説明

ケイ素系複合材料及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、カーボンナノファイバーが均一に分散されたケイ素系複合材料およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマー30と、カーボンナノファイバー40と、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマー30を分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、炭素系材料にケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させる工程(c−1)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素系複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバーなどのカーボンナノファイバーを用いた複合材料が注目されている(例えば、特許文献1参照)。このような複合材料は、カーボンナノファイバーなどのカーボンナノファイバーを含むことで、導電性、伝熱性、機械的強度などの向上が期待されている。
【0003】
しかしながら、一般にカーボンナノファイバーは、複合材料のマトリクス材料との濡れ性(親和性)が低く、マトリクス材料中への分散性も低かった。また、特にカーボンナノファイバーは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることが非常に困難とされている。カーボンナノファイバーの表面処理として例えば湿式メッキ、蒸着などが検討されているが、表面処理層が厚くなるため、カーボンナノファイバー同士が表面処理層によって結合してしまうという問題があった。そのため、現状では、所望の特性を有するカーボンナノファイバーの複合材料を得ることが難しく、また、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用することができない。
【0004】
そこで、本発明者等が先に提案した複合材料として、カーボンナノファイバーを均一に分散させた炭素繊維複合金属材料がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−78110号公報
【特許文献2】特開2005−97534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが均一に分散されたケイ素系複合材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料にケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させる工程(c−1)と、
を含む。
【0007】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料をケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯中に混合させる工程(c−2)と、
を含む。
【0008】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料と、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させた後、粉末成形する工程(c−3)と、
を含む。
【0009】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、ケイ素を主成分とする粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料を粉末成形する工程(c−4)と、
を含む。
【0010】
本発明の製造方法の工程(a)によれば、エラストマーに高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがエラストマー中に分散される。また、工程(a)の剪断力によって剪断されたエラストマーに形成されたフリーラジカルが、カーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化する。工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。本発明の製造方法の工程(b)によれば、熱処理によってエラストマーが分解気化することで、表面が活性化された炭素系材料が残る。さらに、この炭素系材料は、その表面が活性化され、ケイ素系複合材料のマトリクス材料との濡れ性が向上しているため、一般的な金属加工、例えば鋳造や粉末成形などの加工に容易に利用することができる。そして、本発明の製造方法の工程(c−1)〜(c−4)によれば、工程(b)で得られた炭素系材料を用いて、浸透法、鋳造法、粉末成形法によってケイ素を主成分とするマトリクス材料と複合化させることで、表面が活性化されたカーボンナノファイバーがケイ素を主成分とするマトリクスの中に均一に分散されたケイ素系複合材料を得ることができる。
【0011】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法の前記工程(a)は、前記エラストマーと、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させる工程を含むことができる。ケイ素を主成分とする粒子を複合エラストマーに予め混合させておくことで、ケイ素系複合材料におけるマトリクス材料の配合量を容易に調整することができる。また、炭素系材料は、ケイ素を主成分とする粒子間に適度な隙間を形成することができるため、毛細管現象によって粒子間にマトリクス材料を容易に浸透させることができる。また、粒子を含むことで、工程(a)において、カーボンナノファイバーをさらに均一に分散させることができる。
【0012】
本発明にかかるケイ素系複合材料の製造方法の前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつ有することができる。このようなエラストマーの不飽和結合または基が、カーボンナノファイバーの活性な部分、特にカーボンナノファイバーの末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノファイバーの凝集力を弱め、その分散性を高めることができる。その結果、複合エラストマーは、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されたものとなる。
【0013】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、未架橋体が用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、前記炭素系材料にケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させる工程(c−1)と、を含む。
【0016】
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、前記炭素系材料をケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯中に混合させる工程(c−2)と、を含む。
【0017】
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、前記炭素系材料と、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させた後、粉末成形する工程(c−3)と、を含む。
【0018】
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の製造方法は、エラストマーに、ケイ素を主成分とする粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、前記炭素系材料を粉末成形する工程(c−4)と、を含む。
【0019】
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料は、ケイ素を主成分とするマトリクス中に、均一に分散されたカーボンナノファイバーと、該カーボンナノファイバーの周囲に形成された周辺相と、を含み、前記周辺相は、ケイ素と窒素とを含む。
【0020】
(A)まず、エラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0021】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0022】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0023】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0024】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0025】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバー、特にカーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0026】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0027】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0028】
本実施の形態のエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは未架橋体が好ましい。
【0029】
(B)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
本実施の形態に用いられるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましいく、ケイ素系複合材料の強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0030】
カーボンナノファイバーの配合量は、ケイ素系複合材料の用途に応じて設定できるが、本実施の形態の複合エラストマーは、カーボンナノファイバーを0.01〜50重量%の割合で含むことが好ましい。
【0031】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0032】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0033】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0034】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0035】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0036】
なお、これらのカーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0037】
(C)次に、エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)について説明する。
前記工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。本実施の形態では、エラストマーにカーボンナノファイバーを混合させる工程として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
【0038】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマー30がたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に、まず、金属及び/または非金属の粒子(例えばケイ素粒子50)を加え、さらに、カーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させる。さらに、第1,第2ロール10,20の間隔を狭めて前述した間隔dとし、この状態で第1,第2ロール10,20を所定の表面速度比で回転させる。これにより、エラストマー30に高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していたカーボンナノファイバーが1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。
【0039】
また、この工程(a)では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃するので、カーボンナノファイバーの表面が活性化する。
【0040】
さらに、この工程(a)では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。オープンロール法を用いた場合には、ロールの温度を上記の温度に設定することが望ましい。
【0041】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、特にカーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(一端分散したカーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマーを得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0042】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離でき、かつエラストマー分子を切断してラジカルを生成する剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0043】
また、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合工程(a)において、あるいは工程(a)に先立って、金属粒子及び/または非金属粒子をエラストマーに混合させることができる。金属粒子及び非金属粒子の形状は、球形粒状に限らず、工程(a)時に金属粒子及び非金属粒子のまわりに乱流状の流動が発生する形状であれば平板状、りん片状であってもよい。この乱流状の流動によって、カーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。また、金属粒子及び非金属粒子は、カーボンナノファイバーよりも十分に大きい粒子径を有することが好ましく、平均粒径は500μm以下、好ましくは1〜300μmであることが好ましい。金属粒子としては、アルミニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金、鉄及びその合金などの粒子を単体でまたは組み合わせて用いることができる。特に、金属粒子としてアルミニウム粒子を用いることで、靭性の高いアルミニウム合金を得ることができる。非金属粒子としては、カーボンブラック、ケイ酸粒子、鉱物性粒子などを単体でもしくは組み合わせて用いることができ、特に、上記のようにケイ素系複合材料においてマトリクスとなるケイ素を主成分とする粒子例えばケイ素粒子を用いることができる。後述する工程(c)において浸透法を用いる場合には、金属粒子及び/または非金属粒子の量は、エラストマー100重量部に対して、10〜3000重量部、好ましくは100〜1000重量部である。金属粒子及び/または非金属粒子が10重量部以下であると、毛細管現象が小さく、マトリクス材料の溶湯の浸透速度が遅いので、生産性及びコスト面で好ましくない。また、金属粒子及び/または非金属粒子が3000重量部以上であると、ケイ素系複合材料を製造する際に、エラストマーへ含浸させにくくなる。また、金属粒子が、還元効果の高い金属例えばマグネシウム粒子を含むことで、工程(b)の熱処理の際に、マグネシウム粒子が気化することで金属粒子及び/または非金属粒子の表面を還元し、マトリクス材料との濡れ性を向上させることができ、工程(c)ではマトリクス材料を浸透させやすくできる。
【0044】
工程(a)において、あるいは工程(a)に続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0045】
(D)次に、上記方法によって得られた複合エラストマーについて述べる。
本実施の形態の複合エラストマーは、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる複合エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。
【0046】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。
【0047】
以上のことから、本実施の形態にかかる複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0048】
すなわち、未架橋体において、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0049】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0050】
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性測定における流動温度が、原料エラストマー単体の流動温度より20℃以上高温であることが好ましい。本実施の形態の複合エラストマーは、エラストマーにカーボンナノファイバーとが良好に分散されている。このことは、上述したように、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、流動性が低下する。このような流動温度特性を有することにより、本実施の形態の複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性が小さくなり、その結果、優れた耐熱性を有する。
【0051】
カーボンナノファイバーは、通常、相互に絡み合って媒体に分散しにくい性質を有する。しかし、本実施の形態の複合エラストマーのエラストマーを分解気化させた炭素系材料を、ケイ素を主成分とするマトリクスを有するケイ素系複合材料の原料として用いると、表面の活性化したカーボンナノファイバーは、酸素などと反応して、マトリクス材料との濡れ性が向上している。したがって、ケイ素系複合材料は、所望の強度等の性能を得ることができ、また、カーボンナノファイバーをマトリクス材料に容易に分散することができる。
【0052】
(E)次に、複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)について説明する。
工程(b)によって、表面が活性化された炭素系材料を製造することができる。このような熱処理は、使用されるエラストマーの種類によって種々の条件を選択することができるが、少なくとも熱処理温度は、エラストマーの分解気化する温度以上であって、かつカーボンナノファイバーが分解気化する温度よりも低い温度に設定される。複合エラストマーは、架橋されていないことが好ましい。
【0053】
工程(b)は、元素Xもしくは元素Xの化合物の存在下で行なわれ、カーボンナノファイバーを構成する炭素原子に該元素Xが結合した炭素系材料を得ることができる。例えば、複合エラストマーは、元素Xもしくは元素Xの化合物を含み、工程(b)の熱処理によって、カーボンナノファイバーを構成する炭素原子に該元素Xを結合させてもよい。また、例えば、工程(b)は、元素Xもしくは元素Xの化合物を含む雰囲気中で行なわれ、カーボンナノファイバーを構成する炭素原子に該元素Xを結合させてもよい。
【0054】
元素Xは、軽い元素であって、2価以上が好ましく、例えばベリリウム、ホウ素、窒素、酸素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄から選ばれた少なくとも一つを含むことができる。元素Xは、酸素であることが好ましい。酸素は、空気中に存在するため、工程(b)の熱処理において容易に用いることができ、活性化したカーボンナノファイバー、例えばカーボンナノファイバーのラジカルと反応し易いため、元素Xとして用いることが好ましい。また、酸素は他の材料例えばケイ素を主成分とするマトリクス材料と結合しやすく、酸素の結合した炭素系材料はケイ素系複合材料の強化材としての機能を有する。
【0055】
元素Xとして酸素を用いる場合には、工程(b)の熱処理の際の雰囲気中に酸素を含ませておけばよく、元素Xとして窒素を用いる場合には、アンモニウムガス雰囲気で工程(b)を行なえばよい。また、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、シリコン、リン、硫黄などを元素Xとする場合には、エラストマーに工程(b)に先立ってこれらの元素またはその化合物混合させておけばよい。その場合、例えば、工程(a)の混練時に元素Xもしくは元素Xの化合物を一緒に混合することができる。
【0056】
本実施の形態にかかる工程(b)は、熱処理炉に工程(a)で得られた複合エラストマーを配置し、炉内をエラストマーの分解気化する温度、例えば500℃に加熱する。この加熱によって、エラストマーは分解気化し、工程(a)で活性化されたカーボンナノファイバーの表面は炉内の雰囲気もしくはエラストマー中に含まれる元素Xと結びついて、表面処理された炭素系材料が製造される。カーボンナノファイバーの表面は、工程(a)においてせん断されたエラストマー分子のフリーラジカルによって活性化されており、例えば炉内雰囲気中に存在する酸素と容易に結びつくことができる。このようにして得られた炭素系材料の表面は酸化され、活性化されているため、炭素系材料はマトリクス材料との濡れ性が向上する。
【0057】
こうして得られた炭素系材料、例えばカーボンナノファイバーの表面は、カーボンナノファイバーを構成する炭素原子と元素Xが結合した構造を有している。したがって、炭素系材料、例えばカーボンナノファイバーの表面は、元素X(例えば酸化)層に覆われた構造を有している。このような炭素系材料の表面構造については、X線分光分析(XPS)によって解析することができ、また、EDS分析(Energy Dispersive Spectrum)によっても解析することができる。
【0058】
なお、工程(a)でエラストマーに金属及び/または非金属の粒子を混合させた場合、炭素系材料は、カーボンナノファイバーと金属及び/または非金属の粒子とが混在し、該粒子の周囲にカーボンナノファイバーが分散した状態にある。非金属の粒子としてマトリクス材料と同じケイ素粒子が用いられた場合、ケイ素粒子の配合量を調節することで、ケイ素系複合材料におけるマトリクス材料の割合を調節できるので好ましい。また、工程(c)において、この炭素系材料をそのまま粉末成形することでケイ素系複合材料を得ることができる。
【0059】
(F)次に、炭素系材料を用いて、ケイ素を主成分とするマトリクスを有するケイ素系複合材料を得る工程(c)について説明する。
工程(c)としては、
(c−1)工程(b)で得られた炭素系材料に、ケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させる方法、
(c−2)工程(b)で得られた炭素系材料をケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯中に混合させる方法、
(c−3)工程(b)で得られた炭素系材料と、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させた後、粉末成形する方法、
(c−4)工程(b)で得られた炭素系材料を粉末成形する方法、などを採用することができる。
【0060】
(c−1:浸透法)
本実施の形態では、炭素系材料にケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させるいわゆる非加圧浸透法を用いて鋳造する工程について、図2及び図3を用いて詳細に説明する。
【0061】
図2及び図3は、非加圧浸透法によってケイ素系複合材料を製造する装置の概略構成図である。上記工程(b)で得られた炭素系材料は、例えば最終製品の形状を有する成形金型内で圧縮成形された炭素系材料4を使用することができる。図2において、密閉された容器1内には、あらかじめ成形された炭素系材料4(例えばケイ素粒子50、図示せぬ少量のマグネシウム粒子及びカーボンナノファイバー40を含む)が入れられる。その炭素系材料4の上方にケイ素を主成分とするマトリクス材料の塊例えばケイ素塊5が配置される。次に、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、容器1内に配置された炭素系材料4及びケイ素塊5をケイ素の融点以上に加熱する。加熱されたケイ素塊5は、溶融してケイ素の溶湯となる。また、ケイ素の溶湯は、エラストマーが分解気化されてできた空所(ケイ素粒子50同士の隙間)にケイ素の溶湯が浸透する。
【0062】
本実施の態様の炭素系材料4としては、複合エラストマーのエラストマーが分解気化されてできた空所が毛細管現象によってケイ素の溶湯をより早く全体に浸透させることができる。ケイ素の溶湯は、気化したマグネシウムによって還元されることで濡れ性の改善されたケイ素粒子50間に毛細管現象によって浸透し炭素系材料の内部まで完全にケイ素の溶湯が満たされる。そして、容器1の加熱手段による加熱を停止させ、炭素系材料4中に浸透したケイ素の溶湯を冷却・凝固させ、図3に示すようなカーボンナノファイバー40が均一に分散されたケイ素系複合材料6を製造することができる。浸透法に用いられる炭素系材料4は、あらかじめ浸透法で使用される溶湯(マトリクス材料)と同じケイ素を主成分とする粒子を用いて工程(a)で成形されていることが好ましい。このようにすることで、ケイ素を主成分とする溶湯及び粒子が混ざりやすく均質なケイ素系複合材料を得られる。
【0063】
また、容器1を加熱する前に、容器1の室内を容器1に接続された減圧手段2例えば真空ポンプによって脱気してもよい。さらに、容器1に接続された不活性ガス注入手段3例えば窒素ガスボンベから窒素ガスを容器1内に導入してもよい。
【0064】
また、上記実施の形態においては非加圧浸透法について説明したが、浸透法であればこれに限らず例えば不活性ガスなどの雰囲気の圧によって加圧する加圧浸透法を用いることもできる。
【0065】
上述したように、ケイ素系複合材料中のカーボンナノファイバーの表面は活性化しているため、ケイ素を主成分とするマトリクス材料との濡れ性が向上しているため、全体に機械的性質のばらつきが低減され、均質なケイ素系複合材料が得られる。
【0066】
(c−2:鋳造方法)
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の鋳造工程は、上記工程(b)で得られた炭素系材料を、マトリクス材料の溶湯例えば金属溶湯に混入して所望の形状を有する鋳型内で鋳造する工程によって実施することができる。このような鋳造工程は、例えば鋼製の鋳型内にケイ素を主成分とする溶湯を注湯して行う金型鋳造法、ダイカスト法、低圧鋳造法を採用することができる。またその他特殊鋳造法に分類される、高圧化で凝固させる高圧鋳造法、溶湯を攪拌するチクソカスティング、遠心力で溶湯を鋳型内へ鋳込む遠心鋳造法などを採用することができる。これらの鋳造法においては、ケイ素を主成分とする溶湯の中に炭素系材料を混合させたまま鋳型内で凝固させ、ケイ素系複合材料を成形する。
【0067】
上述したように、カーボンナノファイバーの表面は活性化しているため、マトリクス材料の溶湯に対しても十分な濡れ性を有しているため、全体に機械的性質のばらつきが低減され、均質なケイ素系複合材料が得られる。鋳造工程に用いられる炭素系材料は、あらかじめ鋳造工程で使用される溶湯(マトリクス材料)と同じケイ素を主成分とする粒子を用いて工程(a)で成形されていることが好ましい。このようにすることで、ケイ素を主成分とする溶湯及び粒子が混ざりやすく均質なケイ素系複合材料を得られる。
【0068】
(c−3:粉末成形方法)
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の粉末成形工程(c−3)は、上記工程(b)で得られた炭素系材料と、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させた後、粉末成形する工程によって実施することができる。具体的には、上記工程(b)で得られた炭素系材料を粉砕し、ドライブレンド、湿式混合などで粉砕された炭素系材料とケイ素を主成分とする粒子とを混合させ、得られた混合粉を型内で圧縮し、ケイ素を主成分とする粒子の焼結温度で焼成してケイ素系複合材料を得ることができる。湿式混合の場合、溶剤中のケイ素を主成分とする粒子に対して、炭素系材料を混ぜる(湿式混合)ことができる。なお、この工程(c−3)で用いられるマトリクス材料は、炭素系材料に含まれるケイ素を主成分とする粒子との配合割合を調整することで、望ましい物性を有するケイ素系複合材料を製造することができる。
【0069】
(c−4:粉末成形方法)
本実施の形態にかかるケイ素系複合材料の粉末成形工程(c−4)は、上記工程(b)で得られた炭素系材料を粉末成形する工程によって実施することができる。具体的には、例えば上記工程(a)において、予めケイ素系複合材料のマトリクスとなるケイ素を主成分とする粒子をエラストマー中に混合しておき、工程(b)で得られた炭素系材料を型内で圧縮し、ケイ素を主成分とする粒子の焼結温度で焼成してケイ素系複合材料を得ることができる。
【0070】
本実施の形態にかかる工程(c−3)及び(c−4)における粉末成形は、金属の成形加工における粉末成形と同様であり、いわゆる粉末冶金を含み、例えば焼結、焼結鍛造(粉末鍛造ともいう)、粉末射出成形(MIMともいう)、熱間等方圧成形(熱間静水圧成形、HIPともいう)、などの粉末成形法を含む。なお、焼結法としては、一般的な焼結法の他、プラズマ焼結装置を用いた放電プラズマ焼結法(SPS)などを採用することができる。
【0071】
本実施の形態にかかる工程(c−3)及び(c−4)における粉末成形によって製造されたケイ素系複合材料は、カーボンナノファイバーをケイ素を主成分とするマトリクス材料中に分散させた状態で得られる。
【0072】
(G)次に、ケイ素系複合材料について説明する。
工程(c)によって得られたケイ素系複合材料は、ケイ素を主成分とするマトリクス中にカーボンナノファイバーを含むケイ素系複合材料であって、カーボンナノファイバーの周囲に非晶質の周辺相を含む。この周辺相は、工程(c)における雰囲気ガスに含まれる元素と、マトリクス材料に含まれるケイ素と、を含む非晶質の周辺相として形成される。例えば、工程(c)における雰囲気ガスに窒素ガスを用いた場合は、ケイ素を主成分とするマトリクス中に、均一に分散されたカーボンナノファイバーと、該カーボンナノファイバーの周囲に形成された周辺相と、を含み、前記周辺相は、少なくともケイ素と窒素とを含み、例えば、雰囲気ガスに酸素が含まれていた場合は、周辺相はケイ素と窒素と酸素とを含む。また、例えば、工程(c)において、マトリクス材料にケイ素、雰囲気ガスに酸素を少量含む窒素ガスを用いた場合、周辺相はケイ素、窒素及び酸素からなる非晶質相が形成される。ケイ素系複合材料における周辺相の割合は、工程(c)における雰囲気ガスの流量や熱処理時間によって調整することができる。特に、周辺相は、主な構成元素がマトリクス材料と同じケイ素であり、ケイ素を主成分とするマトリクス材料の結晶質相との濡れ性が良好である。なお、周辺相は、完全な非晶質相で構成されなくてもよく、部分的に例えば窒化ケイ素からなる結晶質相を含んでもよい。
【0073】
このような周辺相が形成されることで、ケイ素を主成分とするマトリクス材料とカーボンナノファイバーとの濡れ性が改善されたケイ素系複合材料となる。したがって、本実施の形態にかかるケイ素系複合材料によれば、ケイ素と窒素を含む周辺相は、ケイ素を主成分とするマトリクス材料と結合しやすく、カーボンナノファイバーとマトリクス材料との濡れ性が改善されたケイ素系複合材料が得られる。また、周辺相が非晶質相及び/もしくは結晶層を含むことで、ケイ素系複合材料の強度を向上させることができる。
【0074】
ケイ素系複合材料におけるカーボンナノファイバーの周辺の構造については、X線分光分析(XPS)やEDS分析(Energy Dispersive Spectrum)によっても解析することができる。また、ケイ素系複合材料における周辺相については、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、照射点近傍の元素分析によって調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】非加圧浸透法によってケイ素系複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【図3】非加圧浸透法によってケイ素系複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0076】
1 容器
2 減圧手段
3 注入手段
4 複合エラストマー
5 ケイ素塊
6 ケイ素系複合材料
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
50 ケイ素粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料にケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯を浸透させる工程(c−1)と、
を含む、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項2】
エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料をケイ素を主成分とするマトリクス材料の溶湯中に混合させる工程(c−2)と、
を含む、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項3】
エラストマーに、カーボンナノファイバーを混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料と、ケイ素を主成分とする粒子と、を混合させた後、粉末成形する工程(c−3)と、
を含む、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、前記エラストマーに、ケイ素を主成分とする粒子を混合させる工程を含む、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項5】
エラストマーに、ケイ素を主成分とする粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理して、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを分解気化させて炭素系材料を得る工程(b)と、
前記炭素系材料を粉末成形する工程(c−4)と、
を含む、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、前記カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつ有する、ケイ素系複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法によって得られたケイ素系複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−76988(P2007−76988A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270384(P2005−270384)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】