説明

グリッド採取用治具及びその治具を用いたグリッドの採取方法

【課題】電子顕微鏡用薄片試料保持用グリッドの採取を容易にし、グリッドを試料ホルダーの所定の位置に的確、安全に載置できるためのグリッド採取用治具およびそれを用いたグリッド採取方法を提供する。
【解決手段】芯部2とその芯部の周囲に筒状部3を備え、その芯部の先端に粘着層1を備える治具を用いて、その芯部を筒状部から突出させた状態でグリッド5を付着させ、次に芯部の先端を筒状部内部にもどすことにより芯部に付着したグリッドを治具から外すことができ試料ホルダーの所定の位置に容易に載置することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡などを用いた分析分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡、特に透過電子顕微鏡(TEM)では、試料を電子線が透過する程度の厚みに薄片化する必要があり、様々な薄片化方法が用いられてきた。薄片化方法としては、乳鉢で試料を粉砕する粉砕法や、研磨とイオンミリングを用いたイオン研磨法、断面切削装置ウルトラミクロトームを用いたミクロトーム法や、集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いた薄片加工方法、電解液中で試料を溶解させていく電解研磨法、酸やアルカリでエッチングする化学エッチング法などが主な薄片化方法としておこなわれている。
【0003】
透過電子顕微鏡(TEM)では、試料を電子線が通過する程度の厚み、一般的には、0.1μm以下にするため、直接試料を保持してのハンドリングが大変困難となる。そのため、金属やカーボンでつくられた厚み20〜30μm程度の箔に試料薄片をファンデルワールス力やデポジション膜などにより接着させ、グリッドを保持することで試料をハンドリングする。一般的には、グリッドのハンドリングは、先の鋭利で密着性の高いピンセットでおこなう。
【0004】
グリッド薄膜には様々な形が存在する。円形になっており、中心部が単孔であり、電子線が通過する程度の超薄膜である支持膜が形成されたもの、多角形や円などのメッシュ状であるもの、支持膜が形成され、多角や円などのメッシュ状であるもの、半円形で両側に突起のあるもの、半円形で両側と内部に微細な柱が形成されたものなどが存在する。
【0005】
メッシュの素材は、複数あり、Cu、Mo、Pt、SUS、Ni、Au、Be、Al、C、ナイロン製などが市販されている。いずれも顕微鏡用試料ホルダーに合う径になっており、約3mm直径である。電子線の透過する径は孔の種類によるが、約1mm〜2mmであり、透過できない箔の縁部分が約1mm〜2mmとなる。この電子線の通過できない箇所をピンセットで保持してハンドリングすることとなる。
【0006】
ウルトラミクロトームなどを用いた薄片作成では、切削にダイヤモンドナイフを用いる。先端にダイヤモンドナイフがついており、ナイフ背面がナイフボートと呼ばれる水溜りのできる凹みになっている。水溜り部分に切削した薄片が浮き、その薄片をグリッド支持膜ですくい上げ、または垂直に降ろし、付着させ、試料を支持膜上に固定させる。乾燥のため、グリッドを平置きすることがある。
【0007】
集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いる場合は、Gaイオンビームで加工された試料薄片を装置内で半円形のグリッドにデポジションなどにより接着させることがある。FIB装置内にTEMの試料ホルダーごとグリッドを設置できるものも存在するが、垂直に固定させたグリッドをFIB装置外で外し、グリッドを試料ホルダーに設置するものも存在する。また、薄片を装置外に取り出し、ガラスプローブにて薄片を支持膜付きグリッド上にファンデルワールス力で付着させる方法もあり、付着の際も、グリッドが平置きされることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
電子顕微鏡研究者のためのウルトラミクロトーム技法Q&A、朝倉健太郎、広畑泰久共編アグネ承風社。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来一般でおこなわれてきたグリッドをピンセットにおいて保持し、電子顕微鏡の試料ホルダーに置き換える作業は、神経を使う作業であり、周囲の環境、作業者の状態などにより、所定位置に試料グリッドを設置できない場合がある。
【0010】
特に全グリッド面が下面と接した平置きの状態から採取する場合、ピンセット先端をグリッド下面に潜り込ませなければならず、片側でグリッド縁を抑え、グリッドを傾けたとしても、グリッドが飛んだり、所定位置より落下したり、グリッド自体を曲げてしまうこともある。落下により試料面に異物が付着し、特性X線を利用した電子顕微鏡での元素分析ができなくなる場合もある。また、グリッドが曲がることにより、試料薄片も曲がり、良好な像が取得できなくなる場合もある。また、飛んだグリッドの行方が分からなくなり、分析不可となる場合もある。検体が1試料のみしか存在しないものを失うと、やり直しができないため、薄片加工を含め、ハンドリングは非常に重要である。
【0011】
本発明は、ハンドリングに慣れていない初心者や手元が狂い易くなる疲労時においても、グリッド箔のハンドリングミスを防ぎ、容易にグリッドを電子顕微鏡の試料ホルダーに載置することが可能な電子顕微鏡用薄片保持用グリッドの採取用治具及びその冶具を用いたグリッド採取方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、第一の発明としては、電子顕微鏡用薄片保持用グリッドを試料ホルダーに載置する冶具であって、芯部と該芯部の周囲に筒状部を備え、該芯部の先端に粘着層を備え、該芯部が筒状部に対して、該芯部の先端を筒状部に対して突出させる状態から該芯部の先端を筒状部内部におさめる状態まで移動可能であることを特徴とするグリッド採取用治具である。
【0013】
第二の発明としては、電子顕微鏡用薄片保持用グリッドの採取方法であって、芯部と該芯部の周囲に筒状部を備え該芯部の先端に粘着層を備える治具の、該芯部先端の粘着層とグリッドを前記芯部を筒状部から突出させた状態で付着させる工程と、前記治具の芯部の先端を筒状部内部に移動させることにより前記芯部に付着したグリッドを前記治具から外す工程を備えることを特徴とするグリッド採取方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電子顕微鏡用薄片保持用グリッドを試料ホルダーに載置するグリッド採取用治具及びそれを用いた採取方法によって、グリッドが平置きの状態であっても治具の芯部先端の粘着層により簡単にグリッド箔を持ち上げることができ、また、電子顕微鏡試料ホルダーの所定位置上で治具の芯部先端を筒状部内部に移動させることにより、グリッドを容易に治具からとり外すことができ、グリッドを試料ホルダーの所定の位置に置くことができるという長所を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】代表的なメッシュグリッド
【図2】グリッド採取用冶具の断面図
【図3】粘着層先端部
【図4】(図4a)グリッド採取用冶具の先端の粘着層部位がスライドする模式(図4b)グリッド採取用冶具の先端の筒状部位がスライドする模式図
【図5】(図5a)グリッドを粘着層にて付着させた模式図(図5b)グリッドを筒上部位にて離脱させた模式図
【図6】グリッドを粘着層に付着させる際の概略斜視図
【図7】粘着層を保持する先端部にスプリングを用いたグリッド採取用冶具
【発明を実施するための形態】
【0016】
第一の発明は、電子顕微鏡用薄片保持用グリッドを試料ホルダーに載置する冶具であって、その冶具は(図1)に示すようなペン型であり、芯部と該芯部の周囲に筒状部を備える。そして、芯部の先端には粘着層を備える。芯部は筒状部に対して移動可能になっている。芯部を移動することにより、芯部は筒状部から突出させることができ、また、芯部を筒状部内に収納させることができるものである。
【0017】
電子顕微鏡用薄片保持用グリッドは、円板状であり、中央がメッシュ状になっている(図1)。薄片保持用グリッドはCu、Mo、Pt、SUS、Ni、Au、Be、Al、C、ナイロン製などであり、薄片保持用グリッドの厚みは20μm〜30μm、外径は3mmである。使用時は、グリッド表面に観察試料を載置した状態で、電子顕微鏡の試料ホルダーに設置する必要がある。
【0018】
電子顕微鏡用薄片保持グリッドは折れ曲がりやすく、電子顕微鏡の試料ホルダーに置き換える際に破損しやすい。また、グリッドの中央は電子顕微鏡用薄片が載置されるため、グリッドの移動の際には、グリッドの中央部ではなく端部を固定して移動する必要がある。
【0019】
(図5)に、本発明の電子顕微鏡用薄片グリッドの採取方法の模式図を示した。本発明の採取方法にあっては、該芯部先端の粘着層とグリッドを前記芯部を筒状部から突出させた状態で付着させる(図5a)。そして、治具の先端にグリッドを付着させた状態でグリッドを移動させる。そして、治具の芯部の先端を筒状部内部に移動させることにより前記芯部に付着したグリッドを前記治具から外す(図5b)。以上の工程により、グリッドを破損させず、より確実にグリッドを所定の位置に移動させることができる。
【0020】
次に本発明の治具について詳細に説明する。
【0021】
粘着層の径L1はグリッドの大きさを考慮すると、0.3mm以上0.5mm以下であることが望ましい。粘着層の径L1が0.5mmを超える場合にあっては、微小なグリッド端部のみに接着させるのが困難になる。一方、粘着層の径L1は0.3mmに満たない場合は、グリッドの端に治具先端の粘着層を接触させた際に十分な接着力を得ることができず、治具先端にグリッドを付着することができなくなってしまう場合がある。
【0022】
粘着層としては、グリッドを複数回着脱しても粘着力が維持される材料を選択することが、粘着層先端を交換する作業が省略できるため望ましい。粘着層の材料としては、液状、ゲル状の接着剤ではグリッド試料または、周囲の試料ホルダーなどを汚染する危険があるため、固体の接着性素材が望ましい。
例えば、粘着層の材料としては粘着合成ゴムなどが望ましく、シリコーンが含まれないゴムの方が汚染しないため望ましい。
【0023】
また、粘着層の粘着力は40hPa以上80hPa以下の範囲内であることが望ましい。接着力が強すぎると先端部をスライドさせてグリッドを離脱させる際にグリッドが変形、または急に外れて飛ぶ危険がある。また弱すぎるとグリッドを保持しきれなく、移動途中にグリッドが落下する危険がある。また、先端は(図3)に示すように球状であっても鋭利な形状でもよい。
【0024】
本発明の治具において粘着層を固定する芯部は、径L2が0.5mm以上1mm以下で
あることが好ましい。径L2が0.5mmに満たない場合にあっては芯が折れやすくなってしまう。一方、径L2が1mmを超える場合にあっては、その分だけ後述する筒状部の内径L3が大きくなってしまうため、粘着層先端に付着したグリッドを確実に取り外すことができなくなる場合がある。芯部の材料としては、公知の金属材料やプラスチック材料を用いることができる。
【0025】
本発明の治具において、粘着部を有する芯部周囲に芯部より一回り大きい筒状部を備える。筒状部の内径L3は1mm以上2mm以下の範囲内であることが好ましい。筒状部の内径L3が2mm以上であると、スライドさせた際にグリッド箔を離れなくなってしまうことがある。一方、内径1mm以下の筒状部とした際には、その分だけ芯部の径L2を小さくする必要があり、芯部が折れやすくなってしまう。また、筒状部の材料も、金属製であってもよいし、プラスチック製であってもよい。また、本発明の治具はハンドリングを考慮すると、シャープペンやボールペンと同程度の大きさであることが好ましく、筒状部の長さHは100mm以上150mm以下の範囲内であることが好ましい。また筒状部の外径L4は1.5mm以上3mm以下の範囲内であることが好ましい。筒状部の材料としては、公知の金属材料やプラスチック材料を用いることができる。また、筒状部の先端は、粘着層先端に付着したグリッドを取り外す際にグリッドを引っ掛けるため、グリッドが破損しないように曲面で形成することが好ましい。
【0026】
なお、本発明の治具においては、グリッドを先端の粘着層に付着させる際の芯部を筒状部から突出させた状態では、芯部は筒状部の先端に対して1mm以上10mm以下の範囲内で突出させることが好ましい。また、付着したグリッドを粘着層から取り外す際の、治具の芯部の先端を筒状部内部におさめる状態では、芯部は筒状部の先端から、0.5mm以上20mm以下の範囲内で収納させることが好ましい。したがって、芯部は筒状部に対して少なくとも上記範囲内で移動可能となっていることが好ましい。
【0027】
筒状部と粘着層を備える先端部を相互にスライドさせ、筒状部内に芯部を収納することにより付着しているグリッドを離脱させることができる。(図4a)に示すように粘着部の棒が動き、筒内へ引き込まれる方法でも、(図4b)に示すように粘着部の棒が固定されて筒が動く方法でもよい。いずれも、動く側に指で押さえられる突起が必要となる。突起は指で扱いやすな曲線的なものが望ましい。また、スライドさせる際にスプリングを用いると、引き込みの動作を片手で行いやすくなる。粘着層を支える先端部の材料は金属製であってもプラスチック製であってもよい。しかし、先端部、筒状部は、帯電が生じないことがのぞましく、プラスチック製の場合は、帯電防止材などが含有された材料であることが望ましい。帯電が生じると、グリッドがファンデルワールス力で付着し、離れない場合がある。
【0028】
グリッドの採取方法としては、半円状、または円状のグリッドにおいて、試料が存在しない金属枠部分の外側に冶具の粘着部先端を軽く押し当てグリッドを接着させる。(図6)のように、グリッド面に対し、真上、または斜め上から付着させるのが望ましい。グリッド面に対し、平行な方向から粘着部を押し当てると、粘着部の極端に接触面が小さくなり、うまく固定されず、移動時に落下する危険がある。その後、(図5a)、(図5b)に示すように試料ホルダー上など所定位置にて粘着部、または筒をゆっくりとスライドさせ、グリッドを離脱する。
【実施例】
【0029】
直径1mmの筒中に先端に鋭利な粘着部をもち、根元にスプリングが設置された針棒(直径0.5mm)(図7)があるグリッド採取用冶具を持ち、冶具後方にある突起部を抑え、筒中から先端に粘着部のある針棒をスライドさせて出し、平置きした銅製円形グリッドの端約0.5mmの箇所に粘着部を軽く押し当て、グリッドを付着させた。そののち、
試料ホルダー上付近までグリッドを持って行き、粘着棒と連動する突起部を抑えながら、ゆっくりと粘着部を筒の中に引き込む。粘着部がひきこまれた際、グリッド枠が離脱し、試料ホルダーの所定位置に置くことができた。
半円形のグリッドでは、試料の存在しない半円状の金属箔部分に粘着部を押し当て、同様にゆっくりと粘着部を筒の中に引き込み、試料ホルダーの所定位置に置くことが出来た。
【符号の説明】
【0030】
1・・・粘着層。
2・・・粘着層を保持する先端部。
3・・・外周の筒部。
4・・・粘着層を保持する先端部と連動する部分。筒状部より長い部分。
5・・・TEMグリッド。
6・・・先端部に付属のスプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡用薄片試料保持用グリッドを試料ホルダーに載置する冶具であって、芯部と該芯部の周囲に筒状部を備え、該芯部の先端に粘着層を備え、該芯部の先端を筒状部に対して突出させる状態から該芯部の先端を筒状部内部におさめる状態まで移動可能であることを特徴とするグリッド採取用治具。
【請求項2】
電子顕微鏡用薄片試料保持用グリッドの採取方法であって、芯部と該芯部の周囲に筒状部を備え該芯部の先端に粘着層を備える治具の、該芯部先端の粘着層とグリッドを前記芯部を筒状部から突出させた状態で付着させる工程と、前記治具の芯部の先端を筒状部内部に移動させることにより前記芯部に付着したグリッドを前記治具から外す工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のグリッド採取用治具を用いたグリッド採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−68033(P2012−68033A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210594(P2010−210594)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】