説明

グルコースセンサチップ

【課題】 本発明では、測定感度の高いセンシング膜を有するグルコースセンサチップを提供する。
【解決手段】 基板2の主面上に互いに離間して設けられた一対のグレーティング4を含む光導波路層3と、一対のグレーティング4間の光導波路層3部分にセンシング膜5を備え、センシング膜5は、膜形成高分子化合物、架橋性高分子化合物、及び多孔質化低分子化合物から形成され、膜中に発色剤、グルコースを酸化または還元させる第1酵素、及び第1酵素の生成物と反応し、発色剤を発色させる物質を生成する第2酵素を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースセンサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のグルコースセンサチップ11は、図6に示すように、基板12の主面上に設けられ、両端部にグレーティング14を有する光導波路層13と、グレーティング14間の光導波路層13部分の表面に設けられ、検体溶液中のグルコースに反応して変色するセンシング膜15とを備えている。
【0003】
そして、センシング膜15は、膜形成高分子化合物(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)のようなセルロース誘導体)及び架橋性高分子化合物(例えば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とブチルメタクリレート(BMA)との共重合体)により形成され、膜中に発色剤(例えば3,3’、5,5‘−テトラメチルベンジン(TMBZ))と、グルコースを酸化または還元させる第1酵素(例えばグルコースオキシダーゼ(GOD))と、この第1酵素による生成物と反応して発色剤を発色させる物質を発生する第2の酵素(例えばペルオキシダーゼ(POD))とを保持している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275994号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の特許文献1に記載のグルコースセンサチップでは、センシング膜は、膜形成高分子化合物のバインダーとして機能するセルロース誘導体が、分子間で水素結合をするため経時的に膜が密になり、凝集を引き起こす。そのため、透水性が低下し、それに伴い検体溶液が膜へ浸透し難くなり、測定感度が低下しやすいという課題がある。
【0006】
本発明では、上記課題に鑑み、測定感度の高いセンシング膜を有するグルコースセンサチップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のグルコースセンサチップは、基板の主面上に互いに離間して設けられた一対のグレーティングを含む光導波路層と、前記一対のグレーティング間の前記光導波路層部分の表面に設けられたセンシング膜とを備え、前記センシング膜は、膜形成高分子化合物、架橋性高分子化合物及び低分子化合物により形成され、膜中に発色剤と、グルコースを酸化または還元させる第1酵素と、前記第1酵素の生成物と反応し、前記発色剤を発色させる物質を生成する第2酵素とを保持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、測定感度の高いセンシング膜を有するグルコースセンサチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るグルコースセンサチップを示す断面図。
【図2】本発明の実施形態に係るトレハロースを添加した場合のグルコースセンサチップ及び従来のグルコースセンサチップにおける保存期間の経過に伴う吸光度(感度)の変化を示すグラフ。
【図3】本発明の実施形態に係るスクロースを添加した場合のグルコースセンサチップ及び従来のグルコースセンサチップにおける保存期間の経過に伴う吸光度(感度)の変化を示すグラフ。
【図4】本発明の実施形態に係るグルコースセンサチップのトレハロースとスクロースの添加濃度と吸光度の関係を示すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係るトレハロースを添加したグルコースセンサチップ及び従来のグルコースセンサチップのセンシング膜の状態を示すSEM画像。
【図6】従来のグルコースセンサチップを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るグルコースセンサチップを、図1乃至図4を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、グルコースセンサチップ1は、基板2と、光導波路層3と、センシング膜5とから構成される。
【0012】
光導波路層3は、基板2の主面上に設けられており、両端部に光を入射、放出する一対のグレーティング4を有する。なお、基板2は光透過性のガラスで構成されている。
【0013】
この光導波路層3は、一例として、平面光導波路層が用いられる。この平面光導波路層は、例えば酸化シリコン、ガラス、酸化チタン、またはフェノール樹脂やエポキシ樹脂のような有機系樹脂材料で形成される。また、平面光導波路層は、所定の光に対して透過性を有する材料が望まれ、好ましくは、ポリスチレンを主たる材料とするエポキシ樹脂等である。
【0014】
センシング膜5は、透明な膜からなり、一対のグレーティング4間の光導波路層3部分の表面に設けられている。このセンシング膜5は、膜形成高分子化合物、架橋性高分子化合物及び低分子化合物により形成されており、この膜中には、発色剤、グルコースを酸化または還元させる第1酵素、この第1酵素の生成物と反応し、発色剤を発色させる物質を発生させる第2酵素が活性を保った状態で保持されている。
【0015】
上記センシング膜5中の発色剤と第1酵素、第2酵素は、例えば下表1に示す組み合わせで用いられる。
【表1】

【0016】
膜形成高分子化合物としては、例えばセルロース系高分子化合物を挙げることができる。イオン性セルロース誘導体または非イオン性セルロース誘導体を用いることができる。
【0017】
イオン性セルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロース、硫酸セルロースまたはその塩化合物のアニオン性セルロース誘導体及びその塩化合物、キチン、キトサン等のカチオン性セルロース誘導体またはそれらの塩酸塩等の塩化合物等を挙げることができ、これらは単体または混合物の形態で用いることができる。ここで、塩化合物としては、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0018】
非イオン性セルロース誘導体は、例えばメチルセルロース、エチルセルロースのようなアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースのようなヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシジエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースのようなヒドロキシアルキルアルキルセルロース;及びミクロフィブロ化セルロース等を挙げることができ、これらは単体または混合物の形態で用いることができる。
【0019】
架橋性高分子化合物としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、イオン性官能基から選ばれる少なくとも1つに基を持つ親水性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体を挙げることができる。この親水性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体は、特に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとブチルメタクリレートとの共重合体であることが望ましいことを実験にて確認している。
【0020】
また、架橋性高分子化合物は、センシング膜5の全組成物に関する重量比で10−4〜10重量%含有されることが好ましい。架橋性高分子化合物の含有量を全組成物に対して10−4重量%未満にすると、加温状態で膜構造が溶解して崩壊したり、膜構造中の空隙に保持している発色剤や酵素等が外部媒体に溶出したりすることを防ぐことが困難になる。一方、架橋性高分子化合物の含有量が10重量%を超えると、膜中の発色剤や酵素の量が相対的に低下して測定感度が低下する虞がある。
【0021】
低分子化合物は、膜を構成する物質全体の約1.8%を占めており、例えばトレハロースやスクロース、マルトース等の二糖類を用いることができる。特にトレハロースを使用することが望ましいことを実験にて確認している。
【0022】
また、低分子化合物を添加するときの濃度は、約2μM以上であることが望ましい。その理由として、2μMよりも濃度が低い場合、膜の凝集を防ぐには少なすぎるため、検体溶液との反応が難しくなるためである。一方、あまり濃度を高くし過ぎると(例えば200μM以上)膜が不透明になるため、光導波路層3内を伝搬する光に対して、光を散乱させる散乱体として働き、その結果測定感度が低下し、更に測定の再現性も悪化するからである。
【0023】
次に、図2と図3を参照して、本実施形態のグルコースセンサチップ1の測定感度について説明する。
【0024】
図2は、本実施形態としてセンシング膜中にトレハロースを添加したもの及び従来のグルコースセンサチップ11における保存期間の経過に伴う吸光度(感度)を測定した結果を示したグラフである。この測定で添加されたトレハロースは一定(約130μM)であり、センシング膜を形成してから37℃の保存状態で0日後、3日後、5日後経過した本実施形態及び従来のグルコースセンサチップのセンシング膜に、濃度0.25mg/d?のグルコース水を3μ?滴下した後、図1に示すように、レーザ光を基板2の裏面側から入射することにより、そのレーザ光を入射側のグレーティング4で屈折させてセンシング膜5中を伝播させた後、出射側グレーティング4で屈折させて受光素子で受光し、レーザ光強度(吸光度)を測定した。
【0025】
その結果、本実施形態のグルコースセンサチップ1では、0日後の吸光度を1とすると、3日後と5日後の吸光度は約1.1となり、日数が経過しても吸光度が低下しないことが分かる。
【0026】
一方、従来のグルコースセンサチップ11では、0日後の吸光度を1とすると、3日後の吸光度は約0.76に低下し、5日後の吸光度は約0.72にさらに低下している。このことから、従来のグルコースセンサチップ11は、日数が経過するにつれ、吸光度が低下していくことが分かる。このことから、本実施形態のグルコースセンサチップ1は、従来のグルコースセンサチップ11に比べて測定感度を安定に維持できることが分かる。
【0027】
図3は、本実施形態としてセンシング膜中にスクロースを添加したもの及び従来のグルコースセンサチップ11における保存期間の経過に伴う吸光度(感度)を測定した結果を示したグラフである。この測定で添加されたスクロースは一定(約130μM)であり、図2の時と同様にセンシング膜を形成してから37℃の保存状態で0日後、3日後、5日後経過した本実施形態及び従来のグルコースセンサチップ11のセンシング膜に、濃度0.25mg/d?のグルコース水を3μ?滴下した後、図1に示すように、レーザ光を基板2の裏面側から入射することにより、そのレーザ光を入射側のグレーティング4で屈折させてセンシング膜5中を伝播させた後、出射側グレーティング4で屈折させて受光素子で受光し、レーザ光強度(吸光度)を測定した。
【0028】
その結果、従来のグルコースセンサチップ11の結果は図2での結果と同様であり、本実施形態のグルコースセンサチップ1では、0日後の吸光度を1とすると、3日後の吸高度は約0.95であり、5日後の吸光度は約0.9となった。このことから、トレハロースを添加した場合より吸光度の低下がみられるものの、スクロースを添加しなかった場合より、吸光度が低下しないことが分かる。
【0029】
図2と図3の結果から、本実施形態のグルコースセンサチップ1は、従来のグルコースセンサチップ11に比べて測定感度を安定に維持できることが分かる。
【0030】
図4は、本実施形態のグルコースセンサチップにおいて、低分子化合物としてトレハロースとスクロースをセンシング膜にそれぞれ約2μM、約13μM、約25μM、約130μM添加したものを用意し、5日経過したものの吸光度を測定した結果を示したグラフである。なお、この測定においては、グルコースの濃度及び滴下量は、上述の保存期間の経過に伴う吸光度(感度)を測定の場合と同じである。
【0031】
その結果、トレハロースを添加した場合、濃度が約2μMの場合には約0.77となり、約13μMの場合には約0.79、約25μMの場合には約0.88、約130μMの場合には約1.11となった。また、スクロースを添加した場合、濃度が約2μMの場合には約0.76となり、約13μMの場合には約0.79、約25μMの場合には約0.83、約130μMの場合には約0.93となった。
【0032】
このことから、添加した低分子化合物の濃度が約2μM、約13μM、約25μM、約130μMの場合、5日経過したものにおいて全て従来のグルコースセンサチップ11に比べて吸光度は高く、測定感度を安定して維持できることが分かる。従って、上述したように、低分子化合物の添加濃度は、約2μM以上であることが望ましいと分かる。
【0033】
次に、図5を参照し、本実施形態で測定感度を安定して維持出来ると考えられるトレハロースを添加したもの及び従来のグルコースセンサチップ11において、膜形成後の5日経過したセンシング膜の表面状態について説明する。
【0034】
図5(a)は本実施形態のグルコースセンサチップ11のセンシング膜表面のSEM写真で、図5(b)は従来のグルコースセンサチップ1のセンシング膜表面のSEM写真である。なお、添加するトレハロース濃度は約130μMとしたものである。
【0035】
図5(a)に示す本実施形態のグルコースセンサチップ1では、約0.5μm以下の大きさの孔がセンシング膜の表面全体にわたって形成されている。しかし、図5(b)に示す従来のグルコースセンサチップ11では、約0.5μm以下の大きさの孔が形成されていない。即ち、図5(a)に示す本実施形態のグルコースセンサチップ1では、センシング膜は多孔質(透光性)膜となっていることが分かる。
【0036】
図5(a)に示す本実施形態のセンシング膜の表面全体にわたって約0.5μm以下の孔が形成される理由としては、例えばトレハロースのような低分子化合物を混合させることにより、低分子化合物が膜形成高分子化合物のバインダーとして機能するセルロース誘導体の分子間に入り込んでセルロース誘導体と水素結合し、セルロース誘導体の分子間同士での水素結合による凝集を抑制するためである。なお、約0.5μm以上の略円形状のものは、水素結合による凝集を引き起こしているものである。
【0037】
このことから、本実施形態のグルコースセンサチップ1では、センシング膜は多孔質膜となっているため、従来のグルコースセンサチップ11に比べてより透水性が高く、膜内に検体溶液が浸透し易いとが分かる。
【0038】
以上、本実施形態によれば、測定感度の高い多孔質膜のセンシング膜を有するグルコースセンサチップを提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1,11…グルコースセンサチップ
2,12…基板
3,13…光導波路層
4,14…グレーティング
5,15…センシング膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主面上に互いに離間して設けられた一対のグレーティングを含む光導波路層と、前記一対のグレーティング間の前記光導波路層部分の表面に設けられたセンシング膜とを備え、
前記センシング膜は、膜形成高分子化合物、架橋性高分子化合物及び低分子化合物により形成され、膜中に発色剤、グルコースを酸化または還元させる第1酵素、及び前記第1酵素の生成物と反応し、前記発色剤を発色させる物質を生成する第2酵素を保持する、
ことを特徴とするグルコースセンサチップ。
【請求項2】
前記低分子化合物は、二糖類であることを特徴とする請求項1記載のグルコースセンサチップ。
【請求項3】
前記二糖類の低分子化合物が、トレハロース、スクロース、マルトースからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載のグルコースセンサチップ。
【請求項4】
前記センシング膜における前記低分子化合物の濃度が、2μM〜200μMであることを特徴とする請求項1記載のグルコースセンサチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127937(P2011−127937A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284581(P2009−284581)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】