説明

グロー放電発光分光分析装置およびグロー放電発光分光分析方法

【課題】試料の測定面の曲率について対応範囲を広げて高精度に分析することができるグロー放電発光分光分析装置およびグロー放電発光分光分析方法を提供する。
【解決手段】グロー放電発光分光分析装置は、陽極管3dと、陽極管3dを収納する内方空間Vを有する支持ブロック2と、支持ブロック2の内方空間Vを真空引きする減圧手段3b、3cと、支持ブロック2に環状シール部材6を介して試料5を押し付ける試料ホルダ8と、陽極管3dと試料5との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段9とを備え、支持ブロック2が、環状シール部材6を保持する環状溝7と、その環状溝7の周方向外側に曲率を有して延在する凸部2aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料をスパッタリングしながら、発生した光を分析するグロー放電発光分光分析装置およびグロー放電発光分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体圧力が500〜1300Pa程度のアルゴン(Ar)雰囲気中で、二つの電極間に直流または高周波の高電圧を印加すると、グロー放電が起こり、Arイオンが生成される。生成したArイオンは高電界で加速され、陰極表面に衝突し、そこに存在する物質をたたき出す。この現象をスパッタリングと呼ぶが、スパッタされた粒子(原子、分子、イオン)はプラズマ中で励起され、基底状態に戻る際にその元素に固有の波長の光を放出する。この発光を分光器で分光して試料中の元素を同定したり、発光の強度を測定し試料中の元素の量を定量したり、試料の深さ方向の元素分布を測定したりする分析法が、グロー放電発光分光分析方法と呼ばれている。
【0003】
従来から一般的に用いられているグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管として図8に示されているものがある。このグロー放電管40は、試料5の測定面5aを、支持ブロック42に埋設されたOリング6で真空シールして支持ブロック42に押し付けて、その試料5により、中空陽極管3dを収納する支持ブロック42の内方空間Vの開口部42cを密閉し、この内方空間Vを真空引きするようになっている。そのため、分析対象となる試料5はOリング6の全周部に接合できる外形を有するとともに測定面5aが平面となった形状のものに限られ、測定面5aが平面でない球形や円柱状の試料は、支持ブロック42にこれの内方空間Vを気密にするよう押し付けられないので、分析することができなかった。そのため、このような測定面5aが曲率を有する試料を分析するときには、試料を押圧して平坦状にして測定したり、試料を小さく切断し、小試料用のアタッチメントを用いて測定したりしていたが、精度のよい分析を行うことができなかった。
【0004】
そこで、特許文献1に示されているように測定面が曲率を有する試料をも分析することが可能なグロー放電発光分光分析装置におけるカソードプレートがある。このカソードプレートは、放電発光用の開口部の周辺に、曲率を有する凹部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−229864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このグロー放電発光分光分析装置のカソードプレートでは、試料とカソードプレートとを気密にシールするOリングが曲率を有する凹部の外周部に設けられており、測定面が凸状の一定の範囲内の曲率を有する試料を分析することはできるが、測定面が凹状の曲率を有する試料や測定面が凸状の曲率を有する試料でも広範囲の曲率には対応できない。
【0007】
そこで、本発明は試料の測定面の曲率について対応範囲を広げて高精度に分析することができるグロー放電発光分光分析装置およびグロー放電発光分光分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1構成に係るグロー放電発光分光分析装置は、陽極管と、前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを備え、前記支持ブロックが、前記環状シール部材を保持する環状溝と、その環状溝の周方向外側に曲率を有して延在する凸部とを有する。
【0009】
本発明の第1構成によれば、例えばパイプの内面のような凹状の曲率を有する試料の測定面が支持ブロックの凸部の表面の曲率に整合するので、試料とシール部材とによって陽極管を収納する内方空間の開口部が気密に密閉されるとともに、試料の測定面が陽極管の開放端に対して所望の放電ギャップの位置に配置されて正常なグロー放電が可能となり、試料の測定面の曲率について対応範囲を広げて高精度に分析することができる。
【0010】
グロー放電発光分光分析装置の支持ブロックの凸部の表面が円柱側面状または球面状であるのが好ましい。この場合には、例えばパイプ等の円筒の内面や球面状に凹入した測定面を高精度に分析することができる。
【0011】
本発明の第2構成に係るグロー放電発光分光分析装置は、陽極管と、前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを備え、前記環状シール部材が、前記支持ブロックの内方空間の開口部内側に沿って設けられた環状溝によって保持されている。
【0012】
本発明の第2構成に係るグロー放電発光分光分析装置によれば、環状シール部材が、支持ブロックの内方空間の開口部内側に沿って設けられた環状溝によって保持されているので、測定面が凸状の小さい曲率を有する試料と窪んだ位置に配置されているシール部材とによって陽極管を収納する内方空間の開口部が気密に密閉され、第1構成のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を奏することができる。
【0013】
本発明の第3構成に係るグロー放電発光分光分析装置は、陽極管と、前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、前記支持ブロックに環状のシール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを備え、前記支持ブロックが、開放端部の周方向外側に突出した突出部により前記環状シール部材を保持する筒状保持部と、前記筒状保持部に保持された前記環状シール部材を収容する凹部とを有し、前記環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する前記筒状保持部の開放端面よりも突出して前記凹部に収容されている。
【0014】
本発明の第3構成に係るグロー放電発光分光分析装置によれば、環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する前記筒状保持部の開放端面よりも突出して凹部に収容されているので、凸状の大小さまざまな曲率の測定面において試料を支持ブロックに気密に支持することができ、第1構成のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を奏することができる。
【0015】
第1〜第3構成のグロー放電発光分光分析装置において、支持ブロックが交換可能に形成されていることが好ましい。支持ブロックを交換することができれば、試料の測定面の曲率についてよりいっそう対応範囲を広げて高精度に分析することができる。
【0016】
本発明のグロー放電発光分光分析方法は、陽極管と、前記陽極管を収納する内方空間を有し、開放端部の周方向外側に突出した突出部により前記環状シール部材を保持する筒状保持部と、前記筒状保持部に保持された前記環状シール部材を収容する凹部とを有する支持ブロックと、前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段とを準備し、前記環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する前記筒状保持部の開放端面よりも突出するように、試料の測定面の凸状の曲率に応じた前記環状シール部材を前記筒状保持部に保持させ前記凹部に収容させて分析する。
【0017】
本発明のグロー放電発光分光分析方法によれば、環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する筒状保持部の開放端面よりも突出するように、試料の測定面の凸状の曲率に応じた前記環状シール部材を前記筒状保持部に保持させ凹部に収容させて分析するので、第3構成のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置の概略構成図である。
【図2】同分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【図3】同グロー放電管の円柱側面状支持ブロックの斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置の支持ブロックの斜視図である。
【図5】同支持ブロックの部分縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置の支持ブロックの斜視図である。
【図7】同支持ブロックの部分縦断面図である。
【図8】従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。このグロー放電発光分光分析装置は、図1に示すように、グロー放電を利用したスパッタリングにより試料5中に存在する元素に固有の波長の光Lを発生させるグロー放電管10を備え、グロー放電管10から放射されて、その窓板13を透過した光Lが入射する分光器15を備えている。分光器15は、入射スリット14、この入射スリット14から入射した光Lを波長に応じて異なった回折角度で回折する回折格子16、回折光を通過させる出射スリット17および回折光の強度を測定する光電子増倍管18を備えている。
【0020】
本実施形態は測定面が凹状曲面となった試料5の分析を行う場合の構成を例示している。図2は図1のグロー放電発光分光分析装置におけるグロー放電管10の一例を示す。図2において、このグロー放電管10は、銅のような導電性材料からなる陽極ブロック3と、例えば樹脂からなる支持ブロック2とが接合されている。陽極ブロック3には陽極管3dが一体形成されており、この陽極管3dは、支持ブロック2の内方空間Vに収納されて試料5の測定面5aに近接している。陽極ブロック3は、アルゴンガス供給孔3aと、第1および第2真空排気孔3b,3c(減圧手段)とを有しており、支持ブロック2の内方空間Vが減圧され管内Vがアルゴンの希ガス雰囲気とされている。さらに、グロー放電管10は支持ブロック2に、環状溝7が保持する環状シール部材6を介して試料5を押し付ける試料ホルダと、陽極管3dと試料5との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段9とを備えている。
【0021】
図3に示すように支持ブロック2は、陽極管3dが収納される内方空間Vの開口部2cの周囲に、環状シール部材6を保持する環状溝7を有し、環状溝7より周方向外側に曲率をもって延在して表面が蒲鉾型のような円柱側面状である凸部2aを有する。環状シール部材6は天然ゴムや合成ゴムのような弾性体で形成されており、例えばOリングである。
開口部2cの端部内側には、例えばステンレススチールで形成された内筒4が圧入されている。図2に示すように、例えば測定面5aがパイプの内面のような凹状の曲率を有する試料5は、測定面5aを囲むことのできる、環状シール部材6を介して、背面陰極を兼ねる試料ホルダ8により支持ブロック2の内筒4の開放端面4aに気密状態で押し付けられている。なお、凸部2aの表面はドーム状のような球面状であってもよい。凸部2aの表面が球面状の場合には、球面状に凹入した試料の測定面が環状シール部材6を介して、背面陰極を兼ねる試料ホルダ8により支持ブロック2の内筒4の開放端面4aに気密状態で押し付けられる。
【0022】
このグロー放電管10は、陽極管3dと一体である陽極ブロック3と、試料ホルダ8との間に例えば、直流電源または高周波電源である給電手段9により高電圧を印加してグロー放電を発生させて生成されるアルゴンの陽イオンを試料5の測定面5aに衝突させて、試料5をスパッタリングする。
【0023】
つぎに、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置を用いる分析方法について説明する。試料5が、例えば内径60mmのパイプを軸方向に沿って切断したものであり、その凹状のパイプ内面を測定する場合、凸部2aの表面が円柱側面状であり、その曲率半径が30mmである支持ブロック2をグロー放電管10に取り付ける。次に、図2に示すようにパイプ内面の測定面5aを環状シール部材6の環状内になるように配置し、試料ホルダ8により環状シール部材6を介して凸部2aに気密状態で押し付ける。陽極管3dと試料5との間に給電手段9により高電圧が印加されると、放電ガスとして流されているアルゴンガスによりグロー放電を生じ、アルゴンガス供給孔3aよりアルゴンの陽イオンが生成される。このグロー放電で生じたプラズマにより、試料5に負の自己バイアス電圧がかかる。その結果、生成されたArイオンは、負電位にある試料5の測定面5aに衝突して、この測定面5aをスパッタリングする。それにより、試料5の測定面5aからたたき出された原子は、Arイオンまたは電子によって励起され、再び基底状態に戻る際に元素固有の光を放射する。
【0024】
図1に示すように、この試料5からの光Lが窓板13を透過し、入射スリット14を通り、分光器15の回析格子16で分光され、出射スリット17を通って、試料5から放射される元素固有の光を測定するように配置されたそれぞれの光電子増倍管18に入射して光強度が測定される。各光電子増倍管18によって測定された光強度に応じて特定元素の試料5の深さ方向の元素分布を測定する。または、各光電子増倍管18によって測定された光強度に応じて試料5中の特定元素の含有量を定量する。
【0025】
第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置によれば、パイプの内面のような凹状の曲率を有する試料5の測定面5aと支持ブロックの凸部2aの表面の曲率とが整合するので、試料5と環状シール部材6とによって陽極管3dを収納する内方空間Vの開口部2cが気密に密閉されるとともに、試料の測定面5aが陽極管3dの開放端面に対して所望の放電ギャップの位置に配置されて正常なグロー放電が可能となり、試料の測定面5aの曲率について対応範囲を広げて高精度に分析することができる。なお、第1実施形態では、内径60mmのパイプの内面を測定するのに凸部2aの表面が円柱側面状であり、その曲率半径が30mmである支持ブロック2を用いたが、試料5の測定面5aの曲率と凸部2aの表面の曲率は同一である必要はなく、凸部2aの表面の曲率が試料5の測定面5aの曲率の±20%以内である支持ブロック2を用いることにより開口部2cが試料5と環状シール部材6とによって気密に保持され、試料の測定面5aの曲率について対応範囲を広げて高精度に分析することができる。特に、表面分析において深さ方向の分解能のよいデータを得ることができる。
【0026】
球面状に凹入した試料5の測定面5aに対しては、凸部2aの表面が球面状であり、その曲率が試料5の測定面5aの曲率の±20%以内である支持ブロック2をグロー放電管10に取り付けて分析することにより、測定面5aが円柱側面状の試料5の場合と同様の作用・効果を奏することができる。なお、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置は、分析する試料5の凹状の測定面5aの曲率に応じた凸部2aを有する支持ブロック2を備えることができる。
【0027】
次に、本発明の第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。このグロー放電発光分光分析装置は、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置とグロー放電管の支持ブロックが異なるだけであるので、異なる構成について図4と図5を用いて以下に説明する。
【0028】
図4に示すように支持ブロック22は、陽極管3dが収納される内方空間Vの開口部22c内側沿って設けられた環状溝27を有し、環状シール部材6がこの環状溝27によって保持されている。環状シール部材6は、例えばJIS規格の呼び番号S−7のOリングである。図5に示すように環状溝27よりも奥まった位置に、例えばステンレススチールで形成された内筒24が圧入されており、この内筒24の開放端面24aに試料の測定面5a(図2参照)が当接する。開放端面24aと開口部22cの端面22dとの距離は、例えば1.3mmである。例えばベアリングのような球状の試料5は、球面状の測定面5aを囲むことのできる環状シール部材6を介して、試料ホルダ8により支持ブロック2の内筒24の開放端面24aに気密状態で押し付けられる。
【0029】
第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置を用いる分析方法では、試料5として、例えば直径20mmのベアリングを、その測定面5aが環状シール部材6の環状内になるように配置し、試料ホルダ8により環状シール部材6を介して支持ブロックの内筒24の開放端面24aに気密状態で押し付けて、上記の第1実施形態の装置を用いる分析方法と同様に分析する。
【0030】
第2実施形態のグロー放電発光分光分析装置によれば、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を奏することができ、特に、5mm〜30mmの小さい曲率の測定面5aを有する試料5の分析に適している。
【0031】
次に、本発明の第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置について説明する。このグロー放電発光分光分析装置は、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置とグロー放電管の支持ブロックが異なるだけであるので、異なる構成について図6と図7を用いて以下に説明する。
【0032】
図6に示すように支持ブロック32は、第2実施形態の支持ブロック22と外観形状は類似しているが、図7に示すように開放端部の周方向外側に突出した突出部34bにより環状シール部材6を保持する筒状保持部である内筒34と、内筒34に保持された環状シール部材6を収容する凹部37とを有している。陽極管3dが収納される支持ブロック32の内方空間の開口部32cに、例えばステンレススチールで形成された内筒34が圧入されており、この内筒34の開放端面34aに試料5の測定面5aが当接する。そして、環状シール部材6の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満、好ましくは25%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面5aに当接する内筒34の開放端面34aよりも突出し、この環状シール部材6の突出部よりも下の残部が内筒34の突出部34bにより保持されて凹部37に収容されている。環状シール部材6として、例えばJIS規格の呼び番号P−7のOリングを用いた場合、Oリングの軸方向厚さの26%の部位が開放端面34aよりも突出するように凹部37は形成されている。環状シール部材6は、試料5が押し付けられることによって従来のシール部材よりも大きく半径方向に延伸するが、凹部37はこの大きな延伸部位を収容することができる十分な半径方向の寸法を有している。
【0033】
第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置を用いる分析方法では、試料5が例えば直径200mmのシャフトであってその側面を測定する場合、環状シール部材6としてJIS規格のS番のOリングを支持ブロック32の内筒の突出部34bに保持させて凹部37に収容する。次に、試料の測定面5aを環状シール部材6の環状内になるように配置し、試料ホルダ8により環状シール部材6を介して支持ブロックの内筒34の開放端面34aに気密状態で押し付けて、上記の第1実施形態の分析方法と同様に分析する。
【0034】
この支持ブロック32では、環状シール部材6の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が試料の測定面5aに当接する内筒34の開放端面34aよりも突出しているので、環状シール部材6を介して、測定面5aが凸状の曲率を有する試料5を試料ホルダ8により支持ブロック2の内筒34の開放端面34aに気密状態で押し付けることができる。測定面5aが大きな曲率を有する試料5では突出量が少ない環状シール部材6を用い、測定面5aが小さな曲率を有する試料5では突出量が大きい環状シール部材6を用いることによって、試料の測定面5aを気密状態で押し付けることができる。
【0035】
上記のように試料5が例えば直径200mmのパイプであってその外面を測定する場合、環状シール部材6としてJIS規格のS番のOリングを用い、試料5が例えば直径100mmのパイプであってその外面を測定する場合、JIS規格のP番のOリングを用いて分析する。P番のOリングはS番のOリングよりも線径が大きいので、測定面5aの曲率が小さい試料の分析に適している。このように試料5の測定面5aの曲率に応じてOリングのような環状シール部材6を適切に選択することによって測定面5aが30mm以上の凸状の曲率を有する試料を分析することができる。
【0036】
図8に示されている従来のグロー放電発光分光分析装置のグロー放電管40においては、支持ブロック42の試料5が当接する当接面からのシール部材6の突出量が20%以下であるため、測定面5aが曲率を有する試料5を分析することができなかった。また、特許文献1に記載のグロー放電管のカソードプレート(支持ブロック)においては、シール部材であるOリングが曲率を有する凹部の外周部に設けられており、測定面の曲率がカソードプレートの凹部の曲率の±20%以内である試料を分析することはできるが、測定面がそれ以上の曲率を有する試料を分析することができない。
【0037】
第3実施形態のグロー放電発光分光分析装置およびそれを用いる分析方法によれば、環状シール部材6の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面5aに当接する内筒34の開放端面34aよりも突出するように、試料の測定面5aの凸状の曲率に応じた環状シール部材6を内筒の突出部34bに保持させ凹部37に収容させて分析するので、凸状の大小さまざまな曲率の測定面において試料を支持ブロックに気密に支持することができ、第1実施形態のグロー放電発光分光分析装置と同様の作用・効果を奏することができる。特に測定面5aが30mm以上の曲率を有する試料の分析に適している。
【0038】
第1〜第3実施形態の支持ブロック2、22、32は試料5の測定面5aの凹凸形状や曲率に応じて、取り付け寸法などが交換可能に構成されている。特に、試料の測定面5aと陽極管3dとの端面の放電ギャップがどの支持ブロック2、22、32を用いても一定になるように構成されている。
【符号の説明】
【0039】
2 22 32 支持ブロック
2a 凸部
3d 陽極管
5 試料
6 環状シール部材
7 27 37 環状溝
8 試料ホルダ
9 給電手段
10 グロー放電管
34 筒状保持部
34b 突出部
37 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極管と、
前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、
前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、
前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、
前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段と、
を備え、
前記支持ブロックが、前記環状シール部材を保持する環状溝と、その環状溝の周方向外側に曲率を有して延在する凸部とを有するグロー放電発光分光分析装置。
【請求項2】
請求項1において、前記凸部の表面が円柱側面状または球面状であるグロー放電発光分光分析装置。
【請求項3】
陽極管と、
前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、
前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、
前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、
前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段と、
を備え、
前記環状シール部材が、前記支持ブロックの内方空間の開口部内側に沿って設けられた環状溝によって保持されているグロー放電発光分光分析装置。
【請求項4】
陽極管と、
前記陽極管を収納する内方空間を有する支持ブロックと、
前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、
前記支持ブロックに環状のシール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、
前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段と、
を備え、
前記支持ブロックが、開放端部の周方向外側に突出した突出部により前記環状シール部材を保持する筒状保持部と、前記筒状保持部に保持された前記環状シール部材を収容する凹部とを有し、
前記環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する前記筒状保持部の開放端面よりも突出して前記凹部に収容されているグロー放電発光分光分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記支持ブロックが交換可能に形成されているグロー放電発光分光分析装置。
【請求項6】
陽極管と、
前記陽極管を収納する内方空間を有し、開放端部の周方向外側に突出した突出部により前記環状シール部材を保持する筒状保持部と、前記筒状保持部に保持された前記環状シール部材を収容する凹部とを有する支持ブロックと、
前記支持ブロックの内方空間を真空引きする減圧手段と、
前記支持ブロックに環状シール部材を介して試料を押し付ける試料ホルダと、
前記陽極管と試料との間に電圧を印加してグロー放電を発生させる給電手段と、
を準備し、
前記環状シール部材の軸方向厚さの20%よりも大きく50%未満の部位が、試料の測定面に当接する前記筒状保持部の開放端面よりも突出するように、試料の測定面の凸状の曲率に応じた前記環状シール部材を前記筒状保持部に保持させ前記凹部に収容させて分析するグロー放電発光分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236979(P2010−236979A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84208(P2009−84208)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】