説明

グリセリンジエステルの製造方法

【課題】本発明は分離が困難なグリセリンエステル類からグリセリンジエステルを収率・選択率良くかつ簡便に得ることにある。
【解決手段】本発明は特定値の溶解性パラメーターを持つ溶媒を単独又は組み合わせて用いることでグリセリンモノエステル、グリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含む溶液よりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンエステル類の混合物が含まれる溶液よりグリセリンジエステルを得る技術及び当該技術により得られたグリセリンジエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
同族化合物の分離については従来より数多くの技術が提案されている。特にグリセリンエステル類の分離は類相互の化学的性質が似ているため分離には適さず、特に反応により得られた生成物中より分離するには、未反応物原料、溶媒、副生物の交互の関係により特に困難である。
【0003】
例えば類似内容である多価アルコールのアクリル酸エステル回収方法として、特開平09−031017号においてペンタエリスリトールのアクリルエステル類の回収方法について開示されているが、エステル置換基の数による分別については言及しておらず、一括してエステル類として効率よく回収する方法について述べているに過ぎない。
【0004】
また特開平2001−89200号にはグリシジルアクリレートへのアクリル酸の付加によるグリセリンジアクリレートの合成が開示されているが、精製方法は開示されておらず、GPC面積比で70%以上という低純度のものしか得られていない。
【0005】
特開平2000−169541号にはグリセリンとアクリル酸による合成、中和および水洗が開示されているが、収率および精製方法に関する記述はない。
【0006】
【特許文献1】特開平09−031017号公報
【特許文献2】特開2001−089200号公報
【特許文献3】特開2000−169541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、分離が困難なグリセリンエステル類からグリセリンジエステルを収率・選択率良くかつ簡便に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に本発明を詳述するが、便宜上、本発明を第一発明、第二発明、第三発明、第四発明、第五発明に分けて説明する。
(第一発明)
本発明に係る第一発明は、少なくともグリセリンモノエステル(以下「モノ体」と称する)及びグリセリンジエステル(以下「ジ体」と称する)を含むpH5以上である溶液(以下「溶液A」と称する)より、溶解性パラメーター8.5以上である溶媒を用いて、当該溶液Aよりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。
【0009】
ここでいう溶液とは、液が単一相であるもの以外にも、2相以上に分離したもの、懸濁状態のものも指している。
【0010】
本発明によりグリセリンモノエステル及びグリセリンジエステルを含む溶液Aよりモノ体を水相へ、ジ体を有機溶媒相へ分離することによりジ体を得ることができる。
【0011】
溶液Aより溶媒Aを用いてジ体を分離する際に、溶液AをpH5以上で処理することにより、当該溶液よりグリセリンモノエステルとグリセリンジエステルを分離することでグリセリンジエステルを得ることができる。pH5未満であればモノ体が油相と水相の双方に存在することが多く、ジ体を十分分離することができないことが多く好ましくはないからである。またpHは、好ましくはpH6以上、更に好ましくはpH7以上であり、特に好ましくはpH7.5以上であり、先の効果はpHの値ともに増大するものである。なお、pHの上限は10以下であり、10を超える場合には塩基性による当該物質の加水分解反応が進行し、好ましくはないからである。
【0012】
溶液Aにおけるモノ体の濃度は50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。50質量%を超える場合には多量の抽出溶媒が必要となり、また抽出効率が下がるからである。
【0013】
溶液Aにおけるジ体の濃度は5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であれば抽出による回収が困難だからである。
【0014】
温度は0℃〜50℃であり、好ましくは10℃〜40℃である。0℃未満、あるいは50℃を超える温度であればグリセリンエステル類の液−液分配係数が変化し、抽出効率が下がり好ましく無いからである。
【0015】
本発明に係る溶媒Aは、溶解性パラメーターが8.5以上、好ましくは8.7以上、更に好ましくは8.7〜13である。8.5未満であればジ体が効率よく抽出されないからであり、13を超える場合には有機相と水相との分離が困難だからである。
【0016】
溶液A中の水の濃度は5〜90質量%、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%であり、5質量%未満であればモノ体の水相への溶解が不十分であり、90質量%を超える場合にはジ体の一部が水相に溶解するからである。
【0017】
溶液Aには、ジ体の抽出効率を向上させることを目的として溶媒Dを添加することが可能である。溶媒Dは、溶液Aと溶媒Aとが2相を形成しうるのであれば基本的にいかなる溶媒も使用可能であるが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類が好適に用いられ、この中でも特にメタノール、エタノール、アセトンおよびメチルエチルケトンが好適に用いられる。溶媒Dの添加量は抽出効率に応じて適宜調整されることが好ましいが、通常溶液Aに対して0〜50質量%、好ましくは溶液Aに対して3〜40質量%、さらに好ましくは溶液Aに対して5〜30質量%である。溶媒Dの添加量が50質量%以上であれば油相と水相の分離が困難になるからである。
(第二発明)
本発明に係る第二発明は、少なくともグリセリンジエステル及びグリセリントリエステル(以下「トリ体」と称する)を含むpH5以上である溶液(以下、「溶液B」と称する)より、溶解性パラメーター8.5未満である溶媒を用いて、当該溶液Bよりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。
【0018】
ここでいう溶液とは、液が単一相であるもの以外にも、2相以上に分離したもの、懸濁状態のものも指している。
【0019】
本発明によりグリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含む溶液Bより、ジ体を水相に抽出し、トリ体は油相へ移動させることによりジ体を得ることができる。
【0020】
溶液Bより溶媒Bを用いてジ体を分離する際に、溶液BをpH5以上で処理することにより、当該溶液よりトリ体とジ体を分離することでグリセリンジエステルを得ることができる。
【0021】
溶液Bにおけるトリ体の濃度は70質量%以下であり、好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。70質量%を超える場合には多量の抽出溶媒が必要となり、また抽出効率が下がるからである。
【0022】
溶液Bにおけるジ体の濃度は5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であれば抽出による回収が困難だからである。
【0023】
本発明に係る溶媒Bは、溶解性パラメーターが8.5未満、好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。8.5以上であればジ体とトリ体の分離が困難となるからである。
【0024】
溶液B中の水の濃度は1〜80質量%、好ましくは5〜70質量%であり、更に好ましくは10〜50質量%であり、1質量%未満であればトリ体の有機相への溶解が不十分であり、80質量%を超える場合にはジ体の一部が有機相に溶解するからである。
【0025】
温度は0〜50℃であり、好ましくは10〜40℃である。0℃未満、あるいは50℃を超えるときはグリセリンエステル類の液−液分配係数が変化し、抽出効率が下がり好ましくは無いからである。
【0026】
溶液Bには、ジ体の抽出効率を向上させることを目的として溶媒Dを添加することが可能である。溶媒Dは、溶液Bと溶媒Bとが2相を形成しうるのであれば基本的にいかなる溶媒も使用可能であるが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類が好適に用いられ、この中でも特にメタノール、エタノール、アセトンおよびメチルエチルケトンが好適に用いられる。溶媒Dの添加量は抽出効率に応じて適宜調整されることが好ましいが、通常溶液Bに対して0〜50質量%、好ましくは溶液Bに対して3〜40質量%、さらに好ましくは溶液Bに対して5〜30質量%である。溶媒Dの添加量が1質量%未満であれば所望する添加効果が望めず、50質量%以上であれば油相と水相の分離が困難になるからである。
(第三発明)
本発明に係る第三発明は、グリセリンモノエステル、グリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含むpH5以上である溶液(以下「溶液C」と称する)より、溶解性パラメーター8.5以上である溶媒A及び溶解性パラメーター8.5未満である溶媒Bを用いて、当該溶液Cよりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。
【0027】
ここでいう溶液とは、液が単一相であるもの以外にも、2相以上に分離したもの、懸濁状態のものも指している。
【0028】
溶液Cには、ジ体の抽出効率を向上させることを目的として溶媒Dを添加することが可能である。溶媒Dは、溶液Cと溶媒Aもしくは溶媒Bとが2相を形成しうるのであれば基本的にいかなる溶媒も使用可能であるが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類が好適に用いられ、この中でも特にメタノール、エタノール、アセトンおよびメチルエチルケトンが好適に用いられる。溶媒Dの添加量は抽出効率に応じて適宜調整されることが好ましいが、通常溶液Cに対して0〜50質量%、好ましくは溶液Cに対して3〜40質量%、さらに好ましくは溶液Cに対して5〜30質量%である。溶媒Dの添加量が50質量%以上であれば油相と水相の分離が困難になるからである。
【0029】
第三発明は第一発明の後に第二発明を行うもの、あるいは第二発明の後に第一発明を行うものであり、その手順は特に限定されるものではない。第一発明によりグリセリンエステル類のうちでモノ体を水相により分離した後、ジ体とトリ体を含む油相から溶媒Aを留去し、水と溶媒Bを加え、第二発明によりトリ体を油相として分離し、ジ体を水相により得る。あるいは第二発明によりグリセリンエステル類のうちでトリ体を油相として分離した後、モノ体とジ体を含む水相に溶媒Aを加え、第一発明によりモノ体を水相に分離し、ジ体を油相より得る。各々の発明の条件は前述したとおりである。
【0030】
本発明に用いるグリセリンエステル類を含む溶液を得る手段としては、通常のグリセリンジエステルが得られるものであれば良いが、以下に特定の手段を用いたものにより得られるグリセリンエステル類を含む溶液を用いることにより本発明第一発明、第二発明、第三発明が効果を奏するものである。
(第四発明)
当該溶液A、当該溶液B又は当該溶液Cが、エポキシ化合物とカルボン酸Aとのエステル化反応により得られる溶液を用いて第一発明、第二発明又は第三発明を行うことを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。
【0031】
エポキシ化合物としては、グリシジルホルメート、グリシジルアセテート、グリシジルプロピオネート、2,3−エポキシー1−プロパノール、グリシジル(メタ)アクリレートであり、好ましくはグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルホルメート、グリシジルアセテート、グリシジルプロピオネートであり、更に好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートであり、(メタ)アクリレートを用いることはエステル化反応が容易に進行するので好ましい。
【0032】
第四発明に用いるカルボン酸Aとしては通常用いられるものであれば良いが好ましくは(メタ)アクリル酸、ギ酸、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、フタル酸、無水フタル酸、リンゴ酸、リノール酸、オレイン酸であり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸であり、(メタ)アクリル酸を用いると工業的に有用な重合性モノマーを製造できるからである。
【0033】
反応温度は10〜150℃、好ましくは20〜140℃、より好ましくは30℃〜130℃、更に好ましくは40℃〜120℃である。
【0034】
原料として(メタ)アクリル酸、および/または(メタ)アクリレートを用いる場合は、例えば、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤や2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤やアルキル化ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤等の重合禁止剤を用いることが好ましい。これらの重合禁止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その量は、用いる(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートの種類にもよるが、該(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートに対して、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。前記重合禁止剤添加量の範囲が、収率の点、重合抑制の点および経済性の点で好ましい。
(第五発明)
当該溶液A、当該溶液B又は当該溶液Cが、多価アルコールとカルボン酸Aとを酸触媒の存在下で得られる溶液を用いて第一発明、第二発明又は第三発明を行うことを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法である。
【0035】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、グリセリン−1−(メタ)アクリレート、グリセリン−2−(メタ)アクリレート、グリセリン−1−ホルメート、グリセリン−2−ホルメート、グリセリン−1−アセテート、グリセリン−2−アセテート、グリセリン−1−プロピオネート、グリセリン−2−プロピオネートであり、更に好ましくはグリセリン、グリセリン−1−(メタ)アクリレート、グリセリン−2−(メタ)アクリレートである。最も好ましくはグリセリンであり、入手が容易であるからである。
【0036】
なお、カルボン酸Aは第四発明と同じである。
【0037】
本発明に係る酸触媒としては通常酸性を有するものであれば良く、硫酸、クロル硫酸、フルオロ硫酸、発煙硫酸、燐酸、塩酸等の鉱酸類、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、スチレン系スルホン酸型イオン交換樹脂、フェノールスルホン酸型イオン交換樹脂等の酸性イオン交換樹脂などが挙げられ、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。これら酸性触媒のなかでも、鉱酸類と有機スルホン酸類が好ましく、エステル化機能と水に対する溶解性が共に優れる点で硫酸、p−トルエンスルホン酸が特に好ましい。鉱酸、カルボン酸を用いる場合にはグリセリンに対して0.01〜30モル%、好ましくは0.1〜20モル%、より好ましくは0.3〜10モル%であり、0.01モル%未満であれば反応速度が著しく遅く長時間の反応が必要であり、30モル%を超える場合には触媒によりグリセリンエステル類の重合反応が起こりやすくなるからである。
【0038】
反応温度は10〜150℃、好ましくは20〜140℃、より好ましくは30℃〜130℃、更に好ましくは40℃〜120℃である。
【0039】
原料として(メタ)アクリル酸、および/または(メタ)アクリレートを用いる場合は、例えば、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤や2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤やアルキル化ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤や2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤等の重合禁止剤を用いることが好ましい。これらの重合禁止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。その量は、用いる(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートの種類にもよるが、該(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートに対して、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。前記重合禁止剤添加量の範囲が、収率の点、重合抑制の点および経済性の点で好ましい。
【0040】
本発明においては、反応溶媒を特に必要としないが、所望に応じ、副生する水を共沸除去しうるような溶媒、例えば水と共沸混合組成を形成して、沸点が水の沸点より低くなるような溶媒を用いても良い。このような溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、石油エーテル、石油ベンジン、ナフサ、ガソリン、灯油、リグロイン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素化合物、あるいはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、クメン、その他炭素数9〜11の芳香族化合物や、クロロベンゼンのような塩素化芳香族炭化水素などの芳香族化合物、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテルなどの水不溶性エーテルなどが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
反応は大気圧下で行ってもよいし、生成した水を容易に除去するために、減圧下で行ってもよい。また、留出した水のみを分離し、溶媒や原料を還流させるための分水器を反応装置に設置して反応を行ってもよい。さらに、重合禁止効果を高めるために、ガスを反応系に導入してバブリングしながら反応を行ってもよい。このようなガスとしては、重合禁止効果が得られるものであればいかなるものを用いてもよいが、空気、もしくは1〜30容量%の酸素、70〜99容量%の不活性ガスの混合物が好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられるが、反応に関与しないものであればいかなるものを用いてもよい。
【0042】
本発明方法においては、原料、触媒および所望に応じて用いられる溶媒などの添加順序については特に制限はなく、全部最初に仕込んでから反応させてもよいし、触媒を逐次的に添加しながら反応を行ってもよいが、原料、触媒および所望に応じて用いられる溶媒などを全部最初に仕込んでから反応させる方法が効率的である。
【0043】
これらの溶液には、グリセリンエステル以外に各種の化合物が含まれているものであり、特に反応により得られた生成物を含む溶液であれば未反応原料、溶媒、副生物、触媒などが含まれることもある。
【0044】
本発明に係るグリセリンエステルとは、モノ体、ジ体、トリ体である。具体的にはモノ体としては、グリセリン−1−(メタ)アクリレート、グリセリン−2−(メタ)アクリレート、グリセリン−1−ホルメート、グリセリン−2−ホルメート、グリセリン−1−アセテート、グリセリン−2−アセテート、グリセリン−1−プロピオネート、グリセリン−2−プロピオネート、好ましくは、グリセリン−1−(メタ)アクリレート、グリセリン−2−(メタ)アクリレートであり、ジ体としてはグリセリン−1,3−ジ(メタ)アクリレート、グリセリン−1,2−ジ(メタ)アクリレート、グリセリン−1,3−ジホルメート、グリセリン−1,2−ジホルメート、グリセリン−1,3−ジアセテート、グリセリン−1,2−ジアセテート、グリセリン−1,3−ジプロピオネート、グリセリン−1,2−ジプロピオネート、好ましくは、グリセリン−1,3−ジ(メタ)アクリレート、グリセリン−1,2−ジ(メタ)アクリレートであり、トリ体としてはグリセリントリホルメート、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、好ましくは、グリセリントリ(メタ)アクリレートである。
【0045】
当該グリセリンエステル類の濃度は特に限定はないが、好ましくはモノ体の濃度は50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。50質量%を超える場合には多量の抽出溶媒が必要となり、また抽出効率が下がるからである。ジ体の濃度は5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であれば抽出による回収が困難だからである。トリ体の濃度は70質量%以下であり、好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。70質量%を超える場合には多量の抽出溶媒が必要となり、また抽出効率が下がるからである。
【0046】
本発明に係る溶液には上記グリセリンエステル類のほか、未反応原料、溶媒、副生物、触媒などが含まれる。
【0047】
本発明に係る溶液Aとは少なくともグリセリンモノエステル及びグリセリンジエステルを含む溶液であり、本発明に係る溶液Bとは少なくともグリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含む溶液であり、本発明に係る溶液Cとは少なくともグリセリンモノエステル、グリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含む溶液である。
【0048】
本発明に係る溶液A、溶液Bおよび溶液Cには、ジ体の抽出効率を向上させることを目的として溶媒Dを添加することが可能である。溶媒Dは、溶液Bと溶媒Bとが2相を形成しうるのであれば基本的にいかなる溶媒も使用可能であるが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン類が好適に用いられ、この中でも特にメタノール、エタノール、アセトンおよびメチルエチルケトンが好適に用いられる。溶媒Dの添加量は抽出効率に応じて適宜調整されることが好ましいが、通常溶液A、溶液B、あるいは溶液Cに対して0〜50質量%、好ましくは溶液A、溶液B、あるいは溶液Cに対して3〜40質量%、さらに好ましくは溶液A、溶液B、あるいは溶液Cに対して5〜30質量%である。溶媒Dの添加量が50質量%以上であれば油相と水相の分離が困難になるからである。
【0049】
当該溶液は通常pHが5.5以上、好ましくは6〜10である。5.5未満であれば共存するカルボン酸により抽出が効率よく行えない。10を超える場合には塩基性によるグリセリンエステル類の加水分解が進行するからである。
【0050】
本発明により得られるグリセリンエステル類は、グリセリンエステル中のモノエステルの割合が5モル%以下であることが好ましい。より好ましくは3モル%以下であり、更に好ましくは2モル%以下である。モノエステルが5モル%より過剰に存在すると、グリセリンジエステルをイソシアネートと反応させる用途において好ましくない反応を起こすからである。
【0051】
本発明により得られるグリセリンエステル類は、グリセリンエステル中のトリエステルの割合が5モル%以下であることが好ましい。より好ましくは3モル%以下であり、更に好ましくは2モル%以下である。トリエステルが5モル%より過剰に存在すると、グリセリンジエステルをイソシアネートと反応させる用途において所望の反応を起こさないからである。
(実施例)
以下、実施例に基づき発明を具体的に説明するが本発明の趣旨に反しない限り、これらに限定されるものではない。
(実施例1)
グリセリン92.1gとアクリル酸144.1gにメトキノン0.09g加え、グリセリンに対して1モル%の硫酸の存在下に70℃で5時間反応し得られた溶液50gに20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.3に調整した。この溶液にトルエン(溶解性パラメーター8.93)100gを加えて十分攪拌した後、油相と水相を分離し、油相よりジアクリレートを含む溶液を得た。
(実施例2)
実施例1より得られた溶液を、空気導入管を備えたエバポレーターにより空気を吹き込みながら、トルエンを留去してジアクリレート、トリアクリレートを回収した。得られたアクリレート類にn−ヘキサン(溶解性パラメーター7.27)100g、水100gを加えて十分に攪拌した後、水相と油相を分離し、水相よりジアクリレート112.5g(収率63.2%、GC面積比(分離後の当該化合物に関するガスクロマトグラムのピーク面積の百分率、以下同様な意味に用いる)96.5%)を得た。
(実施例3)
グリシジルメタアクリレート142.2gとアクリル酸144.1gにメトキノン0.14g加え、85℃で5時間反応し得られた溶液50gに20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを8.3に調整した。この溶液にシクロヘキサン(溶解性パラメーター8.19)を100g加えて更に十分攪拌し、水相と油相を分離し、水相よりモノアクリレート、ジアクリレートを含む溶液を得た。
(実施例4)
実施例3より得られた溶液にベンゼン(溶解性パラメーター9.16)100g、水100gを加えて十分に攪拌した後、水相と油相を分離し、水相よりジアクリレート114.2g(収率57.1%、GC面積比95.7%)を得た。
(実施例5)
実施例1及び実施例2において各々表1に示す条件に変えた以外は実施例1と実施例2と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(実施例6)
実施例3及び実施例4において各々表1に示す条件に変えた以外は実施例3と実施例4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例1)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例2)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例3)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例4)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例5)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
(比較例6)
実施例1及び2、または実施例3及び4において表1に示す条件に変えた以外は実施例1及び2、または実施例3及び4と同様にして実験を行った。結果は表1に示した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともグリセリンモノエステル及びグリセリンジエステルを含むpH5以上である溶液(以下「溶液A」と称する)より、溶解性パラメーター8.5以上である溶媒(以下、「溶媒A」と称する)を用いて、当該溶液Aよりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法。
【請求項2】
少なくともグリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含むpH5以上である溶液(以下、「溶液B」と称する)より、溶解性パラメーター8.5未満である溶媒(以下、「溶媒B」と称する)を用いて、当該溶液Bよりグリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法。
【請求項3】
グリセリンモノエステル、グリセリンジエステル及びグリセリントリエステルを含むpH5以上である溶液(以下「溶液C」と称する)より、溶媒Aおよび溶媒Bを用いて、当該溶液Cよりグリセリンモノエステルおよびグリセリントリエステルを分離し、グリセリンジエステルを得ることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法。
【請求項4】
当該溶液A、当該溶液B又は当該溶液Cが、エポキシ化合物とカルボン酸Aとのエステル化反応により得られる溶液であることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法。
【請求項5】
当該溶液A、当該溶液B又は当該溶液Cが、多価アルコールとカルボン酸Aとを酸触媒の存在下で得られる溶液であることを特徴とするグリセリンジエステルの製造方法。
【請求項6】
グリセリンエステル中のモノエステルの割合が5モル%以下であることを特徴とするグリセリンジエステル。
【請求項7】
グリセリンエステル中のモノエステル及びトリエステルの合計が5モル%以下であることを特徴とするグリセリンジエステル。

【公開番号】特開2006−257044(P2006−257044A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79159(P2005−79159)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】