説明

グリコール酸共重合体

【課題】比較的高い温度における溶融加工においても着色が少なく、高い品質を維持できるグリコール酸共重合体及びそれを製造する方法を提供すること。
【解決手段】重量平均分子量が5万以上であり、グリコール酸単位を75mol%以上含有し、230℃で5分間、加熱溶融した後の着色度変化率が、加熱前着色度に対して110〜300%であるグリコール酸共重合体である。この共重合体は、重縮合反応の進行過程において、重量平均分子量が3万以上に達した段階で、トリアリールホスファイト化合物を添加することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸共重合体に関する。詳しくは、溶融加工時に着色することの少ないグリコール酸共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸又はこれらの共重合体に代表されるヒドロキシカルボン酸から製造される脂肪族ポリエステルは、生分解性の高分子として注目され、例えば、縫合糸等の医用材料、医薬、農薬、肥料等の徐放性材料等、多方面に利用されている。特に、ポリグリコール酸及びグリコール酸構造単位を主体とするグリコール酸共重合体は、ガスバリアー性に優れるという特徴を有し、フィルム等、包装材料用途に利用する提案が多数行われている。
【0003】
これらのポリマーを製造する方法としては、従来、乳酸、グリコール酸を一旦重縮合し、プレポリマーとした後、解重合によりラクチド及び/又はグリコリドを製造し、これらを用いて開環重合してポリラクチド及びポリグリコリドを製造していた。この方法によると、高分子量のポリマーが得られるものの、多数の工程を必要とし、また、ラクチド、グリコリドを得るために多大の労力がかかり、経済的とはいえなかった。
【0004】
本発明者らは、先に、特定の金属アルコキシドをグリコール酸存在下にて加水分解させることにより得られる加水分解生成物を触媒として用いて、グリコール酸等の原料を直接重縮合することにより、効率よく、高分子量で、重合時着色することの少ない高品質のグリコール酸共重合体が得られることを見出し、特許出願した(特願2001−93676号)。
しかしながら、グリコール酸構造単位を多く含むグリコール酸共重合体は、比較的高い融点を有するため、溶融加工時の温度が高くなり、成形加工等に供した場合、ポリマーの着色が著しかったり、大幅な分子量の低下がしばしば認められることがある。
【0005】
このような問題を解決した、ポリ乳酸の製造方法として、特開平9−151243号公報には、ラクチドを錫等の金属触媒を用い、開環重合する際に、重合後半又は重合終了時にリン酸系エステルを添加することにより熱安定性、特に、分子量保持性に優れた高分子量のポリ乳酸を製造する方法が提案されている。しかしながら、この公報には、グリコール酸を出発原料としてポリグリコール酸及び/又はグリコール酸共重合体を製造する場合について、何ら記載されていない。本発明者らがグリコール酸共重合体を重縮合反応により製造する場合に、これを試みた結果では、融点以上、例えば、230℃での溶融保持時の分子量の保持性のわずかな改善が認められたものの、着色抑制効果に関しては満足できる効果が得られなかった。
このような事情に鑑み、重合時及び再溶融加工時にも着色することが少なく、高分子量を有するポリグリコール酸及び/又はグリコール酸共重合体を製造できる技術の登場が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、比較的高い温度における溶融加工においても着色が少なく、高い品質を維持できるグリコール酸共重合体及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、特定の重縮合触媒の存在下に重合を行い、特定の分子量以上に達した段階において、特定のリン含有化合物を添加することにより、重合時の着色を抑制できるだけでなく、得られたポリマーを重合温度よりも更に高い温度で溶融加工した場合にも、ポリマーが着色することの少ないグリコール酸共重合体が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1) 重量平均分子量が5万以上であり、グリコール酸単位を75mol%以上含有し、グリコール酸単位以外の共重合成分として、L−乳酸、D−乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸及び6−ヒドロキシカプロン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸を含むヒドロキシカルボン酸群、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、ジグリコール酸を含むジカルボン酸群、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、及びジエチレングリコールを含むジオール群から選ばれる共重合成分を含有し、230℃で5分間、加熱溶融した後の着色度変化率が、加熱前着色度に対して110〜300%であるグリコール酸共重合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比較的高い溶融温度で再溶融し、成形加工に供する場合においても着色が少ない、高分子量で高品質のポリグリコール酸共重合体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、グリコール酸共重合体中に含まれるグリコール酸単位の含有率は75mol%以上であり、好ましくは75mol%以上、99mol%以下の範囲、より好ましくは80mol%以上、95mol%以下の範囲、最も好ましくは82mol%以上、90mol%以下の範囲である。グリコール酸単位の含有率が75mol%未満の場合には、得られる共重合体の強度、弾性率等の機械的物性、軟化温度等の熱的物性及びガスバリアー性が低下する。グリコール酸単位の含有量が99mol%を超える場合には、共重合体の熱安定性が充分でなく、溶融成形加工時に熱分解して、着色及び分子量が低下しやすくなる傾向がある。
【0010】
グリコール酸単位以外の共重合成分の例としては、他のヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、ジオール、3価以上の多価化合物及び多糖類等を挙げることができるが、グリコール酸と共重合可能なものであればこれらに限定されるものではない。
他のヒドロキシカルボン酸の例としては、L−乳酸、D−乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸及び6−ヒドロキシカプロン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸等が挙げられる。
【0011】
ジカルボン酸の例としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、ジグリコール酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
ジオールの例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、及びジエチレングリコール等が挙げられる。
【0012】
3価以上の多官能化合物の例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、リンゴ酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカル
バリル酸、没食子酸等が挙げられる。
多糖類の例としては、例えば、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、CMC(カルボキ シメチルセルロース)、ヘミセルロース、デンプン、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、ペクチン、キチン、 キトサン等及びこれらの混合物及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0013】
共重合成分として好ましい例としては、D−乳酸及びL−乳酸が挙げられる。より好ましい例としては、L−乳酸が挙げられ、さらに好ましくは、光学純度が95%以上、最も好ましくは98%以上の、発酵法で製造されるL−乳酸である。所望により、上記の共重合成分の他に、グリコール酸単位を含むオリゴマーを一緒に用いることもできる。
これらのグリコール酸及び共重合成分は、固体状でも、水溶液の形でも、本発明のグリコール酸共重合体の製造に供することができる。
【0014】
本発明のグリコール酸共重合体の重量平均分子量は5万以上であり、230℃で5分間、加熱溶融した後の着色度変化率が、加熱前着色度に対して110〜300%である。
本発明で用いる重量平均分子量、及びグリコール酸共重合体の着色度及びその変化率については、後に述べる測定法により求められる。
グリコール酸共重合体の重量平均分子量が5万未満の場合には、成形加工に供するに充分な溶融粘度を有さず、得られる成形体も充分な強度をもたない。
【0015】
本発明において用いる着色度変化率とは、グリコール酸共重合体を230℃で5分間、加熱溶融した後の着色度を加熱前着色度で除した値を百分率で表した値である。本発明において、着色度変化率が110〜300%、好ましく110〜250%、最も好ましくは110〜200%の範囲であることが重要である。着色度変化率が300%を越えると、加工製品として品位が大幅に低下する。
本発明のグリコール酸共重合体の製造において、触媒として、マグネシウム、鉄、ハフニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ランタン、及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のアルコキシドを、ヒドロキシカルボン酸存在下、加水分解させることにより得られる加水分解物を用いることが好ましい。
【0016】
この金属アルコキシドは、アルキル基が結合した酸素原子と金属原子との結合が少なくとも1つ以上分子内に存在する化合物である。アルキル基と酸素原子の結合したものとしては、例えば、メトキシド、エトキシド、n−プロポキシド、iso−プロポキシド、n−ブトキシド、iso−ブトキシド、tert−ブトキシド、n−ヘキシルアルコキシド、2−ヘキシルアルコキシド等の1価のアルコキシドや、エチレングリコキシド、1,2−プロパンジアルコキシド、1,3−プロパンアルコキシド、1,4−ブタンジアルコキシド等の2価のアルコキシド、ペンタエリスリトール等の4価のアルコキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
アルキル基が結合した酸素原子と金属原子との結合の例としては、マグネシウムエトキシド、鉄トリエトキシド、ハフニウムテトラtert−ブトキシド、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラiso−プロポキシド、アンチモントリiso−エトキシド、ランタントリiso−プロポキシド、サマリウムiso−プロポキシド等が挙げられる。
金属アルコキシドの加水分解物の詳細な化学構造は明確ではないが、金属アルコキシドがアルコールを脱離するとともに、水酸化物{M−(OH)X}、金属アルコキシドの縮重合反応物{−M−O−M−}、グリコール酸とのアルコール交換反応物{M−(OCH2COOH)X}、グリコール酸と反応した金属塩{M−(OCOCH2OH)X}及び、グリコール酸の配位物等からなる、複数の化学構造を包含しているものと推測される。
【0018】
金属アルコキシドの加水分解物を得る方法は、限定されるものではないが、例えば、(a)重縮合反応前に、予め、マグネシウム、鉄、ハフニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ランタン及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のアルコキシドを、グリコール酸と充分量の水を含む水溶液の存在下に加水分解させて加水分解物を調整する方法、(b)マグネシウム、鉄、ハフニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ランタン及びサマリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のアルコキシドを、少なくとも3重量%を越える水及びグリコール酸を含む重合原料水溶液に添加し、脱水濃縮及び重縮合を行う工程中に、重合系中において加水分解物を形成させる方法等が挙げられる。工程が簡略化できる点からは、(b)法の、重合系中において脱水濃縮及び重縮合反応とともに金属アルコキシドの加水分解物を形成させる方法が好ましい。
【0019】
グリコール酸共重合体の重縮合触媒として用いる金属アルコキシドの加水分解物の添加量としては、モノマー1g当たり、金属原子として、通常、1×10−7〜1×10−2モル、好ましくは3×10−7〜1×10−3モルの範囲である。添加量が1×10−7モル未満の場合には、重縮合速度を高めることが困難になり、添加量が1×10−2モルを越えると、重合ポリマーが着色する等、副反応が増大し、分子量の増大が認められない場合がある。
【0020】
本発明において、重合段階で添加するトリアリールホスファイト化合物の例としては、亜リン酸トリフェニル、トリス(2−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,5−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファ イト、トリス(モノ及びジノニルフェニル)ホスファ イト、等を挙げることができる。好ましくは、亜リン酸トリフェニル、トリス(2−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイト、及びトリス(2,5−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。
【0021】
トリアリールホスファイト化合物の添加量には制限はないが、重合に使用する触媒金属原子1モルに対して、通常、0.1〜10モル、好ましくは0.3〜3モル、より好ましくは0.5〜2モルの範囲で用いる。添加量が0.1モル未満の場合には、溶融時の着色が充分に解消できないことがあり、10モルを越えると、更に継続して重合を行う場合に分子量が増大せず、着色も逆に著しくなる場合がある。
【0022】
本発明において、グリコール酸共重合体を製造する際にトリアリールホスファイト化合物を添加する時期としては、重合反応によりその重量平均分子量が好ましくは3万以上、より好ましくは5万以上に達した段階である。重量平均分子量が3万未満の段階で添加した場合には、本発明の目的とする着色抑制効果が発揮されない。また、その後の重合速度が低下し、高い分子量を有するグリコール酸共重合体が得られない。
【0023】
本発明におけるグリコール酸共重合体の製造方法は限定されない。例えば、(A)水及びグリコール酸を含む原料水溶液の、脱水濃縮工程からそれに続く溶融重縮合工程の任意の時点に、予め、金属アルコキシドをヒドロキシカルボン酸の存在下で加水分解して調整した触媒を添加して、溶融重縮合を行い、その重量平均分子量が3万以上に達した段階でトリアリールホスファイト化合物を添加し、グリコール酸共重合体を製造する方法、(B)水及びヒドロキシカルボン酸を含む重合原料水溶液に金属アルコキシドを添加した後、脱水濃縮工程及び溶融重縮合工程を実施することにより、重合系中において触媒を形成させ、溶融重縮合を行い、その重量平均分子量が3万以上に達した段階でトリアリールホスファイト化合物を添加し、グリコール酸共重合体を製造する方法、(C)(A)又は(B
)において、トリアリールホスファイトを添加することなく溶融重縮合を終了後、その重量平均分子量が3万以上に達した溶融ポリマーをペレット状に造粒する工程において、トリアリールホスファイト化合物を添加する方法、(D)(A)又は(B)において、トリアリールホスファイトを添加することなく溶融重縮合を終了後、重量平均分子量3万以上の溶融ポリマーを冷却固化し、取り出し、汎用の押出機を用いて、冷却固化させたポリマーにトリアリールホスファイト化合物を添加し再溶融押出後、冷却固化し、所望の固形物、例えば、ペレット状、板状、フィルム状等の固形物にする方法、(E)(C)に加えて固相重合を実施する方法等いずれの方法等が挙げられる。
【0024】
以下にグリコール酸共重合体の製造方法の一例について説明する。
原料水溶液を脱水濃縮する工程では、脱水濃縮の条件は制限されるものではないが、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気下、不活性ガス流通下又は減圧下において、温度100〜150℃、好ましくは100〜130℃の範囲、減圧度13.3〜101.3kPaの範囲で、それぞれ多段階に変化させて実施する。このとき、(B)法のように、原料水溶液中に金属アルコキシドが添加されている場合、脱水濃縮及びこれに続く溶融重縮合工程において金属アルコキシドの加水分解反応を同時に行うことができる。
【0025】
溶融重縮合工程では、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気下、不活性ガス流通下又は減圧下において、反応温度130℃〜220℃の範囲で多段階に変化させて重縮合を行うことが好ましく、より好ましくは150℃〜200℃の範囲である。重縮合温度が130℃未満の場合には、反応速度が遅く、非効率的であり、また高分子量のポリマーが得られないことがある。逆に 220℃を越える温度の場合には、ポリマーの着色及び分解、又は環状2量体等の副生物の留出が多くなる。
【0026】
本発明における溶融重縮合反応時の減圧度は、通常、13.3Pa〜6.7kPa、好ましくは66.7Pa〜6.0kPa、最も好ましくは0.4〜5.3kPaの範囲で、多段階に変化させて重縮合を行う。6.7kPaを越える圧力の場合には、重縮合時に発生する水を効率よく除去できない場合があり、13.3Pa未満の場合には、収率が低下する場合がある。
本発明における溶融重縮合反応の時間は2〜20時間、好ましくは4〜15時間の範囲である。20時間を超えて実施する場合には、ポリマーの着色が生じやすくなる。
【0027】
本発明においては、比較的高い蒸発比表面積が確保できる溶融重合反応装置を利用することにより、溶融重合単独でも高い分子量を有するグリコール酸共重合体を製造することができる。例えば、二軸横型高粘度反応機、塔内にワイヤーや金網等の溶融ポリマー支持体をその構造として保有する高比表面積重合装置を利用する方法等が挙げられる。
溶融重縮合によって製造したポリマーをプレポリマーとして、引き続き固相重合を実施し、着色も少なく、更に高分子量のグリコール酸共重合体を得ることもできる。プレポリマーとは、溶融重縮合により得られた生成物を意味するものであり、これを固相重合に供するまでに冷却固化せしめ、粒子状やペレット状に付形することができる。また、プレポリマーを結晶化させた後に固相重合に供することが好ましい。この結晶化条件を適切に選択することにより、プレポリマー粒子どうしの、固相重合時の融着・凝集を防止できるのみならず、固相重合時の重合反応速度を高めることもできる。
【0028】
得られた重合体の付形化の方法には制限はないが、例えば、溶融状態のプレポリマーを不活性ガスや水等の液体と接触させることにより塊状物にした後、粉砕し、粒子状にする方法、溶融状態のプレポリマーを押出機に移し、ペレット化する方法等が利用できる。プレポリマーを粒子状又はペレット状に付形した粒子径としては、結晶化工程や固相重合工程における取り扱い易さや、固相重合における重合速度を考慮して設定すればよいが、例えば、平均粒径が0.1〜10mmの範囲が好ましい。
【0029】
結晶化工程における結晶化の方法には制限は無く、公知の方法を利用できる。例えば、冷却固化したプレポリマーを気相中で加熱する方法、プレポリマーを溶解しない液体中で、結晶化温度にて加熱する方法等が挙げられる。
プレポリマーを結晶化させる条件にも制限はないが、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気下、不活性ガス流通下又は減圧下において、結晶化処理温度として、プレポリマーのガラス転移温度以上融点未満の範囲、結晶化時間10分〜360分の範囲が用いられる。
【0030】
結晶化したプレポリマーは、引き続き固相重合によって高分子量化を行う。 固相重合工程では、反応温度は、通常、結晶化プレポリマーのガラス転移温度以上、融解ピーク温度未満の範囲で実施することができる。
本発明の固相重合は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、又は減圧下、更には加圧下で行うこともできる。反応系内の減圧度や反応系内の圧力は、充分に高い重量分子量を有するグリコール酸共重合体が得られる範囲であれば制限されない。
【0031】
本発明の固相重合で使用する不活性ガス、すなわち、反応系に流通させるガスの具体例としては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトン ガス等が挙げられる。流通させる不活性ガスに含まれる水分量は、できるだけ低く、実質的に無水状態のガスであることが好ましい。 含水量が多いと固相重合反応で生成した水が効率よく除去できないために重合速度が遅くなる。この場合、ガスをモレキュラーシーブ類やイオン交換樹脂類等を充填した層に通すことにより脱水して使用することができる。流通ガスの含水量を露点で示すと、ガスの露点は−20℃以下、好ましくは−40℃以下である。
【0032】
固相重合反応の時間は5〜200時間、好ましくは10〜120時間の範囲である。
本発明のグリコール酸共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、紫外線防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩、核剤、可塑剤、他の脂肪族ポリエステル及びその前駆体等を添加することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明の各特性値は以下の方法により測定する。
(1)重量平均分子量
東ソ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析装置8020GPCシステムを用い、以下の条件で求める。使用する溶媒として、予め、80mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を調製しておく。より具体的には、例えば、HFIP1000gに対してトリフルオロ酢酸ナトリウムを6.48g溶解し調製する。
【0034】
評価用ポリマー試料溶液には、試料20mgを精秤した後、上記トリフルオロ酢酸ナトリウム含有HFIP3gに溶解し、その後、0.2ミクロンのフィルターにて濾過したものを用いる。
測定条件は、カラム温度40℃、留出速度1ml/分で実施し、使用するカラム構成としては、ガードカラムとして、TskguardcolumnHHR−L(登録商標)を使用し、Tskgel(登録商標)G5000HHR及びTskgel(登録商標)G3000HHR(いずれも東ソ社製)からなるものを使用する。
測定値は、予め、PMMA標準物質を用い、RI検出器による、溶出時間と分子量との関係を示す検量線を作成しておき、評価用ポリマー試料溶液測定時の溶出曲線より重量平
均分子量を求めた値である。
検量線作成に際し、PMMA標準物質として、分子量が1,577、000、685,000、333,000、100,250、62,600、24,300、12,700、4,700、1,680、及び1,140のもの(いずれもPolymer Laboratories社製)を用いる。
【0035】
(2)重合ポリマーの着色度
上記の方法にて重量平均分子量を求める際に、検出器として波長350nmに設定したUV検出器UV8020(東ソ社製)を接続し、その際、検出される全カウント数をもって評価する。カウント数が50未満の場合、得られたポリマーは目視で白色〜淡黄色に相当し、カウント数が50〜100の範囲の場合は目視で黄色に相当し、カウント数が100を越える場合には、得られるポリマーは目視で褐色〜黒褐色に相当する値である。
(3)グリコール酸共重合体中のグリコール酸単位の含有量
試料70mgを精秤し、d化トリフルオロ酢酸1ccに溶解し、基準物質としてTMSを用い、1H−NMRにて測定する。
【0036】
(4)再溶融時の熱安定性評価
重合により得られたポリマーを、予め、真空下80℃で6時間乾燥しておく。予め、窒素置換されたフラスコに所定量のポリマーを窒素気流下にて投入し、攪拌しながら230℃に加熱し、溶融させ、溶融した5分後にサンプリングする。重合ポリマーの重量平均分子量及び着色度の評価と同様に上記記載の方法にしたがい、その重量平均分子量及び着色度を評価する。
着色度変化率は、この評価により得られた着色度を、加熱前着色度で除した値を百分率で表した値である。
【0037】
[実施例1]
攪拌装置及び窒素導入管を備えた100cc反応容器に、高純度グリコール酸(65質量%水溶液;Du Pont(株)社製グリピア70(登録商標))及びL−乳酸(90質量%水溶液;和光純薬(株)社製)をそれぞれ93g及び11gとゲルマニウムテトライソプロポキシドをグリコール酸及び乳酸の合計量1g当たり、0.003mmolを仕込み、窒素置換を行った。次いで、窒素気流下、常圧、攪拌下にて130℃まで昇温し、原料水溶液の濃縮と同時にゲルマニウムテトラiso−プロポキシドの加水分解反応を1時間行った。その際、留出物をトラップし、分析した結果、ゲルマニウムテトラiso−プロポキシド1molに対して、3.95molに相当するイソプロパノールを検出した。添加したゲルマニウムテトラiso−プロポキシドはほぼ完全に加水分解されているといえる。
【0038】
その後、常圧のまま、温度を150℃に上げ、60分間保持し、濃縮を完結させた。更に、減圧を開始し、27kPaにて20分、更に6.7kPaにて20分、更に0.4kPaにて20分保持し、反応を継続したのち、温度を200℃に昇温させ、4時間重縮合反応を継続させた。
得られたグリコール酸共重合体は、重量平均分子量が22000であった。溶融状態のプレポリマーを冷却固化させた後取り出し、加熱された面ヒーターとその内部に内径65mm、有効長さ120mmのガラスチューブを有する横型回転式ガラスチューブオーブン型反応器(柴田化学(株)製GTO−350RG)に得られた重合物を15g投入し、再溶融させ、回転数5rpmにて、重合時の圧力が0.4kPa、重合温度が200℃の条件にて更に8時間重合を継続させた。その後、トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.003mmol添加し、15分反応を継続し、生成物を冷却固化させ、取り出した。得られたグリコール酸共重合体中のグリコール酸単位含有量は88mol%であった。
【0039】
得られたポリマーの重量平均分子量は139,000、ポリマーの着色度は17であった。得られたポリマーの再溶融時の熱安定性を評価した結果、重量平均分子量が112,000、ポリマーの着色度変化率は159%、着色度は27であった。
重合条件、製造された重合体の特性及び熱安定性評価結果を、以下の実施例及び比較例の結果と共に表1に示す。
【0040】
[比較例1]
トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトを添加しない以外は実施例1と同様に重合し、得られたポリマーを用いて溶融安定性を評価した。
得られたポリマーの重量平均分子量は129,000、ポリマーの着色度は17であった。得られたポリマーの再溶融時の熱安定性を評価した結果、重量平均分子量が74,000、ポリマーの着色度変化率は741%、着色度は126であった。
【0041】
[比較例2]
トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトを添加する時期として、実施例1と同様に、100cc反応容器にて200℃にて4時間重縮合して重量平均分子量が22000に達した時点で添加した。添加後、更に15分間重縮合を継続させる以外は実施例1と同様に重合を行い、得られたポリマーの溶融安定性を評価した。
得られたポリマーの重量平均分子量は49,000、ポリマーの着色度は32であった。得られたポリマーの再溶融時の熱安定性を評価した結果、重量平均分子量が34,000、ポリマーの着色度変化率は175%、着色度は56であった。
このように、重合初期にトリアリールホスファイトを添加した場合には、重合度の上昇が著しく遅くなり、より高分子量のグリコール酸共重合体を製造しようとする場合においては、好ましくなく実用的ではない。
【0042】
[実施例2]
トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトに変えて亜リン酸トリフェニルを使用した以外は実施例1と同様に重合し、得られたポリマーを用いて溶融安定性を評価した。
【0043】
[比較例3]
実施例1において使用する重縮合触媒として三酸化アンチモンを使用した以外は実施例1と同様に重合した。得られたポリマーは、重量平均分子量が75,000、ポリマーの着色度は234と高かった。
このように、ポリエステルの重合において汎用に利用される三酸化アンチモンを使用した場合には、それなりの重縮合触媒性能が認められたが、得られるポリマーの着色が著しく、実用には耐えないものであった。
【0044】
[実施例3]
実施例1で得られたプレポリマー0.5gを、予め、130℃にて5時間結晶化させたのち、ガラスウールを充填したガラスU管内に仕込んだ。更に上部にもガラスウールを充填した後、固相重合温度170℃にて、窒素ガス流量として0.2NL/分にて10時間固相重合を実施した。
【0045】
[実施例4〜8]
ゲルマニウムテトラiso−プロポキシドに変えて、表1に示すようにそれぞれ、マグネシウムエトキシド、鉄トリエトキシド、アンチモントリiso−プロポキシド、錫エトキシド、ハフニウムテトラtert−ブトキシドに変更し、更に亜リン酸トリフェニルの添加量を表1に示すように変更した以外は実施例2と同様に重合を行い、溶融安定性の評
価を実施した。
【0046】
[実施例9及び10]
ゲルマニウムテトラiso−プロポキシドに替えて、それぞれ、ランタントリiso−プロポキシド及びサマリウムトリiso−プロポキシドを用い、更にトリアリールホスファイト化合物として、トリスノリルフェニルホスファイトに変更した以外は実施例1と同様に重合を行った。ランタントリiso−プロポキシド及びサマリウムトリiso−プロポキシドは特開平7−48301号公報に記載された方法に準じて調製した。
【0047】
[比較例4]
実施例1において使用する重縮合触媒としてチタンテトラiso−プロポキシドを使用した以外は実施例1と同様に重合を行った。
溶融重合により得られたポリマーは、重量平均分子量が75,000、ポリマーの着色度の指標であるUV検出器による全カウント数は256であった。
本発明の請求の範囲記載以外の金属アルコキシドの代表例であるチタンテトラiso−プロポキシドを使用した場合には、それなりの重縮合触媒性能が認められたが、得られるポリマーの着色が著しく、実用には耐えないものであった。
【0048】
[比較例5]
トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトに替えてモノステアリルアシッドホスフェートを使用した以外は実施例1と同様に重合し、得られたポリマーを用いて溶融安定性を評価した。
【0049】
[比較例6]
トリス(2,4−ジtert−ブチルフェニル)ホスファイトに替えて2,2−メチレンビス(4,6−ジtert−ブチルフェニル)オクチルホスファイトを使用した以外は実施例1と同様に重合し、得られたポリマーを用いて溶融安定性を評価した。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5万以上であり、グリコール酸単位を75mol%以上含有し、グリコール酸単位以外の共重合成分として、L−乳酸、D−乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸及び6−ヒドロキシカプロン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、16−ヒドロキシヘキサデカン酸を含むヒドロキシカルボン酸群、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、ジグリコール酸を含むジカルボン酸群、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、及びジエチレングリコールを含むジオール群から選ばれる共重合成分を含有し、230℃で5分間、加熱溶融した後の着色度変化率が、加熱前着色度に対して110〜300%であるグリコール酸共重合体。

【公開番号】特開2008−101229(P2008−101229A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8954(P2008−8954)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【分割の表示】特願2002−202813(P2002−202813)の分割
【原出願日】平成14年7月11日(2002.7.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】