説明

グリシン輸送体

【課題】現在その存在が判明している2種類のグリシン輸送体の内の1種である、GlyT1の新たなアイソフォームの提供。
【解決手段】特定な配列からなるアミノ酸配列又は特定な配列からなるアミノ酸配列のアミノ酸残基に関して6個以下の欠失もしくは置換である変換を有する配列を有するGlyT1dを同定し、GlyT1a、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2からGlyT1dを区別するのに有効な、特定な配列のアンチセンス配列からなる増幅プライマー又はヌクレアーゼ保護プローブを含む核酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、次の同時係属出願:「グリシン輸送体感染細胞及びその用途」、出願番号08/655,836、1996年5月31日出願;「神経障害及び神経精神障害治療用医薬」、出願番号08/656,063、1996年5月31日出願及びその一部継続出願、出願番号08/808,754、1997年2月27日出願;「神経精神障害治療用医薬」及びその一部継続出願、出願番号08/807,682、1997年2月27日出願、出願番号08/655,912、1996年5月31日出願;「神経障害及び神経精神障害治療用医薬」、出願番号08/655,847、1996年5月31日出願及びその一部継続出願、出願番号08/807,681、1997年2月27日出願;並びに「ヒトグリシン輸送体」、代理人整理番号317743−108、出願番号08/700013、1996年8月20日出願と関連しており、グリシン輸送体系の“GlyT1d”構成員をコードする核酸、その核酸によってコードされた単離蛋白質及び薬剤発見の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シナプス伝達は、シナプス前神経細胞及びシナプス後神経細胞の両方において、分化された構造の可成りの配列(considerable array of specialized structures)を含む細胞間伝達の複雑な形態である。高親和性神経伝達物質輸送体は、1つのそのような成分であり、シナプス前終末上及びグリア細胞の周囲に位置している(非特許文献1)。輸送体は、神経伝達物質をシナプスから隔離し、それによって、そこでのシナプス内での神経伝達物質の持続時間の他に、シナプス内での神経伝達物質の濃度を制御し、それらは共にシナプス伝達の大きさに影響を及ぼす。更に、伝達物質が隣接シナプスへ拡がるのを防ぐことによって、輸送体は、シナプス伝達の適合度を維持する。最後に、放出された伝達物質をシナプス前終末内へ隔離することによって、輸送体は伝達物質の再利用を可能にする。
神経伝達物質輸送は、細胞外ナトリウム及び膜の両側の電圧差に依存し、例えば、発作中などのような強い神経ファイアリング(firing)の状態では、輸送体は、カルシウムに依存しない非開口分泌的(non-exocytotic)な方法で神経伝達物質を放出して、逆に機能することができる(非特許文献2)。神経伝達物質輸送体を薬理学的に変調させることは、このようにシナプス活性を改変する手段を提供し、それは、神経障害及び精神障害の治療のための有用な治療法を提供するものである。
アミノ酸グリシンは、哺乳動物の中枢神経系における重要な神経伝達物質であり、抑制性及び興奮性シナプスの両方で機能する。神経系は、その神経系の中枢及び末梢部分の両方を意味する。グリシンのこれらの異なる機能は、2つの異なるタイプの受容体によって媒介され、それぞれが、異なる種類のグリシン輸送体と関連している。グリシンの抑制作用は、痙攣性アルカロイド、ストリキニンに対して感受性であるグリシン受容体によって媒介され、従って、“ストリキニン感受性”と呼ばれる。このような受容体は、グリシンが受容体に結合した際に開く固有のクロライドチャネルを含んでおり、クロライドコンダクタンスを高めることによって、活動電位の励起(firing)の閾値が高くなる。ストリキニン感受性グリシン受容体は、主として脊髄及び脳幹内で見出されており、従って、このような受容体の活性化を促進する薬物は、これらの領域内での抑制性神経伝達を高めるであろう。
グリシンは、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸塩の作用を変調することによって、興奮性伝達において機能する。(非特許文献3、非特許文献4)。具体的には、グリシンは、N―メチル―D―アスパラギン酸塩(NMDA)受容体と呼ばれる種類のグルタミン酸塩受容体において、絶対的共アゴニストである。NMDA受容体を活性化することによって、ナトリウム及びカルシウムコンダクタンスが上昇し、神経細胞を脱分極して、活動電位を励起(fire)する可能性を高めることになる。NMDA受容体は、脳全体に広く分布しており、大脳皮質及び海馬体に、特に高密度で分布している。
分子クローニングから、哺乳動物の脳の中には、GlyT1及びGlyT2と呼ばれる2種類のグリシン輸送体が存在することが分かっている。GlyT1は、主に前脳で見出されており、その分布は、グルタミン酸塩作動経路及びNMDA受容体の分布に対応する(非特許文献5)。更に、分子クローニングから、GlyT―1a、GlyT―1b及びGlyT―1cと呼ばれる、GlyT1の3つの突然変異体が存在することが分かっており(非特許文献6)、それぞれが、脳及び周辺組織内で特異な分布を示す。これに対して、GlyT2は、主に脳幹及び脊髄で見出されており、その分布は、ストリキニン感受性グリシン受容体の分布に密接に対応している(非特許文献7、非特許文献8)。これらの観察は、グリシンのシナプスレベルを制御することによって、GlyT1及びGlyT2が、NMDA受容体及びストリキニン感受性グリシン受容体の活性に、それぞれ優先的に影響を及ぼすという考えと一致する。
GlyT1とGlyT2の配列の比較から、これらのグリシン輸送体は、例えば、ガンマ―アミノ―n―酪酸(GABA)及びその他に特異的な輸送体などを含むナトリウム依存性神経伝達物質輸送体のより広い系の構成員であることが分かった(非特許文献9、非特許文献10)。全体的に、これらの輸送体は、それぞれ、主として疎水性アミノ酸を含む12個の推定膜貫通ドメインを含有する。
グリシン輸送体を抑制又は活性化する化合物は、受容体の機能を変え、種々の病状において治療上の恩恵を与えるものと期待される。例えば、GlyT2の抑制は、グリシンのシナプスレベルを高め、これらの受容体によって媒介されることが分かっている、脊髄での痛みに関する(即ち、侵害受容の)情報の伝達を低減させることによって、ストリキニン感受性グリシン受容体を有する神経細胞の活性を低下させるのに用いることができる(非特許文献11)。更に、脊髄内で、ストリキニン感受性グリシン受容体を介して、抑制性グリシン作動伝達を高めることを、筋肉機能亢進の低減に用いることができ、これは、痙性、ミオクローヌス、てんかんなどの筋肉収縮の増大に関連する病気又は状態を治療するのに有用である(非特許文献12、非特許文献13)。グリシン受容体の変調によって治療することができる痙性は、てんかん、発作、頭部外傷、多発性硬化症、脊髄損傷、失調症及び神経系の病気、損傷のその他の状態と関係している。
NMDA受容体は、記憶と学習に精密に関係しており(非特許文献14、非特許文献15)、更に、NMDAを介しての神経伝達機能の低下は、神経分裂症の症状の基になっているか、あるいはその原因になっていると思われる(非特許文献16)。このように、GlyT1を抑制し、それによりNMDA受容体のグリシン活性化を高める薬剤は、新規な抗精神病薬及び抗痴呆剤として、更に、注意欠陥障害や器質性脳症候群などの、認識過程が損なわれている他の病気を治療するのに用いることができる。逆に、NMDA受容体の過活性化は、多数の病状、特に、アルツハイマー病、多梗塞痴呆、AIDS痴呆、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、又は頭部外傷、発作などの神経細胞死が起こる他の状態等の、発作あるいは神経変性疾患と関連する神経細胞死と関係している(非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19)。このように、GlyT1の活性を高める医薬は、NMDA受容体のグリシン活性化を低下させることになり、その活性を、これら及び関連の病状を治療するのに用いることができる。同様に、NMDA受容体のグリシン部位を直接ブロックする薬剤を、これら及び関連の病状を治療するのに用いることができる。
【非特許文献1】Kanner 及び Schuldiner、CRC Critical Reviews in Biochemistry, 22, 1032 (1987)
【非特許文献2】Attwell 等、Neuron, 11, 401-407 (1993)
【非特許文献3】Johnson 及び Ascher、Nature, 325, 529-531 (1987)
【非特許文献4】Fletcher 等、Glycine Transmission,(Otterson 及び Storm-Mathisen、編者、1990)、193〜219頁
【非特許文献5】Smith 等、Neuron, 8, 927-935 (1992)
【非特許文献6】Kim 等、Molecular Pharmacology, 45, 608-617 (1994)
【非特許文献7】Liu 等、J. Biol. Chem., 268, 22802-22808 (1993)
【非特許文献8】Jursky 及び Nelson、J. Neurochem., 64, 1026-1033 (1995)
【非特許文献9】Uhl、Trends in Neuroscience, 15, 265-268 (1992)
【非特許文献10】Clark 及び Amara、BioEssays, 15, 323-332 (1993)
【非特許文献11】Yaksh、Pain, 111-123 (1989)
【非特許文献12】Truong 等、Movement Disorders, 3, 77-87 (1988)
【非特許文献13】Becker、FASEB J., 4, 2767-2774 (1990)
【非特許文献14】Rison 及び Stanton、Neurosci. Biobehav. Rev., 19, 533-552 (1995)
【非特許文献15】Danysz 等、Behavioral Pharmacol., 6, 455-474 (1995)
【非特許文献16】Olney 及び Farber、Archives General Psychiatry, 52, 998-1007 (1996)
【非特許文献17】Coyle 及び Puttfarcken、Science, 262, 689-695 (1993)
【非特許文献18】Lipton 及び Rosenberg、New Engl. J. of Medicine、330, 613-622 (1993)
【非特許文献19】Choi、Neuron, 1, 623-634 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在その存在が判明している2種類のグリシン輸送体の内の1種である、GlyT1の新たなアイソフォームを提供し、グリシンの関与する病気の解明、治療、予防に更に幅広く貢献することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
本発明は、核酸を含有するグリシン輸送体蛋白質をコードする単離された核酸を提供するものであり、そこにおいて、
(a)そのコードされた蛋白質が、配列番号2の蛋白質配列又は配列番号2と少なくとも約99%の配列同一性を有する蛋白質配列を有するか;又は
(b)その核酸の、グリシン輸送体をコードする部分が、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有する、
ものである。
更に、本発明は、グリシン輸送体をコードする核酸を含む細胞において、その核酸が、プロモーターと機能的に関連しており、
(a)そのコードされた蛋白質が、配列番号2の蛋白質配列又は配列番号2と少なくとも約99%の配列同一性を有する蛋白質配列を有するか;又は
(b)その核酸の、蛋白質をコードする部分が、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有する細胞を提供する。グリシン輸送体はこのような細胞から単離できるものである。
本発明は、更に、神経系障害若しくは状態を治療する生物活性剤を特徴づける方法、又は神経系障害若しくは状態を治療する生物活性剤(生理活性剤、bioactive agent)を同定する方法であり、その方法が、(a)(i)本発明による細胞又は(ii)核酸によりコードされたアミノ酸配列若しくはベクターの核酸によりコードされたアミノ酸配列の細胞処理で生じたアミノ酸配列を含む第一の測定組成物を提供し、(b)この第一の測定組成物を生物活性剤又は予期される(prospective)生物活性剤と接触させ、(c)その測定組成物により示されたグリシン輸送体の量を測定することからなる方法を提供する。
更に、本発明は、GlyT1dを同定し、GlyT1a、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2からGlyT1dを区別するのに有効な増幅プライマー又はヌクレアーゼ保護プローブを含む核酸を提供するものであり、それは、その核酸からなるベクターであってもよい。
本発明は、更に、配列番号2の蛋白質配列又は配列番号2と少なくとも約99%の配列同一性を有する蛋白質配列を有する単離されたグリシン輸送体蛋白質を提供し、それは、グリシン輸送体蛋白質が細胞膜内蛋白質であるような単離された膜を含むことができる。
【発明の効果】
【0005】
本発明で見出された新規なGlyT1dにより、グリシンの関与する病気の解明、治療、予防に有効な生物活性剤の探索が可能となり、またこのGlyT1dを同定し、GlyT1a、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2からGlyT1dを区別することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
定義
本出願のためには、次の用語は、以下に示す意味を有するものとする。
●生物活性剤
生物活性剤は、細胞、ウイルス、組織、器官又は生体に作用することができる化学薬品などの物質であり、細胞、ウイルス、器官又は生体の機能に変化をもたらす薬剤(即ち、医薬)が挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、生体は哺乳動物であり、更に好ましくは、ヒトである。本発明の好ましい実施態様においては、本発明の生物活性剤同定方法は、分子量が約1500以下の有機分子に適用される。
●外因的に誘導された核酸
外因的に誘導された核酸は、組み換え技術によって、細胞、その細胞の親若しくは祖先、又はその細胞が誘導される遺伝子導入動物に導入された核酸である。
●核酸と機能的に関連する外因性プロモーター
蛋白質をコードする核酸用の外因性プロモーターは、その蛋白質のための核酸を発現するのに自然に用いられるものとは別のプロモーターである。プロモーターと共存し得る細胞内で、プロモーターが作用して核酸を転写させることができれば、プロモーターは、核酸と機能的に関連する。
●核酸特異性
核酸特異性は、異なる核酸分子を区別するのに用いることができる性質である。このような性質には制限は無く、(i)分子の全て又は一部のヌクレオチド配列、(ii)例えば、電気泳動で求めた分子の大きさ、(iii)(a)核酸を断片化する化学薬品での処理又は(b)ヌクレアーゼにより生ずる切断パターン、及び(iv)分子又はその断片が、特定の核酸プローブと交雑する能力が挙げられる。
●予期される剤(prospective agent)
予期される剤は、グリシン輸送に影響を及ぼすかどうかを決定するために、本発明のスクリーニング法によって試験されている物質である。
●配列同一性
技術上知られているように、“同一性”とは、配列を比較することにより求められた場合、特にこのような配列のストリング(strings)間の合致により求められた場合、2つ以上のポリペプチド配列又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の関係である。“同一性”は、公知の方法(A.M. Lesk 編、計算分子生物学、Oxford University Press, New York (1988)、D.W. Smith 編、バイオコンピューティング:情報科学及びゲノムプロジェクト、Academic Press, New York (1993)、A.M. Griffin 及び H.G. Griffin 編、配列データのコンピューター解析、第一部、Humana Press, New Jersey (1994)、G. von Heinje、分子生物学における配列解析、Academic Press (1987)、及び M. Gribskov 及び J. Devereux 編、配列解析プライマー、M. Stockton Press, New York (1991))により容易に計算される。2つの配列間の同一性を測定するには、多くの方法が存在するが、この用語は、当業者に周知である(例えば、分子生物学における配列解析、配列解析プライマー、及び H. Carillo 及び D. Lipman、SIAM J. Applied Math., 48,1073 (1988) 参照)。配列間の同一性を求めるのに一般に用いられる方法としては、H. Carillo 及び D. Lipman、SIAM J. Applied Math., 48,1073 (1988)、又は、好ましくは、Needleman 及び Wunsch、J. Mol. Biol., 48, 443-445 (1970) に記載されているものが挙げられ、そこでは、パラメーターがDNASIS(Hitachi Software Engineering Co., San Bruno, CA)のバージョン2にセットされているものであるが、これらに限定されるものではない。同一性を求めるためのコンピュータープログラムは、公然と入手可能である。2つの配列間の同一性を求める好ましいコンピュータープログラム方法としては、GCGプログラムパッケージ(J. Devereux 等、Nucleic Acids Research, 12(1), 387 (1984))、BLASTP、BLASTN及びFASTA(S.F. Altschul 等、J. Molec. Biol., 215, 403-410 (1990))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。BLASTXプログラムは、NCBI(blast@ncbi.nlm.nih.gov.)及びその他の情報源(BLAST Manual, S. Altschul 等、NCBI NLM NIH Bethesda, MD 20894; S. Altschul 等、J. Molec. Biol., 215, 403-410 (1990))から公然と入手可能である。
【0007】
発明の詳細な説明
配列番号1のGlyT1d核酸配列又は配列番号2の対応するコードされた蛋白質配列は、以下に詳述されるGlyT1配列の報告により示される分野における十分な研究にもかかわらず、従来認められていない或る一種のグリシン輸送体を示す。
【0008】
【表1】

【0009】
グリシン輸送体をコードする核酸
グリシン輸送体をコードする天然に存在しない核酸を作るためには、未変性配列を出発点として用い、特定の要求に適するように変性することができる。例えば、配列を突然変異させて、有用な制限部位を取り入れることができる。Maniatis 等、分子クローニング、実験室マニュアル(Molecular Cloning, a Laboratory Manual)(Cold Spring Harbor Press, 1989)参照。このような制限部位は、“カセット”、即ち制限酵素と連結反応を用いて円滑に置換された核酸の領域、を作るのに用いることができる。このカセットは、突然変異グリシン輸送体アミノ酸配列をコードする合成配列を置換するのに用いることができる。また、グリシン輸送体をコードする配列は、実質的又は完全に合成したものであることができる。例えば、Goeddel 等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 106-110 (1979)参照。組み換え発現のためには、このような核酸が発現されることになる生体へのコドン使用優先性(codon usage preferences)を、グリシン輸送体をコードする合成核酸を設計する際に考慮するのが好都合である。例えば、核酸配列を導入する原核コドン優先性(prokaryotic codon preferences)を、National Biosciences, Inc. (Plymouth, MN) から入手できるオリゴ―4(Oligo-4)などのソフトウエアプログラムを用いて、哺乳類由来の配列から設計することができる。
本発明の核酸配列実施態様は、好ましくはデオキシリボ核酸配列であり、好ましくは2本鎖デオキシリボ核酸配列である。しかし、それらは、リボ核酸配列、又は水素結合及び核酸の塩基対合性を保存するように設計されているが、例えば、ヌクレアーゼに対する感受性が天然核酸とは異なっている核酸擬態であってもよい。
蛋白質をコードする核酸配列から配列を欠失させるか、あるいはその核酸配列を突然変異させ、これらの欠失又は突然変異した配列によってコードされた蛋白質の機能を確認するには、多数の方法が知られている。従って、本発明は、グリシンへ特異的に結合する能力及び膜を通してグリシンを輸送する能力を保持する蛋白質をコードする核酸配列の突然変異又は欠失したものに関するものでもある。これらの類似体は、グリシン輸送体の機能が保持される限り、N末端、C末端若しくは内部欠失又は置換があってもよい。残っているGlyT1d蛋白質配列は、配列番号2の蛋白質配列に関して、約4つ以下のアミノ酸配列変異を有することが好ましく、好ましくは2つ以下のアミノ酸配列変異、更に好ましくは1つ以下のアミノ酸変異を有するであろう。点変異は、保存性の(conservative)点変異であることが好ましい。好ましくは、これらの蛋白質類似体は、配列番号2の蛋白質配列に対して、少なくとも約99%の配列同一性、好ましくは、少なくとも約99.5%の配列同一性、更に好ましくは、少なくとも約99.8%の配列同一性、更に一層好ましくは、少なくとも約99.9%の配列同一性を有している。 突然変異又は欠失のアプローチは、GlyT1d蛋白質を発現する本発明の核酸配列の全てに適用されることができる。上で論じたように、保存性の(conservative)突然変異が好ましい。このような保存性突然変異としては、下記の群の1つの範囲内で、1つのアミノ酸を他のアミノ酸に変換する突然変異が挙げられる。
1.小さい脂肪族非極性又はわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、Pro及びGly;
2.極性で、負に帯電した残基及びそれらのアミド類:Asp、Asn、Glu及びGln;
3.極性で、正に帯電した残基:His、Arg及びLys;
4.大きい脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、Val及びCys;並びに
5.芳香族残基:Phe、Tyr及びTrp
保存性変異の好ましいものを表にすると、次の通りである。
【0010】
【表2】

【0011】
選択された変異の種類は、Schulz 等、Principles of Structure, Springer-Verlag (1978) によって開発された異なる種の同族蛋白質間のアミノ酸変異の頻度の解析、Chou 及び Fasman、Biochemistry, 13, 211 (1974) 並びに Adv. Enzymol, 47, 45-149 (1978) によって開発された構造形成ポテンシャルの解析、並びにEisenberg 等、Proc. Natl. Acad. USA, 81, 140-144 (1984)、Kyte & Doolittle、J. Molec. Biol., 157, 105-132 (1981) 及びGoldman 等、Ann. Rev. Biophys. Chem., 15, 321-353 (1986) によって開発された蛋白質における疎水性パターンの解析に基づけばよい。このパラグラフの参考文献は、全てそのまま、ここに参照のために記載する。
本発明の核酸は、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有していることが好ましく、少なくとも約97%又は少なくとも約98%の配列同一性を有していることが更に好ましい。
この出願の目的のためには、本発明の核酸又は蛋白質が、それが誘導される細胞又は組織の他の分子又は高分子から分離されれば、それが“単離”されたということである。この核酸を含む組成物は、もとの細胞の組成物よりも、核酸含有量に関して、少なくとも約10倍高いことが好ましい。この核酸は、実質的に純粋であることが好ましく、これは、他の核酸に関して、少なくとも約60%w/wの純度を意味し、更に好ましくは少なくとも約80%、更に一層好ましくは少なくとも約90%、更にもっと好ましくは少なくとも約95%である。
【0012】
ヌクレアーゼ保護プローブ
本発明は、ヌクレアーゼ保護プローブをも提供する。一般に、これらのプローブは、配列番号3からの配列、又は配列番号3のヌクレオチド1及び297に相当するヌクレオチドを包含する、他の種からの同族体、並びにGlyT1dmRNAを特異的に同定することができる、ベースの各サイドに対して(to each side of the bases)十分な配列を含んでいる。本発明は、更に、ヌクレアーゼ保護測定法を適用することにより、組織がGlyT1dを発現するかどうかを求めることからなる方法を提供する。ヌクレアーゼ保護測定法は、例えば、Ausubel 等、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York 及び Ambion (Austin, TX)により販売されているキットに記載されている。
ヌクレアーゼ保護測定法におけるハイブリダイゼーションプローブへの用途の例としては、制限はなく、mRNA濃度を測定して、例えばサンプルの組織の種類を同定するか、あるいは異常濃度のグリシン輸送体を発現する細胞を同定すること、及びグリシン輸送体遺伝子内の多形現象を検出することなどが挙げられる。RNAハイブリダイゼーション方法及び保護測定法は、例えば、Maniatis 等、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press (1989))に記載されている。
【0013】
増幅プライマー
ポリメラーゼ連鎖反応(“PCR”)プライマーを設計する方式は、PCR Protocols, Cold Spring Harbor Press (1991) により総説されているように、現在、確立されている。変性(degenerate)プライマー、即ち、所定の配列場所で不均一なプライマー試料を、GlyT1d核酸と高度に類似しているが、同一ではない核酸配列を増幅するように、設計することができる。必要とするプライマーのうちの1つだけが、公知の配列と特異的に交雑するようにさせる方策は、現在、利用可能である。Froman 等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998 (1988) 及び Loh 等、Science, 243, 217 (1989) 参照。例えば、適当な核酸プライマーを、増幅しようとする核酸に連結して、それらのプライマーのうちの1つのためのハイブリダイゼーションパートナーを提供することができる。この方法では、プライマーのうちの1つだけが、増幅しようとする核酸の配列に基づいていることが必要である。
核酸を増幅するPCR法は、一般に、少なくとも2つのプライマーを利用する。これらのプライマーの一方は、増幅されるべき核酸の第一のストランドへ交雑することができ、酵素で行われる(enzyme-driven)核酸合成を第一の方向へ開始させる(prime)ことができるであろう。他方は、この第一のストランドの相互配列(もし、増幅されるべき配列が一本鎖のものであれば、この配列は、最初は仮定的であるが、第一の増幅サイクルで合成されるであろう)を交雑し、そのストランドから、第一の方向とは反対の方向で、第一のプライマーのためのハイブリダイゼーションの部位へ向かって、核酸合成を開始させることができるであろう。このような増幅を行うための条件、特に、好ましいストリンジェント(stringent)ハイブリダイゼーション条件が、よく知られている。例えば、PCR Protocols, Cold Spring Harbor Press (1991)参照。
リガーゼ鎖反応(LCR)、ストランド置換増幅(SDA;例えば、Walker 等、PCR Methods and Applications, 3, 1-6 (1993)参照)、核酸配列に基づく増幅(NASBA;例えば、Gemen 等、J. Virol. Methods, 43, 177-188 (1993)参照)及び転写を介しての増幅(TMA;例えば、Pfyffer 等、J. Clin. Micro., 34, 834-841 (1996)参照)などの、増幅の特異性を管理するのにオリゴヌクレオチドを利用する他の増幅方法が用いられる。LCRは、源の核酸を鋳型として用い、2つのプローブオリゴヌクレオチドを互いに接近させて、連結させる(プローブ間の比較的小さい間隙を満たすための重合を行うか又は行わずに)。連結時、2つの結合されたプローブは、次の反応サイクルのための追加の鋳型を提供する。PCRについては、もとの核酸に相当する単一のプローブを用いるアプローチを工夫することができる。本発明は、GlyT1dを特異的に同定するように設計されたオリゴヌクレオチドを含むものでもある。
【0014】
ベクター
適当な発現ベクターは、宿主細胞中に含有されるGlyT1dをコードするDNAの発現を促進することができ、真核性、真菌性又は原核性であることができる。なかでも、適当な発現ベクターとしては、pRc/CMV(Invitrogen, San Diego, CA)、pRc/RSV(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、Zap Express Vector(Stratagene Cloning Systems, LaJolla, CA)、pBk/CMV又はpBk―RSVベクター(Stratagene)、Bluescript II SK +/− Phagemid Vectors(Stratagene)、LacSwitch(Stratagene)、pMAM及びpMAM neo(Clontech, Palo Alto, CA)、pKSV10(Pharmacia, Piscataway, NJ)、pCRscript(Stratagene)及びpCR2.1(Invitrogen)が挙げられる。有用な酵素発現系としては、例えば、pYEUra3(Clontech)が挙げられる。有用なバキュロウイルスベクターとしては、pVL1393、pVL1392、pBluBac2、pBluBacHis A、B又はCなどの Invitrogen(San Diego, CA)からのウイルス性ベクターや、pbacPAC6(Clontech から)が挙げられる。一実施態様において、発現ベクターは、誘発性発現ベクターである。代表的には、この誘発性の実施態様について言うと、蛋白質発現が所望される時間まで、形質転換された細胞は誘導条件の不存在下に成長する。
【0015】
細胞
本発明の1つの実施態様においては、輸送体は、哺乳類の細胞系内で発現されるのが好ましく、株化細胞培養履歴を有する形質転換細胞内で発現されるのが好ましい。この実施態様においては、特に好ましい細胞系としては、COS―1、COS―7、LM(tk-)、Hela、HEK293、CHO、Rat―1及びNIH3T3が挙げられる。他の好ましい細胞としては、QT―6細胞などの鳥類細胞が挙げられる。用いることのできる他の細胞としては、ショウジョウバエ細胞などの昆虫細胞、魚類細胞、両生類細胞及び爬虫類細胞が挙げられる。
他の実施態様においては、輸送体は、細菌細胞系や酵素細胞系などのように、哺乳類又は鳥類細胞系よりも安価に維持され成長する細胞系内で発現される。
【0016】
単離されたグリシン輸送体
本発明は、好ましくは、例えば、下記のような蛋白質精製方法を、本発明による組み換え細胞の溶解産物に適用することにより達成される純度で、本発明の核酸の任意のものによりコードされたGlyT1d蛋白質を提供するものでもある。
上のパラグラフのGlyT1d変異株は、GlyT1d活性を有する生体又は細胞を作るのに使用されることができる。関連分子生物学法を始めとする精製方法を次に述べる。
【0017】
グリシン輸送体を製造する方法
本発明の核酸の1つの指示(direction)のもとで生体により合成されたポリペプチドを単離する1つの単純化された方法は、融合パートナーが円滑にアフィニティ精製されている融合蛋白質を組み換え的に発現させることである。例えば、融合パートナーとしては、グルタチオンS―トランスフェラーゼを挙げることができ、これは、市販の発現ベクター(例えば、Pharmacia, Piscataway, NJ から入手できるベクターpGEX4T3)に接してコードされる。次いで、この融合蛋白質を、グルタチオンアフィニティカラム(例えば、Pharmacia, Piscataway, New Jersey から入手できるもの)で精製することができる。勿論、このような融合パートナー無しに、GlyT1dに結合する適当な抗体を用いて、組み換えポリペプチドをアフィニティ精製することができる。このような抗体を製造する方法は、GlyT1d発現系及び既知の抗体製造法のここでの十分な記載に照らして、当業者が利用できるものである。例えば、Ausubel 等、Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1992) 参照。融合蛋白質を使用する場合は、融合パートナーとGlyT1dとの間のリンカーなどのような構造ができていない領域を優先的に攻撃する部分蛋白分解消化法により、融合パートナーを除去することができる。例えば、Chou 及び Fasman、Biochemistry, 13, 211 (1974) 並びに Chou 及び Fasman、Adv. in Enzymol., 47, 45-147 (1978) によって開発された二次構造形成ポテンシャルの方式を用いて、構造が存在しないようにリンカーを設計することができる。トリプシンにより切断された部位を規定するアミノ酸であるアルギニン及びリシン残基などの、プロテアーゼ標的アミノ酸を導入するように、リンカーを設計することもできる。リンカーを作るためには、標準サブクローニング方法論と共に、オリゴヌクレオチドを作る標準合成法を用いることができる。GST以外にも、他の融合パートナーを用いることができる。真核細胞、特に哺乳類細胞を利用する方法は、これらの細胞が蛋白質を翻訳後に改変して、天然蛋白質と高度に類似しているか、あるいはそれと機能的に同一である分子を作るので好ましい。
用いることができる他の精製技術としては、制限はなく、予備電気泳動、FPLC(Pharmacia, Uppsala, Sweden)、HPLC(例えば、ゲル濾過、逆相又は弱疎水性カラムを用いる)、ゲル濾過、分別沈殿(例えば、“塩析”沈殿)、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニティクロマトグラフィーが挙げられる。
GlyT1dは膜蛋白質であり、関連輸送体蛋白質との類似性からして12の膜貫通配列を持っていると考えられているため、単離の際には、洗浄剤、一般には非イオン性洗浄剤を用いて、蛋白質の適当な二次又は三次構造を維持することが多いであろう。例えば、Lopez-Corcuera 等、J. Biol. Chem., 266, 24809-24814 (1991) 参照。可溶化された輸送体を膜内に再統合する(re-integrating)方法の記載については、Lopez-Corcuera 等、J. Biol. Chem., 266, 24809-24814 (1991) 参照。他の再統合(re-integration)方法が、例えば、Techniques of the Analysis of Membrane Protein(Ragan 及び Cherry 編), pp. 97-128, Chapman & Hall, London (1986) の Montel、“平面脂質二重層膜における膜蛋白質の機能的再形成(Functional Reconstitution of Membrane Proteins in Planar Lipid Bilayer Membranes)”;Silvius、Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct., 21, 323-348 (1992);Madden、Chem. Phys. Lipids, 40, 207-222 (1986) に記載されている。この蛋白質の好ましい形態は、脂質バイレイヤーに内在しており、膜から蛋白質を取り出すためには、一般に、少なくとも何らかの洗浄剤が必要であることを意味していることが理解されよう。細胞膜内蛋白質は、通常、脂質バイレイヤーから外へ伸びる少なくとも1つの領域を有している。
GlyT1dの単離は、形質転換されて、GlyT1dを発現する細胞から膜を単離することを包含するものである。このような細胞としては、膜画分内のGlyT1dの量が、自然にGlyT1dを発現する細胞からの比較しうる膜に見られるものよりも少なくとも約10倍、更に好ましくは、その量が少なくとも約100倍高くなるような十分な複製数でGlyT1dを発現することが好ましい。必要であれば、原形質膜画分などの特定の膜画分を単離することができる。
この蛋白質は、実質的に純粋であることが好ましく、これは、他の蛋白質に関して、少なくとも60%w/wの純度を意味する。この出願の目的のためには、GlyT1dが、それが誘導される細胞又は組織の他の蛋白質又は高分子から分離された場合は、GlyT1dが“単離”されたといえる。GlyT1dを含む組成物は、もとの細胞の組成物よりも、蛋白質含有量に関して、少なくとも約10倍、好ましくは少なくとも約100倍高いことが好ましい。
【0018】
RNA挿入によるGlyT1dの発現
mRNAを細胞に挿入するという簡単な方法で、GlyT1dを発現させることができるということが認められるであろう。GlyT1d活性を有する蛋白質をコードする核酸を、SP6又はT7RNAポリメラーゼプロモーターなどの、高効率生体外転写用プロモーターを含むベクターへサブクローニングすることにより、これらの用途のRNAを調製することができる。このベクターからのRNAの製造は、例えば、Ausubel 等、Short Protocols in Molecular Biology, pp. 10-63 から 10-65 まで、John Wiley & Sons, New York (1992) に記載されている方法で行うことができる。アフリカツメガエル由来の卵母細胞へのRNAの挿入が、例えば、Liu 等、FEBS Letters, 305, 110-114 (1992) 及び Bannon 等、J. Neurochem., 54, 706-708 (1990) に記載されている。
若しくは、mRNAを、膜含有翻訳系であってもよい生体外翻訳系に挿入するという簡単な方法で、ヒトGlyT1dを発現させることができるということが認められるであろう。生体外での蛋白質の発現は、例えば、Ausubel 等、Short Protocols in Molecular Biology, pp. 10-63 から 10-65 まで、John Wiley & Sons, New York (1992) に記載されている。Guastella 等、Science, 249, 1303-1306 (1990) (輸送体の生体外発現)も参照。生体外で膜蛋白質を製造するのに、細胞下膜様物質を使用することが、Walter 及び Blobel、Meth. Enzymol., 96, 84 (1983) (ウサギ網状赤血球翻訳系について)並びに Spiess 及び Lodish、Cell, 44, 177 (1986) (小麦胚芽翻訳系について)に記載されている。
【0019】
剤を確認又は同定する方法
神経系障害若しくは状態に関連する病気若しくは状態の治療用生物活性剤を分析又はスクリーニングする方法は、例えば、第一及び第二の細胞を別々に培養することからなり、ここで、その第一及び第二の細胞は、好ましくは同一種のもの、更に好ましくは同一株のものであり、ここで述べられているようなグリシン輸送体をコードする外因性核酸を含んでいる。この剤を治療のために使用できる障害又は状態としては、痛み、ミオクロヌス、筋痙攣、筋機能亢進、てんかん、痙性、発作(卒中、stroke)、頭部外傷、神経細胞死、多発性硬化症、脊髄損傷、失調症、ハンチントン病又は筋萎縮性側索硬化症、認識又は記憶障害、アルツハイマー病、注意欠陥障害、器質性脳症候群及び精神分裂症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの剤は、GlyT1若しくはGlyT2輸送体の1つにより、又は受容体を介して機能することができる。化合物の基本的な薬理学的機構がGlyT1d輸送体でない場合でも、GlyT1d輸送体における化合物の活性の確認は、薬剤発見工程中のその化合物の薬理学をより十分に確認するのに重要である。本発明の方法においては、第一の細胞を、好ましくはグリシンの存在下におけるペプチド又は有機化合物などの化合物である生物活性剤又は予期される剤(prospective agent)と接触させる。次いで、第一の細胞について、上記化合物と接触させなかった第二の細胞(即ち、対照細胞)へのグリシン輸送と比較して、第一の細胞へのグリシン輸送の促進又は抑制について試験する。このような分析又はスクリーニングには、所見、学習、発見、測定、同定又は確認の活性(activities of finding, learning, discovering, determining, identifying or ascertaining )を含むことが好ましい。
一方で、細胞の代わりに、単離されたGlyT1d輸送体を含む化合物を測定に用いることができる。このような単離された輸送体の試料は、好ましくは膜又は脂質バイレイヤーの小胞(ベシクル)を含み、その小胞は、それを横切る輸送を測定することができる内側と外側とを有している。例えば、Kanner、Biochemistry, 17, 1207-1211 (1978) 参照。
試験の終わりにおいて、細胞内又は小胞内グリシンの量が、剤と接触させなかった組成物よりも、剤と接触させた組成物の方が大きい場合は、生物活性剤はグリシン輸送取り込みの促進剤であり、逆に、細胞内又は小胞内グリシンの量が、他方と比較して、剤と接触させなかった組成物の方が大きい場合は、生物活性剤は、グリシン輸送の抑制剤である。試験される第一の組成物と対照の第二の組成物との間のグリシン取り込みの差は、好ましくは少なくとも約2倍、更に好ましくは少なくとも約5倍、最も好ましくは少なくとも約10倍以上である。
【0020】
GlyT1d輸送体に関する抑制剤又は促進剤である生物活性剤は、他の1つのGlyT1d輸送体などの他の1つのグリシン輸送体については、はっきりしないか又は反対の影響を有してもよい。好ましい生物活性剤は、GlyT1d輸送体を促進又は抑制する特異性を有し、他のグリシン輸送体に及ぼす影響が、はっきりしないか又は無視できるものである。特に、好ましい生物活性剤は、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2輸送体に及ぼす影響が、はっきりしないか又は無視できるものである。他の1つの好ましい実施態様においては、生物活性剤は、GlyT1aに及ぼす影響がはっきりしないか又は無視できるものである。生物活性剤は、第二のグリシン輸送体に及ぼすその影響と比較して、GlyT1d輸送体によって媒介されたグリシン取り込みを抑制又は促進する際に、IC50値などの濃度依存性パラメーターに表れ、大きさが少なくとも1オーダー大きい効力を持っていることが好ましい。より好ましい剤は、グリシン輸送体の1つについて、他のものと比較して、少なくとも約100倍大きい効力を有している。
生物活性剤は、輸送体と接触するように拡散することができる形でグリシン輸送体に供与できれば、どのような化合物、物質、組成物、混合物又は化学薬品であってもよい。このような生物活性剤としては、好ましくは長さが約2から約25までのアミノ酸、より好ましくは約2から約10まで、更に一層好ましくは長さが約2から約5までのアミノ酸のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明に関連する他の適当な生物活性剤としては、好ましくは分子量が約100ダルトンから約5,000ダルトンまでの小さい有機化合物が挙げられ、アルキル、アリール、アルケン、アルキン、ハロ、シアノ及びその他の基のような官能基(functionalities)からなり、ヘテロ原子は含んでいても含まなくてもよい。このような有機化合物としては、単純糖(simple sugar)を始めとする炭水化物、アミノ又はイミノ酸、核酸、ステロイドなどを挙げることができる。予期される剤(prospective agent)として試験される化学薬品は、当該技術分野において知られている組み合わせ化学プロセス又は化学合成の従来からの手段を用いて、調製することができる。生物活性剤は、神経系障害又は状態の治療用薬剤として有用であることが好ましい。
【0021】
GlyT1又はGlyT2媒介輸送を抑制するいくつかの化合物は、ストリキニン感受性受容体のグリシン結合部位又はNMDA受容体のグリシン結合部位へも結合する。ストリキニン感受性受容体へのこのような結合は、例えば、脊髄や脳幹組織からの膜画分から調製されることができるような、ストリキニン感受性受容体の試料と接触して、放射線標識ストリキニンを置くことによる結合測定法により同定することができる。膜画分は、例えば、ホモゲナイズ及び遠心分離の方法を含む通常の方法を用いて調製することができる。
NMDA受容体へのこのような結合は、例えば、神経細胞や脳組織からの膜画分から調製されることができるような、NMDA受容体の試料と接触して、放射線標識グリシン又はD―セリン(この受容体のアゴニストでもあると信じられる)を置くことによる結合測定法により同定することができる。Grimwood 等、Molec. Pharmacol., 41, 923-930 (1992)。このような膜内に置かれたNMDA受容体は、約0.1%〜約0.5%サポニンなどの弱い洗浄剤で処理され、如何なる内因性グリシン、D―セリン又はグルタミン酸塩をも除去する。
このような結合測定法で用いられるリガンドは、炭素又は水素の放射性同位元素のような、任意の検出可能な同位元素で放射線標識されている。次いで、放射線標識リガンドの特異的結合を、放射線標識リガンドの全(即ち、特異的及び非特異的)結合による放射能から非特異的結合による放射能を引くことにより求める。非特異的結合による放射能は、放射線標識リガンド及び100倍過剰のように著しく過剰の非放射線標識リガンドの両方に接触したストリキニン感受性又はNMDA受容体含有膜画分と結合した放射線標識の量を測定することにより求められる。放射線標識リガンドの全結合による放射能は、非放射線標識リガンドの不存在下で、受容体試料に結合した放射線標識の量を測定することにより求められる。NMDA受容体については、例えば、ジクロロキヌレン酸又はL―689,560などのアミノ酸の標識類似体を用いて、受容体のグリシン部位への結合を測定することもできる。例えば、Grimwood 等、Molec. Pharmacol., 49, 923-930 (1992)参照。
【0022】
NMDA受容体のグリシン部位への化合物の結合を測定するもう1つの別の方法は、NMDA受容体への[3H]MK―801の結合を変調する化合物の能力を測定することによるものである。MK―801は、グリシンが結合する部位とは異なる部位で、NMDA受容体に結合するが、グリシン又は他のリガンドのグリシン部位への結合は、MK―801の結合をアロステリック的に変調することができる。この方法の利点は、アゴニスト活性を有する化合物を、NMDA―受容体―グリシン結合部位においてアンタゴニスト活性を有するものから区別できるということである。特に、この測定法におけるアゴニスト活性を有する化合物は、MK―801結合を促進し、逆に、アンタゴニスト活性を有する化合物は、MK―801結合を抑制する。Sterner 及び Calligaro、Soc. Neurosci. Abstr., 21, 351 (1995);Calligaro 等、J. Neurochem., 60, 2297-2303 (1993)。
カルシウムフラックス(NMDA受容体試料について)若しくは塩化物フラックス(ストリキニン感受性受容体試料について)を促進又は抑制することに関して、本発明によって同定された化合物の効果を測定するのに、機能性イオンフラックス測定法(functional ion-flux assay)が用いられる。この試験は、膜結合NMDA受容体又はストリキニン感受性受容体とグリシン輸送体を有する細胞培養で行われる。このような細胞は、神経細胞を含み、一般には、脳幹及び脊髄のもの、それらから誘導された細胞株及び誘導又はトランスフェクトされて、NMDA受容体又はストリキニン感受性受容体を発現する他の任意の細胞を含む。このような試験に用いられるカルシウムは、カルシウムキレーター(chelator)と結合した蛍光である、カルシウム結合蛍光などの他のカルシウム測定技術を同様に用いることもできるが、一般には、45Ca同位元素である。このような試験に用いられる塩化物は、通常、同位元素36Clが挙げられる。どの方法でカルシウム又は塩化物をモニターしても、本発明の生物活性剤を別に添加すれば、その結果、イオンフラックスを促進又は抑制することができる。この方式の利点は、受容体とグリシン輸送体の両方のグリシン部位に相互作用する化合物のNMDA受容体又はストリキニン感受性受容体機能に及ぼす正味の影響をモニターできるという点にある。
【0023】
NMDA受容体アゴニストでもあるGlyT1抑制剤は、グリシン輸送体の抑制及びNMDA受容体活性を直接高めることで、NMDA受容体発現シナプスにおけるグリシン濃度を高めることにより、精神分裂症をやわらげ、認識を増強するように作用する。NMDA受容体アンタゴニストでもあるグリシン輸送体抑制剤は、グリシン輸送抑制によるグリシンの増加が、NMDA拮抗作用よりも優勢であれば、それにもかかわらず、精神分裂症及び認識を増強することにおける活性を保持することができる。NMDA受容体アンタゴニスト活性が、グリシン輸送体の抑制に起因する細胞外グリシン増加効果よりも優勢である場合は、これらの化合物は、例えば、発作後、又はアルツハイマー病、パーキンソン病、AIDS痴呆、ハンチントン病などの神経変性疾患の結果として生ずる細胞障害及び細胞死を制限するのに有用である。例えば、Choi、上記;Coyle 及び Puttfarcken、上記;Lipton 及び Rosenberg、上記;Brennan、Chem. Eng. News (May 13, 1996), pp.
41-47;Leeson、Drug Design For Neuroscience (Alan P. Kozikowski 編、1993), pp. 339-383 参照。
【0024】
ストリキニン感受性受容体アゴニストでもあるGlyT2抑制剤は、グリシン輸送体の抑制及びストリキニン感受性受容体活性を直接高めることで、ストリキニン感受性受容体発現シナプスにおけるグリシン濃度を増大させることにより、上記適応症(indications)において作用する。ストリキニン感受性受容体アンタゴニストでもあるグリシン輸送体抑制剤は、グリシン輸送体抑制によるグリシンの増加が、ストリキニン感受性受容体拮抗作用よりも優勢であれば、それにもかかわらず、これらの適応症を治療する際に活性を保持することができる。ストリキニン感受性受容体アンタゴニスト活性が、グリシン輸送体の抑制に起因する細胞外グリシン増加効果よりも優勢である場合は、これらの化合物は、例えば、重症筋無力症などの筋肉活性の低下に関連する状態を治療するのに有用である。
【0025】
上述のごとく、本発明の生物活性剤は、多数の薬理作用を持つことができる。これらの化合物の相対的有効性は、下記のものを含む多くの方法で評価することができる。
1.GlyT1及びGlyT2輸送体により媒介された活性を比較すること。この試験は、(a)GlyT1輸送体に対してより活性であり、従って、例えば、精神分裂症を治療若しくは予防し、認識を増進し、記憶を増強するのにより有用な、又は(b)GlyT2輸送体に対してより活性であり、従って、例えば、てんかん、痛み若しくは痙性を治療若しくは予防するのにより有用な生物活性剤を同定する。
2.ストリキニン感受性受容体又はNMDA受容体結合の試験。この試験は、このような結合の薬理学的効果を更に調べることを保証するのに十分な結合がこの部位にあるかどうかを決定する。
3.一次組織培養におけるイオンフラックス、例えば、ストリキニン感受性受容体により媒介された塩化物イオンフラックス若しくはNMDA受容体により媒介されたカルシウムイオンフラックスを促進又は低減させる際に、化合物の活性を試験する。イオンフラックスを増大させる生物活性剤は、(a)ストリキニン感受性受容体にアンタゴニスト活性をほとんど持たないかあるいは全く持っておらず、GlyT1若しくはGlyT2輸送体抑制によるグリシン活性の増強におそらく影響を与えないものであるか、又は(b)比較GlyT1又はGlyT2抑制剤(NMDA又はストリキニン感受性受容体との直接の相互作用が、それぞれ、ほとんどない)との結果に著しい増加が認められれば、その剤は、受容体アゴニストである。
本発明の剤分析法は、生物活性剤が、NMDA受容体とGlyT1輸送体とが関係している適応症を治療するのに有用であるかどうかを確認するのに用いられることができる。この場合、一般に、ストリキニン感受性受容体とGlyT2輸送体に関する活性の程度が低いほど、望ましい。あるいは、本発明の剤分析法は、生物活性剤が、ストリキニン感受性受容体とGlyT2輸送体とが関係している適応症を治療するのに有用であるかどうかを確認するのに用いられることができる。この場合、一般に、NMDA受容体とGlyT1輸送体に関する活性の程度が低いほど、望ましい。
次の実施例は、本発明を更に説明するものであるが、いずれにせよ、その範囲を限定するものと解釈されるべきでないことは勿論のことである。
【実施例】
【0026】
実施例1−GlyT1dクローニング
ヒトGlyT1dの5’末端をコードするcDNAを、逆転写PCR(RT―PCR)により1段階で生成した。ヒト脊髄ポリAmRNA(Clontech, Palo Alto, CA)からのcDNA合成を開始するのに、+553から+534まで(5’―CCACATTGTAGTAGATGCCG3’)のヒトGlyT1C配列に相当するプライマーを使用した。次いで、下記のプライマー対をPCR反応に使用した。

プライマー1: 5’GGGCCGGGGGCTGCAGCATGC3’

プライマー2: 5’CAGCACCATTCTGGGCCATGGC3’

プライマー1及び2により生成された307bp断片を、pCR2.1(Invitrogen, San Diego, CA)の中にクローン化した。オートリード(AutoRead)配列決定(sequencing)キット(Pharmacia, Piscataway, NJ)を用いて、得られたクローンを配列決定(sequence)し、ヒトGlyT1a及びGlyT1cに関係のある配列(配列番号3のヌクレオチド1〜307)を含むことが分かった。
【0027】
実施例2―全長ヒトGlyT1d
上記pCRh1d―2クローン及び全長GlyT1c発現クローン(hGlyT1c/RSV)を用いて、全長GlyT1dコーディング配列を構築した。pCRh1d―2プラスミドをNcoIで消化(切断、digest)し、DNAポリメラーゼのクレノウ(Klenow)断片を用いて充填(挿入、fill in)し(即ち、ブラントエンドとし)、Pf1MIで消化した。pCRh1d―2のnts105〜267に対応する得られた169bp断片は、エクソン1aのペプチドコーディング部分とヒトGlyT1cの部分を含んでいた。3’配列をコードする部分を完全なものとするために、hGlyT1c/RSVをXbaIで消化し、Pf1MIで部分的に消化して、ヒトGlyT1cの+175〜+2103に対応する1.9kb断片を生成した。最後に、pCRh1dのNcoI(充填された)―Pf1MI断片及びPf1MI―XbaIを、EcoRVとXbaIで消化されたpcDNA3ベクター(Invitrogen)の中にクローン化した。このように得られた発現クローンphG1d/CMVは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御の下で、105から2193まで(配列番号3の)のヒトGlyT1dの配列を含んでいる。
【0028】
実施例3−GlyT1dの生体内利用の確認
RNA分解酵素保護測定法により、ヒト組織から単離されたRNA内で、GlyT1dmRNAを検出した。上記pCRh1d―2プラスミドは、GlyT1dに特有な領域を含み、RNA分解酵素保護のためのプローブを生成するのに用いられた。BgIIでの該プラスミドの消化後、T7ポリメラーゼを用いて、333ヌクレオチドアンチセンスプローブを転写した。それは、GlyT1dに特異的な278個のヌクレオチドの配列を含み、pCR2.1ベクターからの55個のヌクレオチド含んでいた。ヒトの副腎、子宮、全脳、海馬、脳梁、黒質、小脳及び脊髄から単離されたRNAに対してこのプローブのハイブリダイゼーションを行ない、それに続いて、RNA分解酵素消化(RPAIIRNA分解酵素保護キット、Ambion, Austin TX における指示による)を行うことにより、予測されたサイズである278個のヌクレオチドを有する保護された断片が作られ、これらのヒトの組織の全てにGlyT1dmRNAが存在しているを立証した。
【0029】
実施例4−トランスフェクション
この実施例は、QT―6細胞を増殖及びトランスフェクトさせる方法並びに材料について記載するものであり、その細胞は、ウズラ由来の鳥線維芽細胞である。pHGT2によるトランスフェクションを、GlyT1ベクターによるトランスフェクションと同様にして行った。なお、この後者のトランスフェクションは、別の時点で行った。
QT―6細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(受付番号ATCC CRL―1708)から入手した。QT―6を増殖させるための完全QT―6培地は、培地199(Sigma Chemical Company, St. Louis, MO、以下、“Sigma”という)であり、10%リン酸トリプトース(tryptose phosphate)、5%ウシ胎児血清(Sigma)、1%ペニシリン―ストレプトマイシン(Sigma)及び1%無菌ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma)を含有していた。QT―6細胞を増殖又はトランスフェクトさせるのに必要な他の溶液としては、次のものが挙げられる。
DNA/DEAE混合物:TBS450μl、DEAEデキストラン(Sigma)450μl、DNA(4μg)のTE溶液100μl、ここで、DNAは、適当な発現ベクター中に、DNAをコードするGlyT1a、GlyT1b、GlyT1c、GlyT1d又はGlyT―2を含んでいた。グリシン輸送体を発現させるためのDNAプラスミドは、次に定義される通りであった。
PBS:標準リン酸緩衝食塩水、pH7.4、1mM CaCl2及び1mM MgCl2含有、0.2μmフィルターで滅菌。
TBS:溶液B 1ml、溶液A 10ml;蒸留水で100mlとする;濾過滅菌して4℃で保存。
TE:0.01Mトリス、0.001M EDTA、pH8.0。
DEAEデキストラン:Sigma、#C―9885。DEAEデキストランの0.1%(1mg/ml)TBS溶液からなる原液を調製した。この原液を濾過滅菌して、1mlずつのアリコットとして凍結した。
クロロキン:Sigma、#C―6628。100mMクロロキン水溶液からなる原液を調製した。この原液を濾過滅菌して、0.5mlずつのアリコットとして凍結して保存した。
溶液A(10×)
NaCl 8.00g
KCl 0.38g
Na2HPO4 0.20g
トリス塩基 3.00g
この溶液をHClでpH7.5に調整し、蒸留水で100.0mlとし、濾過滅菌して、室温で保存した。
溶液B(100×)
CaCl2 2H2O 1.5g
MgCl2 6H2O 1.0g
この溶液を蒸留水で100mlとして、濾過滅菌した;次いで、この溶液を室温で保存した。
HBSS:150mM NaCl、20mM HEPES、1mM CaCl2、10mMグルコース、5mM KCl、1mM MgCl22O;NaOHでpH7.4に調整。
使用した標準増殖及び継代(passaging)方法は、次の通りであった。細胞は、225mlのフラスコ内で成長させた。継代については、細胞を温HBSSで2度洗浄した(各洗浄5mlずつ)。2mlの0.05%トリプシン/EDTA溶液を加え、培養液をかき混ぜ、次いで、トリプシン/EDTA溶液を速やかに吸引した。次いで、培養液を約2分間(細胞が剥がれる(lift off)まで)インキュベートし、その後、10mlのQT―6培地を加え、フラスコをかき混ぜ、その底をこつこつ叩くことにより、細胞を更に取り出した。その細胞を取り出し、15mlの三角チューブに移し、1000×gで10分間遠心分離して、10mlのQT―6培地に再懸濁させた。計数のためにサンプルを取り除き、次いで、QT―6培地を用いて、細胞を更に1×105個/mlの濃度に希釈し、継代細胞(passaged cells)の225mlフラスコ当たり65mlの培養液を加えた。
次のようにして調製したcDNAを用いて、トランスフェクションを行った。
【0030】
ヒトGlyT2発現に関しては、米国特許出願番号08/700,013、1996年8月20日出願、名称「ヒトグリシン輸送体」に述べたpHGT2クローンを用いた。この文書は、ここに参照のためにその全文を記載する。
ヒトGlyT1a(hGlyT1a)クローンは、Kim 等、Mol. Pharmacol., 45, 608-617 (1994) に記載されたようなHindIII―XbaI断片として、pRc/CMVベクター(Invitrogen, San Diego, CA)中にクローン化されたヌクレオチド位置183〜2108のhGlyT1aの配列を含んでいた。この Kim 等の論文に報告されているGlyT1a配列の最初の17個のヌクレオチド(最初の6個のアミノ酸に対応する)は、実際には、ラット配列に基づくものである。ヒトGlyT1aの配列がこの領域で異なっているかどうかを求めるために、ヌクレオチド1から212までのhGlyT1aの5’領域を、Gibco BRL (Gaithersburg, MD) により供給されている5’RACE方法を用いて、cDNA末端の迅速増幅(rapid amplification)により得た。GlyT1aのこの5’領域の配列決定から、コーディング配列の最初の17個のヌクレオチドが、ヒト及びラットGlyT1aにおいて同一であることが確認された。
ヒトGlyT1b(hGlyT1b)クローンは、Kim 等、上記に記載されたようなHindIII―XbaI断片として、pRc/CMVベクター中にクローン化されたヌクレオチド位置213〜2274のhGlyT1bの配列を含んでいた。
ヒトGlyT1c(hGlyT1c)クローンは、Kim 等、上記に記載されたようなHindIII―XbaI断片として、pRc/CMVベクター(Invitrogen)中にクローン化されたヌクレオチド位置213〜2336のhGlyT1cの配列を含んでいた。このクローンからのhGlyT1cのHindIII―Xba断片が、pRc/RSVベクター中に更にクローン化された。pRc/RSV及びpRc/CMV発現ベクターの両者中で、GlyT1cによりトランスフェクション実験を行った。
ヒトGlyT1dクローンは、上述の通りであった。
【0031】
トランスフェクションには、下記の4日法を用いた。
1日目は、100mmの皿の中の完全QT―6培地10ml中に、1×106個の細胞密度で、QT―6細胞をプレートした。
2日目は、培地を吸引し、10mlのPBSで洗浄し、次いで10mlのTBSで洗浄した。TBSを吸引し、次いで、1mlのDEAE/DNA混合物をプレートへ添加した。このプレートをフード内で5分毎にかき混ぜた。30分後、80μMクロロキンのQT―6培地液8mlを加え、培養液を37℃、5%CO2で2.5時間インキュベートした。次いで、培地を吸引し、細胞を完全QT―6培地で2回洗浄し、その後、100mlの完全QT―6培地を加えて、細胞をインキュベーターへ戻した。
3日目は、上述のように、トリプシン/EDTAで細胞を除去し、96ウエルの測定プレートのウエル内に、約2×105個/ウエルで細胞をプレートした。
4日目に、実施例5に記載されたようにしてグリシン輸送体を測定した。
【0032】
実施例5−グリシン取り込み
この実施例は、トランスフェクトされた培養細胞によるグリシン取り込みを測定する方法を説明するものである。
実施例4に従って増殖させた、一過性の(transient)GlyTでトランスフェクトされた細胞又は対照細胞を、HEPES緩衝食塩水(HBS)で3回洗浄した。トランスフェクション操作で、cDNAを省略したこと以外は、GlyTでトランスフェクトされた細胞と厳密に同様の処理をして、対照細胞を処理した。この細胞を、37℃で10分間インキュベートし、その後、50nM[3H]グリシン(17.5Ci/mmol)及び(a)非潜在的拮抗剤(no potential competitor)、(b)10mM非放射性グリシン又は(c)ある濃度の予期される剤(prospective agent)を含む溶液を添加した。予期される剤の濃度範囲は、50%の効果(例えば、グリシン取り込みを50%だけ抑制する剤の濃度であるIC50)となる濃度を計算するためのデータを作るのに用いられる。次いで、細胞を37℃で更に20分間インキュベートし、その後、細胞を氷冷HBSで3回洗浄した。この細胞に閃光体(scintillant)を加え、この細胞を30分間振とうし、シンチレーヨンカウンターをもちいて、細胞中の放射能を計数した。予期される剤と接触した細胞と接触しなかった細胞との間でデータを比較し、用いられる測定法に応じて、適切なところで、GlyT1活性を有する細胞をGlyT2活性を有する細胞と対比して、データを比較した。
ヒトGlyT1dクローン、phG1d/CMV、でトランスフェクトされたQT―6細胞におけるグリシン輸送体活性の発現を図2に示し、ここでは、[3H]グリシン取り込みを、模擬(mock)とphG1d/CMVでトランスフェクトされた細胞とについて示す。phG1d/CMVでトランスフェクトされたQT―6細胞は、模擬トランスフェクトされた対照細胞に比較して、グリシン輸送に顕著な増加を示す。結果は、3回行われた代表的な実験の平均値±SEMとして示されている。
phG1d/CMVでトランスフェクトされた細胞におけるグリシン輸送の濃度依存性を、図3に示す。ヒトphG1d/CMVでトランスフェクトされたQT―6細胞を、50nM[3H]グリシン及び表示濃度の非標識グリシンで20分間インキュベートし、細胞に取り込まれた放射能をシンチレーション計数によって求めた。データポイントは、4回行われた実験からの平均値±SEMを示すものである。結果は、60μMのIC50を示した。
【0033】
ここで、配列番号によって呼ばれる核酸又はアミノ酸配列は、配列表に示す通りである。
ここに述べた核酸配列、及びその結果、それらから誘導された蛋白質配列を注意深く配列決定した。しかし、核酸配列決定技術が多少の誤差を受けやすいことは、当業者の認めるところであろう。当業者は、当の核酸配列を単離する方法のここでの十分な記載に基づいて、これらの配列を確認し、補正することができ、本開示によって容易に利用できるような変更は、本発明に含まれるものである。更に、後からの明確化研究によって配列決定の誤りが確認されようがされまいが、ここに報告されたこれらの配列は、本発明内のものである。
本発明は、好ましい実施態様を強調して説明しているが、好ましい装置及び方法を変更したものを用いてもよいこと、及びここで特定的に記載されているのとは別のようにして本発明を実施しようとすることは、当業者にとって自明であろう。従って、本発明は、次の実施態様によって限定されている本発明の精神及び範囲内に包含される全ての変更を含むものである。
【0034】
本発明の実施態様をまとめると以下のようになる。
1)核酸を含むグリシン輸送体蛋白質をコードする単離された核酸において、
(a)そのコードされた蛋白質が、配列番号2の蛋白質配列又は配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を有する蛋白質配列を有するか;又は
(b)その核酸の、蛋白質をコードする部分が、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有する単離された核酸。
2)1)の核酸及びその核酸と機能的に関連しているプロモーターを含むベクター。
3)プロモーターが誘発性プロモーターである2)のベクター。
4)2)のベクターで、細胞を形質転換することを含む、組み換えグリシン受容体を発現する組み換え細胞の製造方法。
5)グリシン輸送体をコードする核酸を含む細胞において、その核酸が、プロモーターと機能的に関連しており、
(a)そのコードされた蛋白質が、配列番号2の蛋白質配列又は配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を有する蛋白質配列を有するか;又は
(b)その核酸の、蛋白質をコードする部分が、配列番号1と少なくとも95%の配列同一性を有する細胞。
6)その細胞表面に、組み換えグリシン輸送体を発現する5)の細胞。
7)5)の細胞内で蛋白質を発現することを含むグリシン輸送体の製造方法。
8)(a)該細胞から、グリシン輸送体を含む膜を単離するか、又は(b)その細胞から、グリシン輸送体を含む蛋白質画分を抽出することの少なくとも1つを更に含む7)の方法。
9)プロモーターが誘発性プロモーターであり、更に、培地中で細胞を増殖させること、及び誘導剤を培地中に加えることによりグリシン輸送体の発現を誘発させることからなる7)の方法。
10)5)による細胞から単離され、外因的に誘導された核酸により発現されたグリシン輸送体。
11)神経系障害若しくは状態を治療する生物活性剤を確認するか、又は神経系障害若しくは状態を治療する生物活性剤を同定する方法であり、(a)(i)5)による細胞又は(ii)その核酸によりコードされたアミノ酸配列を含有する単離されたグリシン輸送体蛋白質若しくはベクターの核酸によりコードされたアミノ酸配列の細胞プロセッシングから生じたアミノ酸配列を含む第一の測定組成物を提供し、(b)この第一の測定組成物を生物活性剤又は予期される(prospective)生物活性剤と接触させ、(c)その測定組成物により示されたグリシン輸送の量を測定することからなる方法。
12)第一の測定組成物によって示されたグリシン輸送の量を、生物活性剤又は予期される生物活性剤と接触させないこと以外は、第一の測定組成物と同じに処理された第二の測定組成物によって示されたグリシン輸送の量と比較することを更に含む11)の方法。
13)神経系障害又は状態が、(a)痛み、(b)痙性、(c)ミオクローヌス、(d)筋痙攣、(e)筋機能亢進、(f)てんかん、(g)認識又は記憶障害、(h)アルツハイマー病、(i)注意欠陥障害、(j)器質性脳症候群及び(k)精神分裂症からなる群の1つである11)の方法。
14)痙性が、卒中、頭部外傷、神経細胞死、多発性硬化症、脊髄損傷、失調症、ハンチントン病又は筋萎縮性側索硬化症に関連している13)の方法。
15)GlyT1dを同定し、GlyT1a、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2からGlyT1dを区別するのに有効な増幅プライマー又はヌクレアーゼ保護プローブを含む核酸。
16)核酸が、増幅プライマーである15)の核酸。
17)核酸が、ヌクレアーゼ保護プローブである15)の核酸。
18)15)の核酸を含むベクター。
19)配列番号2の配列又は配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を有する配列を有する単離グリシン輸送体蛋白質。
20)19)のグリシン輸送体蛋白質が細胞膜内蛋白質である単離された膜を含む単離グリシン輸送体組成物。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】GlyT1d(ヌクレオチド106〜2169)をコードするオープンリーディングフレームを含むcDNA配列(配列番号3)、及び配列された蛋白質配列(配列番号2)を示す。
【図1B】GlyT1d(ヌクレオチド106〜2169)をコードするオープンリーディングフレームを含むcDNA配列(配列番号3)、及び配列された蛋白質配列(配列番号2)を示す。
【図1C】GlyT1d(ヌクレオチド106〜2169)をコードするオープンリーディングフレームを含むcDNA配列(配列番号3)、及び配列された蛋白質配列(配列番号2)を示す。
【図1D】GlyT1d(ヌクレオチド106〜2169)をコードするオープンリーディングフレームを含むcDNA配列(配列番号3)、及び配列された蛋白質配列(配列番号2)を示す。
【図2】GlyT1d発現ベクターでトランスフェクトされた細胞内へのグリシン取り込みを示す。
【図3】GlyT1dを介しての輸送の濃度依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2の配列又は配列番号2のアミノ酸残基に関して6個以下の欠失もしくは置換である変換を有する配列を有するGlyT1dを同定し、GlyT1a、GlyT1b、GlyT1c及びGlyT2からGlyT1dを区別するのに有効な、配列番号3のNo.1-21もしくは配列番号3のNo.286-307のアンチセンス配列からなる増幅プライマー又は配列番号3のNo.1-297からなるヌクレアーゼ保護プローブを含む核酸。
【請求項2】
核酸が、増幅プライマーである請求項1の核酸。
【請求項3】
核酸が、ヌクレアーゼ保護プローブである請求項1の核酸。
【請求項4】
請求項1の核酸を含むベクター。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−263949(P2008−263949A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320293(P2007−320293)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【分割の表示】特願平10−544092の分割
【原出願日】平成10年4月13日(1998.4.13)
【出願人】(507373379)エヌピーエス アレリックス コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】