metrohme Karl Fischer Model 831 Coulometerを、試験サンプルの水分含量を決定するのに使用した。試験サンプル中の塩素イオン重量%を、0.1N
硝酸銀と736 GP Titrino Potentiometric Titrator、Metrohm Ltd.(Herisau、Switzerland)とにより決定した。上記装置を、正確さが証明できる既知のサンプルに対して、定期的に較正した。
【0083】
(実施例1.約4.8より多い塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩の合成)
(a.NVAN−2−(n−デシルアミノ)エチルバンコマイシン塩酸塩の調製)
機械的攪拌器、温度計および窒素バブリング装置を備えた5Lの3頸フラスコに、DMF(760g、800mL)を添加し、30〜35℃に温めた。攪拌しながら、24mLのジイソプロピルエチルアミン(18.1g、0.14モル、2モル当量)およびバンコマイシン塩酸塩(100g、0.067モル、1モル当量)(部分的に)を連続して添加した。滴下ロートを、DMF(114g、120mL)で濯いだ。上記混合物を、30〜35℃、0.5時間、攪拌し、その後20〜25℃に冷却した。N−Fmoc−デシルアミノアセトアルデヒド(29.7g、0.07モル、1.05モル当量)を上記混合物に添加し、20〜25℃で、6〜8時間攪拌した。メタノール(220g、280mL)、次いでトリフルオロ酢酸(31.2g、21mL、0.272モル、4モル当量)を添加した。上記混合物を約15分間攪拌した後、t−ブチルアミンボラン錯体(5.7g、0.067モル、1モル当量)を添加し、その混合物を約2時間攪拌した。t−ブチルアミン(29.8g、0.403モル、6モル当量)を添加し、得られた混合物を約55℃に温め、2〜3時間攪拌した。その混合物を約20〜25℃に冷却し、約20〜25℃の0.5N HCl(540mL)を添加し、その溶液をpH7.25〜7.35に調整した。10%のブライン溶液(2400g)を、温度は約20〜25℃に維持しながら、約4時間かけて添加し、その後その懸濁液を0〜5℃に冷却し、そして3〜4時間攪拌した。得られたスラリーをWhatman#2ろ紙(直径18.5cm、8μ)でろ過した。湿ったケーキを連続的に、水(2×200g)およびメチル−t−ブチルエーテル(2×200g)で洗浄した。その湿ったケーキを、酢酸エチル(600g)で8〜12時間、再スラリー化した。この混合物を、ろ過し、酢酸エチル(2×100g)で洗浄した。湿ったケーキを、40℃で、ハウス真空(house vacuum)(40〜50mmHg)下で、水分含量が約10%未満の検出限界(LOD)に到達するまで乾燥した。標記化合物(102g、約85%純度)を灰色がかった白色粉末として得て、精製しないで次の反応に使用した。
【0084】
(b.粗テラバンシン塩酸塩の調製)
機械的攪拌器、温度計および窒素バブリング装置を備え付けた12Lの三頸フラスコにアミノメチルホスホン酸(47.7g、0.43モル、5モル当量)を添加した。アセトニトリル(786g、1L)および水(1000g、1L)を添加し、その混合物を20℃〜25℃で攪拌して溶解させた。ジイソプロピルエチルアミン(222g、0.3L、20モル当量)を添加して、その混合物を20℃〜25℃で、20分間攪拌した。上記の調製(a)の生成物、NVAN−2−(n−デシルアミノ)エチルバンコマイシン塩酸塩(200g、アッセイで0.086モルと定量、1モル当量)を添加し、その混合物を20℃〜25℃で1時間攪拌した。上記混合物を−5℃まで冷却し、その後37重量%のホルムアルデヒド水溶液(9.08g、0.111モル、1.3モル当量)を添加した。その混合物を窒素下で、12〜24時間攪拌した。上記反応混合物に3N HCl(615mL)を滴下して、その混合物のpHを、10.8〜2.8に調整した。上記混合物を20℃〜25℃に温めた。エタノール(95%、8L)を約2.5時間にわたりその混合物に添加した。得られた懸濁液を5〜10℃で、16時間攪拌した、上記懸濁液をWhatman#2ろ紙(直径24cm、8μm)でろ過した。湿ったケーキを酢酸エチル(2×200mL)で洗浄し灰色がかった白色の微粉末を得た。そのケーキを25℃で乾燥しテラバンシン塩酸塩を得て、HPLC分析で標記化合物として確認した(184g、76.5%純度)。
【0085】
(c.精製工程)
HP20SSポリスチレン−ジビニルベンゼンレジン(Agilent)を、背圧制御器、蠕動ポンプ,UV検出器およびフラクションコレクターを備えた、2”×25cmカラムに充填した。
【0086】
上記カラムを3床容量(BV)の100%エタノールを、カラムに約2〜3BV/時間の流速で、ポンプで流すことにより予備条件化した。上記カラムを、サンプルを載せる前に、移動相A{15%エタノール(190プルーフ、5%メタノールで変性)85%水、1%酢酸}で、3〜5BV、2〜3BV/時間の流速で平衡化した。
【0087】
上述の(b)の調製からの生成物の溶液を、20〜25mg/mlの濃度で80:10:10(v/v/v)の水:エタノール:酢酸と混合し、1〜2時間攪拌した。上記溶液をCelite(5g/溶液の1L)と15分間混合し、1μフィルターでろ過し、上記カラムに1.5BV/時間で載せた。上記カラムを移動相Aを使用して20mL/分、30分間で洗浄した(約1BV)。移動相B(26%エタノール、72%水、1%酢酸エチル、1%酢酸)を、流速約1BV/時間(13.5mL/分、Biotage 75M カートリッジ)で約5時間にわたり、各々約27mLの容量を有する別個の画分を溶出するために使用された。
【0088】
各画分を、テラバンシンの存在について薄層クロマトグラフィーにより分析した。テラバンシンを含有する画分を、その後HPLCにより分析し、各画分のテラバンシンの濃度および純度を決定した。少なくとも85%の純度を有する画分を貯留した。受容可能な純度を有する貯留画分の全容量は、約5BVである。
【0089】
(d.濃縮および塩交換)
Amberlite XAD−1600ポリスチレンジビニルベンゼンレジン(Rohm & Haas)を、90%脱イオン水、10%エタノールおよび0.1%酢酸の混合物(v/v/v)で3日間洗浄した。レジンをカラムに充填し、上記カラムを3床容量(BV)の100%エタノールを、カラムに約2BV/時間の流速で、ポンプで流すことにより予備条件化した。次いで上記カラムを、サンプルを載せる前に、移動相A{15%エタノール(190プルーフ、5%メタノールで変性)、85%水、0.6%酢酸}で、3〜5BV、約2BV/時間の流速で平衡化した。
【0090】
上記精製工程(c)で収集された貯留画分を、水(2×貯留画分容量)で希釈し、その溶媒組成物を、水を添加して約25%水性エタノールから85%水、15%エタノールに調整した。その溶液を流速約1BV/時間の流速でカラムにポンプで流した。UV検出器でモニターした捕獲効率は、>98%であると決定した。
【0091】
容量比10:90:0.5のアセトニトリル−水−濃塩酸の溶液を調製し、2BV、流速約1BV/時間で、カラムにポンプで流した。
【0092】
50:50容量比のアセトニトリル−水の溶液を濃塩酸でpH2.0に調整し、カラムからテラバンシン塩酸塩を溶出するために、カラムに流速約1BV/時間でポンプで流した。
【0093】
各画分を収集しテラバンシン塩酸塩の存在について試験した。画分を、テラバンシン塩酸塩が、もはや検出できなくなるまで収集した。約20〜30%のテラバンシン塩酸塩を含有する画分を貯留した。2〜3BVの溶出溶液は、捕獲サンプルを>95%回収するのに十分であった。貯留画分を下の実施例2に記載のプロセスに直接的に使用したか、また
は凍結乾燥し、そして実施例2に記載されているプロセスに使用するために再溶解した。
【0094】
(実施例2 4.1重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩の調製および単離)
テラバンシン塩酸塩(1.14L)(実施例1に記載のように調製した)を、1:1(v/v)アセトニトリルおよび水(pH1.93、濃度約30mg/mL)に溶解した。その溶液のpHを、22℃で、10N NaOH水溶液(約3mL)でpH3.78に調整した。この溶液に22℃で、アセトニトリル(3.42L)を3.5時間かけて滴下し、ミルク状懸濁液として沈殿を生じさせた。その混合物を、1.5時間攪拌し、約14時間攪拌無しで放置した。上記沈殿混合物を、その後ろ過し、得られた湿ったケーキを、連続的にアセトニトリルおよびMTBE(各200mL)で洗浄した。その湿ったケーキを、窒素下1時間乾燥し、次いで篩分けた(500μ)。得られた粉末を22℃、45〜50mmHg真空下で、96時間乾燥し32.5g(約40%)の標記化合物を、灰色がかった白色粉末として得た。(HPLC純度91.3%、3.84重量%塩素、5.84重量%水)。この物質は、水含量を調整した後、4.1重量%の塩素イオン濃度を有した。
【0095】
上述のプロセスを使用して、添加するNaOHの量を変化させて、塩素イオン濃度が、5.74重量%、5.60重量%、4.69重量%、4.59重量%、4.41重量%、3.94重量%、3.68重量%、および2.42重量%であるテラバンシン塩酸塩を、それぞれpH1.8、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5および5.0を有する溶液から単離した。
【0096】
(実施例3 安定性に対する塩素イオン含量の効果)
−20℃、5℃および25℃で貯蔵されたテラバンシン塩酸塩の安定性に対する塩素イオン含量の効果を、測定した。
【0097】
実施例2に記載のように調製された8ロットのテラバンシン塩酸塩を、同一のガラスバイアルに入れて、−20℃、−5℃および25℃で、2週間、他は同一の条件化で貯蔵した。プソイドアグリコン不純物およびアグリコン不純物に関するHPLC面積%変化を、相対的安定性を評価するために使用した。
【0098】
最高温度25℃で貯蔵されたサンプルについての結果を、表1に示す。より低温で貯蔵されたサンプルのプソイドアグリコン不純物およびアグリコン不純物の増加は、大きさにしてより小さかったが、同様な傾向を示した。
【0099】
【表1】

表1に示される塩素イオン含量は、サンプルの水分含量を差引かれて計算された。各サンプルについて、単離された混合物のpHが、示される。「2週間の変化」の表題の列は、初期値と2週間後に観察された値との間のHPLC面積%における差であり、図1および図2に図式的に示される。
【0100】
図1および図2に示されるように、4.8重量%(5.74重量%および5.60重量%)より多い塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩、即ち低いpH条件(pH1.8およびpH2.0)で沈殿したテラバンシン塩酸塩は、25℃、2週間で加水分解された副生成物のレベルが増加した。特に2週間後、低pHで沈殿したテラバンシン塩酸塩は、プソイドアグリコン不純物に関しては0.6以上のHPLC面積%の増加;アグリコン不純物に関しては、0.3以上のHPLC面積%の増加を有した。
【0101】
驚くべきことに約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩は、同じ条件下では著しくより安定であった。そのような塩について、プソイドアグリコン不純物のHPLC面積%の2週間の変化は、0.1と0.2との間の範囲であった。同様にアグリコン不純物のHPLC面積%変化は0.1未満であった。従って、本発明の塩酸塩は、以前に開示された塩に比較して有意に安定性を改善したことを示した。
【0102】
本発明は特定の実施形態を参考として説明されているが、種々の変化がなされ得、そして等価物が本発明の趣旨および範囲から逸脱しないで置換され得ることは当業者に容易に理解されるべきである。さらに、本発明の目的、趣旨および範囲に沿って特定の状況、材料、材料の組成、プロセス、単数または複数のプロセスの工程を適合させる種々の改変が、なされ得る。そのような全ての改変は、添付の請求項の範囲内であると意図される。さらに上で引用した全ての刊行物、特許、特許文書は、参考として個々に援用されるが、完全に本明細書に参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の好ましい実施形態によれば、以下のテラバンシン塩酸塩などが提供される。
(項1)
約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩。
(項2)
前記塩素イオン含量が、約2.4重量%〜約4.7重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項3)
前記塩素イオン含量が、約2.4重量%〜約4.6重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項4)
前記塩素イオン含量が、約3.7重量%〜約4.6重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項5)
前記塩素イオン含量が、約3.7重量%〜約4.4重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項6)
前記塩素イオン含量が、約3.9重量%〜約4.4重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項7)
前記塩素イオン含量が、約3.7重量%〜約3.9重量%である、上記項1に記載の塩酸塩。
(項8)
約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を調製するためのプロセスであって、該プロセスは、
(a)約4.8重量%より大きい塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含む組成物を提供する工程であって、ここで該組成物は、約2.0以下のpHを有する、工程;
(b)該組成物のpHを約2.5〜約5.0に調整し、約2.4重量%〜約4.8重量%の塩素イオン含量を有するテラバンシン塩酸塩を形成する、工程;ならびに
(c)工程(b)で生成された該テラバンシンの塩酸塩を単離する、工程
を包含する、プロセス。
(項9)
工程(b)において、前記組成物のpHが、約3.0〜約5.0の範囲に調整される、上記項8に記載のプロセス。
(項10)
工程(b)において、前記組成物のpHが、約3.0〜約4.0の範囲に調整される、上記項8に記載のプロセス。
(項11)
工程(b)において、前記組成物のpHが、約3.5〜約4.5の範囲に調整される、上記項8に記載のプロセス。
(項12)
工程(b)において、前記組成物のpHが、約3.5〜約4.0の範囲に調整される、上記項8に記載のプロセス。
(項13)
工程(b)において、前記組成物のpHが、約4.0〜約4.5の範囲に調整される、上記項8に記載のプロセス。
(項14)
工程(a)の前記水性溶媒系が、アセトニトリルおよび水を含む、上記項8に記載のプロセス。
(項15)
工程(b)において、前記pHを、アルカリ水酸化物を使用して調整する、上記項8に記載のプロセス。
(項16)
工程(c)において、前記テラバンシン塩酸塩が、沈殿および濾過により単離される、上記項8に記載のプロセス。
(項17)
上記項8〜上記項16のいずれか1項に記載のプロセスにより産生される生成物。
(項18)
テラバンシン塩酸塩および水性溶媒系を含む組成物であって、該組成物のpHが、約2.5〜約5.0の範囲にある、組成物。
(項19)
テラバンシン1モル当量当たり、約1モル当量より多く、かつ約3モル当量未満の塩酸を有する、テラバンシン塩酸塩。
(項20)
前記塩が、テラバンシン1モル当量当たり約1.5〜約2.5モル当量の塩酸を有する、上記項19に記載の塩酸塩。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書または図面に記載の発明

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−16820(P2011−16820A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187705(P2010−187705)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【分割の表示】特願2006−536805(P2006−536805)の分割
【原出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(500154711)セラヴァンス, インコーポレーテッド (129)
【Fターム(参考)】