説明

グリースの顕微鏡観察方法

【課題】グリースを2枚の透明な板に挟むことで安定かつ簡易的に評価することのできるグリースの顕微鏡観察方法を提供する。
【解決手段】グリース中の金属石鹸粒子の顕微鏡観察方法において、グリースを透明な2枚の板の間に所定の強度の力で挟み、微分干渉もしくは偏光機能を有した光学顕微鏡で観察する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡を用いて、グリース中の金属石鹸粒子の粒子径や分散状態を観察する方法において、グリースを2枚の透明な板に挟み、金属石鹸の性状を安定かつ簡易的に評価することのできるグリースの顕微鏡観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、基油となる潤滑油に増ちょう剤や添加物を分散させた半固形の潤滑剤である。この中で増ちょう剤は主に金属石鹸が使われ、種類によりちょう度、潤滑性、耐熱性、耐水性などの特性が変化する。金属石鹸は、棒状微結晶繊維の「金属石鹸ミセル」になっている場合が多く、水溶性のミセルでは球状の「集合体」を作るのが一般的である。繊維状のミセルは、網の目のような構造になり、その隙間に基油のオイル分を抱き込んで固体−半固体状になっている。
【0003】
ミセル間同士は「ファンデルワールス力」が働き、小さい剪断力では構造が崩れないため、オイルと異なるレオロジー特性になる。金属石鹸粒子の大きさやその分散状態は、グリースの特性を左右している。金属石鹸粒子の大きさやその分散状態が適当でないと、実際にベアリング中で力が加わった際、振動や騒音を発生する原因となる。したがって、グリースを開発する場合は、金属石鹸粒子の大きさやその分散状態を制御する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属石鹸粒子の大きさはグリースを合成する前に走査電子顕微鏡などで確認しているが、合成の際にミキサーで大きな剪断力を加えて混練するため元の大きさを維持しているかは不明であった。また、グリース中での分散状態を光学顕微鏡で見て視覚的に観察する手法は一般的に行われていたが、グリースの種類によっては観察が困難であったり、観察者の違いにより結果ばらつくなど、これまで安定的に観察する手法は確立されていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、グリースを2枚の透明な板に挟み、金属石鹸の性状を安定かつ簡易的に評価することのできるグリースの顕微鏡観察方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、グリース中の金属石鹸粒子の顕微鏡観察方法において、グリースを透明な2枚の板の間に所定の強度の力で挟み、光学顕微鏡で観察することを特徴とするグリースの顕微鏡観察方法である。更に、 前記透明板を、少なくとも1個以上のクリップで固定することを特徴とする請求項1に記載のグリースの顕微鏡観察方法である。更に、前記金属石鹸粒子が、アルカリ金属石鹸、アルカリ土類金属石鹸、アルミニウム金属石鹸、カルシウム石鹸、マグネシウム石鹸、脂肪酸金属塩、または12−ヒドロキシステアレートであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のグリースの顕微鏡観察方法である。更に、前記透明板が、ガラス製、樹脂製であることを特徴とする請求項1、2あるいは3に記載のグリースの顕微鏡観察方法である。更に、前記観察において、偏光機能もしくは微分干渉機能を搭載した光学顕微鏡を用いることを特徴とする請求項1、2.3、あるいは4に記載のグリースの顕微鏡観察方法である。
【0007】
上記課題を解決するための本発明の方法は、グリースを2枚の透明な板に挟み、光学顕微鏡で観察するものである。つまり、観察するグリースを適量透明な板(スライドガラス)(例えば、縦:26mm、横:76mm、厚さ:0.8mm)の上に載せ、もう一枚の透明な板で挟み、適当な力でグリースを伸ばすことにより観察試料を作製しこの試料を光学顕微鏡で観察する。この時、グリースを伸ばす際に加える力は金属石鹸粒子が潰れてしまわない程度の力を加える必要がある。
【0008】
グリースの量や硬さにより異なるが10kg/mm以下(好ましくは、0.5kg/mm〜10kg/mm)であると良い。
また、そのままではグリースの弾性により元に戻ろうとしてグリース層が厚くなり、観察像の鮮明さが無くなったり、伸ばされたグリース中に気泡が入り込むため、少なくとも一個以上のクリップで二枚の透明な板を挟んでおく方がより良い。クリップは、金属石鹸を潰さない程度の力で挟むことができれば特に限定されないが、事務用ゼムクリップ、ヘアピンなどは安価であり良い。
観察に用いる光学顕微鏡は、一般に市販されている生物顕微鏡、工業顕微鏡などであれば特に限定されないが、微分干渉もしくは偏光機能を有し、対物レンズが×100程度の光学顕微鏡の方が金属石鹸粒子をより鮮明に観察することが可能である。
【0009】
観察できる金属石鹸の種類は、アルカリ金属石鹸 、アルカリ土類金属石鹸 またはアルミニウム金属石鹸、カルシウム石鹸、マグネシウム石鹸、脂肪酸金属塩、12−ヒドロキシステアレートなどがある。
【0010】
本発明で使用する透明な板は、材質がガラス製もしくは樹脂製であり、観察に耐えうる強度、光の透過性があれば特に限定されない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるグリースの顕微鏡観察方法を用いれば、安定かつ簡易的にグリース中の金属石鹸粒子の大きさや分散状態を評価することのできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、グリース中の金属石鹸粒子の顕微鏡観察方法において、グリースを透明な2枚の板の間に所定の強度の力で挟み、微分干渉もしくは偏光機能を有した光学顕微鏡で観察する。
【実施例】
【0013】
次に本発明の実施例と比較例について述べる。図1はグリースの顕微鏡による観察手順を示す工程図である。図1において、(a)に示すように、グリース10を1枚の透明板12に載せる。次に、その上に他の1枚の透明板12を載せる。次に、(b)に示すように、2枚の板に挟まれたグリースを矢印に示すように適当な力で加圧する。次に、(c)に示すように、適当な固定具、例えば、ゼムクリップ14で固定する。このようにして作成した試料を顕微鏡で観察する。
実施例:
カルシウム石鹸を配合するグリースを松浪ガラス社製スライドガラス(S−1111)の中心部に約10mg載せもう一枚の水スライドガラスを重ねて約3kgの力でグリースを挟み、ゼムクリップで両端を固定した。これを、NIKON社製光学顕微鏡(ME600)の微分干渉モードで観察した。結果を、図2に示す。金属石鹸粒子が非常に良く分散していることがわかった。なお、同様に偏光モードでも観察したところ金属石鹸粒子が非常に良く分散していることがわかった。
比較例:
クリップで固定しなかった以外は、実施例1と同様に行った。結果を図3に示す。金属石鹸粒子は確認できたが、グリース層が厚くなり画像が不鮮明である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】グリースの顕微鏡による観察手順を示す工程図である。
【図2】実施例の観察結果を示す写真である。
【図3】比較例の観察結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0015】
10 グリース
12 透明板
14 ゼムクリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリース中の金属石鹸粒子の顕微鏡観察方法において、グリースを透明な2枚の板の間に所定の強度の力で挟み、光学顕微鏡で観察することを特徴とするグリースの顕微鏡観察方法。
【請求項2】
前記透明板を、少なくとも1個以上のクリップで固定することを特徴とする請求項1に記載のグリースの顕微鏡観察方法。
【請求項3】
前記金属石鹸粒子が、アルカリ金属石鹸、アルカリ土類金属石鹸、アルミニウム金属石鹸、カルシウム石鹸、マグネシウム石鹸、脂肪酸金属塩、または12−ヒドロキシステアレートであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のグリースの顕微鏡観察方法。
【請求項4】
前記透明板が、ガラス製、樹脂製であることを特徴とする請求項1、2あるいは3に記載のグリースの顕微鏡観察方法。
【請求項5】
前記観察において、偏光機能もしくは微分干渉機能を搭載した光学顕微鏡を用いることを特徴とする請求項12,3、あるいは4に記載のグリースの顕微鏡観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−38668(P2006−38668A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219838(P2004−219838)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】