説明

グリコリドの製造方法

【課題】1つの工程でグリコール酸エステルからグリコリドを製造する方法を提供する。
【解決手段】グリコール酸からグリコリドを製造する方法であって、触媒の存在下270℃を超える温度にてグリコール酸エステルを気相で二量化反応させることを特徴とするグリコリドの製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸エステルからグリコリドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコリド(C444)は、グリコール酸の環状二量体エステル(ジグリコール酸無水物)であり、手術用縫合糸等に応用されるポリグリコール酸の原料として知られている。
【0003】
グリコリドは、グリコール酸エステルから直接合成(環状二量化)することが困難であるため、グリコール酸を用いていったんオリゴマーを合成した後、オリゴマーを解重合するという方法により製造されている。具体的には、α−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルを重合することによりポリヒドロキシカルボン酸又はエステル(オリゴマー)とし、オクタン酸第1錫等の触媒の存在下で前記オリゴマーを加熱して分解し、環状二量化した後、生成した環状エステルを留去することにより製造される。ところが、このような方法では、加熱による解重合時にオリゴマーが重質物化して多量の残渣として反応容器内に残り、収率が低くなるほか、残渣のクリーニング操作が必要となる。
【0004】
これに対し、新たな二量体の製造方法が提案されている。例えば、α−ヒドロキシカルボン酸又はエステルを気化させ、固体状触媒の存在下において担体ガス中で二量体環状エステルを製造する方法が知られている(特許文献1)。また、水性乳酸原料を気相化し、加熱することによりラクチドを水性乳酸原料から直接製造する方法がある(特許文献2)。さらに、有機溶媒中に希釈されたヒドロキシカルボン酸又はエステルを含む溶液から水を除去することにより環状エステルを製造する方法がある(特許文献3)。
【特許文献1】特公平8−32701号公報
【特許文献2】特許第3236289号公報
【特許文献3】特許第2922303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1〜3の方法においても、以下のような問題点があり、なお改善の余地がある。
【0006】
特許文献1では、α−ヒドロキシロキシカルボン酸又はエステルを170〜270℃の温度で反応させることにより環状二量体が得られることが開示されている。ところが、この条件では、グリコール酸エステルからグリコリドを製造する場合の選択性は未だ十分なものとは言えない。
【0007】
特許文献2では、乳酸からラクチドを直接合成する方法が示されているものの、グリコール酸から直接グリコリドを製造する技術については何も触れられていない。特に、特許文献2でも、反応温度が100〜250℃とされており、これでグリコール酸エステルを二量化しようとしても、環状二量体を得ることは困難である。
【0008】
特許文献3の製造方法では、有機溶媒の使用を必須とする液相反応であるため、反応生成物から有機溶媒の除去工程等が必要となる。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、1つの工程でグリコール酸エステルからグリコリドを効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、かかる従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の条件下でグリコール酸エステルを反応させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のグリコリドの製造方法に係るものである。
【0012】
1. グリコール酸エステルからグリコリドを製造する方法であって、触媒の存在下270℃を超える温度にてグリコール酸エステルを気相で二量化反応させることを特徴とするグリコリドの製造方法。
【0013】
2. 前記温度が280〜360℃である、前記項1に記載の製造方法。
【0014】
3. 前記触媒が、周期表第4から第6周期の1族、3族、6族、8族、9族、14族及び15族の少なくとも1種の元素を含む、前記項1又は2に記載の製造方法。
【0015】
4. 前記反応雰囲気が、圧力152Torr以下の減圧雰囲気である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
5. 前記反応雰囲気中におけるグリコール酸エステルの濃度が20モル%以下に希釈されている、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、1つの工程でグリコリドを製造することができるので、従来の方法に比して効率的にグリコリドを製造することができる。すなわち、本発明の製造方法では、副生成物である鎖状二量体(ダイマー)を減らすことができるので、高い選択性でグリコリドを製造することが可能となる。その結果として、グリコリドをより低いコストで提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のグリコリドの製造方法は、グリコール酸エステルからグリコリドを製造する方法であって、触媒の存在下270℃を超える温度にてグリコール酸エステルを気相で二量化反応させることを特徴とする。
【0019】
グリコール酸エステルとしては、気化(気相化)できるものである限り特に制限されない。例えば、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸プロピル、グリコール酸ブチル等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。この中でも、特にアルキル部分の炭素数が1〜5のアルキルエステルを好適に用いることができる。これらの中でも、特に気化しやすいという点でグリコール酸メチルがより望ましい。
【0020】
原料のグリコール酸エステル中に水分が含まれる場合(すなわち、原料としてグリコール酸エステル及び水の混合物を用いる場合)、その水分量は5重量%以下、特に1重量%以下、さらには0.6重量%以下とすることが望ましい。水分量を制御することによって、グリコリドの選択率をより高めることができる。原料中の水を低減させることにより、反応液中のグリコリドの保存安定性は高くなり、触媒寿命も原料中の水が少ないほど長くなる。触媒活性の低下は、高分子量のオリゴマーが触媒の活性点を被覆することが原因と考えられている。原料中の水を少なくすることにより、グリコリドの選択性が向上し、オリゴマーの生成量が少なくなることにより、活性点の被覆を抑制し、触媒寿命が向上すると考えられる。グリコール酸エステルの水を制御する(低減させる)方法は、蒸留等の公知の方法に従えば良い。
【0021】
触媒は限定的でなく、例えば公知の方法(α−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルからグリコリドを合成する方法)で使用される公知の触媒を適用することもできる。より具体的には、酸化物(無機酸化物)触媒を好ましく用いることができる。
【0022】
本発明では、特に、周期表第3から第6周期の1族(アルカリ金属)、2族(アルカリ土類金属)、3族(希土類)、4族(チタン族)、5族(バナジウム族)、6族(クロム族)、7族(マンガン族)、8族(鉄族)、9族(コバルト族)、10族(白金族)、11族(銅族)、12族(亜鉛族)、13族(ホウ素族)、14族(炭素族)及び15族(窒素族)の少なくとも1種の元素が好ましい。この中でも、周期表第4から第6周期の1族、3族、6族、8族、9族、14族及び15族の少なくとも1種の元素を含むことがより好ましい。特に、Cs、La、Sn、Pb、Sb、Bi、Mo、Fe及びCoの少なくとも1種の元素を含むものを好適に用いることができる。特に、Sb及びBiの少なくとも1種が最も望ましい。これらの好ましい触媒を用いることによって、より高い選択率でグリコリドを製造することができる。
【0023】
これらの元素は、特に酸化物及び/又は無機塩の形態であることが望ましい。無機酸塩としては、例えば硝酸塩、アンモニウム塩、酢酸塩、炭酸塩等が挙げられる。より具体的には、酢酸アンチモン、硝酸ビスマス、炭酸セシウム、硝酸ランタン、酢酸錫、酢酸鉛、モリブデン酸アンモニウム、硝酸鉄、酢酸コバルト等が例示される。
【0024】
また、上記触媒では、必要に応じて適当な担体に担持することもできる。担体としては、公知のもの又は市販品を使用することができ、特に限定されない。また、公知の製法によって得られるものも使用できる。例えば、金属酸化物(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア等)、複合金属酸化物(シリカ・アルミナ、チタニア・シリカ、シリカ・マグネシア等)、ゼオライト(ZSM−5、ZSM−11、シリカライト、モルデナイト、ベータ等)、メソポーラスシリケート(MCM−41、FSM−16等)、天然鉱物(粘土、珪藻土、軽石等)、炭素材料(活性炭、黒鉛等)の各種担体を挙げることができる。
【0025】
この中でも、脱水エーテル化反応等の副反応を効果的に抑制できるという点で、Hammett の酸度関数でH0≧−8.2の酸強度をもつ酸化物を用いることが望ましい。本発明において、固体表面の酸強度を測定する方法は、最もよく用いられる方法として指示薬を用いる方法を採用した。具体的には、約0.1gの試料を試験管に入れ、3〜5mLのベンゼンを加えた後、約0.1重量%の指示薬を含むベンゼン溶液の少量を加えたときの色の変化を観察した。指示薬として、例えばanthraquinone、benzalacetophenone、dicinnamalacetone等を用いた。例えば、anthraquinone で黄色を呈する固体の酸強度は、H0<−8.2である。これら担体の中でも、特にシリカが好ましい。このようなシリカは、市販品を用いることもできる。例えば、製品名「CARiACT」、「SYLYSIA」(いずれも富士シリシア製)等を用いることができる。
【0026】
上記触媒を担体に担持する場合、その担持量は最終製品の用途、担体の種類等に応じて適宜決定すれば良いが、通常は担体100重量部に対して金属単体換算で0.01〜20重量部程度、特に1〜10重量部とすることが好ましい。
【0027】
触媒を担体上に担持する場合は、触媒粒子を担体上に固定化できる方法であれば特に限定されない。担持方法としては、例えば共沈法、析出沈殿法、含浸法、気相蒸着法等の公知の方法を利用できる。
【0028】
本発明の製造方法では、270℃を超える温度にてグリコール酸エステルを気相で二量化反応させる。
【0029】
グリコール酸エステルを気相化するためには、例えば反応容器中で沸点以上に加熱する方法等を採用することができる。
【0030】
反応雰囲気中におけるグリコール酸エステルの濃度は特に限定されないが、環状二量化反応をより効率的に進行させるという点では、濃度20モル%以下(特に5モル%以下)となるように希釈されていることが望ましい。なお、濃度の下限値は限定的ではないが、通常1モル%程度とすれば良い。
【0031】
希釈する方法は特に限定されず、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより希釈する方法のほか、アセトニトリル、ジオキサン、トルエン等の有機溶剤を揮発させた蒸気で希釈する方法等のいずれであっても良い。特に、不活性ガスにより希釈する方法を好適に採用することができる。
【0032】
反応温度は、270℃を超える温度(好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上)とする。かかる温度範囲に設定することによって、高い選択率で環状二量体(グリコリド)を製造することができる。270℃以下となる場合には、主たる生成物がグリコール酸エステルの鎖状二量体となる。反応温度の上限は限定的ではないが、一般的には500℃程度とすれば良い。特に、本発明では、反応温度を280〜360℃、特に300〜360℃とすることが望ましい。
【0033】
本発明では、反応系におけるグリコール酸エステルの分圧は制限されないが、特に分圧を低く設定することによりグリコリドの選択性をより高めることができる。分圧を低くする方法は、例えば反応を減圧雰囲気下で行う方法、原料であるグリコール酸エステルの濃度を小さくする方法等のいずれであっても良い。
【0034】
減圧雰囲気とする場合には、圧力152Torr以下、特に76Torr以下、さらには20Torr以下の減圧雰囲気とすることが好ましい。減圧度を高めることによって、非凝縮性のガスの存在率を0とするか又は低い値にすることができるので、非凝縮性のガスによる反応生成物及び未反応原料の同伴をなくすか又は同伴量を抑制することができる。このため、捕集時の温度を適切な温度に設定することによって反応ガスを全量捕集することができる。さらに、非凝縮性のガスを含む反応条件と比較すると、捕集時の温度条件及び装置の面でよりマイルドな条件で実施できることから、コスト的な面でも有利である。
【0035】
上記反応の形態としては、連続式、回分式、半回分式等のいずれであっても良く、特に限定されるものではない。触媒は、反応形態として回分式を採用する場合には、反応装置に原料とともに一括して仕込めば良い。また、反応形態として連続式を採用する場合には、反応装置に予め上記触媒を充填しておくか、あるいは反応装置に原料とともに触媒を連続的に仕込めば良い。触媒は、固定床、流動床、懸濁床等のいずれの形態であっても良い。
【0036】
本発明において、触媒をグリコール酸エステルに接触させる場合、その接触時間は特に制限されず、用いる触媒の種類、反応温度等に応じて適宜設定すれば良い。一般的には、GHSV(ガス空間速度:Gas Hourly Space Velocity)が10〜15000(hr-1)の範囲内で定めることができる。なお、上記ガス空間速度は、原料のガス空間速度である。
【0037】
上記反応後は、反応ガス又は反応液から触媒を分離した後、生成したグリコリドを次に述べる方法によって回収すれば良い。この場合、触媒を分離する方法は、例えば常圧、加圧又は減圧でのろ過、沈殿ろ過、遠心分離等の公知の固液分離方法に従えば良い。
【0038】
反応系から出てきた反応生成物(及び未反応原料)を捕集する方法は限定的でない。例えば、反応温度以下の温度で全量捕集する方法(全量捕集方法)、2成分以上に分取する方法(分取捕集方法)等があり、いずれの方法であっても良い。
【0039】
また、捕集する時の反応生成物及び未反応原料の性状は、液体、固体又は気体のいずれであっても良いし、これらの混合状態でも良い。
【0040】
捕集方法は、全量捕集方法又は分取捕集方法のいずれにおいても、溶媒を使用して捕集する方法及び溶媒を使用せずに捕集する方法のいずれも採用することができる。
【0041】
全量捕集方法の場合は、例えば反応液の捕集温度又は圧力を変えることにより、捕集直後の状態が液体状態の後、グリコリドの白色結晶が析出する。グリコリドの白色結晶が析出しない場合は、さらに温度を下げることによりグリコリドの白色結晶を析出させることができる。
【0042】
分取捕集方法の場合は、例えば反応ガスの捕集温度又は圧力を変えることにより、グリコリド、オリゴマー、グリコール酸エステル、メタノール、水、その他も混合しているが、その組成比を変えて複数に分けて捕集すれば良い。このように捕集することによって、捕集液中のグリコリドに対するグリコール酸エステル及びメタノールの組成比を小さくすることができ、グリコリドの捕集液に対する溶解度が下がるため、グリコリドの白色結晶を析出させやすくすることができる。全量捕集方法と比較すると、捕集条件を緩和できるため、装置、ユーティリティ等の費用を低減することができる。さらに、捕集液中にロスする溶解度分のグリコリド量を少なくすることができ、収率の向上又はリサイクルの処理量を低減することができる。また、グリコリドと水とを分けることにより、全量捕集方法の場合と比較してグリコリドの保存安定性がより高まる。
【0043】
その他の捕集方法としては、反応ガスをグリコリドの融点である82〜84.5℃より低い温度に急冷することにより、グリコリドの白色結晶を捕集する方法を使用することもできる。グリコリドに対して溶解度が低い溶媒、例えば原料のグリコール酸エステル、イソプロピルアルコール(IPA)、エーテル、アセトン、エタノール等をシャワー状に上方から降らせ、グリコール酸エステル及びオリゴマーを洗うことにより、高純度でグリコリドを得ることができる。また、同様の溶媒中に反応ガスをフィードして捕集することによって、グリコリドの結晶を得ることができる。また、捕集条件を変えることにより、溶媒を使用しないでグリコリドの結晶を得ることもできる。
【0044】
回収されたグリコリドは、必要に応じて精製処理することもできる。精製方法は、再結晶処理等の公知の精製方法を採用することもできる。例えば、グリコリドを結晶状態で捕集した場合、その結晶の純度が高いときはその結晶を濾別し、結晶に付着しているグリコール酸エステル、オリゴマー、その他不純物等を取り除くために再結晶処理を行えば良い。ろ過方法は、触媒分離と同様に公知の方法であれば限定されない。また、高分子量のオリゴマー、異物等を取り除くために、再結晶処理に先立ってろ過を実施しても良い。再結晶処理に用いる溶媒は、グリコリドに対する溶解度が低く、グリコール酸エステルに対して溶解度が高い溶媒であれば特に制限されない。例えば、イソプロピルアルコール、エーテル、アセトン、エタノール等が挙げられる。
【0045】
一方、捕集した結晶の純度が低い場合には、前述のような溶媒を用いて再結晶を実施すれば良い。同様に、高分子量のオリゴマー、異物等を取り除くために、再結晶処理の前にろ過を実施しても良い。
【0046】
また、捕集した状態が溶液状態である場合は、まず高分子量のオリゴマー、異物等があればろ過を行う。ろ過方法については、前述と同様にすれば良い。グリコリドの精製は、再結晶で実施するが、再結晶の前に再結晶溶媒中に溶け込むグリコリドのロスを低減するためにグリコール酸エステル、メタノール等を蒸留により取り除いても良い。このとき、温度はできるだけ低いほうが好ましいので、減圧度はできるだけ高いほうが良い。再結晶処理に用いる溶媒は、前述と同様に溶解度の条件を満たせば良い。グリコリドの純度を高める場合は、再結晶処理を繰り返して行えば良い。
【0047】
本発明の製造方法では、未反応原料は、ガス状態又は液体の状態で回収し、原料として再利用することができる。また、反応ガスの捕集及びグリコリドの精製時に生じたろ液等に含まれるダイマー等の低分子量オリゴマーも再利用することができる。ダイマー自体は、他のオリゴマーと分離した後、原料に混ぜて反応器にフィードすることができる。ダイマー以外の低分子量オリゴマーは、酸と反応させてグリコール酸エステルに戻し、再利用すれば良い。
【実施例】
【0048】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。但し、本発明の範囲は、実施例の範囲に限定されるものではない。
【0049】
なお、実施例及び比較例における測定は、次のような方法で実施した。
(1)反応生成物の定量
ガスクロマトグラフィー及び/又は液体クロマトグラフィーにより、反応生成物の成分を定量分析した。
(2)転化率、選択率及び収率
転化率、選択率及び収率は、それぞれ次の各式に基づいて算出した。
【0050】
・転化率(%)=(1−B/A)×100
・選択率(%)={C/(A−B)}×100
・収 率(%)=(C/A)×100
(但し、上記3式において、A:仕込みグリコール酸エステルのモル数、B:残存グリコール酸エステルのモル数、C:生成したグリコリドのモル数に応じて消費されたグリコール酸エステルのモル数をそれぞれ示す。)
・GLD/ダイマー選択率比=グリコリド選択率(%)/ダイマー(鎖状二量体)選択率(%)
触媒調製例1
酢酸アンチモン担持シリカ触媒
酢酸アンチモン(Sb(CH3COO)3)3.11g(和光純薬製)を、マグネチックスターラーで攪拌している26.57gの純水を入れたビーカーの中に加えた。酢酸アンチモンが均一に分散していることを確認してから、これをシリカ(製品名「CARiACT Q−30」富士シリシア製)24.10gに含浸担持させた。2時間熟成した後、90℃の温浴槽でスパチュラでかき混ぜながら充分に蒸発乾固させた。その後、乾燥機を使用して120℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間の焼成を行った。これにより、酢酸アンチモン担持シリカ触媒(5wt%Sb/SiO2触媒)を得た。焼成後、120℃で取り出し、吸湿しないように密栓し、ドライボックス中で使用直前まで保管した。この触媒は、後記の実施例1〜2及び比較例1〜2で使用した。
【0051】
同様にしてアンチモンの担持量を10wt%とした触媒(10wt%Sb/SiO2触媒)を作製した。これは、酢酸アンチモン3.58g、純水14.61g及びシリカ13.14gとしたほかは、上記の製法と同様の方法により製造した。この触媒は、後記の実施例8で使用した。
【0052】
触媒調製例2
酸化アンチモン担持シリカ触媒
酸化アンチモン(Sb23)2.0g(和光純薬製)を、マグネチックスターラーで攪拌している240gの純水を入れたビーカーの中に加えた。酸化アンチモンが均一に分散していることを確認してから、シリカ(製品名「SYLYSIA350」富士シリシア製)31.74gを少しずつ加えた。2時間熟成した後、90℃の温浴槽でスパチュラでかき混ぜながら充分に蒸発乾固させた。その後、120℃で乾燥機を使用して一晩乾燥させた。次いで、乾燥物を適当な大きさに粉砕し、ふるい分けを行うことにより、粒径1〜2mmに揃えた。その後、500℃で3時間の焼成を行うことにより、酸化アンチモン担持シリカ触媒(5wt%Sb/SiO2触媒)を得た。焼成後、120℃で取り出し、吸湿しないように密栓し、ドライボックス中で使用直前まで保管した。この触媒は、後記の実施例3〜7で使用した。
【0053】
触媒調製例3
硝酸ビスマス担持シリカ触媒
硝酸ビスマス(Bi(NO33・5H2O)13.56g(和光純薬製)を、マグネチックスターラーで攪拌している122.06gの純水を入れたビーカーの中に加えた。さらに、硝酸(Assay60〜61%)(和光純薬製)を30cc加えた。硝酸ビスマスが均一に分散していることを確認してから、これをシリカ(製品名「CARiACT Q−30」富士シリシア製)111.02gに含浸担持させた。2時間熟成した後、90℃の温浴槽でスパチュラでかき混ぜながら充分に蒸発乾固させた。その後、乾燥機を使用して120℃で一晩乾燥させた後、500℃で3時間の焼成を行った。これにより、硝酸ビスマス担持シリカ触媒(5wt%Bi/SiO2触媒)を得た。焼成後、120℃で取り出し、吸湿しないように密栓し、ドライボックス中で使用直前まで保管した。この触媒は、後記の実施例9で使用した。
【0054】
同様にしてビスマスの担持量を1wt%とした触媒(1wt%Bi/SiO2触媒)を作製した。これは、硝酸ビスマス1.05g、純水49.32g、硝酸10cc及びシリカ44.81gとしたほかは、上記の製法と同様の方法により製造した。この触媒は、後記の実施例10で使用した。
【0055】
また、同様にしてビスマスの担持量を10wt%とした触媒(10wt%Bi/SiO2触媒)を作製した。これは、硝酸ビスマス7.19g、純水30.69g、硝酸20cc及びシリカ27.90gとしたほかは、上記の製法と同様の方法により製造した。この触媒は、後記の実施例11で使用した。
【0056】
触媒調製例4
硝酸ランタン担持シリカ触媒
酢酸アンチモンに代えて硝酸ランタン(La(NO33・6H2O)4.17g(和光純薬製)を用い、さらに純水27.97g、シリカ25.40gとしたほかは、触媒調製例1と同様にして5wt%La/SiO2触媒を製造した。この触媒は、後記の実施例12で使用した。
【0057】
触媒調製例5
モリブデン酸アンモニウム担持シリカ触媒
酢酸アンチモンに代えてモリブデン酸アンモニウム((NH46Mo724・4H2O)4.01g(和光純薬製)を用い、さらに純水45.57g、シリカ41.43gとしたほかは、触媒調製例1と同様にして5wt%Mo/SiO2触媒を製造した。この触媒は、後記の実施例13で使用した。
【0058】
触媒調製例6
酢酸コバルト担持シリカ触媒
酢酸アンチモンに代えて酢酸コバルト((CH3COO)2Co・4H2O)6.04g(和光純薬製)を用い、さらに純水29.85g、シリカ27.13gとしたほかは、触媒調製例1と同様にして5wt%Co/SiO2触媒を製造した。この触媒は、後記の実施例14で使用した。
【0059】
触媒調製例7
酢酸鉛担持シリカ触媒
酢酸アンチモンに代えて酢酸鉛((CH3COO)2Pb・3H2O)2.57g(和光純薬製)を用い、さらに純水29.39g、シリカ26.70gとしたほかは、触媒調製例1と同様にして5wt%Pb/SiO2触媒を製造した。この触媒は、後記の実施例15で使用した。
【0060】
触媒調製例8
炭酸セシウム担持シリカ触媒
酢酸アンチモンに代えて炭酸セシウム(Cs2CO3)2.62g(和光純薬製)を用い、さらに純水22.34g、シリカ20.31gとしたほかは、触媒調製例1と同様にして5wt%Cs/SiO2触媒を製造した。この触媒は、後記の実施例16で使用した。
【0061】
実施例1
グリコール酸メチルからグリコリドを合成した。原料ガスとして、窒素ガスでグリコール酸メチルを希釈してなる窒素ガス/グリコール酸メチル混合ガスを用いた。原料ガスにおけるグリコール酸メチルの濃度は17.4モル%とした。触媒は、触媒調製例1で得られた固体触媒(担持量はSb換算で5重量%)を用いた。この触媒を反応管に4.9g充填し、その反応管に原料ガスをGHSV:265(hr-1)の条件下で流通させ、グリコール酸メチルの二量化反応を実施した。このときの反応温度は300℃とし、反応圧力は常圧下とした。得られた反応生成物を分析し、転化率等を求めた。その結果、グリコール酸メチルの転化率は44.7モル%、グリコリドの選択率は43.7モル%、二量体に対するグリコール酸メチルの選択率(モル%)の比は1.4であった。
【0062】
実施例2〜16及び比較例1
反応条件を表1のように変更したほかは、実施例1と同様にしてグリコリドを製造した。実施例1と同様にして、得られた反応生成物を分析し、転化率等を求めた。その結果を表1に示す。
【0063】
表1中、「MGC」はグリコール酸メチル、「GLD」はグリコリドを示す。また、GLD/ダイマー選択率比は、数値の大きいほうが鎖状二量体の選択率に対するグリコリドの選択率が高いことを示す。
【0064】
なお、各実施例で使用したグリコール酸メチルに含まれる水分量は、実施例7が0.11重量%であり、それ以外はいずれも0.57重量%であった。
【0065】
【表1】

【0066】
比較例1は、反応温度を260℃に変更したほかは、実施例1と同様にして反応を行った。グリコリド選択率は、実施例1の43.7モル%に対し、比較例1はその半分以下である20.2モル%であった。GLD/ダイマー選択率比の値から、実施例1ではグリコリドの選択率が鎖状二量体の選択率の1.4倍であるのに対し、比較例1では鎖状二量体の選択率がグリコリドの選択率の2倍になった。
【0067】
比較例2は、実施例1とグリコール酸メチルの転化率がほぼ同じになるようにGHSVを変更して反応を行った。グリコリドの選択率は18.9モル%であり、比較例1よりもさらに低くなった。
【0068】
実施例2では、反応温度を350℃にして実験した。グリコリドの選択率は48.2モル%であった。GLD/ダイマー選択率比は2.0であり、グリコリドの選択率が鎖状二量体の選択率の2倍になった。
【0069】
実施例3では、反応温度340℃とし、原料ガス濃度を3.4モル%で反応を行った。原料ガス濃度を低くすることにより、グリコリドの選択率を76.0モル%とさらに高めることができた。GLD/ダイマー選択率比は9.0であり、グリコリドの選択率が鎖状二量体の選択率の9倍になった。
【0070】
実施例4では、温度300℃及び圧力76Torrの減圧下で反応を行った。グリコリドの選択率は57.4モル%であった。
【0071】
実施例7では、温度300℃及び圧力20Torrの減圧下で反応を行った。グリコリドの選択率は77.6モル%であった。
【0072】
実施例8では、Sbの担持率を10重量%の触媒を使用して反応を行った。実施例9〜11では、Biの担持率をそれぞれ1重量%、5重量%、10重量%の触媒を使用した。実施例12では、担持金属元素をLaに代えた触媒を使用した。実施例13は、担持金属元素をMoに代えた触媒を使用した。実施例14では、担持金属元素をCoに代えた触媒を使用した。実施例15は、担持金属元素をPbに代えた触媒を使用した。実施例16では、担持金属元素をCsに代えた触媒を使用した。いずれも、比較例1と比べてグリコリドの選択率は高く、GLD/ダイマー選択率比の値も大きくなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール酸エステルからグリコリドを製造する方法であって、触媒の存在下270℃を超える温度にてグリコール酸エステルを気相で二量化反応させることを特徴とするグリコリドの製造方法。
【請求項2】
前記温度が280〜360℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が、周期表第4から第6周期の1族、3族、6族、8族、9族、14族及び15族の少なくとも1種の元素を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応雰囲気が、圧力152Torr以下の減圧雰囲気である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応雰囲気中におけるグリコール酸エステルの濃度が20モル%以下に希釈されている、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。