説明

グリース組成物及びその使用

【課題】高温高速等の過酷条件下での使用においても、優れた潤滑性と耐熱性を有するグリース組成物を提供すること。
【解決手段】以下の(A)群から選ばれる成分Aの少なくとも1種と、以下の(B)群から選ばれる成分Bの少なくとも1種を含有するグリース組成物。
(A)群:
(1)タングステン酸、タングステン酸の塩、及び酸化タングステン、(2)リンタングステン酸、チオタングステン酸、ホウタングステン酸、リンタングステン酸の塩、チオタングステン酸の塩、及びホウタングステン酸の塩、(3)リンモリブデン酸、チオモリブデン酸、ホウモリブデン酸、リンモリブデン酸の塩、チオモリブデン酸の塩、及びホウモリブデン酸の塩
(B)群:
(1)有機硫黄化合物、(2)有機リン化合物、(3)有機硫黄リン化合物、(4)有機モリブデン化合物、及び(5)有機亜鉛化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物に関し、さらに詳しくは摩擦・摩耗特性に優れ、耐熱性を有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から産業界で高性能化を図る目的で、潤滑剤に種々の添加剤を配合し潤滑性を向上させる試みがなされているが、さらに高温高速等の過酷条件下での運転においても優れた潤滑性を示すグリース組成物に対する要求がある。
しかし、摩擦の低減剤として有機金属系化合物のうち、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の有機モリブデン化合物が用いられているが、高温高速等の益々厳しくなっている過酷条件下での使用においては、耐熱性等が必ずしも充分とはいえず、さらに向上が望まれている。
一方、モリブデン酸塩は、皮膜補強剤としては優れた作用を示すものの、摩擦の低減剤としての効果は必ずしも見出されていなかった(例えば、特許文献1参照)。
本発明者らは先に、モリブデン酸、モリブデン酸の塩、及び酸化モリブデンからなる群から選ばれた少なくとも1種と、有機硫黄化合物、有機リン化合物、有機硫黄リン化合物、有機硫黄スズ化合物、有機モリブデン化合物、及び有機亜鉛化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含むグリース組成物が耐熱性に優れていることを見出している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2586871号
【特許文献2】特開2000−53989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高温高速等の過酷条件下での使用においても、優れた潤滑性と耐熱性を有するグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記グリース組成物の潤滑グリースとしての用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(A)群から選ばれる成分Aの少なくとも1種と、以下の(B)群から選ばれる成分Bの少なくとも1種を含有するグリース組成物を提供すものである。
(A)群:
(1)タングステン酸、タングステン酸の塩、及び酸化タングステン、
(2)リンタングステン酸、チオタングステン酸、ホウタングステン酸、リンタングステン酸の塩、チオタングステン酸の塩、及びホウタングステン酸の塩、
(3)リンモリブデン酸、チオモリブデン酸、ホウモリブデン酸、リンモリブデン酸の塩、チオモリブデン酸の塩、及びホウモリブデン酸の塩、
(B)群:
(1)有機硫黄化合物、
(2)有機リン化合物、
(3)有機硫黄リン化合物、
(4)有機モリブデン化合物、及び
(5)有機亜鉛化合物。
本発明は、軸受、ギア、又は等速ジョイント用の潤滑グリースとしての上記グリース組成物の使用に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
表1〜4に示すSRV試験及び高速四球式摩耗試験の結果から、本発明のグリース組成物は、高温高速等の過酷条件下での使用においても、優れた潤滑性と耐熱性を有するグリース組成物であることが分かる。従って、本発明のグリース組成物は、高温高速等の過酷条件下で使用される潤滑グリース、例えば、軸受、ギア、自動車の等速ジョイント等の潤滑グリースとして好ましいものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のグリース組成物において、成分Aの含有量は、好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは0.3〜8質量%である。また、成分Bの含有量は、好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは0.3〜8質量%である。また、成分A対Bの質量比は、好ましくは10:1〜1:10、更に好ましく6:1〜1:6である。
本発明のグリース組成物の基油としては、鉱油、動植物油、エステル系合成油、合成炭化水素油、リン酸エステル油、シリコーン油、フッ素油及びこれらの混合油等が使用される。
【0008】
本発明のグリース組成物に使用される(A)群のタングステン酸の塩、リンタングステン酸の塩、チオタングステン酸の塩、ホウタングステン酸の塩、リンモリブデン酸の塩、チオモリブデン酸の塩、及びホウモリブデン酸の塩としては、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩)、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)、アルミニウム塩、クロム塩、チタン塩、錫塩、コバルト塩、マンガン塩、鉄塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩、アンモニウム塩、これらの酸性塩、塩基性塩等が挙げられる。また、塩には、正塩、ポリ酸塩も包含するものとする。
酸化タングステンとしては酸化タングステン(II)、酸化タングステン(III) 、酸化タングステン(IV)(WO2)、酸化タングステン(V)、酸化タングステン(VI)(WO3)、副酸化物としてW49、W38、W59、W514、W411、W1849、W2068等が挙げられる。
【0009】
(A)群の化合物の具体例としては、タングステン酸、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ルビジウム、タングステン酸セシウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸ストロンチウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸マンガン、タングステン酸鉄、タングステン酸コバルト、タングステン酸ニッケル、タングステン酸銅、タングステン酸銀、タングステン酸亜鉛、タングステン酸カドミウム、タングステン酸アンモニウム、二酸化タングステン、三酸化タングステン、リンタングステン酸、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸アンモニウム、チオタングステン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、チオモリブデン酸アンモニウム、ホウモリブデン酸カリウム等が挙げられる。
【0010】
本発明のグリース組成物の増ちょう剤としては、金属石けん、複合金属石けん等の石けん系;ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物等の非石けん系等、一般的に用いられるものが使用できる。石けん系増ちょう剤としては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物等が挙げられる。
【0011】
本発明のグリース組成物に使用される(B)群の有機硫黄化合物としては、スルフィド;ジスルフィド;ポリスルフィド;メルカプタン;炭酸、カルボン酸及びそれらの誘導体のチオ置換体;及び不飽和動植物油脂又はオレフィンの硫化物、さらに詳しくはアルキルポリスルフィド、ヘテロ環ジスルフィド、メチレンジチオカーバメート、硫黄分1〜30質量%の硫黄系極圧剤、チオ尿素が挙げられる。
有機リン化合物としては、ホスフェート、ホスファイト、さらに詳しくはトリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアリールホスファイト、トリアルキルホスファイトが挙げられる。
有機硫黄リン化合物としては、ホスフェートやホスファイトのチオ置換体、例えば、トリアルキルホスフォロチオネート、トリアリールホスフォロチオネート、金属を含まない硫黄分15〜35%、リン分0.5〜3%の有機硫黄リン系極圧剤も、有機硫黄リン化合物として使用できる。
【0012】
有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート、さらに詳しくはジアルキルモリブデンジチオカーバメート、ジアルキルモリブデンジチオホスフェート、ジアリールモリブデンジチオカーバメート、ジアリールモリブデンジチオホスフェート等が挙げられる。
有機亜鉛化合物としては、亜鉛ジチオカーバメート、亜鉛ジチオホスフェート、さらに詳しくはジアルキル亜鉛ジチオカーバメート、ジアルキル亜鉛ジチオホスフェート、ジアリール亜鉛ジチオカーバメート、ジアリール亜鉛ジチオホスフェートが挙げられる。
【0013】
本発明のグリース組成物には、上記以外の添加剤、例えば、防錆剤、酸化防止剤、腐食防止剤、固体潤滑剤、油性剤、粘度指数向上剤等を含有させてもよい。
本発明のグリース組成物は、潤滑グリース、例えば、軸受、ギア、自動車の等速ジョイント等に使用されるグリースとして使用される。
【0014】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1〜28及び比較例1〜11
鉱油(10mm2/s 、 100℃) をリチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム) (6質量%)又はジウレア系増ちょう剤(4,4’−フェニルメチルイソシアネートとオクチルアミンを反応させて得られるジウレア化合物)(7質量%)で増ちょうさせたグリースに、A群の化合物及びB群の化合物として表1〜表4に記載の化合物を所定量混合し、3段ロールミルでミル処理を行った後、脱
泡しグリース組成物を作成した。
これらのグリース組成物について、SRV試験及び高速四球式摩耗試験を行った。SRV試験は、直径10mmの鋼球(SUJ-2)、直径24mm、厚さ7.85mmのディスクを用い、荷重400N,900N、周波数15Hz 、振幅1mm、試験温度25℃での平均摩擦係数を測定した。高速四球式摩耗試験は、ASTM D2266に従って行った。
結果を表1〜表4に示す。
【0015】
SRV試験
(400N)
〇:優れる、摩擦係数0.060未満
△:ベースと同等、摩擦係数0.060以上0.090未満
×:劣る、摩擦係数0.090以上
(900N)
〇:優れる、摩擦係数0.051未満
△:ベースと同等、摩擦係数0.051以上0.076未満
×:劣る、摩擦係数0.076以上
高速四球式摩耗試験
〇:優れる、摩耗径0.60mm未満
△:ベースと同等、摩耗径0.60mm以上0.80mm未満
×:劣る、摩耗径0.80mm以上
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
A群の化合物
(1)タングステン酸Ca(日本無機化学工業株式会社製、タングステン酸カルシウム)
(2)タングステン酸(日本無機化学工業株式会社製、タングステン酸)
(3)三酸化タングステン(日本無機化学工業株式会社製、三酸化タングステン)
(4)タングステン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、タングステン(VI)酸ナトリウム・2水和物)
(5)タングステン酸NH4(関東化学株式会社製、タングステン酸アンモニウム・5水和物)
(6)チオタングステン酸NH4(関東化学株式会社製、テトラチオタングステン酸アンモニウム)
(7)リンタングステン酸Na(関東化学株式会社製、リンタングステン酸ナトリウムn水和物)
(8)チオモリブデン酸NH4(関東化学株式会社製、チオモリブデン酸アンモニウム)
(9)リンモリブデン酸Na(和光純薬工業株式会社製、リンモリブデン酸ナトリウム)
(10)ホウモリブデン酸K(日本無機化学工業株式会社製、MOLY WHITE P-3S)
【0021】
B群の化合物
(1)硫黄系極圧剤(硫黄含有量9.5質量%)(大日本インキ化学工業株式会社製、ダイルーブS320)
(2)アルキルポリスルフィド(エルファトケムジャパン株式会社製、TPS-20)
(3)ジアルキルハイドロジェンホスファイト(城北化学工業株式会社製、KJ-112)
(4)トリアリールホスフォロチオネート(日本チバガイギー株式会社製、イルガルーブTPPT)
(5)硫黄リン系極圧剤(日本ルーブリゾール株式会社製、ルーブリゾール810)
(6)モリブデンジチオホスフェート(R.T.VANDERBILT社製、モリバンL)
(7)亜鉛ジチオカーバメート(R.T.VANDERBILT社製、バンルーブAZ)
(8)亜鉛ジチオホスフェート(日本ルーブリゾール株式会社製、ルーブリゾール1395)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)群から選ばれる成分Aの少なくとも1種と、以
下の(B)群から選ばれる成分Bの少なくとも1種を含有するグリース組成物。
(A)群:
(1)タングステン酸、タングステン酸の塩、及び酸化タングステン、
(2)リンタングステン酸、チオタングステン酸、ホウタングステン酸、リンタングステン酸の塩、チオタングステン酸の塩、及びホウタングステン酸の塩、
(3)リンモリブデン酸、チオモリブデン酸、ホウモリブデン酸、リンモリブデン酸の塩、チオモリブデン酸の塩、及びホウモリブデン酸の塩、
(B)群:
(1)有機硫黄化合物、
(2)有機リン化合物、
(3)有機硫黄リン化合物、
(4)有機モリブデン化合物、及び
(5)有機亜鉛化合物。
【請求項2】
グリース組成物の全質量部に対して、成分Aが0.1〜30質量%、成分Bが0.1〜30質量%であり、成分A対Bの質量比が10:1〜1:10である請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
タングステン酸のアルカリ金属塩、タングステン酸のアルカリ土類金属塩、及びリンモリブデン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むグリース組成物。
【請求項4】
軸受、ギア、又は等速ジョイント用の潤滑グリースとしての請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物の使用。

【公開番号】特開2010−168593(P2010−168593A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108083(P2010−108083)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2002−377973(P2002−377973)の分割
【原出願日】平成14年12月26日(2002.12.26)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】