説明

グリース組成物

【課題】低トルク性及び錆止め性に優れるグリース組成物を提供すること。
【解決手段】(A)合成炭化水素油と、流動点が−35℃以下の高精製鉱油とのブレンド油であって、質量比が100:0〜30:70である基油、
(B)下記式(1)で示される増ちょう剤、及び
−NHCONH−R−NHCONH−R (1)
(式中、Rは炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
及びRは、同一又は異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8〜18の直鎖又は分岐アルキル基を示し、
[{(前記アルキル基のモル数)/(前記アルキル基のモル数+シクロへキシル基のモル数)}×100]=30〜100%である)
(C)アルケニルコハク酸無水物及び/又は有機スルホン酸亜鉛、
を含むグリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電装又は補機用転がり軸受に使用するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電装又は補機用転がり軸受に使用されるグリースとしては、主に耐熱性の観点から、ジウレアグリースが多く使用されている。ジウレアグリースの中では特に芳香族ジウレアが高温耐久性を理由に使用されることが多い。
しかしながら、芳香族ジウレアは、芳香族ジウレア以外のジウレア化合物と比較して、同一の硬さのグリースを得るために多量に配合する必要がある。その結果、グリースの攪拌抵抗が高くなってしまい、低トルク性を満足することができない。
芳香族ジウレア以外の増ちょう剤を使用した例として、特許文献1では、50質量%を超える量のエーテル系合成油を含む基油に、必須成分として下記一般式:
2−NHCONH−R1−NHCONH−R3
(式中、R1は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R2およびR3は同一若しくは異なる基であって、シクロヘキシル基、炭素数7〜12のシクロヘキシル誘導体基または炭素数8〜20のアルキル基を示す。)
で表わされるジウレア化合物の少なくとも1種からなり、かつシクロヘキシル基またはその誘導体基の含有率[{(シクロヘキシル基またはその誘導体基の数)/(シクロヘキシル基またはその誘導体基の数+アルキル基の数)}×100]が50〜100%であるゲル化剤を含有させたことを特徴とするグリースが提案されている。
しかし、基油であるフェニルエーテル油の流動点は−30℃程度であり、決して低温性が満足するものではなく、それ故、低温時のトルクが高い。
芳香族ジウレア以外の増ちょう剤を使用した別の例として、特許文献2では、エステル系合成油を含む基油に、必須成分として、下記一般式:
1−NHCONH−R2−NHCONH−R3
(式中、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。R1およびR3は、同一または異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8〜22のアルキル基を示し、シクロへキシル基の含有率[{(シクロへキシル基の数)/(シクロへキシル基の数+アルキル基の数)}×100]が、60〜95%である)で表される増ちょう剤を含有させたことを特徴とするグリース組成物が提案されている。
しかし、エステル系合成油は、外部から水分が混入すると加水分解してしまい、生成した酸成分による錆の生成が懸念される点で好ましいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−17079号公報
【特許文献2】特開2008−239706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低トルク性及び錆止め性に優れるグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述したように、低トルク性を確保するためには、グリースの攪拌抵抗の主要因である増ちょう剤量を極力低減する必要があるが、低減しすぎると目的の硬さを得ることができず、また、せん断を受けた時のちょう度変化が大きくグリースが軟化してしまうため、軸受から外部へ漏洩してしまうという問題がある。
本発明では、流動点が低い合成炭化水素油を基油中の30質量%以上含ませることにより、低温時の低トルク性を確保した。合成炭化水素油以外の他種基油を併用する場合は、流動点の低い高精製鉱油を用いた。
増ちょう剤としては、脂肪族ジウレア単独で使用するか、又は脂肪族ジウレアと脂環式ジウレアとを併用することにより、増ちょう剤量が少量であっても適度な硬さのグリース組成物とした。
このように、本発明者らは、特定の基油、増ちょう剤及び錆止め剤を選択し、組み合わせることにより上記課題を解決した。すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する。
【0006】
1.(A)合成炭化水素油と、流動点が−35℃以下の高精製鉱油とのブレンド油であって、質量比が100:0〜30:70である基油、
(B)下記式(1)で示される増ちょう剤、及び
1−NHCONH−R2−NHCONH−R3 (1)
(式中、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
1及びR3は、同一又は異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8〜18の直鎖又は分岐アルキル基を示し、
[{(前記アルキル基のモル数)/(前記アルキル基のモル数+シクロへキシル基のモル数)}×100]=30〜100%である)
(C)アルケニルコハク酸無水物及び/又は有機スルホン酸亜鉛、
を含むことを特徴とするグリース組成物。
2.基油の40℃における動粘度が80〜150mm2/sである、前記1項記載のグリース組成物。
3.合成炭化水素油が、40℃における動粘度が300mm2/s以上である合成炭化水素油を含む、前記1又は2項記載のグリース組成物。
4.グリース組成物中における増ちょう剤の含有量が10〜20質量%である、前記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.転がり軸受用である前記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
6.転がり軸受が、自動車の電装又は補機用転がり軸受である前記5項記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリース組成物は、広温度範囲において低トルク性に優れるため、燃費向上によるCO2削減に寄与できる。本発明のグリース組成物はまた、錆止め性に優れる。本発明のグリース組成物はまた、耐蒸発性もまた優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(A)基油
本発明において用いる基油は、合成炭化水素油と、流動点が−35℃以下の高精製鉱油とのブレンド油である。合成炭化水素油と、流動点が−35℃以下の高精製鉱油との質量比は、100:0〜30:70である。基油中の合成炭化水素油の割合が30質量%以上だと低温時の低トルク性を満足することができる。
合成炭化水素油としては、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、エチレン−α−オレフィンオリゴマーなどがあげられる。その中でもポリ−α−オレフィンが好ましい。
本発明で用いる高精製鉱油とは、脱ロウ処理によって低温時のワックス成分の析出を低減し、それによって、精製していない鉱油の流動点(−5℃〜−20℃位)よりも流動点を低くした鉱油をいう。流動点が−35℃以下の高精製鉱油を含むことにより、低温時の低トルク性に悪影響なく使用することができる。また耐蒸発性も問題なく使用することができる。
40℃における基油の動粘度は80〜150mm2/sであるのが好ましい。より好ましくは85〜140mm2/s、さらに好ましくは90〜130mm2/sである。40℃における基油の動粘度が150mm2/sより高いとグリースの粘性が高くなり、低トルク性を満足することができなくなる。一方、40℃における基油の動粘度が80mm2/sより低いと、低トルク性は満足するものの、耐蒸発性が劣り好ましくない。
【0009】
合成炭化水素油は、40℃における動粘度が300mm2/s以上のものを含むのが好ましい。これによって、低温時の低トルク性を満足しながら耐蒸発性を犠牲にせず、基油動粘度を所定の範囲に設定することができる。
高精製鉱油は、40℃における動粘度が、80〜130mm2/s、より好ましくは80〜110のものを含むのが好ましい。これによって、低トルク性を満足することができる。耐蒸発性もまた向上する。
合成炭化水素油の流動点は、−35℃以下であるのが好ましい。これによって、低温時の低トルク性が満足できる。
合成炭化水素油と併用できる他の基油としては、ジエステル油、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテルに代表されるエーテル系合成油、ポリプロピレングリコールに代表されるポリグリコール系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油が挙げられる。しかし、前述したように、エステル系合成油は、外部から水分が混入した際の加水分解が懸念される点では好ましいものではない。またエーテル系合成油は、流動点が−30℃程度と高く、低温時のトルクは高い。ポリグリコール系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油は潤滑性に乏しく、高価である。
【0010】
(B)増ちょう剤
一般にグリース組成物に使用する増ちょう剤としては、LiやNa等を含む金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ジウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系増ちょう剤等の非石けん類があげられる。しかし、金属石けん類は、耐熱性、すなわち高温下での軸受潤滑寿命が満足するものではなく、ベントン、シリカゲルは耐水性に劣り、フッ素系増ちょう剤は、耐熱性は満足するものの非常に高価であり、汎用性に欠ける。
従って、本発明のグリース組成物は、上記式(1)で表される増ちょう剤を使用する。
式(1)におけるアルキル基の含有率、即ち、{(アルキル基のモル数)/(アルキル基のモル数+シクロへキシル基のモル数)}×100は、30〜100%、アルキル基の含有率が30%未満であると増ちょう剤量が多くなり、低トルク性に劣るため好ましくない。
本発明のグリース組成物中の(B)増ちょう剤の量は、低トルク性の観点から、好ましくは10〜20質量%、より好ましくは12〜17質量%である。
【0011】
(C)錆止め剤
本発明のグリース組成物は、錆止め剤として、有機スルホン酸亜鉛及び/又はアルケニルコハク酸無水物を含む。これら錆止め剤は、外部から水分が混入した場合であっても、水分を分散させる効果がある。
有機スルホン酸亜鉛は、親油基である有機基を有したスルホン酸の亜鉛塩である。スルホン酸としては潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分、石油高沸点留分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸や重質アルキルベンゼンスルホン酸のような合成スルホン酸等がある。
下記一般式(2)で示される有機スルホン酸亜鉛が好ましい。
[R4−SO32Zn (2)
(式中、R4はアルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基及び石油高沸点留分残基を表す。前記アルキル又はアルケニルは、直鎖又は分岐であり、炭素数は2〜22である。)
具体的には、ジオクチルナフタレンスルホン酸亜鉛、ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛、ジデシルナフタレンスルホン酸亜鉛、石油スルホン酸亜鉛、高塩基性アルキルベンゼンスルホン酸亜鉛等があげられる。このうち、ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛が最も好ましい。
アルケニルコハク酸無水物としては、炭素数6〜18のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸無水物を好適に使用することができる。特に、炭素数10〜15のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸無水物が好ましい。
本発明のグリース組成物中の(C)錆止め剤の量は、塩水が混入しうる環境下における錆止め性確保の観点から、好ましくは0.1〜3質量%、より好ましくは0.5〜2質量%である。
【0012】
本発明のグリース組成物は、グリース組成物に通常使用される添加剤を必要に応じて含むことができる。例として、アミン系、フェノール系に代表される酸化防止剤、亜硝酸ソーダなどの無機不働態化剤、アミン系、カルボン酸塩に代表される錆止め剤、ベンゾトリアゾールに代表される金属腐食防止剤、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステルに代表される油性剤、リン系、硫黄系、有機金属系に代表される耐摩耗剤や極圧剤、酸化金属塩、二硫化モリブデンに代表される固体潤滑剤などが挙げられる。
本発明のグリース組成物は、転がり軸受、特に自動車電装又は補機用転がり軸受として用いることができる。自動車電装又は補機用転がり軸受としては、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、アイドラープーリ、テンションプーリ、オルタネータ、ウォーターポンプ等に使用される軸受が挙げられる。特に高温下で使用する場合、グリース組成物が酸化劣化してしまうため、酸化防止剤は、アミン系、フェノール系を単独で用いるよりも併用することが望ましい。
【実施例】
【0013】
<試験グリース>
表1に示した(A)基油、表2に示した(B)増ちょう剤、及び表3に示した(C)錆止め剤を用い、表4に示す配合量の実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。具体的には、基油中で、ジフェニルメタンジイソシアネートと所定のアミンとを反応させ、混和ちょう度(試験方法JIS K2220 7.)が240〜280となるように基油で希釈し、これに添加剤を添加することにより実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。なお、40℃における基油の動粘度は、JIS K2220 23.に準拠して測定した。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
<試験方法>
1.低トルク性
低トルク性は、JIS K2220 18.に規定する低温トルク試験に準拠して行った。
軸受形式:6204
試験温度:25℃および−30℃
回転数 :1rpm
計測項目:回転トルク(回転10分間の最後の15秒間における平均トルク)
【0018】
評価基準
回転トルク(25℃) 40mNm未満:合格(○)
40mNm以上:不合格(×)
回転トルク(−30℃) 200mNm未満:合格(○)
200mNm以上:不合格(×)
【0019】
2.錆止め性
錆止め性は、ASTM D1743−73に規定する軸受防錆試験に準拠して行った。
軸受形式:HR32304J
試験条件:52℃、48h、0.1%塩水
計測項目:錆の発生状態確認
#1・・・錆なし
#2・・・点錆3個以内
#3・・・#2より悪い
【0020】
評価基準 軸受防錆 #1:合格(○)
#2および#3:不合格(×)
【0021】
3.総合評価
・回転トルク(25℃)、回転トルク(−30℃)、軸受防錆いずれも合格:合格(○)
・回転トルク(25℃)、回転トルク(−30℃)、軸受防錆の一つでも不合格:不合格(×)
【0022】
【表4】

【0023】
実施例1〜6は、いずれも低トルク性、錆止め性が合格基準内であった。
これに対し、合成炭化水素油が30質量%以下である比較例1は、低トルク性が不合格であった。また高精製鉱油ではない鉱油を含む比較例2、3も、低トルク性が不合格であった。アルキル基の含有率が30%以下である比較例4、5は、低トルク性が不合格であった。
錆止め剤として、アルケニルコハク酸無水物または有機スルホン酸亜鉛の代わりに、ソルビタントリオレートを添加した比較例6、未添加の比較例7は、錆止め性が不合格であった。
以上の結果より、本発明のグリース組成物は、低トルク性及び錆止め性がいずれも優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)合成炭化水素油と、流動点が−35℃以下の高精製鉱油とのブレンド油であって、質量比が100:0〜30:70である基油、
(B)下記式(1)で示される増ちょう剤、及び
1−NHCONH−R2−NHCONH−R3 (1)
(式中、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基を示す。
1及びR3は、同一又は異なる基であり、シクロへキシル基、または炭素数8〜18の直鎖又は分岐アルキル基を示し、
[{(前記アルキル基のモル数)/(前記アルキル基のモル数+シクロへキシル基のモル数)}×100]=30〜100%である)
(C)アルケニルコハク酸無水物及び/又は有機スルホン酸亜鉛、
を含むことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
基油の40℃における動粘度が80〜150mm2/sである、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
合成炭化水素油が、40℃における動粘度が300mm2/s以上である合成炭化水素油を含む、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
グリース組成物中における増ちょう剤の含有量が10〜20質量%である、請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
転がり軸受用である請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項6】
転がり軸受が、自動車の電装又は補機用転がり軸受である請求項5記載のグリース組成物。

【公開番号】特開2012−87221(P2012−87221A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235372(P2010−235372)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】