説明

グリース組成物及び転がり軸受

【課題】180℃を超える苛酷な高温環境下でも使用に耐え得る耐熱性が安定して得られ、特に上記した自動車の電装部品やエンジン補機等に好適なグリース組成物並びに転がり軸受を提供する。
【解決手段】エステル油を基油全量の50質量%以上含む基油と、前記基油全量の0.1〜10質量%の量のヒンダードアミンとを含有するグリース組成物、及び 内輪と外輪との間に、保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持し、かつ、前記グリース組成物を封入してなる転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ等のような高温・高速下で使用される部品に好適なグリース組成物、並びに前記各部品等に好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は小型軽量化を目的としたFF車の普及により、更には居住空間拡大の要望により、エンジンルーム空間の減少を余儀なくされ、上記に挙げたような電装部品やエンジン補機の小型軽量化がより一層進められており、それに組み込まれる各部品も高性能高出力化がますます求められている。しかし、小型化により出力の低下は避けられず、例えばオルタネータやカーエアコン用電磁クラッチでは高速化することにより出力の低下分を補っており、それに伴って中間プーリも高速化することになる。更に、静粛性向上の要望によりエンジンルームの密閉化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されるため、これらの部品は高温に耐えることも必要となっている。
【0003】
また、電装部品やエンジン補機は小型軽量化や高速回転化が要求される一方で、省資源化や省エネルギー化の要求も高く、メンテナンスフリー化も要望されてきている。そのため、組み込まれる転がり軸受も、耐熱性に加えて、信頼性や耐久性も要求されている。具体的には、軸受温度が180℃を超えるような環境で使用されることがあり、このような高温環境に耐え得るように、本出願人も先にエーテル油を基油とし、酸化防止剤としてヒンダードアミンを添加したグリース組成物を封入することを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2007−186578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記に挙げたグリース組成物では、ヒンダードアミンは、分子量が500程度と非常に大きく、また極性も高いために、基油であるエーテル油に溶解し難く、ヒンダードアミンによる優れた酸化防止効果が十分、かつ安定に発現しないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、180℃を超える苛酷な高温環境下でも使用に耐え得る耐熱性が安定して得られ、特に上記した自動車の電装部品やエンジン補機等に好適なグリース組成物並びに転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は下記のグリース組成物及び転がり軸受を提供する。
(1)エステル油を基油全量の50質量%以上含む基油と、前記基油全量の0.1〜10質量%の量のヒンダードアミンとを含有することを特徴とするグリース組成物。
(2)エステル油が、ヒンダードエステルであることを特徴とする上記(1)記載のグリース組成物。
(3)内輪と外輪との間に、保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持し、かつ、上記(1)または(2)記載のグリース組成物を封入してなることを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグリース組成物では、基油が、ヒンダードアミンに対する溶解性の高いエーテル油を50質量%以上の割合で含むため、ヒンダードアミンによる優れた酸化防止効果が十分、かつ安定に発現する。
【0009】
また、本発明の転がり軸受は、上記グリース組成物を封入したことにより、優れた耐熱性が安定して発現し、自動車の電装部品やエンジン補機等の高温・高速下で使用される用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔グリース組成物〕
本発明のグリース組成物において、基油は、エステル油を基油全量の50質量%以上含む。エステル油に制限は無いが、ヒンダードエステルが好ましい。ヒンダードエステルは、多価アルコールと脂肪酸(多価カルボン酸を含む)とのエステルであり、両者の組み合わせにより多種多様のものが知られている。本発明では特に制限されるものではないが、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のネオペンチル骨格を有するエステルやコンプレックスエステル等を好適に使用できる。但し、コンプレックスエステルは高粘度であることから、本発明が目的とする高速用途を考慮すると、コンプレックスエステル以外のポリオールエステルがより好ましい。
【0011】
基油はエステル油単独が好ましいが、必要に応じて他の潤滑油と混合することもできる。中でも合成油系潤滑油が好ましく、炭化水素系油及びエーテル系油が好ましい。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンオリゴマー等のポリα−オレフィン(PAO)またはこれらの水素化物等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0012】
また、基油は、高速用途を考慮すると低粘度であることが望ましく、40℃における動粘度で15〜100mm/sであることが好ましい。
【0013】
上記基油には、ヒンダードアミンを基油全量の0.1〜10質量%の割合で添加される。ヒンダードアミンの添加量が0.1質量%未満では酸化防止効果が十分ではなく、10質量%を超えても効果が飽和する。ヒンダードアミンとしては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキシ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニルエステル、1,1−ジメチルヒドロキシペルオキシド等を好適に使用できる。また、ヒンダードアミンは光に対する耐性(耐光性)も有するため、グリース組成物の紫外線等による劣化も抑えられる。
【0014】
増ちょう剤には制限はなく、金属石けんやウレア化合物を使用できる。中でも、高温での耐久性を考慮すると、耐熱性に優れるジウレア化合物が好ましい。増ちょう剤の配合量は、上記基油とともにゲル構造を形成できれる量であれば制限がないが、グリース組成物全量の5〜30質量%が好ましい。また、グリース組成物の混和ちょう度は200〜350が好ましい。
【0015】
本発明のグリース組成物は、上記配合物以外にも、目的に応じて種々の添加剤を添加してもよい。例えば、防錆剤や摩耗防止剤をグリース組成物全量の1〜10質量%となるように添加することができる。
【0016】
また、グリース組成物の調製方法には制限がなく、例えば、ヒンダードアミンを所定量添加した基油中で、増ちょう剤を合成し、必要に応じて他の添加剤を添加してニーダーやロールミルで撹拌すればよい。このとき、加熱することも有効である。
【0017】
〔転がり軸受〕
本発明はまた、上記のグリース組成物を封入した転がり軸受を提供する。転がり軸受の構造や種類には制限がないが、上記のグリース組成物が耐熱性、耐摩耗性及び耐荷重性にバランス良く優れることから、高温・高速環境下で使用される転がり軸受が好適である。例えば、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ等に組み込まれる転がり軸受を例示できる。
【実施例】
【0018】
(実施例1〜6、比較例1〜6)
表1に示す如く、基油、増ちょう剤及び添加剤を配合して試験グリースを調製した。そして、各試験グリースについて下記の(1)耐熱試験、(2)耐摩耗性試験及び(3)焼付き寿命試験を行った。
(1)耐熱試験
試験グリースをシャーレに10g程度取り、そのまま200℃の恒温槽に入れ300時間放置した。放置後に試験グリースの蒸発量及び全酸価を測定した。結果を表1に示す。
(2)耐摩耗性試験
鏡面仕上げした平板上に試験グリースを塗布し、その上に直径10mmの軸受鋼球を載せ、雰囲気温度80℃で、荷重59Nを加えながら振幅0.7mm、振動数10Hzにて10分間揺動させた後、摩耗による平板の痕径を計測した。試験は3回行い、その平均値を求めた。結果を表1に、比較例1の値を1とする相対値で示す。
(3)焼付き寿命試験
日本精工(株)製の耐熱ゴムシール付き玉軸受「6305(外径62mm、内径25mm、幅17mm)」に、試験グリースを空間容積の30%となるように封入して試験軸受を作製した。試験軸受を、外輪温度180℃、ラジアル荷重98N、アキシアル荷重98N、内輪回転速度15000min−1の条件で連続して回転させ、温度上昇とトルク上昇(モータ電流値)を起こした時点で焼付き寿命とし、それまでの時間を計測した。試験は3回行い、その平均値を求めた。結果を表1に、比較例1の値を1とする相対値で示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
・ポリオールエステル:日本油脂(株)製「ユニスターH481R」
・ジエステル:Nye社製「Nyeシンセティックオイル605」
・エーテル:松村石油研究所(株)製「LB68」
・PAO:エクソンモービル社製「スペクトラシン10」
・ヒンダードアミン:城北化学工業(株)製「JF−90」
・DBPC:日本化成(株)製の2,6−ジ−第3−ブチル−4−メチルフェノール
【0022】
表1に示すように、本発明に従い、エーテル油を50質量%以上含む基油に、ヒンダードアミンを添加した実施例の試験グリースは、比較例の試験グリースに比べて、基油の蒸発量が少なく耐熱性に優れており、また耐摩耗性にも優れており、焼付き寿命も概ね2倍から3倍に大幅に延びている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル油を基油全量の50質量%以上含む基油と、前記基油全量の0.1〜10質量%の量のヒンダードアミンとを含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
エステル油が、ヒンダードエステルであることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
内輪と外輪との間に、保持器を介して複数の転動体を転動自在に保持し、かつ、請求項1または2記載のグリース組成物を封入してなることを特徴とする転がり軸受。

【公開番号】特開2010−138240(P2010−138240A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314108(P2008−314108)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】