説明

ケイ素含有化合物を含む抗ウィルス剤組成物、及び抗ウィルス剤固定化方法

【課題】特定の製法により得られるケイ素含有化合物を採用することによって、高い安全性と優れたウィルスの不活性化能とを兼ね備えた抗ウィルス剤組成物を提供し、これを用いた抗ウィルス剤の固定化方法を提供すること。
【解決手段】本発明の抗菌剤組成物は、特定のトリエトキシシリル化合物をエタノール溶媒中で反応させることにより得られる下記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有化合物を含む抗ウィルス剤組成物、該ウィルス剤組成物を用いた抗ウィルス剤固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境への衛生志向が向上し、食器、メガネ、流し、台所まわり、便器、トイレ周り、浴槽、浴室周り、洗面ボウル、洗面所周り、繊維製品又は被服への衛生志向、抗菌志向が高まっている。また、高齢化社会の到来に加え、新型インフルエンザの世界的な蔓延も大きな要因となって、細菌やカビ等の真菌類のみならず、インフルエンザウィルス、ノロウィルスなどの病原体ウィルスを簡便に不活性化し、タオルやマスクなど生活環境を取り巻く物品等を抗菌化・抗ウィルス化することで被感染や2次感染のリスクを著しく軽減することも強く望まれている。
【0003】
このように、衛生指向、抗菌指向、抗ウィルス指向が更に向上していることから、従来の抗菌剤や抗ウィルス剤よりもさらに高い殺菌性能や病原性ウィルスの不活性化能を発揮できる抗菌剤組成物や抗ウィルス剤組成物が要求されつつあるなか、例えば特許文献1〜3には、抗菌性をもたらすことが可能なケイ素含有化合物が開示されており、かかる化合物を採用した様々な態様の組成物が示されている。
【0004】
一方、歯科材料に特化してみれば、とくに義歯使用者が増大し義歯洗浄剤の使用量も増大しているという状況下にあり、様々な組成の義歯洗浄剤なども使用されていることから、短時間の洗浄で使用ができ、抗菌性が長期にわたって持続するような洗浄性能を兼ね備えた抗菌剤組成物も要求されている。
【0005】
例えば、こうした洗浄性能を発揮し得るような従来の抗菌剤組成物を成分系で分類すると、過酸化物、次亜塩素酸、酵素、酸、生薬、銀系無機抗菌剤又は消毒薬のいずれかを主要成分とし、あるいは二種以上を組み合わせた成分系に分類することができる。そして、同一の成分系に属する抗菌剤組成物においてもその具体的な組成は様々である。これは、抗菌剤組成物として洗浄性能と殺菌性能の両者の機能が要求される場合、それぞれの作用を発揮する成分を組み合わせて構成されることが多いためである。
【0006】
こうした要求にも応えるべく、例えば特許文献4には、洗浄性能及び殺菌性能がより高く、また洗浄された被洗浄物品の抗菌性能、洗浄性能及びその持続性を改善することを目的とし、インプラント、クラウン、ブリッジ、矯正用ブラケット、歯科用ワイヤーなどの歯科材料、とくに義歯においては、口腔内に装着している間に義歯表面にデンチャープラークが再形成されるのを阻止することが可能な抗菌性能と洗浄性能をも兼ね備える洗浄剤組成物や、特に義歯使用者に特別の負担や不快感を与えることなく義歯に容易に抗菌性能を付与することができる義歯洗浄剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−502328号公報
【特許文献2】特表平6−505036号公報
【特許文献3】特開2006−213709号公報
【特許文献4】特開2007−146134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜3に示されている、例えばオクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのような、いわゆるメトキシ体のケイ素含有化合物を組成物中に含有させると、製造工程中や輸送中、或いは使用中において毒性の高いメタノールの関与を回避することができないため、組成物自体の安全性に多くの課題が残される上、病原体ウィルス、特にインフルエンザ等のウィルスに対して不活性化する作用を充分に発揮し得るか否かも依然として不明である。
【0009】
一方、上記特許文献4に記載されている洗浄剤組成物に含まれる抗菌成分のケイ素含有化合物は、溶解させる溶媒、混合する界面活性剤の種類によってその溶液中での安定性が左右され、場合によっては白濁ゲル化を生じ、それによって、洗浄剤組成物の抗菌性付与性能が低下することがある。さらに、近年の衛生指向及び抗菌指向の更なる向上の要求に応えるべく、さらに抗菌性及び抗菌持続性が向上した抗菌剤組成物が求められている。
【0010】
また、かかる抗菌剤組成物によって洗浄及び抗菌性付与と同時に消毒・除菌もできれば、衛生環境の更なる向上及び病原菌感染予防に効果的であるが、上記特許文献4には、洗浄剤組成物の物品の洗浄及び抗菌性付与については記載されているものの、該洗浄剤組成物が、洗浄及び抗菌性付与と同時に消毒、除菌も可能であるか否か検討されていない。
【0011】
さらに、抗菌性洗浄剤が義歯の洗浄及び抗菌化のみならず、歯の主成分であるハイドロキシアパタイトも抗菌化できれば、歯磨剤・洗口剤として使用することによって、齲蝕・歯周病他歯性感染症や誤嚥性肺炎の治療・予防に非常に効果的であるが、上記特許文献4に記載の洗浄剤組成物が実際に歯やその主成分であるハイドロキシアパタイトを抗菌化できるか否か検討されていない。
加えて、こうした高性能な抗菌剤組成物や抗ウィルス剤組成物を物品の表面に堅固に固着できれば、さらに利用価値が高まることも予想される。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、特定の製法により得られるケイ素含有化合物を採用することによって、高い安全性と優れたウィルスの不活性化能とを兼ね備えた抗ウィルス剤組成物を提供し、これを用いた抗ウィルス剤の固定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のケイ素含有化合物を含む抗ウィルス剤組成物を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の抗ウィルス剤組成物は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、R1は炭素原子数12〜24のアルキル基を示し、R2及びR3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるケイ素含有化合物を含むことを特徴とする。
【0014】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物は、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドであるのが望ましい。
上記抗ウィルス剤組成物は、さらにエタノールを含んでもよく、さらに水を含んでもよく、さらに両イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤を含んでもよい。
【0015】
前記抗ウィルス剤組成物は、A型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス及びノロウィルスからなる群より選ばれる少なくとも1種のウィルスを不活性化する能力を有するのが望ましい。
本発明の抗ウィルス剤固定化方法は、表面に含酸素官能基を有する物品を用い、該物品の表面に上記抗ウィルス剤組成物を塗布又は噴霧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抗ウィルス剤組成物によれば、特定の製法により得られるエトキシ基を有する、いわゆるエトキシ体のケイ素含有化合物を含有するため、製造工程中や輸送中、或いは使用中において毒性の高いメタノールが一切関与せず、従来のメトキシ体のケイ素含有化合物を含む剤よりも極めて高い安全性を保持することができるとともに、優れた抗ウィルス性をも発揮することができる。
【0017】
一般に、菌やウィルスは1〜2時間経過するだけで、その数がほぼ2倍に増殖することから、仮にこれらの数を1千分の1に抑制できれば、上記同数の増殖数に至るまで数十時間もの猶予期間が生じるため、かなりの抗ウィルス性が認められることとなる。ここで、本発明の抗ウィルス剤組成物が発揮する抗ウィルス性は、従来のメトキシ体のケイ素含有化合物を含む剤を適用した場合に比べ、残存菌数或いは残存ウィルス量を数桁以上に亘って低減して実質的に0にすることができ、極めて画期的な効果を示し、非常に利用価値の高いものである。かかる抗ウィルス性は、特にA型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス又はノロウィルスに対して非常に効果的である。
【0018】
また、上記抗ウィルス剤組成物に特定の界面活性剤と、特定の溶媒とを組み合わせることによって、抗菌成分を長期にわたって安定化させ、従来よりも抗菌性能及び持続性を高めることが可能となり、さらに物品の消毒・除菌も可能となり、かつ洗口とともに歯を効果的に抗菌化することができ、簡便にかつ効果的に歯又はハイドロキシアパタイトを抗菌化できる。
【0019】
さらに、本発明の抗ウィルス剤固定化方法によれば、物品の表面に有効に抗ウィルス剤を固着させることができ、高い安全性のもと、これらの剤が有する抗ウィルス性を充分に発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例3におけるEtACとSi−QACの抗菌性比較試験の結果を示すグラフであり、縦軸は吸光度である。
【図2】図2は、実施例6におけるEtAC水溶液における抗菌性試験の結果を示すグラフであり、縦軸は検出した菌数(対数値)である。
【図3】図3は、実施例9におけるインフルエンザウィルスに対するウィルス感染性不活化能試験の結果を示すグラフであり、縦軸はEtAC濃度(%)、横軸は残存インフルエンザウィルス量(%)である。
【図4】図4は、実施例9における新型(ブタ)インフルエンザウィルス(H1N1型)に対するウィルス感染性不活化能試験の結果を示すグラフであり、縦軸は残存インフルエンザウィルス量(ウィルス残存率:%)である。
【図5】図5は、実施例10におけるEtAC処理タオル及びEtAC処理ガラスバイアルの抗インフルエンザウィルス作用試験の結果を示すグラフであり、縦軸は50%感染量(50% tissue culture infectious dose [TCID50])である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
なお、本明細書において、「抗菌」とは、細菌及び真菌類の殺菌又は損傷、或いはこれらの増殖防止を意味し、「抗ウィルス」とは病原体ウィルスの不活化を意味する。
【0022】
本願明細書に記載の抗菌剤組成物は、下記一般式(a);
【化2】

(式中、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるトリエトキシシリル化合物をエタノール溶媒中で反応させることにより得られる下記一般式(1);
【化3】

(式中、R1は炭素原子数12〜24のアルキル基を示し、R2及びR3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるケイ素含有化合物を含むことを特徴とする。
【0023】
式(a)及び式(1)中のXとしては、塩素イオン、臭素イオンなどのハロゲンイオン、メチルカルボニルオキシイオン(アセテートイオン)、エチルカルボニルオキシイオン(プロピオネートイオン)、フェニルカルボニルオキシイオン(ベンゾエートイオン)などの有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を例示することができる。
【0024】
式(1)中のR1の炭素原子数12〜24のアルキル基としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基などが例示できる。
【0025】
式(1)中のR2及びR3の同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロヘクシル基などを例示することができる。
【0026】
すなわち、上記抗菌剤組成物に含まれる、上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物は、上記一般式(a)で表される特定のトリエトキシシリル化合物をエタノール溶媒中で反応させることによって得られる特定のケイ素含有化合物であり、かかるケイ素含有化合物は、ケイ素原子に3つのエトキシ基が結合した、いわゆるエトキシ体のケイ素含有化合物である。
【0027】
従来のケイ素含有化合物のように、ケイ素原子にメトキシ基が結合した、いわゆるメトキシ体のケイ素含有化合物であると、製造の際にはメタノールを要するとともに、製造後においても加水分解等の副反応によってメタノールが生成するおそれがある。しかしながら、メタノールは、経口すれば有害のおそれが高いだけでなく、強い眼刺激や生殖能又は胎児への悪影響のおそれがあるのに加え、中枢神経系、視覚器、全身毒性の障害又は呼吸器への刺激のおそれや眠気又はめまいを誘発するおそれもあり、長期又は反復ばく露による中枢神経系、視覚器の障害をももたらすことが指摘されている。したがって、従来より、こうしたメタノールの存在によって、得られるケイ素含有化合物自体の安全性のみならず、これを含む抗菌剤組成物の安全性も脅かされていた。
【0028】
これに対し、上記抗菌剤組成物では、上記ケイ素含有化合物を製造する際にエタノール溶媒を用いる一方で、メタノールのような毒性の高い溶媒を一切用いず、またエトキシ体であるかかるケイ素含有化合物からは、加水分解等の副反応によってメタノールが生成することも一切ないため、得られる抗菌剤組成物は極めて安全性が高い。さらに、上記一般式(a)で表される特定のトリエトキシシリル化合物がエタノール溶媒中で反応する際、副生成物としてメトキシ体のようなケイ素含有化合物が得られるおそれもない。
【0029】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物の具体例としては、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられ、これらの中でも、より生体毒性や使用時の環境負荷、廃液の環境負荷の最も少ないオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。
【0030】
上記ケイ素含有化合物を製造するにあたっては、上記一般式(a)で表される特定のトリエトキシシリル化合物をエタノール溶媒中で反応させる。これらをエタノール溶媒中で反応させることにより、メトキシ体等の副生成物の発生を有効に抑制することができるとともに、得られるケイ素含有化合物の安全性を顕著に高めることが可能となる。具体的には、上記一般式(a)で表される特定のトリエトキシシリル化合物と、下記一般式(b);
【化4】

(式中、R1は炭素原子数12〜24のアルキル基を示し、R2及びR3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基を示す)で表されるアミンとを、エタノール溶媒中で反応させる。
【0031】
より具体的には、例えば、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを製造する場合、反応器に上記一般式(a)で表されるトリエトキシシリル化合物としてトリエトキシシリルプロピルクロライド、上記一般式(b)で表されるアミンとしてN,N−ジメチルオクタデシルアミン、及びエタノールを投入し、通常100〜180℃、好ましくは120から150℃に加熱して、通常10〜60時間、好ましくは20〜40時間反応させる。反応させるトリエトキシシリル化合物とアミンとのモル比は、通常1.5:0.8〜1:1であるのが望ましい。なお、エタノール中におけるこれらトリエトキシシリル化合物及びアミンの濃度は、特に限定されず、必要に応じて適宜変更可能である。
【0032】
上記抗菌剤組成物中の上記ケイ素含有化合物の含有量は、抗菌作用及びその持続性が発揮できる量であれば特に限定されないが、通常0.6ppm以上、好ましくは20ppm以上、より好ましくは0.006〜24重量%、最も好ましくは0.06〜6重量%であり、抗菌化作用及びその持続性を充分に発揮するにはこの範囲にあることが好ましい。
【0033】
上記抗菌剤組成物には、さらにエタノールを含んでもよい。かかるエタノール濃度としては特に限定されないが、抗菌化作用を主眼とする観点から、50〜85容量%が好ましい。また、かかる抗菌剤組成物を物品に固定化する観点からすれば、エタノール濃度は35〜85容量%が好ましい。上記抗菌剤組成物には、さらに水を含んでもよい。すなわち上記抗菌剤組成物には、溶媒として、水、エタノール、又はエタノール水溶液(以下、かかる溶媒を「水及び/又はエタノール」ともいう)のいずれを含有してもよい。これらはいずれを溶媒として用いた場合であっても、上記ケイ素含有化合物の含有量が上記範囲内である限り、メタノールに比べて毒性が極めて低く、得られる抗菌剤組成物の安全性を非常に高めることができるので、高度な安全性と優れた抗菌化作用を兼ね備えた剤を実現することが可能となる。
【0034】
さらに、かかる抗菌剤組成物中には、用途に応じて、少なくとも1種の両イオン界面活性剤を含有してもよく、又は少なくとも1種の陽イオン界面活性剤を含有してもよく、これら両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤の双方を含有してもよい。なかでも上記両イオン界面活性剤を含むのが望ましい。これらの界面活性剤を含有することにより、上記ケイ素含有化合物を剤中で安定化させて、溶液の白濁、ゲル化を防止することがより容易となる。
【0035】
上記両イオン界面活性剤は、ベタイン系及びアミンオキサイド系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、抗菌成分の更なる安定化の観点から、アミンオキサイド系の両イオン界面活性剤が好ましい。
【0036】
ベタイン系の両イオン界面活性剤としては、例えば、例えば、ココ脂肪酸アミドプロピルカルボキシベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イミダゾリウムベタインなどが挙げられる。これらの中でも、水及び/又はエタノール中の抗菌成分である上記ケイ素含有化合物の安定性の観点から、ココ脂肪酸アミドプロピルカルボキシベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが好ましい。
【0037】
アミンオキサイド系両イオン界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウロイルアミドプロピルジメチルアミンオキサイドなどが挙げられる。これらの中でも、水及び/又はエタノール中の抗菌成分である上記ケイ素含有化合物の長期間の安定性の観点から、ラウリルジメチルアミンオキサイドが好ましい。
【0038】
上記陽イオン界面活性剤としては、例えば、下記一般式(2)
【化5】

(式中、R11は炭素原子数6以上の炭化水素基を示し、R12、R13及びR14は同一でも異なってもよい低級炭化水素基を示し、Yはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオンを示す)で表される陽イオン界面活性剤(ただし、上記ケイ素含有化合物を除く)、セチルピリジニウムクロライド、N−ココイル−アルギニンエチルエステルピリドンカルボン酸塩等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤のうちでは、R11は炭素原子数10ないし25のアルキル基を示し、R12、R13及びR14は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1ないし6の低級アルキル基を示し、Yがハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)であることが好ましい。
【0040】
上記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤の炭素原子数6以上の炭化水素基R11としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基、ペンタエイコシル基などが例示できる。
【0041】
上記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤のR12、R13及びR14としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロヘクシル基、フェニル基、トリル基などを例示することができる。
【0042】
上記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤として具体的には、次の化合物を例示することができる。すなわち、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリエチルアンモニウムアセテート、ドデシルトリメチルアンモニウムアセテート、ドデシルトリイソプロピルアンモニウムブロマイド、トリデシルトリエチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリエチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリエチルアンモニウムクロライド、ペンタデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリエチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリ−n−プロピルアンモニウムクロライドなどを挙げることができ、とりわけヘキサデシルトリメチルアンモニウムは最も好適である。
【0043】
上記陽イオン界面活性剤の中でも、抗菌性及び安定性をより高めることができることから、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、セチルピリジニウムクロライドが特に好ましい。
【0044】
また、特に、短時間の処理条件下で低含有量の上記ケイ素含有化合物を用いる場合にも優れた抗菌性を発揮し得る観点から、上記両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤のなかでも、両イオン界面活性剤であるラウリルジメチルアミンオキサイドが特に好ましい。過酷な条件下でも顕著な抗菌性を発現するのは、ラウリルジメチルアミンオキサイドとケイ素含有化合物との反応により中間体が生成され、かかる中間体が抗菌成分としての反応性の向上に寄与するためであると推定される。
【0045】
上記両イオン界面活性剤の含有量は通常0.007〜20重量/容量%であり、好ましくは0.05〜10重量/容量%であり、抗菌作用及びその持続性を充分に発揮するにはこの範囲にあることが好ましい。特に、歯科材料やタオル等の繊維製品及び被服等の各物品に上記抗菌剤組成物中のケイ素含有化合物を固定化する場合、上記抗菌剤組成物中のケイ素含有化合物の含有量は、通常0.03重量%以上、好ましくは0.06重量%以上であれば、その効果を充分に発揮することができる。上限値については特に制限されないが、コスト面から0.6重量%以下であるのが望ましい。なお、陽イオン界面活性剤を含む場合、上記ケイ素含有化合物の安定性及び抗菌性向上の観点から、その含有量は、0.01〜5重量/容量%、好ましくは0.05〜1重量/容量%が好ましい。
【0046】
上記抗菌剤組成物は、特に両イオン界面活性剤を含む場合、洗浄作用を発揮する洗浄剤組成物としても用いることができる。かかる洗浄剤組成物は、その抗菌成分である上記ケイ素含有化合物が白濁ゲル化することなく、長期にわたって安定である上、従来の洗浄剤組成物よりも高い抗菌性能を付与することが可能であり、さらに、歯の抗菌化が可能であることから、齲蝕・歯周病他歯性感染症や誤嚥性肺炎の治療・予防を目的とした歯磨剤・洗口剤として有用である。また、かかる洗浄剤組成物は、さらに、少なくとも1種の陽イオン界面活性剤を含んでもよい。陽イオン界面活性剤を添加することによって、上記洗浄剤組成物の抗菌性及び抗菌持続性及び安定性をさらに高めることができる。
【0047】
また、上記抗菌剤組成物は、特に陽イオン界面活性剤を含む場合、物品を消毒、洗浄、除菌するとともに抗菌化するための消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物としても有用である。かかる消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物は、上記抗菌剤組成物と同様に、歯の抗菌化が可能であることから、齲蝕・歯周病他歯性感染症や誤嚥性肺炎の治療・予防を目的とした歯磨剤・洗口剤として用いることができる。
【0048】
これら洗浄剤組成物及び消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物中の上記ケイ素含有化合物の含有量は、上記抗菌剤組成物と同様に、通常0.6ppm以上、好ましくは20ppm以上、より好ましくは0.006〜24重量%、最も好ましくは0.06〜6重量%であり、抗菌作用及びその持続性を充分に発揮するにはこの範囲にあることが好ましい。特に、歯科材料やタオル等の繊維製品及び被服等の各物品に上記消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物中のケイ素含有化合物を固定化する場合、該組成物中のケイ素含有化合物の含有量は、上記抗菌剤組成物と同様に、通常0.03重量%以上、好ましくは0.06重量%以上であれば、その効果を充分に発揮することができる。上限値については特に制限されないが、コスト面から0.6重量%以下であるのが望ましい。
【0049】
上記消毒・洗浄・除菌及び抗菌化用組成物中の陽イオン界面活性剤の含有量は、水及び/又はエタノール中における上記ケイ素含有化合物の安定性及び抗菌性向上の観点から、0.01〜5重量/容量%、好ましくは0.5〜3重量/容量%が好ましい。
【0050】
本願明細書に記載の抗菌化方法は、消毒・洗浄・除菌及び抗菌化作用を発揮し、物品の表面を上記抗菌剤組成物(洗浄剤組成物)によって消毒・洗浄・除菌及び抗菌化することを特徴とする。具体的には、物品の上記抗菌剤組成物による消毒・洗浄・除菌及び抗菌化は、物品を上記抗菌剤組成物に浸漬するか、上記抗菌剤組成物を物品の表面に塗布もしくは噴霧するか、上記抗菌剤組成物によって物品の表面を数回洗い流すか、又は物品の表面を上記抗菌剤組成物を染みこませた布等によって清拭することによって行うことができ、物品と上記抗菌剤組成物とが所定の時間接触できる方法であれば特に制限されない。また、これらの処理を行う時間も、上記抗菌剤組成物に含まれる抗菌成分が物品の表面と充分に反応することができる時間であればよく、適宜選択することができる。なお、上記抗菌剤組成物による消毒・洗浄・除菌及び抗菌化を行った後に、必要に応じて水洗するなどして物品の表面から抗菌剤組成物を除去してもよい。
【0051】
上記抗菌化方法によって消毒・洗浄・除菌及び抗菌化される物品としては、インプラント、クラウン、ブリッジ、矯正用ブラケット、歯科用ワイヤーなどの歯科材料、食器、メガネ、流し、台所周り、便器、トイレ周り、浴槽、浴室周り、洗面ボウル、洗面所周り、タオル等の繊維製品又は被服など広範囲にわたる物品を挙げることができる。
【0052】
また、本願明細書に記載の洗浄・洗口方法は、物品を消毒するとともに抗菌化する方法であって、物品を上記抗菌剤組成物(消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物)によって消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化することを特徴とする。具体的には、物品を上記抗菌剤組成物に浸漬するか、物品の表面を上記抗菌剤組成物を染みこませた布等によって清拭するか、又は前記物品に上記抗菌剤組成物を塗布もしくは噴霧することによって行うことができ、物品と上記抗菌剤組成物とが所定の時間接触できる方法であれば特に制限されない。また、これらの処理を行う時間も、上記抗菌剤組成物に含まれる抗菌成分が物品の表面と充分に反応することができる時間であればよく、適宜選択することができる。或いは、上記抗菌剤組成物(消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物)を用いて洗口してもよい。具体的には、上記抗菌剤組成物による洗口は、例えば、上記抗菌剤組成物を用いるうがいを行うことによって口腔内をリンスし、洗口を行うことができる。
【0053】
このような洗浄・洗口方法によれば、抗菌付与性及び抗菌持続性に優れた上記抗菌剤組成物を用いることによって、口内の洗浄・消毒・除菌を効果的に行うことができるのと同時に、歯に優れた抗菌性及び抗菌持続性を付与することができる。
【0054】
また、前記ケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法において、アミンオキサイド系の両イオン界面活性剤の少なくとも1種を用いることによる、上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法を採用することもできる。上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物をアミンオキサイド系の両イオン界面活性剤と水及び/又はエタノール中で共存させることによって、前記ケイ素含有化合物を長期にわたって水及び/又はエタノール中で安定化させることができ、溶液の白濁、ゲル化を防止し、優れた抗菌性及び抗菌持続性を付与することが可能な抗菌剤組成物を製造することができる。
【0055】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法において、アミンオキサイド系の両イオン界面活性剤の少なくとも1種に加えて、さらに少なくとも1種の陽イオン界面活性剤を用いてもよく、同様の効果を得ることができる。
【0056】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法において、上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物、アミンオキサイド系の両イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤は、上記抗菌剤組成物に含まれるものと同様である。また、上記ケイ素含有化合物及びアミンオキサイド系の両イオン界面活性剤の含有量の範囲も、上記抗菌剤組成物に含まれるものと同様の範囲であることが、上記ケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させ、さらに得られた溶液が抗菌作用及びその持続性を充分に発揮するには好ましい。なお、陽イオン界面活性剤を用いる場合も、上記ケイ素含有化合物の安定性及び抗菌性向上の観点から、その含有量の範囲は、上記抗菌剤組成物に含まれるものと同様の範囲であることが好ましい。
【0057】
また、上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法は、前記ケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法において、陽イオン界面活性剤の少なくとも1種を用いる。上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を陽イオン界面活性剤と水及び/又はエタノール中で共存させることによって、前記ケイ素含有化合物を長期にわたって水及び/又はエタノール中で安定化させることができ、溶液の白濁、ゲル化を防止し、優れた抗菌性及び抗菌持続性を付与することが可能であるのに加えて、消毒、除菌も可能な抗菌剤組成物を製造することができる。
【0058】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させる方法において、上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物、陽イオン界面活性剤は、上記抗菌剤組成物に含まれるものと同様である。また、上記ケイ素含有化合物及び陽イオン界面活性剤の含有量の範囲も、上記抗菌剤組成物に含まれるものと同様の範囲であることが、上記ケイ素含有化合物を水及び/又はエタノール中で安定化させ、さらに得られた溶液が抗菌作用及びその持続性を充分に発揮するには好ましい。
【0059】
また、上記抗菌剤組成物によって、歯又はハイドロキシアパタイトを抗菌化することもできる。上記抗菌剤組成物を用いることによって、歯やその主成分であるハイドロキシアパタイトに優れた抗菌性を簡便に付与し、長期にわたってその抗菌性を持続させることができる。なお、より長期にわたり優れた抗菌性を持続できることから、上記抗菌剤組成物によって抗菌化することが好ましい。
【0060】
上記抗菌剤組成物による歯又はハイドロキシアパタイトの抗菌化は、具体的には、歯又はハイドロキシアパタイトを上記抗菌剤組成物に浸漬するか、歯又はハイドロキシアパタイトの表面に上記抗菌剤組成物を塗布もしくは噴霧するか、又は上記抗菌剤組成物を染みこませた布等によって歯又はハイドロキシアパタイトの表面を清拭することによって行うことができ、歯又はハイドロキシアパタイトと上記抗菌剤組成物とが所定の時間接触できる方法であれば特に制限されない。また、これらの処理を行う時間も、上記抗菌剤組成物に含まれる抗菌成分が歯又はハイドロキシアパタイトの表面と充分に反応することができる時間であればよく、適宜選択することができる。
【0061】
本発明の抗ウィルス剤組成物は、下記一般式(1);
【化6】

(式中、R1は炭素原子数12〜24のアルキル基を示し、R2及びR3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるケイ素含有化合物を含むことを特徴とする。上記一般式(1)中のR1〜R3及びXは、上述した抗菌剤組成物におけるケイ素含有化合物と同義である。かかるエトキシ体であるケイ素含有化合物からは、加水分解等の副反応によって毒性の高いメタノールが生成することがないため、非常に安全性が高く、かかる化合物を含むことにより、高度な安全性と優れた抗ウィルス性を兼ね備えた抗ウィルス剤組成物を実現することができる。
【0062】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物の具体例としては、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ−n−プロピル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられ、これらの中でも、より生体毒性や使用時の環境負荷、廃液の環境負荷の最も少ないオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。
【0063】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物は、下記一般式(a);
【化7】

(式中、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるトリエトキシシリル化合物をエタノール溶媒中で反応させることにより得るのが好ましい。かかるトリエトキシシリル化合物は、上述した抗菌剤組成物におけるトリエトキシシリル化合物と同一であり、製造方法についても上述した抗菌剤組成物におけるケイ素含有化合物と同様である。すなわち、このような反応を用いれば、上記ケイ素含有化合物を製造する際にもメタノールのような毒性の高い溶媒を一切用いることがないため、より安全性の高い抗ウィルス剤組成物を得ることが可能となる。
【0064】
また、本発明の抗ウィルス剤組成物中の上記ケイ素含有化合物の含有量は、抗ウィスル作用及びその持続性が発揮できる量であれば特に限定されないが、通常0.6ppm以上、好ましくは20ppm以上、より好ましくは0.006〜24重量%、最も好ましくは0.06〜6重量%であり、抗ウィルス作用及びその持続性を充分に発揮するにはこの範囲にあることが好ましい。
【0065】
本発明の抗ウィルス剤組成物には、さらにエタノールを含んでもよい。かかるエタノール濃度としては特に限定されないが、抗ウィルス作用を主眼とする観点から、50〜85容量%が好ましい。また、かかる抗ウィルス剤組成物を物品に固定化する観点からすれば、エタノール濃度は35〜85容量%が好ましい。上記抗ウィルス剤組成物には、さらに水を含んでもよい。すなわち上記抗ウィルス剤組成物には、溶媒として、水、エタノール、又はエタノール水溶液(水及び/又はエタノール)のいずれを含有してもよい。これらはいずれも、メタノールに比べて毒性が極めて低く、得られる抗ウィルス剤組成物の安全性を非常に高めることができるので、高度な安全性と優れた抗ウィルス作用を兼ね備えた剤を実現することが可能となる。このように、上記ケイ素含有化合物と、必要に応じて水及び/又はエタノールとを含有するだけで、病原体ウィルスを簡便にかつ効果的に不活性化することができ、病原体ウィルスの感染拡大を防ぎ、衛生環境を向上させることができる。
【0066】
上記抗ウィルス剤組成物によって不活性化が可能なウィルスとしては、A型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、(A〜E型)肝炎ウィルス、はしかウィルス、ヘルペスウィルス、ムンプスウィルス、狂犬病ウィルスインフルエンザウィルス等のエンベロープを持つウィルス、ノロウィルス、HIVウィルス等を挙げることができる。これらの中でも、インフルエンザウィルス、ノロウィルスが好ましく、特にA型インフルエンザウィルス(豚(新型))(新型(ブタ)インフルエンザウィルス(H1N1型))に対しても優れた不活性化能を発揮する点は、高い利用価値を示すものである。
【0067】
さらに、かかる抗ウィルス剤組成物中には、用途に応じて、さらに少なくとも1種の両イオン界面活性剤を含有してもよく、又は少なくとも1種の陽イオン界面活性剤を含有してもよく、これら両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤の双方を含有してもよい。なかでも上記両イオン界面活性剤を含むのが望ましい。これらの界面活性剤を含有することにより、上記ケイ素含有化合物を剤中で安定化させて、溶液の白濁、ゲル化を防止することがより容易となる。なお、用いることのできる上記両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤の種類、並びにその含有量は、上記抗菌剤組成物と同様である。
【0068】
本発明の抗ウィスル剤組成物によるウィルスの不活性化は、具体的には、ウィルスが付着しているおそれがある物品を上記抗ウィルス剤組成物に浸漬するか、当該物品に上記抗ウィルス剤組成物を塗布もしくは噴霧するか、又は上記抗ウィルス剤組成物を染みこませた布等によって当該物品の表面を清拭することによって行うことができ、当該物品と上記抗ウィルス剤組成物とが所定の時間接触できる方法であれば特に制限されない。また、これらの処理を行う時間も、上記抗ウィルス剤組成物によって物品に付着しているウィルスが充分に不活性化される時間であればよく、適宜選択することができる。
【0069】
本願明細書に記載の抗菌剤固定化方法は、表面に含酸素官能基を有する物品を用い、該物品の表面に上記抗菌剤組成物を塗布又は噴霧すること、或いは該物品を上記抗菌剤組成物中に浸漬することを特徴とし、同様に、本発明の抗ウィルス剤固定化方法は、表面に含酸素官能基を有する物品を用い、該物品の表面に上記抗ウィルス剤組成物を塗布又は噴霧すること、或いは該物品を上記抗菌剤組成物中に浸漬することを特徴とする。すなわち、これら抗菌剤固定化方法及び抗ウィルス剤固定化方法は、いずれも、表面に−OH基や−O−基等の含酸素官能基を有する物品を用い、その表面に上記抗菌剤組成物又は抗ウィルス剤組成物を塗布又は噴霧する方法、或いは該物品を上記抗菌剤組成物又は抗ウィルス剤組成物中に浸漬する方法である。上述のとおり、上記抗菌剤組成物又は抗ウィルス剤組成物は、一般式(1)で表されるエトキシ基を有するケイ素含有化合物を含んでいるため、かかるエトキシ基が被処理物品表面の含酸素官能基と反応してエタノールを放出するとともに酸素を介して共有結合する。これにより、被理物品表面にケイ素含有化合物中の抗菌或いは抗ウィルス活性部位が堅固に固定化され、被理物品表面に強い抗菌性能或いは抗ウィルス性能と優れた持続性とが付与されることとなる。
【0070】
上記被処理物品としては、表面に−OH基や−O−基等の含酸素官能基を有する物品であればよく、特に限定されず、歯科材料のような微細な物品から、タオル等の繊維製品及び被服等の物品等のみならず大型物品まで含み得る。また、かかる含酸素官能基を物品表面に付与するため、上記抗菌剤組成物又は抗ウィルス剤組成物を塗布する前に、予め被処理物品の表面に含酸素官能基を付与する表面処理を施してもよい。かかる表面処理としては、例えばオゾン水処理が好ましく、より具体的には、オゾン水に浸漬する処理、オゾン水を噴霧する処理、又はオゾン水を塗布する処理が挙げられる。かかるオゾン水処理は、具体的にはオゾン水を用いた浸漬、噴霧、塗布といった簡易な処理であるため、例えば微細な物品から大型物品に至るまであらゆる物品にも柔軟に対応して容易に処理対象とすることができるとともに、製造ラインにも容易に組み込みやすく、物品の表面により堅固に抗菌剤組成物又は抗ウィルス剤組成物を固定化することが可能となる。
【0071】
上記オゾン水による処理は、特に制限されないが、例えば適宜濃度を調整したオゾン水を用い、かかるオゾン水の濃度によって処理時間を適宜変更して処理することができる。具体的には、例えば、オゾンの濃度が0.4〜0.6ppmである場合、約5分間程度浸漬処理をすればよく、通常の数ppmの濃度のオゾン水の場合には単に噴霧して自然乾燥処理すれば、物品により充分な抗菌性能或いは抗ウィルス性能及びその持続性を付与することができる。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の実施例を具体的に示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。なお、実施例中の略号は、以下の通りである。
EtAC:オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド
Si−QAC:オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド
CPB:セチルピリジニウムブロミド
Aromox(登録商標):ラウリルジメチルアミンオキサイド(ライオン社製)
LAD:ラウロイルアミドプロピルジメチルアミンオキサイド(川研ファイン社製)
HD:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド
CPC:セチルピリジニウムクロライド
PO:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート
CDE:ココ脂肪酸ジエタノールアミド
消毒用エタノール(日本薬局方70%消毒用アルコール)
【0073】
[合成例1(ジメチルオクタデシル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドエタノール溶液の合成)]
窒素パージした加圧反応器に、トリエトキシシリルプロピルクロライド(東京化成工業株式会社)41.5g(0.17moL)、N,N-ジメチルオクタデシルアミン(東京化成工業株式会社)44.6g (0.150moL)、エタノール40.5gを入れ、135℃に加熱した。20時間反応しジメチルオクタデシル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド(EtAC)エタノール溶液121.4gを得た。
含量 63.8% 純分 77.5g 収率 95.9%
【0074】
なお、ジメチルオクタデシル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライドの同定はMSにて行った。以下に測定条件及びスペクトルデータを示す。
1)測定条件:
質量範囲 :22.0458 〜 711.451m/z
イオン化法 : FAB(高速原子衝撃)
モード : 正
2)スペクトルデータ:m/z=530
【0075】
[安全性試験例1〜3]
本発明のオクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを含む組成物の安全性を確認するため、変異原性試験、雌マウスを用いた急性経口毒性試験、及びウサギを用いた皮膚一次刺激性試験を行った。
【0076】
《試験例1:変異原性試験》
検体として、合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液(淡黄色透明液体)を用い、かかる検体の突然変異誘起性を調べる目的で、労働省告示第77号(昭和63年9月1日)に従い、Escherichia coli WP2uvrA及びSalmonella typhimurium TA系4菌株(TA100、TA1535、TA98及びTA1537)を用いて復帰突然変異試験を行った。試験に際し、ニュートリエントブロス培地[OXOID,Nutrient broth No.2]を15 mL分注したバッフル付三角フラスコに解凍した菌分注凍結保存液を接種して、37 ℃で10時間旋回培養したものを検定菌液とした。検体をひょう取して注射用水を加え、試験原液を調製し、注射用水を用いて試験原液を適宜希釈して試験液を調製した。陽性対照物質としては、2-(2-フリル)-3-(5-ニトロ-2-フリル)アクリルアミド、アジ化ナトリウム、9-アミノアクリジン・塩酸塩、2-アミノアントラセンを用いた。注射用水を陰性対照とし、0.610〜1250 μg/プレートの用量で試験を行った。
【0077】
その結果、無菌試験では、試験原液及びS9mixともに陰性対照値の2倍以上となる復帰変異コロニー数の増加が認められず、菌の発育は観察されなかった。一方、陽性対照として用いた2-(2-フリル)-3-(5-ニトロ-2-フリル)アクリルアミド、アジ化ナトリウム及び9-アミノアクリジン・塩酸塩では、陰性対照と比較して顕著な復帰変異コロニー数の増加を認めた。また、2-アミノアントラセンは、S9mix存在下で著明な復帰変異を誘起した。以上より、試験例1条件下における検体の突然変異誘起性は陰性と判断された。
【0078】
《試験例2:雌マウスを用いた急性経口毒性試験》
合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液を注射溶液で希釈し、400、300、200及び100mg/mlの試験液を調整した。この溶液をマウスに8000、6000、4000及び2000mg/Kgの容量で、対照群には注射溶液水を雌マウスに単回経口投与し、14日間観察を行った。
【0079】
その結果、8000、6000、4000 mg/Kg投与群全例及び2000mg/Kgの2例で投与後5分から自発運動の低下がみられたが、投与後4時間までに回復し、その後異常は認められなかった(すべての条件で死亡例は0であった)。以上より、検体マウスにおける単回経口投与によるLD50値は8000 mg/Kg以上であることが示された。
【0080】
《試験例3:ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験》
合成例1で得られたEtACエタノール溶液を消毒用エタノール(80%エタノール)で希釈して3重量%EtACの80%エタノール溶液を調整し、これを綿100%のタオルに噴霧後、室温にて3分間放置し、流水下で水洗・乾燥してEtAC処理タオルを作製した。かかる処理タオルを検体として、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals 404(2002)に準拠し、ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験を行った。約2 cm×3 cmに裁断した検体を約0.5 mLの注射用水で湿潤させ、ウサギ3匹の無傷及び有傷皮膚の各1箇所ずつに24時間適用した。
【0081】
その結果、除去後1時間に1例の有傷皮膚で非常に軽度な紅斑(点数1)が見られたが、24時間に消失し、その後刺激反応は見られなかった。残る適用部位では、観察期間を通して刺激反応は見られなかった。Federal Register(1972)に準拠して求めた一次刺激性インデックス(P.I.I.)は0.1となり、ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験において、検体は「無刺激性」の範疇に入るものと評価された。
【0082】
[実施例1(3wt%EtAC水溶液における安定性試験)]
上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と水と各種界面活性剤を混合し、安定性を比較した。使用した界面活性剤は、両イオン界面活性剤として、CPB、Aromox及びLAD、陽イオン界面活性剤として、HD及びCPC、非イオン界面活性剤として、PO及びCDEを用いた。EtACの最終濃度は3wt%になるように調整した。各界面活性剤の最終濃度は非イオン界面活性剤と両イオン界面活性剤は1wt%、陽イオン界面活性剤は0.1wt%になるように調整した。得られた溶液について、5日〜2週間後の沈殿の有無を確認した。結果を表1〜2に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
両イオン界面活性剤又は両イオン界面活性剤+陽イオン界面活性剤を用いたものは2週間以上経過しても沈殿が生じず、安定であった(表1;Entry1−4)。
【0086】
また、比較のため界面活性剤なし、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤についても同様の試験を行ったが、それぞれ5日〜2週間経過した時点で沈殿が生じた(表1;Entry5−7)。
【0087】
[実施例2(3wt%EtAC消毒用エタノール溶液における安定性試験)]
上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と陽イオン界面活性剤を混合し消毒用エタノールで20倍希釈してEtACの最終濃度が3wt%、界面活性剤の最終濃度が1wt%になるように調整した。陽イオン界面活性剤として、HD及びCPCを用いた。得られた溶液について、沈殿の有無を確認した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
HD及びCPCを添加したものについては、沈殿が生じず、安定であった(表3;Entry2及び3)。
また、比較のため界面活性剤なしの場合についても同様の試験を行ったが、混合から数時間で沈殿が生じた(表3;Entry1)。
【0090】
[実施例3(EtACとSi−QACの抗菌性比較試験1)]
60wt%Si−QACメタノール溶液或いは上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と界面活性剤を混合し、水或いは消毒用エタノールで20倍希釈して、EtAC或いはSi−QACと界面活性剤の最終濃度がそれぞれ下記の濃度になるように調整した。
3%SiQAC+1%PO、3%EtAC+1%LAD、3%EtAC+1%LAD+0.1%CPCの水溶液3検体。
3%EtAC+0.1%HD、3%EtAC+0.1%CPCの消毒用エタノール溶液2検体
【0091】
血球計算盤用カバーグラスをMQ水(コントロール)と得られた溶液5検体に30分間浸漬後、取り出して1時間放置後に水洗を行い余剰の溶液を除去した。次に、10CFU/mLのCandida albicans GDH18の菌懸濁液を50μL接種し、室温にて2時間放置後、サブロー培地を3mL添加し、37℃で22時間培養した。
【0092】
菌数の算定には、吸光度(波長:600nm、測定機器:BioPhotometer)を用いた。吸光度0.3が10CFU/mLに相当する。
【0093】
結果を図1に示す。図1に示すように3%EtAC+1%LAD(LAD EtAC)、3%EtAC+1%LAD+0.1%CPC(LAD+CPC EtAC)、3%EtAC+0.1%HDの消毒用エタノール溶液(HD EtACエタ)、3%EtAC+0.1%CPCの消毒用エタノール溶液(CPC EtACエタ)で処理したガラス表面で全く発育を認められなかったのに対し、Si−QAC(PO Si−QAC)は約2.6×107CFU/mLもの増殖菌がみられ、従来のメトキシ体であるケイ素含有化合物に比べても、非常に高い抗菌性が得られることが示唆された。
【0094】
[実施例4(EtACとSi−QACの抗菌性比較試験2)]
60wt%Si−QACメタノール溶液或いは上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と界面活性剤と水を混合しEtAC或いはSi−QACと界面活性剤の最終濃度がそれぞれ下記の濃度になるように調整した。
3%SiQAC+1%PO、3%SiQAC+1%PO+HD、3%SiQAC+1%LAD、3%EtAC+1%LAD、3%EtAC+1%LAD+0.1%CPCの各水溶液
【0095】
血球計算盤用カバーグラスを、得られた溶液に45分間浸漬後、取り出して水洗を行い、余剰の溶液を除去し、1時間放置後・乾燥後に実験に用いた。次に、106CFU/mLのC. albicans GDH18の菌懸濁液を50μL接種し、室温にて2時間放置後、サブロー培地を3mL添加し、37℃で24時間・48時間・90時間培養した。
【0096】
菌数は、簡易算定を行うため,カンジダイエロー培地を用いた。培地中で育たない場合には赤のまま色が変化せず(○と表記)、増殖菌が5×106CFU/mLの時オレンジ色(△と表記)、1×108CFU/mLで黄色に変化する(×と表記)。
【0097】
結果を表4に示す。各条件で処理したガラスすべてにおいて24時間は培地は赤色を呈し(○と表記)、どの溶液における抗菌処理によっても接種後24時間は発育抑制が可能であると考えられた。48時間後には、EtACを用いた3%EtAC+1%LAD、3%EtAC+1%LAD+0.1%CPCの各溶液のみ抑制がみられた(○と表記)。さらに、90時間後では3%EtAC+1%LAD+0.1%CPCで処理したガラスのみで抑制がみられた(○と表記)。
【0098】
【表4】

【0099】
[実施例5(3wt%EtAC水溶液における抗菌性試験1)]
上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と両イオン界面活性剤と水を混合しEtACと界面活性剤の最終濃度がEtACが3%、両イオン界面活性剤が1%になるように調整した。
両イオン界面活性剤にはCPBとAromox、LADを用いた。
【0100】
ガラス瓶に、得られた水溶液を入れ、20分間浸漬後、取り出して水洗を行い余剰の溶液を除去し、3時間放置後・乾燥後に実験に用いた。次に、106CFU/mLのC. albicans GDH18の菌懸濁液を50μL接種し、室温にて12時間放置後、サブロー培地を3mL添加し、37℃で24時間・100時間培養した。
【0101】
菌数は、簡易算定を行うため、カンジダイエロー培地を用いた。培地中で育たない場合には赤のまま色が変化せず(○と表記)、増殖菌が5×106CFU/mLの時オレンジ色(△と表記)、1×108CFU/mLで黄色に変化する(×と表記)。
【0102】
結果を、表5に示す。各条件で処理したガラスすべてにおいて24時間は培地は赤色を呈し(○と表記)、どの溶液における抗菌処理によっても接種後24時間は発育抑制が可能であると考えられた。
【0103】
100時間後には、表5に示すようにEtACを用いたAromox又はLADを添加したものともに抑制がみられた(○と表記)。
【0104】
【表5】

【0105】
[実施例6(3wt%EtAC水溶液における抗菌性試験2)]
上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液と水と各種界面活性剤を混合し、安定性を比較した。使用した界面活性剤は、両イオン界面活性剤として、CPB、Aromox及びLAD、非イオン界面活性剤として、POを用いた。EtACの最終濃度は3wt%になるように調整し、各界面活性剤の最終濃度は1wt%になるように調整した。
【0106】
ガラス瓶に、得られた水溶液を入れ、20分間浸漬後、取り出して水洗を行い余剰の溶液を除去し、3時間放置後・乾燥後に実験に用いた。次に、106CFU/mLのC. albicans GDH18の菌懸濁液を50μL(菌数:約1万個)接種し、37℃で18時間培養した。
【0107】
菌数は、簡易算定を行うため、カンジダイエロー培地を用いた。結果を図2に示す。図2の縦軸は18時間培養した後に検出した菌数(対数値)を表す。すなわち、縦軸の値が8である場合、菌数が1億個であることを示し、縦軸の値が6である場合、菌数が100万個であることを示している。いずれの界面活性剤を用いた場合も接種菌数の4(1万個)よりは低い値を示したが、特にAromoxを用いた場合、対数値で2、すなわち100個程度と非常に高い抗菌性を発揮できることがわかる。これは、特にEtACとAromoxとが中間体を生成し、これによって反応性が高くなっている可能性が示唆されたため、FT−IRによる上記溶液中の生成物の解析を行ったところ、中間体の生成が確認された。
【0108】
[実施例7(ハイドロキシアパタイトの抗菌化試験)]
上記合成例1で得られた60wt%EtACエタノール溶液とAromoxと水を混合し最終濃度3%EtAC、1%Aromoxになるように調整した。
【0109】
1センチ角(厚さ2mm)の焼結ハイドロキシアパタイト(ペンタックスAPP−100)を得られた水溶液に5、10、20、30分間浸漬後、取り出して水洗を行い余剰の溶液を除去し、1時間放置後・乾燥後に実験に用いた。
【0110】
次に、106CFU/mLのC. albicans GDH18の菌懸濁液を20μL接種し、室温にて4時間放置後、サブロー培地を2mL添加し、37℃で24時間・32時間・44時間培養した。
【0111】
菌数は、簡易算定を行うため,カンジダイエロー培地を用いた。培地中で育たない場合には赤のまま色が変化せず(○と表記)、増殖菌が5×106CFU/mLの時オレンジ色(△と表記)、1×108CFU/mLで黄色に変化する(×と表記)。
【0112】
結果を表6に示す。各条件で処理したハイドロキシアパタイトすべてにおいて24時間は培地は赤色を呈し(○と表記)、どの溶液における抗菌処理によっても接種後24時間は発育抑制が可能であると考えられた。未処理のハイドロキシアパタイト(コントロール)では、約5×106CFU/mLに増殖している(△と表記)。
【0113】
各条件で処理したハイドロキシアパタイト、すべてにおいて32時間後では培地は赤色を呈し(○と表記)、どの溶液における抗菌処理によっても接種後32時間は発育抑制が可能であると考えられた。未処理のハイドロキシアパタイト(コントロール)では、黄色を呈し(×と表記)、約1×108CFU/mL程度に増殖している。
【0114】
44時間後では、5分浸漬処理を行ったもので菌の増殖を認めたが(△と表記)、10、20、30分間浸漬処理を行ったものは発育を認めていない(○と表記)。
【0115】
【表6】

【0116】
[実施例8(ウィルス不活性化試験)]
本発明の洗浄剤組成物及び消毒・洗浄・洗口・除菌及び抗菌化用組成物がウィルスを不活性化する能力を有するか否か試験した。ウィルスは、インフルエンザウィルス、ネコカリシウィルス(ヒトのノロウィルスと同属で、ネコ腎臓細胞であるCRFK 細胞で増殖することが知られ、ヒトのノロウィルスの代替実験系として用いることができる)を用いた。ウィルス力価の測定は、50%Tissue Culture Infectious Dose(TCID50)法を用いて行った。
【0117】
試験溶液として、3重量%EtACの80%エタノール溶液を用意した。10 cm2細胞培養用シャーレを用いて、インフルエンザウィルスの場合はイヌ腎臓細胞を、ネコカリシウィルスの場合はCRFK細胞を70〜100%コンフルエントまで培養した。次いで、100TCID50のインフルエンザウィルス又はネコカリシウィルスの溶液100μLと試験溶液100μLを0.8mLの5%FCS-DMEMに添加し、1時間接触させた(ウィルスは10倍希釈され,10TCID50となる)。その後、ウィルス含5%FCS-DMEM100μLを細胞培養液(5%FCS-DMEM)0.9mLに接種し、培養を行った(ウィルスはさらに10倍希釈され、1TCID50となる)。4〜5日後と7〜8日後に各ウェルに50 μlずつ10% FCS添加DMEMを穏やかに加えた。11-13日後に細胞変性の終末点を顕微鏡で判定した。各試験溶液及び試験溶液の代わりに蒸留水を用いた未処理のコントロールについて、Reed-Muench法により50%組織感染率(TCID50)を算出した。その結果、コントロール(未処理)の場合0.8〜1.2 TCID50であり、使用した培養細胞へのウィルス感染が認められたが、EtACを含有する溶液で処理した場合、いずれのウィルスによる感染が認められず、接種時にウィルスが不活性化したことが考えられた。
【0118】
[実施例9(インフルエンザウィルスに対するウィルス感染性不活化能試験)]
インフルエンザウィルスとしてトリ 無症状(弱毒株)であるオルソミクソウィルス科インフルエンザウィルスA属A/swan/Shimane/499/83(H5N3)及び新型(ブタ)インフルエンザウィルス(H1N1型)を用い、しょ糖密度勾配遠心で精製し、PBSに対して透析したウィルス液として用いた。さらにイヌ腎細胞のセルラインであるMDCK(+)細胞を用いた。
【0119】
上記ウィルス液と合成例1で得られたEtACエタノール溶液を1:9の比で(10μL + 90μL)混和して、室温で3分間反応させた。処理後のウィルス液からDMEMで10倍段階希釈列(0.6%EtAC、0.2%EtAC、0.06%EtAC、0.02%EtAC、0.006%EtAC、0.002%EtAC、0.0006%EtAC、0.0002%EtAC、6×10-5%EtAC、0%EtACを含む)を調製し、96穴プレートの単層培養細胞に接種し(50μL/well)、1時間ウィルス吸着を行った。その後、ウィルス接種液を吸引除去し、DMEM, 20μg/ml トリプシン(100μL/well)を加えた。5日後にCPEが広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber 法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infectious dose [TCID50])を算出し、ウィルス感染価を測定した。
【0120】
結果を図3〜図4に示す。図3で示すように、EtACエタノール溶媒のものをDMEMで希釈した場合、残存感染価 0.002%(20ppm)まで稀釈しても有効であることがわかる。なお、上記ウィルスはトリインフルエンザ弱毒株であり、上記ウィルス液はしょ糖密度勾配遠心で精製し、PBSに対して透析したものであり、不純物の混入が少ないと考えられる。また、トリインフルエンザウィルスで得られた結果と同様に、新型インフルエンザウィルス(H1N1型)にも非常に高い効果が認められた(図4参照)。これらの結果は、同じ物理的な性状をもつA型インフルエンザウィルスであるヒト型(H1N1, H3N2)にも共通するものと想定される。
【0121】
[実施例10(EtAC処理タオル及びEtAC処理ガラスバイアルの抗インフルエンザウィルス作用試験)]
ウィルス(ウィルス液)及び細胞は実施例9と同様のものを用いた。
合成例1で得られたEtACエタノール溶液を消毒用エタノール(80%エタノール)で希釈して3重量%EtAC、0.3重量%EtAC、0.06重量%EtACの80%エタノール溶液を調整し、これを綿100%のタオルに噴霧後、室温にて3分間放置し、流水下で水洗・乾燥してEtAC処理タオルを作製した。
【0122】
次いで、得られたタオルを17mg前後はかりとり、24穴プレートのウェルに入れて、ウィルス液50μLを滴下し、染みこませた。30分間室温でインキュベートしたのちに、300μL DMEM (Dulbecco’s modified Eagle’s MEM)を加えてピペッティングしながらウィルスを回収した。
【0123】
次に、上記80wt%EtAC/エタノール溶液を0.3%、0.15%、0.1%、0.75%、0.06%、0.03%、0.01%の濃度に調整し、バイアル瓶内面を室温にて10分間処理し、エタノールで4回洗浄後、乾燥してEtAC処理ガラスバイアルを作製した。
【0124】
次いで、得られたバイアルにウィルス液(50μLあるいはウィルス液50μL+DMEM 250μL)を入れてシェーカーで振とうしながら30分間インキュベートとした。
処理後のウィルス液から実施例9と同様にしてDMEMで10倍段階希釈列を調製し、96 穴プレートの単層培養細胞に接種し(50μL/well)、1時間ウィルス吸着を行った。
【0125】
その後、ウィルス接種液を吸引除去し、DMEM, 20μg/ml トリプシン(100μL/well)を加えた。5日後にCPE が広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber 法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infectious dose [TCID50])を算出し、ウィルス感染価を測定した。
【0126】
結果を図5に示す。図5に示すように、EtAC処理タオル及びEtAC処理ガラスバイアルとも0.06%EtAC(80%エタノール溶媒)以上の濃度で処理した場合、非常に高い不活性化能を有することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、R1は炭素原子数12〜24のアルキル基を示し、R2及びR3は同一又は異なっていてもよい炭素原子数1〜6の低級アルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を示す)で表されるケイ素含有化合物を含むことを特徴とする抗ウィルス剤組成物。
【請求項2】
上記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物が、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項1記載の抗ウィルス剤組成物。
【請求項3】
さらに、エタノールを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の抗ウィルス剤組成物。
【請求項4】
さらに、水を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤組成物。
【請求項5】
さらに、両イオン界面活性剤及び/又は陽イオン界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤組成物。
【請求項6】
前記抗ウィルス剤組成物が、A型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス及びノロウィルスからなる群より選ばれる少なくとも1種のウィルスを不活性化する能力を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗ウィルス剤組成物。
【請求項7】
表面に含酸素官能基を有する物品を用い、
該物品の表面に請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウィルス剤組成物を塗布又は噴霧すること、或いは該物品を請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウィルス剤組成物中に浸漬することを特徴とする抗ウィルス剤固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−98976(P2011−98976A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8174(P2011−8174)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【分割の表示】特願2010−543968(P2010−543968)の分割
【原出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】