説明

グリコールまたはグリコール水溶液の回収方法

【課題】省エネルギー性、環境保護、成分の有効活用の観点から、使用済みの、グリコールおよび水溶性ポリマーを含む水系媒体から、グリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法を提供することにある。
【解決手段】水、グリコール類、イオン性成分、および、水溶性ポリマーを少なくとも含む水系媒体を蒸留により、主として水溶性ポリマーを釜残分として除去して留出液を得る工程、前記留出液を、イオン交換膜を用いた電気透析により、成分中のイオン性成分を泳動除去する工程、よりなるグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用履歴のある難燃性作動液、水溶性研切削油、水溶性熱媒油、クーラント(装置・設備循環用冷媒)などの工業用水系媒体からグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の省資源対策、地球温暖化対策に対し、ISO14000への取り組みなど、前記水系媒体のロングライフ化やリサイクルのニーズが高まっている。
それらの代表例としての水溶性作動液やセラミック系研磨剤が、グリコール類やポリアルキレングリコールなどの水溶性ポリマーを含んだ水系媒体として挙げられる。
【0003】
例えば、水溶性作動液においては、成分として水、グリコール類、ポリアルキレングリコールを主成分としており、組成として、水を30〜70%、流動点降下剤であるグリコール類を5〜50%、増粘剤であるポリアルキレングリコールを10〜50%、その他潤滑剤、潤滑防錆剤、消泡剤、防食剤を含んでいる。
【0004】
水溶性作動液は使用中にせん断、熱、酸化作用を受け、徐々に成分が劣化を受け、劣化物としてギ酸、酢酸、グリコール酸、乳酸といった有機酸を生成する。これらはポリマー成分からの発生がほとんどであると考えられている。
【0005】
水系媒体の構成成分の再使用には、劣化物を除去することが必要である。劣化物を除去する方法としては、例えば特許3093984号(特許文献1)に示される、電気透析法による、水溶性加工液からの有機酸の除去方法の提案がある。特許文献1の方法は、同一出願人の特開2001−9458(特許文献2)の(0007)で指摘されているように、透析進行に従い、析出物により透析膜が目詰まりし、電圧上昇の不具合が生じる問題がある。
【0006】
一方、特許文献2では、水溶性加工液の液管理方法として、陽極室にアルカリ金属イオン溶液を添加した電気透析法が開示されている。しかしながら、この方法では陽極室に入れたアルカリ金属イオンが、濃度拡散により、被処理液中に拡散する現象が起こり、回収した水系媒体の構成成分中に無機アルカリ金属イオンのコンタミネーションを起こす。
【0007】
更に、高分子ポリマーを含まない水系媒体からグリコール類を回収する方法が特開2003−126604(特許文献3)に記載がある。しかし、この方法では、蒸留、吸着剤処理、再蒸留の3工程による工程が開示されており、工程が煩雑であり、吸着材の処理が必要である等、経済面、環境面から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3093984号公報
【特許文献2】特開2001−9458公報
【特許文献3】特開2003−126604公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、省エネルギー性、環境保護、成分の有効活用の観点から、使用済みの、グリコールおよび水溶性ポリマーを含む水系媒体から、グリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の発明に係る。
1.水、グリコール類、イオン性成分、および、水溶性ポリマーを少なくとも含む水系媒体を蒸留により、主として水溶性ポリマーを釜残分として除去して留出液を得る工程、前記留出液を、イオン交換膜を用いた電気透析により、成分中のイオン性成分を泳動除去する工程、よりなるグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
2.前記水系媒体に対し無機アルカリを添加して蒸留を行う、上記1に記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
3.前記留出液におけるグリコール類の含有量が70重量%以下になるように水分調整を行う工程を含む上記1〜2のいずれかにに記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
4.回収されたグリコールまたはグリコール水溶液における、イオン性成分の濃度が検出限界以下である上記1〜3のいずれかに記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、蒸留法により、水溶性ポリマーを釜残分として除去し、さらに、留出液を電気透析することで有機酸などのイオン性成分濃度を検出限界以下に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蒸留法により、水溶性ポリマーを除去し、さらに、留出液を電気透析することで、回収したグリコールまたはグリコール水溶液中の有機酸などのイオン性成分を検出限界以下にまで除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水系媒体としては、例えば使用履歴のある難燃性作動液、水溶性研切削油、水溶性熱媒油、クーラント(装置・設備循環用冷媒)などの工業用水系媒体が例示される。これら水系媒体は水、グリコール類、イオン性成分、および、水溶性ポリマーを少なくとも含む。
【0014】
グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、テトラプロピレングリコールなどが挙げられる。場合によりグリセリンが含まれていても良い。
【0015】
イオン性成分としては、炭素数8〜20の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸、ダイマー酸などの二塩基酸、トリマー酸などの三塩基酸、防食機能を付与するためのベンゾトリアゾールのような複素環窒素化合物、アルカノールアミン、ジアルキルアルカノールアミン、トリアルキルアルカノールアミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。
【0016】
水溶性ポリマーとしてはエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)の共重合体のポリアルキレングリコール、EOのみの重合したポリエチレングリコールなどが挙げられる。その分子量は200〜30000程度が好ましい。その他にはさらにこれらの末端に、OH基、メチル基、エチル基などの有機官能基を付加したポリマーなどを挙げることができる。
【0017】
この水系媒体を先ず蒸留により、主として水溶性ポリマーを釜残分として除去して水とグリコール類を含む留出液を得る。蒸留は、減圧条件における単蒸留での実施が好適であるが、これに限定されるものではない。好ましくは、水の突沸を防ぐため、まず水の蒸留条件として、7〜20kPaで、40〜60℃に設定する。続いて、エチレングリコールであれば、1〜10kPaで90〜130℃、プロピレングリコールであれば1〜10kPaで90〜130℃、ジプロピレングリコールであれば、1〜10kPaで120〜210℃、グリセリンであれば、1〜10kPaで180〜240℃の条件で蒸留するのが好ましい。蒸留処理前液の水系媒体をそのまま蒸留しても良いが、水系媒体に無機アルカリを加えて蒸留しても良い。無機アルカリを加えると、劣化物を高沸点成分である水溶性ポリマーとともに釜残分として残すことができ、劣化物の処理性を向上することができる。
【0018】
無機アルカリとしては、LiOH、LiCO、KOH、KCO、KHCO、NaOH、NaCO、NaHCO、CsOH、CsCO、CsHCOなどが挙げられる。無機アルカリは水系媒体に対して0.1〜5重量%、好ましくは1〜3重量%添加するのが良い。
【0019】
第二工程の留出液の電気透析工程では、効率の良いアニオン、カチオンの除去のために、電気伝導度を向上させるべく、グリコール類が70%以下になるような水の添加が好ましい。経済性の面からグリコール類は20重量%以上が好ましい。さらにグリコール類が30〜60重量%、特に35〜55重量%になるような水の添加が好ましい。グリコールの比率が高くなると、処理時間が長くなる。
【0020】
また、回収したグリコール水溶液にカチオンを含んでも良い場合は、アニオン交換膜のみを用いた電気透析処理であってもかまわない。この場合、グリコール成分中のアニオン性の劣化物は除去され、主として、配合成分であるカチオン性成分(例としてアミンなど)はそのままグリコール液中に残り、再生液中で再活用できる。なお、特許文献2にはアニオン、カチオンの各槽に電解質を入れる効用が示されるが、無機イオンの拡散が起こり、グリコール液中に混入するため、好ましくない。
【0021】
本発明では、処理開始後にイオン性成分が泳動され、それらが電荷を持つ物質として導電性に寄与するため、アニオン、カチオンの各槽に脱イオン水を用いても十分に処理できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが何らこれらに限定されるものではない。
なお留出液の劣化物濃度及び回収グリコールまたはグリコール水溶液におけるイオン性成分の濃度の測定は以下の方法に依った。劣化物とはギ酸、酢酸、乳酸など使用中、劣化により発生した酸を示す。イオン性成分とは劣化物および、もとから製品に成分として含まれている、(0015)に示される脂肪酸やアミンを示す。
キャピラリー電気泳動装置(ベックマンコールター社製P/ACEシステムMDQ)を用いてイオン成分(アニオン、カチオン)を測定し、定量を行った。
なお本発明におけるイオン性成分の検出限界とは、上記キャピラリー電気泳動装置(ベックマンコールター社製P/ACEシステムMDQ)を用いて測定した時の検出限界を指す。
【0023】
実施例1
2L4つ口フラスコに油圧作動機器で使用履歴のある水溶性作動液を1300g投入し、6〜12kPaで塔頂温度129℃まで昇温し、水を主成分とする留分530g、プロピレングリコールを主成分とする留分451gと釜残309gを得た。
プロピレングリコールを主成分とする留分を純水で50%に希釈したところ、希釈液の劣化物濃度は、ギ酸41ppm、酢酸780ppm、グリコール酸、乳酸は検出限界以下含まれた。
該希釈液を、アニオン交換膜(アストム製AMX)、カチオン交換膜(旭硝子製CMV)で3槽に分け、アニオン交換膜(有効面積12cm)とカチオン交換膜(有効面積12cm)とで隔離された槽にセットし、アニオン交換膜で隔てたアニオン槽に純水を投入し、Pt被覆電極をセットする。一方、カチオン交換膜で隔てたカチオン槽に純水を投入し、SUS316製電極をセットする。これら2電極間に直流電圧を印加し、0.03Aで希釈液に含まれる劣化物を電気泳動した。その結果、5時間後にはギ酸10ppm、酢酸25ppm、8時間後には全てが検出限界以下に低減した。なお、カチオン成分は劣化物の発生が少ないが8時間後には、検出限界以下になっていた。
【0024】
実施例2
1000mlのナスフラスコに油圧作動機器で使用履歴のある水溶性作動液を804g投入したものをロータリーエバポレーターにセットし、100rpmで回転させながら、2kPaで蒸留缶温度129℃まで昇温し、水及びプロピレングリコールを主成分とする留分619gと釜残157gを得た。
水及びプロピレングリコールを主成分とする留分のグリコールの割合は52重量%で、劣化物濃度は、ギ酸73ppm、酢酸681ppm、グリコール酸、乳酸は検出限界以下であった。
上記の液を実施例1と同様に処理した結果、5時間経過後には、ギ酸11ppm、酢酸21ppm、9時間後には全てが検出限界以下に低減した。
カチオン成分は、11時間後には消滅していた。
【0025】
実施例3
1000mlのナスフラスコに油圧作動機器で使用履歴のある水溶性作動液にKOHを1wt%添加した液を804g投入したものを、ロータリーエバポレーターにセットし、100rpmで回転させながら、2kPaで蒸留缶温度129℃まで昇温し、水を主成分とする留分297g、プロピレングリコールを主成分とする留分307gと釜残159gを得た。
プロピレングリコールを主成分とする留分を水で55重量%に希釈したところ、希釈液の劣化物濃度は、ギ酸12ppm、酢酸23ppm、グリコール酸、乳酸は検出限界以下であった。該希釈液を、実施例1と同様に処理した結果、5時間後にはアニオン成分は検出限界以下に低減していた。カチオン成分は、10時間後には全て消滅した。
【0026】
実施例4
1000mlのナスフラスコに油圧作動機器で使用履歴のある水溶性作動液にKCOを2wt%添加した液を830g投入したものを、ロータリーエバポレーターにセットし、100rpmで回転させながら、2kPaで蒸留缶温度129℃まで昇温し、水を主成分とする留分281g、プロピレングリコールを主成分とする留分305gと釜残193gを得た。
プロピレングリコールを主成分とする留分を、水を主成分とする留分で50重量%に希釈したところ、希釈液の劣化物濃度は、グリコール酸6ppm、酢酸14ppm、ギ酸、乳酸は検出限界以下であった。
該希釈液を、アニオン交換膜のみを使用して、その他の条件は実施例1と同様に処理した結果、5時間後にはアニオン成分は検出限界以下に低減していた。
なお、実施例1〜4において、回収したグリコール水溶液は少なくとも6か月経過時にイオン性成分の生成は見られなかった。
【0027】
参考例1
実施例1の蒸留工程で得られたプロピレングリコールを主成分とする留分を純水により90重量%に希釈したところ、希釈液の劣化物濃度は、ギ酸77ppm、酢酸1511ppm、グリコール酸、乳酸は検出限界以下含まれていた。該希釈液を、実施例1と同様に電気透析したところ、9時間後にはギ酸21ppm、酢酸143pmであった。
【0028】
参考例2
油圧作動機器で使用履歴のある水溶性作動液(水分約40%)をアニオン交換膜(アストムAMX/有効面積2800cm)で2層に分け、片槽に該作動液を、もう一槽に純水を投入し、該溶液槽にSUS316製電極、純水槽にPt被覆電極をセットし、SUS316をプラス極、Pt被覆電極をマイナス極として、直流電圧を12.9A印加した。その結果、7時間後にギ酸68ppm、酢酸49ppmに到達し、その後は処理時間を延ばしても、各濃度は低減しなかった。なお、回収した処理後液は、4ヶ月後にはギ酸292ppm、酢酸が72ppmなどのイオン性成分が検出された。
【0029】
参考例3
ビーカーにギ酸392ppm、酢酸3281ppm、グリコール酸70ppm含む被測定液を注入し、マグネットスターラーで攪拌しながら、粒状活性炭を1重量%添加し、時間毎サンプリングして、表1に示すような濃度(ppm)推移を確認した。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、これまで廃棄物として最終処理されていた水、グリコール類、イオン性成分、および、水溶性ポリマー類を少なくとも含む水系媒体から、グリコール成分を回収し再度有効利用することが可能である。
本発明で回収したグリコール類を水溶性作動液、水溶性研切削油、水溶性熱媒油、クーラント等の水系媒体の原料として再利用することができ、省資源、環境保護への貢献が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、グリコール類、イオン性成分、および、水溶性ポリマーを少なくとも含む水系媒体を蒸留により、主として水溶性ポリマーを釜残分として除去して留出液を得る工程、前記留出液を、イオン交換膜を用いた電気透析により、成分中のイオン性成分を泳動除去する工程、よりなるグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
【請求項2】
前記水系媒体に対し無機アルカリを添加して蒸留を行う、請求項1に記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
【請求項3】
前記留出液におけるグリコール類の含有量が70重量%以下になるように水分調整を行う工程を含む請求項1〜2のいずれかに記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。
【請求項4】
回収されたグリコールまたはグリコール水溶液における、イオン性成分の濃度が検出限界以下である請求項1〜3のいずれかに記載のグリコールまたはグリコール水溶液を回収する方法。

【公開番号】特開2013−111509(P2013−111509A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258451(P2011−258451)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000146180)株式会社MORESCO (20)
【Fターム(参考)】