説明

グリース組成物および該グリース組成物を封入した軸受

【課題】良好な音響特性や耐漏洩性を維持しつつ、優れた防錆性を発揮する新規なグリース組成物を提供すること。また、該グリース組成物を封入した長寿命の軸受を提供すること。
【解決手段】(A)基油と、(B)増ちょう剤と、(C)防錆添加剤とからなるグリース組成物であって、前記防錆添加剤(C)が、(C−1)非イオン性界面活性剤と、(C−2)2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなり、前記防錆添加剤(C)が、(A)基油と(B)増ちょう剤との合計100重量部に対して1.8〜8重量部配合されてなるグリース組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物および該グリース組成物を封入した軸受に関する。さらに詳しくは、特定の防錆添加剤を配合した文献未掲載の新規なグリース組成物および該グリース組成物を封入した軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の防錆添加剤を含有したグリース組成物が提案されている。たとえば、防錆添加剤としてナフテン酸亜鉛およびコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種を使用したグリース組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−121689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、防錆添加剤として、非イオン性界面活性剤と、2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなる混合物をグリース組成物として用いた際に、良好な音響特性や耐漏洩性を維持しつつ、優れた防錆性を発揮することは知られていない。
【0005】
本発明は、上記特定の防錆添加剤が、良好な音響特性や耐漏洩性を維持しつつ、優れた防錆性を発揮することを見出したものであり、これにより、新たなグリース組成物を提供すること、該グリース組成物を封入した長寿命の軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグリース組成物は、(A)基油と、(B)増ちょう剤と、(C)防錆添加剤とからなるグリース組成物であって、
前記防錆添加剤(C)が、
(C−1)非イオン性界面活性剤と、
(C−2)2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなり、
前記防錆添加剤(C)が、(A)基油と(B)増ちょう剤との合計100重量部に対して1.8〜8重量部配合されてなる。
【0007】
前記非イオン性界面活性剤(C−1)がソルビタンモノオレエートまたはソルビタントリオレエートであることが好ましい。
【0008】
また、防錆添加剤(C)が、(C−3)金属スルホネートをさらに含むことが好ましい。
【0009】
前記金属スルホネート(C−3)が、亜鉛スルホネート、カルシウムスルホネート、リチウムスルホネートまたはバリウムスルホネートであることが好ましい。
【0010】
前記増ちょう剤(B)が、ジウレア化合物またはリチウム石けんであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の軸受は、前記グリース組成物を軸受空間に封入してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物によれば、良好な音響特性や耐漏洩性を維持しつつ、優れた防錆性を発揮する新規なグリース組成物を提供することができる。また、該グリース組成物を封入した長寿命の軸受を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のグリース組成物は、(A)基油と、(B)増ちょう剤と、(C)防錆添加剤とからなるグリース組成物であって、前記防錆添加剤(C)が、(C−1)非イオン性界面活性剤と、(C−2)2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなり、前記防錆添加剤(C)が、(A)基油と(B)増ちょう剤との合計100重量部に対して1.8〜8重量部配合されてなることを特徴とする。
【0014】
基油(A)としては、グリース組成物に使用されるものであれば特に限定されず、たとえば、原油を減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製した鉱物油、例えばジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいは例えばトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、さらには例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、さらにはまた、例えば多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などのエステル油、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいは例えばモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などのエーテル油、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物などの合成炭化水素を用いることができる。低トルク且つ長寿命、耐熱性且つ長寿命の観点から、エステル油、ポリ−α−オレフィン、フェニルエーテル油が特に有用である。また、基油(A)は、グリース組成物中70〜90重量%用いることが有用である。
【0015】
増ちょう剤(B)としては、ジウレア化合物、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、ナトリウムテレフタラメート、フッ素、有機化ベントナイト、シリカゲル、などを用いることができる。ジウレア化合物の種類としては特に限定されず、下記一般式(I)で示されるジウレア、ポリウレアを使用することができる。式中、R2は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基、R1およびR3は炭素数6〜18の芳香族系炭化水素基、シクロヘキシル基、炭素数7〜12のシクロヘキシル誘導体基、あるいは炭素数8〜22のアルキル基を表すジウレア化合物を用いることができる。
【化1】

【0016】
リチウム石けんの種類も特に限定されず、水酸化リチウムと、炭素数10〜28の高級脂肪酸および/または1個以上の水酸基を有する炭素数10以上の高級ヒドロキシ脂肪酸とから合成されたリチウム石けんを用いることができる。グリース組成物としての用途を考慮して、増ちょう剤(B)をグリース組成物中5〜30重量%用い、硬さは混和ちょう度が220〜340であることが有用である。
【0017】
防錆添加剤(C)は、(C−1)非イオン性界面活性剤と、(C−2)2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなる。また、(C−3)金属スルホネートをさらに配合することができる。
【0018】
非イオン性界面活性剤(C−1)としては、特に限定されないが、乳化性の観点から、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートが有用である。
【0019】
金属スルホネート(C−3)としては、特に限定されないが、吸着性の観点から、亜鉛スルホネート、カルシウムスルホネート、リチウムスルホネートまたはバリウムスルホネートが有用である。
【0020】
防錆添加剤(C)において、非イオン性界面活性剤(C−1)と、2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体(C−2)との配合割合は、(C−1):(C−2)が1〜5:5〜1が特に有用である。
【0021】
防錆添加剤(C)の配合量としては、(A)基油と(B)増ちょう剤との合計100重量部に対して1.8〜8重量部配合されてなることが好ましく、3〜6重量%配合されてなることがさらに好ましい。1.8重量%未満の場合、防錆効果が充分でないという問題があり、8重量%を超える場合、耐漏洩性が悪くなるとともに、グリース組成物を封入した軸受において、極圧剤、耐摩耗剤に優先して軸受転走面に防錆剤の皮膜が形成されることにより寿命が短くなるという問題がある。
また、これらのグリース組成物には、酸化防止剤、極圧剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤などの各種添加剤を適量添加してもよい。
【0022】
次に本発明のグリース組成物を軸受空間に封入した軸受について説明する。
【0023】
本発明の軸受は、前記グリース組成物を軸受空間に封入してなる。本発明において、軸受とは、自動車エンジンの各種動力装置の回転箇所、例えば、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ等の自動車電装部品、エンジン補機部品などに使用される転がり軸受や家電、OA機器などの汎用モータに使用される転がり軸受を含む概念である。軸受の構造自体は制限されるものでは無く、種々の公知の玉軸受やころ軸受などを対象とすることができ、その内輪、外輪および転動体で形成される軸受空間に、前記本発明のグリース組成物を封入して本発明の転がり軸受が構成される。転がり軸受用グリースの封入量は、転がり軸受の形式や寸法等に応じて適宜変更することができるが、ほぼ従来と同程度でよい。
【0024】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
評価方法を以下に示す。
【0026】
(防錆性試験1)
調製したグリース組成物0.8gを、密封型深溝玉軸受(型番:62022RU)の軸受空間に封入し、1800min-1で30秒回転させた後、0.5%の食塩水0.8mLを封入し、さらに30秒間回転させる。その後、40℃で120時間静置し、軸受外輪の内側、軸受内輪の外側、すなわち転走面に発生した錆の状態を目視で観察する。試験は3回行う。
(防錆性試験2)
ASTM D1743に準拠して試験を行う。すなわち、調製したグリース組成物を円錐コロ軸受(型番:内輪09074 外輪09196)に封入し、1750min-1、10秒間回転後、封入グリース量を2.0gに調整し、さらに60秒間回転させた後、1%食塩水に10秒間浸漬後、5mlの1%食塩水を封入した密閉容器に52℃、48時間静置後、内輪の転走面に発生した錆の状態を目視で観察する。試験は3回行う。
評点
◎:錆は生じなかった
○:点錆のみわずかに生じた
△:小錆が生じた
×:中錆が生じた
××:面錆が生じた
(音響特性試験)
調製したグリース組成物0.8gを、密封型深溝玉軸受(型番62022RU)の軸受空間に封入し、20Nのスラスト荷重を付加し、1800min-1で30秒回転させ、アンデロンメーター(型番ADA−15、(株)菅原研究所製)を用いてアンデロン値を評価した。5アンデロン以下を良好とした。
【0027】
本実施例では、以下の原料を使用した。
Znスルホネート:合成系Znスルホネート
Caスルホネート:石油系Caスルホネート
Liスルホネート:合成系Liスルホネート
Baスルホネート:合成系Baスルホネート
ソルビタンモノオレエート:界面活性剤
ソルビタントリオレエート:界面活性剤
2−エチルヘキサン酸亜鉛
亜鉛カルシウムアミン複合体:KX1270(King Industries,Inc.社製)
【0028】
実施例1〜18および比較例1〜7
2〜3号ちょう度のウレアグリース(アルキルジフェニルエーテル油(基油)84重量部にジウレア化合物(増ちょう剤)を16重量部添加して調製)に、表1の割合で防錆添加剤を添加し、均一に分散させ、グリース組成物を調製した。調製したグリース組成物について、防錆性試験1および音響特性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例19〜31および比較例8〜14
2〜3号ちょう度のリチウムグリース(エステル油(基油)90重量部にリチウム石けん(増ちょう剤)を10重量部添加して調製)に、表2の割合で防錆添加剤を添加し、均一に分散させ、グリース組成物を調製した。調製したグリース組成物について、防錆性試験2および音響特性試験を実施した。結果を表2に示す。なお、比較例14のグリース組成物は、防錆性、音響特性ともに良好であるが、グリース組成物そのものが軟質化したため、耐漏洩性が劣り、かつ、寿命が短くなった。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油と、(B)増ちょう剤と、(C)防錆添加剤とからなるグリース組成物であって、前記防錆添加剤(C)が、
(C−1)非イオン性界面活性剤と、
(C−2)2−エチルヘキサン酸亜鉛または亜鉛カルシウムアミン複合体とからなり、
前記防錆添加剤(C)が、(A)基油と(B)増ちょう剤との合計100重量部に対して1.8〜8重量部配合されてなるグリース組成物。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤(C−1)がソルビタンモノオレエートである請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
防錆添加剤(C)が、(C−3)金属スルホネートをさらに含む請求項1または2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記金属スルホネート(C−3)が、亜鉛スルホネート、カルシウムスルホネート、リチウムスルホネートまたはバリウムスルホネートである請求項1〜3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記増ちょう剤(B)が、ジウレア化合物またはリチウム石けんである請求項1〜4のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のグリース組成物を軸受空間に封入してなる軸受。

【公開番号】特開2012−12441(P2012−12441A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148187(P2010−148187)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000228486)日本グリース株式会社 (8)
【Fターム(参考)】