説明

グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法

【課題】 油脂類とアルコールとを反応させてグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する際に、活性金属成分の溶出がほとんどなく、油脂中に含まれるグリセリド類のエステル交換と遊離脂肪酸のエステル化との両反応に高活性を発揮できる触媒を用いることにより、触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とすることができるとともに、高効率に食用や燃料等の用途に好適なグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法であって、上記触媒は、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含む金属酸化物であり、上記触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下であるグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関する。より詳しくは、燃料、食品、化粧品、医薬品等の用途に有用なグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、植物油脂から得られるものが食用油として用いられ、その他にも、化粧品、医薬品等の分野に用いられている。また、近年では、軽油等に添加される燃料用としても注目されており、例えば、COの排出削減の目的から、植物由来のバイオディーゼル燃料として軽油に数%添加されることになる。また、グリセリンは、主にニトログリセリンの製造原料として用いられており、その他にも、アルキド樹脂等の原料、医薬品、食料品、印刷インキ、化粧品等の様々な分野に用いられている。このような脂肪酸アルキルエステルやグリセリンの製造方法としては、油脂の主成分であるトリグリセリドをアルコールとエステル交換して製造する方法が知られている。
このような製造方法においては、一般に、均一系アルカリ触媒を用いる方法が工業的に用いられているが、煩雑な触媒の分離除去工程が必要となるため、このような工程を簡略化又は省略して効率的に脂肪酸アルキルエステルやグリセリンを製造するための工夫の余地があった。また、油脂に含まれる遊離の脂肪酸がアルカリ触媒によってけん化されるため石鹸が副生することとなり、多量の水で洗浄する工程が必要であるばかりでなく、石鹸の乳化作用により脂肪酸アルキルエステルの収率が低下し、また、その後のグリセリンの精製プロセスも煩雑となる場合があるため、これらの点においても高効率かつ簡便な製造方法とするための工夫の余地があった。
【0003】
脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関し、カルボン酸エステルのエステル交換反応の方法について、周期表第4A族(4族)元素のシリケートの少なくとも1つを活性成分として含む触媒を用いる方法が開示されており(例えば、特許文献1参照。)、シリケートとしては、結晶性シリケート又はアモルファスシリケートのいずれでもよいことが記載されている。しかしながら、この製造方法においては、用いられる触媒の反応活性や触媒寿命をより充分に向上させ、高効率かつ簡便に脂肪酸アルキルエステルを製造できるようにするとともに、製造工程における反応収率や転化率を更に向上させることにより、工業的により有用な製造方法とするための工夫の余地があった。
【0004】
脂肪酸の低級アルキルエステルを製造する方法に関し、触媒として、カリウム化合物と酸化鉄又はカリウム化合物と酸化ジルコニウムからなる固体塩基性触媒を使用する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この製造方法においては、活性金属成分の溶出をより充分に抑制できるようにすることにより、溶出成分の除去工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とし、また、製造工程における反応収率や転化率をより向上させるための工夫の余地があった。
【0005】
脂肪族エステルを製造する方法に関し、(a)不均一触媒で油脂をアルコリシスする工程、(b)アルコリシス後の反応液から過剰のアルコールを蒸発させる工程、(c)脂肪酸アルキルエステル及び未反応の油脂の混合溶液とグリセリンとを分離し、脂肪酸アルキルエステル及び未反応の油脂の混合溶液を得る工程、(d)該混合溶液を触媒の存在下で、(b)で回収したアルコールで、再度、アルコリシスする工程、(e)アルコリシス後の反応液から過剰のアルコールを蒸発させ、脂肪酸エステルとグリセリンとを分離し、脂肪酸エステルを得る工程、の5工程を含む手法において、好ましくはスピネル構造を含むZnAl、xZnO、yAl(x及びyは0〜2)触媒を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この製造方法においては、触媒の活性が低いため、高い反応温度が必要であったり、過剰のアルコールを用いる必要がある等の問題があった。
【0006】
脂肪族エステルを製造する方法に関し、(a)不均一触媒で油脂をアルコリシスした後、アルコールとグリセリンとを分離して、モノグリセリドを含む液を得る工程、(b)モノグリセリドを脂肪酸アルキルエステルと触媒の存在下に不均化反応させてトリグリセリド及びジグリセリドを得る工程、並びに、(c)工程(a)で回収したアルコールをリサイクルする工程、の3工程を含む手法において、ZnAl、xZnO、yAl(x及びyは、0〜2)等の触媒を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献4、5参照。)。しかしながら、これらの製造方法においても、より高効率かつ簡便に脂肪酸アルキルエステルを製造できるようにするための工夫の余地があった。更に、一般的にエステル交換反応において、均一系の触媒としてチタン(IV)アルコキシドが有用であることは広く知られているが、通常、酸化チタン(IV)では活性が低く(例えば、特許文献1、第5頁、表3の比較例参照。)、製造工程における反応収率及び転化率をより向上させるための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平7−173103号公報
【特許文献2】特開2000−44984号公報
【特許文献3】米国特許第5908946号明細書
【特許文献4】米国特許第6147196号明細書
【特許文献5】仏国特許出願公開第2794768号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、油脂類とアルコールとを反応させてグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する際に、活性金属成分の溶出がほとんどなく、油脂中に含まれるグリセリド類のエステル交換反応と遊離脂肪酸のエステル化反応との両反応に高活性を発揮できる触媒を用いることにより、触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とすることができるとともに、高効率かつ高選択的に食用や燃料等の用途に好適なグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法について種々検討したところ、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させてグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造する方法が工業的に有用であることに着目し、このような工程において、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含む触媒が、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができる性能を有し、油脂中に含まれる鉱酸や金属成分の影響を受けず、かつアルコールが分解しない等の作用効果を発揮する触媒であることを見いだし、更にこのような結晶性の酸化チタンを用いることにより活性成分であるチタン成分の溶出をより充分に抑制できることを見いだした。そして、このような触媒において、残存する硫黄成分を低減する等して触媒中に含まれる硫黄成分濃度を特定値以下とすることにより、これまで活性が低く実用化が困難であった酸化チタンの活性の向上や、更には長寿命化を図ることができることを見いだした。このような方法によって、従来の方法で使用されている均一系触媒と比較して触媒の分離除去・回収工程を著しく簡略化又は不要とすることができるうえに、反応に繰り返し利用することが可能であることに想到し、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、上記触媒を、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を含むものとすると、触媒活性や触媒寿命が更に向上し、また、活性金属成分の溶出がより充分に抑制され、本発明の作用効果をより充分に発揮することができることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法であって、上記触媒は、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含む金属酸化物であり、該触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下であるグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、油脂類とアルコールとを、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含む金属酸化物の存在下に接触させることとなる。このような結晶性の酸化チタンを含む触媒を用いることにより、活性成分であるチタン成分の溶出をより充分に抑制でき、更に、触媒の高活性化及び長寿命化を充分に図ることができるため、高効率的に反応を実施することが可能となる。なお、上記触媒において、チタンの含有量は金属換算で下限が0.5質量%、上限が60質量%であることが好適である。より好ましくは下限が1質量%、上限が45質量%であり、更に好ましくは下限が2質量%、上限が30質量%である。
なお、本発明の製造方法においては、上記金属酸化物触媒に他の触媒を併用して用いてもよい。また、上記触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよい。
上記アナターゼ構造及びルチル構造とは、共に正方晶系に属し、ABで表される化合物(A:陽性原子、B:陰性原子)により形成される結晶構造である。このような結晶構造においては、A原子がB原子によって八面体的に配位されるが、アナターゼ構造は各八面体が隣接八面体と4稜を共有して骨格構造を形成し、ルチル構造は各八面体が隣接八面体と2稜を共有して骨格構造を形成することになる。ルチル構造の化合物は、アナターゼ構造の化合物を焼成することにより得ることが可能である。
なお、上記触媒がアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含むことは、粉末X線回析(XRD)により確認することができる。
【0011】
上記触媒としてはまた、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンの他に、更に単一の酸化物又は複合酸化物を含む形態であってもよいし、上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、上記酸化チタンの他、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
上記触媒の好ましい形態としては、更に、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有する形態であり、例えば、該酸化物と上記酸化チタンとの混合体や、該酸化物又は上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持等した形態が挙げられる。中でも、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を担体とし、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを活性成分とする形態であることが好適であり、これにより、活性成分であるチタン成分の溶出をより充分に抑制でき、更に高活性かつ長寿命の触媒となるため、本発明の製造方法に特に好適な触媒とすることが可能となる。
【0012】
上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、これらの金属元素の単一酸化物若しくはその混合体又は複合酸化物の形態であることが好ましく、複合酸化物としては、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、それ以外の金属元素との複合酸化物であってもよい。上記金属元素の単一又は複合酸化物としては、Si、Zr及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を必須とするものであることがより好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
なお、上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、非晶性の酸化チタンや、チタンとチタン以外の金属とにより構成される複合酸化物を含んでもよいが、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンは含まないものとする。
【0013】
上記触媒において、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の含有量(該含有量には、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを構成するチタン元素の含有量は含まないものとする。)としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。このような範囲に設定することにより、触媒活性や反応効率が更に向上され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。なお、金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0014】
上記触媒としてはまた、触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下であることが適当である。700ppmを超えると、触媒活性や触媒寿命が充分には向上されないため、触媒の分離除去・回収工程を著しく簡略化又は不要とするとともに、触媒を用いて連続的に反応を行うことができるという本発明の作用効果を充分に発揮できないおそれがある。好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは200ppm以下である。なお、触媒中の硫黄成分は、蛍光X線(XRF)や高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。例えば、XRFでは触媒粉体のまま、あるいはガラスビード法により測定することができ、ICPでは、例えば、フッ化水素酸水溶液で触媒粉体を溶解させて測定することができるが、測定の簡便さの点からガラスビード法によるXRFで測定することが好ましい。
このように触媒中に含まれる硫黄成分を低減する方法としては、例えば、触媒の原料として硫酸塩を用いずに触媒を調製したり、硫酸塩の使用量を充分に低減させて調製したり、触媒を充分な量の水等の溶媒で洗浄することによって行うことが可能である。
【0015】
上記触媒としてはまた、焼成したものを用いてもよく、これにより、活性金属成分の溶出を更に抑制することができる。焼成温度としては、触媒表面積と結晶構造とを考慮して設定することが好適であり、例えば、下限を280℃、上限を1300℃とすることが好ましい。280℃未満であると、非晶性の酸化チタンが多くなり、溶出を充分に抑制することができないおそれがあり、1300℃を超えると、充分な触媒表面積を得られず、グリセリン及び/又は脂肪酸アルキルエステルを高効率で製造できないおそれがある。より好ましくは、下限を400℃、上限を1200℃とすることである。また、焼成の時間は、下限が30分、上限が24時間であることが好適である。より好ましくは、下限が1時間、上限が12時間である。焼成中の気相雰囲気は、空気、窒素、アルゴン、酸素、水素等が好ましく、またそれらの混合ガスであってもよい。より好ましくは、空気中で焼成することである。
なお、上述したように、担体上に金属元素の単一又は複合酸化物から構成される活性成分を坦持又は固定化した形態の触媒を製造する場合には、担体となる化合物に含浸法や混練法等によって該活性成分を混合担持させた後、上記焼成条件にて焼成することにより製造することが好適である。これにより、担体表面に活性成分を充分に分散することができ、また、固体触媒として作用させることが可能となる。
【0016】
上記触媒としては更に、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性のもの(以下、「不溶性触媒」ともいう。)であることが好適である。油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる反応においては、反応が進行すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む相(エステル相)と、副産物であるグリセリンを主に含む相(グリセリン相)とに相分離することになるが、この場合、両方の相にアルコールが含まれることになり、その結果、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンが相互に分配する。このとき、触媒の非存在下にアルコールを留去すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む上層とグリセリンを主に含む下層との相互溶解度が低下して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンの分離を向上できることになり、回収率を向上することが可能となる。触媒の活性金属成分が溶出していると、エステル交換反応が可逆反応であることに起因して、上記の工程において逆反応が進行して脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することになる。このように、触媒の非存在下に反応液からアルコールを留去した後に相分離を行うことにより、グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法において精製が容易になり、収率を向上することができる。すなわち上記製造方法が、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなり、該触媒は、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性のものであり、反応生成液であるエステル相とグリセリン相を相分離するより先に、触媒の非存在下にアルコールを留去する形態は、本発明の好ましい形態の1つである。なお、微量の水を添加することにより、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとの分離や精製を更に向上することが可能となる。
【0017】
上記触媒の非存在下とは、不溶性固体触媒をほとんど含まず、かつ反応後液中に該触媒から溶出した活性金属成分の合計の濃度が、1000ppm以下であることである。また、溶出した活性金属成分とは、操作条件下において、エステル交換反応及び/又はエステル化反応に活性を有する均一系触媒として作用し得る、反応液中に溶解した不溶性固体触媒由来の金属成分を意味する。溶出した活性金属成分の濃度が1000ppmを超えると、上述したアルコールの留去工程において逆反応を充分には抑制できないことになり、製造におけるユーティリティーの負荷を充分には低減できないことになる。好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは600ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以下である。特に好ましくは、実質的に活性金属成分が含有されないことである。
上記反応液中の触媒の活性金属成分の溶出量は、反応後の反応液を、溶液状態のまま蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法において、上記触媒としては、上述したように、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができる性能を有し、油脂中に含まれる鉱酸や金属成分の影響を受けず、かつアルコールが分解しない等の作用効果を発揮するものであることから、本発明の製造方法においてグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを高効率に製造することを可能とするものである。このような本発明の製造方法に用いられる触媒もまた、本発明の1つである。
【0019】
本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるものである。
上記接触工程においては、例えば、下記式に示すように、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応により、脂肪酸メチルエステルとグリセリンとが生成することになる。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
上記製造方法においては、上述した触媒を用いることによりエステル交換反応とエステル化反応とを同時に行うことができることから、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応工程で同時に遊離脂肪酸のエステル化反応が進行するため、エステル交換反応工程とは別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステルの収率を向上することができる。
上記製造方法においてはまた、上記式に示すように、エステル交換反応により脂肪酸アルキルエステルと共にグリセリンが得られることになる。本発明においては、精製されたグリセリンを工業的に簡便に得ることができるが、このようなグリセリンは、化学原料として各種の用途に好適に用いることが可能である。
【0022】
上記接触工程において、油脂類としては、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共にグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれるものを使用することができる。通常では、トリグリセリド(グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド、モノグリセリドやその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレイン等のグリセリンの脂肪酸エステルを用いてもよい。
上記油脂としては、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ヒマシ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等が好適であり、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0023】
上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、触媒が鉱酸によって反応阻害を受けにくいものであるので、脱ガム工程を行った後、油脂類に鉱酸が含まれていても、グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを効率よく製造することができる。
【0024】
上記接触工程において、アルコールとしては、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜6のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が挙げられる。特に、メタノールが好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
上記アルコールとしてはまた、食用油、化粧品、医薬等の製造を目的とする場合には、ポリオールであることが好ましい。上記ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が好適である。中でも、グリセリンが好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。このように上記アルコールとしてポリオールを用いる場合、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリドを得る方法において好適に用いることができることとなる。
上記グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、油脂類、アルコール及び触媒以外のその他の成分が存在してもよい。
【0025】
上記アルコールの使用量としては、油脂類とアルコールとの反応における理論必要量の1〜5倍であることが好ましい。1倍未満であると、油脂類とアルコールとが充分には反応しないおそれがあり、転化率を充分には向上できないおそれがある。5倍を超えると、余剰アルコールの回収やリサイクル量が大きくなるためコストがかかるおそれがある。下限値として、より好ましくは1.1倍であり、更に好ましくは1.3倍であり、特に好ましくは1.5倍である。上限値として、より好ましくは4.8倍であり、更に好ましくは4.5倍であり、特に好ましくは4.0倍である。また、より好ましい範囲としては、1.1〜4.8倍であり、更に好ましくは1.3〜4.5倍であり、特に好ましくは1.5〜4.0倍である。
なお、本発明でいうアルコールの理論必要量は、油脂類のけん化価に対応するアルコールのモル数を意味しており、下記式で算出することができる。
アルコールの理論必要量(kg)=アルコールの分子量×[油脂の使用量(kg)×けん化価(g−KOH/kg−油脂)/56100]
【0026】
上記アルコールとしてポリオールを用いる場合には、上述したように本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法により、ジグリセリド類を好適に得ることができ、このような形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。このようにして得られるジグリセリド類は、油脂の可塑性改良用添加剤等として食品分野等で好適に用いることができる。また、ジグリセリド類を食用の油脂とし、各種の食品に配合すると、肥満防止、体重増加抑制作用等を発揮することから、本発明により得られるジグリセリド類を食用の油脂として使用する形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記ジグリセリド類を得る形態において、例えば、ポリオールとしてグリセリンを用いる場合、下記式に示すような反応が進行することとなる。
【0027】
【化2】

【0028】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
【0029】
本発明の方法によりジグリセリド類を得る方法としては、まずモノグリセリドとジグリセリドとを主成分とする混合物を得、これに遊離脂肪酸又はそのアルキルエステルを添加して、リパーゼの存在下で反応させることが好ましく、これにより、高選択率でジグリセリド類を得ることができる。
上記リパーゼとしては、固定化リパーゼ又は菌体内リパーゼであることが好ましい。より好ましくは、1,3位に選択的に作用する固定化リパーゼ又は菌体内リパーゼである。固定化リパーゼとしては、1,3位選択的リパーゼをイオン交換樹脂に固定化して得られたものが好ましい。1,3位選択的リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギウス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、カンジダ(Candida)属、サーモマイセス(Thermomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等の微生物に由来するリパーゼが好適である。
上記リパーゼを作用させる条件としては、良好なリパーゼ活性が得られる条件を適宜選択することができるが、反応温度としては、10〜100℃が好ましく、より好ましくは、20℃以上、80℃以下である。
【0030】
一般にジグリセリド類を得る方法としては、触媒を用いて油脂類とポリオールとを反応させる第1反応、及び、得られた混合物にリパーゼを作用させる第2反応とを行う方法が挙げられる。このような方法では、第1反応において触媒としてアルカリを用いた場合、第2反応におけるpHをリパーゼの活性に最適な範囲とするため、第1反応終了後にpHを調整することが必要となる。しかしながら、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を第1反応として用いることにより、第2反応でpHを調整する必要性が低下し、反応プロセスを簡略化することができる。このように、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を、ジグリセリド類を得る方法において用いることは、好ましい実施形態の1つである。
【0031】
本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、反応温度としては、下限が50℃、上限が300℃であることが好ましい。50℃未満であると、反応速度を充分には向上できないおそれがあり、300℃を超えると、アルコールが分解する等の副反応を充分には抑制できないおそれがある。より好ましくは、下限が70℃、上限が290℃であり、更に好ましくは、下限が100℃、上限が280℃である。
なお、上記グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法に用いる触媒としては、上記範囲内の反応温度で用いる場合に、活性金属成分が溶出しないものであることが好ましい。このような触媒を用いることにより、反応温度が高温であっても触媒の活性を充分に維持することができ、反応を良好に行うことができる。
【0032】
上記グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、反応圧力としては、下限が0.1MPa、上限が10MPaであることが好ましい。0.1MPa未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、10MPaを超えると、副反応が進行しやすくなるおそれがある。また、高圧に耐え得る特殊な装置が必要になり、ユーティリティーコストや設備費を充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が0.2MPa、上限が9MPaであり、更に好ましくは、下限が0.3MPa、上限が8MPaである。
【0033】
このように反応温度や圧力を充分に低下させた場合においても、本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、上述したように高活性の触媒を用いるため、反応を良好に実施することが可能となる。
なお、本発明における触媒は、使用するアルコールの超臨界状態で用いることもできる。超臨界状態とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を指す。該触媒を用いることにより、超臨界条件下においても効率的にグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルを製造することができる。
【0034】
また、上記グリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、反応に用いる触媒量としては、バッチ式の場合、油脂、アルコール及び触媒の総仕込み質量に対し、下限が0.5質量%、上限が20質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、20質量%を超えると触媒コストを充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が1.5質量%、上限が10質量%である。また、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.1hr−1、上限が20hr−1であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.3hr−1、上限が10hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの油脂の流量(mL・hr−1)+1時間あたりのアルコールの流量(mL・hr−1)}/触媒容量(mL)
【0035】
上記接触工程の好ましい形態としては、バッチ式(回分式)又は連続流通式であり、中でも、触媒分離の工程が不要となることから、固定床流通式であることが好適である。すなわち、上記接触工程は、固定床流通反応装置を使用して行われることが好ましい。また、バッチ式の好ましい形態としては、触媒を油脂類とアルコールとの混合系に投入する形態である。
【0036】
本発明の製造方法においてはまた、上記触媒を用いることにより反応を繰り返し実施することができるため、反応終了後に未反応原料や中間体グリセリド等を含んでいてもよい。この場合には、例えば、反応終了後の混合液から触媒の非存在下、アルコール及び水等の軽沸分を留去した後、この流出液から未反応のグリセリド類及び遊離脂肪酸を分離及び回収し、原料油脂類とともに再使用することが好ましい。これにより、高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセリンをより高収率で得ることが可能となり、精製コストを更に充分に削減することができる。
【0037】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルは、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途に好適に用いられることとなる。中でも、上記製造方法により、植物性油脂や廃食油を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルを用いたディーゼル燃料は、その製造工程においてユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、触媒回収工程が不要で触媒を繰り返し利用できるため、製造段階から環境保全効果を充分に発揮することが可能となり、各種の燃料として好適に利用することができる。このような上記製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルを含有するディーゼル燃料もまた、本発明の1つである。
【0038】
本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法における製造工程の好ましい形態を図1及び2に示す。なお、本発明は、これらの形態に限られるものではない。
図1においては、バッチ式により、油脂類としてパーム油を用い、アルコールとしてメタノールを用いて、これらを触媒の存在下に接触させる工程が示されている。このような形態では、パーム油とメタノールとを触媒とともに混合して、反応を行うことになる。この反応液を静置して脂肪酸メチルエステルとグリセリド類とを主に含むエステル相と、グリセリンとメタノールとを主に含むグリセリン相とに分離する。グリセリン相を分離して得られたエステル相にメタノールと触媒とを添加して更に反応を行い、エステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸メチルエステルとグリセリンとを得ることになる。このような形態においては、反応液を相分離する前であって、ろ過等の工程により固体触媒を液相から分離除去した後に、アルコールを留去することが、脂肪酸メチルエステル類とグリセリンとの分離が向上できる点で好ましい。このようにして得られたグリセリン及び/若しくは脂肪酸メチルエステルは、目的に応じて、蒸留塔の操作により、更に精製することが好ましい。
【0039】
図2においては、固定床連続流通式反応装置により、油脂類としてパーム油を用いてアルコールとしてメタノールを用いて、これらを固体触媒を固定相とした充填反応塔内で触媒と接触させる工程が示されている。触媒充填反応塔内で反応した反応後液をセトラー内で静置して、エステル相とグリセリン相とに分離する。グリセリン相を分離して得られたエステル相を、更に触媒充填反応塔内でメタノールと反応させて得られた反応後液からメタノールを留去した後に、セトラー内で静置してエステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを得る。このようにして得られた脂肪酸メチルエステル及び/又はグリセリンは、目的に応じて、蒸留塔の操作により、更に精製することが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、上述のような構成よりなるため、以下のような点で作用効果を発揮することができる。
反応プロセスを簡略化する点に関して、
(1)触媒の分離除去工程を簡略化又は不要とすることができる。
(2)遊離脂肪酸の中和除去工程、又は、酸触媒によるエステル化工程を不要とすることができる。
(3)遊離脂肪酸のけん化が起こらない。
(4)油脂類中の遊離脂肪酸のエステル化が同時に進行する。
精製プロセスを簡略化する、すなわち精製グリセリンを容易に得ることができる点に関して、
(1)触媒分離後にアルコールを留去することができ、逆反応が起こらないので、液−液二相の分配平衡が向上(相互溶解度が低下)して生成物の分離を良好に行うことができる。
(2)更に、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含み、かつ触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下である触媒が、高活性である点や、リーチングがない点、触媒表面に強い酸点又は塩基点を持たないのでアルコールの分解(脱水やコーキング等)が少なく、高選択的に脂肪酸アルキルエステルを得ることができる点、また、油脂中に含まれる微量金属成分や、前処理に用いる鉱酸の影響を受けにくい点が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記の実施例等において、転化率及び収率は下記式により算出した。
転化率(%)=(反応終了時の油脂類の消費モル数)/(油脂類の仕込みモル数)×100(%)
メチルエステル収率(モル%)=(反応終了時のメチルエステル生成モル数)/(仕込み時の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
ジグリセリド収率(モル%)=(反応終了時のジグリセリド生成モル数×2)/(仕込み時の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
モノグリセリド収率(モル%)=(反応終了時のモノグリセリド生成モル数)/(仕込み時の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
グリセリンの収率(モル%)=(反応終了時の遊離グリセリンの生成モル数)/(仕込み時の有効グリセリン成分のモル数)×100(%)
なお、有効脂肪酸類とは、油脂類に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類、遊離脂肪酸類のことをいう。すなわち、仕込み時の有効脂肪酸類のモル数は、下記式で算出される。
仕込み時の有効脂肪酸類のモル数(モル)=[油脂類の仕込み量(g)×油脂類のけん化価(mg−KOH/g−油脂)/56100]
また、有効グリセリン成分とは、本発明の方法によってグリセリンを生成することができる成分をいい、具体的には、油脂類中に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類をいう。有効グリセリン成分の含有量は、油脂類(反応原料)をけん化することによって遊離するグリセリンの存在量をガスクロマトグラフィーによって定量することによって算出される。
【0042】
触媒調製例1:チタンアルコキシドからのTi−Si触媒(触媒A)の調製
チタンテトライソプロポキシド(7.1g)をイソプロピルアルコール(11.5g)で希釈した溶液中に、シリカ粉末(25g)(富士シリシア社製、CARiACT Q−50、粒径75−180μm)を混練し、攪拌しながら蒸発乾固した。空気気流下で600℃×4時間焼成することによって、Ti−Si触媒(触媒A)を得た。ガラスビードによる蛍光X線分析の結果、硫黄成分は測定装置の検出限界である50ppm以下であり、触媒A100質量%中のチタン及びケイ素の含有量は、各々、金属換算で4.4質量%及び43.3質量%であった。また、XRD測定の結果、触媒に含まれる酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0043】
触媒調整例2:Ti−Zr触媒(触媒B)の調整
チタンテトライソプロポキシド(17g)とイソプロピルアルコール(2.3g)を混合した溶液中に、酸化ジルコニウム(60g)(第一稀元素化学工業社製、RSC−HP)を混練し、攪拌しながら蒸発乾固した。更に120℃で一晩乾燥させた後、空気気流下で900℃×3時間焼成することにより、Ti−Zr触媒(触媒B)を得た。ガラスビードによる蛍光X線分析の結果、硫黄成分は測定装置の検出限界である50ppm以下であり、触媒B100質量%中のチタン及びジルコニウムの含有量は、各々、金属換算で4.4質量%及び68.6質量%であった。また、XRD測定の結果、触媒に含まれる酸化チタンはルチル型であった。
【0044】
触媒調製例3:オキシ硫酸チタンからTi−Si触媒(触媒C)の調製(水洗あり)
オキシ硫酸チタン(Ti含有量:TiOとして33.21質量%)(14.5g)を水(140g)に溶解させた溶液中にシリカ粉末(80g)(富士シリシア社製、CARiACT Q−50、粒径75−180μm)を混練し、攪拌しながら蒸発乾固した。空気気流下で600℃×4時間焼成した後、充分水洗し、乾燥してTi−Si触媒(触媒C)を得た。ガラスビードによる蛍光X線分析の結果、硫黄成分は測定装置の検出限界である50ppm以下であり、触媒C100質量%中のチタン及びケイ素の含有量は、各々、金属換算で3.4質量%及び44.1質量%であった。また、XRD測定の結果、触媒に含まれる酸化チタンはアナターゼ型であった。
【0045】
触媒調製例4:Ti−Al触媒(触媒D)の調製
チタンテトライソプロポキシド(2.4g)をイソプロピルアルコール(5.0g)で希釈した溶液中に、α−アルミナ(30g)(SAINT−GOBAIN社製、SA5151)に含浸させ、攪拌しながら蒸発乾固した。更に120℃で一晩乾燥させた後、空気気流下で900℃×3時間焼成することによってTi−Al触媒(触媒D)を得た。ガラスビードによる蛍光X線分析の結果、硫黄成分は測定装置の検出限界である50ppm以下であり、触媒D100質量%中のチタン及びアルミの含有量は、各々、金属換算で4.4質量%及び51.8質量%であった。また、XRD測定の結果、触媒に含まれる酸化チタンはルチル型であった。
【0046】
比較用触媒調製例1:オキシ硫酸チタンからのTi−Si触媒(触媒E)の調製(水洗無し)
オキシ硫酸チタン(Ti含有量:TiOとして33.21質量%)(14.5g)を水(140g)に溶解させた溶液中にシリカ粉末(60g)(富士シリシア社製、CARiACT Q−50、粒径75−180μm)を混練し、攪拌しながら蒸発乾固した。空気気流下で600℃×4時間焼成することによって、Ti−Si触媒(触媒E)を得た。ガラスビード法による蛍光X線分析の結果、硫黄分が950ppm検出された。
【0047】
実施例1
内径10mm、長さ210mmのSUS−316製直間反応管内に触媒A15mLを充填した。同様にもう一本反応管を作成し、反応管2本を直結して、合計30mLの触媒Aを反応に用いた。反応器出口には、空冷式冷却管を介してフィルターと背圧弁とを取り付けて、圧力制御できるようにした。
精密高圧定量ポンプを使用してトリオレインとメタノールとを、各々、0.206mL/min、0.078mL/min(モル比=1/9、LHSV=0.57hr−1)の流量で反応器に流通させながら、背圧弁で反応管内の圧力を2.5MPaに設定した。反応管部はGC(ガスクロマトグラフィ)オーブンを使用して外部から加熱し、温度を200℃に設定した。温度と圧力が安定してから17時間後の反応出口におけるオレイン酸メチルの収率は54%であり、グリセリンの収率は21%であった。更に50時間後のオレイン酸メチルの収率は53%であり、グリセリンの収率は18%であった。その後、160時間以上にわたって触媒活性の低下は見られなかった。
【0048】
実施例2
実施例1において、触媒として触媒Bを粉砕し、300〜850μmに分級したものを用い、触媒の容量を15mLとし、トリオレインとメタノールの流量を、各々、0.127mL/min、0.048mL/min(モル比=1/9、LHSV=0.70hr−1)とし、反応圧力を5.0MPaとした以外は実施例1と同様にして反応を行った。温度と圧力が安定してから17時間後の反応出口におけるオレイン酸メチルの収率は61%であり、グリセリンの収率は38%であった。更に50時間後のオレイン酸メチルの収率は62%であり、グリセリンの収率は40%であった。その後、160時間以上にわたって触媒活性の低下は見られなかった。
【0049】
比較例1
実施例1において、触媒として触媒Eを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。湿度と圧力が安定してから17時間後の反応出口におけるオレイン酸メチルの収率は14%であり、グリセリンの収率は3%であった。更に50時間後のオレイン酸メチルの収率は12%、グリセリンの収率は2%であり、触媒の活性が極めて低いことがわかる。
【0050】
実施例3
トリオレイン(60g)、メタノール(20g)及び触媒C(2.5g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を攪拌しながら反応温度200℃で24時間反応させたところ、オレイン酸メチル収率74%、グリセリン収率42%であった。
【0051】
実施例4
実施例3において、触媒として触媒Dを用いた以外は実施例3と同様にして反応を行った。オレイン酸メチル収率70%、グリセリン収率40%であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【図2】図2は、本発明のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法であって、
該触媒は、必須成分としてアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含む金属酸化物であり、該触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下である
ことを特徴とするグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有する
ことを特徴とする請求項1記載のグリセリン及び/若しくは脂肪酸アルキルエステルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−225353(P2006−225353A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43621(P2005−43621)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】