説明

ケイ酸エステルの加水分解抑制方法

【課題】家庭での洗濯工程において、脱水後から繊維製品が乾燥するまでの間における、湿潤状態にある繊維製品上でのケイ酸エステルの加水分解を抑制する方法の提供。
【解決手段】ケイ酸エステルと下記(b)成分を共存させることで、湿潤状態にある繊維製品上におけるケイ酸エステルの加水分解を抑制するための(b)成分の使用方法。
(b)成分:下記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤
(R44-p−N+−(R5−OCO−R6p- (2)
〔式中、R4は置換基としてヒドロキシ基を有していても良い炭素数1〜3の炭化水素基であるが、pが2の時はヒドロキシ基を有する炭素数1〜3の炭化水素基を少なくとも一つ含み、R5は炭素数1〜3の2価の炭化水素基、R6は炭素数15〜21の飽和炭化水素基、pは2又は3の数、X-は陰イオン基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸エステルの加水分解抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣料やタオルなどの繊維製品の香りに対する意識の高まりから、これら繊維製品を着用する時あるいは使用する時まで良い香りを楽しみたいという要望があり、持続性のある香りを繊維製品に付与する技術が求められている。しかし、爽やかな香りや華やかな香りを発する香料の揮発性は高く、これら香料を柔軟剤等の繊維製品処理剤に配合したとしても、繊維製品から香る爽やかな香りや華やかな香りを着用・使用時まで持続させることは困難であった。
【0003】
香り立ちに優れ、繊維製品に残りにくい爽やかな香りや華やかな香りを繊維製品に付与し、且つ香りを持続させる技術として、特許文献1及び特許文献2には、ケイ酸エステルを含有する繊維製品処理剤組成物が開示されている。かかる技術では、繊維製品に付着したケイ酸エステルが繊維製品上で徐々に加水分解し香料アルコールを徐放することで、長期に亘り繊維製品から所望の香りが発せられることを意図したものである。また特許文献3には、繊維製品処理剤組成物中におけるケイ酸エステルの加水分解を抑制し、残香性を更に高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−59498号公報
【特許文献2】特開2010−159518号公報
【特許文献3】特開2010−144310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示される技術では、ケイ酸エステルを含有する繊維製品処理剤組成物を、洗濯機を用いた洗濯工程の濯ぎ段階で濯ぎ水中に投入し、柔軟剤成分と共にケイ酸エステルを繊維製品に吸着させ、脱水し乾燥させている(実施例参照)。しかしながら、意外にも、前記脱水工程から乾燥に至るまでの湿潤状態にある繊維製品上において、ケイ酸エステルの加水分解が進行し、乾燥直後の時点でケイ酸エステルの量が減少していることが判明した。このような洗濯処理後(脱水後)から繊維製品が乾燥するまでの過程におけるケイ酸エステルの加水分解についての課題は、特許文献3においても見出されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、家庭での洗濯工程において、脱水後から繊維製品が乾燥するまでの間における、湿潤状態にある繊維製品上でのケイ酸エステルの加水分解を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題につき鋭意検討した結果、本発明者は、湿潤状態にある繊維製品上で、ケイ酸エステルと、特定の構造を有する陽イオン界面活性剤とを共存させることで、前記の課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記(a)成分及び(b)成分を共存させることで、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制するための(b)成分の使用方法を提供する。
(a)成分:下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル
【0009】
【化1】

【0010】
〔式中、Xは−OH、−R1、−OR2又は−OR3であり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1は置換基としてフェニル基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数1〜22の炭化水素基、R2は炭素数6〜22の香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3は炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは平均値を示す0〜15の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2を少なくとも1つ有する。〕
(b)成分:下記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤
(R44-p−N+−(R5−OCO−R6p- (2)
〔式中、R4は置換基としてヒドロキシ基を有していても良い炭素数1〜3の炭化水素基であるが、pが2の時はヒドロキシ基を有する炭素数1〜3の炭化水素基を少なくとも一つ含む。R5は炭素数1〜3の2価の炭化水素基、R6は炭素数15〜21の飽和炭化水素基、pは2又は3の数、X-は陰イオン基を示す。〕
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、洗濯処理後(脱水後)から乾燥するまでの、湿潤状態にある繊維製品上におけるケイ酸エステルの加水分解を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<(a)成分>
本発明の(a)成分は、下記一般式(1)で表されるケイ酸エステルである。
【0013】
【化2】

【0014】
〔式中、Xは−OH、−R1、−OR2又は−OR3であり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1は置換基としてフェニル基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数1〜22の炭化水素基、R2は炭素数6〜22の香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3は炭素数1〜5の炭化水素基又は又はベンジル基、nは平均値を示す0〜15の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2を少なくとも1つ有する。〕
【0015】
1は置換基としてフェニル基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基を示すが、本願の効果をより享受できる点において、置換基としてフェニル基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましい。nが0の場合には、炭素数1〜8の炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基又はベンジル基が更に好ましい。また、nが1〜15の場合には、メチル基又はベンジル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0016】
2は炭素数6〜22の香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基である。具体的な香料アルコールとしては、「香料と調香の基礎知識」(産業図書株式会社、中島基貴編著、2005年4月20日第4刷)に記載される、脂肪族アルコール、芳香族アルコール又は脂環式アルコールの化合物が挙げられる。本発明に用いられる香料アルコールとしては、湿潤状態にある繊維製品上での加水分解抑制効果をより享受できる点で、logPowが1〜5のものが好ましく、より好ましくは1.2〜4.5、特に好ましくは2〜4のものが好適である。
【0017】
湿潤状態にある繊維製品上での加水分解抑制効果をより享受できる点で、下記i)〜iii)から選ばれる香料アルコールが好ましい。
i)logPが1〜5の脂肪族アルコール
具体的には、シス−3−へキセノール(1.4)、ゲラニオール(2.8)、ネロール(2.8)、2,6−ジメチル−2−ヘプタノール(3.0)、メントール(3.2)、シトロネロール(3.3)、ロジノール(3.3)、9−デセノール(3.5)、テトラヒドロリナロール(3.5)、テトラヒドロゲラニオール(3.7)、4−メチル−3−デセン−5−オール(3.7)、テトラヒドロゲラニオール(3.7)等が挙げられる。ここで、( )内は、(logPow値)である。
【0018】
ii)logPが1〜5の芳香族アルコール
具体的には、アニスアルコール(1.0)、フェニルエチルアルコール(1.2)、オイゲノール(2.4)、イソオイゲノール(2.6)、ジメチルベンジルカルビノール(3.0)、フェニルエチルメチルエチルカルビノール(3.0)、3−メチル−5−フェニルペンタノール(3.2)、チモール(3.4)等が挙げられる。
【0019】
iii)logPが1〜5の、飽和又は不飽和の環式アルコール
具体的には、p−tert−ブチルシクロヘキサノール(3.1)、o−tert−ブチルシクロヘキサノール(3.1)、l−メントール(3.2)、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール(3.3)、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール(3.6)、サンタロール(3.9)、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール(3.9)ベチベロール(4.2)等が挙げられる。
【0020】
3基は炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基を示すが、炭素数1〜3の炭化水素基又はベンジル基が好ましく、メチル基、エチル基、又はベンジル基が更に好ましく、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
【0021】
一般式(1)において、nが0の場合には、4個のXのうち2〜4個、好ましくは3又は4個が−OR2であり、残りが−R1又は−OR3である化合物が好適である。
【0022】
n=0の場合の好ましい化合物としては、下記式(1−1)又は(1−2)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
〔式中、R1及びR2は前記と同じ意味を示す。〕
【0025】
一般式(1)において、nが1〜15の場合には、nは平均値を示し、全てのX及びYに対して、1/10以上、好ましくは1/8以上が−OR2であり、残りが−R1又は−OR3である化合物が好適であり、全てのX及びYが−OR2である化合物が特に好ましい。nとしては、1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0026】
nが1〜15の場合の好ましい化合物としては、下記式(1−3)又は(1−4)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
〔式中、R1及びR2は前記と同じ意味を示す。mは1〜15の数を示し、Tは、−R1、−OR2又は−OR3示す。〕
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、特許文献1や特許文献3などに記載されている方法で合成することができる。
【0030】
<(b)成分>
本発明の(b)成分は、下記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤である。
【0031】
(R44-p−N+−(R5−OCO−R6p- (2)
〔式中、R4は置換基としてヒドロキシ基を有していても良い炭素数1〜3の炭化水素基であるが、pが2の時はヒドロキシ基を有する炭素数1〜3の炭化水素基を少なくとも一つ含み、R5は炭素数1〜3の2価の炭化水素基、R6は炭素数15〜21の飽和炭化水素基、pは2又は3の数、X-は陰イオン基を示す。〕
【0032】
一般式(2)において、R4は置換基としてヒドロキシ基を有していても良い炭素数1〜3の炭化水素基を示すが、pが2の時はヒドロキシ基を有する炭素数1〜3の炭化水素基を少なくとも一つ含む。本発明の効果をより享受できる点で、pが2の場合には、一般式(2)において、2個のR4の一つは、炭素数1〜3のアルキル基であり、他方は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基が好ましく、pが3の場合には、一般式(2)において、一つのR4は、炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0033】
5は炭素数1〜3の2価の炭化水素基を示すが、製造容易性の観点から、好ましくは炭素数1〜3のアルキレン基、更に好ましくはエチレン基又はプロピレン基である。
【0034】
湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制するにあたり、R6が炭素数15〜21の飽和炭化水素基であることが重要である。(a)成分の加水分解を高いレベルにて抑制する観点から、(a)成分と共存する全ての(b)成分のR6が炭素数15〜21の飽和炭化水素基であることが好ましい。R6は、炭素数15〜21の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、炭素数15〜21の直鎖アルキル基が特に好ましい。
【0035】
また、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制する観点から、(b)成分中の全てのR6基中、炭素数17以上の直鎖アルキル基の割合が60〜100質量%であることが好ましく、65〜100質量%であることがより好ましく、75〜100質量%であることが更に好ましく、85〜100質量%であることが特に好ましい。
【0036】
pは2又は3の数を示すが、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制する観点から、pは2であることが特に好ましい。
【0037】
-の陰イオン基としては、特に制限されるものではないが、硫酸エステルイオン又はハロゲンイオンが挙げられる。硫酸エステルイオンとしては、炭素数1〜3の硫酸エステルイオンが好ましく、具体例としてはメチル硫酸イオンやエチル硫酸イオンが挙げられる。ハロゲンイオンの具体例としては、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンが挙げられる。
【0038】
(a)成分の加水分解を抑制する観点から、(b)成分は、トリエタノールアミンと、炭素数16〜22の飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸低級アルキル(アルキル基の炭素数1〜3)エステル(b2)とのエステル化反応、又はエステル交換反応により得られたアミン化合物(b3)を、アルキル化剤を用いて更に4級化させることで製造することが好ましい。
【0039】
(b)成分の製造に用いられる上記(b2)成分に関しては、種々の炭素数範囲を有する飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸低級アルキルエステルを得るために、通常油脂便覧等で知られているような脂肪酸を用い、不飽和結合への水素添加反応、及び蒸留操作、ボトムカット、トップカットによるアルキル鎖長の調整、あるいは複数の飽和脂肪酸の混合により得ることができる。
【0040】
(b2)成分の原料としては牛脂脂肪酸、パーム脂肪酸などに代表される動植物由来の脂肪酸又は脂肪酸低級アルキルエステルを水素添加し、不飽和結合を無くした脂肪酸又は脂肪酸低級アルキルエステルを好適に用いることができるが、種々のアルキル組成を有する飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸低級アルキルエステルを混合して用いることもできる。
【0041】
(b2)成分としては、炭素数16〜22、好ましくは炭素数18〜22の飽和脂肪酸又はその低級アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜3)が好適であり、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0042】
エステル化反応又はエステル交換反応において、トリエタノールアミンのヒドロキシ基の合計モル数と、飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸低級アルキルエステル(b2)とのモル比、(b1)/(b2)は、好ましくは1/0.5〜1/1であり、より好ましくは1/0.5〜1/0.98、更に好ましくは1/0.54〜1/0.95である。
【0043】
(b)成分の製造に用いられるアルキル化剤としては、特に制限されるものではないが、アルキルハライドやジアルキル硫酸が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルハライド、又はアルキル基炭素数1〜3のジアルキル硫酸が好ましく用いられる。アルキル化剤としてアルキルハライドを用いる場合には、特に溶媒を使用する必要はないが、溶媒を使用する場合は、エタノールやイソプロパノールなどの溶媒を、アミン化合物(b3)に対して10〜50質量%程度混合した溶液をオートクレーブなどの加圧反応器に仕込み、密封下30〜120℃の反応温度でメチルクロリドを圧入させて反応させることが好適である。
【0044】
アルキル化剤としてジアルキル硫酸を用いる場合には、特に溶媒を使用する必要はないが、溶媒を使用する場合、エタノールやイソプロパノールなどの溶媒をアミン化合物(b3)に対して10〜50質量%程度混合した溶液に、ジアルキル硫酸を滴下して行う。ジアルキル硫酸とアミン化合物(b3)とのモル比は、アミン化合物(b3)のアミノ基1当量に対してジアルキル硫酸を0.85〜1.1倍当量用いることが好ましい。
【0045】
<(a)成分の加水分解を抑制するための(b)成分の使用方法>
本発明は、洗濯処理後(脱水後)から乾燥するまでの間の、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制するために(b)成分を使用する方法に関する。当該方法は、水で湿潤した繊維製品上において、上記(a)成分及び(b)成分を共存させることを特徴とする。
【0046】
ここで、本発明において、用語「乾燥した(している)」とは、23℃、45%RHの環境下で、繊維製品の質量が経時で変化しない状態にあることをいう。また、用語「湿潤状態にある」若しくは「湿潤した(している)」は、下記の状態1から状態2までの間と定義する。状態1とは、23℃、45%RHの環境下で質量が経時で変化しない状態にある繊維製品の質量(即ち、「乾燥した」繊維製品の質量)に対して、水が20質量%を超え150質量%以下の量にて繊維製品に付着している状態を言い、洗濯処理直後(脱水直後)の状態を表す。状態2とは、前記、洗濯処理直後(脱水直後)から経時(15分間隔)で繊維製品の質量を測定した時に、前回測定時(15分前)から測定時(t時)までの、繊維製品の質量の減少量が2質量%以下になった時点(t時)を言う。
【0047】
湿潤状態にある繊維製品上で(a)成分と(b)成分を共存させる方法としては、特に制限されるものではないが、i)(a)成分と(b)成分を別々に繊維製品に付着させ、湿潤状態にある繊維製品上で両成分を共存させる方法や、ii)(a)成分と(b)成分を含有してなる組成物を繊維製品に付着させ、湿潤状態にある繊維製品上で両成分を共存させる方法が挙げられる。ここで、上記i)の方法に関しては、(a)成分の加水分解を効果的に抑制する観点から、(a)成分よりも先に(b)成分を繊維製品に付着させることが好適である。
【0048】
より具体的には、以下の方法1〜3が挙げられる。
【0049】
方法1:(a)成分と(b)成分を含有してなる組成物〔以下、組成物1という〕を調製し、かかる組成物を、洗濯工程における濯ぎ段階で濯ぎ水に添加して、(a)成分と(b)成分を繊維製品上に付着させる方法
【0050】
かかる方法1においては、濯ぎ段階の浴比(水/繊維製品の質量比)は3〜50であることが好ましく、20〜30が更に好ましい。また、(a)成分及び(b)成分を含有してなる組成物を濯ぎ水に添加した後、脱水操作までの時間は、特に制限されるものではないが、1〜30分間が好ましく、2〜10分間が更に好ましい。このとき、撹拌操作を加えることで(a)成分及び(b)成分の繊維製品への吸着を促進してもよい。
【0051】
方法1において、濯ぎ水に添加する組成物1中の(a)成分の含有量は0.1〜6質量%であってよく、好ましくは0.2〜5質量%、更に好ましくは0.3〜2質量%である。組成物1中の(b)成分の含有量は、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制する観点から、6〜50質量%であることが好ましく、8〜30質量%が更に好ましい。方法1にて用いられる組成物1は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(a)成分及び(b)成分の他、非イオン性界面活性剤、塩酸、塩化カルシウム等の、繊維製品処理剤組成物に通常用いられる任意成分を含有することができる。(a)成分、(b)成分及び上記任意成分以外の成分は、水又は炭素数1〜6のアルコールから選ばれる溶媒とし得る。
【0052】
方法2:(b)成分を含有してなる組成物〔以下、組成物2−1という〕を調製し、かかる組成物2−1を、洗濯工程における濯ぎ段階で濯ぎ水に添加して、(b)成分を繊維製品上に付着させるのと同時に又はその後で、(a)成分を含有してなる組成物〔以下、組成物2−2という〕を繊維製品に付着させる方法
【0053】
かかる方法2において、濯ぎ段階の浴比、並びに(b)成分を含有してなる組成物2−1を濯ぎ水に添加した後、脱水操作までの時間は、それぞれ方法1において説明したものと同じ条件とし得る。
【0054】
方法2において、濯ぎ水に添加する組成物2−1中の(b)成分の含有量は1〜50質量%であり、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制する観点から、4〜30質量%であることが好ましく、8〜15質量%が更に好ましい。組成物2−1は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(b)成分の他、組成物1について述べたものと同様の任意成分や溶媒成分を含有することができる。
【0055】
方法2において、(a)成分を含有してなる組成物2−2は、濯ぎ水に組成物2−1を添加するのと同時に又はその後で、濯ぎ水に添加することができる。あるいはまた、(a)成分を含有してなる組成物2−2は、脱水操作の後の湿潤状態にある繊維製品上にスプレー法などにより付着させてもよい。組成物2−2中の(a)成分の含有量は0.1〜10質量%であってよく、好ましくは0.2〜8質量%、更に好ましくは0.3〜5質量%である。組成物2−2は、本発明の効果を阻害しない範囲において、組成物1について述べたものと同様の任意成分や溶媒成分を含有することができる。
【0056】
方法3:洗濯処理後(脱水後)の湿潤状態にある繊維製品に、(a)成分及び(b)成分を含有してなる組成物〔以下、組成物3という〕を付着させる方法
【0057】
方法3において、(a)成分及び(b)成分を含有してなる組成物3は、スプレー法などにより、湿潤状態にある繊維製品に付着させることができる。組成物3中の(a)成分の含有量は0.1〜6質量%であってよく、好ましくは0.2〜5質量%、更に好ましくは0.3〜1質量%である。組成物3中の(b)成分の含有量は、湿潤状態にある繊維製品上での(a)成分の加水分解を抑制する観点から、0.1〜5質量%であることが好ましく、1〜4質量%が更に好ましい。組成物3は、本発明の効果を阻害しない範囲において、(a)成分及び(b)成分の他、組成物1について述べたものと同様の任意成分や溶媒成分を含有することができる。
【0058】
上記1〜3の何れの方法においても、(a)成分に対する(b)成分の使用量は、湿潤状態にある繊維製品上での(a)成分の加水分解を抑制するにあたり、(a)成分/(b)成分の質量比)=1/10〜1/120であることが好ましく、より好ましくは1/11〜1/110であり、更に好ましくは1/15〜1/100であり、特に好ましくは1/20〜1/95であり、最も好ましくは1/35〜1/90である。
【実施例】
【0059】
実施例及び比較例で用いた(a)成分及び(b)成分を以下にまとめて示す。
<(a)成分>
(a−1):下記合成例1で得られたケイ酸エステル(ゲラニオール由来のケイ酸エステル、ゲラニオールのlogPは2.8)
(a−2):下記合成例2で得られたケイ酸エステル(フェニルエチルアルコール由来のケイ酸エステル、フェニルエチルアルコールのlogPは1.2)
<(b)成分>
(b−1):下記合成例3で得られた陽イオン界面活性剤(R6組成:C17飽和炭化水素基100質量%)
(b−2):下記合成例4で得られた陽イオン界面活性剤(R6組成:C17飽和炭化水素基70質量%/C15飽和炭化水素基30質量%)
(b−3):下記合成例5で得られた陽イオン界面活性剤(R6組成:C17飽和炭化水素基35質量%/C15飽和炭化水素基65質量%)
<(b’)成分:(b)成分の比較化合物>
(b’−1):下記合成例6で得られた陽イオン界面活性剤(3級アミン化合物)
(b’−2):下記合成例7で得られた化合物(R6組成:C17飽和炭化水素基70質量%/C17不飽和炭化水素基30質量%)
(b’−3):下記合成例8で得られた化合物(R6組成:C17飽和炭化水素基50質量%/C17不飽和炭化水素基50質量%)
(b’−4):下記合成例9で得られた化合物(R6組成:C17飽和炭化水素基30質量%/C17不飽和炭化水素基70質量%)
(b’−5):下記合成例10で得られた化合物(R6組成:C17飽和炭化水素基0質量%/C17不飽和炭化水素基100質量%)
(b’−6):下記合成例11で得られた化合物(R6組成:C11飽和炭化水素基55質量%/C13飽和炭化水素基45質量%)
(b’−7):下記合成例12で得られた化合物(第4級アンモニウム塩化合物)
(b’−8):下記合成例13で得られた化合物(第4級アンモニウム塩化合物)
<その他任意成分>
・非イオン性界面活性剤:ラウリルアルコールにオキシエチレンを平均19モル付加させた化合物
・エチレングリコール:特級エチレングリコール(関東化学(株)製)
・塩酸:6mol/l塩酸(6N)(関東化学(株)製)
・塩化カルシウム:和光特級(和光純薬工業(株)製)、使用する際にはイオン交換水で10質量%水溶液として用いた(表中の組成%は有効分濃度)
【0060】
合成例1:ケイ酸エステル(a−1)の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン27.08g(0.13mol)、ゲラニオール72.30g(0.47mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.485mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら110〜120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら117〜120℃でさらに4時間攪拌した。4時間後、冷却を開始し、減圧を解除した。25℃で大気圧下(1025mPa)になった後、濾過を行い、77gの黄色油状物としてケイ酸エステル(a−1)を得た。
【0061】
合成例2:ケイ酸エステル(a−2)の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン41.68g(0.20mol)、β−フェニルエチルアルコール87.98g(0.72mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.85mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら112℃〜118℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら115℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却を開始し、減圧を解除した。25℃で大気圧下(1025mPa)になった後、濾過を行い、95gの黄色油状物としてケイ酸エステル(a−2)を得た。
【0062】
合成例3:陽イオン界面活性剤(b−1)の合成
ステアリン酸(分子量284、飽和脂肪酸)202g(0.71mol)と、トリエタノールアミン54.4g(0.37mol)を混合し、180〜185℃(常圧下)で3時間反応させた後、200mmHgまで減圧し、更に3時間熟成した。その後、窒素で常圧に戻し、100℃まで冷却し脱水縮合物245gを得た。得られた縮合物の酸価(JIS K0070準拠)は0.7mgKOH/gであった。
次に、この脱水縮合物392gを70〜75℃に調温し、前記脱水縮合物のアミン価を基に、脱水縮合物のアミン当量に対して0.98当量に相当するジメチル硫酸を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、50〜55℃で更に3時間熟成し、目的の陽イオン界面活性剤(b−1)を含有する反応生成物を得た。得られた反応生成物の揮発分をJIS K0067の方法に従って測定し、エタノール含有量とした。エタノール以外の固形分の組成を下記文献記載のNMRの方法に準拠して分析した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b−1)の含有量は65質量%であった。
文献:Eilkes,A.J.,C.Jacobs,G.Walraven,J.M.Talbot, Characterization of quaternized triethanolamine esters (esterquats) by HPLC, HRCGC, and NMR, World Surfactants Congr.,4th,1996,1,389-412.
【0063】
合成例4:陽イオン界面活性剤(b−2)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ステアリン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/パルミチン酸質量比=70/30)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様の方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b−2)の含有量は68質量%であった。
【0064】
合成例5:陽イオン界面活性剤(b−3)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ステアリン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/パルミチン酸質量比=35/65)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様の方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b−2)の含有量は66質量%であった。
【0065】
合成例6:陽イオン界面活性剤(b’−1)の合成
N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−N−(3−アミノプロピル)アミン(分子量132)66g(0.5mol)と、ステアリン酸(平均分子量284)270g(0.95mol)を、定法に従って脱水縮合させた(反応温度:180〜190℃、反応圧力:150〜200Torr)。反応の進行は反応物中の未反応の脂肪酸含量を、JIS K 0070記載の試験法に従い、酸価を測定することで追跡し、酸価が5になった時点で反応を終了させた。反応終了後、反応物を70℃まで空冷し、窒素で常圧(760Torr)に戻した。得られた反応生成物中の未反応脂肪酸含量を、前記JISの試験法に従い酸価を測定することで求めた。その結果、未反応脂肪酸含有量は5質量%であった。得られた反応生成物中の残分(即ち、95質量%)が、下記式(2−1)の化合物と下記式(2−2)の化合物を(2−1)/(2−2)質量比=86/14にて含む陽イオン界面活性剤(b’−1)であった。
【0066】
【化5】


〔式中、Rはステアリン酸からカルボキシル基を除いた残基を示す。〕
【0067】
【化6】


〔式中、Rは前記と同じ意味を示す。〕
【0068】
合成例7:陽イオン界面活性剤(b’−2)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ステアリン酸とオレイン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/オレイン酸質量比=70/30)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様の方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b’−2)の含有量を上記合成例3の方法で分析した結果64質量%であった。
【0069】
合成例8:化合物(b’−3)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ステアリン酸とオレイン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/オレイン酸質量比=50/50)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様の方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b’−3)の含有量を上記合成例3の方法で分析した結果69質量%であった。
【0070】
合成例9:化合物(b’−4)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ステアリン酸とオレイン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/オレイン酸質量比=30/70)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様な方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b’−4)の含有量を上記合成例3の方法で分析した結果66質量%であった。
【0071】
合成例10:化合物(b’−5)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、オレイン酸を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様な方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b’−5)の含有量を上記合成例3の方法で分析した結果64質量%であった。
【0072】
合成例11:化合物(b’−6)の合成
上記合成例3において、ステアリン酸に代えて、ラウリン酸とミリスチン酸の混合脂肪酸(ラウリン酸/ミリスチン酸質量比=55/45)を同モル使用した以外は、前記合成例3と同様の方法で製造した。固形分中の陽イオン界面活性剤(b’−6)の含有量を上記合成例3の方法で分析した結果65質量%であった。
【0073】
合成例12:化合物(b’−7)の合成
ステアリン酸(分子量284、飽和脂肪酸)202g(0.71mol)と、N−メチルジエタノールアミン44g(0.37mol)を混合し、150〜165℃(常圧下)で3.5時間反応させた後、200mmHgまで減圧し、更に3時間熟成した。その後、窒素で常圧に戻し、100℃まで冷却し脱水縮合物230gを得た。得られた縮合物の酸価(JIS K0070準拠)は1.2mgKOH/gであった。
次に、この脱水縮合物230gを70〜75℃に調温し、前記脱水縮合物のアミン価を基に、脱水縮合物のアミン当量に対して0.98当量に相当するジメチル硫酸を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、50〜55℃で更に3時間熟成し、目的の陽イオン界面活性剤(b’−7)を含有する反応生成物を得た。得られた反応生成物の揮発分をJIS K0067の方法に従って測定し、エタノール含有量とした。エタノール以外の固形分中の未反応脂肪酸含量を、前記JISの試験法に従い酸価を測定することで求めた。その結果、未反応脂肪酸含有量は8質量%であった。固形分中の残分(即ち、92質量%)が、下記式(3−1)の化合物と下記式(3−2)の化合物を(3−1)/(3−2)質量比=89/11にて含む陽イオン界面活性剤(b’−7)であった。
・N,N−ジアルカノイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムメチルサルフェート (3−1)
〔アルカノイル基はステアリン酸由来のアルカノイル基〕
・N−アルカノイルオキシエチル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアンモニウムメチルサルフェート (3−2)
〔アルカノイル基はステアリン酸由来のアルカノイル基〕
【0074】
合成例13:陽イオン界面活性剤(b’−8)の合成
N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−N−(3−アミノプロピル)アミン(分子量132)66g(0.5mol)と、ステアリン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸/パルミチン酸質量比=60/40、平均分子量273、飽和脂肪酸)259g(0.95mol)を、定法に従って脱水縮合させた(反応温度:180〜190℃、反応圧力:150〜200Torr)。反応の進行は反応物中の未反応の脂肪酸含量を、JIS K 0070記載の試験法に従い、酸価を測定することで追跡し、酸価が5になった時点で反応を終了させた。反応終了後、反応物を70℃まで空冷し、窒素で常圧(760Torr)に戻した。
次に、この脱水縮合物を70〜75℃に調温し、前記脱水縮合物のアミン価を基に、脱水縮合物のアミン当量に対して0.98当量に相当するジメチル硫酸を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、50〜55℃で更に3時間熟成し、目的の陽イオン界面活性剤(b’−8)を含有する反応生成物を得た。得られた反応生成物の揮発分をJIS K0067の方法に従って測定し、エタノール含有量とした。エタノール以外の固形分中の未反応脂肪酸含量を、前記JISの試験法に従い酸価を測定することで求めた。その結果、未反応脂肪酸含有量は7質量%であった。固形分中の残分(即ち、93質量%)が、下記式(4−1)の化合物と下記式(4−2)の化合物を(4−1)/(4−2)質量比=80/13にて含む陽イオン界面活性剤(b’−8)であった。
【0075】
【化7】


〔式中、Rは混合脂肪酸からカルボキシル基を除いた残基を示す。〕
【0076】
【化8】


〔式中、Rは前記と同じ意味を示す。〕
【0077】
実施例1〜8及び比較例1〜10
表1に示す成分を用い、下記方法で表1に示す組成の処理剤組成物を調製した。得られた処理剤組成物を用いて下記方法で繊維製品を処理し、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解特性を下記要領で評価した。結果を表1に示す。
【0078】
<処理剤組成物の調製方法>
一枚の長さが1.5cmのタービン型羽根が3枚ついた撹拌羽根をビーカー底面より1cm上部に設置した300mLガラスビーカーに、処理剤組成物の出来上がり質量が200gになるのに必要な量の95質量%に相当するイオン交換水を入れ、ウォーターバスで70℃まで昇温した。400rpmで撹拌しながら、90℃のウォーターバスで溶融した(b)成分を投入した。投入1分後に撹拌を止め、スパチュラを用いて、十分に混合させた。その際、所定量を得るため、ビーカーの壁面や底面又は攪拌羽根に付着した(b)成分もスパチュラを用いて、きれいにかき取って内容物に加え、十分に混合させた後、再度撹拌羽根で10分間撹拌した。次に、所定量の10質量%塩化カルシウム水溶液を添加し、5分間撹拌した後、5℃のウォーターバスで30℃まで冷却した。冷却後、撹拌しながら(a)成分を添加し、更に30分間攪拌して処理剤組成物を得た。
【0079】
<処理剤組成物による繊維製品の処理方法>
(1)繊維製品の前処理
あらかじめ、木綿メリヤス1.7kg((株)色染社製、綿ニット未シル(シルケット加工されていないもの)、木綿100%)を、全自動洗濯機(National製 NA−F702P)の標準コースで2回累積洗濯(洗浄時にエマルゲン108(花王(株)製)4.7g、水量47L、洗い9分・すすぎ2回・脱水3分)後、水のみで3回累積洗濯(水量47L、洗い9分・すすぎ2回・脱水3分)を行い、23℃、45%RHの環境下で24時間乾燥させた。乾燥後、前述の処理を行った木綿メリヤスの1.7kgの内、500gに相当する量を、メタノール(和光純薬工業(株)製)とクロロホルム(和光純薬工業(株)製)の混合溶液(メタノール/クロロホルム=1:1(容量比))1リットルを用いて、ソックスレー抽出器で脱脂処理を16時間行い、23℃、45%RHの環境下で木綿メリヤスの質量が経時で変化しなくなるまで24時間乾燥させた。更に、それを1枚当たり7cm×8cmの大きさに裁断し、試験布として用いた。
【0080】
(2)試験布への処理剤組成物の処理
以下に示す実施例及び比較例において、湿潤状態にある繊維製品上で(a)成分と(b)成分(又は(b’)成分)を共存させる方法としては先に述べた「方法1」を用いた。
モデル浴として直径8cm×高さ11cmのプラカップを用いた。かかるプラカップに、20℃の水道水400gを入れ、次いで表1記載の各処理剤組成物を0.08g添加し溶解させた。そこに、上記(1)の方法で前処理した木綿メリヤス試験布を8枚1組(合計20g)で投入して5分間スターラーピースで撹拌処理した後、二槽式洗濯機(日立(株)製 PS−H35L)を用いて5分間脱水を行った。脱水後の木綿メリヤス試験布の質量に対する水の質量は約80質量%であった。
【0081】
(3)湿潤状態にある試験布上における(a)成分の加水分解率の測定
上記(2)の方法で処理した木綿メリヤス試験布を、23℃、45%RHの環境下で乾燥させ、脱水後から15分間隔で木綿メリヤス試験布の質量を測定し、前回測定時(15分前)から測定時までの、木綿メリヤス試験布の質量の減少量が2質量%以下になった時点での木綿メリヤス試験布上に存在する(a)成分の量を測定し、下記式に従って加水分解率を算出した。本願の課題を解決する目安は、加水分解率が40%以下であり、より好ましくは35%未満であり、特に好ましくは30%未満であり、最も好ましくは25%である。
【0082】
(a)成分の加水分解率(%)=100×(X−Y)/X
〔式中、X:脱水直後における(a)成分量、Y:木綿メリヤス試験布の質量の減少量が2質量%以下になった時点(4時間後)における(a)成分量〕
【0083】
木綿メリヤス試験布上の(a)成分量は、処理剤組成物で処理した木綿メリヤス試験布を、エタノール10mLを含有するNo.7スクリュー管に入れ、10分間超音波による抽出処理を行い、処理液中の(a)成分を定量することにより求めた。なお、(a)成分の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて以下の条件で測定した。
【0084】
(HPLC測定条件)
分析カラム:Lichrospher100 RP−18(e) 5μm、 250mm×4φ(逆相、関東化学(株)製)
溶離液:メタノール(高速液体クロマトグラフ用、和光純薬工業(株)製)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(測定波長:200nm)
サンプル注入量:40μL
【0085】
【表1】

【0086】
*表中の(b)成分又は(b’)成分の濃度(質量%)は、(b)成分又は(b’)成分の有効分濃度を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分及び(b)成分を共存させることで、湿潤状態にある繊維製品上における(a)成分の加水分解を抑制するための(b)成分の使用方法。
(a)成分:下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル
【化1】


〔式中、Xは−OH、−R1、−OR2又は−OR3であり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1は置換基としてフェニル基、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数1〜22の炭化水素基、R2は炭素数6〜22の香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3は炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは平均値を示す0〜15の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2を少なくとも1つ有する。〕
(b)成分:下記一般式(2)で表される陽イオン界面活性剤
(R44-p−N+−(R5−OCO−R6p- (2)
〔式中、R4は置換基としてヒドロキシ基を有していても良い炭素数1〜3の炭化水素基であるが、pが2の時はヒドロキシ基を有する炭素数1〜3の炭化水素基を少なくとも一つ含み、R5は炭素数1〜3の2価の炭化水素基、R6は炭素数15〜21の飽和炭化水素基、pは2又は3の数、X-は陰イオン基を示す。〕
【請求項2】
前記(b)成分中の全てのR6基中、炭素数17以上の直鎖アルキル基の割合が60〜100質量%である、請求項1記載の(b)成分の使用方法。
【請求項3】
(b)成分を、(a)成分/(b)成分(質量比)=1/10〜1/120にて(a)成分と共存させる、請求項1記載の(b)成分の使用方法。

【公開番号】特開2012−144812(P2012−144812A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1664(P2011−1664)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】