グルタミニル、及びグルタミン酸シクラーゼのエフェクターの使用
本発明は、哺乳動物グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)の新規生理学的基質、新しいQCエフェクター、及び前記エフェクターの使用、並びにQC-活性の調節により治療され得る疾患、例えば、哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療用の前記エフェクターを含む医薬組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アンモニアの遊離下における、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリン、pGlu*)への分子内環化反応、及び水の遊離下における、N末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化反応を触媒する、グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)に関するものである。
本発明は、哺乳動物QCを金属酵素として同定し、哺乳動物における新規の生理学的基質、QCの新規エフェクター、及びQC活性の調節によって治療可能な病態の治療のための、QCのエフェクターの使用、及びQCのエフェクターを含む医薬組成物を提供する。さらに、金属相互作用が、QCインヒビターの開発に有用なアプローチであることが示される。
好ましい実施態様において、本発明は、QC、及びDP IV活性の調節によって治療可能な病態の治療、又は緩和のために、DP IV、又はDP IV様酵素のインヒビターを組合せるQC活性のエフェクターの使用を提供する。
また、QC活性のエフェクターの同定、及び選定のためのスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)は、アンモニアの遊離を伴う、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化反応を触媒する。QCは、1963年にMesserが熱帯植物パパイヤ(Carica papaya)のラテックスからはじめて精製された(Messer, Mの論文、1963 Nature 4874, 1299)。24年後、類似の酵素活性が、動物脳下垂体において発見された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H. 及びSpiess, J.の論文1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。該哺乳動物QCにおいて、QCによる pGluへのGln の転換は、TRH 及びGnRHの前駆体に見ることができる(Busby, W. H. J.らの論文1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H. 及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。その上、QCの初期局在実験によって、ウシ脳下垂体における触媒の推定的産物との同一場所での局在が明らかになり、さらに、ペプチドホルモン合成における示唆された機能が裏付けられた(Bockers, T. M.らの論文、1995 J Neuroendocrinol 7, 445-453)。これに対し、植物QCの生理学的機能は、明らかでない。C.パパイヤ由来の該酵素の場合、病原微生物に対する植物防御における役割が示唆された(El Moussaoui, A.らの論文、2001 Cell Mol Life Sci 58, 556-570)。近年、配列比較によって、他の植物からの推定上QCが同定された(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。これらの酵素の生理学的機能は、依然として明らかとなっていない。
【0003】
植物、及び動物由来の公知のQCは、基質N末端のL-グルタミンに高い特異性を示し、その速度論的挙動は、ミカエリス−メンテン式に従うことが見い出された(Pohl, T.らの論文、1991 Proc Natl Acad Sci U S A 88, 10059-10063;Consalvo, A. P.らの論文、1988 Anal Biochem 175, 131-138;Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。しかしながら、C.パパイヤ由来QC、及び保存性の高い哺乳動物由来のQCの一次構造の比較では、配列の相同性がないことが明らかになった(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。該植物QCが、新しい酵素ファミリーに属していると思われるのに対し(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)、哺乳動物QCは細菌アミノペプチダーゼと顕著な配列相同性をもつことが見い出され(Bateman, R. C.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、植物、及び動物由来のQCは異なる進化上の起源をもつという結論が導かれた。
【0004】
欧州特許出願公開第02 011 349.4号には、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードしているポリヌクレオチド、それによってコードされるポリペプチドが開示されている。さらに、この出願は、該発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。昆虫QCを含む精製ポリペプチド、及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を低下させる薬剤のスクリーニング方法において有用である。そのような薬剤は、殺虫剤と同様に有用であると記載されている。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、神経細胞変性、活性化アストロサイト、及び活性化マイクログリアが密接に関連する細胞外アミロイド斑の異常蓄積が特徴である(Terry, R. D.、及びKatzman, R.の論文、1983 Ann Neurol 14, 497-506;Glenner, G. G.、及びWong, C. W.の論文、1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890;Intagaki, S.らの論文、1989 J Neuroimmunol 24, 173-182;Funato, H.らの論文、1998 Am J Pathol 152, 983-992;Selkoe, D. J.の論文、2001 Physiol Rev 81, 741-766)。アミロイド-β(Aβ)ペプチドは老人斑の主要構成成分であり、ADの発病、及び進行、遺伝学的研究が支持する仮説に直接関与していると考えられている(Glenner, G. G.、及びWong, C. W.の論文、1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890;Borchelt, D. R.らの論文、1996 Neuron 17, 1005-1013;Lemere, C. A.らの論文、1996 Nat Med 2, 1146-1150;Mann, D. M.、及びIwatsubo, T.の論文、1996 Neurodegeneration 5, 115-120;Citron, M.らの論文、1997 Nat Med 3, 67-72;Selkoe, D. J.の論文、2001 Physiol Rev 81, 741-766)。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質から(Kang, J.らの論文、1987 Nature 325, 733-736;Selkoe, D. J. 1998 Trends Cell Biol 8, 447-453)、AβのN末端でベータセクレターゼ、及びC末端でのガンマセクレターゼにより配列切断されるタンパク質分解プロセスによって生成される(Haass, C.、及びSelkoe, D. J.の論文 1993 Cell 75, 1039-1042;Simons, M.らの論文、1996 J Neurosci 16 899-908)。該N末端がL-Aspで始まる主要なAβペプチド(Aβ1-42/40)に加えて、N末端切断型の多異種混合が老人斑に生じる。そのような短縮型ペプチドは、フルレングス型に比べてインビトロでより神経毒性が高く、より急速に凝集することが報告された(Pike, C. J.らの論文、1995 J Biol Chem 270 23895-23898)。N末端切断型ペプチドは、家族性アルツハイマー病(FAD)患者において過剰生成されること(Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466;Russo, C.らの論文、2000 Nature 405, 531-532)、ダウン症の脳で早期に出現し、加齢とともに増加することが知られている(Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416, Russo, C.らの論文、2001 Neurobiol Dis 8, 173-180;Tekirian, T. L.らの論文、1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94)。最後に、それらの量は該疾患の進行性重症度を反映する(Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416)。さらに、付加的翻訳後プロセスは、1及び7位のアスパラギン酸の異性化、又はラセミ化によって、及び残基3及び11位のグルタミン酸の環化によって、N末端を改質し得る。3位にピログルタミン酸を含む異性体[pGlu3]Aβ(3-40/42)は、老人斑内のN末端切断種の顕著な型で、−全Aβ量の約50%−を占め(Mori, H.らの論文、1992 J Biol Chem 267, 17082-17086;Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466;Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416;Tekirian, T. L.らの論文、1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94;Geddes, J. W.らの論文、1999 Neurobiol Aging 20, 75-79;Harigaya, Y.らの論文、2000 Biochem Biophys Res Commun 276, 422-427)、かつ、それはアミロイド傷害以前にも存在する(Lalowski, M.らの論文、1996 J Biol Chem 271, 33623-33631)。[pGlu3]Aβ(3-40/42)ペプチドの蓄積は、凝集を増進しほとんどのアミノペプチダーゼに対する耐性を付与する、構造上の改質によるものと思われる(Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466 ;Tekirian, T. L.らの論文、1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。この証拠は、アルツハイマー病の発症機序における[pGlu3]Aβ(3-40/42)ペプチドのきわめて重要な役割の手掛かりを提供する。しかしながら、それらの神経毒性、及び凝集特性は比較的ほとんど知られていない(He, W.、及びBarrow, C. J.の論文、1999 Biochemistry 38, 10871-10877;Tekirian, T. L.らの論文、1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。さらに、活性化グリアは厳密に老人斑に関連しており、アミロイド沈着の蓄積に積極的に寄与しうるが、該イソ型のグリア細胞への作用、及び該ペプチドへのグリア反応は全く知られていない。近年の研究では、Aβ(1-42)、Aβ(1-40)、[pGlu3]Aβ(3-42)、及び[pGlu3]Aβ(3-40)ペプチドの毒性、凝集特性、及び異化を神経細胞培養、及びグリア細胞培養で調べ、かつピログルタミン酸改質がAβ-ペプチドの毒性を高め、さらに培養アストロサイトによる該ペプチドの分解を阻害することが示された。Shirotaniら(2002)は、インビトロでシンドビスウィルスにより感染した初代皮質神経細胞における[pGlu3]Aβ-ペプチドの産生を調べた。彼らは、アミノ酸置換、及びアミノ酸欠失により、[pGlu3]Aβの潜在前駆体をコードするアミロイド前駆体タンパク質相補的DNAを作成した。本来の前駆体のグルタミン酸の代わりにN末端グルタミン残基ではじまる1種の人工前駆体では、グルタミニルシクラーゼによるピログルタミン酸への自然転換、又は酵素的転換が示唆された。[pGlu3]Aβの本来の前駆体における3位のN末端グルタミン酸の環化機構は、インビボでは確定されなかった(Shirotani, K.らの論文、(2002)Neurosci Lett 327, 25-28)。
【0006】
家族性英国型認知症(Familial British Dementia) (FBD)、及び家族性デンマーク型認知症(Familial Danish Dementia)(FDD)は、認知機能障害、痙縮、及び小脳性運動失調により特徴付けられる、早期発症常染色体優性疾患である(Ghiso, J. らの論文 2000, Ann N Y Acad Sci 903, 129-137; Vidal, R. らの論文 1999, Nature 399, 776-781; Vidal, R. らの論文 2004, J Neuropathol Exp Neurol 63, 787-800)。アルツハイマー病に類似して、広範囲の実質、及び血管アミロイド沈着が、海馬神経変性、補体、及びグリアの活性化に付随して、患者に形成される(Rostagno, A. らの論文 2002, J Biol Chem 277, 49782-49790)。該疾患は、野生型BRIに比べてアミノ酸が11個長いオープンリーディングフレームに導く該BRI遺伝子(SwissProt Q9Y287)の異なる変異により生じる。FBDの場合、該ORFの変化は、BRI (BRI-L)の終止コドンの変異により生じ、一方、FDDにおいて、10-ヌクレオチド重複-挿入が、より大きいBRI (BRI-D)へと導く(Ghiso J. らの論文 2001 Amyloid 8, 277-284; Rostagno, A. らの論文 2002 J Biol Chem 277, 49782-49790)。染色体13にコードされているクラス2膜貫通型タンパク質であるBRIは、該C-末端領域のフリン(furin)、及び他のプロホルモン転換酵素により処理され、23アミノ酸長さのペプチドを放出することが示されている(Kim, S. H. らの論文 2000 Ann N Y Acad Sci 920, 93-99; Kim, S. H. らの論文 2002 J Biol Chem 277, 1872-1877)。該変異体BRIタンパク質BRI-D、及びBRI-Lの開裂により、ペプチド(ABri、及びADan, 両方とも34アミノ酸)を生成する。これらは、凝集する傾向があり、非繊維沈着、並びにアミロイド原繊維を生じる(El Agnaf, O. M. らの論文 2004 Protein Pept Lett 11, 207-212; El Agnaf, O. M. らの論文 2001 Biochemistry 40, 3449-3457; El Agnaf, O. M. らの論文 2001 J Mol Biol 310, 157-168; Srinivasan らの論文 2003 J Mol Biol 333, 1003-1023)。該ADan、及びABriペプチドは、これらのN-末端22アミノ酸が同一であるが、異なるC-末端領域を含む。該C-末端部は、原繊維形成、及び神経毒性に必須であることが示されている(El Agnaf, O. M. らの論文 2004 Protein Pept Lett 11, 207-212)。
【0007】
該ABri、及びADanペプチドの該N-末端は、ピログルタミル形成によりブロックされていることが示されている。アルツハイマー病において、Aβの該N-末端でのピログルタミル形成に従って、pGluが、グルタミン酸から形成される(Ghiso J. らの文献 2001 Amyloid 8; Saido らの文献 1995 Neuron 14, 457-466)。次々にピログルタミル形成が、多くのアミノペプチダーゼによる分解の方に、該ペプチドを安定化し、従って、該疾患の進行を誘発する。凝集形成は、細胞外に進み、該細胞の分泌経路においても進行することが示されている(Kim らの論文 2002 J Biol Chem 277, 1872-1877)。従って、グルタミニル、及びグルタミン酸シクラーゼの阻害による、神経毒性ABri、及びADanペプチドのN-末端でのpGlu形成抑制は、FBD、及びFDDを治療する新しいアプローチを表す。
【0008】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)は、腎臓、肝臓、及び腸を含む多様な人体組織で見出される、プロリンの後(より少ない程度にアラニンの後、セリンの後、又はグリシンの後)を開裂するセリンプロテアーゼであり、かつペプチド鎖からN末端のジペプチドを開裂する。最近、DP IVが神経ペプチド代謝、T細胞活性化、癌細胞の内皮への接着、及びHIVのリンパ球様細胞への侵入に重要な役割を果たすことが示された。それについては、国際公開第02/34242号、国際公開第02/34243号、国際公開第03/002595号、及び国際公開第03/002596号を参照されたい。
【0009】
国際公開第99/61431号に記載された該DP IVインヒビターは、アミノ酸残基、及びチアゾリジン、又はピロリジン群、及びその塩、特にL-トレオ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-トレオ-イソロイシルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩を含む。
【0010】
さらなる低分子量ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターの例には、テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキサミド誘導体、N-置換2-シアノピロール、及び-ピロリジン、N-(N'-置換グリシル)-2-シアノピロリジン、N-(置換グリシル)-チアゾリジン、N-(置換グリシル)-4-シアノチアゾリジン、アミノ-アシル-ボロノ-プロピル-インヒビター、シクロプロピル-融合ピロリジン、及び複素環化合物のような薬剤がある。ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターは、下記の文献に記載されている:米国特許第6,380,398号、米国特許第6,011,155号、米国特許第6,107,317号、米国特許第6,110,949号、米国特許第6,124,305号、米国特許第6,172,081号、国際公開第 95/15309号、国際公開第99/61431号、国際公開第99/67278号、国際公開第99/67279号、ドイツ特許第198 34 591号公報、国際公開第97/40832号、ドイツ特許第196 16 486 C 2号公報、国際公開第98/19998号、国際公開第00/07617号、国際公開第99/38501号、国際公開第99/46272号、国際公開第99/38501号、国際公開第01/68603号、国際公開第01/40180号、国際公開第01/8133号、国際公開第01/81304号、国際公開第01/55105、国際公開第02/02560号、及び国際公開第02/14271号、国際公開第02/04610号、国際公開第02/051836号、国際公開第02/068420号、国際公開第02/076450号、国際公開第02/083128号、国際公開第02/38541号、国際公開第03/000180号、国際公開第03/000181号、国際公開第03/000250号、国際公開第03/002530号、国際公開第03/002531号、国際公開第03/002553号、国際公開第03/002593号、国際公開第03/004496号、国際公開第03/024942号、及び国際公開第03/024965号である。これらの文献に教示されている内容は、その全体、特にインヒビター、その定義、使用、及び産生に関して、引用により本明細書に取り込まれるものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Glu1-ABri, Glu1-ADan, Gln3- Aβ(3-40/42), 及びGln1-ガストリン(17、及び34)からなる群から選択された哺乳動物QCの新規生理学的基質、並びにQC活性の調節によって治療可能な病態、好ましくは、哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群(Zolliger-Ellison Syndrome)、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される病態の治療のための、QCエフェクターの使用、及びQCエフェクターを含む医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
阻害研究により、ヒトQCは、金属依存性トランスフェラーゼであることが示された。QCのアポ酵素は、亜鉛イオンにより最も効果的に活性化され得て、かつ、亜鉛依存性アミノペプチダーゼの金属結合モチーフは、ヒトQCにも存在する。金属と結合する活性部位と相互作用する化合物は、QCの有力なインヒビターである。
【0013】
予想外に、組み換えヒトQCは、脳抽出物由来QCの活性と同様に、N末端グルタミニル、並びにグルタミン酸環化反応の両方を触媒することが示された。最も特筆すべきことは、シクラーゼ触媒のGlu1-転換がpH 6.0付近で活発なのに対し、pGlu-誘導体へのGln1-転換は至適pH 8.0付近で起こるという発明である。それ故、pGlu-Aβに関連するペプチドの産生は、組み換えヒトQC、及びブタ脳下垂体抽出物由来QCの活性阻害によって抑制できるので、該酵素QCは、本発明に従って、アルツハイマー病治療に用いる薬剤開発の標的である。
本発明は、任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と共に少なくとも1種のQCのエフェクターを含むか;又は任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と共に少なくとも1種のQCのエフェクターを、少なくとも1種のDP IVインヒビターと共に含む、非経口、経腸、又は経口投与に用いる医薬組成物を提供する。
本発明は、一般的に式1により記載され得る、全ての立体異性体を含むQC-インヒビター、又はその医薬として許容し得る塩を提供する:
【0014】
【化1】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物(mimetic)、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【0015】
(ペプチド配列)
本明細書中で言及し、かつ使用したペプチドは、下記の配列を有する。
Aβ(1-42):
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-Ile-Ala
Aβ(1-40):
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Aβ(3-42):
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-Ile-Ala
Aβ(3-40):
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Aβ(1-11)a:
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
Aβ(3-11)a:
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
【0016】
Aβ(1-21)a:
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Aβ(3-21)a:
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Gln3-Aβ(3-40):
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Gln3-Aβ(3-21)a:
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Gln3-Aβ(1-11)a:
Asp-Ala-Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
Gln3-Aβ(3-11)a:
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
ABri
pGlu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Ser-Arg-Thr-Val-Lys-Lys-Asn-Ile-Ile-Glu-Glu-Asn
Glu1-ABri
Glu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Ser-Arg-Thr-Val-Lys-Lys-Asn-Ile-Ile-Glu-Glu-Asn
ADan
pGlu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Phe-Asn-Leu-Phe-Leu-Asn-Ser-Gln-Glu-Lys-His-Tyr
Glu1-ADan
Glu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Phe-Asn-Leu-Phe-Leu-Asn-Ser-Gln-Glu-Lys-His-Tyr
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、a)インビボQC活性の調節によって治療可能な、哺乳動物の疾患の治療、及び/又は、b)QC活性の調節によって引き起こされる、pGlu含有ペプチドの活性に基づく生理的プロセスの調節のための、グルタミニルシクラーゼ(QC)のエフェクターを提供する。
さらに、本発明は哺乳動物におけるグルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)、及び/又はQC様酵素の阻害に用いる化合物を提供し、かつQC活性に関わる病態の治療のための、QC活性のインヒビターの使用を提供する。
さらに本発明は、哺乳動物におけるグルタミニルシクラーゼ(QC, EC2.3.2.5)、及び/又はQC様酵素を阻害する化合物、及びQC活性に関連した病態を治療するための、QC活性のインヒビターの使用を提供する。
【0018】
また、本発明はアルツハイマー病、及びダウン症の新規な治療方法を提供する。アルツハイマー病、及びダウン症の脳に沈着したアミロイドβ-ペプチドのN末端は、ピログルタミン酸を有する。pGluの産生は、該疾患の発症、及び進行における重要な事象である。その理由は、改質されたアミロイドβ-ペプチドは、β-アミロイドの凝集、及び毒性を増大し、疾患の発病、及び進行を悪化させ得るからである(Russo, C.らの論文、2002 J Neurochem 82, 1480-1489)。
【0019】
これに対し、本来のAβ-ペプチド(3-40/42)においては、グルタミン酸がN末端アミノ酸として存在する。今日までにGluのpGluへの酵素転換は知られていない。さらに、GluペプチドのpGluペプチドへの自然環化反応は、今までのところ観察されていない。したがって、本発明の一態様は、アルツハイマー病、及びダウン症におけるQCの役割を決定することであった。この一態様においては、3位のアミノ酸としてグルタミン酸の代わりにグルタミンを含む、Aβ(3-11)a、及びAβ(1-11)aの合成、これらの改質アミロイドβ-ペプチドのQC、DP IV、及びDP IV様酵素、及びアミノペプチダーゼに対する基質特性の決定、並びに、QCインヒビターを使用して、該アミロイドβ-誘導体ペプチド(1-11)、及び(3-11)のN末端グルタミン残基からpGluの産生を抑制するQCインヒビターの使用に向けられている。該結果を、実施例8に示す。適用された方法は、実施例3に記載されている。
【0020】
今日まで、該疾患の進行におけるQCの関与が全く示唆されていない。その理由は、グルタミン酸がAβ(3-40/42、及び11-40/42)におけるN末端アミノ酸だからである。しかし、QCはペプチドのN末端でpGluを産生できる唯一公知の酵素である。本発明の他の態様は下記の知見、及び発見に関与している:
a)グルタミンに加えて、QCはごく低速度で、グルタミン酸のピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
b)APP、又はその後に形成されるアミロイドβ-ペプチドのグルタミン酸は、未知の酵素活性により翻訳後にグルタミンに転換され、かつ第二工程として、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセス後に、触媒する、
c)グルタミン酸は化学触媒、又は自己触媒により、翻訳後にグルタミンに転換され、かつ続いて、該アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセス後、QCは、グルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
d)該アミロイドβ-タンパク質をコードするAPP遺伝子において、3位のGluの代わりにGlnをもたらす突然変異がある。翻訳、及び該N末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への該環化反応を触媒する、
e)グルタミンは、未知の酵素活性の異常により、APPの未完成のペプチド鎖に取り込まれ、かつ続いて、該アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCは、N末端グルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する。
【0021】
QCは上記全5事例における重要な工程、すなわちアミロイドβ-ペプチドの凝集を促進するピログルタミン酸の産生に関与している。このように、QCの阻害は、環化反応が起こる機構に関わらず、アルツハイマー病、及びダウン症の発症と進行を起こす、斑形成型Aβ(3-40/42)、又はAβ(11-40/42)の沈着の予防を可能にする。
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの3、11、及び22位に見い出される。その中で、22位のグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への突然変異(アミロイド前駆体タンパク質APP 693、スイスプロットP05067に相当)は、いわゆるオランダ型脳動脈アミロイドーシス突然変異として記載されている。
3、11、及び22位にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβ(1-40/42/43)に比べて、細胞毒性、及び疎水性がより高いことが記載されている(Saido T.C.の論文、2000 Medical Hypotheses 54: 427-429)。
【0022】
多種のN末端変異は、異なる部位でのβ-セクレターゼ酵素、β-部位アミロイド前駆体タンパク質-切断酵素(BACE)(Huse J.T.らの論文、2002 J. Biol. Chem. 277(18):16278-16284)により、及び/又はアミノペプチダーゼのプロセシングによって、産生が可能である。全ての場合において、先に記載したa)〜e)の経路によって環化反応が起こり得る。
【0023】
今までのところ、経路a)に相当する、未知のグルタミルシクラーゼ(EC)による、Glu1ペプチドのpGluペプチドへの酵素的転換を支持する証拠はない(Garden, R. W.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095)。今日までに、弱アルカリpH条件下で、N末端側がプロトン化され、かつ負電荷のGlu1γ-カルボン酸部分をもつGlu1ペプチドを、環化できるような酵素活性は同定されていない。
【0024】
Gln1基質に対するQC活性は、pH 7.0以下で劇的に低下する。これに対し、Glu1転換は酸性反応条件で起こるようである(Iwatsubo, T.らの論文、(1996)Am J Pathol 149, 1823-1830;Russo, C.らの論文、1977 FEBS Lett 409, 411-416;Russo, C.らの論文 2001 Neurobiol Dis 8, 173-180;Tekirian, T. L.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 76-94;Russo, C.らの論文(2002)J Neurochem 82, 1480-1489;Hosoda, R.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095;Garden, R. W.らの論文(1999)J Neurochem 72, 676-681)。
【0025】
本発明に従って、QCが弱酸性条件下でアミロイド-β誘導ペプチドを認識し、かつ代謝回転できるか否かを調べた。したがって、該酵素の潜在的基質として、Gln3-Aβ(1-11)a、Aβ(3-11)a、Gln3-Aβ(3-11)a、Aβ(3-21)a、Gln3-Aβ(3-21)a、及びGln3-Aβ(3-40)を合成し、かつ調べた。これらの配列は、翻訳後のGluアミド化が原因で起こり得る、本来のN末端、及びC末端切断型Glu3-Aβペプチド、及びGln3-Aβペプチドを模倣するように選択された。
【0026】
本発明において、パパイヤ、及びヒトQCがグルタミニル、及びグルタミル環化反応の両方を触媒することを示した。明らかに、QCの主要生理学的機能は、ホルモン分泌プロセスに先立つ、又はその間の、グルタミン環化反応による内分泌細胞内のホルモン成熟を完成させることである。そのような分泌小胞は、酸性pHであることが知られている。従って、pH 5.0〜7.0の狭いpH範囲内での該酵素の副活性は、Glu-Aβペプチドをも転換する、新規に発見されたグルタミルシクラーゼの活性であり得る。しかしながら、Gln転換に比べてGlu環化はかなり遅く起こるので、該グルタミル環化反応が有意義な生理的役割を果たすかどうかは、疑問の余地がある。しかしながら、神経変性疾患の病理においては、該グルタミル環化反応は有意義である。
【0027】
該酵素反応のpH依存性を研究し、本発明者らは、プロトン化されていないN末端がGln1ペプチドの環化反応に不可欠であり、かつ従って、該基質のpKa値は、QC触媒のpKa値と同一であることを見いだした(図17参照)。このように、QCは、プロトン化されていないα-アミノ部分の、アミド化により親電子的に活性化されたγ-カルボニル炭素への分子内求核攻撃を安定化させる(スキーム1)。
【0028】
N末端グルタミン含有ペプチドに存在する一価の電荷に対して、Glu含有ペプチドにおけるN末端Glu残基は、中性付近のpHで、大部分は二価に荷電される。グルタミン酸は、γ-カルボキシル、及びα-アミノ部位に対し、各々、約4.2、及び7.5のpKa値を示す。すなわち、中性、及びそれ以上のpHでは、該α-アミノ窒素は、部分的に、又は全体的にプロトン化されず、かつ求核的であるが、γ-カルボキシル基はプロトン化されず、かつそれにより親電子的カルボニル活性を発揮しない。したがって、分子内環化反応は不可能である。
【0029】
しかしながら、pH約5.2〜6.5の範囲において、その各々のpKa値の間、全N末端Glu含有ペプチドの約1〜10%(-NH2)、又は10〜1%(-COOH)の濃度で、2官能基は両方非イオン化型で存在する。その結果として、弱酸性pH範囲間で、電荷していない両基を持つN末端Gluペプチドが存在し、かつ従って、QCがpGluペプチドへの分子内環化反応の中間体を安定化させることが可能である。すなわち、もし、該γ-カルボキシル基がプロトン化していると、該カルボニル炭素は親電子的で、プロトン化されていないα-アミノ基による親核攻撃が可能になる。このpHにおいて、水酸基イオンは脱離基として機能する(スキーム3)。これらの仮説は、QCが触媒するGlu-βNAの転換のために得られたpH依存性のデータによって確認された(実施例11参照)。QCによるGln-βNAのグルタミン転換に対し、該触媒の至適pHはpH 6.0付近の酸性範囲、すなわち、基質分子種がプロトン化されたγ-カルボキシル基、及びプロトン化されていないα-アミノ基を同時に十分に持って存在するようなpH範囲に移動する。さらに、速度論的に決定したpKa値7.55±0.02は、滴定により決定されたGlu-βNAのα-アミノ基のpKa値に極めてよく一致している(7.57±0.05)。
【0030】
生理学的に、pH 6.0で、QCが触媒するグルタミン酸環化反応の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化反応の該定数より、8,000倍程度遅くなり得る(図17)。しかしながら、Glu-βNA、及びGln-βNAの両モデル基質の非酵素的転換がごくわずかであることは、本発明において観察されたごくわずかなpGluペプチド産生と一致する。それゆえ、QCによるpGluの産生において、酵素対非酵素の速度定数の比から、少なくとも108の加速を推定することが可能である(該酵素触媒の該二次速度定数を、各非酵素環化反応の一次速度定数と比較すると、Gln転換、及びGlu転換における触媒有効係数は、各々109〜1010 M-1である)。これらのデータからの結論は、pGlu産生をもたらす酵素経路は、インビボでのみあり得ると思われる。
【0031】
QCは脳内に非常に豊富に存在しており、かつ最近見い出された、30μM(Gln-)TRH様ペプチドを成熟するための高代謝回転(0.9分-1)(Prokai, L.らの論文、(1999)J Med Chem 42, 4563-4571)であるから、同様の反応条件下での適切なグルタミン酸基質には、約100時間の環化反応半減期を予測し得る。さらに、分泌経路における脳QC/ECの局在化、および位置を考慮すると、実際のインビボ酵素、及び基質濃度、及び反応条件は、正常細胞の酵素的環化反応において、なおさら好都合であり得る。かつ、N末端GluがGlnに転換されているなら、QCにより調節される、かなり急速なpGluの産生を予想し得る。インビトロにおいて、両反応はQC/EC活性のインヒビターを適用することによって抑制された(図9、10、及び15)。
【0032】
要約すると、本発明は、脳内にかなり豊富に存在するヒトQCが、Glu-Aβ、及びGln-Aβ前駆体から、アルツハイマー病で見い出される斑沈着の50%以上を構成する、アミロイド生成性pGlu-Aβ-ペプチドを産生する触媒であることを示した。これらの知見は、QC/ECを老人斑形成に関わる一因子と同定し、かつ従って、アルツハイマー病の治療における新規な薬剤標的と同定した。
【0033】
本発明の第二の実施態様において、アミロイドβ-誘導ペプチドが、ジぺプチジルペプチダーゼIV(DP IV)、又はDP IV様酵素、好ましくはジペプチジルペプチダーゼII(DP II)の基質であることを見い出された。DP IV、DP II、又はDP IV様酵素は、改質したアミロイドβ-ペプチド(1-11)のN末端からジペプチドを放出し、グルタミンをN末端アミノ酸残基に持つアミロイドβ-ペプチド(3-11)を産生する。その結果は、実施例8に示した。
【0034】
DP II、DP IV、又は他のDP IV様酵素の切断に先立ち、アスパラギン酸(アミロイドβ-ペプチドの1番めの残基)、及びアラニン(アミロイドβ-ペプチドの2番めの残基)間のペプチド結合は、文献に記載されているように、異性化されイソアスパルチル残基を生じ得る(Kuo, Y.-M.、Emmerling, M. R.、Woods, A. S.、Cotter, R. J.、及びRoher, A. E.の論文、(1997)BBRC 237, 188-191;Shimizu, T.、Watanabe, A.、Ogawara, M.、Mori, H.、及びShirasawa, T.の論文、(2000)Arch. Biochem. Biophys. 381, 225-234)。
これらのイソアスパラチル残基は、該アミロイドβ-ペプチドにアミノペプチダーゼ分解に対する耐性を与え、かつその結果として、核化老人斑は多量のisoAsp1アミロイドベータペプチドを含んでおり、それはN末端における低下した代謝回転を示唆する。
【0035】
しかしながら、本発明において初めて、N末端ジペプチドH-isoAsp1-Ala2-OHが、特に酸性条件下でジペプチジルぺプチダーゼにより放出され得ることを示した。さらにまた、異性化はβ-セクレターゼによる切断に先行することが可能であり、かつ該異性化はタンパク質分解を促進し、isoAsp1アミロイドβ-ペプチドのN末端イソアスパルチル結合の遊離を可能にし、次いでDP II、DPIV、又は DP IV様酵素により代謝回転され得ることが示された(Momand, J.、及びClarke, S.(1987)Biochemistry 26, 7798-7805;Kuo, Y.-M.らの論文、(1997)BBRC 237, 188-191)。従って、イソアスパルチル産生の阻害は、β-セクレターゼによる切断の減少を可能にし、かつ順に、アミロイドβ-ペプチドの産生の減少を可能にし得る。その上、isoAsp1アミロイドβ-ペプチドのDP II、DPIV、又は DP IV様酵素による代謝回転の阻害は、Glu3-Aβの露出を防げ、QC/EC触媒による[pGlu3]Aβ産生を抑制し得る。
【0036】
本発明の第三の実施態様において、DP IV活性のインヒビター、及びQCのインヒビターとの組み合わせを、アルツハイマー病、及びダウン症の治療のために使用することができる。
DP IV、及び/又は DP IV様酵素、及びQCを組合せた効果は、以下に示すとおりである:
a)DP IV、及び/又は DP IV様酵素はAβ(1-40/42)を切断し、H-Asp-Ala-OHを含むジペプチド、及びAβ(3-40/42)が放出される、
b)副反応として、QCは低速度でグルタミン酸のピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
c)グルタミン酸は、未知の酵素活性により翻訳後にグルタミンに転換され、かつ続いて、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
d)グルタミン酸は化学触媒、又は自己触媒により、翻訳後にグルタミンに転換され、かつ第二工程として、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
e)アミロイドβ-タンパク質をコードするAPP遺伝子において、Aβの3位のGluの代わりにGlnをもたらす突然変異がある。翻訳、及びN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
f)グルタミンは、未知の酵素活性の異常により未完成のペプチド鎖に取り込まれ、かつ続いて、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する。
【0037】
また、QC活性への該N末端Glnの露出は、異なるペプチダーゼ活性によって、引き起こし得る。アミノペプチダーゼは、Aβ(1-40/42)のN末端から、Asp、及びAlaを順次取り去ることが可能で、従って、環化反応され易い3番目のアミノ酸が露出される。DP I、DP II、DP IV、DP 8、DP 9、及びDP 10のようなジペプチジルペプチダーゼは、一工程でAsp-Alaを除去する。従って、アミノペプチダーゼ、又はジペプチジルペプチダーゼの活性の阻害は、Aβ(3-40/42)の産生を防止するのに有用である。
【0038】
DP IV、及び/又はDP IV様酵素のインヒビター、及びQCの活性低下エフェクターとの組合せ効果を、下記の経路で示す:
a)DP IV、及び/又はDP IV様酵素は、Aβ(1-40/42)のAβ(3-40/42)への転換を阻害する。
b)それにより、グルタミン酸のN末端露出を妨げ、酵素による、又は化学触媒によるグルタミンへの転換はなく、続いてピログルタミン酸産生することは不可能である。
c)さらに、QCのインヒビターは、残基が改質されたAβ(3-40/42)分子、及びAPP遺伝子の突然変異により産生された、これらの改質Aβ(3-40/42)分子からのピログルタミン酸形成を阻害する。
本発明の範囲内で、DP IV、又はDP IV様酵素、及びQCとの類似の組合せ効果は、さらにグルカゴン、CCケモカイン、及びサブスタンスPのような、ペプチドホルモンで示された。
【0039】
グルカゴンは、すい臓のランゲルハンス島アルファ細胞から放出される、29アミノ酸ポリペプチドであり、肝臓でのグリコーゲン分解、及びグルコース新生を刺激促進することにより、血糖値を維持するよう作用する。その重要性にかかわらず、体内でのグルカゴン排除をつかさどる機構に関しては見解の一致を見ないままである。Pospisilikらは、高感度の質量分光学的技術を用い、グルカゴンの酵素代謝を測定し、分子産物を同定した。グルカゴンを精製されたブタジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)とインキュベートすることにより、グルカゴン(3-29)、及びグルカゴン(5-29)が生じた。ヒト血清では、グルカゴン3-29への分解後速やかにグルカゴンのN末端環化反応が起こり、さらなる加水分解を抑制した。グルカゴンのバイオアッセイにおいて、精製DP IV、又は、正常ラット血清とインキュベートの後、高血糖活性の有意な低下が示されたのに対し、DP IV欠損ラット血清との同様のインキュベートでは、グルカゴン生物活性の低下は示されなかった。質量分析、およびバイオアッセイによってモニターすると、分解は、DP IV特異的インヒビター、イソロイシルチアゾリジンにより阻害された。これらの結果により、DP IVがグルカゴンの分解、及び不活性化に関係する主要酵素と同定した。これらの知見は、ヒト血漿中のグルカゴンレベルの決定に、重要な影響をもたらす((Pospisilik A.らの論文 2001 Regul Pept 96, 133-41)。
【0040】
当初、ヒト単球走化性タンパク質2(MCP-2)は、MCP-1、及びMCP-3と共に生成されるケモカインとして、刺激促進された骨肉腫細胞から精製されてきた。Von Coillieら(Van Coillie, E.らの論文、1998 Biochemistry 37, 12672-12680)は、ヒト精巣cDNAライブラリーから5'末端伸張型MCP-2 cDNAをクローニングした。それは76残基のMCP-2タンパク質をコードしたが、報告されている骨髄由来MCP-2 cDNA配列とはコドン46で異なり、Glnの代わりにLysをコードした。一塩基変異多型(SNP)により生じた、該MCP-2Lys46変異体をMCP-2Gln46と生物学的に比較した。該コード領域をバクテリア発現ベクターpHEN1にサブクローンし、かつ大腸菌(Escherichia coli)の形質転換後、該2種のMCP-2変異体をペリプラズムから回収した。エドマン分解によって、N末端がpGluの代わりにGln残基であることが明らかになった。rMCP-2Gln46、及びrMCP-2Lys46、及びそのN末端が環化した該対応型を、単球細胞上でカルシウム流動、及び走化性アッセイで、分析した。該rMCP-2Gln46、及びrMCP-2Lys46 アイソフォーム間で、生物学活性には有意な差はなかった。しかしながら、両MCP-2変異体において、N末端ピログルタミン酸が遊走性に不可欠であるが、カルシウム流動には不可欠でないことが示された。セリンプロテアーゼCD26/ジペプチジルペプチダーゼIV(CD26/DPP IV)による、rMCP-2Lys46のN末端切断型は、アミノ末端Gln-Proジペプチドの放出をもたらすが、NH2末端pGluを含む人工MCP-2は、影響を受けなかった。CD26/DPP IVで切断されたrMCP-2Lys46(3-76)は、遊走性、及びシグナル伝達アッセイの両方でほぼ完全に不活性であった。これらの観察は、MCP-2のNH2末端pGluが遊走活性に不可欠であること、また、それが該タンパク質をCD26/DPP IVによる分解から保護することを示唆した(van Coillie, E.らの論文、1998, Biochemistry 37, 12672-80)。
【0041】
本発明の範囲内で、LC/MS分析により、グルカゴン(3-29)(Pospisilikらの論文、2001)、及びMCP-2アイソフォーム(van Coillieらの論文、1998)のN末端ピログルタミン酸残基の産生がQCにより触媒されることが決定された。
さらに、LC/MS実験により、サブスタンスPからLys-Pro、及びArg-Proの2種のジペプチドのN末端DP IV触媒による除去後、残存[Gln5]サブスタンスP5-11は、QCにより[pGlu5]サブスタンスP5-11へ転換されることを証明した。
【0042】
DP IVインヒビターは、国際公開第99/61431号において開示されている。特に、アミノ酸残基、及びチアゾリジン、又はピロリジン群、及びその塩を含むDP IVインヒビターが開示されており、特にL-トレオ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-トレオ-イソロイシルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩である。
【0043】
低分子量ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターのさらなる例には、テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキサミド誘導体、N-置換 2-シアノピロール、及び-ピロリジン、N-(N'-置換グリシル)2-シアノピロリジン、N-(置換グリシル)-チアゾリジン、N-(置換グリシル)-4-シアノチアゾリジン、アミノ-アシル-ボロノ-プロピル-インヒビター、シクロプロピル-融合ピロリジン、及び複素環化合物のような薬剤がある。ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターは、下記の文献に記載されている:米国特許第6,380,398号、米国特許第6,011,155号、米国特許第6,107,317号、米国特許第6,110,949号、米国特許第6,124,305号、米国特許第6,172,081号、国際公開第95/15309号、国際公開第99/61431号、国際公開第99/67278号、国際公開第99/67279号、ドイツ特許第198 34 591号公報、国際公開第97/40832号、ドイツ特許第196 16 486 C 2号公報、国際公開第98/19998号、国際公開第00/07617号、国際公開第99/38501号、国際公開第99/46272号、国際公開第99/38501号、国際公開第01/68603号、国際公開第01/40180号、国際公開第01/8133号、国際公開第01/81304号、国際公開第01/55105、国際公開第02/02560号、及び国際公開第02/14271号、国際公開第02/04610号、国際公開第02/051836号、国際公開第02/068420号、国際公開第02/076450号、国際公開第02/083128号、国際公開第02/38541号、国際公開第03/000180号、国際公開第03/000181号、国際公開第03/000250号、国際公開第03/002530号、国際公開第03/002531号、国際公開第03/002553号、国際公開第03/002593号、国際公開第03/004496号、国際公開第03/024942号、及び国際公開第03/024965号である。これらの文献に教示されている内容は、その全体、特にインヒビター、その定義、使用、及び産生に関して、引用により本明細書に取り込まれるものとする。
【0044】
QCのエフェクターと組合せる使用が好ましいのは、Hughesらの論文(1999 Biochemistry 38 11597-11603)により開示されたNVP-DPP728A(1-[[[2-[{5-シアノピリジン-2-イル}アミノ]エチル]アミノ]アセチル]-2-シアノ-(S)-ピロリジン)(Novartis社)、Hughesら(アメリカ糖尿病協会会議、2002年、要旨番号272)により開示されたLAF-237(1-[(3-ヒドロキシ-アダマント-1-イルアミノ)-アセチル]-ピロリジン-2(S)-カルボニトリル)(Novartis社)、Yamadaらの論文(1998 Bioorg Med Chem Lett 8, 1537-1540)に開示されたTSL-225(トリプトフィル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸)、Asworthらの論文(1996 Bioorg Med Chem Lett 6, 1163-1166、及び2745-2748)に開示された2-シアノピロリジド、及び4-シアノピロリジド、Sudreらの論文(2002 Diabetes 51, 1461-1469)によって開示されたFE-999011(Ferring社)、及び国際公開第01/34594号で開示された化合物(Guilford)のようなDP IVインヒビターがあり、上記の文献で設定した投与量を採用する。
【0045】
QCのエフェクターと組合せる使用がより好ましいDP IVインヒビターは、ジペプチド化合物であり、そのアミノ酸は、例えば、ロイシン、バリン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、イソロイシン、アスパラギン、及びアスパラギン酸のような天然アミノ酸、から選択されるのが好ましい。本発明で使用されるジペプチド様化合物は、10μMの(ジペプチド化合物の)濃度で、血漿ジペプチジルペプチダーゼIV、又はDP IVアナログ酵素活性の少なくとも10%、特に少なくとも40%活性の低下を示す。また、インビボでは、多くの場合少なくとも60%、又は少なくとも70%の活性の低下が所望される。また、好ましい化合物では、最高20%、又は30%の活性の低下が示され得る。
【0046】
好ましいジペプチド化合物は、N-バリルプロリル、O-ベンゾイルヒドロキシルアミン、アラニルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリジン、L-トレオ-イソロイシルピロリジンのようなイソロイシルチアゾリジン、及びその塩、特にフマル酸塩、及び、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩である。特に好ましい化合物は、グルタミニルピロリジン、及びグルタミニルチアゾリジン、H-Asn-ピロリジン、H-Asn-チアゾリジン、H-Asp-ピロリジン、H-Asp-チアゾリジン、H-Asp(NHOH)-ピロリジン、H-Asp(NHOH)-チアゾリジン、H-Glu-ピロリジン、H-Glu-チアゾリジン、H-Glu(NHOH)-ピロリジン、H-Glu(NHOH)-チアゾリジン、H-His-ピロリジン、H-His-チアゾリジン、H-Pro-ピロリジン、H-Pro-チアゾリジン、H-Ile-アジジジン、H-Ile-ピロリジン、H-L-アロ-Ile-チアゾリジン、H-Val-ピロリジン、及びH-Val-チアゾリジン、及び医薬として許容し得るその塩である。これらの化合物は、国際公開第99/61431号、及び欧州特許出願公開第1 304 327号に記載されている。
【0047】
さらに本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV触媒の競合的調節に有用な基質様ペプチド化合物と組合せたQCのエフェクターの使用を提供する。好ましいペプチド化合物は、2-アミノオクタン酸-Pro-Ile、Abu-Pro-Ile、Aib-Pro-Ile、Aze-Pro-Ile、Cha-Pro-Ile、Ile-Hyp-Ile、Ile-Pro-アロ-Ile、Ile-Pro-t-ブチル-Gly、Ile-Pro-Val、Nle-Pro-Ile、Nva-Pro-Ile、Orn-Pro-Ile、Phe-Pro-Ile、Phg-Pro-Ile、Pip-Pro-Ile、Ser(Bzl)-Pro-Ile、Ser(P)-Pro-Ile、Ser-Pro-Ile、t-ブチル-Gly-Pro-D-Val、t-ブチル-Gly-Pro-Gly、t-ブチル-Gly-Pro-Ile、t-ブチル-Gly-Pro-Ile-アミド、t-ブチル-Gly-Pro-t-ブチル-Gly、t-ブチル-Gly-Pro-Val、Thr-Pro-Ile、Tic-Pro-Ile、Trp-Pro-Ile、Tyr(P)-Pro-Ile、Tyr-Pro-アロ-Ile、Val-Pro-アロ-Ile、Val-Pro-t-ブチル-Gly、Val-Pro-Val、及びその医薬として許容し得るその塩である。そのうち、t-ブチル-Glyは、下記式のように定義し、かつ、Ser(Bzl)、及びSer(P)は、それぞれベンジル-セリン、及びホスホリル-セリンと定義する。Tyr(P)は、ホスホリル-チロシンと定義する。これらの化合物は、国際公開第03/002593号に開示されている。
【0048】
【化2】
【0049】
本発明に従ってQCのエフェクターと組合せて使用でき、さらに好ましいDP IVインヒビターは、ペプチジルケトンである。例を挙げると、下記化合物、及びその医薬として許容し得るその塩である:
2-メチルカルボニル-1-N-[(L)-アラニル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、2-メチル)カルボニル-1-N-[(L)-バリニル-(L)-プロリル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[(アセチル-オキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[(L)-アラニル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[ベンゾイル-オキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-{[(2,6-ジクロロベンジル)チオメチル]カルボニル}-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン、
2-[ベンゾイ-ルオキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[グリシル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[([1,3]-チアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(ベンゾチアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[N-{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(-ベンゾチアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-グリシル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(ピリジン-2-イル)カルボニル]-1-N-[N-{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩である。これらの化合物は、国際公開第03/033524号に開示されている。
【0050】
さらに、本発明に従って、置換アミノケトンをQCエフェクターと組合せて使用することが可能である。好ましい置換アミノケトンを挙げると、
1-シクロペンチル-3-メチル-1-オキソ-2-ペンタンアミニウムクロライド、
1-シクロペンチル-3-メチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
1-シクロペンチル-3,3-ジメチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
1-シクロヘキシル-3,3-ジメチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
3-(シクロペンチルカルボニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニウムクロライド、
N-(2-シクロペンチル-2-オキソエチル)シクロヘキサンアミニウムクロライド、及び
その医薬として許容し得るその塩がある。
【0051】
当初、希少なプロリン特異的プロテアーゼグループのうちで、DP IVは、唯一膜結合性酵素で、ポリペプチド鎖のアミノ末端でその端から2番目残基のプロリンに特異性があると考えられていた。しかしながら、DP IVと構造的に相同性はないが、同様の酵素活性をもつ、他の分子が同定された。今までに同定されたDP IV様酵素は、例えば、Sedo、及びMalik(Sedo、及びMalikの論文、2001, Biochim Biophys Acta, 36506, 1-10)、及びAbbott、及びGorrell(Abbott, C.A.、及びGorrell, M.Dの著書、エクトペプチダーゼ(Langne、及びAnsorge編集、Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York中、171-195ページ))による総説に記載されている繊維芽活性化タンパク質α(fibroblast activation protein α)、ジペプチジルペプチダーゼIV β、ジペプチジルアミノペプチダーゼ様タンパク質、N-アセチル化α結合型酸性ジペプチダーゼ、休止細胞プロリンジペプチダーゼ(quiescent cell proline dipeptidase)、ジペプチジルペプチダーゼII、アトラクチン、及びジペプチジルペプチダーゼIV 関連タンパク質(DPP 8)、DPL1(DPX、DP6)、DPL2、及びDPP 9 がある。最近、ジペプチジルペプチダーゼ10(DPP 10)のクローニング、及び特性が報告された(Qi, S.Y.らの論文、Biochemical Journal Immediate Publicationにおいて、2003年3月28日に原稿番号BJ20021914として発表)。
【0052】
本明細書中で使われる用語、エフェクターは、酵素に結合し、インビボ、及び/又はインビトロでその活性を上昇、又は低下させる分子として定義される。酵素によっては、その触媒活性に影響する小分子の結合部位を有し;刺激促進分子はアクチベーターと呼ばれる。酵素は1種以上のアクチベーター、又はインヒビターを認識するのための複数の結合部位を有すことすらあり得る。酵素は様々な分子の濃度を感知し、かつその情報を使用し、それ自身の活性を変えることが可能である。
【0053】
エフェクターが酵素活性を調節可能なのは、酵素が活性型と不活性型の両構造を呈するからであり:アクチベーターは、正のエフェクターであり、インヒビターは負のエフェクターである。エフェクターは、酵素の活性部位においてだけでなく、調節部位、又はアロステリック部位においても作用し、この用語は、調節部位が触媒部位から異なる酵素の要素であることを強調し、触媒部位における基質、及びインヒビター間の競合による調節形態と区別するために用いられる(Darnell, J.、Lodish, H.、及びBaltimore, D. の著書、分子生物学第2版(1990, Molecular Cell Biology 2nd Edition, Scientific American Books, New York)63ページ)。
本発明に従って好ましいエフェクターは、QC-、及びEC-活性のインヒビターである。最も好ましくは、QC-、及びEC-活性の競合的インヒビターである。
適切な場合、QC-、及びEC-活性のアクチベーターが好ましい。
【0054】
本発明のペプチドにおいて、各アミノ酸残基は、以下の慣用一覧表に従い、アミノ酸の慣用名に相当する一文字、又は三文字表示で表す。
アミノ酸 一文字表記 三文字表記
アラニン A Ala
アルギニン R Arg
アスパラギン N Asn
アスパラギン酸 D Asp
システイン C Cys
グルタミン Q Gln
グルタミン酸 E Glu
グリシン G Gly
ヒスチジン H His
イソロイシン I Ile
ロイシン L Leu
リシン K Lys
メチオニン M Met
フェニルアラニン F Phe
プロリン P Pro
セリン S Ser
トレオニン T Thr
トリプトファン W Trp
チロシン Y Tyr
バリン V Val
【0055】
本明細書中で使用する用語“QC”とは、グルタミニルシクラーゼ(QC)、及びQC様酵素を含む。さらに、QC、及びQC様酵素は同一の、又は類似の酵素活性を有し、QC活性と定義する。この点において、根本的に、QC様酵素は、分子構造上QCから異なることが可能である。
【0056】
本明細書中で使用する用語“QC活性”とは、アンモニア遊離下における、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への、又はN末端L-ホモグルタミン、又はL-βホモグルタミンの環状ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化反応と定義する。スキーム1、及び2を参照されたい。
【0057】
スキーム1:QCによるグルタミンの環化反応
【化3】
【0058】
スキーム2:QCによるL-ホモグルタミンの環化反応
【化4】
【0059】
本明細書中で使用する用語“EC”とは、QC、及びQC様酵素のグルタミン酸シクラーゼ(EC)ような副活性を含み、さらにEC活性として定義する。
本明細書中で使用する用語“EC活性”とは、QCによるN末端グルタミン酸残基の、ピログルタミン酸(pGlu*)への分子間環化と定義する。スキーム3を参照されたい。
本明細書中で使用する用語“金属依存性酵素”とは、その触媒機能を果たすために結合した金属イオンとの結合を必要とする、かつ/又は、触媒活性の構造を形成するために結合した金属イオンを必要とする酵素と定義する。
【0060】
スキーム3:QCによる、荷電していないグルタミルペプチドのN末端環化反応(EC)
【化5】
【0061】
本発明のもう一つの態様は、QCの新規の生理学的基質の同定である。これらは、実施例5に記載した哺乳動物ペプチドでの環化反応実験を行い、同定した。ヒトQC、及びパパイヤQCを実施例1に記載されるように精製した。該適用方法は実施例2に記載し、かつ使用した該ペプチド合成は実施例6に概要を示す。該研究の結果は、表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
すべての分析は、実施例4に示されるように、ヒト、又は植物QCのいずれかの最適活性、及び安定性の範囲で行った。N末端にグルタミン残基をもち、かつそれゆえQC酵素の基質である、生理活性ペプチドのアミノ酸配列は表2に記載する:
【0064】
【表2】
【0065】
第四の実施態様において、Gln1-ガストリン(アミノ酸長さが17、及び34)、Gln1-ニューロテンシン、及びGln1-FPPペプチドを、QCの新規生理的基質として同定した。ガストリン、ニューロテンシン、及びFPPは、N末端位置にpGlu残基を含有する。すべてのペプチドで、N末端pGlu残基が、QC触媒作用によりN末端のグルタミンから産生されることを示した。結果として、これらのペプチドは、N末端グルタミン残基のpGluへの転換により、その生物学機能の点で活性化される。
【0066】
経上皮変換細胞、特にガストリン(G)細胞は、胃への食物到来とともに胃酸分泌を調節する。最近の研究により、複数の活性産物がガストリン前駆体より産生され、かつガストリン生合成には、複数のコントロール箇所があることが示された。生合成前駆体、及び中間体(プロガストリン、及びGly-ガストリン)は、推定成長因子であり;その産物、アミド化されたガストリンは、上皮細胞の増殖、酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞でのヒスタミン合成、及び貯蔵に関わる遺伝子の発現を、急性の酸分泌刺激促進と同様に調節する。また、ガストリンは、上皮成長因子(EGF)ファミリーメンバーの産生を刺激促進し、順に壁細胞機能を阻害し、表面上皮細胞の増殖を促進する。血漿ガストリン濃度は、ヘリコバクターピロリを保有し、十二指腸癌、及び胃癌のリスクが高いことが公知の個体で上昇する(Dockray, G.J.の論文、1999 J Physiol 15, 315-324)。
【0067】
管腔G細胞から放出されるペプチドホルモンガストリンは、CCK-2レセプターを介して、酸分泌粘膜中のECL細胞由来のヒスタミン合成、及び放出を刺激促進することが知られている。動員されたヒスタミンは、壁細胞にあるH(2)レセプターに結合することにより、酸分泌を引き起こす。最近の研究により、ガストリンは、完全にアミド化された、及び、プロセスが少ない型(プロガストリン、及びグリシン延長型ガストリン)の両方で、胃腸管の成長因子であることが示唆された。アミド化されたガストリンの主要な栄養作用は、該胃の酸分泌粘膜に対してであり、胃幹細胞、及びECL細胞の細胞増殖の促進を起こし、壁、及びECL細胞塊増大を生じることが確立している。一方、プロセスが少ないガストリン(例えば、グリシン延長ガストリン)の主要栄養標的は、結腸粘膜であるように思われる(Koh, T.J.、及びChen, D.の論文、2000 Regul Pept 93, 337-44)。
【0068】
第五の実施態様において、本発明は、胃腸管細胞増殖、特に、胃粘膜細胞及び上皮細胞の増殖、酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞内のヒスタミン生合成、及び貯蔵に関連した遺伝子の発現を刺激し、かつ、活性型 [pGlu1]ガストリンの濃度を維持、又は上昇させることによる、哺乳動物における急性酸分泌を刺激するための、QCの活性上昇エフェクターの使用を提供する。
第六の実施態様において、本発明は、不活性型Gln1-ガストリンの活性型[pGlu1]-ガストリンへの転換率を低下させることによる、哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸潰瘍疾患、胃癌、結腸直腸癌、及びゾリンジャー-エリソン症候群(Zolliger-Ellison Syndrome)の治療のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0069】
ニューロテンシン(NT)は、特に神経伝達物質システムを調節する、統合失調症の病態生理学に関わる神経ペプチドであり、該疾患において調節障害が生じることが示されている。脳脊髄液(CSF)中のNT濃度を測定する臨床研究では、脳脊髄液(CSF)中のNT濃度が低下している統合失調症患者の一部は、効果的な抗精神病剤治療で回復することを示した。また、NTシステムが、抗精神病剤の作用機構に関与することは、公知である。中枢系に投与されたNTの行動学的、及び生化学的効果は、抗精神病剤を全身に投与した該効果に類似し、かつ抗精神病剤は、NT神経伝達を上昇させる。従って、NTが内在性の抗精神病剤として機能するという仮説が導かれた。さらに、典型、及び非典型抗精神病剤は、黒質線条体系、及び中脳辺縁系のドーパミン経路の終末領域のNT神経伝達を異なった形で改質し、かつ該効果で、副作用障害、及び有効性が予想可能である(Binder, E. B.らの論文 2001 Biol Psychiatry 50, 856-872)。
【0070】
第七の実施態様において、本発明は、抗精神病剤の調剤、及び/又は哺乳動物における統合失調症治療のための、QCの活性上昇エフェクターの使用を提供する。該QCのエフェクターは、活性型[pGlu1]ニューロテンシン濃度を維持、又は上昇させる。
【0071】
受精促進ペプチド(FPP)は、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)に関連するトリペプチドであり、精漿に見い出される。インビトロ、及びインビボから得られた最近の証拠は、FPPが精子受精能力の調節において重要な役割を果たしていることを示した。特に、FPPは初めに受精能力のない(受精不能な)精子を“スイッチオン”にし、かつより速やかに受精可能にするよう刺激促進し、その後、精子が自発アクロソーム損失を起こし、それゆえ受精能力を喪失しないように、受精能獲得を抑制する。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することが公知の、アデノシンによって模倣され、かつ実際、増大される。FPP、及びアデノシンは両方とも、FPP受容体がどういうわけかアデノシン受容体、及びGタンパク質と相互作用しACの調節をもたらし、受精不能な細胞でcAMP産生を刺激促進し、受精可能な細胞ではそれを阻害することが示されている。これらの事象は、様々なタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響し、初期の“スイッチオン”において重要なものもあれば、おそらく先体反応自身に関与しているものもある。また、精漿に存在するカルシトニン、及びアンギオテンシンIIは、インビボで受精不能な精子に同様の効果をもち、FPPの反応を増大し得る。これらの分子は、インビボで類似の効果をもち、受精能の刺激促進、及び維持により、受精に影響する。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンギオテンシンIIの供給の低下、又はそのレセプターの異常は、男性不妊に寄与する(Fraser, L.R.、及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の論文、2001 Vitam Horm 63, 1-28)。
【0072】
第八の実施態様において、本発明は、哺乳動物における受精抑制薬の調剤、及び/又は、受精の低下のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。該QCの活性低下エフェクターは、活性型[pGlu1]FPP濃度を低下させ、精子の受精能獲得を抑制、及び精子細胞の不活性化をもたらす。これに対し、QCの活性上昇エフェクターにより、男性生殖能力を刺激し、かつ不妊を治療することが可能であることが示され得る。
【0073】
第九の実施態様において、さらなるQCの生理学的基質が、本発明の範囲内で同定された。これらは、Gln1-CCL 2、Gln1-CCL 7、Gln1-CCL 8、Gln1-CCL 16、Gln1-CCL 18、及びGln1-フラクタルカインである。詳細は、表2を参照されたい。これらのポリペプチドは、骨髄性前駆細胞増殖の抑制、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、並びにアルツハイマー病、FBD、及びFDDに関連した炎症プロセスのような病態生理学的状態において、重要な役割を果たす。
【0074】
最近、B型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス、及びメラノーマに対する、いくつかの細胞傷害性Tリンパ球ペプチドを基にしたワクチンが、臨床試験で研究されている。デカペプチドELAは、単独で、或いは腫瘍抗原と組合せる、1種の興味深いメラノーマワクチン候補である。このペプチドは、N末端グルタミン酸をもつ、Melan-A/MART-1抗原免疫優勢ペプチドアナログである。グルタミンのアミノ基、及びガンマカルボン酸基は、グルタミン酸のアミノ基、及びガンマカルボキサミド基と同様に、容易に縮合し、ピログルタミン誘導体を産生する。医薬上興味深いいくつかのペプチドは、N末端グルタミン、及びグルタミン酸の代わりにピログルタミン誘導体で開発し、医薬上の特性を損失することなくこの安定性の問題を克服した。残念なことに、ELAに比べ、該ピログルタミン誘導体(PyrELA)、及びN末端アセチル修飾誘導体(AcELA)は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性を引き出せなかった。PyrELA、及びAcELAにおける外見上の些少な修飾にかかわらず、おそらく該二誘導体は該特異クラスI主要組織適合複合体に対して、ELAより低い親和性を示す。それゆえ、ELAの最大の活性を維持するために、PyrELAの産生を回避しなければならない(Beck A.らの論文、2001, J Pept Res 57:528-38)。また、最近、メラノーマにおいて、グルタミニルシクラーゼ(QC)酵素が過剰発現していることが見い出された(Ross D. T.らの論文、2000, Nat Genet 24:227-35)。
【0075】
第十の実施態様において、本発明は、骨髄性前駆細胞増殖の抑制、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、メラノーマ、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、並びにアルツハイマー病、FBD、及びFDDに関連した炎症プロセスのような病態生理学的状態の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0076】
第十一の実施態様において、Gln1-オレキシンAは、本発明の範囲内で、QCの生理学的基質と同定した。摂食、睡眠覚醒の調節に有意な影響を及ぼす神経ペプチドであり、おそらく、これらの相補的な恒常性機能の複雑な行動、及び生理学的応答を調節している。また、それは、エネルギー代謝の恒常性調節、自律機能、ホルモンバランス、及び体液調節において影響を及ぼす。
第十二の実施態様において、本発明は、摂食障害、及び睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性調節障害、自律機能障害、ホルモンバランス障害、及び体液調節障害の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0077】
様々なタンパク質におけるプログルタミン伸長は、パーキンソン病、及びケネディ病のような神経変性疾患を生じる。それゆえ、該機構は、ほとんどわかっていない。ポリグルタミン繰り返し配列の生化学的特性は、1つの考えられる説明を示唆し:グルタミニル-グルタミニル結合の切断(endolytic cleavage)後の、ピログルタミン酸産生が、ポリグルタミンタンパク質の異化安定性、疎水性、アミロイド凝集性、及び神経傷害性に寄与し得るということである(Saido, Tの論文、2000 Med Hypotheses Mar;54(3):427-9)。
したがって、第十三の実施態様において、本発明は、パーキンソン病、及びハンチントン病の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0078】
第十四の実施態様において、本発明は、QCの酵素活性を低下、又は阻害する一般的な方法を提供する。また、阻害性化合物の例を提供する。
当初、哺乳動物QCの阻害は、1,10-フェナントロリン、及び還元型 6-メチルプテリンでのみ検出された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)。EDTAはQCを阻害せず、故にQCは金属依存性酵素ではないと結論された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536, Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250、Booth, R.E.らの論文、2004 BMC Biology 2)。しかしながら、本発明では、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン、及び他のキレーターによるQCの阻害特性(図18、19)、及び遷移金属イオンによるQCの再活性化(図20)によって明らかであるように、ヒトQC、及び他の動物QCが金属依存性酵素であることを示した。最後に、該金属依存性を他の金属依存性酵素との配列比較をまとめ、ヒトQCにも、キレートするアミノ酸残基が保存されていることを示した(図21)。化合物の、金属イオン結合部位との相互作用は、QC活性を低下、又は阻害する一般的な方法である。
【0079】
本発明では、イミダゾール誘導体がQCの有力なインヒビターであることを示す。連続分析(詳細は実施例2参照)を用い、多数のイミダゾール誘導体を、高度に保存された哺乳動物QCの1種であるヒトQCを阻害する能力に関して分析した。
このように、本発明は、QCの活性低下エフェクターとして、イミダゾール誘導体、及びヒスチジン、及びその誘導体、及びその特性を阻害型、及び有効性の面から提供する。構造、及びKi値を、表3、及び4に示す。その結果は、実施例7に詳しく記載した。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
第十五の実施態様において、システアミンを基礎にした、QC、及びQC-様酵素の新しいインヒビターを提供する。
イミダゾール誘導体、及びヒドロキサム酸塩又はエステル(hydroxamate)の他に、チオール試薬が、金属依存性酵素のインヒビターとして頻繁に記載されている(Lowther, W. T. 及びMatthews, B. W. 2002 Chem Rev 102, 4581-4607; Lipscomb, W. N. 及びStrter, N. 1996 Chem Rev 96, 2375-2433)。さらに、チオールペプチドは、該Clan MHのQC-関連アミノぺプチダーゼのインヒビターとして記載されている(Huntington, K. M. らの論文 1999 Biochemistry 38, 15587-15596)。これらのインヒビターは、哺乳動物のQCに関しては不活性であるが、強力な競合性QC-インヒビターとして、システアミン誘導体を単離することは可能である(図23)。
本発明は、一般的に式1により記載され得る、全ての立体異性体を含むQC-インヒビター、又はその医薬として許容し得る塩を提供する:
【0083】
【化6】
【0084】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0, 1, 又は2、好ましくは1、最も好ましくは0である。)。
【0085】
本明細書、及び請求項を通して、表現"アルキル"は、C1-50アルキル基、好ましくはC1-30アルキル基、特にC1-12、又はC1-8アルキル基を意味し得る;例えば、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はブチル基とすることができる。例えば、表現"アルコキシ(alkoxy)"の表現"アルク(alk)"、及び表現"アルカノイル(alkanoyl)"の表現"アルカン(alkan)"は、"アルキル"として規定される;芳香族("アリール")化合物は、好ましくは、置換、又は任意に非置換である、フェニル、ベンジル、ナフチル、ビフェニル、又はアトンラセン基であり、好ましくは少なくとも8個のC原子を有する;表現"アルケニル"は、C2-10アルケニル基、好ましくはC2-6アルケニル基を意味することができ、所望の位置に二重結合を有し、かつ置換、又は非置換であってもよい;表現"アルキニル"は、C2-10アルキニル基、好ましくはC2-6アルキニル基を意味することができ、所望の位置に三重結合を有し、かつ置換、又は非置換であってもよい;表現"置換"、又は置換基は、1以上、好ましくは2以上のアルキル、アルケニル、アルキニル、一価又は多価アシル、アルカノイル、アルコキシアルカノイル、又はアルコキシアルキル基による、所望された置換を意味し得る;該上記置換基は、側基として1以上(しかし、好ましくはゼロ)のアルキル、アルケニル、アルキニル、一価又は多価アシル、アルカノイル、アルコキシアルカノイル、又はアルコキシアルキル基を、入れ替わりに有することができる。
【0086】
本明細書、及び請求項を通して、表現"アシル"は、C1-20アシル残基、好ましくはC1-8アシル残基、特に好ましくはC1-4アシル残基を示すことができ;かつ表現"炭素環"は、C3-12炭素環残基、好ましくはC4、C5、又はC6炭素環残基を示し得る。"ヘテロアリール"は、1〜4、及び好ましくは1,2,又は3個の環原子を、N, S, 又はOのようなヘテロ原子で置換したアリール残基として規定される。"複素環"は、1,2,又は3個の環原子を、N, S, 又はOのようなヘテロ原子で置換したシクロアルキル残基として規定される。
【0087】
"ペプチド類似物"それ自体は、当業者に公知である。好ましくは、これらは、ペプチドのような二次構造、及び任意にさらなる構造特性を有する化合物として規定される;これらの作用様式は、該天然ペプチドの作用様式に類似しているか、又は同一である;しかし、これらの活性(例えば、アンタゴニスト、又はインヒビターとしての活性)は、該天然ペプチドと比べて、特にレセプター、又は酵素に関して改質され得る。さらに、これらは、該天然ペプチド(アゴニスト)の効果を模倣し得る。ペプチド類似物の例は、スキャホールド類似物(scaffold mimetics)、非-ペプチド類似物、ペプトイド(peptoides)、ペプチド核酸、オリゴピロリノン(oligopyrrolinones)、ビニログペプチド(vinylogpeptide)、及びオリゴカルバメート(oligocarbamates)がある。これらのペプチド類似物の規定に対しては、Lexikon der Chemie, Spektrum Akademischer Verlag Heidelberg, Berlin, 1999を参照されたい。
【0088】
"アザ-アミノ酸"は、該キラルα-CH基が窒素原子で置換されたアミノ酸として規定される。一方"アザ-ペプチド"は、該ペプチド鎖の少なくとも1つのアミノ酸残基のキラルα-CH基が窒素原子で置換されたペプチドとして規定される。
該チオール、及びアミノ基の役割は、表5に示したジメチルシステアミン、システアミン、メルカプトシステアミン、エチレンジアミン、エタノールアミンの該阻害能力の比較にまとめた。アミノ、及びチオール基を有する化合物のみが、強力であり、一方の基の損失、又は改質は、阻害力の低下を導く。さらに、システアミン、ジメチル-システアミン、及びメルカプトエタノールによるネズミQC阻害の該pH-依存性は異なり、該インヒビターのプロトン化状態が、該活性部位に結合するインヒビターに影響を与える(図22)。
【0089】
【表5】
【0090】
驚くべきことに、該酵素活性の特徴付けの間に、N-末端グルタミニル残基の他に、該N-末端β-ホモ-グルタミニル残基が、QC基質としての特性も満たしていることを発見した。該該N-末端β-ホモ-グルタミニル残基は、それぞれヒト、及びパパイヤQCの触媒により、5員環のラクタム環に転換されることを発見した。該結果は、実施例5に記載されている。該応用方法は、実施例2に示し、かつ該ペプチド合成を、実施例6に記載したように行った。
【0091】
本発明のもう一つの好ましい実施態様は、QCのエフェクターのスクリーニング方法を含む。
化合物群からQCの活性を調節するエフェクターを同定する、好ましいスクリーニング方法は、下記工程を含む:
a)前記の化合物とQCとを、それらの間で結合が可能な条件下で接触させること;
b)QCの基質を加えること;
c)該基質の転換をモニターすること、又は任意に該残存QC活性を測定すること;及び
d)QCの該基質転換、及び/又は、酵素活性の変化を計算し、QCの活性調節フェクターを同定することである。
【0092】
もう一つの好ましいスクリーニング方法は、QCの金属イオン結合活性部位と、直接、又は間接的に相互作用するエフェクターの同定、及び選定に用いる方法に関連し、下記の工程を含む方法である:
a)前記の化合物とQCとを、それらの間で結合が可能な条件下で接触させること;
b)QCにより転換可能な、QCの基質を加えること;
c)該基質の転換をモニターすること、又は任意に該残存QC活性を測定すること;及び
d)QCの該基質転換、及び/又は酵素活性の変化を計算し、QCの活性調節エフェクターを同定することである。
【0093】
前記スクリーニング方法での使用が好ましいのは、哺乳動物QC、又はパパイヤQCである。特に好ましいのは哺乳動物QCであり、それはこれらのスクリーニング方法で同定したエフェクターが哺乳動物、特にヒトの疾患の治療に使用され得るからである。
前記スクリーニング方法で選定された薬剤は、少なくとも1種のQC基質の転換を低下させる(負のエフェクター、インヒビター)、又は、少なくとも1種のQC基質の転換を増加させる(正のエフェクター、アクチベーター)ことにより機能することが可能である。
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩へ転換することができる。
本発明の化合物の該塩は、無機、又は有機塩の形態とし得る。
【0094】
本発明の該化合物は、転換し、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩として使用することが可能である。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機、又は有機酸でプロトン化されているような形態をとる。典型的な有機、又は無機酸は、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。すべての本発明の該化合物の医薬として許容し得る塩は、本発明の範囲内に取り込むことを意図している。
【0095】
化合物自身と、塩の形態の該化合物の密接な関係から、本明細書の文脈で化合物に言及するときは常に、その状況下でそれが考え得るか、又は適切であるならば、相当する塩も対象とする。
本発明の該化合物が少なくとも1種の不斉中心を持つ場合は、それ相応に光学異性体が存在し得る。該化合物が2種以上の不斉中心を持つ場合は、さらにジアステレオマーが存在し得る。その異性体、及び混合物のすべては、本発明の範囲内に含まれると理解すべきである。さらに、該化合物の結晶性形態は多形体として存在し得て、それらはさらに、本発明に含まれる対象である。さらに該化合物によっては、水(すなわち、水和物)、又は慣用の有機溶媒との溶媒和化合物を形成し得る。
また、その塩を含む該化合物は、水和物の形態で調達することが可能であるか、或いはその結晶化に用いる他の溶媒を含む。
【0096】
さらなる実施態様において、本発明は、必要としている個体における、QC酵素活性の調節を介した疾患状態の予防、又は治療法を提供し、それは、本発明の該化合物、又はその医薬組成物のいずれかを、治療上有効な量、及び投与法で投与し、病態を治療することを含む。さらに、本発明は、個体におけるQC活性調節を介した病態の予防、又は治療に用いる薬剤の調製のための、この発明における化合物、及びそれに相当する医薬として許容される酸付加塩の形態の使用を含む。該化合物は、静脈注射、経口、皮下注射、筋肉注射、皮内注射、非経口、及びその組み合わせ含むが、これに限定されない、従来の投与経路で患者に投与され得る。
さらなる好ましい実施態様において、本発明は、少なくとも1種の本発明の化合物、又はその塩を、任意に、少なくとも1種の医薬として許容し得る担体、及び/又は溶媒と組合せて含有する医薬組成物、すなわち、薬剤に関するものである。
【0097】
例えば、医薬組成物は、非経口、又は経腸製剤の形態であり得て、適切な担体を含むか、又は経口投与に適した適切な担体を含む、経口製剤の形態である。好ましくは、経口製剤の形態である。
本発明の記載に従って投与されるQC活性のエフェクターは、QC-、及びEC-活性のインヒビター、好ましくは競合的インヒビター、若しくは酵素インヒビター、競合的酵素インヒビター、基質、擬似基質、QC発現のインヒビター、哺乳動物のQCタンパク質濃度を低下させる酵素の結合タンパク質、又は抗体と組合せて、医薬上投与できる製剤、又は製剤複合物の形で用いられ得る。本発明の該化合物により、患者、及び疾患個々に治療を調節することが可能になり、特に、個々の不耐性、アレルギー、及び副作用を回避することが可能である。
【0098】
また、該化合物は、時間の関数として、異なる活性の程度を示す。それによって、治療を施す医師は、患者の個々の状況に応じて対処する機会を与えられ:医師は、一方では作用開始の速度、他方では、作用の持続期間、及び特に作用強度を正確に調節することが可能である。
本発明の好ましい治療方法は、哺乳動物のQC酵素活性の調節を介した病態の予防、又は治療に用いる新規のアプローチを示す。それは、有利に単純で、商業的適用の余地があり、特に、哺乳動物、及び特にヒト医薬において、例えば、表1、及び2に記載された、生理活性QC基質のアンバランスに基づく疾患の治療における使用に適している。
【0099】
例えば、該化合物は、有効成分を希釈剤、賦形剤、及び/又は、先行技術から公知の担体のような添加剤を組合せて含む調剤の形態で、有利に投与し得る。例えば、それらは、非経口的(例えば、生理食塩水の点滴で)、又は経腸的に(例えば、従来の担体と処方され、経口的に)投与することが可能である。
その内生安定性、及びその生体利用効率に依存して、該化合物は、所望する血糖グルコース値の正常化を達成するために、1日に1回、又は複数回投与することが可能である。例えば、ヒトにおけるそのような用量域は、1日あたり約0.01 mgから250.0 mgの範囲で、好ましくは、体重キログラムあたり化合物約0.01 mgから100 mgの範囲であり得る。
【0100】
QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することによって、アルツハイマー病、ダウン症、家族性英国型認知症(Familial British Dementia) (FBD)、家族性デンマーク型認知症(Familial Danish Dementia)(FDD)、ヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴わない、潰瘍性疾患、及び胃癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、病原性精神病的状態、統合失調病、不妊症、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性調節障害、自律機能障害、ホルモンバランス障害、及び体液調節障害から、選択される病態を、予防、又は緩和、又は治療し得る。
【0101】
さらに、QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することによって、胃腸管細胞増殖、好ましくは、胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、急性の酸分泌、及び酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様細胞分化を刺激、促進し得る。
さらに、哺乳動物へのQCインヒビターの投与は、精子細胞機能の喪失、したがって男性生殖能力の抑制を可能にし得る。従って、本発明は、男性生殖能力の調節、及びコントロールに用いる方法、及び男性用避妊薬剤の製造のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。
さらに、QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することにより、骨髄性前駆細胞増殖の抑制を可能にし得る。
【0102】
本発明で使用される化合物は、本来の公知の方法で、例えば、不活性無毒の、医薬上適切な担体、及び添加剤、又は溶媒を用いて、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、丸剤、顆粒剤、噴霧剤、シロップ剤、液剤、固形剤、及びクリーム状乳剤、及び懸濁剤、及び溶液剤のような慣用調剤形態へ、それ相応に転換することが可能である。その各々の調剤形態において、該治療上有効な化合物は、好ましくは、全混合物の重量に対して約0.1〜80%、より好ましくは、1〜50%の濃度で、すなわち、言及した投薬量域を得るのに十分な量で存在する。
【0103】
また、該物質は、糖衣剤、カプセル剤、可噛性カプセル剤、錠剤、ドロップ剤、シロップ剤の形態の薬剤として、又は座薬として、又は鼻腔用スプレーとして使用することができる。
例えば、該調剤形態は、有効成分を溶媒、及び/又は担体と共に、任意に乳化剤、及び/又は分散剤の使用と共に供与され、有利に製造することができ、例えば、水が希釈剤として使用される場合は、有機溶媒は、任意に補助溶剤として使用することが可能である。
【0104】
本発明に関わる有用な賦形剤の例を挙げると:水、パラフィン(例えば天然油画分)、植物油(例えば、ナタネ油、ラッカセイ油、ゴマ油)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)のような無毒性有機溶媒;例えば、天然粉末ミネラル(例えば、抗分散シリカ、ケイ酸塩)、糖類(例えば、粗糖、ラクトース、デキストロース)のような固形担体;非イオン性、及び陰イオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエステル、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸)のような乳化剤、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸溶液、メチルセルロース、澱粉、及びポリビニルピロリドン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石粉、ステアリン酸、及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意の香料がある。
【0105】
投与は、従来の方法で、好ましくは経腸的、又は非経口的に、特に経口的に行われ得る。経腸投与の場合に、錠剤は上記の担体に加えて、さらにクエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及びリン酸カルシウムのような添加剤を、澱粉、好ましくは片栗粉、ゼラチン、及びそのような多様な添加剤と共に含有し得る。さらに、ステアリン酸マグネイウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石粉のような潤滑剤は、錠剤製造に付随して使用することが可能である。経口投与を目的とした水性懸濁液、及び/又はエリキシル剤の場合は、多様な矯味料、又は着色料が、上記記載の賦形剤に加えて、有効成分に付加することが可能である。
【0106】
非経口投与の場合、適切な液体担体を用いた有効成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈注射の場合、一日当たり体重に対して約0.01〜2.0 mg/kg、好ましくは、0.01〜1.0 mg/kgの量を投与すると、効果的な結果が得られる利点が見いだされ、かつ経腸投与の場合、該投与量は一日当たり体重に対して約0.01〜2 mg/kg、好ましくは、0.01〜1 mg/kgである。
しかしながら、実験動物、及び患者の体重、又は投与経路の種類だげでなく、動物の種類、又は薬剤に対する個々の反応、又は投与が行われる間隔などによって、該記載量から外れることが不可欠である場合もあり得る。したがって、上記記載の最低量より少ない使用で十分な場合もある一方、記載の上限を超過しなければならない場合もある。比較的大量に投与される場合は、該投与量を一日に複数回の投薬に分割することが望ましいかもしれない。ヒト薬剤の投与には、同様の投与許容度を提供する。その場合、上記の所見が同様に適用される。
【0107】
(医薬調剤形態の例)
1.カプセル剤当り、本発明の化合物100 mgを含有するカプセル剤
およそ10,000カプセル剤に対して、下記組成の溶液を調製する:
本発明の化合物 1.0 kg
グリセロール 0.5 kg
ポリエチレングリコール 3.0 kg
水 0.5 kg
5.0 kg
該溶液は、本質的に公知の方法で、軟ゼラチンカプセルに封入する。該カプセルは、咀嚼、及び嚥下に適している。
【0108】
2.本発明の化合物100 mgを含有する錠剤、又はコーティングされた錠剤、又は糖衣剤
下記の量は錠剤100,000粒の製造に関するものである:
細かく粉砕した本発明の化合物 10.0 kg
グルコース 4.35 kg
ラクトース 4.35 kg
澱粉 4.50 kg
細かく粉砕したセルロース 4.50 kg
【0109】
上記組成物を、混合し、下記成分から製造される溶液と共に提供し、該湿塊をおろし、かつステアリン酸マグネシウム0.2 kg付加後乾燥させる、本質的に公知の方法で粒状にされる。
ポリビニルピロリドン 2.0 kg
ポリソルベート 0.1 kg
及び水 約5.0 kg
【0110】
最終錠剤混合物30.0 kgを加工し、300 mgの重さの突型錠剤を形成する。理想的には、該錠剤を、本質的に公知の方法でコーティング、又は糖コーティングすることが可能であることである。
有利には、本明細書中で定義された医薬組成物は、少なくとも1種のQC活性のエフェクター、及び少なくとも1種のDP IVインヒビターを含有する。そのような医薬組成物は、特にアルツハイマー病、及びダウン症の治療に有用である。
【実施例】
【0111】
(実施例1):ヒト、及びパパイヤQCの調製法
(宿主株、及び培地)
ヒトQCの発現に使用される酵母(Pichia pastoris)X33株(AOX1、AOX2)を、製造会社の取扱説明書(Invitrogen社)に従って、培養し、形質転換し、かつ解析した。酵母(P.pastoris)が必要とする培地、例えば、緩衝化したグリセロール(BMGY)複合体、又はメタノール(BMMY)複合体培地、及び、発酵基礎塩培地は、製造会社の推奨にしたがって調製した。
【0112】
(ヒトQCをコードするプラスミドベクターの分子クローニング)
すべてのクローニング手順は、標準的分子生物学的技法を適用して行なった。酵母における発現のために、ベクターpPICZαB(Invitrogen社)を使用した。pQE-31ベクター(Qiagen社)を使用し、ヒトQCを大腸菌において発現させた。第38番目のコドンより始まる成熟型QCのcDNAと、6xヒスチジン標識をコードするプラスミドとを、読み枠内で融合した。pQCyc-1、及びpQCyc-2プライマーを使用し、増幅、かつサブクローニングの後、該フラグメントを、SphI及び、HindIIIの制限酵素切断部位を用いて、発現ベクターに挿入した。
【0113】
(P. pastorisの形質転換、及び小量発現実験)
プラスミドDNAは、大腸菌JM109内で増幅され、製造会社(Qiagen社)の推奨に従って精製した。使用した発現プラスミドpPICZαBにおいては、3つの直線化に用いる制限酵素切断部位が提供される。SacI、及びBstXIは、該QCcDNAの内部で切断するため、PmeIを選択し、直線化した。20〜30μgのプラスミドDNAをPmeIで切断し、エタノールにより沈澱させ、滅菌脱イオン水に溶かした。その後、10μgのDNAを、製造会社(BioRad社)の取扱説明書に従って、電気穿孔法による酵母(P.pastoris)コンピテント細胞の形質転換に使用した。選択は、150μg/ml Zeocinを含むプレートにおいて行なった。直線化されたプラスミドを使用した一回の形質転換実験から、数百の形質転換体を得た。
【0114】
組み換え酵母クローンをQCの発現に関して調べるために、組み換え体を、2 mlのBMGY培地を含む10 mlコニカルチューブにおいて、24時間培養した。その後、該酵母を遠心分離し、0.5%メタノールを含む2 mlのBMMYに再懸濁した。この濃度は、72時間まで、24時間毎にメタノールを加えることによって維持された。その後、上清のQC活性が決定した。融合タンパク質の存在を、6xヒスチジン標識に対する抗体(Qiagen社)を使用したウェスタンブロット解析によって確認した。最も高いQC活性を示した酵母のクローンを、さらなる実験、及び発酵のために選択した。
【0115】
(発酵槽における大量発現実験)
QCの発現は、5 l(リットル)のリアクター(Biostat B,B.Braun biotech社)において、基本的に"酵母Pichia発酵操作ガイドライン(Pichia fermentation process guidelines)"(Invitrogen社)に記載されているように行なった。簡潔に述べると、酵母細胞は、微量の塩を添加し、かつグリセロールを唯一の炭素源とする、発酵基礎塩培地(pH 5.5)において培養した。約24時間の初期バッチ段階、及びその後の約5時間のフェドバッチ(fed-batch)段階の間、酵母細胞塊が蓄積された。細胞湿重量が200 g/lに達した時点で、約60時間の全発酵時間に三段階の栄養添加プロフィールを適用し、メタノールを用いたQC発現の誘導を行なった。その後、細胞を、6000x g、4℃における15分間の遠心によって、QC含有上清から除いた。そのpHは、NaOHの添加により、6.8に調節し、その結果生じた懸濁溶液は、再び、37000x g、4℃において、40分間遠心した。遠心後も液の濁りが継続した場合は、セルロース膜(孔径0.45μm)を用いた、さらなる濾過工程を適用した。
【0116】
(P. pastorisにおいて発現された6xヒスチジン標識QCの精製)
最初に、His標識QCは、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。典型的な精製においては、1000 mlの培養上清を、750 mMのNaClを含む、50 mMのリン酸緩衝液(pH 6.8)で平衡化したNi2+結合キレーティングセファロースFFカラム(Chelating Sepharose FF column)(1.6 cm x 20 cm、Pharmacia社)に、流速5 ml/分でかけた。10カラム容量の平衡化緩衝液、及び5カラム容量の5 mMヒスチジンを含む平衡化緩衝液で洗浄した後、150 mM NaCl、及び100 mMヒスチジンを含む50 mMリン酸緩衝液(pH6.8)へ変更することによって、結合したタンパク質を溶出した。その結果生じた溶出液を、20 mMのビス-トリス/HCl緩衝液(pH 6.8)に対し、4℃において一晩透析した。その後さらに、該QCは、透析緩衝液によって平衡化されたMono Q6カラム(BioRad社)における陰イオン交換クロマトグラフィーにより、精製した。QC含有画分は、流速5 ml/分で、Mono Q6カラムへかけた。その後、該Mono Q6カラムを、100 mMのNaClを含む平衡化緩衝液で洗浄した。溶出は、240 mM、及び360 mMのNaClを含む平衡化緩衝液を、各々、30カラム容量、又は5カラム容量もたらす、2通りの濃度勾配によって行なった。6 mlずつの画分を集め、各画分のタンパク質の純度を、SDS-PAGEにより解析した。均質のQC含有画分を集め、限外濾過により濃縮した。長期保存(-20℃)のため、グルセロールを最終濃度50%まで加えた。タンパク質は、Bradford、又は、Gill、及びvon Hippelの方法に従い、定量した(Bradford, M. M.の論文、1976 Anal Biochem 72, 248-254;Gill, S.C.、及びvon Hippel, P.H.の論文、1989 Anal Biochem 182, 319-326)。
【0117】
(大腸菌におけるQCの発現と精製)
QCをコードするコンストラクトで、M15細胞(Qiagen社)を形質転換し、選択的LB寒天プレートにおいて、37℃で培養した。タンパク質の発現は、1%グルコース、及び1%のエタノールを含むLB培地において、室温にて行なった。菌培養液が、OD600約0.8に達したとき、0.1 mMのIPTGにより、発現を一晩誘導した。一回の凍結溶融のサイクルの後、300 mMのNaCl、及び2mMのヒスチジンを含む、50 mMのリン酸緩衝液、pH 8.0中の、2.5 mg/mlリゾチーム溶液の添加により、4℃にて、約30分間、細胞を溶解した。該溶液は、37000x g、4℃、30分間の遠心分離によって、不純物を除去し、その後、ガラスフリットを用いた濾過(DNAの分離)、及び粗い沈殿物、及び細かい沈殿物用のセルロース・フィルターを用いた、さらなる2段階の濾過工程を行なった。その上清(約500 ml)は、Ni2+アフィニティーカラム(1.6 x 20 cm)に、流速毎分1 mlでかけた。QCの溶出は、150 mMの塩化ナトリム、及び100 mMのヒスチジンを含む50 mMリン酸緩衝液によって行なった。QC含有画分は、限外濾過により濃縮した。
【0118】
(パパイヤラテックス由来QCの精製)
パパイヤラテックス由来QCは、BioCAD 700E(Perseptive Biosystems、Wiesbaden社、ドイツ)を用いて、以前に報告された方法(Zerhouni, S.らの論文、1989 Biochim Biophys Acta 138, 275-290)の修正版で調製した。50 gのラテックスを水に溶解し、その中に記載されているように遠心した。プロテアーゼの不活化は、S-メチルメタンチオスルフォネートによって行い、その結果得られた粗抽出液を、透析した。透析後、上清全体は、100 mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH 5.0で平衡化したSPセファロースファーストフロウ(Fast Flow)カラム(21 x内径2.5 cm)にかけた(流速3 ml/分)。溶出は、流速2 ml/分で、酢酸ナトリム緩衝液の濃度を上げていく3工程において行なった。第一工程は、0.5カラム容量の、0.1 Mから0.5 Mへの酢酸ナトリム緩衝液濃度の直線勾配による溶出であった。第二工程は、4カラム容量の、0.5 Mから0.68 Mへの酢酸ナトリム緩衝液濃度の直線勾配による溶出であった。そして、最終溶出工程の間は、1カラム容量の、0.85 Mの緩衝液を用いた。最も高い酵素活性を含む画分(6 ml)を溜めた。濃縮と、0.02 Mトリス/HCl緩衝液(pH 8.0)への緩衝液交換は、限外濾過(アミコン(Amicon);透過分子量10 kDaの膜を使用)により行なった。
【0119】
イオン交換クロマトグラフィー工程から得られた、濃縮されたパパイヤの酵素に、最終濃度2 Mになるように硫酸アンモニウムを加えた。この溶液を、2 M硫酸アンモニウムを含む0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH8.0)によって平衡化されたブチルセファロース4 ファーストフロウ(Fast Flow)カラム(21 x内径2.5 cm)にかけた(流速1.3 ml/分)。溶出は、硫酸アンモニウム濃度を下げて行く3工程で行なった。第一工程の間は、2 Mから0.6 Mへの硫酸アンモニウムの直線勾配を、0.5カラム容量の0.02 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)で用いた(流速1.3 ml/分)。第二工程は、0.6 Mから0 M硫酸アンモニウムの直線勾配を5カラム容量の0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH8.0)により、流速毎分1.5 mlでの溶出であった。0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH 8.0)を、流速1.5 ml/分で用いることにより、最終溶出工程を行なった。すべてのQC活性を含む画分を溜め、限外濾過により濃縮した。その結果得られた均質のQCは、-70℃に保存した。最終タンパク質濃度は、Bradfordの方法を用い、ウシ血清アルブミンで得られた標準曲線と比較して決定した。
【0120】
(実施例2):グルタミニルシクラーゼ活性の測定
(蛍光測定法)
すべての測定は、30℃で、マイクロプレート用のバイオアッセイリーダーHTS-7000プラス(BioAssay Reader HTS-7000Plus)(Perkin Elmer社)で行った。QC活性は、H-Gln-βNAを用い、蛍光測定的に評価した。試料は、20 mM EDTAを含む0.2 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)中の0.2 mM蛍光基質、0.25 Uピログルタミニルアミノペプチダーゼ(Unizyme, Horsholm社、Denmark)、及び適切に希釈されたQCの分注液を、最終容量250μlに調節した。励起/発光波長は、320/410 nmであった。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、測定条件下のβ-ナフチルアミンの標準曲線から決定した。1ユニットは、記載された条件下で、1分当たりH-Gln-βNAから1μmol pGlu-βNAの産生を触媒するQCの量として定義した。
第二の蛍光測定法において、QCの活性は、H-Gln-AMCを基質に用いて決定した。反応は、ノボスター(NOVOStar)マイクロプレートリーダー(BMG labtechnologies社)を用い、30℃で行った。試料は、5 mMのEDTAを含む0.05 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)中の多様な濃度の該蛍光基質、0.1 Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Qiagen社)、及び適切に希釈されたQCの分注液を、最終容量を250μlに調節した。励起/発光波長は、380/460 nmであった。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、測定条件下の7-アミノ-4-メチルクマリンの標準曲線から決定した。速度論的データは、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて査定した。
【0121】
(QCの分光学的測定法)
この新規測定法を使い、ほとんどのQC基質の速度論的パラメータを決定した。QC活性は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを補助酵素として使用した、以前の非連続測定法(Bateman, R. C. J.の論文、1989 J Neurosci Methods 30, 23-28)を適応させることにより得られた、連続法を使って、分光光学的に分析した。最終容量250μl中の試料は、各QC基質、0.3 mMの NADH、14 mMのα-ケトグルタル酸、及び30 U/mlのグルタミン酸デヒドロゲナーゼから成った。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始し、340 nmでの吸光度の減少を8〜15分間モニターすることにより遂行した。産物産生の典型的経時変化を、図1に示す。
初期の速度を測定し、測定条件下のアンモニアの標準曲線から、該酵素活性を決定した。全試料は、30℃でスペクトラフルオープラス(SPECTRAFluor Plus)、又はサンライズ(Sunrise)(両者ともTECAN社)マイクロプレートリーダーを用い、測定した。速度論的データは、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて査定した。
【0122】
(インヒビター測定)
インヒビター試験において、試料組成は、推定上の阻害性化合物を添加加した以外は、前記のものと同様であった。短時間QC阻害試験では、試料は4 mMの各インヒビターを含み、かつ1 KMの基質濃度であった。阻害の詳細な研究、及びKi値の決定においては、最初に、インヒビターの補助酵素における影響を調べた。どの場合も、どちらかの酵素に対する影響は検出されず、従って、信頼性のあるQC阻害測定を可能にした。阻害定数は、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて、該時間経過の曲線を競合阻害の一般式に当てはめることにより決定した。
【0123】
(実施例3):MALDI-TOF質量分析
ヒューレットパッカード(Hewlett-Packard)G2025 LD-TOFシステムをリニア飛行時間型分析計と共に用いて、マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析を行なった。機器には、337 nm窒素レーザー、加速電位源(5 kV)、及び1.0 mの飛行管を装着した。検出器操作は、陽イオンモードで、かつシグナルはパーソナルコンピューターに接続したレクロイ9350 Mデジタルストレージオシロスコープ(LeCroy 9350M digital storage oscilloscope)で記録、及びフィルターをかけた。試料(5μl)は、同量のマトリックス溶液と混合した。マトリックス溶液には、1 mlアセトニトリル/0.1% TFA水溶液(1:1、v/v)に、30 mgの2',6'-ジヒドロキシアセトフェノン(Aldrich社)、及び44 mgのクエン酸水素二アンモニウム(Fluka社)を溶解して調製したDHAP/DAHCを用いた。少量(≒1μl)のマトリックス−検体混合物は、プローブ先端に移動させ、かつ速やかに真空管(Hewlett-Packard G2024A 試料調製付属品)の中で蒸発させ、急速、かつ均一な試料結晶化を確実にした。
【0124】
長期間Glu1環化反応試験においては、Aβ由来ペプチドは、30℃の100μl 0.1 M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.2)、または0.1 Mビス-トリス緩衝液(pH 6.5)中に準備した。ペプチドは、0.5 mM [Aβ3-11a]、又は0.15 mM [Aβ3-21a]濃度で使用し、0.2 U QCは、全24時間加えた。Aβ(3-21)aの場合は、1% DMSOを加え測定した。様々な時間で、試料は測定管から採取され、ペプチドは、製造会社推奨に従いジップチップ(ZipTip)(Millipore社)で抽出し、マトリックス溶液と混合(1:1、v/v)し、かつその後、マススペクトルを記録した。ネガティブコントロールは、QCを加えないか、又は加熱不活化酵素を加えるかのいずれかであった。インヒビターの研究において、該試料組成は、阻害化合物(5 mMベンズイミダゾール、又は2 mM 1,10-フェナントロリン)を添加する以外は、前記と同様であった。
【0125】
(実施例4):pH依存性
ヒト、及びパパイヤQCの触媒作用のpH依存性を、一次反応条件下で研究し、それ故に特異性定数kcat/KMにおけるプロトン濃度の影響を示した。この目的のために、ピログルタミルアミノペプチダーゼを補助酵素、及びGln-βNAを基質として使用した、結合酵素測定(the coupled enzymatic assay)を使用した。ピログルタミルアミノペプチダーゼは、pH 5.5〜8.5で活性を有し、かつ安定であることが示された(Tsuru, D.らの論文、1978 J Biochem(Tokyo)84, 467-476)。それ故に、該測定によって、このpH範囲内でQC触媒の研究が可能になった。得られた速度プロファイルは、図2に示されるように、典型的ベル型曲線に適合した。ヒトQCは、至適pHがおよそ7.8〜8.0の、大変狭いpH依存性を有する。該速度は、より塩基性のpHで、降下する傾向があった。これは、pH 8.5まで活性の降下を示さなかった(図2、差し込み図)、パパイヤQCで見られた速度プロファイルと対照的である。しかしながら、両酵素は、pH 8で至適特異性を示した。意外にも、曲線の査定により、ヒト、及びパパイヤの酸性範囲でのpKa値は、各々7.17±0.02、及び7.15±0.02と、同一であることが明らかになった。
【0126】
明らかに、ヒトQCの、塩基pH値での活性の減少は、pKa値およそ8.5を有する原子団の解離に起因した。パパイヤQCの場合は、その第二pKa値の信用できる測定を可能にするような、塩基性pHにおけるデータポイント収集はなかった。これは、該データの単独解離モデルへの適合が、該データの二重解離モデルへの適合と比べて、ほぼ同一のpKa値(pKa 7.13±0.03)をもたらすことにより、支持される。これは、双方のpKa値が、かなり離れていることを示唆する。
【0127】
(pH安定性)
グルタミニルシクラーゼの安定性は、該植物、及び動物酵素をpH 4〜10間の異なるpH値において、30℃で30分間インキュベートすることにより調べた。その後、QC活性は、標準的条件下で調べた。その結果を、図3に示す。
パパイヤラテックス由来の該QCは、酸性、又は塩基性の範囲での顕著な不安定性への傾向はなく、研究したpH範囲内で安定であった。その一方、ヒトQCは、7〜8.5間のpH範囲内で同程度に安定であった。従って、pH 8のあたりの領域が、植物、及びヒトQCの活性、及び安定性にとって至適で、かつ該QCの基質特異性の比較を行うのに適しているようである。
【0128】
(実施例5):QCの基質特異性の決定
(分光学的測定)
実施例2に記載したように、連続分光学的測定を行った。従って、QCの活性は、α-ケトグルタル酸からのグルタミン酸の産生のための、アンモニアの遊離、及びその後のNADH/H+の消費に起因する340 nmでの吸光度の減少に反映する。図1に示すように、リニアプログレス曲線をモニターしたところ、測定した活性、及びQC濃度の間には、直線関係があった。さらに、ここ(表6)に示す連続測定を使用し、得られたH-Gln-Gln-OHの速度パラメータは、断続法を使用して得られたものとよく一致した(KM=175±18μM、kcat=21.3±0.6 s-1)。その上、表1に示したパパイヤQCによる、基質H-Gln-Ala-OH、H-Gln-Glu-OH、H-Gln-Gln-OH、H-Gln-OtBu、及びH-Gln-NH2の転換速度パラメータは、pH 8.8、及び37℃の条件で、直接法を使用して決定されたものとよく一致した(Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。それ故、新規連続アッセイ法が、信用できる結果を提供することは明らかである。
【0129】
(ジ、トリ、及びジペプチド代用物)
先に記載した該新規連続アッセイ法を使用し、約30種の化合物をパパイヤ(C. papaya)、及びヒト由来QCの潜在基質として調べた。結果を、表6に示した。特異性の比較により、ほぼ全部の短いペプチドがパパイヤQCにより、該ヒト酵素に比べてより効果的に転換されることが示された。興味深いことに、他のトリペプチドと比較したH-Gln-Tyr-Ala-OH、H-Gln-Phe-Ala-NH2、及びH-Gln-Trp-Ala-NH2の特異性、又はジペプチド基質と比較した発色基質H-Gln-AMC、H-Gln-βNA、及びH-Gln-Tyr-OHの反応性により示されるように、両酵素において、2位に疎水性の残基を有する基質が、最も有効な基質である。パパイヤQCにおいて、この知見は、その特異性が2位のアミノ酸残基の大きさに相関関係があるという初期の結果と一致する(Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。植物、及び動物QCの特異性における唯一顕著な相違点は、H-Gln-OtBuにおいて観察された。エステルはパパイヤQCにより、ジペプチド基質と同様の特異性で転換されるのに対し、ヒトQCでは、ほぼ一桁遅く転換された。
【0130】
(オリゴペプチド)
様々なジペプチド、及びトリペプチドに加えて、パパイヤ、及びヒトQCによる転換により、多くのオリゴペプチドを調べた(表6)。興味深いことに、テトラペプチドグループにおけるヒト、及びパパイヤQCにおける特異性の相違点は、ジペプチド、及びトリペプチド基質で観察されたほど大きくなかった。これにより、3位及び4位のアミノ酸でも、特にヒトQCの速度論的挙動に影響することが示唆された。しかしながら、H-Gln-Xaa-Tyr-Phe-NH2の構造のテトラペプチドグループにおいて著しく減少したkcat/KM値を示す、2位のアミノ酸がプロリンのペプチドは例外である(表6)。その特異性の低下は、ヒトQCにおいてより顕著であり、パパイヤQCと比較して該kcat/KM値においてほぼ8倍の相違をもたらした。
【0131】
また、ヒトQCの特異性の微低下は、H-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、H-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、及びH-Gln-Lys-Arg-Leu-NH2の特異性を他のテトラペプチドと比較して示唆されるように、アミノ酸C末端に正に荷電されたグルタミンを有する基質の転換において観察された。明らかに、該特異性低下は、主としてより小さい代謝回転数に起因した。この効果は、該植物酵素では見られなかった。
【0132】
【表6】
【0133】
また、該テトラペプチドで得られた結果は、もう一つの結論をもたらした。既に指摘したように、パパイヤQCは、ジペプチドにより高い特異性を示した。しかしながら、2位のアミノ酸にグルタミン酸を含有するペプチドグループにおいて、表6に与えられたデータを曲線で表した図4で示されるように、テトラペプチドによっては、ヒトQCにおいてより高い特異性定数が観察された。さらに、ペプチド鎖長が、ジから、テトラペプチドへ伸張するにつれて、パパイヤQCで得られた結果と対照的に、ヒトQCの選択性は上昇した。さらに、ヒトQCは、3位、又は4位のアミノ酸に大型の疎水性残基を有するペプチドにおいて、最も高い選択性を記録し、それにより、該酵素の疎水性相互作用を示唆した。それぞれのペプチドの速度パラメータを比較すると、該変化は主に低いKM値に起因すると考えられ、該ペプチドの代謝回転数は同様であることが見い出された。従って、ヒトQCの長いペプチドに対する高選択性は、より疎水性の基質の該酵素へのより強い結合の結果であると考えられる。
【0134】
また、3位と4位に疎水性アミノ酸を含有するペプチドにおいて観察されたヒト,及び植物QCの相違点は、H-Gln-Arg-Gly-Ile-NH2、及びH-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、又はH-Gln-Gln-OH、及びH-Gln-Gln-Tyr-Phe-OHに対する該酵素の特異性定数の比較により明らかになる。
また、ヒトQCが、N末端にGlnを含有し、かつC末端Ala残基が増加する同族基質において、より選択的であることを見い出した(表7)。ヒトQCの選択性が、基質の鎖長が伸張するにつれ増加したのに対し、パパイヤQCにはそのような傾向はなかった。また、ヒトQCがSer残基を配列に含有するペプチドに対して、より低い特異性であったので、側鎖の性質が重要であるように考えられる(表6)。
【0135】
【表7】
【0136】
(触媒反応におけるイオン強度の影響)
イオン強度は、基質特異性の影響に関して調べたもう1つのパラメータであった。その目的において、様々な基質の環化反応における速度パラメータを、0.5 M KClの存在、又は非存在下で決定した(表8)。驚いたことに、パパイヤラテックス由来QC、及びヒトQCにおいて、荷電されていない基幹をもつ基質の選択性は、塩の付加により有意に変化しなかったが、ヒトQCのH-Gln-Ala-OH、及びH-Gln-Glu-OHにおける特異性定数は、KClの添加により低下した。各々の速度パラメータにより示唆されるように、この効果は、上昇したKM、及びごくわずかに減少したkcat値に起因した。パパイヤQCの場合は、どちらのパラメータにおいても効果は検出されなかった。負に荷電されたH-Gln-Glu-Asp-Leu-NH2において、パラメータの変化が見い出されなかったことから、該効果は、そのように負に荷電された基質に起因しないように考えられる。塩付加の興味深い効果は、正に荷電されたH-Gln-Arg-Gly-Ile-NH2、及びH-Gln-Lys-Arg-Leu-NH2において見い出された。植物、及びヒトQCの場合、触媒反応における正の効果は、主に、より小さいKM値、及びわずかに高い代謝回転数に起因すると決定した。
【0137】
【表8】
【0138】
(生理的基質)
既に、初期の研究において、QCによる[Gln1]-TRH、及び[Gln1]-GnRHの転換は、ウシ、及びブタ脳下垂体由来QCにおいて示された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.、及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。既に調べられたこれらの脳下垂体ホルモンに加え、ヒトQCの3つの潜在基質、すなわちGln1-ガストリン、Gln1-ニューロテンシン、及びGln1-FPPを合成し、調べた。それらの転換の速度パラメータは表1に示した。興味深いことに、グルタミニルペプチドは、その大きさに依存して特異性定数の上昇を伴いながら、各々のピログルタミルペプチドへ転換される。すなわち、17アミノ酸の最も大きいペプチドプロガストリンが最初で、続いて、プロニューロテンシン、プロGnRH、プロTRH、及びプロFPPである。これらの知見は、合成ペプチドを用いて得られたデータに一致する。
また、驚いたことに、長い基質ほど、該植物酵素による高い選択性で転換され、それは、より短いオリゴペプチドにおける知見と部分的に対照的である。おそらく、活性部位からはるかに離れた、基質、及び酵素間の二次的結合相互作用が存在する。
【0139】
(改質アミノ酸含有ペプチド)
さらに、該QCの該特異性、及び該選択性を調べるために、改質N末端グルタミニル残基、又は2位に改質アミノ酸を含むペプチドを合成した。これらのペプチドの転換は、MALDI-TOF質量分析法を用いて、定性的に調べた(実施例3も参照)。グルタミニル残基、又はその類似体のそれぞれの環化反応に起因して、該基質と該触媒反応生成物の質量差を検出する。また、基質モル当たり、1モルのアンモニア遊離の場合は、該転換を、分光学的定量法を用いて定量的に分析した。
【0140】
(H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2)
N末端において、ペプチド、及び部分イソペプチド結合でリシル残基に結合している2グルタミニル残基含有する、N末端分鎖ペプチドは、ヒト(図5)、及びパパイヤQC(図示せず)により明らかに同一の方法で転換された。一貫した基質転換で示唆される(図5)ように、両グルタミニル残基は、個別の残基に対する検出可能な優先はなく、ピログルタミン酸へ転換された。従って、QCの、異なった結合をしたグルタミニル残基における選択性は、根本的に相違しない。
【0141】
(H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2)
唯一、メチル化されたグルタミニル残基は、パパイヤQCにより、ピログルタミル残基に転換された(図6)。さらに、該ヒトQCの該ペプチドによる阻害は検出されなかったので、該メチル化された残基はヒトQCにより認識されないことが示唆された。
【0142】
(H-Glu(OMe)-βNA、及びH-Glu-βNA)
これらの化合物はどちらも、パパイヤ、及びヒトQCによって転換されなかった。これらの蛍光発生基質は、ピログルタミルアミノペプチダーゼを補助酵素として使用しながら、蛍光分析学的に分析した。しかしながら、O-メチル化グルタミン酸残基は、非酵素的触媒環化反応する傾向があるトリス、及びトリシン緩衝液両者において顕著な不安定性を示した。さらに、両QCのH-Gln-AMCを基質とする活性は、H-Glu(OMe)-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2、又はH-Glu-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2の長鎖ペプチドにより阻害されなかったことは、グルタミン酸、又は誘導体が両QC型により認識されないことを示唆する。さらに、該結果はグルタミン酸残基の負電荷のみが、該ペプチドの該活性部位からの反発力の原因でないことを意味する。
【0143】
(H-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe))
分子内部分イソペプチド結合を含有するH-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe)の転換を定量的に分析し、ヒト、及びパパイヤQCにおけるKM値が各々240±14μM、及び133±5μMであることを明らかにした。ヒトQC(22.8±0.6 s-1)と比較して、パパイヤQC(49.4±0.6 s-1)による転換におけるより高い代謝回転数に起因して、該植物QCは、ヒトQCのおよそ4倍高いkcat/KM値372±9 mM-1min-1を示した。従って、パパイヤQCの場合、特異性定数はH-Gln-Ala-Ala-Ser-Ala-Ala-NH2のような同様の大きさをもつ基質と比べてごくわずかに小さい。しかしながら、ヒトQCのkcat/KM値は、95±3 mM-1s-1で、同様の大きさの基質に比べておよそ一桁小さいことを見い出した(表5)。
【0144】
(H-βホモGln-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2)
N末端β-ホモグルタミニル残基は、ヒト、及びパパイヤQCの触媒作用により、各々五員ラクタム環へ転換された。アンモニアの付随遊離を、先に記載したように、分光学的、及びMALDI-tof分析法により分析した。QCを除いたり、又は沸騰した場合、アンモニアの遊離が検出されなかったことから、該環化反応の特異的な触媒反応であることが示唆された。興味深いことに、パパイヤ(C. papaya)(KM=3.1±0.3 mM、kcat=4.0±0.4 s-1)、及びヒト(KM=2.5±0.2 mM、kcat=3.5±0.1 s-1)由来該QCは、各々1.4±0.1、及び1.3±0.1 mM-1s-1とほぼ同一のkcat/KMで、該ペプチドの転換を触媒する。従って、β-グルタミン残基の環化反応は、N末端にグルタミニル残基を含有する同様の大きさのペプチドに比べて、およそ1000倍低下した効率で触媒される。これは、基質のα-炭素の構造が、QC型による基質認識において重要であるが、必須ではないことを示す。基質である必須条件は、環化反応しやすい距離と角度の、γ-アミド基、及びプロトン化されていないN末端アミノ基であり、N末端グルタミニル、及びγ-ホモ-グルタミニル残基は必須条件を満たしている。
【0145】
(実施例6):QC基質の合成
(オリゴペプチド)
ペプチドを、既に記載されたように、ペプチド合成機(ラボーテックSP650(Labortec SP650)、Bachem社、スイス)を使用し、0.5 mmolスケールで半自動的に合成した(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)。長鎖ペプチドは、記載されたように、自動化シンフォニーペプチド合成機(Symphony peptide synthesizer)(Rainin Instrument社)を使用し、25μmolスケールで合成した(Manhart, S.らの論文、2003 Biochemistry 42, 3081-3088)。すべてのペプチド結合において、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3,-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸(TBTU;Novabiochem社)/塩基(ジイソプロピルエチルアミン、又はN-メチル- モルホリン;Merck社)を使用する、改質した固相ペプチド合成のFmocプロトコルを採用し、又は困難な結合の場合は、N-[(ジメチルアミノ)-1H-1,2,3,-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン-1-イルメチレン]-N-メチルメタンアンモニウムヘキサフルオロリン酸N-オキシド(4,5)(HATU;Applied Biosystems社)/ジイソプロピルエチルアミンを活性化剤として使用した。カクテルを含むトリフルオロ酢酸(TFA;Merck社)によるレジンからの開裂の後、粗ペプチドは無酸性溶媒の分取用HPLCにより精製し、N末端グルタミンのさらなる環化反応を回避した。250-21ルナ(Luna)RP18カラム(Phenomenex社)におけるアセトニトリル(Merck社)水溶液リニアグラジエント(40分間を通して、5〜40%、又は65%アセトニトリル)で分取HPLCを行った。ペプチド精度と同定を裏付けるために、分析用HPLC、及びESI-MSを使用した。
【0146】
(Glu(NH-NH2)-Ser-Pro-Thr-Ala-NH2)
直鎖前駆体ペプチド(Fmoc-Glu-Ser-Pro-Thr-Ala-NH2)は、標準的Fmoc方法(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)に従って、リンクアミド(Rink amide)MBHAリジン(Novabiochem社)において合成した。Fmoc保護ペプチドのレジンからの開裂後、該ペプチドを、ジエチルエーテル(Merck)で沈殿させ、濾過し、かつ乾燥させた。ジクロロメタン(DCM、Merck社)中で、該前駆体のγ-カルボン酸基(0.3等量)を結合させるのに、HMBA-AM レジン(1.16 mmol/g、Novabiochem社)を使用した。結合剤として、ジシクロへキシルカルボジイミド(DCC、Serva社)(4等量)、及びジメチルアミノピリジン(DMAP、Aldrich社)(0.1等量)を使用した。12時間後、レジンを、濾過し、DCMで洗い、反応を繰り返した。20%ピペリジンDMF溶液(5分間、3回)を用いたN末端Fmoc基の脱保護後、該ペプチドリジンを、5%ヒドラジン溶液(20 ml/g)で1.5時間処理した。該レジンを、濾過し、ジメチルホルムアミド(DMF、Roth社、ドイツ)、及びTFAで洗った。蒸発後、該粗ペプチドをエーテルで沈殿し、76%の収率を得た。
【0147】
(H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2)
直鎖ペプチドを、標準的Fmoc/tBu方法に従って、Fmoc-Lys(Fmoc)-OHを最後から2番目のアミノ酸結合として使用して、リンクアミド(Rink amide)MBHA(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)において合成した。20%ピペリジン(Merck社)DMF溶液で、レジンの2つのアミノ保護基を脱保護後、4等量のFmoc-Gln(Trt)-OHを結合させた。標準的開裂法で、95%の収率を得た。
【0148】
(H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2)
Fmoc-Gln(NMe)-OHを、Fmoc-MI-AM(Novabiochem社)レジンに充填したFmoc-Glu-OtBuから開始して合成した。DCMで膨潤後、該レジン(0.5 g)をDMFで洗い、20%ピペリジン(Merck社)DMF溶液で脱保護した。該レジンを5 ml DMF中に入れ、5等量Fmoc-Glu-OtBu、5等量HATU、及び10等量DIPEAを次いで加え、6時間振とうした。濾過、及び洗浄後、生成物を標準的TFA開裂条件に従って、開裂した。該H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2ペプチドは、記載されたように合成した(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)。Fmoc-Gln(NMe)-OHは、HATU/DIPEAと一晩結合させた。標準的開裂法で、78%の収率を得た。
【0149】
(H-Glu(OMe)-β-ナフチルアミド、H-Gln-Val-OH、H-Gln-Tyr-OH)
Boc保護ジペプチドを、クロロ炭酸イソブチル(Merck社)を使用して、標準的無水物混合法で合成した。C末端メチルエステルBoc-Gln-Tyr-OMe、及びBoc-Gln-Val-OMeを、1 N NaOHジオキサン溶液により鹸化した。Boc保護ペプチドは、HCl/ジオキサン溶液により、10分間脱保護した。蒸発後、残基を様々な溶媒で結晶化させ、固体化合物の60〜70%の収率を得た。
【0150】
(H-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe))
直鎖前駆体Boc-Gln(Trt)-Lys-Arg(Pmc)-Ala-Gly-Phe-OHを、酸感受性2-クロロトリチルレジンにおいて合成した。結合を、Fmoc-Lys(Mtt)-OHを用いたFmoc/tBu方法の標準的プロトコルを用いて行った。3%TFA DCM 溶液(10回、5分)で開裂後、該溶液は、10%ピリジン(Merck社)メタノール溶液(MeOH;Merck社)で中和し、DCM、及びMeOHで3回洗い、5%の容量に蒸発させ、粗ペプチドは氷冷水で沈殿させた。その後、該粗シペプチドは、DCC/N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt;Aldrich社)活性化を利用して、環化した。該粗ペプチドは、乾燥ジクロロメタン溶液(0.2 mmol/50 ml)に、溶解し、0.2 mmolのN-メチルモルホリン、及び0.4 mmolの1-ヒドロキシベンゾトリアゾールを添加した。この溶液を、0℃において、250 mlの0.4 mmolジシクロヘキシルカルボジイミドのジクロロメタン溶液へ滴下した。該反応は、室温で、一晩撹拌して完了した。N,N'-ジシクロヘキシル尿素の濾過後、溶媒は、蒸発により除いた。残留物は、エチルアセテートに溶解し、1N HCl、NaHCO3飽和溶液、及び水で数回洗った。該溶液は、無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空で乾燥するまで蒸発させた。
【0151】
(実施例7):QCのエフェクターの特性
(イミダゾール誘導体)
五員環の異なった位置に置換基をもつイミダゾール、及びベンズイミダゾール誘導体を、QCのインヒビターとして調べた(表3)。構造式の数は、イミダゾール環を示す。該方法は、実施例2に示す。
【0152】
(C-4(5)、及びC-4,5誘導体)
イミダゾール環の構造上同等の4、又は5位のいずれか、又は両位置に置換基をもつ化合物は、ヒトQCの阻害において有効性の減少を示した。しかしながら、最も効力のある阻害化合物の1種であることが証明されたN-ω-アセチル化ヒスタミンは、唯一の例外である。イミダゾールと比べて5-ヒドロキシメチル-4-メチル-イミダゾールが同様の阻害定数を示したように、これらの位置の小さい置換基は、結合にほとんど効果がなかった。これらの位置についた大きく、かつ巨大な基は、酵素による化合物の結合を低下、又は消失した。他の調べた置換基の中には、イミダゾール環の電子密度を低下できる負の誘導、又はメソメリー効果を及ぼすことが知られているものもあり、また、それはより低い結合定数の原因となる。また、L-ヒスチジン、及びヒスチジンアミドのKi値の相違は、結合における荷電の若干の影響を示唆する。既に、荷電した基質の静電反発力の証拠は、該基質特異性の研究において示された。すなわち、グルタミンアミドは、ヒトQCにより容易に生成物に転換されたが、遊離グルタミンにおける基質としての反応性は観察されなかった。
【0153】
(C-2誘導体)
調べたすべての誘導体は、イミダゾールのように、より弱くQCを阻害した。プロトンより大きいすべての置換は、適切なQC結合を妨げる。唯一2-メチル-ベンズイミダゾールのメチル基に起因して、該阻害定数は、およそ一桁の程度低下する。ベンズイミダゾール、及び2-アミノ-ベンズイミダゾールにおけるKi値の比較により、非常に類似した関係が示された。さらに、その結果により、影響が電子論的改質に関連しないことが示唆された。
【0154】
(N-1誘導体)
ヒトQCの阻害を調べたイミダゾール誘導体の中で、イミダゾールと比べて向上したKi値を持つほとんどの化合物は、1窒素原子において改質が見られた。また、これらの化合物には、最も有効なQCインヒビターの1種、1-ベンジルイミダゾールが含まれた。興味深いことに、1-ベンゾイルイミダゾール、及びフェニルイミダゾールにおいて見られるように、この構造のごくわずかな改質が、阻害特性の消失を起こし、実験条件下では不活性であった。また、この場合において、該観察された変化は、フェニル基の負のメソメリー効果に起因するイミダゾール環の低下した電子密度よって引き起こされるだけでないように思われ、それは、正の誘導効果を示す、巨大なトリメチルシリル基もまた、他の残基に比べて結合の低下を示したからである。興味深いことに、1-アミノプロピル-イミダゾールは、この族においてさほど有効性がない化合物の1種であった。立体的に同様の化合物1-メチルイミダゾール、及び1-ビニルイミダゾールにおいては、活性部位への結合の向上が見られたので、この化合物の該低有効性は、該塩基アミノ基によって引き起こされる。従って、正に荷電されたアミノ基が、該低Ki値の原因となり、その結果はN-ω-アセチル化ヒスタミン(表3)、及びヒスタミン(表4)により裏付けられる。
【0155】
(3,4、及び3,5誘導体化の効果)
4(5)位に、又は両位置に置環基を含有するイミダゾール誘導体は、該酵素の結合において限られた有効性をもつことを示した。該特異的置換基の効果を、L-ヒスタミン、及びヒスタミンの生物分解の2中間体3-メチル-4-ヒスタミン、及び3-メチル-5-ヒスタミン(表4)の阻害定数と比較することにより特定した。L-ヒスタミンは、そのアセチル化対応物に比べて、およそ一桁小さいKi値を示した。3-メチル-4-ヒスタミンの場合において、一窒素のメチル化は、有効性をかなり向上させた。しかしながら、3-メチル-5-ヒスタミンをもたらすメチル化は、阻害活性の完全な消失を引き起こした。従って、該観察された効果は、主に、塩基窒素に隣接した炭素の誘導体化に起因した、結合の立体障害により引き起こされるように考えられる。おそらく、該塩基窒素は、該酵素の結合において、重要な役割を果たす。
【0156】
(実施例8):Aβ(3-40/42)誘導体の産生
Aβ(3-40/42)のN末端の配列で、その3位にグルタミン酸残基の代わりにグルタミンを含有する短鎖ペプチド2種、Gln3-Aβ(1-11)a (配列: DAQFRHDSGYE)、及びGln3-Aβ(3-11)aを用いて、測定を行った。2種のペプチドのDP IVによる開裂、及びQCによるN末端グルタミン残基の環化反応を、MALDI-TOF質量分析で調べた。測定は、連続触媒反応測定用の両酵素においてと同様、精製DP IV(ブタ腎臓)、又は粗ブタ脳下垂体ホモジネートをQC源として用いて行った。
【0157】
(結果)
1.DPIVにより触媒されたGln3-Aβ(1-11)aからGln3-Aβ(3-11)aの産生、及びDP IVインヒビター、Val-ピロリジド(Val-Pyrr)によるその抑制
DPIV、又はDPIV様活性は、Gln3-Aβ(3-11)a産生下における、Gln3-Aβ(1-11)aの開裂をする(図7)。その3位の残基は、この開裂により露出し、それゆえ他の酵素、例えば、QCによる改質のために、利用されやすくなる。予想どおり、触媒作用は、Val-Pyrrにより完全に抑制することが可能である(表8)。
【0158】
2.脳下垂体ホモジネートにおけるQC触媒作用によるGln3-Aβ(3-11)aからpGlu3-Aβ(3-11)aの産生、及び1,10-フェナントロリンによる抑制
ブタ脳下垂体ホモジネートに存在するQCは、Gln3-Aβ(3-11)aの[pGlu3]Aβ(3-11)aへの転換を触媒する(図9)。[pGlu3]-Aβ(3-11)aの産生は、1,10-フェナントロリンの添加により阻害された(図10)。
【0159】
3.[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生をもたらすDP IV、及びQCの連続触媒作用、及びVal-Pyrr、及び1,10-フェナントロリンによる抑制
粗ブタ脳下垂体ホモジネートにブタ腎臓由来DP IVを付加して測定した、Gln3-Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生は、DP IV、及びQCによる連続触媒反応後、起こる(図11)。QCインヒビター1,10-フェナントロリン(図12)、又はDP IVインヒビターVal-Pyrrを添加したとき(図13)は、[pGlu3]Aβ(3-11)aは産生されなかった。[pGlu3]Aβ(3-11)aのわずかな出現は、アミノペプチダーゼの開裂、次いでグルタミン残基の環化反応に起因し、また、Gln3-Aβ(2-11)aの産生により示唆された。
【0160】
4.アミノペプチダーゼ触媒作用による、粗脳下垂体ホモジネートにおける[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生
DPIV触媒作用に依存しない[pGlu3]Aβ(3-11)aに起因して、Gln3-Aβ(1-11)aの分解を、DP IVを添加しない粗脳下垂体ホモジネートにおいて調べた(図14)。4項におけるデータから予想されるように、[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生が観察された。また、該データは、Gln3-Aβ(1-11)aの分解はアミノペプチダーゼによって触媒され、[pGlu3]Aβ(3-11)aを生じ得ることを示す。それ故、該結果は、ピログルタミル産生は、この組織におけるN末端ペプチド分解の指標であることを示し、さらに斑形成におけるQCの役割を支持した。
【0161】
(実施例9):組み換えヒトQCによる[Gln3]Aβ(3-11)a;(3-21)a、及び(3-40)の代謝回転
調べた全ての[Gln3]Aβ誘導ペプチドは、ヒトQCにより、対応するピログルタミル型へ効率よく転換された(表9)。水溶液におけるGln3-Aβ(3-21)a、及びGln3-Aβ(3-40)の難溶解性のため、該決定は、1% DMSOの存在下で行った。しかしながら、Gln3-Aβ(3-11)aでは、良好な溶解性により、DMSO存在、及び非存在下におけるQC触媒作用の代謝回転の動態解析が可能であった(表8)。まとめると、鎖長8、18、及び37アミノ酸の、QC基質としてのAβ-ペプチドの研究(表9参照)により、基質の鎖長が伸張するにつれヒトQC活性が上昇するという観察を裏付けた。従って、その特異性定数を考慮に入れると、Gln1-ガストリン、Gln1-ニューロテンシン、Gln1-GnRHは、QC基質の中でも最良である。同様に、これまで調べた最長のQC基質であるGln3-Aβ(3-40)、及びグルカゴンは、1% DMSO存在下においても、高二次速度定数(各々449 mM-1s-1、及び526 mM-1s-1)を示した(表9)。
興味深いことに、調べたアミロイドペプチドにおける該転換の該速度パラメータが、鎖長の伸張につれて劇的に変化しなかったことは、QC触媒おけるAβのC末端のごく軽度の影響を示唆した。従って、より良溶解性、及び実験処理によって、Aβの小断片、Gln3-Aβ(1-11)a、Gln3-Aβ(3-11)a、及びAβ(3-11)aを用いて、これらのペプチドN末端アミノペプチダーゼプロセズに関するさらなる研究を行った。
【0162】
【表9】
【0163】
(実施例10):組み換えヒトQCによるAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの代謝回転
QC存在下でのAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aのインキュベートにより、以前の研究と対照的に、グルタミン酸含有ペプチドがQCの基質になる得ることが示された(図15C、及びD)。QC触媒による[pGlu3]Aβ(3-11)a、及び[pGlu3]Aβ(3-21)aの産生を、各々pH 5.2、及び6.5で調べた。該QCの添加による活性の開始前に、QCインヒビター、ベンズイミダゾールを該溶液に添加した場合は、[pGlu3]Aβ(3-11)a、又は[pGlu3]Aβ(3-21)aを生じる基質転換は抑制された(図15E、及びF)。QCを添加前に煮沸した場合は、pGluペプチドの産生はごく僅かであった(図15A、及びB)。
【0164】
(実施例11):パパイヤQC触媒のGln-βNA、及びGlu-βNA の環化反応におけるpH依存性
パパイヤQCは、ミカエリスメンテン速度論に従い、2 mM(基質溶解性により限定された)までの濃度範囲においてGlu-βNAを転換した(図16)。pH 6.1〜8.5の間で調べた、QC触媒のGlu-βNAの転換における基質濃度に対する代謝回転の図を検討することにより、このGlu基質における、KM、及びkcatの両パラメータが、pHに依存することが示された(図16)。これは、以前に記載されたQC触媒のグルタミン環化反応とは対照的であり、その反応においては、該既定のpH範囲ではKMの変化のみが観察された(Gololobov, M. Y.らの論文、(1994)Arch Biochem Biophys 309, 300-307)。
続いて、Glu、及びGln環化反応中のプロトン濃度の影響を検討するために、低一次速度条件下(すなわち、KM値をはるかに下回る基質濃度)における、Glu-βNA、及びGln-βNAの環化反応のpH依存性を調べた(図17)。pH 6.0で至適pHを示したグルタミン酸の該環化反応に対し、グルタミンの環化反応は、pH 8.0で至適pHを示す。各々の至適pHにおける該特異性定数は、およそ80,000倍異なる一方、pH 6.0付近でのECに対するQCの活性は8,000倍だけである。
pH 6.0において4週間調べた、Gln-βNAから非酵素的pGluの産生により、一次速度定数を1.2*10-7 s-1と示された。しかしながら、同期間においてGlu-βNAからpGlu-βNAは産生されなかったことから、代謝回転の律速速度定数は1.0*10-9 s-1と推定できた。
【0165】
(実施例12):酵素失活化/再活性化法
ヒトQC(0.1-0.5 mg、1 mg/ml)の分注液を、3000倍超過の5 mM 1,10-フェナントロリン、又は5 mMジピコリン酸含有0.05 Mビス-トリス/HCl溶液(pH 6.8)溶液に対して一晩透析して、失活させた。続いて、試料を1 mM EDTA含有0.05 Mビス-トリス/HCl溶液(pH 6.8)に対する透析(3回、2000倍超過)により、失活物質を注意深く除去した。再活性実験は0.025 Mビス-トリス(pH 6.8)においてZn++、Mn++、Ni++、Ca++、K+、及びCo++イオンを1.0、0.5、0.25 mMの濃度で用いて、室温で15分間行なった。QC活性測定は、2 mM EDTA含有0.05 M トリス/HCl溶液(pH 8.0)で行い、緩衝溶液中に存在する微量の金属イオンにより急速な再活性化を防いだ。
【0166】
既に、1,10-フェナントロリンによるブタQCの阻害は、記載されている(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536、Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40 11246-11250)。しかしながら、EDTAがQC触媒反応において活性化する効果を持つことが示されていた事実は、フェナントロリンによる阻害が金属キレートに起因しないことを示唆した(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536、Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40)。また、1,10-フェナントロリンによる阻害に加えて、ヒトQC触媒の基質環化反応は、ジピコリン酸、及び8-ヒドロキシキノリン、他の金属酵素インヒビター存在下で消失した。これらのキレーターは、QCを競合的、及び時間依存的に阻害し、すなわち、既に競合的に阻害された初期の活性は、該化合物の長時間インキュベート後、さらに低下することが見い出された(図18、19)。興味深いことに、EDTAは、インキュベート時間、又は条件にかかわらず、顕著な阻害を示さなかった。
【0167】
ヒトQCは、5 mM 1,10-フェナントロリン、又は5 mMジピコリン酸に対する大規模な透析後、ほぼ完全に阻害された。キレーター非存在緩衝溶液に対して一晩透析を繰り返した後、QC活性は50〜60%まで部分的に再活性化された。しかしながら、1 mM EDTA含有緩衝液に対して透析した場合は、再活性化は観察されなかった。
該タンパク質を0.5 mM EDTA 存在下で0.5 mM ZnSO4と10分間インキュベートすることにより、ジピコリン酸、又は1,10-フェナントロリンのいずれかによる不活性化後のQC活性の、ほぼ完全な再活性化が実現された(図20)。同様に、再活性化にCo++、及びMn++を用いて、QCの部分再活性化を得た。0.25 mM Zn++存在下ですら、本来の活性の25%までの再活性化が可能だった。Ni++、Ca++、又はK+イオンを利用すると再活性化は観察されなかった。同様に、完全な活性型QCと、これらのイオンとのインキュベートは、該酵素活性に影響しなかった。
(図面の簡単な説明)
本発明のこれらおよび他の態様のさらなる理解は、以下の図を参照することより、得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】図1は、ヒトQCにより触媒されるH-Gln-Ala-OHの環化反応のプログレス曲線を示し、340 nmにおける吸光度の低下をモニターする。該試料は、0.3 mM NADH/H+、14 mM α-ケトグルタル酸、30 U/mlグルタミン酸デヒドロゲナーゼ、及び1 mM H-Gln-Ala-OHを含んだ。曲線A〜Dには、様々な濃度のQCを加えて:その濃度はA、10mU/ml、B、5 mU/ml、C、2.5 mU/mlであった。曲線Dの場合は、QCは除いた。QC濃度、及び観察された活性との間に、直線関係を得た(挿入図)。
【図2】図2は、Gln-βNAを基質として用い、一次反応速度条件下で決定されたヒト、及びパパイヤ(挿入図)QCのpH依存性を示す。ヒトQCの場合、Ellis、及びMorrisonに従い、25 mM MES、25 mM 酢酸、及び50 mMトリスからなる一定イオン強度をもたらす緩衝系を用いた(Ellis, K. J.、及びMorrison, J. F.の論文、1982 Methods Enzymol. 87, 405-426)。トリスのわずかな阻害効果のため、パパイヤQCは、50 mM Mops緩衝液を用いて調べた。イオン強度はNaClの添加によって0.05 Mに調節した。速度プロファイルは、解離基に基づくモデルに適合させることにより評価した。パパイヤQCの場合、データを単一解離モデルに適合させることにより、pKa値7.13±0.03を得た。
【0169】
【図3】図3は、パパイヤラテックス、及びヒトQCの安定性における、pHの影響を示す。酵素原液は、様々なpH値の0.1 M緩衝液に20倍希釈した(pH 4〜7のクエン酸ナトリウム緩衝液、及びpH 7〜10のリン酸ナトリウム緩衝液)。酵素溶液は、30℃で30分間インキュベートし、その後、酵素活性を標準プロトコルに従って解析した。
【図4】図4は、2位のアミノ酸に、グルタミン酸を含有する一組の基質における、特異性定数kcat/KMの比較を示す。ジからテトラペプチドへと、ヒトQCの特異性上昇が検出された一方、パパイヤQCの場合は、変化は観察されなかった。ここに示されたデータは、表3で与えられたパラメータの再プロットである。
【図5】図5は、ヒトQCにより触媒される、H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2からのpGlu-Lys(pGlu)-Arg-Leu-Ala-NH2の産生を示す。基質の転換は、アンモニア放出に起因する、m/z比における時間依存的変化によりモニターする。試料組成は、40 mMトリス/HCl溶液(pH 7.7)における0.5 mM基質、38 nM QCであった。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。パパイヤQCの場合にも、ごく同様の依存性が観察された。
【0170】
【図6】図6は、パパイヤQCにより触媒される、H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2からのpGlu-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2の産生を示す。基質の転換は、メチルアミンの放出による、m/z比の時間依存性変化によってモニターする。試料組成は、40 mMトリス/HCl溶液(pH 7.7)における0.5 mM基質、0.65μMパパイヤQCであった。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。パパイヤQCを含まない試料において、又は該基質に、1.5μMまでのヒトQCを添加することによって、基質の転換は観察されなかった(図示せず)。
【図7】図7は、DPIVにより触媒される、Gln3-Aβ(1-11)aからGln3-Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図8】図8は、DP IVインヒビター、Val-ピロリジド(Val-Pyrr)によるGln3- Aβ(1-11)aの切断の抑制を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【0171】
【図9】図9は、QCにより触媒される、[Gln3]Aβ(3-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図10】図10は、該QCインヒビター、1,10-フェナントロリンによる、[Gln3]Aβ(3-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生阻害を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図11】図11は、DP IV、及びQCによる連続触媒後の、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図12】図12は、触媒活性型DP IV、及びQCの存在下における、QCインヒビター、1,10-フェナントロリンによる、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)a産生の阻害を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【0172】
【図13】図13は、触媒活性型DP IV、及びQCの存在下における、DP IVインヒビター、Val-Pyrrによる、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)a産生の低下を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図14】図14は、ブタ脳下垂体ホモジネートに存在するアミノペプチダーゼ、及びQCによる連続触媒作用後の、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図15】図15A、及びBは、使用前に10分間煮沸した、組み換えヒトQCとインキュベートされたAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示す。C、及びDは、活性型ヒトQC存在下における、Aβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示し、それらは各々、[pGlu3]Aβ(3-11)a、及び[pGlu3]Aβ(3-21)aの産生をもたらす。E、及びFは、活性型QC、及び[pGlu3]産生を抑制する5 mMベンズイミダゾール存在下における、Aβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示す。
【0173】
【図16】図16は、基質の濃度に対してプロットされた、パパイヤQCに触媒されるGlu-βNA転換の反応速度を示す。初速度は、0.1 Mピロリン酸緩衝液(pH 6.1)(四角)、0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.5)(丸)、及び0.1 Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)(三角)で測定した。速度パラメータは、下記のとおりであり:KM=1.13±0.07 mM、kcat=1.13±0.04 min-1(pH 6.1);KM=1.45±0.03 mM、kcat=0.92±0.01 min-1(pH 7.5);KM=1.76±0.06 mM、kcat=0.56±0.01 min-1(pH 8.5)であった。
【図17】図17は、低一次反応速度条件下(S<<KM)で決定された、Gln-βNA(丸)、及びGlu-βNA(四角)の転換のpH依存性を示す。基質濃度は、各々、0.01 mM、及び0.25 mMであった。両決定には、0.05 M酢酸、0.05 Mピロリン酸、及び0.05 Mトリシンを含む、三成分緩衝系を使用した。全ての緩衝液は、イオン強度の相違を防ぐため、NaClの添加により等電気伝導度に調節した。該データは、2種の解離基を説明する公式に適合し、pKa値は、Gln-βNAにおいては、6.91±0.02、及び9.5±0.1、及びGlu-βNAにおいては4.6±0.1、及び7.55±0.02であった。滴定により決定された、各々の基質アミノ基のpKa値は、6.97±0.01(Gln-βNA)、及び7.57±0.05(Glu-βNA)であった。全ての決定は、30℃で行った。
【図18】図18は、イミダゾール、及びジピコリン酸存在下、及び阻害化合物非存在下における、ヒトQCに触媒されるH-Gln-AMCの環化反応の経時変化曲線を示す。ジピコリン酸存在下のハイパーボリック(hyperbolic)型は、QC活性部位からの金属イオンの除去を示唆する。
【0174】
【図19】図19は、複素環キレーター、1,10-フェナントロリンによる、QCの時間依存的不活性化を示す。該QC酵素と、基質非存在下におけるインヒビターとのインキュベート後(実線)では、インヒビターと予めインキュべートしなかった試料(点跡)に比べて、酵素活性低下が観察され、これはQC活性部位からの金属イオンの除去を示唆する。
【図20】図20は、一価、及び一価金属イオンとの、ヒトQCの再活性化を示す。QCは、50 mMビス-トリス(pH 6.8)中の2 mMジピコリン酸の添加により、不活性化した。その後、該酵素を、1.0 mM EDTAを含む、50 mM ビス-トリス(pH 6.8)に対して透析させた。該酵素の再活性化は、該不活性化された酵素試料と、0.5 mM EDTA存在下における、0.5 mMの濃度の金属イオンとのインキュベートにより達成し、緩衝溶液に存在する微量の金属イオンにより、非特異的再活性化を防いだ。コントロールは、不活性化しなかったが、不活性化された酵素としてEDTA溶液に対して透析した酵素試料(+EDTA)、及びEDTAを添加しない緩衝溶液に対して透析した酵素試料(-EDTA)により示された。
【図21】図21は、ヒトQC(hQC)、及び他のメタロペプチダーゼClan MHのM28ファミリー員の配列アライメントを示す。多重配列アライメントは、ch. EMBnet. orgにおけるClustalWをデフォルト設定で使用し、行なった。ヒトQC(hQC;GenBank X71125)、放線菌(Streptomyces griseus)由来Zn依存性アミノペプチダーゼ(SGAP;Swiss-Prot P80561)、及びヒトグルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(hGCP II;Swiss-Prot Q04609)のN-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼ(N-acetylated-alpha-linked acidic dipeptidase)(NAALADase I)ドメイン(残基274〜587)内おける、亜鉛イオン結合残基の保存を示す。金属結合に関与する該アミノ酸は、太字でタイプし、下線を引いた。ヒトQCの場合は、これらの残基は、該ペプチダーゼへの推定相応残基である。
【図22】図22は、システアミン(四角)、ジメチル-システアミン(丸)、及びメルカプトエタノール(三角)による、ネズミQC阻害のpH-依存性を示す。点は、1つの解離基を説明する式と一致した。該曲線は、異なる形を表し、該依存性は、該インヒビターのプロトン化状態の変化のためであることを示している。システアミン(8.71±0.07)、及びジメチル-システアミン(8.07±0.03)の該速度論的に決定したpKa-値は、該アミノ基の論文データから得られた値(それぞれ8.6、及び7.95)とよく一致している(Buist, G. J. 及びLucas, H. J. 1957 J Am Chem Soc 79, 6157; Edsall, J. T. Biophysical Chemistry, Academic Press, Inc., New York, 1958)。従って、メルカプトエタノールの該pH-依存性は、調査した該pH-範囲の解離基を運ばないので、一価の勾配をかき回す。
【図23】図23は、様々な濃度のシステアミン存在下(0, 0.25, 0.5, 1 mM)、ヒトQCで触媒されたGln-AMC (0.25, 0.125, 0.063, 0.031 mM)の転換に対して得られた該速度論的データのラインウィーバー-バークプロットを示す。該データは、競合的阻害と一致した。該測定Ki-値は、0.037±0.001 mMであった。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アンモニアの遊離下における、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリン、pGlu*)への分子内環化反応、及び水の遊離下における、N末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化反応を触媒する、グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)に関するものである。
本発明は、哺乳動物QCを金属酵素として同定し、哺乳動物における新規の生理学的基質、QCの新規エフェクター、及びQC活性の調節によって治療可能な病態の治療のための、QCのエフェクターの使用、及びQCのエフェクターを含む医薬組成物を提供する。さらに、金属相互作用が、QCインヒビターの開発に有用なアプローチであることが示される。
好ましい実施態様において、本発明は、QC、及びDP IV活性の調節によって治療可能な病態の治療、又は緩和のために、DP IV、又はDP IV様酵素のインヒビターを組合せるQC活性のエフェクターの使用を提供する。
また、QC活性のエフェクターの同定、及び選定のためのスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)は、アンモニアの遊離を伴う、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化反応を触媒する。QCは、1963年にMesserが熱帯植物パパイヤ(Carica papaya)のラテックスからはじめて精製された(Messer, Mの論文、1963 Nature 4874, 1299)。24年後、類似の酵素活性が、動物脳下垂体において発見された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H. 及びSpiess, J.の論文1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。該哺乳動物QCにおいて、QCによる pGluへのGln の転換は、TRH 及びGnRHの前駆体に見ることができる(Busby, W. H. J.らの論文1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H. 及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。その上、QCの初期局在実験によって、ウシ脳下垂体における触媒の推定的産物との同一場所での局在が明らかになり、さらに、ペプチドホルモン合成における示唆された機能が裏付けられた(Bockers, T. M.らの論文、1995 J Neuroendocrinol 7, 445-453)。これに対し、植物QCの生理学的機能は、明らかでない。C.パパイヤ由来の該酵素の場合、病原微生物に対する植物防御における役割が示唆された(El Moussaoui, A.らの論文、2001 Cell Mol Life Sci 58, 556-570)。近年、配列比較によって、他の植物からの推定上QCが同定された(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。これらの酵素の生理学的機能は、依然として明らかとなっていない。
【0003】
植物、及び動物由来の公知のQCは、基質N末端のL-グルタミンに高い特異性を示し、その速度論的挙動は、ミカエリス−メンテン式に従うことが見い出された(Pohl, T.らの論文、1991 Proc Natl Acad Sci U S A 88, 10059-10063;Consalvo, A. P.らの論文、1988 Anal Biochem 175, 131-138;Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。しかしながら、C.パパイヤ由来QC、及び保存性の高い哺乳動物由来のQCの一次構造の比較では、配列の相同性がないことが明らかになった(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。該植物QCが、新しい酵素ファミリーに属していると思われるのに対し(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)、哺乳動物QCは細菌アミノペプチダーゼと顕著な配列相同性をもつことが見い出され(Bateman, R. C.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、植物、及び動物由来のQCは異なる進化上の起源をもつという結論が導かれた。
【0004】
欧州特許出願公開第02 011 349.4号には、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードしているポリヌクレオチド、それによってコードされるポリペプチドが開示されている。さらに、この出願は、該発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。昆虫QCを含む精製ポリペプチド、及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を低下させる薬剤のスクリーニング方法において有用である。そのような薬剤は、殺虫剤と同様に有用であると記載されている。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、神経細胞変性、活性化アストロサイト、及び活性化マイクログリアが密接に関連する細胞外アミロイド斑の異常蓄積が特徴である(Terry, R. D.、及びKatzman, R.の論文、1983 Ann Neurol 14, 497-506;Glenner, G. G.、及びWong, C. W.の論文、1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890;Intagaki, S.らの論文、1989 J Neuroimmunol 24, 173-182;Funato, H.らの論文、1998 Am J Pathol 152, 983-992;Selkoe, D. J.の論文、2001 Physiol Rev 81, 741-766)。アミロイド-β(Aβ)ペプチドは老人斑の主要構成成分であり、ADの発病、及び進行、遺伝学的研究が支持する仮説に直接関与していると考えられている(Glenner, G. G.、及びWong, C. W.の論文、1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890;Borchelt, D. R.らの論文、1996 Neuron 17, 1005-1013;Lemere, C. A.らの論文、1996 Nat Med 2, 1146-1150;Mann, D. M.、及びIwatsubo, T.の論文、1996 Neurodegeneration 5, 115-120;Citron, M.らの論文、1997 Nat Med 3, 67-72;Selkoe, D. J.の論文、2001 Physiol Rev 81, 741-766)。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質から(Kang, J.らの論文、1987 Nature 325, 733-736;Selkoe, D. J. 1998 Trends Cell Biol 8, 447-453)、AβのN末端でベータセクレターゼ、及びC末端でのガンマセクレターゼにより配列切断されるタンパク質分解プロセスによって生成される(Haass, C.、及びSelkoe, D. J.の論文 1993 Cell 75, 1039-1042;Simons, M.らの論文、1996 J Neurosci 16 899-908)。該N末端がL-Aspで始まる主要なAβペプチド(Aβ1-42/40)に加えて、N末端切断型の多異種混合が老人斑に生じる。そのような短縮型ペプチドは、フルレングス型に比べてインビトロでより神経毒性が高く、より急速に凝集することが報告された(Pike, C. J.らの論文、1995 J Biol Chem 270 23895-23898)。N末端切断型ペプチドは、家族性アルツハイマー病(FAD)患者において過剰生成されること(Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466;Russo, C.らの論文、2000 Nature 405, 531-532)、ダウン症の脳で早期に出現し、加齢とともに増加することが知られている(Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416, Russo, C.らの論文、2001 Neurobiol Dis 8, 173-180;Tekirian, T. L.らの論文、1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94)。最後に、それらの量は該疾患の進行性重症度を反映する(Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416)。さらに、付加的翻訳後プロセスは、1及び7位のアスパラギン酸の異性化、又はラセミ化によって、及び残基3及び11位のグルタミン酸の環化によって、N末端を改質し得る。3位にピログルタミン酸を含む異性体[pGlu3]Aβ(3-40/42)は、老人斑内のN末端切断種の顕著な型で、−全Aβ量の約50%−を占め(Mori, H.らの論文、1992 J Biol Chem 267, 17082-17086;Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466;Russo, C.らの論文、1997 FEBS Lett 409, 411-416;Tekirian, T. L.らの論文、1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94;Geddes, J. W.らの論文、1999 Neurobiol Aging 20, 75-79;Harigaya, Y.らの論文、2000 Biochem Biophys Res Commun 276, 422-427)、かつ、それはアミロイド傷害以前にも存在する(Lalowski, M.らの論文、1996 J Biol Chem 271, 33623-33631)。[pGlu3]Aβ(3-40/42)ペプチドの蓄積は、凝集を増進しほとんどのアミノペプチダーゼに対する耐性を付与する、構造上の改質によるものと思われる(Saido, T. C.らの論文、1995 Neuron 14, 457-466 ;Tekirian, T. L.らの論文、1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。この証拠は、アルツハイマー病の発症機序における[pGlu3]Aβ(3-40/42)ペプチドのきわめて重要な役割の手掛かりを提供する。しかしながら、それらの神経毒性、及び凝集特性は比較的ほとんど知られていない(He, W.、及びBarrow, C. J.の論文、1999 Biochemistry 38, 10871-10877;Tekirian, T. L.らの論文、1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。さらに、活性化グリアは厳密に老人斑に関連しており、アミロイド沈着の蓄積に積極的に寄与しうるが、該イソ型のグリア細胞への作用、及び該ペプチドへのグリア反応は全く知られていない。近年の研究では、Aβ(1-42)、Aβ(1-40)、[pGlu3]Aβ(3-42)、及び[pGlu3]Aβ(3-40)ペプチドの毒性、凝集特性、及び異化を神経細胞培養、及びグリア細胞培養で調べ、かつピログルタミン酸改質がAβ-ペプチドの毒性を高め、さらに培養アストロサイトによる該ペプチドの分解を阻害することが示された。Shirotaniら(2002)は、インビトロでシンドビスウィルスにより感染した初代皮質神経細胞における[pGlu3]Aβ-ペプチドの産生を調べた。彼らは、アミノ酸置換、及びアミノ酸欠失により、[pGlu3]Aβの潜在前駆体をコードするアミロイド前駆体タンパク質相補的DNAを作成した。本来の前駆体のグルタミン酸の代わりにN末端グルタミン残基ではじまる1種の人工前駆体では、グルタミニルシクラーゼによるピログルタミン酸への自然転換、又は酵素的転換が示唆された。[pGlu3]Aβの本来の前駆体における3位のN末端グルタミン酸の環化機構は、インビボでは確定されなかった(Shirotani, K.らの論文、(2002)Neurosci Lett 327, 25-28)。
【0006】
家族性英国型認知症(Familial British Dementia) (FBD)、及び家族性デンマーク型認知症(Familial Danish Dementia)(FDD)は、認知機能障害、痙縮、及び小脳性運動失調により特徴付けられる、早期発症常染色体優性疾患である(Ghiso, J. らの論文 2000, Ann N Y Acad Sci 903, 129-137; Vidal, R. らの論文 1999, Nature 399, 776-781; Vidal, R. らの論文 2004, J Neuropathol Exp Neurol 63, 787-800)。アルツハイマー病に類似して、広範囲の実質、及び血管アミロイド沈着が、海馬神経変性、補体、及びグリアの活性化に付随して、患者に形成される(Rostagno, A. らの論文 2002, J Biol Chem 277, 49782-49790)。該疾患は、野生型BRIに比べてアミノ酸が11個長いオープンリーディングフレームに導く該BRI遺伝子(SwissProt Q9Y287)の異なる変異により生じる。FBDの場合、該ORFの変化は、BRI (BRI-L)の終止コドンの変異により生じ、一方、FDDにおいて、10-ヌクレオチド重複-挿入が、より大きいBRI (BRI-D)へと導く(Ghiso J. らの論文 2001 Amyloid 8, 277-284; Rostagno, A. らの論文 2002 J Biol Chem 277, 49782-49790)。染色体13にコードされているクラス2膜貫通型タンパク質であるBRIは、該C-末端領域のフリン(furin)、及び他のプロホルモン転換酵素により処理され、23アミノ酸長さのペプチドを放出することが示されている(Kim, S. H. らの論文 2000 Ann N Y Acad Sci 920, 93-99; Kim, S. H. らの論文 2002 J Biol Chem 277, 1872-1877)。該変異体BRIタンパク質BRI-D、及びBRI-Lの開裂により、ペプチド(ABri、及びADan, 両方とも34アミノ酸)を生成する。これらは、凝集する傾向があり、非繊維沈着、並びにアミロイド原繊維を生じる(El Agnaf, O. M. らの論文 2004 Protein Pept Lett 11, 207-212; El Agnaf, O. M. らの論文 2001 Biochemistry 40, 3449-3457; El Agnaf, O. M. らの論文 2001 J Mol Biol 310, 157-168; Srinivasan らの論文 2003 J Mol Biol 333, 1003-1023)。該ADan、及びABriペプチドは、これらのN-末端22アミノ酸が同一であるが、異なるC-末端領域を含む。該C-末端部は、原繊維形成、及び神経毒性に必須であることが示されている(El Agnaf, O. M. らの論文 2004 Protein Pept Lett 11, 207-212)。
【0007】
該ABri、及びADanペプチドの該N-末端は、ピログルタミル形成によりブロックされていることが示されている。アルツハイマー病において、Aβの該N-末端でのピログルタミル形成に従って、pGluが、グルタミン酸から形成される(Ghiso J. らの文献 2001 Amyloid 8; Saido らの文献 1995 Neuron 14, 457-466)。次々にピログルタミル形成が、多くのアミノペプチダーゼによる分解の方に、該ペプチドを安定化し、従って、該疾患の進行を誘発する。凝集形成は、細胞外に進み、該細胞の分泌経路においても進行することが示されている(Kim らの論文 2002 J Biol Chem 277, 1872-1877)。従って、グルタミニル、及びグルタミン酸シクラーゼの阻害による、神経毒性ABri、及びADanペプチドのN-末端でのpGlu形成抑制は、FBD、及びFDDを治療する新しいアプローチを表す。
【0008】
ジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)は、腎臓、肝臓、及び腸を含む多様な人体組織で見出される、プロリンの後(より少ない程度にアラニンの後、セリンの後、又はグリシンの後)を開裂するセリンプロテアーゼであり、かつペプチド鎖からN末端のジペプチドを開裂する。最近、DP IVが神経ペプチド代謝、T細胞活性化、癌細胞の内皮への接着、及びHIVのリンパ球様細胞への侵入に重要な役割を果たすことが示された。それについては、国際公開第02/34242号、国際公開第02/34243号、国際公開第03/002595号、及び国際公開第03/002596号を参照されたい。
【0009】
国際公開第99/61431号に記載された該DP IVインヒビターは、アミノ酸残基、及びチアゾリジン、又はピロリジン群、及びその塩、特にL-トレオ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-トレオ-イソロイシルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩を含む。
【0010】
さらなる低分子量ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターの例には、テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキサミド誘導体、N-置換2-シアノピロール、及び-ピロリジン、N-(N'-置換グリシル)-2-シアノピロリジン、N-(置換グリシル)-チアゾリジン、N-(置換グリシル)-4-シアノチアゾリジン、アミノ-アシル-ボロノ-プロピル-インヒビター、シクロプロピル-融合ピロリジン、及び複素環化合物のような薬剤がある。ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターは、下記の文献に記載されている:米国特許第6,380,398号、米国特許第6,011,155号、米国特許第6,107,317号、米国特許第6,110,949号、米国特許第6,124,305号、米国特許第6,172,081号、国際公開第 95/15309号、国際公開第99/61431号、国際公開第99/67278号、国際公開第99/67279号、ドイツ特許第198 34 591号公報、国際公開第97/40832号、ドイツ特許第196 16 486 C 2号公報、国際公開第98/19998号、国際公開第00/07617号、国際公開第99/38501号、国際公開第99/46272号、国際公開第99/38501号、国際公開第01/68603号、国際公開第01/40180号、国際公開第01/8133号、国際公開第01/81304号、国際公開第01/55105、国際公開第02/02560号、及び国際公開第02/14271号、国際公開第02/04610号、国際公開第02/051836号、国際公開第02/068420号、国際公開第02/076450号、国際公開第02/083128号、国際公開第02/38541号、国際公開第03/000180号、国際公開第03/000181号、国際公開第03/000250号、国際公開第03/002530号、国際公開第03/002531号、国際公開第03/002553号、国際公開第03/002593号、国際公開第03/004496号、国際公開第03/024942号、及び国際公開第03/024965号である。これらの文献に教示されている内容は、その全体、特にインヒビター、その定義、使用、及び産生に関して、引用により本明細書に取り込まれるものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、Glu1-ABri, Glu1-ADan, Gln3- Aβ(3-40/42), 及びGln1-ガストリン(17、及び34)からなる群から選択された哺乳動物QCの新規生理学的基質、並びにQC活性の調節によって治療可能な病態、好ましくは、哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群(Zolliger-Ellison Syndrome)、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される病態の治療のための、QCエフェクターの使用、及びQCエフェクターを含む医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
阻害研究により、ヒトQCは、金属依存性トランスフェラーゼであることが示された。QCのアポ酵素は、亜鉛イオンにより最も効果的に活性化され得て、かつ、亜鉛依存性アミノペプチダーゼの金属結合モチーフは、ヒトQCにも存在する。金属と結合する活性部位と相互作用する化合物は、QCの有力なインヒビターである。
【0013】
予想外に、組み換えヒトQCは、脳抽出物由来QCの活性と同様に、N末端グルタミニル、並びにグルタミン酸環化反応の両方を触媒することが示された。最も特筆すべきことは、シクラーゼ触媒のGlu1-転換がpH 6.0付近で活発なのに対し、pGlu-誘導体へのGln1-転換は至適pH 8.0付近で起こるという発明である。それ故、pGlu-Aβに関連するペプチドの産生は、組み換えヒトQC、及びブタ脳下垂体抽出物由来QCの活性阻害によって抑制できるので、該酵素QCは、本発明に従って、アルツハイマー病治療に用いる薬剤開発の標的である。
本発明は、任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と共に少なくとも1種のQCのエフェクターを含むか;又は任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と共に少なくとも1種のQCのエフェクターを、少なくとも1種のDP IVインヒビターと共に含む、非経口、経腸、又は経口投与に用いる医薬組成物を提供する。
本発明は、一般的に式1により記載され得る、全ての立体異性体を含むQC-インヒビター、又はその医薬として許容し得る塩を提供する:
【0014】
【化1】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物(mimetic)、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【0015】
(ペプチド配列)
本明細書中で言及し、かつ使用したペプチドは、下記の配列を有する。
Aβ(1-42):
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-Ile-Ala
Aβ(1-40):
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Aβ(3-42):
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val-Ile-Ala
Aβ(3-40):
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Aβ(1-11)a:
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
Aβ(3-11)a:
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
【0016】
Aβ(1-21)a:
Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Aβ(3-21)a:
Glu-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Gln3-Aβ(3-40):
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-Glu-Asp-Val-Gly-Ser-Asn-Lys-Gly-Ala-Ile-Ile-Gly-Leu-Met-Val-Gly-Gly-Val-Val
Gln3-Aβ(3-21)a:
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-Val-His-His-Gln-Lys-Leu-Val-Phe-Phe-Ala-NH2
Gln3-Aβ(1-11)a:
Asp-Ala-Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
Gln3-Aβ(3-11)a:
Gln-Phe-Arg-His-Asp-Ser-Gly-Tyr-Glu-NH2
ABri
pGlu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Ser-Arg-Thr-Val-Lys-Lys-Asn-Ile-Ile-Glu-Glu-Asn
Glu1-ABri
Glu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Ser-Arg-Thr-Val-Lys-Lys-Asn-Ile-Ile-Glu-Glu-Asn
ADan
pGlu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Phe-Asn-Leu-Phe-Leu-Asn-Ser-Gln-Glu-Lys-His-Tyr
Glu1-ADan
Glu-Ala-Ser-Asn-Cys-Phe-Ala-Ile-Arg-His-Phe-Glu-Asn-Lys-Phe-Ala-Val-Glu-Thr-Leu-Ile-Cys-Phe-Asn-Leu-Phe-Leu-Asn-Ser-Gln-Glu-Lys-His-Tyr
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明は、a)インビボQC活性の調節によって治療可能な、哺乳動物の疾患の治療、及び/又は、b)QC活性の調節によって引き起こされる、pGlu含有ペプチドの活性に基づく生理的プロセスの調節のための、グルタミニルシクラーゼ(QC)のエフェクターを提供する。
さらに、本発明は哺乳動物におけるグルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)、及び/又はQC様酵素の阻害に用いる化合物を提供し、かつQC活性に関わる病態の治療のための、QC活性のインヒビターの使用を提供する。
さらに本発明は、哺乳動物におけるグルタミニルシクラーゼ(QC, EC2.3.2.5)、及び/又はQC様酵素を阻害する化合物、及びQC活性に関連した病態を治療するための、QC活性のインヒビターの使用を提供する。
【0018】
また、本発明はアルツハイマー病、及びダウン症の新規な治療方法を提供する。アルツハイマー病、及びダウン症の脳に沈着したアミロイドβ-ペプチドのN末端は、ピログルタミン酸を有する。pGluの産生は、該疾患の発症、及び進行における重要な事象である。その理由は、改質されたアミロイドβ-ペプチドは、β-アミロイドの凝集、及び毒性を増大し、疾患の発病、及び進行を悪化させ得るからである(Russo, C.らの論文、2002 J Neurochem 82, 1480-1489)。
【0019】
これに対し、本来のAβ-ペプチド(3-40/42)においては、グルタミン酸がN末端アミノ酸として存在する。今日までにGluのpGluへの酵素転換は知られていない。さらに、GluペプチドのpGluペプチドへの自然環化反応は、今までのところ観察されていない。したがって、本発明の一態様は、アルツハイマー病、及びダウン症におけるQCの役割を決定することであった。この一態様においては、3位のアミノ酸としてグルタミン酸の代わりにグルタミンを含む、Aβ(3-11)a、及びAβ(1-11)aの合成、これらの改質アミロイドβ-ペプチドのQC、DP IV、及びDP IV様酵素、及びアミノペプチダーゼに対する基質特性の決定、並びに、QCインヒビターを使用して、該アミロイドβ-誘導体ペプチド(1-11)、及び(3-11)のN末端グルタミン残基からpGluの産生を抑制するQCインヒビターの使用に向けられている。該結果を、実施例8に示す。適用された方法は、実施例3に記載されている。
【0020】
今日まで、該疾患の進行におけるQCの関与が全く示唆されていない。その理由は、グルタミン酸がAβ(3-40/42、及び11-40/42)におけるN末端アミノ酸だからである。しかし、QCはペプチドのN末端でpGluを産生できる唯一公知の酵素である。本発明の他の態様は下記の知見、及び発見に関与している:
a)グルタミンに加えて、QCはごく低速度で、グルタミン酸のピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
b)APP、又はその後に形成されるアミロイドβ-ペプチドのグルタミン酸は、未知の酵素活性により翻訳後にグルタミンに転換され、かつ第二工程として、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセス後に、触媒する、
c)グルタミン酸は化学触媒、又は自己触媒により、翻訳後にグルタミンに転換され、かつ続いて、該アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセス後、QCは、グルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
d)該アミロイドβ-タンパク質をコードするAPP遺伝子において、3位のGluの代わりにGlnをもたらす突然変異がある。翻訳、及び該N末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への該環化反応を触媒する、
e)グルタミンは、未知の酵素活性の異常により、APPの未完成のペプチド鎖に取り込まれ、かつ続いて、該アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCは、N末端グルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する。
【0021】
QCは上記全5事例における重要な工程、すなわちアミロイドβ-ペプチドの凝集を促進するピログルタミン酸の産生に関与している。このように、QCの阻害は、環化反応が起こる機構に関わらず、アルツハイマー病、及びダウン症の発症と進行を起こす、斑形成型Aβ(3-40/42)、又はAβ(11-40/42)の沈着の予防を可能にする。
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの3、11、及び22位に見い出される。その中で、22位のグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への突然変異(アミロイド前駆体タンパク質APP 693、スイスプロットP05067に相当)は、いわゆるオランダ型脳動脈アミロイドーシス突然変異として記載されている。
3、11、及び22位にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβ(1-40/42/43)に比べて、細胞毒性、及び疎水性がより高いことが記載されている(Saido T.C.の論文、2000 Medical Hypotheses 54: 427-429)。
【0022】
多種のN末端変異は、異なる部位でのβ-セクレターゼ酵素、β-部位アミロイド前駆体タンパク質-切断酵素(BACE)(Huse J.T.らの論文、2002 J. Biol. Chem. 277(18):16278-16284)により、及び/又はアミノペプチダーゼのプロセシングによって、産生が可能である。全ての場合において、先に記載したa)〜e)の経路によって環化反応が起こり得る。
【0023】
今までのところ、経路a)に相当する、未知のグルタミルシクラーゼ(EC)による、Glu1ペプチドのpGluペプチドへの酵素的転換を支持する証拠はない(Garden, R. W.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095)。今日までに、弱アルカリpH条件下で、N末端側がプロトン化され、かつ負電荷のGlu1γ-カルボン酸部分をもつGlu1ペプチドを、環化できるような酵素活性は同定されていない。
【0024】
Gln1基質に対するQC活性は、pH 7.0以下で劇的に低下する。これに対し、Glu1転換は酸性反応条件で起こるようである(Iwatsubo, T.らの論文、(1996)Am J Pathol 149, 1823-1830;Russo, C.らの論文、1977 FEBS Lett 409, 411-416;Russo, C.らの論文 2001 Neurobiol Dis 8, 173-180;Tekirian, T. L.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 76-94;Russo, C.らの論文(2002)J Neurochem 82, 1480-1489;Hosoda, R.らの論文(1998)J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095;Garden, R. W.らの論文(1999)J Neurochem 72, 676-681)。
【0025】
本発明に従って、QCが弱酸性条件下でアミロイド-β誘導ペプチドを認識し、かつ代謝回転できるか否かを調べた。したがって、該酵素の潜在的基質として、Gln3-Aβ(1-11)a、Aβ(3-11)a、Gln3-Aβ(3-11)a、Aβ(3-21)a、Gln3-Aβ(3-21)a、及びGln3-Aβ(3-40)を合成し、かつ調べた。これらの配列は、翻訳後のGluアミド化が原因で起こり得る、本来のN末端、及びC末端切断型Glu3-Aβペプチド、及びGln3-Aβペプチドを模倣するように選択された。
【0026】
本発明において、パパイヤ、及びヒトQCがグルタミニル、及びグルタミル環化反応の両方を触媒することを示した。明らかに、QCの主要生理学的機能は、ホルモン分泌プロセスに先立つ、又はその間の、グルタミン環化反応による内分泌細胞内のホルモン成熟を完成させることである。そのような分泌小胞は、酸性pHであることが知られている。従って、pH 5.0〜7.0の狭いpH範囲内での該酵素の副活性は、Glu-Aβペプチドをも転換する、新規に発見されたグルタミルシクラーゼの活性であり得る。しかしながら、Gln転換に比べてGlu環化はかなり遅く起こるので、該グルタミル環化反応が有意義な生理的役割を果たすかどうかは、疑問の余地がある。しかしながら、神経変性疾患の病理においては、該グルタミル環化反応は有意義である。
【0027】
該酵素反応のpH依存性を研究し、本発明者らは、プロトン化されていないN末端がGln1ペプチドの環化反応に不可欠であり、かつ従って、該基質のpKa値は、QC触媒のpKa値と同一であることを見いだした(図17参照)。このように、QCは、プロトン化されていないα-アミノ部分の、アミド化により親電子的に活性化されたγ-カルボニル炭素への分子内求核攻撃を安定化させる(スキーム1)。
【0028】
N末端グルタミン含有ペプチドに存在する一価の電荷に対して、Glu含有ペプチドにおけるN末端Glu残基は、中性付近のpHで、大部分は二価に荷電される。グルタミン酸は、γ-カルボキシル、及びα-アミノ部位に対し、各々、約4.2、及び7.5のpKa値を示す。すなわち、中性、及びそれ以上のpHでは、該α-アミノ窒素は、部分的に、又は全体的にプロトン化されず、かつ求核的であるが、γ-カルボキシル基はプロトン化されず、かつそれにより親電子的カルボニル活性を発揮しない。したがって、分子内環化反応は不可能である。
【0029】
しかしながら、pH約5.2〜6.5の範囲において、その各々のpKa値の間、全N末端Glu含有ペプチドの約1〜10%(-NH2)、又は10〜1%(-COOH)の濃度で、2官能基は両方非イオン化型で存在する。その結果として、弱酸性pH範囲間で、電荷していない両基を持つN末端Gluペプチドが存在し、かつ従って、QCがpGluペプチドへの分子内環化反応の中間体を安定化させることが可能である。すなわち、もし、該γ-カルボキシル基がプロトン化していると、該カルボニル炭素は親電子的で、プロトン化されていないα-アミノ基による親核攻撃が可能になる。このpHにおいて、水酸基イオンは脱離基として機能する(スキーム3)。これらの仮説は、QCが触媒するGlu-βNAの転換のために得られたpH依存性のデータによって確認された(実施例11参照)。QCによるGln-βNAのグルタミン転換に対し、該触媒の至適pHはpH 6.0付近の酸性範囲、すなわち、基質分子種がプロトン化されたγ-カルボキシル基、及びプロトン化されていないα-アミノ基を同時に十分に持って存在するようなpH範囲に移動する。さらに、速度論的に決定したpKa値7.55±0.02は、滴定により決定されたGlu-βNAのα-アミノ基のpKa値に極めてよく一致している(7.57±0.05)。
【0030】
生理学的に、pH 6.0で、QCが触媒するグルタミン酸環化反応の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化反応の該定数より、8,000倍程度遅くなり得る(図17)。しかしながら、Glu-βNA、及びGln-βNAの両モデル基質の非酵素的転換がごくわずかであることは、本発明において観察されたごくわずかなpGluペプチド産生と一致する。それゆえ、QCによるpGluの産生において、酵素対非酵素の速度定数の比から、少なくとも108の加速を推定することが可能である(該酵素触媒の該二次速度定数を、各非酵素環化反応の一次速度定数と比較すると、Gln転換、及びGlu転換における触媒有効係数は、各々109〜1010 M-1である)。これらのデータからの結論は、pGlu産生をもたらす酵素経路は、インビボでのみあり得ると思われる。
【0031】
QCは脳内に非常に豊富に存在しており、かつ最近見い出された、30μM(Gln-)TRH様ペプチドを成熟するための高代謝回転(0.9分-1)(Prokai, L.らの論文、(1999)J Med Chem 42, 4563-4571)であるから、同様の反応条件下での適切なグルタミン酸基質には、約100時間の環化反応半減期を予測し得る。さらに、分泌経路における脳QC/ECの局在化、および位置を考慮すると、実際のインビボ酵素、及び基質濃度、及び反応条件は、正常細胞の酵素的環化反応において、なおさら好都合であり得る。かつ、N末端GluがGlnに転換されているなら、QCにより調節される、かなり急速なpGluの産生を予想し得る。インビトロにおいて、両反応はQC/EC活性のインヒビターを適用することによって抑制された(図9、10、及び15)。
【0032】
要約すると、本発明は、脳内にかなり豊富に存在するヒトQCが、Glu-Aβ、及びGln-Aβ前駆体から、アルツハイマー病で見い出される斑沈着の50%以上を構成する、アミロイド生成性pGlu-Aβ-ペプチドを産生する触媒であることを示した。これらの知見は、QC/ECを老人斑形成に関わる一因子と同定し、かつ従って、アルツハイマー病の治療における新規な薬剤標的と同定した。
【0033】
本発明の第二の実施態様において、アミロイドβ-誘導ペプチドが、ジぺプチジルペプチダーゼIV(DP IV)、又はDP IV様酵素、好ましくはジペプチジルペプチダーゼII(DP II)の基質であることを見い出された。DP IV、DP II、又はDP IV様酵素は、改質したアミロイドβ-ペプチド(1-11)のN末端からジペプチドを放出し、グルタミンをN末端アミノ酸残基に持つアミロイドβ-ペプチド(3-11)を産生する。その結果は、実施例8に示した。
【0034】
DP II、DP IV、又は他のDP IV様酵素の切断に先立ち、アスパラギン酸(アミロイドβ-ペプチドの1番めの残基)、及びアラニン(アミロイドβ-ペプチドの2番めの残基)間のペプチド結合は、文献に記載されているように、異性化されイソアスパルチル残基を生じ得る(Kuo, Y.-M.、Emmerling, M. R.、Woods, A. S.、Cotter, R. J.、及びRoher, A. E.の論文、(1997)BBRC 237, 188-191;Shimizu, T.、Watanabe, A.、Ogawara, M.、Mori, H.、及びShirasawa, T.の論文、(2000)Arch. Biochem. Biophys. 381, 225-234)。
これらのイソアスパラチル残基は、該アミロイドβ-ペプチドにアミノペプチダーゼ分解に対する耐性を与え、かつその結果として、核化老人斑は多量のisoAsp1アミロイドベータペプチドを含んでおり、それはN末端における低下した代謝回転を示唆する。
【0035】
しかしながら、本発明において初めて、N末端ジペプチドH-isoAsp1-Ala2-OHが、特に酸性条件下でジペプチジルぺプチダーゼにより放出され得ることを示した。さらにまた、異性化はβ-セクレターゼによる切断に先行することが可能であり、かつ該異性化はタンパク質分解を促進し、isoAsp1アミロイドβ-ペプチドのN末端イソアスパルチル結合の遊離を可能にし、次いでDP II、DPIV、又は DP IV様酵素により代謝回転され得ることが示された(Momand, J.、及びClarke, S.(1987)Biochemistry 26, 7798-7805;Kuo, Y.-M.らの論文、(1997)BBRC 237, 188-191)。従って、イソアスパルチル産生の阻害は、β-セクレターゼによる切断の減少を可能にし、かつ順に、アミロイドβ-ペプチドの産生の減少を可能にし得る。その上、isoAsp1アミロイドβ-ペプチドのDP II、DPIV、又は DP IV様酵素による代謝回転の阻害は、Glu3-Aβの露出を防げ、QC/EC触媒による[pGlu3]Aβ産生を抑制し得る。
【0036】
本発明の第三の実施態様において、DP IV活性のインヒビター、及びQCのインヒビターとの組み合わせを、アルツハイマー病、及びダウン症の治療のために使用することができる。
DP IV、及び/又は DP IV様酵素、及びQCを組合せた効果は、以下に示すとおりである:
a)DP IV、及び/又は DP IV様酵素はAβ(1-40/42)を切断し、H-Asp-Ala-OHを含むジペプチド、及びAβ(3-40/42)が放出される、
b)副反応として、QCは低速度でグルタミン酸のピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
c)グルタミン酸は、未知の酵素活性により翻訳後にグルタミンに転換され、かつ続いて、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
d)グルタミン酸は化学触媒、又は自己触媒により、翻訳後にグルタミンに転換され、かつ第二工程として、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
e)アミロイドβ-タンパク質をコードするAPP遺伝子において、Aβの3位のGluの代わりにGlnをもたらす突然変異がある。翻訳、及びN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する、
f)グルタミンは、未知の酵素活性の異常により未完成のペプチド鎖に取り込まれ、かつ続いて、アミロイドβ-ペプチドN末端のプロセシング後、QCはグルタミンのピログルタミン酸への環化反応を触媒する。
【0037】
また、QC活性への該N末端Glnの露出は、異なるペプチダーゼ活性によって、引き起こし得る。アミノペプチダーゼは、Aβ(1-40/42)のN末端から、Asp、及びAlaを順次取り去ることが可能で、従って、環化反応され易い3番目のアミノ酸が露出される。DP I、DP II、DP IV、DP 8、DP 9、及びDP 10のようなジペプチジルペプチダーゼは、一工程でAsp-Alaを除去する。従って、アミノペプチダーゼ、又はジペプチジルペプチダーゼの活性の阻害は、Aβ(3-40/42)の産生を防止するのに有用である。
【0038】
DP IV、及び/又はDP IV様酵素のインヒビター、及びQCの活性低下エフェクターとの組合せ効果を、下記の経路で示す:
a)DP IV、及び/又はDP IV様酵素は、Aβ(1-40/42)のAβ(3-40/42)への転換を阻害する。
b)それにより、グルタミン酸のN末端露出を妨げ、酵素による、又は化学触媒によるグルタミンへの転換はなく、続いてピログルタミン酸産生することは不可能である。
c)さらに、QCのインヒビターは、残基が改質されたAβ(3-40/42)分子、及びAPP遺伝子の突然変異により産生された、これらの改質Aβ(3-40/42)分子からのピログルタミン酸形成を阻害する。
本発明の範囲内で、DP IV、又はDP IV様酵素、及びQCとの類似の組合せ効果は、さらにグルカゴン、CCケモカイン、及びサブスタンスPのような、ペプチドホルモンで示された。
【0039】
グルカゴンは、すい臓のランゲルハンス島アルファ細胞から放出される、29アミノ酸ポリペプチドであり、肝臓でのグリコーゲン分解、及びグルコース新生を刺激促進することにより、血糖値を維持するよう作用する。その重要性にかかわらず、体内でのグルカゴン排除をつかさどる機構に関しては見解の一致を見ないままである。Pospisilikらは、高感度の質量分光学的技術を用い、グルカゴンの酵素代謝を測定し、分子産物を同定した。グルカゴンを精製されたブタジペプチジルペプチダーゼIV(DP IV)とインキュベートすることにより、グルカゴン(3-29)、及びグルカゴン(5-29)が生じた。ヒト血清では、グルカゴン3-29への分解後速やかにグルカゴンのN末端環化反応が起こり、さらなる加水分解を抑制した。グルカゴンのバイオアッセイにおいて、精製DP IV、又は、正常ラット血清とインキュベートの後、高血糖活性の有意な低下が示されたのに対し、DP IV欠損ラット血清との同様のインキュベートでは、グルカゴン生物活性の低下は示されなかった。質量分析、およびバイオアッセイによってモニターすると、分解は、DP IV特異的インヒビター、イソロイシルチアゾリジンにより阻害された。これらの結果により、DP IVがグルカゴンの分解、及び不活性化に関係する主要酵素と同定した。これらの知見は、ヒト血漿中のグルカゴンレベルの決定に、重要な影響をもたらす((Pospisilik A.らの論文 2001 Regul Pept 96, 133-41)。
【0040】
当初、ヒト単球走化性タンパク質2(MCP-2)は、MCP-1、及びMCP-3と共に生成されるケモカインとして、刺激促進された骨肉腫細胞から精製されてきた。Von Coillieら(Van Coillie, E.らの論文、1998 Biochemistry 37, 12672-12680)は、ヒト精巣cDNAライブラリーから5'末端伸張型MCP-2 cDNAをクローニングした。それは76残基のMCP-2タンパク質をコードしたが、報告されている骨髄由来MCP-2 cDNA配列とはコドン46で異なり、Glnの代わりにLysをコードした。一塩基変異多型(SNP)により生じた、該MCP-2Lys46変異体をMCP-2Gln46と生物学的に比較した。該コード領域をバクテリア発現ベクターpHEN1にサブクローンし、かつ大腸菌(Escherichia coli)の形質転換後、該2種のMCP-2変異体をペリプラズムから回収した。エドマン分解によって、N末端がpGluの代わりにGln残基であることが明らかになった。rMCP-2Gln46、及びrMCP-2Lys46、及びそのN末端が環化した該対応型を、単球細胞上でカルシウム流動、及び走化性アッセイで、分析した。該rMCP-2Gln46、及びrMCP-2Lys46 アイソフォーム間で、生物学活性には有意な差はなかった。しかしながら、両MCP-2変異体において、N末端ピログルタミン酸が遊走性に不可欠であるが、カルシウム流動には不可欠でないことが示された。セリンプロテアーゼCD26/ジペプチジルペプチダーゼIV(CD26/DPP IV)による、rMCP-2Lys46のN末端切断型は、アミノ末端Gln-Proジペプチドの放出をもたらすが、NH2末端pGluを含む人工MCP-2は、影響を受けなかった。CD26/DPP IVで切断されたrMCP-2Lys46(3-76)は、遊走性、及びシグナル伝達アッセイの両方でほぼ完全に不活性であった。これらの観察は、MCP-2のNH2末端pGluが遊走活性に不可欠であること、また、それが該タンパク質をCD26/DPP IVによる分解から保護することを示唆した(van Coillie, E.らの論文、1998, Biochemistry 37, 12672-80)。
【0041】
本発明の範囲内で、LC/MS分析により、グルカゴン(3-29)(Pospisilikらの論文、2001)、及びMCP-2アイソフォーム(van Coillieらの論文、1998)のN末端ピログルタミン酸残基の産生がQCにより触媒されることが決定された。
さらに、LC/MS実験により、サブスタンスPからLys-Pro、及びArg-Proの2種のジペプチドのN末端DP IV触媒による除去後、残存[Gln5]サブスタンスP5-11は、QCにより[pGlu5]サブスタンスP5-11へ転換されることを証明した。
【0042】
DP IVインヒビターは、国際公開第99/61431号において開示されている。特に、アミノ酸残基、及びチアゾリジン、又はピロリジン群、及びその塩を含むDP IVインヒビターが開示されており、特にL-トレオ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-トレオ-イソロイシルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリン、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩である。
【0043】
低分子量ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターのさらなる例には、テトラヒドロイソキノリン-3-カルボキサミド誘導体、N-置換 2-シアノピロール、及び-ピロリジン、N-(N'-置換グリシル)2-シアノピロリジン、N-(置換グリシル)-チアゾリジン、N-(置換グリシル)-4-シアノチアゾリジン、アミノ-アシル-ボロノ-プロピル-インヒビター、シクロプロピル-融合ピロリジン、及び複素環化合物のような薬剤がある。ジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターは、下記の文献に記載されている:米国特許第6,380,398号、米国特許第6,011,155号、米国特許第6,107,317号、米国特許第6,110,949号、米国特許第6,124,305号、米国特許第6,172,081号、国際公開第95/15309号、国際公開第99/61431号、国際公開第99/67278号、国際公開第99/67279号、ドイツ特許第198 34 591号公報、国際公開第97/40832号、ドイツ特許第196 16 486 C 2号公報、国際公開第98/19998号、国際公開第00/07617号、国際公開第99/38501号、国際公開第99/46272号、国際公開第99/38501号、国際公開第01/68603号、国際公開第01/40180号、国際公開第01/8133号、国際公開第01/81304号、国際公開第01/55105、国際公開第02/02560号、及び国際公開第02/14271号、国際公開第02/04610号、国際公開第02/051836号、国際公開第02/068420号、国際公開第02/076450号、国際公開第02/083128号、国際公開第02/38541号、国際公開第03/000180号、国際公開第03/000181号、国際公開第03/000250号、国際公開第03/002530号、国際公開第03/002531号、国際公開第03/002553号、国際公開第03/002593号、国際公開第03/004496号、国際公開第03/024942号、及び国際公開第03/024965号である。これらの文献に教示されている内容は、その全体、特にインヒビター、その定義、使用、及び産生に関して、引用により本明細書に取り込まれるものとする。
【0044】
QCのエフェクターと組合せる使用が好ましいのは、Hughesらの論文(1999 Biochemistry 38 11597-11603)により開示されたNVP-DPP728A(1-[[[2-[{5-シアノピリジン-2-イル}アミノ]エチル]アミノ]アセチル]-2-シアノ-(S)-ピロリジン)(Novartis社)、Hughesら(アメリカ糖尿病協会会議、2002年、要旨番号272)により開示されたLAF-237(1-[(3-ヒドロキシ-アダマント-1-イルアミノ)-アセチル]-ピロリジン-2(S)-カルボニトリル)(Novartis社)、Yamadaらの論文(1998 Bioorg Med Chem Lett 8, 1537-1540)に開示されたTSL-225(トリプトフィル-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸)、Asworthらの論文(1996 Bioorg Med Chem Lett 6, 1163-1166、及び2745-2748)に開示された2-シアノピロリジド、及び4-シアノピロリジド、Sudreらの論文(2002 Diabetes 51, 1461-1469)によって開示されたFE-999011(Ferring社)、及び国際公開第01/34594号で開示された化合物(Guilford)のようなDP IVインヒビターがあり、上記の文献で設定した投与量を採用する。
【0045】
QCのエフェクターと組合せる使用がより好ましいDP IVインヒビターは、ジペプチド化合物であり、そのアミノ酸は、例えば、ロイシン、バリン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、イソロイシン、アスパラギン、及びアスパラギン酸のような天然アミノ酸、から選択されるのが好ましい。本発明で使用されるジペプチド様化合物は、10μMの(ジペプチド化合物の)濃度で、血漿ジペプチジルペプチダーゼIV、又はDP IVアナログ酵素活性の少なくとも10%、特に少なくとも40%活性の低下を示す。また、インビボでは、多くの場合少なくとも60%、又は少なくとも70%の活性の低下が所望される。また、好ましい化合物では、最高20%、又は30%の活性の低下が示され得る。
【0046】
好ましいジペプチド化合物は、N-バリルプロリル、O-ベンゾイルヒドロキシルアミン、アラニルピロリジン、L-アロ-イソロイシルチアゾリジン、L-トレオ-イソロイシルピロリジンのようなイソロイシルチアゾリジン、及びその塩、特にフマル酸塩、及び、L-アロ-イソロイシルピロリジン、及びその塩である。特に好ましい化合物は、グルタミニルピロリジン、及びグルタミニルチアゾリジン、H-Asn-ピロリジン、H-Asn-チアゾリジン、H-Asp-ピロリジン、H-Asp-チアゾリジン、H-Asp(NHOH)-ピロリジン、H-Asp(NHOH)-チアゾリジン、H-Glu-ピロリジン、H-Glu-チアゾリジン、H-Glu(NHOH)-ピロリジン、H-Glu(NHOH)-チアゾリジン、H-His-ピロリジン、H-His-チアゾリジン、H-Pro-ピロリジン、H-Pro-チアゾリジン、H-Ile-アジジジン、H-Ile-ピロリジン、H-L-アロ-Ile-チアゾリジン、H-Val-ピロリジン、及びH-Val-チアゾリジン、及び医薬として許容し得るその塩である。これらの化合物は、国際公開第99/61431号、及び欧州特許出願公開第1 304 327号に記載されている。
【0047】
さらに本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV触媒の競合的調節に有用な基質様ペプチド化合物と組合せたQCのエフェクターの使用を提供する。好ましいペプチド化合物は、2-アミノオクタン酸-Pro-Ile、Abu-Pro-Ile、Aib-Pro-Ile、Aze-Pro-Ile、Cha-Pro-Ile、Ile-Hyp-Ile、Ile-Pro-アロ-Ile、Ile-Pro-t-ブチル-Gly、Ile-Pro-Val、Nle-Pro-Ile、Nva-Pro-Ile、Orn-Pro-Ile、Phe-Pro-Ile、Phg-Pro-Ile、Pip-Pro-Ile、Ser(Bzl)-Pro-Ile、Ser(P)-Pro-Ile、Ser-Pro-Ile、t-ブチル-Gly-Pro-D-Val、t-ブチル-Gly-Pro-Gly、t-ブチル-Gly-Pro-Ile、t-ブチル-Gly-Pro-Ile-アミド、t-ブチル-Gly-Pro-t-ブチル-Gly、t-ブチル-Gly-Pro-Val、Thr-Pro-Ile、Tic-Pro-Ile、Trp-Pro-Ile、Tyr(P)-Pro-Ile、Tyr-Pro-アロ-Ile、Val-Pro-アロ-Ile、Val-Pro-t-ブチル-Gly、Val-Pro-Val、及びその医薬として許容し得るその塩である。そのうち、t-ブチル-Glyは、下記式のように定義し、かつ、Ser(Bzl)、及びSer(P)は、それぞれベンジル-セリン、及びホスホリル-セリンと定義する。Tyr(P)は、ホスホリル-チロシンと定義する。これらの化合物は、国際公開第03/002593号に開示されている。
【0048】
【化2】
【0049】
本発明に従ってQCのエフェクターと組合せて使用でき、さらに好ましいDP IVインヒビターは、ペプチジルケトンである。例を挙げると、下記化合物、及びその医薬として許容し得るその塩である:
2-メチルカルボニル-1-N-[(L)-アラニル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、2-メチル)カルボニル-1-N-[(L)-バリニル-(L)-プロリル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[(アセチル-オキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[(L)-アラニル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[ベンゾイル-オキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-{[(2,6-ジクロロベンジル)チオメチル]カルボニル}-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン、
2-[ベンゾイ-ルオキシ-メチル)カルボニル]-1-N-[グリシル-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジン臭化水素酸塩、
2-[([1,3]-チアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(ベンゾチアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[N-{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(-ベンゾチアゾールチアゾール-2-イル)カルボニル]-1-N-[{(L)-アラニル}-グリシル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩、
2-[(ピリジン-2-イル)カルボニル]-1-N-[N-{(L)-アラニル}-(L)-バリニル]-(2S)-ピロリジントリフルオロ酢酸塩である。これらの化合物は、国際公開第03/033524号に開示されている。
【0050】
さらに、本発明に従って、置換アミノケトンをQCエフェクターと組合せて使用することが可能である。好ましい置換アミノケトンを挙げると、
1-シクロペンチル-3-メチル-1-オキソ-2-ペンタンアミニウムクロライド、
1-シクロペンチル-3-メチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
1-シクロペンチル-3,3-ジメチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
1-シクロヘキシル-3,3-ジメチル-1-オキソ-2-ブタンアミニウムクロライド、
3-(シクロペンチルカルボニル)-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニウムクロライド、
N-(2-シクロペンチル-2-オキソエチル)シクロヘキサンアミニウムクロライド、及び
その医薬として許容し得るその塩がある。
【0051】
当初、希少なプロリン特異的プロテアーゼグループのうちで、DP IVは、唯一膜結合性酵素で、ポリペプチド鎖のアミノ末端でその端から2番目残基のプロリンに特異性があると考えられていた。しかしながら、DP IVと構造的に相同性はないが、同様の酵素活性をもつ、他の分子が同定された。今までに同定されたDP IV様酵素は、例えば、Sedo、及びMalik(Sedo、及びMalikの論文、2001, Biochim Biophys Acta, 36506, 1-10)、及びAbbott、及びGorrell(Abbott, C.A.、及びGorrell, M.Dの著書、エクトペプチダーゼ(Langne、及びAnsorge編集、Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York中、171-195ページ))による総説に記載されている繊維芽活性化タンパク質α(fibroblast activation protein α)、ジペプチジルペプチダーゼIV β、ジペプチジルアミノペプチダーゼ様タンパク質、N-アセチル化α結合型酸性ジペプチダーゼ、休止細胞プロリンジペプチダーゼ(quiescent cell proline dipeptidase)、ジペプチジルペプチダーゼII、アトラクチン、及びジペプチジルペプチダーゼIV 関連タンパク質(DPP 8)、DPL1(DPX、DP6)、DPL2、及びDPP 9 がある。最近、ジペプチジルペプチダーゼ10(DPP 10)のクローニング、及び特性が報告された(Qi, S.Y.らの論文、Biochemical Journal Immediate Publicationにおいて、2003年3月28日に原稿番号BJ20021914として発表)。
【0052】
本明細書中で使われる用語、エフェクターは、酵素に結合し、インビボ、及び/又はインビトロでその活性を上昇、又は低下させる分子として定義される。酵素によっては、その触媒活性に影響する小分子の結合部位を有し;刺激促進分子はアクチベーターと呼ばれる。酵素は1種以上のアクチベーター、又はインヒビターを認識するのための複数の結合部位を有すことすらあり得る。酵素は様々な分子の濃度を感知し、かつその情報を使用し、それ自身の活性を変えることが可能である。
【0053】
エフェクターが酵素活性を調節可能なのは、酵素が活性型と不活性型の両構造を呈するからであり:アクチベーターは、正のエフェクターであり、インヒビターは負のエフェクターである。エフェクターは、酵素の活性部位においてだけでなく、調節部位、又はアロステリック部位においても作用し、この用語は、調節部位が触媒部位から異なる酵素の要素であることを強調し、触媒部位における基質、及びインヒビター間の競合による調節形態と区別するために用いられる(Darnell, J.、Lodish, H.、及びBaltimore, D. の著書、分子生物学第2版(1990, Molecular Cell Biology 2nd Edition, Scientific American Books, New York)63ページ)。
本発明に従って好ましいエフェクターは、QC-、及びEC-活性のインヒビターである。最も好ましくは、QC-、及びEC-活性の競合的インヒビターである。
適切な場合、QC-、及びEC-活性のアクチベーターが好ましい。
【0054】
本発明のペプチドにおいて、各アミノ酸残基は、以下の慣用一覧表に従い、アミノ酸の慣用名に相当する一文字、又は三文字表示で表す。
アミノ酸 一文字表記 三文字表記
アラニン A Ala
アルギニン R Arg
アスパラギン N Asn
アスパラギン酸 D Asp
システイン C Cys
グルタミン Q Gln
グルタミン酸 E Glu
グリシン G Gly
ヒスチジン H His
イソロイシン I Ile
ロイシン L Leu
リシン K Lys
メチオニン M Met
フェニルアラニン F Phe
プロリン P Pro
セリン S Ser
トレオニン T Thr
トリプトファン W Trp
チロシン Y Tyr
バリン V Val
【0055】
本明細書中で使用する用語“QC”とは、グルタミニルシクラーゼ(QC)、及びQC様酵素を含む。さらに、QC、及びQC様酵素は同一の、又は類似の酵素活性を有し、QC活性と定義する。この点において、根本的に、QC様酵素は、分子構造上QCから異なることが可能である。
【0056】
本明細書中で使用する用語“QC活性”とは、アンモニア遊離下における、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への、又はN末端L-ホモグルタミン、又はL-βホモグルタミンの環状ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化反応と定義する。スキーム1、及び2を参照されたい。
【0057】
スキーム1:QCによるグルタミンの環化反応
【化3】
【0058】
スキーム2:QCによるL-ホモグルタミンの環化反応
【化4】
【0059】
本明細書中で使用する用語“EC”とは、QC、及びQC様酵素のグルタミン酸シクラーゼ(EC)ような副活性を含み、さらにEC活性として定義する。
本明細書中で使用する用語“EC活性”とは、QCによるN末端グルタミン酸残基の、ピログルタミン酸(pGlu*)への分子間環化と定義する。スキーム3を参照されたい。
本明細書中で使用する用語“金属依存性酵素”とは、その触媒機能を果たすために結合した金属イオンとの結合を必要とする、かつ/又は、触媒活性の構造を形成するために結合した金属イオンを必要とする酵素と定義する。
【0060】
スキーム3:QCによる、荷電していないグルタミルペプチドのN末端環化反応(EC)
【化5】
【0061】
本発明のもう一つの態様は、QCの新規の生理学的基質の同定である。これらは、実施例5に記載した哺乳動物ペプチドでの環化反応実験を行い、同定した。ヒトQC、及びパパイヤQCを実施例1に記載されるように精製した。該適用方法は実施例2に記載し、かつ使用した該ペプチド合成は実施例6に概要を示す。該研究の結果は、表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
すべての分析は、実施例4に示されるように、ヒト、又は植物QCのいずれかの最適活性、及び安定性の範囲で行った。N末端にグルタミン残基をもち、かつそれゆえQC酵素の基質である、生理活性ペプチドのアミノ酸配列は表2に記載する:
【0064】
【表2】
【0065】
第四の実施態様において、Gln1-ガストリン(アミノ酸長さが17、及び34)、Gln1-ニューロテンシン、及びGln1-FPPペプチドを、QCの新規生理的基質として同定した。ガストリン、ニューロテンシン、及びFPPは、N末端位置にpGlu残基を含有する。すべてのペプチドで、N末端pGlu残基が、QC触媒作用によりN末端のグルタミンから産生されることを示した。結果として、これらのペプチドは、N末端グルタミン残基のpGluへの転換により、その生物学機能の点で活性化される。
【0066】
経上皮変換細胞、特にガストリン(G)細胞は、胃への食物到来とともに胃酸分泌を調節する。最近の研究により、複数の活性産物がガストリン前駆体より産生され、かつガストリン生合成には、複数のコントロール箇所があることが示された。生合成前駆体、及び中間体(プロガストリン、及びGly-ガストリン)は、推定成長因子であり;その産物、アミド化されたガストリンは、上皮細胞の増殖、酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞でのヒスタミン合成、及び貯蔵に関わる遺伝子の発現を、急性の酸分泌刺激促進と同様に調節する。また、ガストリンは、上皮成長因子(EGF)ファミリーメンバーの産生を刺激促進し、順に壁細胞機能を阻害し、表面上皮細胞の増殖を促進する。血漿ガストリン濃度は、ヘリコバクターピロリを保有し、十二指腸癌、及び胃癌のリスクが高いことが公知の個体で上昇する(Dockray, G.J.の論文、1999 J Physiol 15, 315-324)。
【0067】
管腔G細胞から放出されるペプチドホルモンガストリンは、CCK-2レセプターを介して、酸分泌粘膜中のECL細胞由来のヒスタミン合成、及び放出を刺激促進することが知られている。動員されたヒスタミンは、壁細胞にあるH(2)レセプターに結合することにより、酸分泌を引き起こす。最近の研究により、ガストリンは、完全にアミド化された、及び、プロセスが少ない型(プロガストリン、及びグリシン延長型ガストリン)の両方で、胃腸管の成長因子であることが示唆された。アミド化されたガストリンの主要な栄養作用は、該胃の酸分泌粘膜に対してであり、胃幹細胞、及びECL細胞の細胞増殖の促進を起こし、壁、及びECL細胞塊増大を生じることが確立している。一方、プロセスが少ないガストリン(例えば、グリシン延長ガストリン)の主要栄養標的は、結腸粘膜であるように思われる(Koh, T.J.、及びChen, D.の論文、2000 Regul Pept 93, 337-44)。
【0068】
第五の実施態様において、本発明は、胃腸管細胞増殖、特に、胃粘膜細胞及び上皮細胞の増殖、酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞内のヒスタミン生合成、及び貯蔵に関連した遺伝子の発現を刺激し、かつ、活性型 [pGlu1]ガストリンの濃度を維持、又は上昇させることによる、哺乳動物における急性酸分泌を刺激するための、QCの活性上昇エフェクターの使用を提供する。
第六の実施態様において、本発明は、不活性型Gln1-ガストリンの活性型[pGlu1]-ガストリンへの転換率を低下させることによる、哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸潰瘍疾患、胃癌、結腸直腸癌、及びゾリンジャー-エリソン症候群(Zolliger-Ellison Syndrome)の治療のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0069】
ニューロテンシン(NT)は、特に神経伝達物質システムを調節する、統合失調症の病態生理学に関わる神経ペプチドであり、該疾患において調節障害が生じることが示されている。脳脊髄液(CSF)中のNT濃度を測定する臨床研究では、脳脊髄液(CSF)中のNT濃度が低下している統合失調症患者の一部は、効果的な抗精神病剤治療で回復することを示した。また、NTシステムが、抗精神病剤の作用機構に関与することは、公知である。中枢系に投与されたNTの行動学的、及び生化学的効果は、抗精神病剤を全身に投与した該効果に類似し、かつ抗精神病剤は、NT神経伝達を上昇させる。従って、NTが内在性の抗精神病剤として機能するという仮説が導かれた。さらに、典型、及び非典型抗精神病剤は、黒質線条体系、及び中脳辺縁系のドーパミン経路の終末領域のNT神経伝達を異なった形で改質し、かつ該効果で、副作用障害、及び有効性が予想可能である(Binder, E. B.らの論文 2001 Biol Psychiatry 50, 856-872)。
【0070】
第七の実施態様において、本発明は、抗精神病剤の調剤、及び/又は哺乳動物における統合失調症治療のための、QCの活性上昇エフェクターの使用を提供する。該QCのエフェクターは、活性型[pGlu1]ニューロテンシン濃度を維持、又は上昇させる。
【0071】
受精促進ペプチド(FPP)は、サイロトロピン放出ホルモン(TRH)に関連するトリペプチドであり、精漿に見い出される。インビトロ、及びインビボから得られた最近の証拠は、FPPが精子受精能力の調節において重要な役割を果たしていることを示した。特に、FPPは初めに受精能力のない(受精不能な)精子を“スイッチオン”にし、かつより速やかに受精可能にするよう刺激促進し、その後、精子が自発アクロソーム損失を起こし、それゆえ受精能力を喪失しないように、受精能獲得を抑制する。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することが公知の、アデノシンによって模倣され、かつ実際、増大される。FPP、及びアデノシンは両方とも、FPP受容体がどういうわけかアデノシン受容体、及びGタンパク質と相互作用しACの調節をもたらし、受精不能な細胞でcAMP産生を刺激促進し、受精可能な細胞ではそれを阻害することが示されている。これらの事象は、様々なタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響し、初期の“スイッチオン”において重要なものもあれば、おそらく先体反応自身に関与しているものもある。また、精漿に存在するカルシトニン、及びアンギオテンシンIIは、インビボで受精不能な精子に同様の効果をもち、FPPの反応を増大し得る。これらの分子は、インビボで類似の効果をもち、受精能の刺激促進、及び維持により、受精に影響する。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンギオテンシンIIの供給の低下、又はそのレセプターの異常は、男性不妊に寄与する(Fraser, L.R.、及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の論文、2001 Vitam Horm 63, 1-28)。
【0072】
第八の実施態様において、本発明は、哺乳動物における受精抑制薬の調剤、及び/又は、受精の低下のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。該QCの活性低下エフェクターは、活性型[pGlu1]FPP濃度を低下させ、精子の受精能獲得を抑制、及び精子細胞の不活性化をもたらす。これに対し、QCの活性上昇エフェクターにより、男性生殖能力を刺激し、かつ不妊を治療することが可能であることが示され得る。
【0073】
第九の実施態様において、さらなるQCの生理学的基質が、本発明の範囲内で同定された。これらは、Gln1-CCL 2、Gln1-CCL 7、Gln1-CCL 8、Gln1-CCL 16、Gln1-CCL 18、及びGln1-フラクタルカインである。詳細は、表2を参照されたい。これらのポリペプチドは、骨髄性前駆細胞増殖の抑制、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、並びにアルツハイマー病、FBD、及びFDDに関連した炎症プロセスのような病態生理学的状態において、重要な役割を果たす。
【0074】
最近、B型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス、及びメラノーマに対する、いくつかの細胞傷害性Tリンパ球ペプチドを基にしたワクチンが、臨床試験で研究されている。デカペプチドELAは、単独で、或いは腫瘍抗原と組合せる、1種の興味深いメラノーマワクチン候補である。このペプチドは、N末端グルタミン酸をもつ、Melan-A/MART-1抗原免疫優勢ペプチドアナログである。グルタミンのアミノ基、及びガンマカルボン酸基は、グルタミン酸のアミノ基、及びガンマカルボキサミド基と同様に、容易に縮合し、ピログルタミン誘導体を産生する。医薬上興味深いいくつかのペプチドは、N末端グルタミン、及びグルタミン酸の代わりにピログルタミン誘導体で開発し、医薬上の特性を損失することなくこの安定性の問題を克服した。残念なことに、ELAに比べ、該ピログルタミン誘導体(PyrELA)、及びN末端アセチル修飾誘導体(AcELA)は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性を引き出せなかった。PyrELA、及びAcELAにおける外見上の些少な修飾にかかわらず、おそらく該二誘導体は該特異クラスI主要組織適合複合体に対して、ELAより低い親和性を示す。それゆえ、ELAの最大の活性を維持するために、PyrELAの産生を回避しなければならない(Beck A.らの論文、2001, J Pept Res 57:528-38)。また、最近、メラノーマにおいて、グルタミニルシクラーゼ(QC)酵素が過剰発現していることが見い出された(Ross D. T.らの論文、2000, Nat Genet 24:227-35)。
【0075】
第十の実施態様において、本発明は、骨髄性前駆細胞増殖の抑制、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、メラノーマ、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、並びにアルツハイマー病、FBD、及びFDDに関連した炎症プロセスのような病態生理学的状態の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0076】
第十一の実施態様において、Gln1-オレキシンAは、本発明の範囲内で、QCの生理学的基質と同定した。摂食、睡眠覚醒の調節に有意な影響を及ぼす神経ペプチドであり、おそらく、これらの相補的な恒常性機能の複雑な行動、及び生理学的応答を調節している。また、それは、エネルギー代謝の恒常性調節、自律機能、ホルモンバランス、及び体液調節において影響を及ぼす。
第十二の実施態様において、本発明は、摂食障害、及び睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性調節障害、自律機能障害、ホルモンバランス障害、及び体液調節障害の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0077】
様々なタンパク質におけるプログルタミン伸長は、パーキンソン病、及びケネディ病のような神経変性疾患を生じる。それゆえ、該機構は、ほとんどわかっていない。ポリグルタミン繰り返し配列の生化学的特性は、1つの考えられる説明を示唆し:グルタミニル-グルタミニル結合の切断(endolytic cleavage)後の、ピログルタミン酸産生が、ポリグルタミンタンパク質の異化安定性、疎水性、アミロイド凝集性、及び神経傷害性に寄与し得るということである(Saido, Tの論文、2000 Med Hypotheses Mar;54(3):427-9)。
したがって、第十三の実施態様において、本発明は、パーキンソン病、及びハンチントン病の治療に用いる薬剤の製造のための、QCのエフェクターの使用を提供する。
【0078】
第十四の実施態様において、本発明は、QCの酵素活性を低下、又は阻害する一般的な方法を提供する。また、阻害性化合物の例を提供する。
当初、哺乳動物QCの阻害は、1,10-フェナントロリン、及び還元型 6-メチルプテリンでのみ検出された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)。EDTAはQCを阻害せず、故にQCは金属依存性酵素ではないと結論された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536, Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250、Booth, R.E.らの論文、2004 BMC Biology 2)。しかしながら、本発明では、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン、及び他のキレーターによるQCの阻害特性(図18、19)、及び遷移金属イオンによるQCの再活性化(図20)によって明らかであるように、ヒトQC、及び他の動物QCが金属依存性酵素であることを示した。最後に、該金属依存性を他の金属依存性酵素との配列比較をまとめ、ヒトQCにも、キレートするアミノ酸残基が保存されていることを示した(図21)。化合物の、金属イオン結合部位との相互作用は、QC活性を低下、又は阻害する一般的な方法である。
【0079】
本発明では、イミダゾール誘導体がQCの有力なインヒビターであることを示す。連続分析(詳細は実施例2参照)を用い、多数のイミダゾール誘導体を、高度に保存された哺乳動物QCの1種であるヒトQCを阻害する能力に関して分析した。
このように、本発明は、QCの活性低下エフェクターとして、イミダゾール誘導体、及びヒスチジン、及びその誘導体、及びその特性を阻害型、及び有効性の面から提供する。構造、及びKi値を、表3、及び4に示す。その結果は、実施例7に詳しく記載した。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
第十五の実施態様において、システアミンを基礎にした、QC、及びQC-様酵素の新しいインヒビターを提供する。
イミダゾール誘導体、及びヒドロキサム酸塩又はエステル(hydroxamate)の他に、チオール試薬が、金属依存性酵素のインヒビターとして頻繁に記載されている(Lowther, W. T. 及びMatthews, B. W. 2002 Chem Rev 102, 4581-4607; Lipscomb, W. N. 及びStrter, N. 1996 Chem Rev 96, 2375-2433)。さらに、チオールペプチドは、該Clan MHのQC-関連アミノぺプチダーゼのインヒビターとして記載されている(Huntington, K. M. らの論文 1999 Biochemistry 38, 15587-15596)。これらのインヒビターは、哺乳動物のQCに関しては不活性であるが、強力な競合性QC-インヒビターとして、システアミン誘導体を単離することは可能である(図23)。
本発明は、一般的に式1により記載され得る、全ての立体異性体を含むQC-インヒビター、又はその医薬として許容し得る塩を提供する:
【0083】
【化6】
【0084】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0, 1, 又は2、好ましくは1、最も好ましくは0である。)。
【0085】
本明細書、及び請求項を通して、表現"アルキル"は、C1-50アルキル基、好ましくはC1-30アルキル基、特にC1-12、又はC1-8アルキル基を意味し得る;例えば、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はブチル基とすることができる。例えば、表現"アルコキシ(alkoxy)"の表現"アルク(alk)"、及び表現"アルカノイル(alkanoyl)"の表現"アルカン(alkan)"は、"アルキル"として規定される;芳香族("アリール")化合物は、好ましくは、置換、又は任意に非置換である、フェニル、ベンジル、ナフチル、ビフェニル、又はアトンラセン基であり、好ましくは少なくとも8個のC原子を有する;表現"アルケニル"は、C2-10アルケニル基、好ましくはC2-6アルケニル基を意味することができ、所望の位置に二重結合を有し、かつ置換、又は非置換であってもよい;表現"アルキニル"は、C2-10アルキニル基、好ましくはC2-6アルキニル基を意味することができ、所望の位置に三重結合を有し、かつ置換、又は非置換であってもよい;表現"置換"、又は置換基は、1以上、好ましくは2以上のアルキル、アルケニル、アルキニル、一価又は多価アシル、アルカノイル、アルコキシアルカノイル、又はアルコキシアルキル基による、所望された置換を意味し得る;該上記置換基は、側基として1以上(しかし、好ましくはゼロ)のアルキル、アルケニル、アルキニル、一価又は多価アシル、アルカノイル、アルコキシアルカノイル、又はアルコキシアルキル基を、入れ替わりに有することができる。
【0086】
本明細書、及び請求項を通して、表現"アシル"は、C1-20アシル残基、好ましくはC1-8アシル残基、特に好ましくはC1-4アシル残基を示すことができ;かつ表現"炭素環"は、C3-12炭素環残基、好ましくはC4、C5、又はC6炭素環残基を示し得る。"ヘテロアリール"は、1〜4、及び好ましくは1,2,又は3個の環原子を、N, S, 又はOのようなヘテロ原子で置換したアリール残基として規定される。"複素環"は、1,2,又は3個の環原子を、N, S, 又はOのようなヘテロ原子で置換したシクロアルキル残基として規定される。
【0087】
"ペプチド類似物"それ自体は、当業者に公知である。好ましくは、これらは、ペプチドのような二次構造、及び任意にさらなる構造特性を有する化合物として規定される;これらの作用様式は、該天然ペプチドの作用様式に類似しているか、又は同一である;しかし、これらの活性(例えば、アンタゴニスト、又はインヒビターとしての活性)は、該天然ペプチドと比べて、特にレセプター、又は酵素に関して改質され得る。さらに、これらは、該天然ペプチド(アゴニスト)の効果を模倣し得る。ペプチド類似物の例は、スキャホールド類似物(scaffold mimetics)、非-ペプチド類似物、ペプトイド(peptoides)、ペプチド核酸、オリゴピロリノン(oligopyrrolinones)、ビニログペプチド(vinylogpeptide)、及びオリゴカルバメート(oligocarbamates)がある。これらのペプチド類似物の規定に対しては、Lexikon der Chemie, Spektrum Akademischer Verlag Heidelberg, Berlin, 1999を参照されたい。
【0088】
"アザ-アミノ酸"は、該キラルα-CH基が窒素原子で置換されたアミノ酸として規定される。一方"アザ-ペプチド"は、該ペプチド鎖の少なくとも1つのアミノ酸残基のキラルα-CH基が窒素原子で置換されたペプチドとして規定される。
該チオール、及びアミノ基の役割は、表5に示したジメチルシステアミン、システアミン、メルカプトシステアミン、エチレンジアミン、エタノールアミンの該阻害能力の比較にまとめた。アミノ、及びチオール基を有する化合物のみが、強力であり、一方の基の損失、又は改質は、阻害力の低下を導く。さらに、システアミン、ジメチル-システアミン、及びメルカプトエタノールによるネズミQC阻害の該pH-依存性は異なり、該インヒビターのプロトン化状態が、該活性部位に結合するインヒビターに影響を与える(図22)。
【0089】
【表5】
【0090】
驚くべきことに、該酵素活性の特徴付けの間に、N-末端グルタミニル残基の他に、該N-末端β-ホモ-グルタミニル残基が、QC基質としての特性も満たしていることを発見した。該該N-末端β-ホモ-グルタミニル残基は、それぞれヒト、及びパパイヤQCの触媒により、5員環のラクタム環に転換されることを発見した。該結果は、実施例5に記載されている。該応用方法は、実施例2に示し、かつ該ペプチド合成を、実施例6に記載したように行った。
【0091】
本発明のもう一つの好ましい実施態様は、QCのエフェクターのスクリーニング方法を含む。
化合物群からQCの活性を調節するエフェクターを同定する、好ましいスクリーニング方法は、下記工程を含む:
a)前記の化合物とQCとを、それらの間で結合が可能な条件下で接触させること;
b)QCの基質を加えること;
c)該基質の転換をモニターすること、又は任意に該残存QC活性を測定すること;及び
d)QCの該基質転換、及び/又は、酵素活性の変化を計算し、QCの活性調節フェクターを同定することである。
【0092】
もう一つの好ましいスクリーニング方法は、QCの金属イオン結合活性部位と、直接、又は間接的に相互作用するエフェクターの同定、及び選定に用いる方法に関連し、下記の工程を含む方法である:
a)前記の化合物とQCとを、それらの間で結合が可能な条件下で接触させること;
b)QCにより転換可能な、QCの基質を加えること;
c)該基質の転換をモニターすること、又は任意に該残存QC活性を測定すること;及び
d)QCの該基質転換、及び/又は酵素活性の変化を計算し、QCの活性調節エフェクターを同定することである。
【0093】
前記スクリーニング方法での使用が好ましいのは、哺乳動物QC、又はパパイヤQCである。特に好ましいのは哺乳動物QCであり、それはこれらのスクリーニング方法で同定したエフェクターが哺乳動物、特にヒトの疾患の治療に使用され得るからである。
前記スクリーニング方法で選定された薬剤は、少なくとも1種のQC基質の転換を低下させる(負のエフェクター、インヒビター)、又は、少なくとも1種のQC基質の転換を増加させる(正のエフェクター、アクチベーター)ことにより機能することが可能である。
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩へ転換することができる。
本発明の化合物の該塩は、無機、又は有機塩の形態とし得る。
【0094】
本発明の該化合物は、転換し、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩として使用することが可能である。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機、又は有機酸でプロトン化されているような形態をとる。典型的な有機、又は無機酸は、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。すべての本発明の該化合物の医薬として許容し得る塩は、本発明の範囲内に取り込むことを意図している。
【0095】
化合物自身と、塩の形態の該化合物の密接な関係から、本明細書の文脈で化合物に言及するときは常に、その状況下でそれが考え得るか、又は適切であるならば、相当する塩も対象とする。
本発明の該化合物が少なくとも1種の不斉中心を持つ場合は、それ相応に光学異性体が存在し得る。該化合物が2種以上の不斉中心を持つ場合は、さらにジアステレオマーが存在し得る。その異性体、及び混合物のすべては、本発明の範囲内に含まれると理解すべきである。さらに、該化合物の結晶性形態は多形体として存在し得て、それらはさらに、本発明に含まれる対象である。さらに該化合物によっては、水(すなわち、水和物)、又は慣用の有機溶媒との溶媒和化合物を形成し得る。
また、その塩を含む該化合物は、水和物の形態で調達することが可能であるか、或いはその結晶化に用いる他の溶媒を含む。
【0096】
さらなる実施態様において、本発明は、必要としている個体における、QC酵素活性の調節を介した疾患状態の予防、又は治療法を提供し、それは、本発明の該化合物、又はその医薬組成物のいずれかを、治療上有効な量、及び投与法で投与し、病態を治療することを含む。さらに、本発明は、個体におけるQC活性調節を介した病態の予防、又は治療に用いる薬剤の調製のための、この発明における化合物、及びそれに相当する医薬として許容される酸付加塩の形態の使用を含む。該化合物は、静脈注射、経口、皮下注射、筋肉注射、皮内注射、非経口、及びその組み合わせ含むが、これに限定されない、従来の投与経路で患者に投与され得る。
さらなる好ましい実施態様において、本発明は、少なくとも1種の本発明の化合物、又はその塩を、任意に、少なくとも1種の医薬として許容し得る担体、及び/又は溶媒と組合せて含有する医薬組成物、すなわち、薬剤に関するものである。
【0097】
例えば、医薬組成物は、非経口、又は経腸製剤の形態であり得て、適切な担体を含むか、又は経口投与に適した適切な担体を含む、経口製剤の形態である。好ましくは、経口製剤の形態である。
本発明の記載に従って投与されるQC活性のエフェクターは、QC-、及びEC-活性のインヒビター、好ましくは競合的インヒビター、若しくは酵素インヒビター、競合的酵素インヒビター、基質、擬似基質、QC発現のインヒビター、哺乳動物のQCタンパク質濃度を低下させる酵素の結合タンパク質、又は抗体と組合せて、医薬上投与できる製剤、又は製剤複合物の形で用いられ得る。本発明の該化合物により、患者、及び疾患個々に治療を調節することが可能になり、特に、個々の不耐性、アレルギー、及び副作用を回避することが可能である。
【0098】
また、該化合物は、時間の関数として、異なる活性の程度を示す。それによって、治療を施す医師は、患者の個々の状況に応じて対処する機会を与えられ:医師は、一方では作用開始の速度、他方では、作用の持続期間、及び特に作用強度を正確に調節することが可能である。
本発明の好ましい治療方法は、哺乳動物のQC酵素活性の調節を介した病態の予防、又は治療に用いる新規のアプローチを示す。それは、有利に単純で、商業的適用の余地があり、特に、哺乳動物、及び特にヒト医薬において、例えば、表1、及び2に記載された、生理活性QC基質のアンバランスに基づく疾患の治療における使用に適している。
【0099】
例えば、該化合物は、有効成分を希釈剤、賦形剤、及び/又は、先行技術から公知の担体のような添加剤を組合せて含む調剤の形態で、有利に投与し得る。例えば、それらは、非経口的(例えば、生理食塩水の点滴で)、又は経腸的に(例えば、従来の担体と処方され、経口的に)投与することが可能である。
その内生安定性、及びその生体利用効率に依存して、該化合物は、所望する血糖グルコース値の正常化を達成するために、1日に1回、又は複数回投与することが可能である。例えば、ヒトにおけるそのような用量域は、1日あたり約0.01 mgから250.0 mgの範囲で、好ましくは、体重キログラムあたり化合物約0.01 mgから100 mgの範囲であり得る。
【0100】
QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することによって、アルツハイマー病、ダウン症、家族性英国型認知症(Familial British Dementia) (FBD)、家族性デンマーク型認知症(Familial Danish Dementia)(FDD)、ヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴わない、潰瘍性疾患、及び胃癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、病原性精神病的状態、統合失調病、不妊症、新生組織形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リウマチ、アステローム性動脈硬化、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮における白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性調節障害、自律機能障害、ホルモンバランス障害、及び体液調節障害から、選択される病態を、予防、又は緩和、又は治療し得る。
【0101】
さらに、QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することによって、胃腸管細胞増殖、好ましくは、胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、急性の酸分泌、及び酸産生壁細胞、及びヒスタミン分泌クロム親和性様細胞分化を刺激、促進し得る。
さらに、哺乳動物へのQCインヒビターの投与は、精子細胞機能の喪失、したがって男性生殖能力の抑制を可能にし得る。従って、本発明は、男性生殖能力の調節、及びコントロールに用いる方法、及び男性用避妊薬剤の製造のための、QCの活性低下エフェクターの使用を提供する。
さらに、QC活性のエフェクターを哺乳動物に投与することにより、骨髄性前駆細胞増殖の抑制を可能にし得る。
【0102】
本発明で使用される化合物は、本来の公知の方法で、例えば、不活性無毒の、医薬上適切な担体、及び添加剤、又は溶媒を用いて、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、丸剤、顆粒剤、噴霧剤、シロップ剤、液剤、固形剤、及びクリーム状乳剤、及び懸濁剤、及び溶液剤のような慣用調剤形態へ、それ相応に転換することが可能である。その各々の調剤形態において、該治療上有効な化合物は、好ましくは、全混合物の重量に対して約0.1〜80%、より好ましくは、1〜50%の濃度で、すなわち、言及した投薬量域を得るのに十分な量で存在する。
【0103】
また、該物質は、糖衣剤、カプセル剤、可噛性カプセル剤、錠剤、ドロップ剤、シロップ剤の形態の薬剤として、又は座薬として、又は鼻腔用スプレーとして使用することができる。
例えば、該調剤形態は、有効成分を溶媒、及び/又は担体と共に、任意に乳化剤、及び/又は分散剤の使用と共に供与され、有利に製造することができ、例えば、水が希釈剤として使用される場合は、有機溶媒は、任意に補助溶剤として使用することが可能である。
【0104】
本発明に関わる有用な賦形剤の例を挙げると:水、パラフィン(例えば天然油画分)、植物油(例えば、ナタネ油、ラッカセイ油、ゴマ油)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)のような無毒性有機溶媒;例えば、天然粉末ミネラル(例えば、抗分散シリカ、ケイ酸塩)、糖類(例えば、粗糖、ラクトース、デキストロース)のような固形担体;非イオン性、及び陰イオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエステル、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸)のような乳化剤、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸溶液、メチルセルロース、澱粉、及びポリビニルピロリドン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石粉、ステアリン酸、及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意の香料がある。
【0105】
投与は、従来の方法で、好ましくは経腸的、又は非経口的に、特に経口的に行われ得る。経腸投与の場合に、錠剤は上記の担体に加えて、さらにクエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及びリン酸カルシウムのような添加剤を、澱粉、好ましくは片栗粉、ゼラチン、及びそのような多様な添加剤と共に含有し得る。さらに、ステアリン酸マグネイウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石粉のような潤滑剤は、錠剤製造に付随して使用することが可能である。経口投与を目的とした水性懸濁液、及び/又はエリキシル剤の場合は、多様な矯味料、又は着色料が、上記記載の賦形剤に加えて、有効成分に付加することが可能である。
【0106】
非経口投与の場合、適切な液体担体を用いた有効成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈注射の場合、一日当たり体重に対して約0.01〜2.0 mg/kg、好ましくは、0.01〜1.0 mg/kgの量を投与すると、効果的な結果が得られる利点が見いだされ、かつ経腸投与の場合、該投与量は一日当たり体重に対して約0.01〜2 mg/kg、好ましくは、0.01〜1 mg/kgである。
しかしながら、実験動物、及び患者の体重、又は投与経路の種類だげでなく、動物の種類、又は薬剤に対する個々の反応、又は投与が行われる間隔などによって、該記載量から外れることが不可欠である場合もあり得る。したがって、上記記載の最低量より少ない使用で十分な場合もある一方、記載の上限を超過しなければならない場合もある。比較的大量に投与される場合は、該投与量を一日に複数回の投薬に分割することが望ましいかもしれない。ヒト薬剤の投与には、同様の投与許容度を提供する。その場合、上記の所見が同様に適用される。
【0107】
(医薬調剤形態の例)
1.カプセル剤当り、本発明の化合物100 mgを含有するカプセル剤
およそ10,000カプセル剤に対して、下記組成の溶液を調製する:
本発明の化合物 1.0 kg
グリセロール 0.5 kg
ポリエチレングリコール 3.0 kg
水 0.5 kg
5.0 kg
該溶液は、本質的に公知の方法で、軟ゼラチンカプセルに封入する。該カプセルは、咀嚼、及び嚥下に適している。
【0108】
2.本発明の化合物100 mgを含有する錠剤、又はコーティングされた錠剤、又は糖衣剤
下記の量は錠剤100,000粒の製造に関するものである:
細かく粉砕した本発明の化合物 10.0 kg
グルコース 4.35 kg
ラクトース 4.35 kg
澱粉 4.50 kg
細かく粉砕したセルロース 4.50 kg
【0109】
上記組成物を、混合し、下記成分から製造される溶液と共に提供し、該湿塊をおろし、かつステアリン酸マグネシウム0.2 kg付加後乾燥させる、本質的に公知の方法で粒状にされる。
ポリビニルピロリドン 2.0 kg
ポリソルベート 0.1 kg
及び水 約5.0 kg
【0110】
最終錠剤混合物30.0 kgを加工し、300 mgの重さの突型錠剤を形成する。理想的には、該錠剤を、本質的に公知の方法でコーティング、又は糖コーティングすることが可能であることである。
有利には、本明細書中で定義された医薬組成物は、少なくとも1種のQC活性のエフェクター、及び少なくとも1種のDP IVインヒビターを含有する。そのような医薬組成物は、特にアルツハイマー病、及びダウン症の治療に有用である。
【実施例】
【0111】
(実施例1):ヒト、及びパパイヤQCの調製法
(宿主株、及び培地)
ヒトQCの発現に使用される酵母(Pichia pastoris)X33株(AOX1、AOX2)を、製造会社の取扱説明書(Invitrogen社)に従って、培養し、形質転換し、かつ解析した。酵母(P.pastoris)が必要とする培地、例えば、緩衝化したグリセロール(BMGY)複合体、又はメタノール(BMMY)複合体培地、及び、発酵基礎塩培地は、製造会社の推奨にしたがって調製した。
【0112】
(ヒトQCをコードするプラスミドベクターの分子クローニング)
すべてのクローニング手順は、標準的分子生物学的技法を適用して行なった。酵母における発現のために、ベクターpPICZαB(Invitrogen社)を使用した。pQE-31ベクター(Qiagen社)を使用し、ヒトQCを大腸菌において発現させた。第38番目のコドンより始まる成熟型QCのcDNAと、6xヒスチジン標識をコードするプラスミドとを、読み枠内で融合した。pQCyc-1、及びpQCyc-2プライマーを使用し、増幅、かつサブクローニングの後、該フラグメントを、SphI及び、HindIIIの制限酵素切断部位を用いて、発現ベクターに挿入した。
【0113】
(P. pastorisの形質転換、及び小量発現実験)
プラスミドDNAは、大腸菌JM109内で増幅され、製造会社(Qiagen社)の推奨に従って精製した。使用した発現プラスミドpPICZαBにおいては、3つの直線化に用いる制限酵素切断部位が提供される。SacI、及びBstXIは、該QCcDNAの内部で切断するため、PmeIを選択し、直線化した。20〜30μgのプラスミドDNAをPmeIで切断し、エタノールにより沈澱させ、滅菌脱イオン水に溶かした。その後、10μgのDNAを、製造会社(BioRad社)の取扱説明書に従って、電気穿孔法による酵母(P.pastoris)コンピテント細胞の形質転換に使用した。選択は、150μg/ml Zeocinを含むプレートにおいて行なった。直線化されたプラスミドを使用した一回の形質転換実験から、数百の形質転換体を得た。
【0114】
組み換え酵母クローンをQCの発現に関して調べるために、組み換え体を、2 mlのBMGY培地を含む10 mlコニカルチューブにおいて、24時間培養した。その後、該酵母を遠心分離し、0.5%メタノールを含む2 mlのBMMYに再懸濁した。この濃度は、72時間まで、24時間毎にメタノールを加えることによって維持された。その後、上清のQC活性が決定した。融合タンパク質の存在を、6xヒスチジン標識に対する抗体(Qiagen社)を使用したウェスタンブロット解析によって確認した。最も高いQC活性を示した酵母のクローンを、さらなる実験、及び発酵のために選択した。
【0115】
(発酵槽における大量発現実験)
QCの発現は、5 l(リットル)のリアクター(Biostat B,B.Braun biotech社)において、基本的に"酵母Pichia発酵操作ガイドライン(Pichia fermentation process guidelines)"(Invitrogen社)に記載されているように行なった。簡潔に述べると、酵母細胞は、微量の塩を添加し、かつグリセロールを唯一の炭素源とする、発酵基礎塩培地(pH 5.5)において培養した。約24時間の初期バッチ段階、及びその後の約5時間のフェドバッチ(fed-batch)段階の間、酵母細胞塊が蓄積された。細胞湿重量が200 g/lに達した時点で、約60時間の全発酵時間に三段階の栄養添加プロフィールを適用し、メタノールを用いたQC発現の誘導を行なった。その後、細胞を、6000x g、4℃における15分間の遠心によって、QC含有上清から除いた。そのpHは、NaOHの添加により、6.8に調節し、その結果生じた懸濁溶液は、再び、37000x g、4℃において、40分間遠心した。遠心後も液の濁りが継続した場合は、セルロース膜(孔径0.45μm)を用いた、さらなる濾過工程を適用した。
【0116】
(P. pastorisにおいて発現された6xヒスチジン標識QCの精製)
最初に、His標識QCは、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。典型的な精製においては、1000 mlの培養上清を、750 mMのNaClを含む、50 mMのリン酸緩衝液(pH 6.8)で平衡化したNi2+結合キレーティングセファロースFFカラム(Chelating Sepharose FF column)(1.6 cm x 20 cm、Pharmacia社)に、流速5 ml/分でかけた。10カラム容量の平衡化緩衝液、及び5カラム容量の5 mMヒスチジンを含む平衡化緩衝液で洗浄した後、150 mM NaCl、及び100 mMヒスチジンを含む50 mMリン酸緩衝液(pH6.8)へ変更することによって、結合したタンパク質を溶出した。その結果生じた溶出液を、20 mMのビス-トリス/HCl緩衝液(pH 6.8)に対し、4℃において一晩透析した。その後さらに、該QCは、透析緩衝液によって平衡化されたMono Q6カラム(BioRad社)における陰イオン交換クロマトグラフィーにより、精製した。QC含有画分は、流速5 ml/分で、Mono Q6カラムへかけた。その後、該Mono Q6カラムを、100 mMのNaClを含む平衡化緩衝液で洗浄した。溶出は、240 mM、及び360 mMのNaClを含む平衡化緩衝液を、各々、30カラム容量、又は5カラム容量もたらす、2通りの濃度勾配によって行なった。6 mlずつの画分を集め、各画分のタンパク質の純度を、SDS-PAGEにより解析した。均質のQC含有画分を集め、限外濾過により濃縮した。長期保存(-20℃)のため、グルセロールを最終濃度50%まで加えた。タンパク質は、Bradford、又は、Gill、及びvon Hippelの方法に従い、定量した(Bradford, M. M.の論文、1976 Anal Biochem 72, 248-254;Gill, S.C.、及びvon Hippel, P.H.の論文、1989 Anal Biochem 182, 319-326)。
【0117】
(大腸菌におけるQCの発現と精製)
QCをコードするコンストラクトで、M15細胞(Qiagen社)を形質転換し、選択的LB寒天プレートにおいて、37℃で培養した。タンパク質の発現は、1%グルコース、及び1%のエタノールを含むLB培地において、室温にて行なった。菌培養液が、OD600約0.8に達したとき、0.1 mMのIPTGにより、発現を一晩誘導した。一回の凍結溶融のサイクルの後、300 mMのNaCl、及び2mMのヒスチジンを含む、50 mMのリン酸緩衝液、pH 8.0中の、2.5 mg/mlリゾチーム溶液の添加により、4℃にて、約30分間、細胞を溶解した。該溶液は、37000x g、4℃、30分間の遠心分離によって、不純物を除去し、その後、ガラスフリットを用いた濾過(DNAの分離)、及び粗い沈殿物、及び細かい沈殿物用のセルロース・フィルターを用いた、さらなる2段階の濾過工程を行なった。その上清(約500 ml)は、Ni2+アフィニティーカラム(1.6 x 20 cm)に、流速毎分1 mlでかけた。QCの溶出は、150 mMの塩化ナトリム、及び100 mMのヒスチジンを含む50 mMリン酸緩衝液によって行なった。QC含有画分は、限外濾過により濃縮した。
【0118】
(パパイヤラテックス由来QCの精製)
パパイヤラテックス由来QCは、BioCAD 700E(Perseptive Biosystems、Wiesbaden社、ドイツ)を用いて、以前に報告された方法(Zerhouni, S.らの論文、1989 Biochim Biophys Acta 138, 275-290)の修正版で調製した。50 gのラテックスを水に溶解し、その中に記載されているように遠心した。プロテアーゼの不活化は、S-メチルメタンチオスルフォネートによって行い、その結果得られた粗抽出液を、透析した。透析後、上清全体は、100 mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH 5.0で平衡化したSPセファロースファーストフロウ(Fast Flow)カラム(21 x内径2.5 cm)にかけた(流速3 ml/分)。溶出は、流速2 ml/分で、酢酸ナトリム緩衝液の濃度を上げていく3工程において行なった。第一工程は、0.5カラム容量の、0.1 Mから0.5 Mへの酢酸ナトリム緩衝液濃度の直線勾配による溶出であった。第二工程は、4カラム容量の、0.5 Mから0.68 Mへの酢酸ナトリム緩衝液濃度の直線勾配による溶出であった。そして、最終溶出工程の間は、1カラム容量の、0.85 Mの緩衝液を用いた。最も高い酵素活性を含む画分(6 ml)を溜めた。濃縮と、0.02 Mトリス/HCl緩衝液(pH 8.0)への緩衝液交換は、限外濾過(アミコン(Amicon);透過分子量10 kDaの膜を使用)により行なった。
【0119】
イオン交換クロマトグラフィー工程から得られた、濃縮されたパパイヤの酵素に、最終濃度2 Mになるように硫酸アンモニウムを加えた。この溶液を、2 M硫酸アンモニウムを含む0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH8.0)によって平衡化されたブチルセファロース4 ファーストフロウ(Fast Flow)カラム(21 x内径2.5 cm)にかけた(流速1.3 ml/分)。溶出は、硫酸アンモニウム濃度を下げて行く3工程で行なった。第一工程の間は、2 Mから0.6 Mへの硫酸アンモニウムの直線勾配を、0.5カラム容量の0.02 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)で用いた(流速1.3 ml/分)。第二工程は、0.6 Mから0 M硫酸アンモニウムの直線勾配を5カラム容量の0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH8.0)により、流速毎分1.5 mlでの溶出であった。0.02 Mのトリス/HCl溶液(pH 8.0)を、流速1.5 ml/分で用いることにより、最終溶出工程を行なった。すべてのQC活性を含む画分を溜め、限外濾過により濃縮した。その結果得られた均質のQCは、-70℃に保存した。最終タンパク質濃度は、Bradfordの方法を用い、ウシ血清アルブミンで得られた標準曲線と比較して決定した。
【0120】
(実施例2):グルタミニルシクラーゼ活性の測定
(蛍光測定法)
すべての測定は、30℃で、マイクロプレート用のバイオアッセイリーダーHTS-7000プラス(BioAssay Reader HTS-7000Plus)(Perkin Elmer社)で行った。QC活性は、H-Gln-βNAを用い、蛍光測定的に評価した。試料は、20 mM EDTAを含む0.2 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)中の0.2 mM蛍光基質、0.25 Uピログルタミニルアミノペプチダーゼ(Unizyme, Horsholm社、Denmark)、及び適切に希釈されたQCの分注液を、最終容量250μlに調節した。励起/発光波長は、320/410 nmであった。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、測定条件下のβ-ナフチルアミンの標準曲線から決定した。1ユニットは、記載された条件下で、1分当たりH-Gln-βNAから1μmol pGlu-βNAの産生を触媒するQCの量として定義した。
第二の蛍光測定法において、QCの活性は、H-Gln-AMCを基質に用いて決定した。反応は、ノボスター(NOVOStar)マイクロプレートリーダー(BMG labtechnologies社)を用い、30℃で行った。試料は、5 mMのEDTAを含む0.05 Mトリス/HCl溶液(pH 8.0)中の多様な濃度の該蛍光基質、0.1 Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Qiagen社)、及び適切に希釈されたQCの分注液を、最終容量を250μlに調節した。励起/発光波長は、380/460 nmであった。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、測定条件下の7-アミノ-4-メチルクマリンの標準曲線から決定した。速度論的データは、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて査定した。
【0121】
(QCの分光学的測定法)
この新規測定法を使い、ほとんどのQC基質の速度論的パラメータを決定した。QC活性は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを補助酵素として使用した、以前の非連続測定法(Bateman, R. C. J.の論文、1989 J Neurosci Methods 30, 23-28)を適応させることにより得られた、連続法を使って、分光光学的に分析した。最終容量250μl中の試料は、各QC基質、0.3 mMの NADH、14 mMのα-ケトグルタル酸、及び30 U/mlのグルタミン酸デヒドロゲナーゼから成った。測定反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始し、340 nmでの吸光度の減少を8〜15分間モニターすることにより遂行した。産物産生の典型的経時変化を、図1に示す。
初期の速度を測定し、測定条件下のアンモニアの標準曲線から、該酵素活性を決定した。全試料は、30℃でスペクトラフルオープラス(SPECTRAFluor Plus)、又はサンライズ(Sunrise)(両者ともTECAN社)マイクロプレートリーダーを用い、測定した。速度論的データは、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて査定した。
【0122】
(インヒビター測定)
インヒビター試験において、試料組成は、推定上の阻害性化合物を添加加した以外は、前記のものと同様であった。短時間QC阻害試験では、試料は4 mMの各インヒビターを含み、かつ1 KMの基質濃度であった。阻害の詳細な研究、及びKi値の決定においては、最初に、インヒビターの補助酵素における影響を調べた。どの場合も、どちらかの酵素に対する影響は検出されず、従って、信頼性のあるQC阻害測定を可能にした。阻害定数は、グラフィト(GraFit)ソフトウェアを用いて、該時間経過の曲線を競合阻害の一般式に当てはめることにより決定した。
【0123】
(実施例3):MALDI-TOF質量分析
ヒューレットパッカード(Hewlett-Packard)G2025 LD-TOFシステムをリニア飛行時間型分析計と共に用いて、マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析を行なった。機器には、337 nm窒素レーザー、加速電位源(5 kV)、及び1.0 mの飛行管を装着した。検出器操作は、陽イオンモードで、かつシグナルはパーソナルコンピューターに接続したレクロイ9350 Mデジタルストレージオシロスコープ(LeCroy 9350M digital storage oscilloscope)で記録、及びフィルターをかけた。試料(5μl)は、同量のマトリックス溶液と混合した。マトリックス溶液には、1 mlアセトニトリル/0.1% TFA水溶液(1:1、v/v)に、30 mgの2',6'-ジヒドロキシアセトフェノン(Aldrich社)、及び44 mgのクエン酸水素二アンモニウム(Fluka社)を溶解して調製したDHAP/DAHCを用いた。少量(≒1μl)のマトリックス−検体混合物は、プローブ先端に移動させ、かつ速やかに真空管(Hewlett-Packard G2024A 試料調製付属品)の中で蒸発させ、急速、かつ均一な試料結晶化を確実にした。
【0124】
長期間Glu1環化反応試験においては、Aβ由来ペプチドは、30℃の100μl 0.1 M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.2)、または0.1 Mビス-トリス緩衝液(pH 6.5)中に準備した。ペプチドは、0.5 mM [Aβ3-11a]、又は0.15 mM [Aβ3-21a]濃度で使用し、0.2 U QCは、全24時間加えた。Aβ(3-21)aの場合は、1% DMSOを加え測定した。様々な時間で、試料は測定管から採取され、ペプチドは、製造会社推奨に従いジップチップ(ZipTip)(Millipore社)で抽出し、マトリックス溶液と混合(1:1、v/v)し、かつその後、マススペクトルを記録した。ネガティブコントロールは、QCを加えないか、又は加熱不活化酵素を加えるかのいずれかであった。インヒビターの研究において、該試料組成は、阻害化合物(5 mMベンズイミダゾール、又は2 mM 1,10-フェナントロリン)を添加する以外は、前記と同様であった。
【0125】
(実施例4):pH依存性
ヒト、及びパパイヤQCの触媒作用のpH依存性を、一次反応条件下で研究し、それ故に特異性定数kcat/KMにおけるプロトン濃度の影響を示した。この目的のために、ピログルタミルアミノペプチダーゼを補助酵素、及びGln-βNAを基質として使用した、結合酵素測定(the coupled enzymatic assay)を使用した。ピログルタミルアミノペプチダーゼは、pH 5.5〜8.5で活性を有し、かつ安定であることが示された(Tsuru, D.らの論文、1978 J Biochem(Tokyo)84, 467-476)。それ故に、該測定によって、このpH範囲内でQC触媒の研究が可能になった。得られた速度プロファイルは、図2に示されるように、典型的ベル型曲線に適合した。ヒトQCは、至適pHがおよそ7.8〜8.0の、大変狭いpH依存性を有する。該速度は、より塩基性のpHで、降下する傾向があった。これは、pH 8.5まで活性の降下を示さなかった(図2、差し込み図)、パパイヤQCで見られた速度プロファイルと対照的である。しかしながら、両酵素は、pH 8で至適特異性を示した。意外にも、曲線の査定により、ヒト、及びパパイヤの酸性範囲でのpKa値は、各々7.17±0.02、及び7.15±0.02と、同一であることが明らかになった。
【0126】
明らかに、ヒトQCの、塩基pH値での活性の減少は、pKa値およそ8.5を有する原子団の解離に起因した。パパイヤQCの場合は、その第二pKa値の信用できる測定を可能にするような、塩基性pHにおけるデータポイント収集はなかった。これは、該データの単独解離モデルへの適合が、該データの二重解離モデルへの適合と比べて、ほぼ同一のpKa値(pKa 7.13±0.03)をもたらすことにより、支持される。これは、双方のpKa値が、かなり離れていることを示唆する。
【0127】
(pH安定性)
グルタミニルシクラーゼの安定性は、該植物、及び動物酵素をpH 4〜10間の異なるpH値において、30℃で30分間インキュベートすることにより調べた。その後、QC活性は、標準的条件下で調べた。その結果を、図3に示す。
パパイヤラテックス由来の該QCは、酸性、又は塩基性の範囲での顕著な不安定性への傾向はなく、研究したpH範囲内で安定であった。その一方、ヒトQCは、7〜8.5間のpH範囲内で同程度に安定であった。従って、pH 8のあたりの領域が、植物、及びヒトQCの活性、及び安定性にとって至適で、かつ該QCの基質特異性の比較を行うのに適しているようである。
【0128】
(実施例5):QCの基質特異性の決定
(分光学的測定)
実施例2に記載したように、連続分光学的測定を行った。従って、QCの活性は、α-ケトグルタル酸からのグルタミン酸の産生のための、アンモニアの遊離、及びその後のNADH/H+の消費に起因する340 nmでの吸光度の減少に反映する。図1に示すように、リニアプログレス曲線をモニターしたところ、測定した活性、及びQC濃度の間には、直線関係があった。さらに、ここ(表6)に示す連続測定を使用し、得られたH-Gln-Gln-OHの速度パラメータは、断続法を使用して得られたものとよく一致した(KM=175±18μM、kcat=21.3±0.6 s-1)。その上、表1に示したパパイヤQCによる、基質H-Gln-Ala-OH、H-Gln-Glu-OH、H-Gln-Gln-OH、H-Gln-OtBu、及びH-Gln-NH2の転換速度パラメータは、pH 8.8、及び37℃の条件で、直接法を使用して決定されたものとよく一致した(Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。それ故、新規連続アッセイ法が、信用できる結果を提供することは明らかである。
【0129】
(ジ、トリ、及びジペプチド代用物)
先に記載した該新規連続アッセイ法を使用し、約30種の化合物をパパイヤ(C. papaya)、及びヒト由来QCの潜在基質として調べた。結果を、表6に示した。特異性の比較により、ほぼ全部の短いペプチドがパパイヤQCにより、該ヒト酵素に比べてより効果的に転換されることが示された。興味深いことに、他のトリペプチドと比較したH-Gln-Tyr-Ala-OH、H-Gln-Phe-Ala-NH2、及びH-Gln-Trp-Ala-NH2の特異性、又はジペプチド基質と比較した発色基質H-Gln-AMC、H-Gln-βNA、及びH-Gln-Tyr-OHの反応性により示されるように、両酵素において、2位に疎水性の残基を有する基質が、最も有効な基質である。パパイヤQCにおいて、この知見は、その特異性が2位のアミノ酸残基の大きさに相関関係があるという初期の結果と一致する(Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。植物、及び動物QCの特異性における唯一顕著な相違点は、H-Gln-OtBuにおいて観察された。エステルはパパイヤQCにより、ジペプチド基質と同様の特異性で転換されるのに対し、ヒトQCでは、ほぼ一桁遅く転換された。
【0130】
(オリゴペプチド)
様々なジペプチド、及びトリペプチドに加えて、パパイヤ、及びヒトQCによる転換により、多くのオリゴペプチドを調べた(表6)。興味深いことに、テトラペプチドグループにおけるヒト、及びパパイヤQCにおける特異性の相違点は、ジペプチド、及びトリペプチド基質で観察されたほど大きくなかった。これにより、3位及び4位のアミノ酸でも、特にヒトQCの速度論的挙動に影響することが示唆された。しかしながら、H-Gln-Xaa-Tyr-Phe-NH2の構造のテトラペプチドグループにおいて著しく減少したkcat/KM値を示す、2位のアミノ酸がプロリンのペプチドは例外である(表6)。その特異性の低下は、ヒトQCにおいてより顕著であり、パパイヤQCと比較して該kcat/KM値においてほぼ8倍の相違をもたらした。
【0131】
また、ヒトQCの特異性の微低下は、H-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、H-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、及びH-Gln-Lys-Arg-Leu-NH2の特異性を他のテトラペプチドと比較して示唆されるように、アミノ酸C末端に正に荷電されたグルタミンを有する基質の転換において観察された。明らかに、該特異性低下は、主としてより小さい代謝回転数に起因した。この効果は、該植物酵素では見られなかった。
【0132】
【表6】
【0133】
また、該テトラペプチドで得られた結果は、もう一つの結論をもたらした。既に指摘したように、パパイヤQCは、ジペプチドにより高い特異性を示した。しかしながら、2位のアミノ酸にグルタミン酸を含有するペプチドグループにおいて、表6に与えられたデータを曲線で表した図4で示されるように、テトラペプチドによっては、ヒトQCにおいてより高い特異性定数が観察された。さらに、ペプチド鎖長が、ジから、テトラペプチドへ伸張するにつれて、パパイヤQCで得られた結果と対照的に、ヒトQCの選択性は上昇した。さらに、ヒトQCは、3位、又は4位のアミノ酸に大型の疎水性残基を有するペプチドにおいて、最も高い選択性を記録し、それにより、該酵素の疎水性相互作用を示唆した。それぞれのペプチドの速度パラメータを比較すると、該変化は主に低いKM値に起因すると考えられ、該ペプチドの代謝回転数は同様であることが見い出された。従って、ヒトQCの長いペプチドに対する高選択性は、より疎水性の基質の該酵素へのより強い結合の結果であると考えられる。
【0134】
また、3位と4位に疎水性アミノ酸を含有するペプチドにおいて観察されたヒト,及び植物QCの相違点は、H-Gln-Arg-Gly-Ile-NH2、及びH-Gln-Arg-Tyr-Phe-NH2、又はH-Gln-Gln-OH、及びH-Gln-Gln-Tyr-Phe-OHに対する該酵素の特異性定数の比較により明らかになる。
また、ヒトQCが、N末端にGlnを含有し、かつC末端Ala残基が増加する同族基質において、より選択的であることを見い出した(表7)。ヒトQCの選択性が、基質の鎖長が伸張するにつれ増加したのに対し、パパイヤQCにはそのような傾向はなかった。また、ヒトQCがSer残基を配列に含有するペプチドに対して、より低い特異性であったので、側鎖の性質が重要であるように考えられる(表6)。
【0135】
【表7】
【0136】
(触媒反応におけるイオン強度の影響)
イオン強度は、基質特異性の影響に関して調べたもう1つのパラメータであった。その目的において、様々な基質の環化反応における速度パラメータを、0.5 M KClの存在、又は非存在下で決定した(表8)。驚いたことに、パパイヤラテックス由来QC、及びヒトQCにおいて、荷電されていない基幹をもつ基質の選択性は、塩の付加により有意に変化しなかったが、ヒトQCのH-Gln-Ala-OH、及びH-Gln-Glu-OHにおける特異性定数は、KClの添加により低下した。各々の速度パラメータにより示唆されるように、この効果は、上昇したKM、及びごくわずかに減少したkcat値に起因した。パパイヤQCの場合は、どちらのパラメータにおいても効果は検出されなかった。負に荷電されたH-Gln-Glu-Asp-Leu-NH2において、パラメータの変化が見い出されなかったことから、該効果は、そのように負に荷電された基質に起因しないように考えられる。塩付加の興味深い効果は、正に荷電されたH-Gln-Arg-Gly-Ile-NH2、及びH-Gln-Lys-Arg-Leu-NH2において見い出された。植物、及びヒトQCの場合、触媒反応における正の効果は、主に、より小さいKM値、及びわずかに高い代謝回転数に起因すると決定した。
【0137】
【表8】
【0138】
(生理的基質)
既に、初期の研究において、QCによる[Gln1]-TRH、及び[Gln1]-GnRHの転換は、ウシ、及びブタ脳下垂体由来QCにおいて示された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.、及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci U S A 84, 3628-3632)。既に調べられたこれらの脳下垂体ホルモンに加え、ヒトQCの3つの潜在基質、すなわちGln1-ガストリン、Gln1-ニューロテンシン、及びGln1-FPPを合成し、調べた。それらの転換の速度パラメータは表1に示した。興味深いことに、グルタミニルペプチドは、その大きさに依存して特異性定数の上昇を伴いながら、各々のピログルタミルペプチドへ転換される。すなわち、17アミノ酸の最も大きいペプチドプロガストリンが最初で、続いて、プロニューロテンシン、プロGnRH、プロTRH、及びプロFPPである。これらの知見は、合成ペプチドを用いて得られたデータに一致する。
また、驚いたことに、長い基質ほど、該植物酵素による高い選択性で転換され、それは、より短いオリゴペプチドにおける知見と部分的に対照的である。おそらく、活性部位からはるかに離れた、基質、及び酵素間の二次的結合相互作用が存在する。
【0139】
(改質アミノ酸含有ペプチド)
さらに、該QCの該特異性、及び該選択性を調べるために、改質N末端グルタミニル残基、又は2位に改質アミノ酸を含むペプチドを合成した。これらのペプチドの転換は、MALDI-TOF質量分析法を用いて、定性的に調べた(実施例3も参照)。グルタミニル残基、又はその類似体のそれぞれの環化反応に起因して、該基質と該触媒反応生成物の質量差を検出する。また、基質モル当たり、1モルのアンモニア遊離の場合は、該転換を、分光学的定量法を用いて定量的に分析した。
【0140】
(H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2)
N末端において、ペプチド、及び部分イソペプチド結合でリシル残基に結合している2グルタミニル残基含有する、N末端分鎖ペプチドは、ヒト(図5)、及びパパイヤQC(図示せず)により明らかに同一の方法で転換された。一貫した基質転換で示唆される(図5)ように、両グルタミニル残基は、個別の残基に対する検出可能な優先はなく、ピログルタミン酸へ転換された。従って、QCの、異なった結合をしたグルタミニル残基における選択性は、根本的に相違しない。
【0141】
(H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2)
唯一、メチル化されたグルタミニル残基は、パパイヤQCにより、ピログルタミル残基に転換された(図6)。さらに、該ヒトQCの該ペプチドによる阻害は検出されなかったので、該メチル化された残基はヒトQCにより認識されないことが示唆された。
【0142】
(H-Glu(OMe)-βNA、及びH-Glu-βNA)
これらの化合物はどちらも、パパイヤ、及びヒトQCによって転換されなかった。これらの蛍光発生基質は、ピログルタミルアミノペプチダーゼを補助酵素として使用しながら、蛍光分析学的に分析した。しかしながら、O-メチル化グルタミン酸残基は、非酵素的触媒環化反応する傾向があるトリス、及びトリシン緩衝液両者において顕著な不安定性を示した。さらに、両QCのH-Gln-AMCを基質とする活性は、H-Glu(OMe)-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2、又はH-Glu-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2の長鎖ペプチドにより阻害されなかったことは、グルタミン酸、又は誘導体が両QC型により認識されないことを示唆する。さらに、該結果はグルタミン酸残基の負電荷のみが、該ペプチドの該活性部位からの反発力の原因でないことを意味する。
【0143】
(H-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe))
分子内部分イソペプチド結合を含有するH-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe)の転換を定量的に分析し、ヒト、及びパパイヤQCにおけるKM値が各々240±14μM、及び133±5μMであることを明らかにした。ヒトQC(22.8±0.6 s-1)と比較して、パパイヤQC(49.4±0.6 s-1)による転換におけるより高い代謝回転数に起因して、該植物QCは、ヒトQCのおよそ4倍高いkcat/KM値372±9 mM-1min-1を示した。従って、パパイヤQCの場合、特異性定数はH-Gln-Ala-Ala-Ser-Ala-Ala-NH2のような同様の大きさをもつ基質と比べてごくわずかに小さい。しかしながら、ヒトQCのkcat/KM値は、95±3 mM-1s-1で、同様の大きさの基質に比べておよそ一桁小さいことを見い出した(表5)。
【0144】
(H-βホモGln-Phe-Lys-Arg-Leu-Ala-NH2)
N末端β-ホモグルタミニル残基は、ヒト、及びパパイヤQCの触媒作用により、各々五員ラクタム環へ転換された。アンモニアの付随遊離を、先に記載したように、分光学的、及びMALDI-tof分析法により分析した。QCを除いたり、又は沸騰した場合、アンモニアの遊離が検出されなかったことから、該環化反応の特異的な触媒反応であることが示唆された。興味深いことに、パパイヤ(C. papaya)(KM=3.1±0.3 mM、kcat=4.0±0.4 s-1)、及びヒト(KM=2.5±0.2 mM、kcat=3.5±0.1 s-1)由来該QCは、各々1.4±0.1、及び1.3±0.1 mM-1s-1とほぼ同一のkcat/KMで、該ペプチドの転換を触媒する。従って、β-グルタミン残基の環化反応は、N末端にグルタミニル残基を含有する同様の大きさのペプチドに比べて、およそ1000倍低下した効率で触媒される。これは、基質のα-炭素の構造が、QC型による基質認識において重要であるが、必須ではないことを示す。基質である必須条件は、環化反応しやすい距離と角度の、γ-アミド基、及びプロトン化されていないN末端アミノ基であり、N末端グルタミニル、及びγ-ホモ-グルタミニル残基は必須条件を満たしている。
【0145】
(実施例6):QC基質の合成
(オリゴペプチド)
ペプチドを、既に記載されたように、ペプチド合成機(ラボーテックSP650(Labortec SP650)、Bachem社、スイス)を使用し、0.5 mmolスケールで半自動的に合成した(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)。長鎖ペプチドは、記載されたように、自動化シンフォニーペプチド合成機(Symphony peptide synthesizer)(Rainin Instrument社)を使用し、25μmolスケールで合成した(Manhart, S.らの論文、2003 Biochemistry 42, 3081-3088)。すべてのペプチド結合において、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3,-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸(TBTU;Novabiochem社)/塩基(ジイソプロピルエチルアミン、又はN-メチル- モルホリン;Merck社)を使用する、改質した固相ペプチド合成のFmocプロトコルを採用し、又は困難な結合の場合は、N-[(ジメチルアミノ)-1H-1,2,3,-トリアゾロ[4,5-b]ピリジン-1-イルメチレン]-N-メチルメタンアンモニウムヘキサフルオロリン酸N-オキシド(4,5)(HATU;Applied Biosystems社)/ジイソプロピルエチルアミンを活性化剤として使用した。カクテルを含むトリフルオロ酢酸(TFA;Merck社)によるレジンからの開裂の後、粗ペプチドは無酸性溶媒の分取用HPLCにより精製し、N末端グルタミンのさらなる環化反応を回避した。250-21ルナ(Luna)RP18カラム(Phenomenex社)におけるアセトニトリル(Merck社)水溶液リニアグラジエント(40分間を通して、5〜40%、又は65%アセトニトリル)で分取HPLCを行った。ペプチド精度と同定を裏付けるために、分析用HPLC、及びESI-MSを使用した。
【0146】
(Glu(NH-NH2)-Ser-Pro-Thr-Ala-NH2)
直鎖前駆体ペプチド(Fmoc-Glu-Ser-Pro-Thr-Ala-NH2)は、標準的Fmoc方法(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)に従って、リンクアミド(Rink amide)MBHAリジン(Novabiochem社)において合成した。Fmoc保護ペプチドのレジンからの開裂後、該ペプチドを、ジエチルエーテル(Merck)で沈殿させ、濾過し、かつ乾燥させた。ジクロロメタン(DCM、Merck社)中で、該前駆体のγ-カルボン酸基(0.3等量)を結合させるのに、HMBA-AM レジン(1.16 mmol/g、Novabiochem社)を使用した。結合剤として、ジシクロへキシルカルボジイミド(DCC、Serva社)(4等量)、及びジメチルアミノピリジン(DMAP、Aldrich社)(0.1等量)を使用した。12時間後、レジンを、濾過し、DCMで洗い、反応を繰り返した。20%ピペリジンDMF溶液(5分間、3回)を用いたN末端Fmoc基の脱保護後、該ペプチドリジンを、5%ヒドラジン溶液(20 ml/g)で1.5時間処理した。該レジンを、濾過し、ジメチルホルムアミド(DMF、Roth社、ドイツ)、及びTFAで洗った。蒸発後、該粗ペプチドをエーテルで沈殿し、76%の収率を得た。
【0147】
(H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2)
直鎖ペプチドを、標準的Fmoc/tBu方法に従って、Fmoc-Lys(Fmoc)-OHを最後から2番目のアミノ酸結合として使用して、リンクアミド(Rink amide)MBHA(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)において合成した。20%ピペリジン(Merck社)DMF溶液で、レジンの2つのアミノ保護基を脱保護後、4等量のFmoc-Gln(Trt)-OHを結合させた。標準的開裂法で、95%の収率を得た。
【0148】
(H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2)
Fmoc-Gln(NMe)-OHを、Fmoc-MI-AM(Novabiochem社)レジンに充填したFmoc-Glu-OtBuから開始して合成した。DCMで膨潤後、該レジン(0.5 g)をDMFで洗い、20%ピペリジン(Merck社)DMF溶液で脱保護した。該レジンを5 ml DMF中に入れ、5等量Fmoc-Glu-OtBu、5等量HATU、及び10等量DIPEAを次いで加え、6時間振とうした。濾過、及び洗浄後、生成物を標準的TFA開裂条件に従って、開裂した。該H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2ペプチドは、記載されたように合成した(Schilling, S.らの論文、2002 Biochemistry 41, 10849-10857)。Fmoc-Gln(NMe)-OHは、HATU/DIPEAと一晩結合させた。標準的開裂法で、78%の収率を得た。
【0149】
(H-Glu(OMe)-β-ナフチルアミド、H-Gln-Val-OH、H-Gln-Tyr-OH)
Boc保護ジペプチドを、クロロ炭酸イソブチル(Merck社)を使用して、標準的無水物混合法で合成した。C末端メチルエステルBoc-Gln-Tyr-OMe、及びBoc-Gln-Val-OMeを、1 N NaOHジオキサン溶液により鹸化した。Boc保護ペプチドは、HCl/ジオキサン溶液により、10分間脱保護した。蒸発後、残基を様々な溶媒で結晶化させ、固体化合物の60〜70%の収率を得た。
【0150】
(H-Gln-シクロ(Nε-Lys-Arg-Pro-Ala-Gly-Phe))
直鎖前駆体Boc-Gln(Trt)-Lys-Arg(Pmc)-Ala-Gly-Phe-OHを、酸感受性2-クロロトリチルレジンにおいて合成した。結合を、Fmoc-Lys(Mtt)-OHを用いたFmoc/tBu方法の標準的プロトコルを用いて行った。3%TFA DCM 溶液(10回、5分)で開裂後、該溶液は、10%ピリジン(Merck社)メタノール溶液(MeOH;Merck社)で中和し、DCM、及びMeOHで3回洗い、5%の容量に蒸発させ、粗ペプチドは氷冷水で沈殿させた。その後、該粗シペプチドは、DCC/N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt;Aldrich社)活性化を利用して、環化した。該粗ペプチドは、乾燥ジクロロメタン溶液(0.2 mmol/50 ml)に、溶解し、0.2 mmolのN-メチルモルホリン、及び0.4 mmolの1-ヒドロキシベンゾトリアゾールを添加した。この溶液を、0℃において、250 mlの0.4 mmolジシクロヘキシルカルボジイミドのジクロロメタン溶液へ滴下した。該反応は、室温で、一晩撹拌して完了した。N,N'-ジシクロヘキシル尿素の濾過後、溶媒は、蒸発により除いた。残留物は、エチルアセテートに溶解し、1N HCl、NaHCO3飽和溶液、及び水で数回洗った。該溶液は、無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空で乾燥するまで蒸発させた。
【0151】
(実施例7):QCのエフェクターの特性
(イミダゾール誘導体)
五員環の異なった位置に置換基をもつイミダゾール、及びベンズイミダゾール誘導体を、QCのインヒビターとして調べた(表3)。構造式の数は、イミダゾール環を示す。該方法は、実施例2に示す。
【0152】
(C-4(5)、及びC-4,5誘導体)
イミダゾール環の構造上同等の4、又は5位のいずれか、又は両位置に置換基をもつ化合物は、ヒトQCの阻害において有効性の減少を示した。しかしながら、最も効力のある阻害化合物の1種であることが証明されたN-ω-アセチル化ヒスタミンは、唯一の例外である。イミダゾールと比べて5-ヒドロキシメチル-4-メチル-イミダゾールが同様の阻害定数を示したように、これらの位置の小さい置換基は、結合にほとんど効果がなかった。これらの位置についた大きく、かつ巨大な基は、酵素による化合物の結合を低下、又は消失した。他の調べた置換基の中には、イミダゾール環の電子密度を低下できる負の誘導、又はメソメリー効果を及ぼすことが知られているものもあり、また、それはより低い結合定数の原因となる。また、L-ヒスチジン、及びヒスチジンアミドのKi値の相違は、結合における荷電の若干の影響を示唆する。既に、荷電した基質の静電反発力の証拠は、該基質特異性の研究において示された。すなわち、グルタミンアミドは、ヒトQCにより容易に生成物に転換されたが、遊離グルタミンにおける基質としての反応性は観察されなかった。
【0153】
(C-2誘導体)
調べたすべての誘導体は、イミダゾールのように、より弱くQCを阻害した。プロトンより大きいすべての置換は、適切なQC結合を妨げる。唯一2-メチル-ベンズイミダゾールのメチル基に起因して、該阻害定数は、およそ一桁の程度低下する。ベンズイミダゾール、及び2-アミノ-ベンズイミダゾールにおけるKi値の比較により、非常に類似した関係が示された。さらに、その結果により、影響が電子論的改質に関連しないことが示唆された。
【0154】
(N-1誘導体)
ヒトQCの阻害を調べたイミダゾール誘導体の中で、イミダゾールと比べて向上したKi値を持つほとんどの化合物は、1窒素原子において改質が見られた。また、これらの化合物には、最も有効なQCインヒビターの1種、1-ベンジルイミダゾールが含まれた。興味深いことに、1-ベンゾイルイミダゾール、及びフェニルイミダゾールにおいて見られるように、この構造のごくわずかな改質が、阻害特性の消失を起こし、実験条件下では不活性であった。また、この場合において、該観察された変化は、フェニル基の負のメソメリー効果に起因するイミダゾール環の低下した電子密度よって引き起こされるだけでないように思われ、それは、正の誘導効果を示す、巨大なトリメチルシリル基もまた、他の残基に比べて結合の低下を示したからである。興味深いことに、1-アミノプロピル-イミダゾールは、この族においてさほど有効性がない化合物の1種であった。立体的に同様の化合物1-メチルイミダゾール、及び1-ビニルイミダゾールにおいては、活性部位への結合の向上が見られたので、この化合物の該低有効性は、該塩基アミノ基によって引き起こされる。従って、正に荷電されたアミノ基が、該低Ki値の原因となり、その結果はN-ω-アセチル化ヒスタミン(表3)、及びヒスタミン(表4)により裏付けられる。
【0155】
(3,4、及び3,5誘導体化の効果)
4(5)位に、又は両位置に置環基を含有するイミダゾール誘導体は、該酵素の結合において限られた有効性をもつことを示した。該特異的置換基の効果を、L-ヒスタミン、及びヒスタミンの生物分解の2中間体3-メチル-4-ヒスタミン、及び3-メチル-5-ヒスタミン(表4)の阻害定数と比較することにより特定した。L-ヒスタミンは、そのアセチル化対応物に比べて、およそ一桁小さいKi値を示した。3-メチル-4-ヒスタミンの場合において、一窒素のメチル化は、有効性をかなり向上させた。しかしながら、3-メチル-5-ヒスタミンをもたらすメチル化は、阻害活性の完全な消失を引き起こした。従って、該観察された効果は、主に、塩基窒素に隣接した炭素の誘導体化に起因した、結合の立体障害により引き起こされるように考えられる。おそらく、該塩基窒素は、該酵素の結合において、重要な役割を果たす。
【0156】
(実施例8):Aβ(3-40/42)誘導体の産生
Aβ(3-40/42)のN末端の配列で、その3位にグルタミン酸残基の代わりにグルタミンを含有する短鎖ペプチド2種、Gln3-Aβ(1-11)a (配列: DAQFRHDSGYE)、及びGln3-Aβ(3-11)aを用いて、測定を行った。2種のペプチドのDP IVによる開裂、及びQCによるN末端グルタミン残基の環化反応を、MALDI-TOF質量分析で調べた。測定は、連続触媒反応測定用の両酵素においてと同様、精製DP IV(ブタ腎臓)、又は粗ブタ脳下垂体ホモジネートをQC源として用いて行った。
【0157】
(結果)
1.DPIVにより触媒されたGln3-Aβ(1-11)aからGln3-Aβ(3-11)aの産生、及びDP IVインヒビター、Val-ピロリジド(Val-Pyrr)によるその抑制
DPIV、又はDPIV様活性は、Gln3-Aβ(3-11)a産生下における、Gln3-Aβ(1-11)aの開裂をする(図7)。その3位の残基は、この開裂により露出し、それゆえ他の酵素、例えば、QCによる改質のために、利用されやすくなる。予想どおり、触媒作用は、Val-Pyrrにより完全に抑制することが可能である(表8)。
【0158】
2.脳下垂体ホモジネートにおけるQC触媒作用によるGln3-Aβ(3-11)aからpGlu3-Aβ(3-11)aの産生、及び1,10-フェナントロリンによる抑制
ブタ脳下垂体ホモジネートに存在するQCは、Gln3-Aβ(3-11)aの[pGlu3]Aβ(3-11)aへの転換を触媒する(図9)。[pGlu3]-Aβ(3-11)aの産生は、1,10-フェナントロリンの添加により阻害された(図10)。
【0159】
3.[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生をもたらすDP IV、及びQCの連続触媒作用、及びVal-Pyrr、及び1,10-フェナントロリンによる抑制
粗ブタ脳下垂体ホモジネートにブタ腎臓由来DP IVを付加して測定した、Gln3-Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生は、DP IV、及びQCによる連続触媒反応後、起こる(図11)。QCインヒビター1,10-フェナントロリン(図12)、又はDP IVインヒビターVal-Pyrrを添加したとき(図13)は、[pGlu3]Aβ(3-11)aは産生されなかった。[pGlu3]Aβ(3-11)aのわずかな出現は、アミノペプチダーゼの開裂、次いでグルタミン残基の環化反応に起因し、また、Gln3-Aβ(2-11)aの産生により示唆された。
【0160】
4.アミノペプチダーゼ触媒作用による、粗脳下垂体ホモジネートにおける[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生
DPIV触媒作用に依存しない[pGlu3]Aβ(3-11)aに起因して、Gln3-Aβ(1-11)aの分解を、DP IVを添加しない粗脳下垂体ホモジネートにおいて調べた(図14)。4項におけるデータから予想されるように、[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生が観察された。また、該データは、Gln3-Aβ(1-11)aの分解はアミノペプチダーゼによって触媒され、[pGlu3]Aβ(3-11)aを生じ得ることを示す。それ故、該結果は、ピログルタミル産生は、この組織におけるN末端ペプチド分解の指標であることを示し、さらに斑形成におけるQCの役割を支持した。
【0161】
(実施例9):組み換えヒトQCによる[Gln3]Aβ(3-11)a;(3-21)a、及び(3-40)の代謝回転
調べた全ての[Gln3]Aβ誘導ペプチドは、ヒトQCにより、対応するピログルタミル型へ効率よく転換された(表9)。水溶液におけるGln3-Aβ(3-21)a、及びGln3-Aβ(3-40)の難溶解性のため、該決定は、1% DMSOの存在下で行った。しかしながら、Gln3-Aβ(3-11)aでは、良好な溶解性により、DMSO存在、及び非存在下におけるQC触媒作用の代謝回転の動態解析が可能であった(表8)。まとめると、鎖長8、18、及び37アミノ酸の、QC基質としてのAβ-ペプチドの研究(表9参照)により、基質の鎖長が伸張するにつれヒトQC活性が上昇するという観察を裏付けた。従って、その特異性定数を考慮に入れると、Gln1-ガストリン、Gln1-ニューロテンシン、Gln1-GnRHは、QC基質の中でも最良である。同様に、これまで調べた最長のQC基質であるGln3-Aβ(3-40)、及びグルカゴンは、1% DMSO存在下においても、高二次速度定数(各々449 mM-1s-1、及び526 mM-1s-1)を示した(表9)。
興味深いことに、調べたアミロイドペプチドにおける該転換の該速度パラメータが、鎖長の伸張につれて劇的に変化しなかったことは、QC触媒おけるAβのC末端のごく軽度の影響を示唆した。従って、より良溶解性、及び実験処理によって、Aβの小断片、Gln3-Aβ(1-11)a、Gln3-Aβ(3-11)a、及びAβ(3-11)aを用いて、これらのペプチドN末端アミノペプチダーゼプロセズに関するさらなる研究を行った。
【0162】
【表9】
【0163】
(実施例10):組み換えヒトQCによるAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの代謝回転
QC存在下でのAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aのインキュベートにより、以前の研究と対照的に、グルタミン酸含有ペプチドがQCの基質になる得ることが示された(図15C、及びD)。QC触媒による[pGlu3]Aβ(3-11)a、及び[pGlu3]Aβ(3-21)aの産生を、各々pH 5.2、及び6.5で調べた。該QCの添加による活性の開始前に、QCインヒビター、ベンズイミダゾールを該溶液に添加した場合は、[pGlu3]Aβ(3-11)a、又は[pGlu3]Aβ(3-21)aを生じる基質転換は抑制された(図15E、及びF)。QCを添加前に煮沸した場合は、pGluペプチドの産生はごく僅かであった(図15A、及びB)。
【0164】
(実施例11):パパイヤQC触媒のGln-βNA、及びGlu-βNA の環化反応におけるpH依存性
パパイヤQCは、ミカエリスメンテン速度論に従い、2 mM(基質溶解性により限定された)までの濃度範囲においてGlu-βNAを転換した(図16)。pH 6.1〜8.5の間で調べた、QC触媒のGlu-βNAの転換における基質濃度に対する代謝回転の図を検討することにより、このGlu基質における、KM、及びkcatの両パラメータが、pHに依存することが示された(図16)。これは、以前に記載されたQC触媒のグルタミン環化反応とは対照的であり、その反応においては、該既定のpH範囲ではKMの変化のみが観察された(Gololobov, M. Y.らの論文、(1994)Arch Biochem Biophys 309, 300-307)。
続いて、Glu、及びGln環化反応中のプロトン濃度の影響を検討するために、低一次速度条件下(すなわち、KM値をはるかに下回る基質濃度)における、Glu-βNA、及びGln-βNAの環化反応のpH依存性を調べた(図17)。pH 6.0で至適pHを示したグルタミン酸の該環化反応に対し、グルタミンの環化反応は、pH 8.0で至適pHを示す。各々の至適pHにおける該特異性定数は、およそ80,000倍異なる一方、pH 6.0付近でのECに対するQCの活性は8,000倍だけである。
pH 6.0において4週間調べた、Gln-βNAから非酵素的pGluの産生により、一次速度定数を1.2*10-7 s-1と示された。しかしながら、同期間においてGlu-βNAからpGlu-βNAは産生されなかったことから、代謝回転の律速速度定数は1.0*10-9 s-1と推定できた。
【0165】
(実施例12):酵素失活化/再活性化法
ヒトQC(0.1-0.5 mg、1 mg/ml)の分注液を、3000倍超過の5 mM 1,10-フェナントロリン、又は5 mMジピコリン酸含有0.05 Mビス-トリス/HCl溶液(pH 6.8)溶液に対して一晩透析して、失活させた。続いて、試料を1 mM EDTA含有0.05 Mビス-トリス/HCl溶液(pH 6.8)に対する透析(3回、2000倍超過)により、失活物質を注意深く除去した。再活性実験は0.025 Mビス-トリス(pH 6.8)においてZn++、Mn++、Ni++、Ca++、K+、及びCo++イオンを1.0、0.5、0.25 mMの濃度で用いて、室温で15分間行なった。QC活性測定は、2 mM EDTA含有0.05 M トリス/HCl溶液(pH 8.0)で行い、緩衝溶液中に存在する微量の金属イオンにより急速な再活性化を防いだ。
【0166】
既に、1,10-フェナントロリンによるブタQCの阻害は、記載されている(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536、Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40 11246-11250)。しかしながら、EDTAがQC触媒反応において活性化する効果を持つことが示されていた事実は、フェナントロリンによる阻害が金属キレートに起因しないことを示唆した(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536、Bateman, R.C.J.らの論文、2001 Biochemistry 40)。また、1,10-フェナントロリンによる阻害に加えて、ヒトQC触媒の基質環化反応は、ジピコリン酸、及び8-ヒドロキシキノリン、他の金属酵素インヒビター存在下で消失した。これらのキレーターは、QCを競合的、及び時間依存的に阻害し、すなわち、既に競合的に阻害された初期の活性は、該化合物の長時間インキュベート後、さらに低下することが見い出された(図18、19)。興味深いことに、EDTAは、インキュベート時間、又は条件にかかわらず、顕著な阻害を示さなかった。
【0167】
ヒトQCは、5 mM 1,10-フェナントロリン、又は5 mMジピコリン酸に対する大規模な透析後、ほぼ完全に阻害された。キレーター非存在緩衝溶液に対して一晩透析を繰り返した後、QC活性は50〜60%まで部分的に再活性化された。しかしながら、1 mM EDTA含有緩衝液に対して透析した場合は、再活性化は観察されなかった。
該タンパク質を0.5 mM EDTA 存在下で0.5 mM ZnSO4と10分間インキュベートすることにより、ジピコリン酸、又は1,10-フェナントロリンのいずれかによる不活性化後のQC活性の、ほぼ完全な再活性化が実現された(図20)。同様に、再活性化にCo++、及びMn++を用いて、QCの部分再活性化を得た。0.25 mM Zn++存在下ですら、本来の活性の25%までの再活性化が可能だった。Ni++、Ca++、又はK+イオンを利用すると再活性化は観察されなかった。同様に、完全な活性型QCと、これらのイオンとのインキュベートは、該酵素活性に影響しなかった。
(図面の簡単な説明)
本発明のこれらおよび他の態様のさらなる理解は、以下の図を参照することより、得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】図1は、ヒトQCにより触媒されるH-Gln-Ala-OHの環化反応のプログレス曲線を示し、340 nmにおける吸光度の低下をモニターする。該試料は、0.3 mM NADH/H+、14 mM α-ケトグルタル酸、30 U/mlグルタミン酸デヒドロゲナーゼ、及び1 mM H-Gln-Ala-OHを含んだ。曲線A〜Dには、様々な濃度のQCを加えて:その濃度はA、10mU/ml、B、5 mU/ml、C、2.5 mU/mlであった。曲線Dの場合は、QCは除いた。QC濃度、及び観察された活性との間に、直線関係を得た(挿入図)。
【図2】図2は、Gln-βNAを基質として用い、一次反応速度条件下で決定されたヒト、及びパパイヤ(挿入図)QCのpH依存性を示す。ヒトQCの場合、Ellis、及びMorrisonに従い、25 mM MES、25 mM 酢酸、及び50 mMトリスからなる一定イオン強度をもたらす緩衝系を用いた(Ellis, K. J.、及びMorrison, J. F.の論文、1982 Methods Enzymol. 87, 405-426)。トリスのわずかな阻害効果のため、パパイヤQCは、50 mM Mops緩衝液を用いて調べた。イオン強度はNaClの添加によって0.05 Mに調節した。速度プロファイルは、解離基に基づくモデルに適合させることにより評価した。パパイヤQCの場合、データを単一解離モデルに適合させることにより、pKa値7.13±0.03を得た。
【0169】
【図3】図3は、パパイヤラテックス、及びヒトQCの安定性における、pHの影響を示す。酵素原液は、様々なpH値の0.1 M緩衝液に20倍希釈した(pH 4〜7のクエン酸ナトリウム緩衝液、及びpH 7〜10のリン酸ナトリウム緩衝液)。酵素溶液は、30℃で30分間インキュベートし、その後、酵素活性を標準プロトコルに従って解析した。
【図4】図4は、2位のアミノ酸に、グルタミン酸を含有する一組の基質における、特異性定数kcat/KMの比較を示す。ジからテトラペプチドへと、ヒトQCの特異性上昇が検出された一方、パパイヤQCの場合は、変化は観察されなかった。ここに示されたデータは、表3で与えられたパラメータの再プロットである。
【図5】図5は、ヒトQCにより触媒される、H-Gln-Lys(Gln)-Arg-Leu-Ala-NH2からのpGlu-Lys(pGlu)-Arg-Leu-Ala-NH2の産生を示す。基質の転換は、アンモニア放出に起因する、m/z比における時間依存的変化によりモニターする。試料組成は、40 mMトリス/HCl溶液(pH 7.7)における0.5 mM基質、38 nM QCであった。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。パパイヤQCの場合にも、ごく同様の依存性が観察された。
【0170】
【図6】図6は、パパイヤQCにより触媒される、H-Gln(NMe)-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2からのpGlu-Phe-Lys-Ala-Glu-NH2の産生を示す。基質の転換は、メチルアミンの放出による、m/z比の時間依存性変化によってモニターする。試料組成は、40 mMトリス/HCl溶液(pH 7.7)における0.5 mM基質、0.65μMパパイヤQCであった。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。パパイヤQCを含まない試料において、又は該基質に、1.5μMまでのヒトQCを添加することによって、基質の転換は観察されなかった(図示せず)。
【図7】図7は、DPIVにより触媒される、Gln3-Aβ(1-11)aからGln3-Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図8】図8は、DP IVインヒビター、Val-ピロリジド(Val-Pyrr)によるGln3- Aβ(1-11)aの切断の抑制を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【0171】
【図9】図9は、QCにより触媒される、[Gln3]Aβ(3-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図10】図10は、該QCインヒビター、1,10-フェナントロリンによる、[Gln3]Aβ(3-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生阻害を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図11】図11は、DP IV、及びQCによる連続触媒後の、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図12】図12は、触媒活性型DP IV、及びQCの存在下における、QCインヒビター、1,10-フェナントロリンによる、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)a産生の阻害を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【0172】
【図13】図13は、触媒活性型DP IV、及びQCの存在下における、DP IVインヒビター、Val-Pyrrによる、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)a産生の低下を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図14】図14は、ブタ脳下垂体ホモジネートに存在するアミノペプチダーゼ、及びQCによる連続触媒作用後の、[Gln3]Aβ(1-11)aから[pGlu3]Aβ(3-11)aの産生を示す。表示された時間に、試料を測定管から取り出し、マトリックス溶液と混合(1:1 v/v)し、その後、質量スペクトルを記録した。
【図15】図15A、及びBは、使用前に10分間煮沸した、組み換えヒトQCとインキュベートされたAβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示す。C、及びDは、活性型ヒトQC存在下における、Aβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示し、それらは各々、[pGlu3]Aβ(3-11)a、及び[pGlu3]Aβ(3-21)aの産生をもたらす。E、及びFは、活性型QC、及び[pGlu3]産生を抑制する5 mMベンズイミダゾール存在下における、Aβ(3-11)a、及びAβ(3-21)aの質量スペクトルを示す。
【0173】
【図16】図16は、基質の濃度に対してプロットされた、パパイヤQCに触媒されるGlu-βNA転換の反応速度を示す。初速度は、0.1 Mピロリン酸緩衝液(pH 6.1)(四角)、0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.5)(丸)、及び0.1 Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)(三角)で測定した。速度パラメータは、下記のとおりであり:KM=1.13±0.07 mM、kcat=1.13±0.04 min-1(pH 6.1);KM=1.45±0.03 mM、kcat=0.92±0.01 min-1(pH 7.5);KM=1.76±0.06 mM、kcat=0.56±0.01 min-1(pH 8.5)であった。
【図17】図17は、低一次反応速度条件下(S<<KM)で決定された、Gln-βNA(丸)、及びGlu-βNA(四角)の転換のpH依存性を示す。基質濃度は、各々、0.01 mM、及び0.25 mMであった。両決定には、0.05 M酢酸、0.05 Mピロリン酸、及び0.05 Mトリシンを含む、三成分緩衝系を使用した。全ての緩衝液は、イオン強度の相違を防ぐため、NaClの添加により等電気伝導度に調節した。該データは、2種の解離基を説明する公式に適合し、pKa値は、Gln-βNAにおいては、6.91±0.02、及び9.5±0.1、及びGlu-βNAにおいては4.6±0.1、及び7.55±0.02であった。滴定により決定された、各々の基質アミノ基のpKa値は、6.97±0.01(Gln-βNA)、及び7.57±0.05(Glu-βNA)であった。全ての決定は、30℃で行った。
【図18】図18は、イミダゾール、及びジピコリン酸存在下、及び阻害化合物非存在下における、ヒトQCに触媒されるH-Gln-AMCの環化反応の経時変化曲線を示す。ジピコリン酸存在下のハイパーボリック(hyperbolic)型は、QC活性部位からの金属イオンの除去を示唆する。
【0174】
【図19】図19は、複素環キレーター、1,10-フェナントロリンによる、QCの時間依存的不活性化を示す。該QC酵素と、基質非存在下におけるインヒビターとのインキュベート後(実線)では、インヒビターと予めインキュべートしなかった試料(点跡)に比べて、酵素活性低下が観察され、これはQC活性部位からの金属イオンの除去を示唆する。
【図20】図20は、一価、及び一価金属イオンとの、ヒトQCの再活性化を示す。QCは、50 mMビス-トリス(pH 6.8)中の2 mMジピコリン酸の添加により、不活性化した。その後、該酵素を、1.0 mM EDTAを含む、50 mM ビス-トリス(pH 6.8)に対して透析させた。該酵素の再活性化は、該不活性化された酵素試料と、0.5 mM EDTA存在下における、0.5 mMの濃度の金属イオンとのインキュベートにより達成し、緩衝溶液に存在する微量の金属イオンにより、非特異的再活性化を防いだ。コントロールは、不活性化しなかったが、不活性化された酵素としてEDTA溶液に対して透析した酵素試料(+EDTA)、及びEDTAを添加しない緩衝溶液に対して透析した酵素試料(-EDTA)により示された。
【図21】図21は、ヒトQC(hQC)、及び他のメタロペプチダーゼClan MHのM28ファミリー員の配列アライメントを示す。多重配列アライメントは、ch. EMBnet. orgにおけるClustalWをデフォルト設定で使用し、行なった。ヒトQC(hQC;GenBank X71125)、放線菌(Streptomyces griseus)由来Zn依存性アミノペプチダーゼ(SGAP;Swiss-Prot P80561)、及びヒトグルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(hGCP II;Swiss-Prot Q04609)のN-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼ(N-acetylated-alpha-linked acidic dipeptidase)(NAALADase I)ドメイン(残基274〜587)内おける、亜鉛イオン結合残基の保存を示す。金属結合に関与する該アミノ酸は、太字でタイプし、下線を引いた。ヒトQCの場合は、これらの残基は、該ペプチダーゼへの推定相応残基である。
【図22】図22は、システアミン(四角)、ジメチル-システアミン(丸)、及びメルカプトエタノール(三角)による、ネズミQC阻害のpH-依存性を示す。点は、1つの解離基を説明する式と一致した。該曲線は、異なる形を表し、該依存性は、該インヒビターのプロトン化状態の変化のためであることを示している。システアミン(8.71±0.07)、及びジメチル-システアミン(8.07±0.03)の該速度論的に決定したpKa-値は、該アミノ基の論文データから得られた値(それぞれ8.6、及び7.95)とよく一致している(Buist, G. J. 及びLucas, H. J. 1957 J Am Chem Soc 79, 6157; Edsall, J. T. Biophysical Chemistry, Academic Press, Inc., New York, 1958)。従って、メルカプトエタノールの該pH-依存性は、調査した該pH-範囲の解離基を運ばないので、一価の勾配をかき回す。
【図23】図23は、様々な濃度のシステアミン存在下(0, 0.25, 0.5, 1 mM)、ヒトQCで触媒されたGln-AMC (0.25, 0.125, 0.063, 0.031 mM)の転換に対して得られた該速度論的データのラインウィーバー-バークプロットを示す。該データは、競合的阻害と一致した。該測定Ki-値は、0.037±0.001 mMであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Glu1-ADan, Glu1-ABri, 及びGln1-ガストリン(17、及び34)から選択される少なくとも1つのQC-基質のN-末端で、グルタミン酸、又はグルタミン残基のピログルタミン酸残基への転換を調節するのための、薬剤製造用のグルタミニルシクラーゼ(QC)のエフェクターの使用。
【請求項2】
該エフェクターが、少なくとも1つの従来の担体、及び/又は賦形剤と組み合わせて使用される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
非経口、経腸的、又は経口投与のための、請求項1〜2のいずれか1項記載の使用。
【請求項4】
経口投与のための、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
ヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療のための、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用:
【化1】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【請求項7】
Glu1-ADan, Glu1-ABri, 及びGln1-ガストリン(17、及び34)から選択される少なくとも1つのQC-基質のN-末端で、グルタミン酸、又はグルタミン残基のピログルタミン酸残基への転換を調節する方法であって、哺乳動物に、治療上有効量の、少なくとも1つのグルタミニルシクラーゼ(QC)を投与することを含む、前記方法。
【請求項8】
哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療のための、請求項7項記載の方法。
【請求項9】
該哺乳動物が、ヒトである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項9記載の方法:
【化2】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【請求項11】
哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療方法であって、前記哺乳動物に、医薬組成物を投与することを含み、該医薬組成物が、非経口、経腸的、又は経口投与用であり、かつ任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と組み合わせた、少なくとも1つのQCエフェクターを含む、前記方法。
【請求項12】
該医薬組成物が、経口投与用である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項11記載の方法:
【化3】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【請求項1】
Glu1-ADan, Glu1-ABri, 及びGln1-ガストリン(17、及び34)から選択される少なくとも1つのQC-基質のN-末端で、グルタミン酸、又はグルタミン残基のピログルタミン酸残基への転換を調節するのための、薬剤製造用のグルタミニルシクラーゼ(QC)のエフェクターの使用。
【請求項2】
該エフェクターが、少なくとも1つの従来の担体、及び/又は賦形剤と組み合わせて使用される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
非経口、経腸的、又は経口投与のための、請求項1〜2のいずれか1項記載の使用。
【請求項4】
経口投与のための、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
ヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療のための、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用:
【化1】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【請求項7】
Glu1-ADan, Glu1-ABri, 及びGln1-ガストリン(17、及び34)から選択される少なくとも1つのQC-基質のN-末端で、グルタミン酸、又はグルタミン残基のピログルタミン酸残基への転換を調節する方法であって、哺乳動物に、治療上有効量の、少なくとも1つのグルタミニルシクラーゼ(QC)を投与することを含む、前記方法。
【請求項8】
哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療のための、請求項7項記載の方法。
【請求項9】
該哺乳動物が、ヒトである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項9記載の方法:
【化2】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【請求項11】
哺乳動物におけるヘリオバクターピロリの感染を伴う、又は伴なわない十二指腸癌、結腸直腸癌、ゾリンジャー-エリソン症候群、家族性英国型認知症、及び家族性デンマーク型認知症からなる群から選択される疾患の治療方法であって、前記哺乳動物に、医薬組成物を投与することを含み、該医薬組成物が、非経口、経腸的、又は経口投与用であり、かつ任意に従来の担体、及び/又は賦形剤と組み合わせた、少なくとも1つのQCエフェクターを含む、前記方法。
【請求項12】
該医薬組成物が、経口投与用である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該QCエフェクターが、下記一般式1を有し、その全ての医薬として許容し得る塩、及び立体異性体を含む、請求項11記載の方法:
【化3】
(式中、R1-R6は、独立して、H、若しくは、分岐又は非分岐アルキル鎖、分岐又は非分岐アルケニル鎖、分岐又は非分岐アルキニル鎖、炭素環、アリール、ヘテロアリール、複素環、アザ-アミノ酸、アミノ酸又はその類似物、ペプチド又はその類似物であり;上記残基の全ては、任意に置換されており、かつnは0-2であり得る。)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2007−508347(P2007−508347A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534704(P2006−534704)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011630
【国際公開番号】WO2005/039548
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011630
【国際公開番号】WO2005/039548
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
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