説明

グリセリン脱水用触媒、ならびに、この触媒を用いたアクロレインの製造方法、アクリル酸の製造方法および親水性樹脂の製造方法

【課題】副生成物の発生量を減らしつつ、アクロレインを長期間にわたり安定して製造することができるグリセリン脱水用触媒、ならびに、この触媒を用いたアクロレインの製造方法、アクリル酸の製造方法および親水性樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】グリセリン脱水用触媒は、リン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.02以上、2以下であるリン酸ホウ素塩を含有する。アクロレインの製造方法は、この触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する。アクリル酸の製造方法は、このアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する。親水性樹脂の製造方法は、このアクリル酸を含む単量体成分を重合して親水性樹脂を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンの脱水反応に用いられる触媒、ならびに、この触媒を用いたアクロレインの製造方法、得られたアクロレインを原料とするアクリル酸の製造方法、得られたアクリル酸を原料とする親水性樹脂の製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物油から製造されるバイオディーゼルは、化石燃料の代替燃料としてだけではなく、二酸化炭素の排出量が少ない点でも注目され、需要の増大が見込まれている。このバイオディーゼルを製造するとグリセリンが副生するため、その有効利用を図る必要がある。
【0003】
グリセリンの有効利用を図る一例として、グリセリンを原料にしてアクロレインを製造する方法がある。例えば、特許文献1〜3には、リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒を用いてアクロレインを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/119528号パンフレット
【特許文献2】特開2008−307521号公報
【特許文献3】特開2009−263284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のグリセリン脱水用触媒は、通常、リン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1であるリン酸ホウ素塩(BPO)を含有する。本発明者らは、これらのグリセリン脱水用触媒が比較的高いアクロレイン選択性を発現することを見出していたが、長期間の反応で炭素状物質が析出し、反応中の圧力損失が高くなり反応を継続することが難しくなる;アクロレイン選択率が70%程度であり、依然として不充分である;副生成物として、プロピオンアルデヒドが生成し、プロピオンアルデヒドは、アクロレインからアクリル酸を経て吸水性ポリマー(SAP;以下では「吸水性樹脂」ということがある。)を製造する際に臭気の原因物質(プロピオン酸)となる;などの問題点があった。
【0006】
このような状況の下、本発明が解決すべき課題は、副生成物の発生量を減らしつつ、アクロレインを長期間にわたり安定して製造することができるグリセリン脱水用触媒、ならびに、この触媒を用いたアクロレインの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討の結果、リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒を用いてアクロレインを製造するにあたり、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bを所定の範囲内に調整することにより、副生成物の発生量を減しつつ、アクロレインを長期間にわたり安定して製造することができることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒であって、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.02以上、2以下であることを特徴とするグリセリン脱水用触媒を提供する。この触媒において、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bは、好ましくは1.05以上、1.5以下である。
【0009】
また、本発明は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とするアクロレインの製造方法を提供する。この製造方法において、好ましくは、グリセリンガスを含有する反応ガスと触媒とを接触させる気相反応によりグリセリンを脱水させる。
【0010】
さらに、本発明は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とするアクリル酸の製造方法を提供する。
【0011】
さらにまた、本発明は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造し、得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合して親水性樹脂を製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とする親水性樹脂の製造方法を提供する。この製造方法において、親水性樹脂としては、例えば、吸水性樹脂および水溶性樹脂が挙げられる。この製造方法は、副生成物のうち、製造過程で臭気の原因物質(プロピオン酸)となるプロピオンアルデヒドの発生量が低減されるので、特に、吸水性樹脂の製造に有用である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、副生成物の発生量を減しつつ、アクロレインを長期間にわたり安定して製造することができるグリセリン脱水用触媒を提供することができる。この触媒を用いれば、グリセリンの脱水反応により、アクロレインを高収率で安定的かつ連続的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪グリセリン脱水用触媒≫
本発明のグリセリン脱水用触媒(以下では「本発明の触媒」ということがある。)は、リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒であって、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.02以上、2以下であることを特徴とする。なお、モル比P/Bは、リン酸ホウ素塩を調製する際に用いる原料化合物の仕込み量から算出された値を意味する。
【0014】
本発明の触媒において、リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bは、通常は1.02以上、2以下、好ましくは1.05以上、1.5以下である。モル比P/Bが適正な範囲から外れると、すなわちモル比P/Bが小さすぎても、あるいは大きすぎても、長期間の反応で炭素状物質が析出し、例えば、反応中の圧力損失が高くなり、反応の継続が難しくなることがある。また、例えば、アクロレイン選択率が低下することもある。
【0015】
本発明の触媒に含まれるリン酸ホウ素塩は、モル比P/Bが所定の範囲内であれば、特に限定されるものではなく、モル比P/Bが所定の範囲内であるリン酸ホウ素塩を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
リン酸ホウ素塩は、結晶構造を有することが好適である。リン酸ホウ素塩が結晶構造を有する場合には、連続的なグリセリンの脱水反応においても、触媒の活性低下の要因となるリン酸ホウ素塩への炭素質物質の付着が抑制される。リン酸ホウ素塩の結晶構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、正方晶系結晶、クリストバライト型結晶などが挙げられる。
【0017】
本発明の触媒は、リン酸ホウ素塩が担体に担持された担持型の触媒であってもよい。使用可能な担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの無機酸化物や複合酸化物;ゼオライトなどの結晶性メタロシリケート;ステンレス、アルミニウムなどの金属や合金;活性炭、炭化ケイ素などの無機物;などが挙げられる。また、触媒の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、球状、柱状、リング状、鞍状、ハニカム状、スポンジ状などが挙げられる。
【0018】
本発明の触媒は、モル比P/Bが所定の範囲内であるリン酸ホウ素塩を活性成分として含有していればよく、それ以外は特に限定されるものではない。なお、触媒に含有される活性成分が多いほど、アクロレインの工業的生産に適することから、本発明の触媒におけるリン酸ホウ素塩の含有量は、リン酸ホウ素塩を非担持型の触媒として用いる場合には、触媒100質量%に対して、好ましくは5〜100質量%、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。他方、リン酸ホウ素塩を担体型の触媒として用いる場合には、触媒100質量%に対して、好ましくは0.01〜70質量%、より好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは5〜50質量%である。
【0019】
≪グリセリン脱水用触媒の製造≫
本発明のグリセリン脱水用触媒は、リン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが所定の範囲内であるリン酸ホウ素塩を含有する。
【0020】
リン酸ホウ素塩は、濃縮法、沈殿法、共沈法、ゾルゲル法、水熱合成法などの従来公知の触媒調製法により調製することができる。なお、濃縮法は、原料化合物の水溶液を脱水濃縮する方法であり、触媒組成の制御が容易などの点において好適である。
【0021】
リン酸ホウ素塩の好適な調製法としては、例えば、HBO、HBO、H、HBO、HBO、(NHO・5B・8HOなどから選択された1種または2種以上のホウ素化合物と、HPO、HPO、HPO、H、H10、H10などのリン酸、(NHPO、(NHHPO、(NH)HPOなどのリン酸塩から選択された1種または2種以上のリン酸化合物とから調製された水溶液を脱水して固形物を得る方法が挙げられる。ホウ素化合物およびリン酸化合物の使用量は、リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが所定の範囲内になるように適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。
【0022】
結晶構造を有するリン酸ホウ素塩を得るためには、原料化合物から調製された溶液を脱水して得られた固形物を焼成すればよい。一般に、焼成温度が高いほど、また、焼成時間が長いほど、結晶化が進む傾向がある。焼成条件は、結晶構造に極端な変化がなければ、特に限定されるものではないが、例えば、空気雰囲気下、500〜1500℃で3〜15時間、好ましくは600〜1400℃で3〜10時間、より好ましくは700〜1200℃で3〜5時間焼成すればよい。
【0023】
ある実施態様では、本発明の触媒は、リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒であって、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.02以上、2以下となるような仕込み量でホウ素化合物とリン酸化合物とから調製された水溶液を脱水して固形物を得た後、この固形物を焼成することにより製造される。
【0024】
リン酸ホウ素塩を担体に担持させる場合には、例えば、リン酸ホウ素塩の原料化合物を含有する溶液を担体に含浸させて加熱する含浸法;担体を含有する液中でリン酸ホウ素塩を析出させるか、あるいは、リン酸ホウ素塩を析出させた液中に担体を添加する析出沈殿法;リン酸ホウ素塩を担体と混合する混練法;などを採用すればよい。
【0025】
以上の方法により、グリセリン脱水用触媒を製造することが可能である。製造されたグリセリン脱水用触媒は、グリセリンの脱水反応に用いられる触媒として有用である。従って、本発明のグリセリン脱水用触媒は、グリセリンの脱水反応により、アクロレインを製造する方法に用いることが当然可能である。
【0026】
≪アクロレインの製造方法≫
本発明によるアクロレインの製造方法(以下では「本発明の製造方法」ということがある。)は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とする。
【0027】
本発明の製造方法は、例えば、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器などから任意に選択された反応器内で、グリセリンガスを含有する反応ガスと触媒とを接触させる気相脱水反応により、アクロレインを製造するものである。なお、本発明の製造方法は、グリセリンガスを含有する反応ガスと触媒とを接触させる気相脱水反応に限定されるものではなく、グリセリン溶液と触媒とを接触させる液相脱水反応を適用することもできる。後者の場合、液相脱水反応は、固定床と蒸留塔を組み合わせた方法、攪拌槽と蒸留塔を組み合わせた方法、一段式の攪拌槽を用いる方法、多段式の攪拌槽を用いる方法、多段式の蒸留塔を用いる方法、および、これらを組み合わせた方法など、従来公知の様々な方法で実施することができる。これらの方法は、バッチ式または連続式のいずれでもあってもよいが、通常は連続式で実施される。
【0028】
以下では、アクロレインの工業的生産性に優れた気相脱水反応を利用するアクロレインの製造方法を例に挙げて説明する。
【0029】
反応ガスは、グリセリンのみで構成されるガスであっても、反応ガス中のグリセリン濃度を調整するために、グリセリンの脱水反応に不活性なガスを含有していてもよい。不活性ガスとしては、例えば、水蒸気、窒素ガス、二酸化炭素ガス、空気などが挙げられる。反応ガス中におけるグリセリン濃度は、通常は0.1〜100モル%、好ましくは1モル%以上であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率に行うために、より好ましくは5モル%以上である。
【0030】
本発明の触媒は、アクロレイン選択率が高いグリセリン脱水用触媒であるので、反応ガスの流量を大きく設定してもアクロレインを高収率で得ることができる。反応ガスの流量は、触媒の単位容積あたりのガス空間速度(GHSV)で表すと、通常は50〜20000hr−1、好ましくは10000hr−1以下であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率で行うために、より好ましくは4000hr−1以下である。
【0031】
反応温度は、通常は200〜500℃、好ましくは250〜450℃、より好ましくは300〜400℃である。
【0032】
反応ガスの圧力は、グリセリンが凝縮しない範囲の圧力であれば、特に限定されるものではないが、通常は0.001〜1MPaであるとよく、好ましくは0.01〜0.5MPa、より好ましくは0.3MPa以下である。
【0033】
グリセリンの脱水反応を連続的に行うと、触媒の表面に炭素状物質が付着して触媒の活性が低下することがある。このような場合には、触媒と再生用ガスとを高温で接触させる再生処理を行えば、触媒の表面に付着した炭素状物質を除去して触媒の活性を復活させることができる。再生用ガスとしては、例えば、酸素、酸素を含有する空気などの酸化性ガスが挙げられる。再生用ガスには、必要に応じて、窒素、二酸化炭素、水蒸気などの再生処理に不活性なガスを含有させてもよい。触媒と酸素との接触により、急激な発熱が懸念される場合には、その急激な発熱を抑制するためにも、不活性ガスを再生用ガスに含有させることが推奨される。再生処理の温度は、触媒を熱劣化させることなく、炭素状物質を除去できる温度であれば、特に限定されるものではないが、触媒製造の際の焼成温度以下であることが好ましい。
【0034】
グリセリンの脱水反応により得られた粗製アクロレインは、副生成物を含んでいる。そこで、得られた粗製アクロレインを精製することが好ましい。副生成物としては、プロピオンアルデヒド以外に、例えば、フェノール、1−ヒドロキシアセトン、アリルアルコールなどが挙げられる。粗製アクロレインを精製する際には、主として、フェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンを除去する。これらの副生成物を除去することにより、アクロレインからアクリル酸を製造する際におけるアクリル酸の収率が向上する。特に、1−ヒドロキシアセトンを除去すれば、酢酸の発生量を減らすことができる。
【0035】
アクリル酸の収率が向上することを考慮すれば、フェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンの除去量を多くすることが好ましいと考えられる。そこで、精製後のアクロレイン(A)とフェノール(Ph)との質量比Ph/Aは、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.4以下である。また精製後のアクロレイン(A)と1−ヒドロキシアセトン(H)との質量比H/Aは、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.1以下である。しかし、フェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンの除去量を多くすれば、アクロレインの損失が増大することやアクロレインの精製が煩雑になることがある。このことを考慮すれば、質量比Ph/Aおよび質量比H/Aは、好ましくは1×10−9以上、より好ましくは1×10−7以上、さらに好ましくは1×10−5以上である。
【0036】
アクロレイン、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンの沸点は、それぞれ、約53℃、約182℃および約146℃である。この沸点差を利用すれば、粗製アクロレインからフェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンを除去することができる。その方法としては、例えば、液状の粗製アクロレインを蒸留塔で処理して除去目的物よりも低沸点のアクロレインを分留する方法、ガス状の粗製アクロレインを凝集塔で処理してアクロレインよりも高沸点の除去目的物を凝集する方法、蒸散塔内に導入した粗製アクロレインにガスを吹き込んで除去目的物よりも低沸点のアクロレインを気化させる方法などが挙げられる。
【0037】
また、アクロレイン、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンの融点は、それぞれ、約−87℃、約43℃および約−17℃である。この融点差を利用すれば、粗製アクロレインからフェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンを除去することができる。その方法としては、例えば、粗製アクロレインを冷却してフェノールおよび/または1−ヒドロキシアセトンの析出物を除去する方法などが挙げられる。
【0038】
なお、プロピオンアルデヒドについては、その沸点が約48℃、融点が約−81℃であり、アクロレインとの沸点差または融点差を利用して、粗製アクロレインから除去することも可能であるが、アクロレインとの沸点差および融点差がいずれも小さいので、アクロレインの損失が多くなることがある。それゆえ、本発明の触媒は、グリセリンの脱水反応において、プロピオンアルデヒドの発生量を減らすことができるので、特に有用である。
【0039】
以上の方法により、アクロレインを製造することができる。かくして製造されたアクロレインは、すでに公知となっているように、アクリル酸、1,3−プロパンジオール、アリルアルコール、メチオニンなどのアクロレイン誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂;などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクロレインの製造方法は、アクロレイン誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0040】
≪アクリル酸の製造方法≫
本発明によるアクリル酸の製造方法は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とする。すなわち、本発明によるアクロレインの製造方法により得られたアクロレインは、アクリル酸の原料として用いられる。
【0041】
本発明によるアクロレインの製造方法において、バイオディーゼル由来のグリセリンを原料に用いた場合、得られた粗製アクロレインは、精製することなく、アクリル酸の製造に用いてもよいが、副生成物として、フェノール、1−ヒドロキシアセトン、メトキシアセトン、3−メトキシプロパナールなどを含んでおり、これらの副生成物が触媒活性の低下や収率の低下を引き起こす原因や、アクリル酸中に、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、3−メトキシプロピオン酸などの副生成物が含まれる原因となるので、精製してから用いてもよい。精製を行う場合は、従来公知の方法により行うことができ、反応組成物の凝集液や捕集溶剤を用いて得られた捕集液を蒸留方法や、特開2008−115103号公報記載の捕集塔および放散塔を備えた精製器を用いる方法が例示される。粗製アクロレインを精製しない場合は、後工程でアクリル酸を精製することにより、アクリル酸中の不純物を除去すればよい。工程を簡略化し、製造コストを低減できる点で、粗製アクロレインを精製しないで用いることが好ましい。
【0042】
アクリル酸を製造するには、アクロレインを含有するガス(以下では「アクロレイン含有ガス」ということがある。)と、アクロレインを酸化するための触媒(以下では「アクロレイン酸化用触媒」ということがある。)とを、固定床反応器、移動床反応器、流動床反応器などから任意に選択された酸化反応器内に共存させ、温度200〜400℃で、アクロレインを気相酸化することが好ましい。なお、アクロレインの酸化に伴って、プロピオンアルデヒドからプロピオン酸が生成するが、本発明の触媒を用いて得られたアクロレインは、プロピオンアルデヒドの含有量が低く抑えられているので、プロピオン酸の生成量は少ない。
【0043】
アクロレイン酸化用触媒としては、分子状酸素または分子状酸素含有ガスを用いたアクロレインの接触気相酸化によりアクリル酸を製造する場合に用いられる従来公知のアクロレイン酸化用触媒であれば、特に限定されるものではないが、例えば、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化銅などの金属酸化物の混合物や複合酸化物などが挙げられる。これらの触媒のうち、モリブデンおよびバナジウムを主成分とするモリブデン−バナジウム系触媒が特に好適である。また、アクロレイン酸化用触媒は、上記のような金属酸化物の混合物や複合酸化物が担体(例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどの無機酸化物や複合酸化物、炭化ケイ素などの無機物)に担持された担持型の触媒であってもよい。
【0044】
アクリル酸の製造に用いられるアクロレイン含有ガスに対する酸素の添加量は、酸素が多すぎると、アクロレインの燃焼が生じて爆発の危険を伴うおそれがあるので、その上限値を適宜設定する必要がある。
【0045】
アクロレインの気相酸化反応により、粗製アクリル酸を含有するガス状物が得られる。このガス状物を冷却凝縮や溶剤捕集などにより液化し、必要に応じて、この液化物に含まれる水や捕集溶剤を従来公知の方法(例えば、蒸留)により除去した後、晶析操作を施すことにより、高純度のアクリル酸を得ることができる。
【0046】
アクロレインの酸化反応により得られた粗製アクリル酸は、副生成物として、プロピオン酸を含んでいる。粗製アクリル酸中におけるプロピオン酸の含有量は、アクリル酸の原料であるアクロレインの製造段階で、本発明の触媒を用いているので、比較的少ない。しかし、アクリル酸から吸水性樹脂を製造する場合には、プロピオン酸が臭気の原因となるので、粗製アクリル酸からプロピオン酸を除去することが好ましい。そこで、粗製アクリル酸を精製してプロピオン酸を除去する。
【0047】
アクリル酸およびプロピオン酸の沸点は、いずれも、約141℃である。それゆえ、沸点差を利用して、粗製アクリル酸からプロピオン酸を除去することは困難である。これに対し、アクリル酸およびプロピオン酸の融点は、それぞれ、約12℃および約−21℃である。それゆえ、融点差を利用して、粗製アクリル酸からプロピオン酸を除去することは容易である。つまり、粗製アクリル酸からのプロピオン酸を除去するには、粗製アクリル酸に晶析操作を施せばよい。具体的には、粗製アクリル酸を冷却して、プロピオン酸よりも先に析出するアクリル酸を回収すればよい。この場合、粗製アクリル酸の冷却温度は、好ましくは−18℃〜10℃、より好ましくは4℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。なお、粗製アクリル酸が酢酸、アクロレイン、水などのプロピオン酸以外の不純物を含んでいる場合には、これらの不純物を蒸留などの従来公知の方法により除去した後、晶析操作によりプロピオン酸を除去することが好ましい。
【0048】
晶析操作は、粗製アクリル酸からプロピオン酸を分離することができる限り、特に限定されるものではなく、従来公知の方法、例えば、特開平9−227445号公報や特表2002−519402号公報に記載された方法を用いて行うことができる。
【0049】
晶析操作は、粗製アクリル酸を晶析装置に供給して結晶化させることにより、精製アクリル酸を得る工程である。なお、結晶化の方法としては、従来公知の結晶化方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、結晶化は、例えば、連続式または回分式の晶析装置を用いて、1段または2段以上で実施することができる。得られたアクリル酸の結晶は、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行うことにより、さらに純度の高い精製アクリル酸を得ることができる。
【0050】
連続式の晶析装置としては、例えば、結晶化部、固液分離部および結晶精製部が一体になった晶析装置(例えば、新日鐵化学社製のBMC(Backmixing Column Crystallizer)装置、月島機械社製の連続溶融精製システム)や、結晶化部(例えば、GMF GOUDA社製のCDC(Cooling Disk Crystallizer)装置)、固液分離部(例えば、遠心分離器、ベルトフィルター)および結晶精製部(例えば、呉羽テクノエンジ社製のKCP(Kureha Crystal Purifier)精製装置)を組み合わせた晶析装置などを用いることができる。
【0051】
回分式の晶析装置としては、例えば、Sulzer Chemtech社製の層結晶化装置(動的結晶化装置)、BEFS PROKEM社製の静的結晶化装置などを用いることができる。
【0052】
動的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクと、結晶器に粗製アクリル酸を供給する循環ポンプとを備え、結晶器の下部に設けた貯蔵器から循環ポンプにより粗製アクリル酸を結晶器の管内上部に移送できる動的結晶化装置を用いて晶析を行う方法である。また、静的結晶化とは、例えば、結晶化、発汗、融解を行うための温度制御機構を備えた管状の結晶器であり、下部に抜き出し弁を有する結晶器と、発汗後の母液を回収するタンクとを備えた静的結晶化装置を用いて晶析を行う方法である。
【0053】
具体的には、粗製アクリル酸を液相として結晶器に導入し、液相中のアクリル酸を冷却面(管壁面)に凝固・生成させる。冷却面に生成した固相の質量が、結晶器に導入した粗製アクリル酸の質量に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%になった段階で、直ちに、液相を結晶器から排出し、固相と液相とを分離する。液相の排出は、ポンプで汲み出す方式(動的結晶化)、結晶器から流出させる方式(静的結晶化)のいずれであってもよい。他方、固相は、結晶器から取り出した後、さらに純度を向上させるために、洗浄や発汗などの精製を行ってもよい。
【0054】
動的結晶化や静的結晶化を多段で行う場合、向流の原理を採用すれば、有利に実施することができる。このとき、各段階で結晶化されたアクリル酸は、残留母液から分離され、より高い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。他方、残留母液は、より低い純度を有するアクリル酸が生成する段階に供給される。
【0055】
なお、動的結晶化では、アクリル酸の純度が低くなると、結晶化が困難になるが、静的結晶化では、動的結晶化に比べて、残留母液が冷却面に接触する時間が長く、また、温度の影響が伝わり易いので、アクリル酸の純度が低下しても、結晶化が容易である。それゆえ、アクリル酸の回収率を向上させるために、動的結晶化における最終的な残留母液を静的結晶化に付して、さらに結晶化を行ってもよい。
【0056】
必要となる結晶化段数は、どの程度の純度が要求されるかに依存するが、高純度のアクリル酸を得るために必要な段数は、精製段階(動的結晶化)が通常1〜6回、好ましくは2〜5回、より好ましくは2〜4回であり、ストリッピング段階(動的結晶化および/または静的結晶化)が通常0〜5回、好ましくは0〜3回である。通常、供給される粗製アクリル酸より高い純度を有するアクリル酸が得られる段階は、すべて精製段階であり、それ以外の段階は、すべてストリッピング段階である。ストリッピング段階は、精製段階から残留母液に含まれるアクリル酸を回収するために実施される。なお、ストリッピング段階は、必ずしも設ける必要はなく、例えば、蒸留塔を用いて、晶析装置の残留母液から低沸点成分を分離する場合には、ストリッピング段階は省略してもよい。
【0057】
動的結晶化および静的結晶化のいずれを採用する場合であっても、晶析操作で得られるアクリル酸の結晶は、そのまま製品としてもよいし、必要に応じて、さらに洗浄や発汗などの精製を行ってから製品としてもよい。他方、晶析操作で排出される残留母液は、系外に取り出してもよい。
【0058】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、すでに公知となっているように、アクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂;などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0059】
≪親水性樹脂の製造方法≫
本発明による親水性樹脂の製造方法は、触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造し、得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合して親水性樹脂を製造する方法であって、前記触媒が上記のようなグリセリン脱水用触媒であることを特徴とする。すなわち、本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸は、吸水性樹脂および水溶性樹脂などの親水性樹脂の原料として用いられる。
【0060】
しかし、グリセリンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸と比較して、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸の不純物を多く含んでおり、これらの不純物は、親水性樹脂の臭気や着色の原因となることがある。それゆえ、得られたアクリル酸を精製することが重要となる。アクリル酸に含まれる不純物のうち、プロピオン酸は、アクリル酸と沸点が近いので、その含有量が多いと、蒸留によるアクリル酸の精製が困難になる。そこで、本発明による親水性樹脂の製造方法には、好ましくは晶析による精製を行ってプロピオン酸を除去したアクリル酸が好適に用いられる。
【0061】
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸を、吸水性樹脂または水溶性樹脂などの親水性樹脂を製造するための原料として用いた場合、重合反応を制御しやすく、得られた親水性樹脂の品質が安定し、吸水性能、無機材料の分散性能などの各種性能が改善される。
【0062】
吸水性樹脂を製造する場合には、例えば、本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸および/またはその塩を単量体成分の主成分(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)とし、さらに0.001〜5モル%(アクリル酸に対する値)程度の架橋剤、0.001〜2モル%(単量体成分に対する値)程度のラジカル重合開始剤を用いて、架橋重合させた後、乾燥・粉砕することにより、吸水性樹脂が得られる。
【0063】
ここで、吸水性樹脂とは、架橋構造を有する水膨潤性水不溶性のポリアクリル酸であって、自重の3倍以上、好ましくは10〜1000倍の純水または生理食塩水を吸水することにより、水溶性成分(水可溶分)が好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である水不溶性ヒドロゲルを生成するポリアクリル酸を意味する。このような吸水性樹脂の具体例や物性測定法は、例えば、米国特許明細書第6,107,358号、第6,174,978号、第6,241,928号などに開示されている。
【0064】
また、生産性向上の観点から好ましい製造方法は、例えば、米国特許明細書第6,867,269号、第6,906,159号、第7,091,253号など、ならびに、国際公開第01/038402号パンフレット、国際公開第2006/034806号パンフレットなどに開示されている。
【0065】
アクリル酸を原料として、中和、重合、乾燥などにより、吸水性樹脂を製造する一連の工程は、例えば、以下の通りである。
【0066】
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の一部は、ラインを介して、吸水性樹脂の製造プロセスに供給される。吸水性樹脂の製造プロセスにおいては、アクリル酸を中和工程、重合工程、乾燥工程に導入して、所望の処理を施すことにより、吸水性樹脂を製造する。各種物性の改善を目的として所望の処理を施してもよく、例えば、重合中または重合後に架橋工程を介在させてもよい。
【0067】
中和工程は、任意の工程であり、例えば、所定量の塩基性物質の粉末または水溶液と、アクリル酸やポリアクリル酸(塩)とを混合する方法が例示されるが、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではない。なお、中和工程は、重合前または重合後のいずれで行なってもよく、また、重合前後の両方で行なってもよい。アクリル酸やポリアクリル酸(塩)の中和に用いられる塩基性物質としては、例えば、炭酸(水素)塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンなど、従来公知の塩基性物質を適宜用いればよい。また、ポリアクリル酸の中和率は、特に限定されるものではなく、任意の中和率(例えば、30〜100モル%の範囲内における任意の値)となるように調整すればよい。
【0068】
重合工程における重合方法は、特に限定されるものではなく、ラジカル重合開始剤による重合、放射線重合、電子線や活性エネルギー線の照射による重合、光増感剤による紫外線重合など、従来公知の重合方法を用いればよい。また、重合開始剤、重合条件など各種条件については、任意に選択することができる。もちろん、必要に応じて、架橋剤や他の単量体、さらには水溶性連鎖移動剤や親水性高分子など、従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0069】
ラジカル重合開始剤による重合としては、例えば、水溶液重合法、逆相懸濁重合法などが挙げられる。ここで、水溶液重合法は、分散溶媒などを用いることなく、アクリル酸水溶液中のアクリル酸を重合する方法であり、例えば、米国特許明細書第4,625,001号、第4,873,299号、第4,286,082号、第4,973,632号、第4,985,518号、第5,124,416号、第5,250,640号、第5,264,495号、第5,145,906号、第5,380,808号など、ならびに、欧州特許公報第0 811 636号、第0 955 086号、第0 922 717号などに開示されている。また、逆相懸濁重合法は、アクリル酸水溶液を疎水性の有機溶媒に懸濁させた状態で、アクリル酸水溶液中のアクリル酸を重合する方法であり、例えば、米国特許明細書第4,093,776号、第4,367,323号、第4,446,261号、第4,683,274号、第5,244,735号などに開示されている。
【0070】
重合後のアクリル酸塩系ポリマー(すなわち、吸水性樹脂)は、乾燥工程に付される。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、熱風乾燥機、流動層乾燥機、ナウター式乾燥機など、従来公知の乾燥手段を用いて、所望の乾燥温度、好ましくは70〜230℃で、適宜乾燥させればよい。
【0071】
乾燥工程を経て得られた吸水性樹脂は、そのまま用いてもよく、さらに所望の形状に造粒・粉砕、表面架橋をしてから用いてもよく、還元剤、香料、バインダーなど、従来公知の添加剤を添加するなど、用途に応じた後処理を施してから用いてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0073】
まず、グリセリン脱水用触媒の製造例について説明する。なお、リン酸水溶液の濃度を表す「%」は、「質量%」を意味する。
【0074】
≪グリセリン脱水用触媒の製造例≫
≪実施例1≫
まず、ホウ酸169.67gと蒸留水1567.5gとの水溶液に、85%リン酸水溶液332.17gと蒸留水232.52gとの水溶液を添加して、混合溶液とした。この混合溶液を攪拌しながら、90℃で2時間加熱還流して、無色透明の混合溶液を得た。
【0075】
次いで、得られた混合溶液を、エバポレーターを用いて、0.005MPaの減圧条件下、60℃の湯浴上で脱水濃縮した。得られた濃縮物を、空気気流下、120℃で24時間乾燥させて、固形物を得た。
【0076】
最後に、得られた固形物を、空気雰囲気下、1000℃で5時間焼成した。得られた焼成物を、目開き0.7mmおよび2.0mmの篩を用いて篩い分けした。この0.7〜2.0mmの範囲に分級された焼成物をグリセリン脱水用触媒とした。
【0077】
≪実施例2≫
実施例1において、ホウ酸164.34gと蒸留水1564.1gとの水溶液に、85%リン酸水溶液337.05gと蒸留水235.93gとの水溶液を添加し、得られた混合溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を製造した。
【0078】
≪実施例3≫
実施例1において、ホウ酸154.61gと蒸留水1557.8gとの水溶液に、85%リン酸水溶液345.94gと蒸留水242.16gとの水溶液を添加し、得られた混合溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を製造した。
【0079】
≪実施例4≫
実施例1において、ホウ酸131.31gと蒸留水1542.9gとの水溶液に、85%リン酸水溶液367.25gと蒸留水257.07gとの水溶液を添加し、得られた混合溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を製造した。
【0080】
≪比較例1≫
実施例1において、ホウ酸197.94gと蒸留水1585.6gとの水溶液に、85%リン酸水溶液306.32gと蒸留水214.42gとの水溶液を添加し、得られた混合溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を製造した。
【0081】
≪比較例2≫
実施例1において、ホウ酸175.36gと蒸留水1571.1gとの水溶液に、85%リン酸水溶液326.96gと蒸留水228.87gとの水溶液を添加し、得られた混合溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を製造した。
【0082】
≪アクロレインの製造例≫
実施例1〜4および比較例1、2で製造した触媒を用いて、以下に示す常圧気相固定床流通反応形式により、グリセリンを脱水してアクロレインを製造した。
【0083】
まず、触媒15mLをステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)に充填して固定床反応器を準備し、この反応器を360℃の塩浴に浸漬した。その後、反応器内に窒素ガスを流量62mL/minで30分間流通させた後、80質量%グリセリン水溶液の気化ガスと窒素ガスとからなる反応ガス(反応ガス組成:グリセリン27モル%、水34モル%、窒素39モル%)を流量(GHSV)640hr−1で3時間流通させた。
【0084】
反応器内に反応ガスを流通させてから0.5〜1時間、1.5〜2時間、さらに2.5〜3時間の各30分間における流出ガスをアセトニトリル中に冷却吸収して捕集した。なお、以下では「捕集した流出ガスの冷却吸収物」を「流出物」ということがある。
【0085】
流出物の一部を採り、検出器にFIDを備えるガスクロマトグラフィー(GC)装置により、流出物の定性および定量分析を行った。GCによる定量分析には、内部標準法を採用した。GCによる定性分析の結果、グリセリン、アクロレインと共に、プロピオンアルデヒド、1−ヒドロキシアセトンなどの副生成物が検出された。また、定量分析結果から、グリセリン転化率(GLY転化率)、アクロレイン選択率(ACR選択率)、プロピオンアルデヒド選択率(PALD選択率)および1−ヒドロキシアセトン選択率(HDAC選択率)を算出した。これらの算出式は、以下の通りである。
【0086】
GLY転化率=(1−(流出物中のグリセリンのモル数)/(30分間で反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100;
ACR選択率=((アクロレインのモル数)/(30分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100/グリセリン転化率×100;
PALD選択率=((プロピオンアルデヒドのモル数)/(30分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100/グリセリン転化率×100;
HDAC選択率=(1−ヒドロキシアセトンのモル数)/(30分間に反応器に流入させたグリセリンのモル数))×100/グリセリン転化率×100。
【0087】
<反応結果>
各触媒のモル比P/Bと各触媒を用いてアクロレインを製造した際に得られた反応結果(最後の30分間のデータ)とを表1に示す。表1において、グリセリンはGLY、アクロレイン、プロピオンアルデヒドおよび1−ヒドロキシアセトンは、それぞれACR、PALDおよびHDACと略号で記した。また、触媒成分のモル比は、リン酸ホウ素塩を調製する際に用いた原料化合物の仕込み量から算出された値である。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から明らかなように、実施例1〜4および比較例2の結果を比較例1の結果と比較すると、モル比P/Bが1以上である触媒において、ACR選択率が向上することが確認できる。また、実施例1〜4の結果を比較例1、2の結果と比較すると、モル比P/Bが1より大きい触媒において、PALD選択率が低下することが確認できる。これらのことから、モル比P/Bが1より大きい触媒を用いることにより、副生成物の発生量を減しつつ、アクロレインを安定して製造することができると期待される。
【0090】
次に、上記したアクロレインの製造例に従って、反応時間を3時間で停止することなく継続してアクロレインを製造し、触媒の寿命を評価した。触媒寿命の評価時間は最大で48時間とした。
【0091】
≪実施例5≫
実施例1で製造した触媒を用いて、上記したアクロレインの製造例に従って、触媒の寿命を評価した。この触媒は、48時間にわたり継続してアクロレインの製造が可能であった。
【0092】
≪実施例6≫
実施例2で製造した触媒を用いて、上記したアクロレインの製造例に従って、触媒の寿命を評価した。この触媒は、48時間にわたり継続してアクロレインの製造が可能であった。
【0093】
≪実施例7≫
実施例4で製造した触媒を用いて、上記したアクロレインの製造例に従って、触媒の寿命を評価した。この触媒は、48時間にわたり継続してアクロレインの製造が可能であった。
【0094】
≪比較例3≫
比較例1で製造した触媒を用いて、上記したアクロレインの製造例に従って、触媒の寿命を評価した。この触媒は、反応時間が4.7時間を経過した時点で、急激な圧損上昇が生じ、アクロレインの製造が不可能になった。
【0095】
≪比較例4≫
比較例2で製造した触媒を用いて、上記したアクロレインの製造例に従って、触媒の寿命を評価した。この触媒は、反応時間の経過と共に、徐々に圧損上昇が生じ、反応時間が20時間を経過した時点で、アクロレインの製造が不可能になった。
【0096】
<反応結果>
得られた反応結果(各反応時間に至る直前の30分間のデータ)を表2に示す。表2において、グリセリンはGLY、アクロレイン、プロピオンアルデヒドおよび1−ヒドロキシアセトンは、それぞれACR、PALDおよびHDACと略号で記した。また、触媒成分のモル比は、リン酸ホウ素塩を調製する際に用いた原料化合物の仕込み量から算出された値である。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から明らかなように、実施例5〜7の結果を比較例3、4の結果と比較すると、モル比P/Bが1より大きい触媒において、反応を継続することが可能な時間が2倍以上長くなっていることが確認できる。このことから、モル比P/Bが1より大きい触媒を用いることにより、アクロレインを長期間にわたり安定して製造することができると期待される。
【0099】
≪アクリル酸の製造例≫
下記に示す工程で、グリセリンからアクリル酸の製造を行った。
(1)前段反応工程:グリセリンを脱水してプロピオンアルデヒドとアクロレインとを含む反応生成物を得た。
(2)前段精製工程:(1)で得られた反応生成物を精製して後段反応に供することができるプロピオンアルデヒドとアクロレインとを含む組成物を得た。
(3)後段反応工程:(2)で得られた組成物を酸化反応に供して粗製アクリル酸を含む反応生成物を得た。
(4)後段精製工程:(3)で得られた反応生成物を蒸留して粗製アクリル酸を得た後、この粗製アクリル酸を晶析により精製してアクリル酸を得た。
【0100】
以下、上記の各工程を順に説明する。
(1)前段反応工程
(前段反応触媒)
前段反応に用いた触媒として、実施例2に示した触媒を用いた。
【0101】
(脱水反応)
上記の触媒50mLをステンレス製反応管(内径25mm、長さ500mm)に充填、固定床反応器として準備し、この反応器を360℃のナイターバス中に設置した。
【0102】
反応器出口部には、コンデンサーを設け、約4℃の冷却水を流した。反応系を真空ポンプで62kPaまで減圧し、圧力の調整には、真空一定装置を用いた。その後、グリセリン含有ガスを反応器内に流通させた。ここでグリセリン含有ガスとして、グリセリン44容量%、水56容量%からなる混合ガスを、ガス空間速度(GHSV)420hr−1の流量で流通させた。グリセリン含有ガスの流通開始から断続的に20時間供給し、反応器から流出するガスをコンデンサーで全て凝縮させ、氷浴で冷却した受器に回収した。回収された反応生成物の重量は939gであり、供給原料の99質量%であった。
【0103】
得られた反応生成物をガスクロマトグラフィーで定量分析した結果、反応生成物中、アクロレイン36質量%、プロピオンアルデヒド0.3質量%、1−ヒドロキシアセトン6.6質量%、水45質量%、重質分12質量%であった。
【0104】
(2)前段精製工程
(1)で得られた反応生成物を0.12kg/hで薄膜蒸留装置に供給し、常圧、液膜の壁温85℃、翼回転速度300rpmの条件で運転し、塔頂から、アクロレイン42質量%、プロピオンアルデヒド0.6質量%、1−ヒドロキシアセトン4質量%、水51質量%を含む留出液(すなわち、プロピオンアルデヒドとアクロレインとを含む組成物)を0.11kg/hで得た。
【0105】
(3)後段反応工程
(後段反応触媒)
後段反応に用いた酸化触媒は、以下のように調製した。加熱攪拌している水2500mLにパラモリブデン酸アンモニウム350g、メタバナジン酸アンモニウム116gおよびパラタングステン酸アンモニウム44.6gを溶解させた後、三酸化バナジウム1.5gを添加した。これとは別に、加熱攪拌している水750mLに硝酸銅87.8gを溶解させた後、酸化第一銅1.2gおよび三酸化アンチモン29gを添加した。これら2つの液を混合した後、担体である直径3〜5mmの球状α−アルミナ1000mLを加え、攪拌しながら蒸発乾固させて触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を400℃で6時間焼成してアクリル酸製造用酸化触媒を調製した。なお、アクリル酸製造用酸化触媒の担持金属組成は、Mo126.1Cu2.3Sb1.2である。
【0106】
(酸化反応)
上記の触媒50mLを充填したステンレス製反応管(内径25mm、長さ500mm)を固定床酸化反応器として準備し、この反応器を260℃のナイターバス中に設置した。その後、(2)で得られた組成物を反応器に供給した。反応器出口部分には、コンデンサーを設け、約15℃の冷却水を流した。ここで、プロピオンアルデヒド含有ガスとして、アクロレイン6.5容量%、プロピオンアルデヒド0.06容量%、1−ヒドロキシアセトン0.45容量%、酸素6容量%、水13容量%、窒素74容量%からなる混合ガスを、空間速度(GHSV)1900hr−1の流量で流通させた。プロピオンアルデヒドとアクロレインとを含む組成物を反応開始から断続的に22時間供給し、反応器から流出するガスをコンデンサーで凝縮させ、氷浴で冷却した受器およびその後に設けたコールドトラップに回収した。
【0107】
回収された粗製アクリル酸を含む反応生成物の重量は614gであり、供給原料の95質量%であった。ガスクロマトグラフィーで定量分析した結果、反応生成物中、粗製アクリル酸62質量%、プロピオン酸0.01質量%、ギ酸1質量%、酢酸3質量%、水34質量%であった。
【0108】
グリセリンを原料とするアクリル酸の製造においては、プロピレンを原料とする従来公知のアクリル酸の製造方法に比べて、副生成物であるプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸の副生量が増加することがわかる。
【0109】
(4)後段精製工程
(3)で得られた反応生成物を段数10の蒸留塔の5段目に0.2kg/hで供給し、還流比1、塔頂からの留出量0.070kg/hの条件で連続蒸留を行った。その結果、塔底より、アクリル酸88.1質量%、プロピオン酸0.01質量%、酢酸2.3質量%、ギ酸0.04質量%、水9.5質量%の組成を有する粗製アクリル酸を0.130kg/hで得た。この粗製アクリル酸を、母液として、室温(約15℃)〜−5.8℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。分離した結晶を融解させてから、一部をサンプリングして分析し、残りを母液として室温(約15℃)〜4.6℃の温度範囲まで冷却して結晶を析出させ、同温度で保持した後、吸引濾過により結晶を液体から分離する晶析操作を行った。合計2回の晶析操作により、最終的に、純度99.9質量%以上のアクリル酸を得ることができた。結果を表3に示す。なお、プロピオン酸および酢酸の合計量は、検出限界(1質量ppm)以下であった。
【0110】
【表3】

【0111】
≪吸水性樹脂の製造例≫
アクリル酸の製造例において、2回目の晶析操作で得られた酢酸およびプロピオン酸の合計量が200質量ppmのアクリル酸に重合禁止剤を60質量ppm含有するアクリル酸を調製した。別途、鉄を0.2質量ppm含有する水酸化ナトリウムから得られたNaOH水溶液に対して、上記のアクリル酸を冷却下(液温35℃)で添加することにより、75モル%中和を行なった。アクリル酸や水中の鉄は検出限界以下であり、よって、単量体の鉄含有量は計算値で約0.07質量ppmであった。
【0112】
得られた、中和率75モル%、濃度35質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレート0.05モル%(アクリル酸ナトリウム水溶液に対する値)を溶解させることにより、単量体成分を得た。この単量体成分350gを容積1Lの円筒容器に入れ、2L/minの割合で窒素を吹き込んで、20分間脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12g/モル(単量体成分に対する値)およびL−アスコルビン酸0.005g/モル(単量体成分に対する値)の水溶液をスターラー攪拌下で添加して、重合を開始させた。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行なった。単量体成分の温度が約15分(重合ピーク時間)後にピーク重合温度108℃を示した後、30分間重合を進行させた。その後、重合物を円筒容器から取り出し、含水ゲル状架橋重合体を得た。
【0113】
得られた含水ゲル状架橋重合体は、45℃でミートチョッパー(孔径8mm)により細分化した後、170℃の熱風乾燥機で、20分間加熱乾燥させた。さらに、乾燥重合体(固形分:約95%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で粒径600〜300μmに分級することにより、ポリアクリル酸系吸水性樹脂(中和率75%)を得た。
【0114】
本発明によるアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性は、プロピレンを原料とするアクリル酸の製造方法により得られたアクリル酸の重合性と同等であり、得られた吸水性樹脂は、臭気がなく、物性も同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、グリセリンからアクロレインを高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にするので、バイオディーゼルの製造時に副生するグリセリンの有効利用を図るうえでの重要な技術として、バイオディーセルの普及ならびに地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸ホウ素塩を含有するグリセリン脱水用触媒であって、前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.02以上、2以下であることを特徴とするグリセリン脱水用触媒。
【請求項2】
前記リン酸ホウ素塩におけるリン(P)とホウ素(B)とのモル比P/Bが1.05以上、1.5以下である請求項1に記載のグリセリン脱水用触媒。
【請求項3】
触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造する方法であって、前記触媒が請求項1または2に記載のグリセリン脱水用触媒であることを特徴とするアクロレインの製造方法。
【請求項4】
グリセリンガスを含有する反応ガスと触媒とを接触させる気相反応によりグリセリンを脱水させる請求項3に記載のアクロレインの製造方法。
【請求項5】
触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する方法であって、前記触媒が請求項1または2に記載のグリセリン脱水用触媒であることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
触媒の存在下においてグリセリンを脱水させてアクロレインを製造した後、得られたアクロレインを酸化してアクリル酸を製造し、得られたアクリル酸を含む単量体成分を重合して親水性樹脂を製造する方法であって、前記触媒が請求項1または2に記載のグリセリン脱水用触媒であることを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記親水性樹脂が吸水性樹脂である請求項6に記載の親水性樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−224537(P2011−224537A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212528(P2010−212528)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】