説明

グルコシルセラミドの精製方法

【課題】 植物および菌類から抽出したグルコシルセラミドを、効率よく、簡便に精製する方法を提供する。
【解決手段】 植物および菌類から有機溶媒抽出を行った抽出液に、水を加えた後、遠心分離をして沈殿物を回収することを特徴とする、茸類から抽出したグルコシルセラミドを精製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物および菌類から抽出されたグルコシルセラミドの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドは人間の皮膚の角質層に細胞間脂質として存在し、バリアー機能・皮膚保湿機能に深く関与していることが知られており、皮膚の保湿・保護作用に不可欠の脂質である。植物や茸類由来のグルコシルセラミドについては、乾燥肌対策の機能性食品・化粧品用途として広く使用されており、皮膚機能の改善に効果があることが分かってきた。
【0003】
グルコシルセラミドの原料としては、コメヌカ、コムギ、コーン、コンニャクなどの穀類や、タモギタケ、マイタケなどの茸類、また動物原料では哺乳動物の乳などが使用されている。これらの原料の組織の一部または全体、あるいは一次加工、二次加工品などから、有機溶媒や超臨界流体などによって抽出する方法が一般的であった。
【0004】
しかし、これらの原料は、いずれもグルコシルセラミドの含有量が少なく、抽出物中の純度も0.1重量%から5重量%程度と低いため、製造コストが高くなるという問題点があった。また、抽出物には中性脂質、遊離脂肪酸、コレステロール系脂質などが大部分を占めている。さらに、ノネナールなどの微量の悪臭成分や、脂肪酸などの着色成分が含まれていることから、食品・化粧品用途に使用するためには何らかの精製を行う必要があった。したがって、純度の高い天然のグルコシルセラミドを低コストで製造する方法が切望されていた。
【0005】
グルコシルセラミドを含む脂質抽出物の脱臭、脱色のための精製方法としては、抽出物を水と接触させる方法あるいは水と接触させた後さらに加熱処理する方法(例えば、特許文献1、2参照)、抽出物を濃縮し、再度抽出に用いた溶媒等を少量添加し、不溶物を分別除去する方法(例えば、特許文献3参照)、抽出物を水中に懸濁分散した後、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機物及び/又は無機酸の塩を添加して塩析し、凝集物から脂質成分を回収する方法(例えば、特許文献4参照)、あるいはカラム精製を行う方法(例えば、特許文献5参照)などがある。
【0006】
本明細書において引用される参考文献は以下のとおりである。これらの文献に記載される内容はすべて本明細書の一部としてここに引用する。これらの文献のいずれかが、本明細書に対する先行技術であると認めるものではない。
【特許文献1】特開2004−168738号公報
【特許文献2】特開平11−279586号公報
【特許文献3】特開2002−294274号公報
【特許文献4】特開2006−104351号公報
【特許文献5】特開2002−294274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、植物および菌類から抽出したグルコシルセラミドを効率よく簡便に精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、茸類から有機溶媒によって抽出された抽出液に水を加えた後、遠心分離をして沈殿物を回収することによって、グルコシルセラミドを精製することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、植物および菌類から有機溶媒によってグルコシルセラミドを含む抽出物を抽出した後、水を加えて遠心分離をして沈殿物を回収することを特徴とするグルコシルセラミドの精製方法である。好ましくは、得られる精製物のグルコシルセラミド含量は5〜10質量%である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グルコシルセラミド抽出物を簡便に脱色・脱臭することができ、グルコシルセラミド含有量の高い抽出物を簡便に得ることができる。本発明の方法によって得られるグルコシルセラミドは、食品や、化粧品などに配合するのに有用である。また、本発明の方法は、カラム処理などの高度精製法と比較すると、有機溶剤や他の薬品等の使用がないため、コストが低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
茸類からグルコシルセラミドを抽出するためには、既知のグルコシルセラミド抽出法の任意のものを用いることができる。まず、茸類の子実体または石突きを、そのまま、あるいは水または熱水で水溶性成分を除いた後に、乾燥する。方法としては、風乾、熱乾燥、真空乾燥など、慣用の乾燥方法のいずれを用いてもよく、乾燥後の水分含有量は、後の工程を考慮して適宜選択することができる。次に、乾燥試料を破砕して粉体とし、グルコシルセラミドを抽出する。抽出溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、ヘキサン、クロロホルム等の、脂質を溶解することができる任意の有機溶媒を用いることができる。また、水とアルコール類の混合物を用いてもよく、アルカリ性エタノール溶液を用いてもよい。あるいは、超臨界抽出法により二酸化炭素で抽出してもよい。
【0013】
抽出に使用する溶剤の量としては、原料に対して好ましくは1〜30倍量程度、さらに好ましくは5〜10倍量程度がよい。
【0014】
抽出温度は、好ましくは、0℃から80℃、さらに好ましくは室温程度から60℃の範囲がよい。
【0015】
抽出時間は、30分〜48時間、好ましくは1〜20時間である。
【0016】
抽出操作は1回のみの回分操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶剤を添加し、抽出操作を行うこともできるし、抽出溶剤を複数回抽出原料に接触させることも可能である。
【0017】
このような抽出操作を行った後、抽出残渣を分離除去し、有機溶媒抽出物をロータリーエバポレーターなどで濃縮して、抽出濃縮液を得る。濃縮の程度は、抽出に用いた溶媒の種類や量、原料に含まれるセラミド以外の成分の種類や量、収率などを考慮して、適宜選択し調節することができる。次にこの抽出濃縮液に水を加えて攪拌した後、遠心分離を行い、水相と油相に分離し、沈降したグルコシルセラミドを回収する。加える水の量としては、抽出濃縮液1重量部に対して水4〜6重量部が好ましい。
【0018】
遠心分離の条件としては、5,000rpm〜10,000rpm、30分〜1時間程度でよい。次に上清を除去して沈殿物を回収する。回収した沈殿物はロータリーエバポレーターなどで溶媒を留去する。
【0019】
本発明の精製方法の好ましい態様においては、抽出濃縮物をエタノールに再溶解して、遠心分離で不溶性成分の除去を行う。次にこのエタノール溶液に水を加えて攪拌した後、遠心分離を行い、水相と油相に分離し、沈降したグルコシルセラミドを回収する。
【0020】
この場合、濃縮物に加えるエタノールの量としては、抽出物に対して1〜10倍量が好ましく、さらに好ましくは3〜6倍量である。次に加える水の量としては、加えたエタノールに対して0.5〜2倍量が好ましく、さらに好ましくは1〜1.5倍量である。
【0021】
本発明においては、必要に応じて公知の精製工程を付加しても良い。
【0022】
このようにして得られた、グルコシルセラミド含有組成物は、低分子の水溶性の臭い成分量が著しく低下しており、相対的に、脂質組成物に占めるスフィンゴ糖脂質の含有量が、向上する利点も有する。
【0023】
本発明のグルコシルセラミド含有組成物におけるグルコシルセラミドの含有量は、3重量%〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは5重量%〜8重量%である。
【0024】
本発明におけるグルコシルセラミドの含量は、以下のようにして定量されたものである。グルコシルセラミドの定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。日立HPLCシステム、検出は光散乱検出器(ウォーターズ社製 2420ELSD)、カラムはInertsil SIL-100A-5(GL Science社製、4.0×250mm)を用いた。溶媒はクロロホルム、メタノール/水=95/5のグラジエント、流速1.0ml/分で測定した。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0026】
製造例1
生のタモギタケ50kgを300Lの沸騰水に入れ、5分間ボイルを行った。ボイル後水道水で25℃に冷却し、65℃の熱風式乾燥機で8時間乾燥した。乾燥後粉砕機で0.2mm以下に粉砕し、タモギタケ乾燥粉末3.5kgを得た。繰り返し操作で得られたタモギタケ乾燥粉末20kgをΦ300mm、高さ1,000mmのステンレス製カラムに入れ、エタノールを入れてフタをした。加圧エアをカラム内圧が0.4MPaになるよう上から入れ、カラム下から抽出液を回収した。エタノールは合計100L使用して、カラム下から80L抽出液を回収した。繰り返し操作で得られた抽出液400Lを減圧濃縮機で50℃、-0.95MPa、毎時60L蒸発で濃縮乾固して、4.5kgのペースト状の抽出物を得た。この抽出物のグルコシルセラミド含有量は4.6%であった。
【0027】
実施例1
製造例1で得られた抽出物500gにエタノール5Lを加え、ホットスターラー上で加熱攪拌しながら完全に溶解した。次に4℃で2時間以上冷却して沈殿を生じさせた後、5000rpm、15℃にて30分間遠心した。上清を回収後、等量の蒸留水を加え、室温にて一晩攪拌した。5000rpm、15℃にて30分間遠心後、上清と沈殿下層(茶色の沈殿)を吸引により除去し、沈殿上層を回収し、エバポレーターによりエタノールと水を留去した。回収物は227g、グルコシルセラミド含有量は6.2%であった。
【0028】
実施例2
製造例1で得られた抽出物1000gにエタノール5Lを加え、ホットスターラー上で加熱攪拌しながら完全に溶解した。次に4℃で2時間以上冷却して沈殿を生じさせた後、5000rpm、15℃にて30分間遠心した。上清を回収後、等量の蒸留水を加え、室温にて一晩攪拌した。5000rpm、15℃にて30分間遠心後、上清と沈殿下層(茶色の沈殿)を吸引により除去し、沈殿上層を回収し、エバポレーターによりエタノールと水を留去した。回収物は500g、グルコシルセラミド含有量は5.5%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物および菌類から有機溶媒抽出を行った抽出濃縮液に、水性溶媒を加えた後、遠心分離をして沈殿物を回収することを特徴とする、植物および菌類から抽出したグルコシルセラミドを精製する方法。
【請求項2】
植物および菌類から有機溶媒抽出を行った抽出液を濃縮した後にエタノールに溶解し、エタノール溶液1重量部に対して水を0.5〜2重量部加えた後、5000rpm以上、30分以上遠心分離をして沈殿物を回収することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物および菌類が米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、タモギタケ、シイタケ、なめこ、マイタケ、エノキタケ、ひらたけ、ブナシメジ、エリンギ、アガリクス、マッシュルームからなる群より選択される,請求項1−2のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−106124(P2010−106124A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278547(P2008−278547)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(500451632)株式会社スリービー (4)
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【Fターム(参考)】