説明

ケイ素鋼板用塗料組成物

【課題】 ケイ素鋼板用塗料組成物において、ケイ素鋼板積層鉄心の占積率を殆ど低下させずに渦電流損失を低減して鉄損を小さくでき、安価に鉄心を形成できること。
【解決手段】 ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)を主成分とした天然ガラス及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分とした天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状としてボールミルで数時間混合し、得られた塗料組成物を厚さ0.35mmのケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布して、200℃前後の熱風で20〜30分程度乾燥した。得られた塗膜は、絶縁性・硬度・密着性・耐水性等に優れ、クラックも欠陥もなく強固であるため、占積率98.6%以上で渦電流を低減できるケイ素鋼板積層鉄心を構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータ、変圧器、発電機、電磁石等に用いられるケイ素鋼板に塗布してごく薄くクラックのない強固な絶縁性塗膜を得ることができるケイ素鋼板用塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄心とコイルを組み合わせてなる電気モータ、変圧器、発電機、電磁石等の電磁機器においては、磁気ヒステリシス損失と渦電流損失の2つの要素からなる鉄損ができるだけ小さいことが要求される。そこで、鉄心としては炭素をできるだけ少なくしたFe−Si合金であるケイ素鋼板が用いられ、このケイ素鋼板は圧延と熱処理の繰返しによってその結晶粒の(110)面が圧延面に平行になり、[001]方向が圧延方向に一致する集合組織になる。[001]方向は磁化容易方向であり、この状態で最大の透磁率を示し、磁気ヒステリシス損失が極めて小さい。そこで、電気モータ、変圧器等においては、鉄心として厚さ0.35mmのケイ素鋼板を絶縁材を挟んで積層して機械的に接合させて鉄心としている。
【0003】
しかし、もう1つの損失要素である渦電流損失を小さくするためには、積層されたケイ素鋼板間の電気抵抗をできるだけ高くして渦電流が流れるのを防止しなければならない。従来は、ケイ素鋼板間に挟まれる絶縁材として、耐油性ワニスを焼き付けた被膜、水ガラス、薄紙等を用いることによって渦電流損失をできるだけ小さくしていた。ところが、これらの絶縁材はある程度以下には薄くできないので、積層体全体に対する磁性体(ケイ素鋼板)の体積の割合(占積率)が約90%〜約97%と低くなり、積層体と同体積のケイ素鋼板に対してヒステリシス損、磁束密度、励磁特性等の磁気特性が不充分になる傾向があった。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明にかかる鉄心においては、厚さ0.1mm以上の多結晶軟磁性材料と厚さ10μm以上のアモルファス軟磁性材料とを交互に積層し、機械的に接合させて鉄心を構成している。即ち、当該発明の発明者らは、多結晶軟磁性材料とアモルファス軟磁性材料とを交互に積層すると、占積率を低下させることなしに高周波で磁化する際に渦電流損失が低減されることを見出し、当該発明を完成している。なお、多結晶軟磁性材料とアモルファス軟磁性材料との間に異種材料の界面が形成され、かかる界面では接触抵抗が大きくなるので、該界面は実質的に絶縁体として作用する。
【特許文献1】特開平5−109545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された鉄心においては、アモルファス軟磁性材料を形成するためにレーザ溶射する等の方法を施す必要があり、従来のケイ素鋼板積層鉄心よりも余分な設備と工程を要するため、遥かに高価になるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができるケイ素鋼板用塗料組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)を主成分とした天然ガラス及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分とした天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合し、ケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布されるものである。
【0008】
請求項2の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、請求項1の構成において、前記ケイ酸アルカリ100重量部に、前記ケイ酸カルシウム及び/または前記リン酸亜鉛を合計約5重量部〜約20重量部添加し、前記コレマナイトの鱗片状天然ガラス及び/または前記ウレキサイトの鱗片状天然ガラスを合計約20重量部〜約80重量部混合したものである。
【0009】
請求項3の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、請求項1または請求項2の構成において、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを前記ケイ酸アルカリ100重量部に対して約1重量部〜約20重量部配合したものである。
【0010】
請求項4の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記ケイ素鋼板表面に膜厚約0.5μm〜約2μmの範囲内で塗布されるものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)を主成分とした天然ガラス及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分とした天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合し、ケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布されるものである。
【0012】
ここで、「ケイ酸アルカリ」としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、また無機充填材として、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを用いるのは、コレマナイト及びウレキサイトに含有されるB23成分のガラス化により強固な塗膜が形成されるためである。なお、他の天然ガラスにコレマナイト及び/またはウレキサイトを混合させてもよいが、コレマナイト及び/またはウレキサイトの混合量は少なくとも無機充填材総量の約10重量%を必要とし、最適量は30重量%以上である。
【0013】
このように、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合することによって、ケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となるのである。さらに、絶縁膜としての塗膜の厚さが約5μm以下と薄いため、占積率を殆ど低下させることがない(厚さ0.35mmのケイ素鋼板に5μmの塗膜を形成した場合、占積率=98.6%)。
【0014】
そして、本発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、安価な材料のみで製造されているため、従来のケイ素鋼板積層鉄心とほぼ同等の価格で鉄心を形成することができる。
【0015】
このようにして、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができるケイ素鋼板用塗料組成物となる。
【0016】
請求項2の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、ケイ酸アルカリ100重量部に、ケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計約5重量部〜約20重量部添加し、コレマナイトを主成分とした鱗片状天然ガラス及び/またはウレキサイトを主成分とした鱗片状天然ガラスを合計約20重量部〜約80重量部混合したものである。
【0017】
ケイ酸アルカリ100重量部に対して、硬化剤としてのケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛の合計添加量としては約10重量部が最適量であり、約5重量部〜約20重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。また、無機充填材としてのコレマナイトの鱗片状天然ガラス及び/またはウレキサイトの鱗片状天然ガラスの合計添加量としては約50重量部が最適量であり、約20重量部〜約80重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。したがって、通常の工場の稼動時間である8時間程度では、塗料としての特性が安定して保たれ、ケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となるのである。
【0018】
このようにして、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができるケイ素鋼板用塗料組成物となる。
【0019】
請求項3の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、さらに厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークをケイ酸アルカリ100重量部に対して約1重量部〜約20重量部配合したものである。厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを配合することによって、被覆力をより強くして安定した強固な塗膜を約5μm以下の薄膜に形成することができ、約1重量部〜約20重量部の配合量が適当である。
【0020】
このようにして、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができるケイ素鋼板用塗料組成物となる。
【0021】
請求項4の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、ケイ素鋼板表面に膜厚約0.5μm〜約2μmの範囲内で塗布されるものである。上述した請求項1乃至請求項3の発明にかかるケイ素鋼板用塗料組成物は、極めて安定で強固な塗膜を形成するので、水分量を多めにすることによって膜厚約0.5μm〜約2μmの範囲内の薄膜とすることができる。これによって、占積率の低下をより僅かにして(厚さ0.35mmのケイ素鋼板に2μmの塗膜を形成した場合、占積率=99.4%)ケイ素鋼板積層鉄心を構成することができる。
【0022】
このようにして、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができるケイ素鋼板用塗料組成物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1にかかるケイ素鋼板用塗料組成物について、その製造方法、塗布方法、乾燥方法、及び試験結果について説明する。ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム50重量部及びケイ酸リチウム50重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム5重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト80重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク5重量部を、水150重量部とともにボールミルで3時間粉砕混合して、本実施の形態1にかかるケイ素鋼板用塗料組成物を得た。
【0025】
これを、厚み0.35mmのケイ素鋼板にスプレー塗装し、250℃の熱風で20分間乾燥して、厚み2.0μmの塗膜を得た。このケイ素鋼板用塗料組成物を実施例1−1として、他の配合例実施例1−2〜実施例1−5とともに、表1にまとめて示す。なお、クラック検査は、耐煮沸試験8時間後のクラックの有無を検査した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示されるように、実施例1−1〜実施例1−5のいずれのケイ素鋼板用塗料組成物についても、クラックの無い厚み5.0μm以下の良好な塗膜が得られている。また、実施例1−1のケイ素鋼板用塗料組成物について、塗膜の各種特性試験を行った結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示されるように、塗膜硬度、密着性を始め、いずれの試験項目でも良好な結果が得られている。さらに、JIS K 6911に準じて塗膜の表面固有抵抗を測定したところ、7×108 Ωという良好な結果が得られた。
【0030】
これによって、本実施の形態1にかかるケイ素鋼板用塗料組成物(実施例1−1)及びその変形例(実施例1−2〜実施例1−5)のいずれにおいても、厚み0.35mmのケイ素鋼板に極めて薄く均一で強固な欠陥の無い絶縁塗膜を形成することができ、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに(占積率=98.6%〜99.4%)渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができる。
【0031】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2にかかるケイ素鋼板用塗料組成物について、その製造方法、塗布方法、乾燥方法、及び試験結果について説明する。ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム70重量部及びケイ酸リチウム30重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム12重量部及びリン酸亜鉛7重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト14重量部及びウレキサイト3重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク1重量部を、水150重量部とともにボールミルで5時間粉砕混合して、本実施の形態2にかかるケイ素鋼板用塗料組成物を得た。
【0032】
これを、厚み0.35mmのケイ素鋼板にスプレー塗装し、180℃の熱風で22分間乾燥して、厚み4.0μmの塗膜を得た。このケイ素鋼板用塗料組成物を実施例2−1として、他の配合例実施例2−2〜実施例2−5とともに、表3にまとめて示す。なお、クラック検査は、耐煮沸試験8時間後のクラックの有無を検査した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示されるように、実施例2−1〜実施例2−5のいずれのケイ素鋼板用塗料組成物についても、クラックの無い厚み5.0μm以下の良好な塗膜が得られている。また、実施例2−1のケイ素鋼板用塗料組成物について、塗膜の各種特性試験を行った結果、実施例1−1と同様に良好な結果が得られた。さらに、JIS K 6911に準じて塗膜の表面固有抵抗を測定したところ、7×108 Ωという良好な結果が得られた。
【0035】
これによって、本実施の形態2にかかるケイ素鋼板用塗料組成物(実施例2−1)及びその変形例(実施例2−2〜実施例2−5)のいずれにおいても、厚み0.35mmのケイ素鋼板に極めて薄く均一で強固な欠陥の無い絶縁塗膜を形成することができ、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに(占積率=98.6%〜99.2%)渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができる。
【0036】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3にかかるケイ素鋼板用塗料組成物について、その製造方法、塗布方法、乾燥方法、及び試験結果について説明する。ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム60重量部及びケイ酸リチウム40重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム11重量部及びリン酸亜鉛8重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト30重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク6重量部を、水150重量部とともにボールミルで7時間粉砕混合して、本実施の形態3にかかるケイ素鋼板用塗料組成物を得た。
【0037】
これを、厚み0.35mmのケイ素鋼板にディップ塗装し、210℃の熱風で30分間乾燥して、厚み2.5μmの塗膜を得た。このケイ素鋼板用塗料組成物を実施例3−1として、他の配合例実施例3−2〜実施例3−5とともに、表4にまとめて示す。なお、クラック検査は、耐煮沸試験8時間後のクラックの有無を検査した。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示されるように、実施例3−1〜実施例3−5のいずれのケイ素鋼板用塗料組成物についても、クラックの無い厚み5.0μm以下の良好な塗膜が得られている。また、実施例3−1のケイ素鋼板用塗料組成物について、塗膜の各種特性試験を行った結果、実施例1−1と同様に良好な結果が得られた。さらに、JIS K 6911に準じて塗膜の表面固有抵抗を測定したところ、7×108 Ωという良好な結果が得られた。
【0040】
これによって、本実施の形態3にかかるケイ素鋼板用塗料組成物(実施例3−1)及びその変形例(実施例3−2〜実施例3−5)のいずれにおいても、厚み0.35mmのケイ素鋼板に極めて薄く均一で強固な欠陥の無い絶縁塗膜を形成することができ、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに(占積率=98.9%〜99.3%)渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができる。
【0041】
実施の形態4
次に、本発明の実施の形態4にかかるケイ素鋼板用塗料組成物について、その製造方法、塗布方法、乾燥方法、及び試験結果について説明する。ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム50重量部及びケイ酸カリウム50重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム6重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト20重量部及びウレキサイト10重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク6重量部を、水150重量部とともにボールミルで7時間粉砕混合して、本実施の形態4にかかるケイ素鋼板用塗料組成物を得た。
【0042】
これを、厚み0.35mmのケイ素鋼板にディップ塗装し、210℃の熱風で25分間乾燥して、厚み2.5μmの塗膜を得た。このケイ素鋼板用塗料組成物を実施例4−1として、他の配合例実施例4−2〜実施例4−5とともに、表5にまとめて示す。なお、クラック検査は、耐煮沸試験8時間後のクラックの有無を検査した。
【0043】
【表5】

【0044】
表5に示されるように、実施例4−1〜実施例4−5のいずれのケイ素鋼板用塗料組成物についても、クラックの無い厚み5.0μm以下の良好な塗膜が得られている。また、実施例4−1のケイ素鋼板用塗料組成物について、塗膜の各種特性試験を行った結果、実施例1−1と同様に良好な結果が得られた。さらに、JIS K 6911に準じて塗膜の表面固有抵抗を測定したところ、7×108 Ωという良好な結果が得られた。
【0045】
これによって、本実施の形態4にかかるケイ素鋼板用塗料組成物(実施例4−1)及びその変形例(実施例4−2〜実施例4−5)のいずれにおいても、厚み0.35mmのケイ素鋼板に極めて薄く均一で強固な欠陥の無い絶縁塗膜を形成することができ、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに(占積率=98.9%〜99.3%)渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができる。
【0046】
実施の形態5
次に、本発明の実施の形態5にかかるケイ素鋼板用塗料組成物について、その製造方法、塗布方法、乾燥方法、及び試験結果について説明する。ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム100重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム9重量部及びリン酸亜鉛6重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト70重量部及びウレキサイト40重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク3重量部を、水150重量部とともにボールミルで5時間粉砕混合して、本実施の形態5にかかるケイ素鋼板用塗料組成物を得た。
【0047】
これを、厚み0.35mmのケイ素鋼板にディップ塗装し、200℃の熱風で25分間乾燥して、厚み2.0μmの塗膜を得た。このケイ素鋼板用塗料組成物を実施例5−1として、他の配合例実施例5−2〜実施例5−5とともに、表6にまとめて示す。なお、クラック検査は、耐煮沸試験8時間後のクラックの有無を検査した。
【0048】
【表6】

【0049】
表6に示されるように、実施例5−1〜実施例5−5のいずれのケイ素鋼板用塗料組成物についても、クラックの無い厚み5.0μm以下の良好な塗膜が得られている。また、実施例5−1のケイ素鋼板用塗料組成物について、塗膜の各種特性試験を行った結果、実施例1−1と同様に良好な結果が得られた。さらに、JIS K 6911に準じて塗膜の表面固有抵抗を測定したところ、7×108 Ωという良好な結果が得られた。
【0050】
これによって、本実施の形態5にかかるケイ素鋼板用塗料組成物(実施例5−1)及びその変形例(実施例5−2〜実施例5−5)のいずれにおいても、厚み0.35mmのケイ素鋼板に極めて薄く均一で強固な欠陥の無い絶縁塗膜を形成することができ、ケイ素鋼板積層鉄心において占積率を殆ど低下させることなしに(占積率=98.6%〜99.4%)渦電流損失を低減して鉄損を小さくできるとともに、安価に鉄心を形成することができる。
【0051】
上記各実施の形態においては、ケイ素鋼板として厚さ0.35mmの鉄心用の標準とされているケイ素鋼板を用いた例について示したが、これに限られるものではなく、これより厚いケイ素鋼板やこれより薄いケイ素鋼板を用いることもできる。
【0052】
本発明を実施するに際しては、ケイ素鋼板用塗料組成物のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)を主成分とした天然ガラス及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分とした天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合し、
ケイ素鋼板に膜厚約5μm以下で塗布されることを特徴とするケイ素鋼板用塗料組成物。
【請求項2】
前記ケイ酸アルカリ100重量部に、前記ケイ酸カルシウム及び/または前記リン酸亜鉛を合計約5重量部〜約20重量部添加し、前記コレマナイトを主成分とした鱗片状天然ガラス及び/または前記ウレキサイトを主成分とした鱗片状天然ガラスを合計約20重量部〜約80重量部混合したことを特徴とする請求項1に記載のケイ素鋼板用塗料組成物。
【請求項3】
厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを前記ケイ酸アルカリ100重量部に対して約1重量部〜約20重量部配合したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のケイ素鋼板用塗料組成物。
【請求項4】
前記ケイ素鋼板表面に膜厚約0.5μm〜約2μmの範囲内で塗布されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のケイ素鋼板用塗料組成物。

【公開番号】特開2007−314592(P2007−314592A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142392(P2006−142392)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(505297910)有限会社ペイントスタッフ (3)
【Fターム(参考)】