説明

グルクロニル硫酸化2糖誘導体

【課題】グリコサミノグリカンの繰り返し構成糖の1つである、6−硫酸化N-アセチルグルコサミン、もしくは、6−硫酸化N-アセチルガラクトサミンを模倣した、6−硫酸化グルコース、または、6−硫酸化ガラクトースを選択し、これらの非還元末側にグルクロン酸を導入した2糖誘導体(pNP体) を提供する
【解決手段】
下記一般式(I)
【化17】


〔式(I)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖の6位にカルボン酸を有するグルクロン酸が、6位に硫酸基を有するグルコース、もしくは、ガラクトースの2位または3位に結合した2糖で、配糖体部位にp−ニトロフェニル基またはp−アミノフェニル基を有する誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカンは、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸)と硫酸化ヘキソサミン(たとえば、硫酸化N−アセチルグルコサミン、硫酸化N−アセチルガラクトサミン)が交互に1:1に結合した直鎖状の高分子で、その代表的なものは、ヘパリン、へパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などが知られており、天然に広く存在している。これらのグリコサミノグリカンは、血液凝固阻害、細胞間認識、免疫、マトリクス(細胞の支持体)、細菌やウィルス感染、炎症などさまざまな生化学的、あるいは、医学的事象と関連しており、新薬開発の観点からも重要視されている。
【0003】
しかしながら、グリコサミノグリカンは、さまざまな分子量を有する高分子の混合物から構成された天然物で、硫酸化の度合い(硫酸基の数と位置)も、様々である(多様性)。それゆえ、グリコサミノグリカンは、高度に不均一で、正確な生理機能を知るには、鎖長数や硫酸基の数、位置が確定した均一な分子を得ることが必要である。
たとえば、グリコサミノグリカンの代表的な例であるデルマタン硫酸は、血液凝固阻害活性を示すが、このデルマタン硫酸の6糖フラグメントは、ヘパリンコファクターIIの阻害活性を示す最少構造単位であると報告されている。つまり、デルマタン硫酸6糖フラグメントは、血液凝固阻害を示す最小単位で、これよりも鎖長数の少ないフラグメントは、その阻害活性を示さない(非特許文献1参照)。
また、他の例としては、ヘパリン、へパラン硫酸については、血液凝固阻害を示す最小活性フラグメント(血液凝固阻害を示すための必須の基本構造)は5糖であることが示されている(非特許文献2、3参照)。

【0004】
それゆえ、今日では、均一なグリコサミノグリカン分子を得るための合成法が盛んに研究されている。
例えば、ヘパリンの機能性5糖フラグメントの化学合成としては、つぎの3例(非特許文献4−6参照)が、デルマタン硫酸フラグメントの合成には次の2例(非特許文献7、8参照))が知られている。
また、最近では、グリコサミノグリカンの構成糖の化学合成も活発に研究されている。例えば、グリコサミノグリカンモジュール合成として、イズロン酸を含むビルディング ブロック合成(非特許文献9参照)、および、ヘパリンのモジュール合成がある(非特許文献10参照)。
【0005】
化学合成の他に、酵素的アプローチも、グリコサミノグリカンの構築に有効である。たとえば、生合成経路を模倣して、微生物由来の糖転移酵素や、硫酸基転移酵素を使用した合成法である(非特許文献11参照)。Endo-b-D-glycosidasesを用いた、天然由来のグリコサミノグリカン分子の再構築(組み換え)も報告されている(非特許文献12参照)。さらに、糖オキサゾリンモノマーを用い、糖加水分解酵素を用いて、グリコサミノグリカンを模倣したオリゴマーの合成も知られている(非特許文献13参照)。
【0006】
【非特許文献1】J. Biol.Chem., 258, 6713 (1983).
【非特許文献2】Carbohydr.Res., 100, 393 (1982).
【非特許文献3】Carbohydr.Res., 179, 163 (1988).
【非特許文献4】Carbohydr. Res., 132, C5 (1984).
【非特許文献5】J. Carbohydr. Chem., 4, 293 (1985).
【非特許文献6】TetrahedronLett., 27, 611 (1986).
【非特許文献7】BioMed.Chem. Lett., 4, 619 (1994).
【非特許文献8】Carbohydr.Lett., 2, 197 (1996).
【非特許文献9】J. Org. Chem., 68, 7559, (2003).
【非特許文献10】Chem. Eur.J., 9, 140 (2003).
【非特許文献11】Glycobiology, 12, 9R-16R (2002)
【非特許文献12】J. Biochem., 127, 695 (2000).
【非特許文献13】J. Am. Chem. Soc., 123, 11825(2001).
【非特許文献14】Angew.Chem. Int. Ed., 37, 2754 (1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のグリコサミノグリカンを供給するさまざまなアプローチをまとめると、その合成法として、(1)化学合成、(2)酵素合成、(3)両者を併せたケモエンザイム法に分類される。(1)の化学合成は、均一で糖鎖の鎖長数や硫酸基の数、位置を厳密に制御したグリコサミノグリカン分子を構築できる点で優れているものの、その合成過程は、工程数が多く多段階の工程を要し、糖鎖合成の専門的な技術と知識が必要である。目的の糖鎖を得るには、長時間の作業時間を要し、また、有機溶媒を多量に使用するため、グリーンケミストリーの観点からも好ましくない。(2)の酵素法は、通常、グリコサミノグリカン分子の生合成経路に関わる糖転移酵素を使用している。この酵素は、クローニングにより得られるが、非常に高価であり、また、得られる目的生成物も微量で、「実践的な量」を確保する(得る)ことは困難であり、非実用的といえる。安価な加水分解酵素を使用した非特許文献13の例もあるが、この方法は、基質モノマーの調製に糖特有の合成反応を用いており、また、生成するオリゴマーの鎖長数を制御することが困難で、複数の鎖長数のオリゴマーの不均一な混合物として得られる。また、生理活性を示す決定的因子である硫酸基が導入されていないため、グリコサミノグリカンとは言い難い。さらに、混合物のキャラクタリゼーションという付加的作業も付随してくる。同様のことは、非特許文献12についても言える。つまり、当該文献では、原料に天然のグリコサミノグリカンを用いており、これを、酵素的に改変(再構築)しているため、出発原料が不均一であれば、当然、得られる生成物も不均一な混合物となる。現在の研究では、均一なグリコサミノグリカン分子を効率よく得ることが重要な課題となっており、上記の酵素を用いた研究では、さまざまな鎖長数の糖鎖や硫酸基の数、位置が制御されていない混合物として供給される。それゆえ、鎖長数や硫酸基の数、位置を厳密に制御した合成糖鎖の構造と機能・活性との相関を調べることは不可能である。(3)のケモエンザイム法は、両者の得意とするところを併せることにより、効率をアップさせることが可能であるが、実用的な合成は殆ど行われていない。

【0008】
そこで、本発明では、様々な生理活性を有し、医薬品開発の観点から重要視されているグリコサミノグリカン分子に着目し、グリコサミノグリカン分子の最小構成単位である2糖繰り返し構造を模倣した、グルクロン酸と硫酸化グルコース、ガラクトースから構成される2糖誘導体を提供することにある。本願は、そのための基本ユニットである合成された2糖誘導体を供給するものである。
この2糖誘導体は、還元末端側にニトロフェニル基、もしくは、アミノフェニル基を有しており、前者のニトロフェニル基は、容易に、後者のアミノフェニル基へ変換可能であり、その後、適当な重合性官能基を導入することにより、高分子へと容易に誘導体化できる。このようにして合成した高分子は、側鎖の糖部位に関しては、均一であり、糖鎖の鎖長数(この場合は2つ)、硫酸基の数(この場合は、グルコースの6位、もしくは、ガラクトースの6位)と数(この場合、1つ)が厳密に制御されている特徴を有している。さらに、この高分子は、マルチバレント効果、クラスター効果により、モノマーよりも活性が増強される可能性があり、機能増幅も期待される化合物である(非特許文献14参照)。この高分子化合物は、天然のグリコサミノグリカン高分子を模倣したものとして位置づけられ、多彩な生理機能を発現可能と期待される。
本発明の目的は、グリコサミノグリカンの繰り返し構成糖の1つである、6−硫酸化N-アセチルグルコサミン、もしくは、6−硫酸化N-アセチルガラクトサミンを模倣した、6−硫酸化グルコース、または、6−硫酸化ガラクトースを選択し、これらの非還元末側にグルクロン酸を導入した2糖誘導体(pNP体) を提供することである。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、上記の(3)に相当する方法を採用し、効率よく、グルクロニル硫酸化2糖の合成に成功し、本件発明を完成するに至った。
酵素には、糖転移酵素のような高価な酵素は使用せず、安価な加水分解酵素(グルクロニダーゼ)を選択した。また、2糖の還元末側に相当する硫酸化糖には、N-アセチルヘキソサミンの2位のアセチル基を水酸基に置き換えたグルコース(6−硫酸化グルコース)、ガラクトース(6−硫酸化ガラクトース)とし、これに、先述のグルクロニダーゼを用いて、直接、グルクロン酸を当該硫酸化糖に、一段階で選択的に転移させることで、容易にグリコサミノグリカン構成2糖の模倣体を得ることができた。
【0010】
すなわち、本件発明は、
下記一般式(I)
【化4】


〔式(I)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体である。
また、本発明は、下記一般式(II)
【化5】

〔式(II)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体である。
さらに本発明は、
下記一般式(III)
【化6】

〔式(III)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体である。

【発明の効果】
【0011】
本発明のグルクロニル硫酸化2糖誘導体は、酵素反応により、2糖以上の3糖、4糖といったオリゴマーへと変換できる。本発明のグルクロニル硫酸化2糖誘導体は、様々な生理活性を有するグリコサミノグリカン分子の誘導体であり、医薬品開発の観点からも興味ある誘導体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で云う生理的に許容される塩とは、人体に無害な塩のことであり、具体的にはNa, K, Ca, Mg, Me3N, Et3Nなどを云う。
本発明は、天然のグリコサミノグリカンを構成する最小構成単位である、2糖繰り返し構造部位を模倣した、グルクロニル硫酸化2糖誘導体に関するもので、安価な加水分解酵素を用いて、一段階で、市販のグルクロン酸誘導体を6−硫酸化グルコース、6−ガラクトース誘導体に転移させるものである。

まず、原料として、市販のp−ニトロフェニル(pNP) グルコース1、および、pNP ガラクトース5を用い、乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)中、三酸化硫黄・トリメチルアミン錯体と室温〜60℃で反応させる。反応時間は、10分〜7日で、好ましくは、12−24時間である。三酸化硫黄・トリメチルアミン錯体の代わりに、三酸化硫黄・DMFを用いても良い。この操作により、糖の6位に選択的に硫酸基が1つ導入された、pNP 6−硫酸化グルコース3、および、pNP 6−硫酸化ガラクトース7をそれぞれ得ることができる(スキーム1参照)。
【化7】

これらは、アクセプターとして用いることができ、pNP(X=O)の代わりに、対応するp−ニトロフェニルチオグリコシド(X=S)を使用しても良い。この場合、化合物2,および、化合物6より、対応する硫酸化糖アクセプター4、および、8を得ることができる。このニトロチオグリコシドは、グルコシダーゼやガラクトシダーゼに対して安定で、長期間作用しても加水分解を起こさない。医薬品として、生体内に投与する場合に、作用時間を長くできるメリットを有する。
【0013】
一方、市販のpNP グルクロニド9を水酸化ナトリウムで予め中和し、6位のカルボン酸部位を、ナトリウム置換した10を得る。水酸化カリウムなど他の塩基で中和しても良い。このようにして、ドナーを調製する(スキーム2参照)。
【化8】

【0014】
次に、スキーム3について説明する。スキーム1で化学合成した糖アクセプターのpNP 6−硫酸化グルコース3を、酢酸緩衝液(AcOH-AcONa)(100mM、pH=6.0)に溶解し、スキーム2のpNP グルクロニド ナトリウム塩10(ドナー)を加え、牛由来のグルクロニダーゼ(市販品)を加え、40℃で、1時間〜60日反応させる。好ましくは、12−48時間である。ドナーとアクセプターの比は、1:1〜1:10で、好ましくは、1:1.5〜1:2である。(スキーム3)その結果、スキーム3の2糖誘導体11および12をそれぞれ得ることができる。
同様に、スキーム1のpNP 6−硫酸化ガラクトース7をアクセプターに、また、スキーム2のpNP グルクロニド ナトリウム塩10(ドナー)を用いて、スキーム3の化合物11の合成と同様にして、2糖誘導体13を得ることができる。
さらに、糖アクセプターに化合物4、または、化合物8を用い、ドナーに化合物10を用いて、化合物11や13と類似の方法により、硫酸化2糖14と15、または、16をそれぞれ得ることができる。
【化9】

【0015】
このようにして、一段階で、グルクロニル硫酸化2糖(スキーム3の化合物11−16)を得ることができる。アクセプター側の配糖体部位には、p−ニトロフェノール、または、p−ニトロチオフェノールが存在し、これは、水素気流下、パラジウム、パラジウム−活性炭、水酸化パラジウムの存在下で、対応するp−アミノフェニル基を有する硫酸化2糖(化合物17−19)、または、p−アミノチオフェニル基を有する硫酸化2糖(化合物20−22)へと、それぞれ、変換できる(スキーム4参照)。
【化10】

【実施例1】
【0016】
出発原料の作成
(化合物3の合成)
p-ニトロフェニル(pNP) b-D-グルコピラノシド(化合物1、SIGMA社)1 g (3.32 mmol)を脱水ジメチルホルムアミド20 mLに溶解し40°Cに加熱した。そこに三酸化イオウトリメチルアミン(SIGMA社)1.38 g (9.92mmol)の15 mLの脱水ジメチルホルムアミド15 mL溶液を30分かけて滴下した。40°Cで90分間撹拌した後、メタノール10 mLを加えて1日撹拌した。反応液を濃縮し、残渣を中圧液体クロマトグラフィー(ODS(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300 nm)で精製し、化合物3を994 mg得た。収率68 %。

化合物3のNMRのデータは下記の通りであった。

1H NMR (400 MHz, D2O)d 8.26 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 7.25 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 5.27 (d, 1H, J = 8.0 Hz, H-1), 4.38 (dd, 1H, J = 2.0, 11.2 Hz, H-6a), 4.23 (dd, 1H, J = 5.6, 11.2 Hz, H-6b), 3.94 (ddd, 1H, J = 2.0, 5.6, 9.6 Hz, H-5), 3.66-355 (m, 3H, H-2, 3, 4), 2.88 (s, 9H, N(Me)3); 13C NMR(150 MHz, D2O, tBuOH 31.2) d 163.2 (Ar), 144.1 (Ar), 127.7 (Ar), 118.1 (Ar), 101.0 (C-1), 76.8 (C-3), 75.7 (C-5), 74.2 (C-2), 70.6 (C-4), 68.4 (C-6), 46.3 (N(Me)3)
出発原料の作成
(化合物7の合成)
p-ニトロフェニル b-D-ガラクトピラノシド(化合物5,SIGMA社)200 mg (0.66 mmol)を脱水ジメチルホルムアミド8 mLに溶解し40°Cに加熱した。そこに三酸化イオウトリメチルアミン(SIGMA社)554 mg (3.98 mmol)の 脱水ジメチルホルムアミド10 mL溶液を30分かけて滴下した。40°Cで90分後、メタノール10 mLを加えて1日撹拌した。反応液を濃縮し、残渣を中圧液体クロマトグラフィー(ODS(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300 nm)で精製し、化合物7を198 mg得た。収率68 %

化合物7のNMRのデータは下記の通りであった。

1H NMR (400 MHz, D2O) d 8.26 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 7.26 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 5.21 (d, 1H, J = 7.2 Hz, H-1 ), 4.26-4.19 (m, 3H, H-6a, 6b, 5), 4.07 (brd, 1H, J = 2.8 Hz, H-4), 3.87 (dd, 1H, J = 7.2, 10.0 Hz, H-2), 3.81 (dd, 1H, J = 3.6, 10.0 Hz, H-3), 2.88 (s, 9H, N(Me)3); 13C NMR (150 MHz, D2O, tBuOH 31.2) d 163.4 (Ar), 144.2 (Ar), 127.7 (Ar), 118.1 (Ar), 101.5 (C-1), 74.8 (C-5), 73.8 (C-3), 71.3 (C-2), 69.8 (C-4), 68.6 (C-6), 46.3 (N(Me)3)
出発原料の作成
(化合物4の合成)
p-ニトロフェニル 1-チオ-b-D-グルコピラノシド(化合物2、SIGMA社)400 mg (1.26 mmol)を脱水ジメチルホルムアミド6 mLに溶解し40°Cに加熱した。そこに三酸化イオウトリメチルアミン(SIGMA社)277 mg(1.99 mmol)の脱水ジメチルホルムアミド5 mL 溶液を30分かけて滴下した。40°Cで90分後、メタノール10 mLを加えて1日撹拌した。反応液を濃縮し、残渣を中圧液体クロマトグラフィー(ODS(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300 nm)で精製し、化合物4を336.9 mg得た。収率59 %。

化合物4のNMRのデータは下記の通りであった。

1H NMR (400 MHz, D2O) d 8.22 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 7.69 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 5.08 (d, 1H, J = 9.6 Hz, H-1), 4.40 (dd, 1H, J = 2.0, 11.6 Hz, H-6a), 4.21 (dd, 1H, J = 6.0, 11.6 Hz, H-6b), 3.87 (ddd, 1H, J = 2.0, 6.0, 9.6 Hz, H-5), 3.61-3.46 (m. 3H, H-2, 3, 4), 2.88 (s, 9H, N(Me)3); 13C NMR (150 MHz, D2O, tBuOH 31.2) d 147.6 (Ar), 144.9 (Ar), 130.6 (Ar), 125.7 (Ar), 87.2 (C-1), 79.2 (C-5), 78.6 (C-3), 73.2 (C-2), 70.6 (C-4), 68.7 (C-6), 46.3 (N(Me)3)
出発原料の作成
(化合物8の合成)
p-ニトロフェニル 1-チオ-b-D-ガラクトピラノシド(化合物6、SIGMA社)300 mg (0.95
mmol)を脱水ジメチルホルムアミド6 mLに溶解し40°Cに加熱した。そこに三酸化イオウトリメチルアミン(SIGMA社)277 mg (1.99 mmol)も脱水ジメチルホルムアミド5 mL溶液を30分かけて滴下した。40°Cで90分後、メタノール10 mLを加えて1日撹拌した後、反応液を濃縮し、残渣を中圧液体クロマトグラフィー(ODS(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300 nm)で精製し、化合物8を277.1 mg得た。収率64 %。

化合物8のNMRのデータは下記の通りであった。

1H NMR (600 MHz, D2O) d 8.20 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 7.66 (d, 2H, J = 9.2 Hz, Ar), 5.04 (d, 1H, J = 9.0 Hz, H-1), 4.22 (dd, 1H, J = 4.8, 11.4 Hz, H-6a), 4.18 (t, 1H, J = 9.3 Hz, H-5) 4.13 (dd, 1H, J = 4.8, 11.4 Hz, H-6b), 4.08 (d, 1H, J = 2.2 Hz, H-4), 3.78-3.71 (m, 2H, H-2, 3), 2.88 (s, 9H, N(Me)3); 13C NMR (150 MHz, D2O, tBuOH 31.2) d 147.4 (Ar), 145.6 (Ar), 130.1 (Ar), 125.8 (Ar), 87.6 (C-1), 78.2 (C-5), 75.3 (C-3), 70.6 (C-2), 70.0 (C-4), 69.0 (C-6), 46.3 (N(Me)3)
【0017】
(実施例1及び2 酵素反応による化合物11および12の合成)
p-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド(SIGMA)9を炭酸水素ナトリウムで中和し、p-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドナトリウム塩10を調製した。次に、化合物3の 207mg(0.47mmol)を酢酸緩衝液(0.1M, pH6.0)1.4mLに溶解し、化合物10の121mg(0.36mmol)と牛肝臓由来β-グルクロニターゼ(SIGMA)5000Uを加え、35℃で24時間反応させた。100℃の水に5分間浸して反応を止め、冷却後、メンブレンフィルター(MILLIPORE Cat. NO. SLGV 013 SL, 0.22μm)でろ過した後中圧液体クロマトグラフィー(ODSカラム(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300nm)で精製した。176.42mgの3(原料のアクセプター)を回収した。化合物11, 12を含むピークを濃縮し、残渣をHPLC(カラム phenomenex Cat. No. 00G-4424-N0, 溶離液 水:メタノール=7:3 0.05%TFA)で精製し、化合物11と12をそれぞれ32mg, 10mgをそれぞれ得た。受容体の消費量からの収率は、18%, 5.6%であった。
GlcA(β1-3)-(6-sulfo)-Glcβ-OpNP(化合物11)の物性は次のとおりであった。

Hz, pNP), 7.255 (d, J = 9.1 Hz, pNP), 5.300 (d, J = 7.7 Hz, H-1), 4.820 (d, J = 7.7 Hz, H-1’), 4.392(dd, J =2.2, 11.4 Hz, H-6a), 4.227 (dd, J = 2.2, 11.4 Hz, , H-6b), 3.970 (ddd, J = 1.8, 5.5, 9.9 Hz, H-5), 3.916 (t, J = 9.0 Hz, H-3), 3.854 (t, J = 9.0 Hz, H-2), δ3.743 (d, J = 9.5 Hz, H-5’), 3.673 (dd, J = 8.8, 9.9 Hz, H-4), 3.558-3.512 (m, H-3’, 4’), 3.425-3.400 (m, H-2’); 13C NMR (150 MHz, t-BuOH 31.2), d 178.3 (C-6’), 164.2 (Ar), 145.2(Ar), 128.6 (Ar), 119.0 (Ar), 105.0 (C-1’), 101.7 (C-1), 85.8 (C-3), 78.2 (C-5’), 77.9 (C-3’), 76.3 (C-5), 75.8 (C-2’), 75.1 (C-2), 74.3 (C-4’), 70.2 (C-4), 69.4 (C-6)
【化11】


GlcA(β1-2)-(6-sulfo)-Glcβ-OpNP(化合物12) の物性は次のとおりであった。

Hz, pNP), 7.204 (d, J= 9.2 Hz, pNP), 5.505 (d, J = 7.3 Hz, H-1), 4.821 (d, J = 8.0 Hz, H-1’), 4.356 (dd, J = 2.22, 11.4 Hz, H-6a), 4.217 (dd, J = 5.5, 11.4 Hz, H-6b), 3.944 (ddd, J =1.8, 5.2, 9.9 Hz, H-5), 3.876-3.804 (m, H-2とH-5’), 3.819 (t, J = 9.2 Hz, H-3), 3.633 (t, J = 9.5 Hz, H-4), 3.555 (t, J = 9.5 Hz, H-3’), 3.436(t, J = 9.3 Hz, H-4’), 3.360-3.313 (overlap, H-2’); 13C NMR (100 MHz, t-BuOH 31.2) d 162.8 (Ar), 144.1 (Ar), 128.0 (Ar), 117.3 (Ar), 104.4 (C-1’), 99.6 (C-1), 84.0 (C-2), 76.5 (C-4’), 76.3 (C-3), 75.3 (C-5), 74.8 (), 72.9 (C-5’), 71.4 (C-2’), 70.1 (C-4), 68.3 (C-6)
【化12】

【0018】
(実施例3 化合物13の合成)
化合物7の287.6mg(0.65mmol)を酢酸緩衝液(0.1M, pH6.0)1.5mLに溶解し、化合物10の110mg(0.33mmol)と牛肝臓由来β-グルクロニターゼ(SIGMA)4000Uを加え、35℃で24時間反応させた。100℃の水に5分間浸して反応を止め、冷却後、メンブレンフィルター(MILLIPORE Cat. NO. SLGV 013 SL, 0.22μm)でろ過した後中圧液体クロマトグラフィー(ODSカラム(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300nm)で精製した。112mgの化合物7を回収した。化合物13を含むピークを濃縮し、残渣をHPLC(カラム phenomenex Cat. No. 00G-4424-N0, 溶離液 水:メタノール=7:3 0.05%TFA)で精製し、化合物13を58.6mg得た。受容体の消費量からの収率は33%である。
GlcA(β1-3)-(6-sulfo)-Galβ-OpNP(化合物13) の物性は次のとおりであった。

Hz, pNP), 7.260 (d, J = 9.2 Hz, pNP), 5.251 (d, J = 7.7 Hz, H-1), 4.725 (d, J = 7.7 Hz, H-1’), 4.331(d, J = 3.3 Hz, H-4), 4.275 (dd J = 9.5 Hz, H-6a)、4.223-4.178 (overlap, H-6bとH-5), 4.025 (dd, J = 7.7, 9.9 Hz, H-2), 3.965 (dd, J = 3.3, 9.9 Hz, H-3), 3.744 (d, J = 9.5 Hz, H-5’), 3.553-3.506 (m, H-3’とH-4’), 3.444 (t, J = 8.6 Hz, H-2’); 13C NMR (100 MHz, t-BuOH 31.2), d 177.5 (C-6’), 163.3 (Ar), 144.2 (Ar), 127.7(Ar), 118.1 (Ar), 105.3 (C-1’), 101.2 (C-1), 83.5 (C-3), 77.8 (C-5’), 76.9 (C-4’), 74.8 (C-5), 74.7 (C-2’), 73.4 (C-3’), 71.0 (C-2), 69.4 (C-4), 69.1 (C-6)
【化13】

【0019】
(実施例4及び5 化合物14および15の合成)

化合物4の 335mg(0.73mmol)を酢酸緩衝液(0.1M, pH6.0)2.0mLに溶解し、化合物10の162mg(0.48mmol)と牛肝臓由来β-グルクロニターゼ(SIGMA)5000Uを加え、35℃で24時間反応させた。100℃の水に5分間浸して反応を止め、冷却後、メンブレンフィルター(MILLIPORE Cat. NO. SLGV 013 SL, 0.22μm)でろ過した後中圧液体クロマトグラフィー(ODSカラム(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300nm)で精製する。294.17mgのアクセプター4を回収した。化合物14, 15を含むピークを濃縮し、残渣をHPLC(カラム phenomenex Cat. No. 00G-4424-N0, 溶離液 水:メタノール=7:3 0.05%TFA)で精製し、化合物14と15をそれぞれ14.7mg, 9.7mg得た。受容体の消費量からの収率は、36%, 24%であった。
GlcA(β1-3)-(6-sulfo)-Glcβ-SpNP(化合物14) の物性は次のとおりであった。

Hz, pNP), 7.633 (d, J = 9.1 Hz, pNP), 5.034 (d, J = 9.9 Hz, H-1), 4.800 (d, J = 7.7 Hz, H-1’), 4.391 (dd, J = 1.9, 11.4 Hz, H-6a), 4.198 (dd, J = 6.2, 11.4 Hz, H-6b), 3.873-3.843 (overlap, H-5), 3.848 (t, J = 9.0 Hz, H-3), 3.742 (dd, J = 2.6, 7.3 Hz, H-5’), 3.684 (dd, J = 9.2, 9.9 Hz, H-4), 3.566-3.3.514 (m, H4’と3’), 3.400 (t, J = 8.6 Hz, H-2’)
13C NMR (150 MHz, D2O tBuOH 31.2), d 146.4 (Ar), 142.7 (Ar), 131.3 (Ar), 125.7 (Ar), 104.0 (C-1’), 87.1 (C-1), 86.9 (C-3), 79.0 (C-5), 76.7 (C-3’), 76.0 (C-5’), 74.6 (C-2’), 72.7 (C-2,4’), 69.2,68.7 (C-6)
【化14】


GlcA(β1-2)-(6-sulfo)-Glcβ-SpNP(化合物15) の物性は次のとおりであった。

Hz, pNP), 7.214 (d, J = 9.2 Hz, pNP), 5.500 (d, J = 7.3 Hz, H-1), 4.798 (d, J = 7.7 Hz, H-1’), 4.361 (dd, J = 1.8, 11.4 Hz, H-6a), 4.220 (dd, J = 5.5, 11.4Hz, H-6b), 3.946 (ddd, J = 1.8, 5.1, 9.9 Hz, H-5), 3.870 (dd, J = 7.7, 9.2 Hz, H-2), 3.826 (t, J = 9.0 Hz, H-3), 3.713 (d, J = 9.5 Hz, H-5’), 3.628 (t, J = 9.5 Hz, H-4), 3.534 (t, J = 9.3 Hz, H-3’), δ3.419 (t, J = 9.3 Hz, H-4’), 3.362-3.325 (overlap, H-2’); 13C NMR (150 MHz, t-BuOH 31.2), d164.2 (Ar), 143.1(Ar), 131.0 (Ar), 125.6 (Ar), 104.5 (C-1’), 84.9 (C-1), 79.2 (C-2), 78.8 (C-5), 76.7 (C-3’), 76.3 (C-5’), 74.7 (C-2’), 72.8 (C-4’), 68.7 (C-6)
【化15】

【0020】
(実施例6 化合物16の合成)
化合物8 の276mg(0.61mmol)を酢酸緩衝液(0.1M, pH6.0)2.0mLに溶解し、化合物10の100.1mg(0.30mmol)と牛肝臓由来β-グルクロニターゼ(SIGMA)5000Uを加え、35℃で24時間反応させた。100℃の水に5分間浸して反応を止め、冷却後、メンブレンフィルター(MILLIPORE Cat. NO. SLGV 013 SL, 0.22μm)でろ過した後中圧液体クロマトグラフィー(ODSカラム(YAMAZEN Cat No. 7488), 溶離液 H2O, 波長300nm)で精製した。116.86mgの(8)を回収した。化合物16を含むピークを濃縮し、残渣をHPLC(カラム phenomenex Cat. No. 00G-4424-N0, 溶離液 水:メタノール=7:3 0.05%TFA)で精製し、化合物16を25mg得た。受容体の消費量からの収率は、21%であった。

GlcA(β1-3)-(6-sulfo)-Galβ-SpNP(化合物16) の物性は次のとおりであった。

9.2 Hz, pNP), 7.912 (d, J = 9.2 Hz, pNP), δ5.082 (d, J = 9.9 Hz, H-1), δ4.778 (d, J = 7.7 Hz, H-1’), δ4.438 (d, J = 2.6 Hz, H-4), δ4.408 (d, J = 5.5Hz, H-6a,6b), δ4.239 (t, J = 5.7 Hz, H-5), δ4.058 (t, J = 9.5 Hz, H-2), δ3.942 (dd, J = 2.8, 12.1 Hz, H-3), δ3.813 (d, J = 7.3 Hz, H-5’), δ3.473-3.409 (m, H-4’とH-3’), δ3.528-3.4846 (overlap, H-2’)
13C NMR (100 MHz, CD3OH 49.0), d 147.2 (Ar), 146.8 (Ar), 129.9 (Ar), 124.9 (Ar), 105.5 (C-1’), 87.5 (C-1), 86.1 (C-3), 78.3 (C-5), 77.5 (C-4’), 75.2 (C-3’), 73.6 (C-2’), 69.8 (C-3’), 69.6 (C-2), 69.4 (C-4) 68,9 (C-6)
【化16】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のグルクロニル硫酸化2糖誘導体は、様々な生理活性を有するグリコサミノグリカン分子の誘導体であり、医薬品開発の観点からも興味ある誘導体であり、産業上の利用可能性は高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

〔式(I)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体。
【請求項2】
下記一般式(II)
【化2】

〔式(II)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体。

【請求項3】
下記一般式(III)
【化3】

〔式(III)中、Xは、酸素原子、または、硫黄原子を示し、Yは、ニトロ基、または、アミノ基を示し、R1、および、Rは、生理的に許容される塩を示す。〕で表されるグルクロニル硫酸化2糖誘導体。


【公開番号】特開2006−347993(P2006−347993A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179153(P2005−179153)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】