説明

グリース評価方法

【課題】冷媒に対する耐用性を評価し、冷媒雰囲気において軸受に用いた場合の耐久性を評価することのできる、グリース評価方法を提供する。
【解決手段】冷媒雰囲気で用いられるグリースの評価方法である。評価対象グリースを基油で希釈して希釈グリースGを作製するとともに、希釈グリースGに評価対象冷媒Rを加えて流動可能な評価試料Sを作製する工程と、評価試料Sを分離容器2内に保持するとともに、評価試料Sに対して、評価試料Sが評価対象グリースと評価対象冷媒Rとが乳化する温度より低い温度になるようにする温度処理と高い温度になるようにする温度処理とを一回以上繰り返す温度サイクル処理を行う工程と、その後希釈グリースG層から分離した基油B層の割合を測定して基油分離率を求める工程と、基油分離率に基づいて評価対象冷媒Rに対する評価対象グリースの耐久性を評価する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンなどの高速で回転する回転軸を備えた装置では、冷却及び潤滑性維持を目的として、一般には回転軸を支持する軸受(例えば転がり軸受)に潤滑油が使用される。
また、潤滑油を貯留するためのタンク等を省略できるなどの理由から、軸受にグリースを塗布するグリース潤滑を適用する場合もある。グリースは、基油となる潤滑油に増ちょう剤を分散させて半固体状にした潤滑剤である。増ちょう剤は、繊維状で網の目のように絡み合っており、その隙間に基油を保持している。基油は、増ちょう剤から滲み出すことにより、軸受の摺動・転動部の潤滑を維持する。
【0003】
ところで、冷凍機のように冷媒の雰囲気環境下において高速軸受を使用する場合には、雰囲気ガスによる粘度を見込んだ設計を行い、前述したように適正な潤滑油を適用するのが一般的である。
しかし、このような冷媒の雰囲気環境下で高速軸受を使用する場合、潤滑油を貯留するためのタンクはもちろん、雰囲気ガスの分離評価装置等も有する潤滑油の循環システムを備えなければならず、循環システムに要する装置コストが高くなり、また、循環システムに要する動力などの効率も低下するといった課題がある。
【0004】
そこで、前述したような、軸受にグリースを塗布するグリース潤滑を適用することが考えられ、例えば、MoSなどの固体潤滑剤を含むグリースを用いる技術が提案されている(特許文献1参照)。
また、これ以外にも、従来から用いられているグリースについて、冷媒の雰囲気下での耐用性について検討がなされている。
さらに、一般的なグリースの評価方法について提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−5491号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS K 22200 「グリース」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、グリースについては、冷媒に対する耐久性(耐用性)については十分な評価がなされておらず、したがってこれを用いた場合の軸受性能に係る耐久性(耐用性)についても、評価することができていないのが現状である。
また、従来から用いられている一般的なグリースでは、冷媒に対する溶解性がほとんど無いにもかかわらず、軸受に設けられ、冷媒雰囲気においてある程度の時間使用されると、潤滑の維持が困難になるものが多くあった。
したがって、冷媒雰囲気での耐用性に優れたグリースを選択するため、その耐久性(耐用性)を良好に評価することのできる評価方法の提供が求められている。
なお、基油は、増ちょう剤から滲み出すことにより、軸受の摺動・転動部の潤滑を維持するというグリース潤滑のメカニズムを考慮し、耐久性(耐用性)とは、基油と増ちょう剤からなるグリースがその構成を維持できる耐力をいう。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、冷媒雰囲気において軸受に用いられるグリースとして、特に対象となる冷媒に対する耐用性を評価し、これによって冷媒雰囲気において軸受に用いた場合の耐久性を評価することのできる、グリース評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、グリースが軸受に設けられ、冷媒雰囲気にてある程度の時間使用されると、潤滑の維持が困難になるものがあるといった現象について検討した結果、その原因は、主に、グリースが冷媒によって軸受内から洗い流されることにあるとの知見を得た。そこで、このような知見に基づき本発明者はさらに検討を行い、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のグリース評価方法は、冷媒雰囲気で用いられるグリースの評価方法であって、
評価対象グリースをその組成中の基油で希釈して希釈グリースを作製するとともに、前記希釈グリースに評価対象冷媒を加えて混合し、流動可能な評価試料を作製する工程と、
前記評価試料を密閉された分離容器内に保持するとともに、該評価試料に対して、該評価試料が前記評価対象グリースと前記評価対象冷媒とが乳化する温度より低い温度になるようにする温度処理と、前記乳化する温度より高い温度になるようにする温度処理とを一回以上繰り返す温度サイクル処理を、予め設定した時間行う工程と、
前記温度サイクル処理を行う工程の後、前記希釈グリース層から分離した基油層の割合を測定して基油分離率を求める工程と、
前記基油分離率に基づいて前記評価対象冷媒に対する前記評価対象グリースの耐久性を評価する工程と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明者は、グリースが冷媒によって軸受内から洗い流されるのは、冷媒の乳化作用により、グリース中の基油がグリースから分離させられることに起因していることを見いだした。すなわち、このような分離により、分離された基油の粘性が増ちょう剤を含んだグリースの状態に比べて大幅に低下するため、冷媒によって容易に流されるようになるためであると考えられる。
【0012】
そこで、このグリース評価方法では、前記の分離を促進するべく、特にグリースと冷媒とが乳化する温度に着目し、評価試料に対してこの乳化温度より低い温度と高い温度とを付与し、このような温度サイクルを予め設定した回数及び時間繰り返すことにより、評価試料中の希釈グリース層から基油層を分離させるようにした。そして、この基油層の割合を測定して基油分離率を求めることにより、この基油分離率に基づき、評価対象冷媒に対する評価対象グリースの耐久性を評価することを可能にした。
【0013】
また、前記グリース評価方法においては、前記分離容器として透明容器を用い、前記基油分離率を求める工程では、前記透明容器の外から前記分離した基油層の高さH1と前記希釈グリース層の高さH2とを測定し、得られた測定値から以下の式
基油分離率={H1/(H1+H2)}×100
に基づいて、前記基油分離率を求めるのが好ましい。
【0014】
透明容器を用いることで、分離した基油層の高さH1と希釈グリース層の高さH2とを容器の外からメジャー等によって直接測定することができ、したがって測定が極めて容易になる。また、光学的な手法によって基油層の高さH1と希釈グリース層の高さH2とを測定することも可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリース評価方法にあっては、求めた基油分離率に基づき、評価対象冷媒に対する評価対象グリースの耐用性を評価することを可能にしたので、冷媒雰囲気でのグリースの耐久性に関し、特に使用される冷媒に対して耐用性に優れたグリースを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に好適に用いられる分離評価装置の概略構成図である。
【図2】(a)は評価試料を分離槽内に保持した状態を示す図、(b)は温度サイクル処理後の評価試料を示す図であって、希釈グリースから基油が分離している状態を示す図である。
【図3】温度サイクル処理の具体例を示すグラフである。
【図4】基油分離率と、グリースの耐久性(耐用性)との関係を示すグラフである。
【図5】温度サイクル処理の時間と基油分離率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のグリース評価方法について詳しく説明する。
本発明のグリース評価方法は、冷媒雰囲気で用いられるグリースの評価、すなわち冷媒雰囲気でのグリースの耐用性(耐久性)を評価する方法であって、このような耐用性(耐久性)の評価を行うことで、冷凍機や冷媒の圧縮機のような冷媒の雰囲気環境下において高速軸受に用いられる場合の、耐用性(耐久性)を評価する方法である。
【0018】
まず、本発明のグリース評価方法に用いられる装置について説明する。
図1は、本発明のグリース評価方法に好適に用いられる分離評価装置の一例の概略構成図であって、図1中符号1は分離評価装置である。この分離評価装置1は、分離槽(分離容器)2と、分離槽2内を撹拌混合する攪拌機3と、分離槽2の側壁外周面に設けられた薄板状のヒータ4と、ヒータ4を制御する制御装置5とを備えて構成されたものである。
【0019】
分離槽(分離容器)2は、透明な耐圧ガラスからなる有底円筒状の槽本体2aと、この槽本体2aの上部開口を気密に覆う蓋2bとからなるものである。
撹拌機3は、分離槽2の上方に配置されたモータ3aと、このモータ3aの駆動軸に連結したシャフト3bと、このシャフト3bの先端部(下端部)に固定された撹拌翼3cとを有したものである。撹拌翼3cは、前記蓋2bに設けられた貫通孔(図示せず)を通って分離槽2内に挿通されている。このような構成のもとに撹拌機3は、分離槽2内に入れられた評価試料を撹拌し混合するようになっている。
【0020】
ヒータ4は、制御装置5に接続されて該制御装置5によってオン・オフが制御されるものである。制御装置5は、分離槽2内に設けられた温度センサ(図示せず)に接続したもので、この温度センサによって後述する分離槽2内の評価試料の温度が予め設定した温度になったことを検知した際、ヒータ4のオン・オフを制御するようになっている。
なお、分離槽2の蓋2bには分離槽2内に連通する配管6が設けられ、これら配管6には真空ポンプ7が接続されている。また、配管6には、バルブ8、8及び圧力ゲージ9が設けられている。
【0021】
次に、本発明のグリース評価方法の一実施形態について説明する。
まず、評価対象となるグリース(評価対象グリース)と、同じく評価対象となる冷媒(評価対象冷媒)とを選択する。評価対象グリースとしては、従来市販されているグリースはもちろん、冷媒雰囲気用として新たに開発・調製されるグリースも、全て適用対象となる。なお、グリースは、前記したように基油と増ちょう剤とを主配合物とし、これらに各種の添加物が必要に応じて適宜量添加されたものである。
【0022】
評価対象冷媒としても、冷凍機などにおいて従来用いられている冷媒はもちろん、新たに開発される全ての冷媒が適用対象となる。ここで、従来用いられている主な冷媒について、物性などとともに以下の表に示す。なお、以下の表に示す冷媒以外にも、本発明において評価対象となる冷媒が多数あるのはもちろんである。
【0023】
【表1】

【0024】
前述したグリースから評価対象となるグリースを選択して評価対象グリースとし、同じく評価対象となる冷媒を選択して評価対象冷媒とする。そして、選択した評価対象グリースと評価対象冷媒とから、以下に示すようにして流動可能な評価試料を作製する。
すなわち、評価対象グリースをその組成成分と同じ基油で希釈して希釈グリースを作製するとともに、この希釈グリースに評価対象冷媒を加えて混合し、流動可能な評価試料を作製する。
【0025】
具体的には、評価対象グリースに対して、この評価対象グリースの成分として用いられている基油を別途用意し、例えば評価対象グリース10gに対して別途用意した基油を200g加える。そして、ホモジナイザー等によって十分に混合し、希釈グリースを作製する。このように基油を用いて希釈することで、グリースは半固体状であって流動性がほとんどなく、撹拌混合が行えなかったのに対し、希釈グリースは十分な流動性を有し、冷媒との撹拌混合が行えるようになる。グリースには通常15重量%程度の増ちょう剤が含まれているのに対し、希釈グリースでは増ちょう剤の含有量が0.7重量%程度になるため、十分な流動性を有するようになる。
【0026】
また、このようにして作製した希釈グリースにさらに評価対象冷媒を加えて混合する。例えば、希釈グリース50gに対して冷媒9gを加え、混合して流動可能な評価試料を作製する。なお、評価対象冷媒を加えた後の混合については、別に用意した容器内で行ってもよいし、図1に示した分離槽2内で行ってもよい。
【0027】
図1に示した分離評価装置1の分離槽2については、予め内部を洗浄し乾燥しておく。そして、この分離槽2内に前記希釈グリースと前記評価対象冷媒とを入れ、蓋2bによって内部を気密に覆う。なお、蓋2bに設けられた配管6のバルブ8、8については、これらを共に閉じておく。次いで、攪拌機3で分離槽2内を撹拌し、希釈グリースと評価対象冷媒とを均一に混合して、評価試料とする。
【0028】
なお、これら希釈グリースと評価対象冷媒とについては、前記したように別の容器でホモナイザー等によって十分に混合して評価試料としておき、この評価試料を、分離槽2内に入れる。
このようにして評価試料を蓋2bで密閉された分離槽2内に保持すると、図2(a)に示すように評価試料Sでは、評価対象冷媒Rからなる層と希釈グリースGからなる層とに分離するものの、希釈グリースGの成分中の基油は分離することなく、希釈グリースGからなる層中に存在している。
【0029】
続いて、この評価試料Sに対して、予め設定した温度条件の温度サイクル処理を、予め設定した時間行う。具体的には、図1に示した制御装置5によってヒータ4のオン・オフを制御し、評価試料S中の評価対象グリースと評価対象冷媒Rとが乳化(エマルジョン化)する温度より低い温度になるようにする温度処理と、前記乳化する温度より高い温度になるようにする温度処理とを、一回以上繰り返す。
【0030】
ここで、グリース基油は冷媒に溶解しないものの、ある温度以上になると乳化(エマルジョン化)することが確認されている。そこで、予めこの乳化する温度(乳化温度)を調べておき、この乳化温度より低い温度と高い温度との間で温度サイクルを繰り返すことにより、グリースからの基油の分離を促進する。なお、従来一般に用いられているグリース基油と、前記の表に示した冷媒との組み合わせでは、ほとんどが70℃から90℃程度の温度範囲内で乳化する。したがって、本実施形態では、乳化温度より低い温度として常温(25℃〜28℃程度)を採用し、乳化温度より高い温度として高温(110℃程度)を採用している。
【0031】
温度サイクルとして具体的には、前記制御装置5によってヒータ4をオフにした常温状態(乳化温度より低い温度状態)と、ヒータ4をオンにした高温状態(乳化温度より高い温度状態)とを繰り返す。すなわち、図3に示すように、ヒータ4をオフの状態からオンにし、評価試料Sの温度を常温から110℃にまで上昇させる。その際の昇温速度は非常に速く、数分程度で常温から110℃にまで上昇する。そして、このように温度を110℃に上げたら、この高温状態を2時間程度保持する。なお、このように評価試料Sの温度を常温から110℃にまで昇温させると、評価対象冷媒Rは、例えば前記表に示した冷媒であれば液体から気体へと気化し、上昇して希釈グリースG中に混入する。
【0032】
2時間経過後、制御装置5によってヒータ4をオフにし、このオフ状態を2時間程度保持する。すると、図3に示すようにオフ後比較的速く降温し、2時間程度で常温に戻る。なお、このように評価試料Sの温度を110℃から常温にまで降温させると、評価対象冷媒Rは気体から液体へと再度液化し、温度下降時には、冷媒は凝縮しつつ希釈グリースG中に混入する状態になる。そして、常温にいたると、図2(a)に示したように希釈グリースGから再分離してその下方に溜まる。
【0033】
次いで、制御装置5によって再度ヒータ4をオンにし、評価試料の温度を110℃にまで上昇させる。そして、このように温度を110℃に上げたら、この高温状態を2時間程度保持する。
以下、同じ操作を、予め設定した時間、例えば24時間、あるいは48時間繰り返す。ただし、最終的には常温状態で所定時間(例えば24時間程度)静置し、評価試料Sを安定化させる。
【0034】
このようにして温度サイクル処理を、予め設定した時間繰り返し行うと、評価試料Sでは、図2(b)に示すように希釈グリースG中の基油Bが分離し、白濁した希釈グリースGからなる層上に透明層を形成する。なお、評価対象冷媒Rは、希釈グリースGから分離してその下方に透明層を形成する。
【0035】
次いで、このような温度サイクル処理を行った後、希釈グリースGから分離した基油Bの層の割合を測定し、基油分離率を求める。具体的には、図2(b)に示した透明な分離槽2の外側から、分離した基油Bの層の高さH1と希釈グリースGの層の高さH2とをメジャー等によって直接測定する。そして、得られた測定値から、以下の式
基油分離率={H1/(H1+H2)}×100
に基づいて、基油分離率を求める。
なお、光学的な手法により、基油Bの層の高さH1と希釈グリースGの層の高さH2とを測定するようにしてもよい。例えば、写真を撮って得られた写真を解析することで、H1、H2を測定するようにしてもよい。
【0036】
このようにして基油分離率を求めたら、得られた基油分離率に基づき、評価対象冷媒Rに対する評価対象グリースGの耐用性(耐久性)を評価する。具体的には、数種類のグリースを冷媒雰囲気下の軸受に用いて耐久性試験を行い、各グリースの耐久性(耐用性)を求めておく。そして、求めたグリースの耐久性から、この耐久性と基油分離率との関係を求めておく。これにより、前記式より求めた基油分離率を前記の関係にあてはめることで、実際には耐久性試験を行っていない冷媒とグリースとの関係について評価することができる。すなわち、評価対象冷媒Rに対する評価対象グリースGの耐久性(耐用性)を、評価することができる。
【0037】
図4は、冷媒の気化エネルギーを利用したタービン発電機(冷媒の圧縮機)において、グリースを冷媒雰囲気下の軸受に用いて耐久性試験を行って得られた、グリースの耐久性(耐用性)と、基油分離率との関係を示すグラフである。なお、基油分離率については、前記の温度サイクル処理の時間を48時間として、得られた値を用いている。
【0038】
図4に示した、前記式によって得られた基油分離率と、耐久性試験を行って得られたグリースの耐久性(時間)との関係を示すグラフより、基油分離率が小さいほど、耐久性(耐用性)が高くなることが分かった。また、求めた基油分離率を図4のグラフに示す関係にあてはめることにより、評価対象冷媒R雰囲気での評価対象グリースGの耐久性を推定することができ、したがって評価対象冷媒Rに対する評価対象グリースGの耐久性(耐用性)を、評価することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態のグリース評価方法によれば、求めた基油分離率に基づき、評価対象冷媒に対する評価対象グリースの耐久性を評価することができる。
すなわち、グリースが軸受に設けられ、冷媒雰囲気にてある程度の時間使用されると、潤滑の維持が困難になるものがあるといった現象は、主に、グリースが冷媒によって軸受内から洗い流されることにあると考えられる。
【0040】
このように洗い流されるのは、冷媒の乳化作用により、グリース中の基油がグリースから分離させられることに起因している。つまり、このような分離により、分離された基油の粘性が増ちょう剤を含んだグリースの状態に比べて大幅に低下するため、冷媒によって容易に流されるようになるためである。
【0041】
そこで、このグリース評価方法では、前記の分離を促進するべく、特にグリースと冷媒とが乳化する温度に着目し、評価試料に対してこの乳化温度より低い温度と高い温度とを付与し、このような温度サイクルを予め設定した回数及び時間繰り返すことにより、評価試料中の希釈グリース層から基油層を分離させるようにした。そして、この基油層の割合を測定して基油分離率を求めることにより、この基油分離率に基づき、評価対象冷媒に対する評価対象グリースの耐久性を評価することを可能にした。
【0042】
したがって、このグリース評価方法にあっては、求めた基油分離率に基づき、評価対象冷媒に対する評価対象グリースの耐用性を評価することができ、冷媒雰囲気でのグリースの耐久性(耐用性)に関し、特に使用される冷媒に対して耐久性に優れたグリースを容易に選択することができる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、温度サイクル処理における各温度や時間については、前記実施形態で示した条件以外の条件も採用可能である。
【0044】
図5は、前記の温度サイクル処理の時間と基油分離率との関係を示すグラフである。図5中の評価試料1〜評価試料11は、同一のグリースに対し、冷媒の種類を変えた評価試料である。
図5に示すように、温度サイクル処理時間を長くすると、基油分離率が高くなるが、徐々に一定(サチレート)になっていく傾向にあることが分かった。ただし、例えば評価試料5と評価試料6との関係から分かるように、温度サイクル処理時間が24時間のときに基油分離率が高いものは、温度サイクル処理時間が48時間のときにも基油分離率が高くなることも分かった。したがって、図4に示した基油分離率とグリースの耐久性(時間)との関係を示すグラフを作製する際に、基油分離率については全て同じ温度サイクル処理時間(例えば48時間)で求めた基油分離率を用いれば、グリースの耐久性評価を適正に行うことができると考えられる。
【0045】
また、評価試料の作製についても、希釈に用いる基油の量(評価対象グリースに対する基油の割合)や評価対象冷媒の量については、任意である。
【符号の説明】
【0046】
1…分離評価装置、2…分離槽(分離容器)、3…撹拌機、4…ヒータ、5…制御装置、S…評価試料、R…評価対象冷媒、G…希釈グリース、B…基油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒雰囲気で用いられるグリースの評価方法であって、
評価対象グリースをその組成中の基油で希釈して希釈グリースを作製するとともに、前記希釈グリースに評価対象冷媒を加えて混合し、流動可能な評価試料を作製する工程と、
前記評価試料を密閉された分離容器内に保持するとともに、該評価試料に対して、該評価試料が前記評価対象グリースと前記評価対象冷媒とが乳化する温度より低い温度になるようにする温度処理と、前記乳化する温度より高い温度になるようにする温度処理とを一回以上繰り返す温度サイクル処理を、予め設定した時間行う工程と、
前記温度サイクル処理を行う工程の後、前記希釈グリース層から分離した基油層の割合を測定して基油分離率を求める工程と、
前記基油分離率に基づいて前記評価対象冷媒に対する前記評価対象グリースの耐久性を評価する工程と、
を備えることを特徴とするグリース評価方法。
【請求項2】
前記分離容器として透明容器を用い、前記基油分離率を求める工程では、前記透明容器の外から前記分離した基油層の高さH1と前記希釈グリース層の高さH2とを測定し、得られた測定値から以下の式
基油分離率={H1/(H1+H2)}×100
に基づいて、前記基油分離率を求めることを特徴とする請求項1記載のグリース評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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