説明

ケイ酸エステル

【課題】水に敏感に反応して香料成分を速やかに放出するケイ酸エステルを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル。
【化1】


〔式中、mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数であり、Yの少なくとも1つは、特定の1級アルコール又は2級アルコールから水酸基を1個除いた残基であり、且つYの少なくとも1つは、一般式(I)及び(II)で表されるベンゼン環を含む特定の基である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸エステル、その製造方法、並びにそれを含む香料アルコール放出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
香料や薬剤といった機能性物質を用いる分野では、所謂、徐放技術が求められている。例えば、薬剤を用いる分野では、長期間にわたって一定の効果を持続させるために徐放技術が求められる。
【0003】
香料を用いる分野では、いわゆるトップノート、ミドルノート及びベースノートと呼ばれる、揮発性の異なる多数の香気成分を調合して、所望の芳香が創造されているが、一般的な香料から処方された調合香料は、使用中に、より揮発しやすい成分から優先的に揮散してしまうため、調合香料の香調は時間と共に変化していき、設計した芳香を長時間持続できないという欠点を有している。
【0004】
このような問題を解決すべく、香料の徐放技術に関して、特許文献1には、ケイ酸に香料アルコールを結合させたケイ酸エステルを用いる技術が開示されている。また、特許文献2には、上記ケイ酸エステルを縮合させた構造を有するポリアルコキシシロキサンが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、分子中に、logPが2.0以下の機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上、logPが2.1以上のアルコールから水酸基1個を除いた残基を1個以上有する特定構造のケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54−59498号公報
【特許文献2】特表2003−526644号公報
【特許文献3】国際公開第2009/113721号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3記載の技術は、ケイ酸エステルの加水分解物(香料アルコール)を香料成分として用いる技術であり、ケイ酸エステルが加水分解することで香りが発せられる。このようなケイ酸エステルでは、所望の香りの放出における持続性を高めるためには、より多くの香料成分をケイ酸エステルの構造中に導入することが有利である。例えば、テトラアルコキシシランや四塩化シランには、ケイ素1原子に対して最大4分子の香料アルコール残基を導入できる。しかしながら、香料アルコールとして使用できる化合物の中には、ケイ酸エステルに導入すると、香料成分の放出が全く認められない、あるいは著しく加水分解性が低下する場合あることが見出された。特に、エステル化度を100%にした、言い換えると香料アルコール残基が4分子導入されたケイ酸エステルではこのような問題が顕著となる。
【0008】
本発明の課題は、脱離しにくい化合物が結合した構造のケイ酸エステルについて、水に敏感に反応して香料成分を速やかに放出するケイ酸エステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表されるケイ酸エステルが、脱離しにくい化合物が結合した構造であっても水に敏感に反応して香料成分を速やかに放出することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル〔以下、「ケイ酸エステル(1)」ともいう〕、及び該ケイ酸エステルを含む香料アルコール放出剤を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、
mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数であり、
Yの少なくとも1つは、(Y1)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、(Y2)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)から水酸基の水素原子を1個除いた残基、及び(Y3)不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、から選ばれる基であり、且つ
Yの少なくとも1つは、下記一般式(I)で表される基及び下記一般式(II)で表される基
【0013】
【化2】

【0014】
から選ばれる基[式中、aは0〜10の数である。R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR7(R7は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)である。bは0〜10の数である。R4、R5、R6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR8(R8は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)であり、bが0のときR4、R5、R6の少なくとも1つはOR8である。]である。〕
【発明の効果】
【0015】
本発明のケイ酸エステルは、水に敏感に反応して香料成分を速やかに放出するため、使用場面を想定した香料アルコールを徐放する剤として極めて有用である。本発明は、加水分解による徐放効果が発現しにくい香料アルコールを導入した場合のケイ酸エステルの徐放効果を向上させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ケイ酸エステル(1)>
本発明のケイ酸エステルは、上記一般式(1)で表される(以下「ケイ酸エステル(1)」とも言う)。一般式(1)において、mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数であるが、水系製品中での分散安定性の観点から、0〜1が好ましく、0が特に好ましい。
【0017】
一般式(1)において、Yの少なくとも1つは、(Y1)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、(Y2)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)から水酸基の水素原子を1個除いた残基、及び(Y3)不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、から選ばれる基である。一般式(1)中のmが0の場合、水に敏感に反応して香料成分を速やかに放出させるといった観点からは、1つ又は2つがこれら(Y1)〜(Y3)から選ばれる基であることが好ましく、香りの持続性の観点からは、4つのYのうち、2つ又は3つがこれら(Y1)〜(Y3)から選ばれる基であることが好ましい。香料成分の速やかな放出と持続性との観点から、2つがこれら(Y1)〜(Y3)から選ばれる基であることが特に好ましい。
【0018】
本発明における香料アルコールとは、「合成香料 化学と商品知識 増補改訂版」(化学工業日報社,2005年発行)又は「香料と調香の基礎知識」(産業図書,第3版 2000年発行)記載の水酸基を有する香料のことを言い、2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級アルコールである香料アルコールとしては、1−ヘキサノール、cis−4−ヘキセノール、3−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、cis−6−ノネノール、9−デセノール、1−デカノール、3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オール(シトロネロール、ロジノール)、3,7−ジメチルオクタノール(テトラヒドロゲラニオール)、1−ウンデカノール、10−ウンデセノール、1−ドデカノール、6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]−2−ヘプテン−2−エタノール(ノポール)、2−シクロヘキシルエタノール、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−メタノール、4−イソプロピルシクロヘキサンメタノール(マイヨール)、3−(4−メチル−3−シクロヘキセニル)−1−ブタノール(シクロメチレンシトロネロール)、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)−プロパノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)ブタノール(ブラマノール)、2−メチル−3−〔(1,7,7−トリメチルビシクロ[2.2.1]−2−ヘプチル)オキシ〕−1−プロパノール(ボルナフィクス)、2,4,6−トリメチル−3−シクロヘキセニルメタノール(イソシクロゲラニオール)、3−フェニルプロパノール、2,2−ジメチル−3−フェニルプロパノール(ミューゲットアルコール)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロパノール(マジャントール)、3−メチル−5−フェニルペンタノール、等が挙げられる。また、2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6以上の2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)としては、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、2−ノナノール、2−ウンデカノール、6,8−ジメチル−2−ノナノール、3,7−ジメチル−7−メトキシ−2−オクタノール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール(アンバーコア)、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノール(サンダロール)、3−メチル−4−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−2−ブタノール、1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−3−ヘキサノール、3,7−ジメチル−7−メトキシオクタン−2−オール、等が挙げられる。これらのうち、シトロネロール、ロジノール、テトラヒドロゲラニオール、マイヨール、ブラマノール、ミューゲットアルコール、パンプルフルール、マジャントール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、サンダロールが好ましく、パンプルフルールが特に好ましい。
【0019】
また、不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールとしては、6−メチル−3−イソプロペニルシクロヘキサノール(ジヒドロカルベオール)、1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オール(カルベオール)、4−メチル−1−イソプロピルビシクロ[3.1.0]−3−ヘキサノール(3−ツヤノール)、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキサノール(メントール)、2−イソプロペニル−5−メチルシクロヘキサノール(イソプレゴール)、6,6−ジメチル−2−メチレンビシクロ[3.1.1]−3−ヘプタノール(ピノカルベオール)、1,3,3−トリメチルビシクロ[2.2.1]−2−ヘプタノール(フェンコール)、1,7,7−トリメチルビシクロ[2.2.1]−2−ヘプタノール(ボルネオール、イソボルネオール)、1−(3,3−ジメチルビシクロ[2.2.1]−2−ヘプチル)エタノール(カメコール)、2(3),6−ジメチル−3a,4,5,6,7,7a−ヘキサヒドロ−1H−4,7−メタノ−1H−インデン−5−オール(ジメチルサイクロモル)、デカヒドロナフタレン−2−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール(エバノール)、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)4−ペンテン−2−オール(ポリサントール)、2−メチル−1−(5−メチルビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2−イル)−1−ペンテン−3−オール、2−メチル−1−(6−メチルビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2−イル)−1−ペンテン−3−オール、4−イソプロピルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、2−tert−ブチルシクロヘキサノール、等が挙げられる。これらのうち、カルベオール、メントール、イソプレゴール、4−イソプロピルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、2−tert−ブチルシクロヘキサノールが好ましく、カルベオールが特に好ましい。
【0020】
一方、一般式(1)において、Yの少なくとも1つは、前記一般式(I)及び一般式(II)で表される基から選ばれる基である。これらの基は、対応するアルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基である。
【0021】
一般式(I)中のa及び一般式(II)中のbは、それぞれ0〜10の数を示す。本発明のケイ酸エステルの製品中における保存安定性、及び一般式(I)又は一般式(II)に対応するアルコールの入手性の観点から、a及びbは、それぞれ0〜5の数が好ましく、0〜3がより好ましく、0又は1が特に好ましい。
【0022】
一般式(I)におけるR1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR7(R7は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)であり、入手性及びニオイの観点から、それぞれ、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。一般式(II)におけるR4、R5、R6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR8(R8は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)であり、bが0のときR4、R5、R6の少なくとも1つはOR8である。入手性及びニオイの観点から、bが0超のとき、R4、R5及びR6は、それぞれ水素原子、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましく、bが0であるとき、少なくとも1つはOR8であるが、その余は、水素原子が好ましく、R8は炭素数4〜8のアルキル基、または置換していても良いフェニル基であることが好ましい。
【0023】
一般式(I)で表される基に対応するアルコールとしては、ベンジルアルコール、2−メチルベンジルアルコール、2−エチルベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、3−エチルベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール、4−エチルベンジルアルコール、4−プロピルベンジルアルコール、4−ブチルベンジルアルコール、3,5−ジメチルベンジルアルコール等のアルキル置換ベンジルアルコール類、2−メトキシベンジルアルコール、2−エトキシベンジルアルコール、3−メトキシベンジルアルコール、3−エトキシベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、4−エトキシベンジルアルコール、4−プロポキシベンジルアルコール、4−ブトキシベンジルアルコール、4−フェノキシベンジルアルコール、4−エトキシ−3−メトキシベンジルアルコール、4−ベンジルオキシベンジルアルコール等のアルコキシ又はフェノキシベンジルアルコール類、エチレングリコールモノベンジルエーテル(ベンジルオキシエタノール)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレンジリコールモノフェニルエーテル、2−(4−メチルベンジルオキシ)エタノール、等のエチレングリコールモノベンジルエーテル類、2−フェニルエチルオキシエタノール、2−〔2−(4−メトキシフェニル)エトキシ〕エタノール等のエチレングリコールモノフェニルエチルエーテル類、等が挙げられる。これらのうち、本発明のケイ酸エステルの製品中における保存安定性、及び入手性の観点からベンジルアルコール、エチレングリコールモノベンジルエーテル(ベンジルオキシエタノール)が特に好ましい。
【0024】
また、一般式(II)で表される基に対応するアルコールとしては、2−エチルフェノール、2−プロピルフェノール、2−ブチルフェノール、2−オクチルフェノール、3−ペンタデシルフェノール、4−ドデシルフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール等のアルキルフェノール類、2−エトキシフェノール、3−イソプロポキシフェノール、4−ブトキシフェノール、4−ヘキシルオキシフェノール、3−エトキシ−4−メトキシフェノール、4−フェノキシフェノール、等のアルキル又はアリールオキシフェノール類、エチレングリコールモノフェニルエーテル(フェノキシエタノール)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル、2−{4−〔1,1,3,3−テトラメチルブチル〕フェノキシ〕エトキシ}エタノール(IGEPAL CA−210)等のポリエチレングリコールモノフェニルエーテル類等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコールモノフェニルエーテル、4−ブトキシフェノールが特に好ましい。
【0025】
本発明は、一般式(1)で表されるケイ酸エステルを含有するケイ酸エステル混合物を提供できる。該混合物中、一般式(1)で表されるケイ酸エステルの含有量は、30〜100質量%、更に40〜95質量%、より更に50〜90質量%が好ましい。
【0026】
一般式(1)で表されるケイ酸エステルを含有するケイ酸エステル混合物として用いる場合、一般式(1)で表されるケイ酸エステルは、単一化合物である必要はなく、一般式(1)で表される複数種のケイ酸エステルの混合物であっても良い。
【0027】
一般式(1)中のmが0の場合、Yのうち1〜3つは一般式(I)及び(II)で表される基から選ばれる基であるが、一般式(1)で表されるケイ酸エステルが混合物である場合、一般式(I)及び(II)で表される基から選ばれる基の数は数平均で1.2〜2.8であることが好ましい。
【0028】
通常、後述のような合成方法1、2では、ケイ酸エステル(1)の混合物を含有するケイ酸エステル混合物が得られる。ケイ酸エステル(1)は、ケイ酸エステル混合物から精製、単離してもよいが、合成方法1、2で得られたケイ酸エステル混合物は、そのまま香料アルコール放出剤として用いることができる。
【0029】
本発明のケイ酸エステル(1)の原料となる2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級又は2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールを除く)、及び不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールは、それ自体は、揮発性を有し、香気を有するアルコールであるが、本発明者らは、これらを用いたケイ酸エステルは加水分解耐性が高くなりすぎて、香料アルコールの放出が著しく抑制されることを見出した。更に検討の結果、そのような脱離しにくい化合物が結合したケイ酸エステルの構造中に、一般式(I)で表される基及び/又は一般式(II)で表される基を導入することで、かかるケイ酸エステルの加水分解性が向上し、容易に香料アルコールを放出できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0030】
ケイ酸エステル(1)としては、トリベンジルオキシ−3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オキシシラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オキシ)シラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オキシ)シラン、2−フェノキシエチルオキシトリス(3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オキシ)シラン、トリベンジルオキシ−3,7−ジメチル−オクタノキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−3,7−ジメチル−オクタノキシシラン、トリス(2−フェノキシエチルオキシ)−3,7−ジメチル−オクタノキシシラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(3,7−ジメチル−オクタノキシ)シラン、トリベンジルオキシ−4−イソプロピルシクロヘキサシルメチルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−4−イソプロピルシクロヘキサシルメチルオキシシラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(4−イソプロピルシクロヘキサシルメチルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(4−イソプロピルシクロヘキサシルメチルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)ブトキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)ブトキシシラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)ブトキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)ブトキシ)シラン、トリベンジルオキシ−2,2−ジメチル−3−フェニルプロピルオキシシラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(2,2−ジメチル−3−フェニルプロピルオキシ)シラン、トリス(2−フェノキシエチルオキシ)−2,2−ジメチル−3−フェニルプロピルオキシ)ブトキシシラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2,2−ジメチル−3−フェニルプロピルオキシ)シラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(2−メチル−4−フェニルペンチルオキシ)シラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(2−メチル−4−フェニルペンチルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2−メチル−4−フェニルペンチルオキシ、トリベンジルオキシ−2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロピルオキシシラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロピルオキシ)シラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロピルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロピルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エトキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エトキシシラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エトキシ)シラン、4−n−ブトキシフェニルオキシトリス(1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エトキシ)シラン、トリベンジルオキシ−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンチルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンチルオキシシラン、トリス(2−フェノキシエチルオキシ)−3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンチルオキシシラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンチルオキシ)シラン、ジベンジルオキシビス(1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オキシ)シラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オキシ)シラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オキシ)シラン、2−フェノキシエチルオキシトリス(1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オキシ)シラン、4−n−ブトキシフェニルオキシトリス(1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オキシ)シラン、ジベンジルオキシビス(2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)シラン、ビス(2−ベンジルオキシエトキシ)ビス(2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)シラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−2−イソプロペニル−5−メチルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−イソプロペニル−5−メチルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−フェノキシエチルオキシ)−2−イソプロペニル−5−メチルシクロヘキシルオキシシラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2−イソプロペニル−5−メチルシクロヘキシルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−4−イソプロピルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−4−イソプロピルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−フェノキシエチルオキシ)−4−イソプロピルシクロヘキシルオキシシラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(4−イソプロピルシクロヘキシルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシシラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)シラン、トリベンジルオキシ−4−tert−ブチルシクロヘキシルオキシシラン、トリス(2−ベンジルオキシエトキシ)−4−tert−ブチルシクロヘキシルオキシシラン、ビス(2−フェノキシエチルオキシ)ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)シラン、ビス(4−n−ブトキシフェニルオキシ)ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)シランが、入手性及びニオイの観点から好ましい。
【0031】
<ケイ酸エステル(1)の製造方法>
本発明のケイ酸エステル(1)は、下記合成方法1又は2により製造することができる。
【0032】
合成方法1:下記一般式(2)で表される原料ケイ酸エステルに、塩基又は酸共存下、(Y−A)一般式(3)又は(4)で表される芳香環を有するアルコールと、(Y−B)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級もしくは2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)又は不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールと、を反応させる方法。
【0033】
Si(OR94 (2)
〔式中、R9は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。〕
【0034】
【化3】

【0035】
[式中、aは0〜10の数である。R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR7(R7は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)である。bは0〜10の数である。R4、R5、R6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR8(R8は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)であり、bが0のときR4、R5、R6の少なくとも1つはOR8である。]
【0036】
合成方法2:下記一般式(5)で表される原料ハロゲン化シランに、塩基共存下、(Y−A)上記一般式(3)又は(4)で表される芳香環を有するアルコール〔以下、まとめて芳香環を有するアルコール(Y−A)という〕と、(Y−B)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級もしくは2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)又は不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコール〔以下、まとめて香料アルコール(Y−B)という〕と、を反応させる方法。
SiX4 (5)
〔式中、Xはハロゲン原子を示す。〕
【0037】
上記2つの合成方法のうち、塩の生成がなく、または生成しても微量であり、生成物の精製負荷が小さいことから、合成方法1が特に好ましい。
【0038】
以下、合成方法1について、詳しく説明する。
【0039】
一般式(2)で表される原料ケイ酸エステルの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラプロポキシシランが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、入手容易性の観点から、テトラエトキシシランが好ましい。
【0040】
一般式(3)、(4)で表される芳香環を有するアルコール(Y−A)について好ましい態様は、一般式(1)における好ましい態様と同じである。
【0041】
上記芳香環を有するアルコール(Y−A)及び香料アルコール(Y−B)は、それぞれ2種以上を用いてもよい。
【0042】
合成に用いる芳香環を有するアルコール(Y−A)及び香料アルコール(Y−B)の量は、得られるケイ酸エステル(1)の置換基の組成に影響を与え、ひいてはケイ酸エステル(1)の性能に影響を与える。本発明において、これら芳香環を有するアルコール(Y−A)及び香料アルコール(Y−B)の使用量に関しては、得られるケイ酸エステル(1)の水系製品中での分散安定性並びに単位量当たりの香料アルコール放出量の観点から、芳香環を有するアルコール(Y−A)と香料アルコール(Y−B)のモル比[芳香環を有するアルコール(Y−A)/香料アルコール(Y−B)]は好ましくは0.15〜8、より好ましくは0.3〜3.5であり、原料ケイ酸エステルに対する芳香環を有するアルコール(Y−A)と香料アルコール(Y−B)の和のモル比[(芳香環を有するアルコール(Y−A)+香料アルコール(Y−B))/原料ケイ酸エステル]は好ましくは1〜10、より好ましくは2〜5であり、さらに好ましくは3〜4である。
【0043】
合成反応時に共存させる塩基としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、及びアルカリ金属のアルコキシド等の一般的な塩基を用いることができ、原料の分解を抑制する観点から、アルカリ金属のアルコキシドが好ましく、特にアルカリ金属の炭素数1〜3のアルコキシドが好ましい。
【0044】
塩基の使用量に関しては、触媒量で十分であり、用いる原料ケイ酸エステルに対し、通常、0.00001〜0.1モル倍であり、0.0001〜0.05モル倍が好ましい。
【0045】
ケイ酸エステル(1)の合成反応においては、溶媒を用いることもできる。溶媒としては、各種エーテルや芳香族化合物などの反応に不活性な溶媒が好ましい。好ましい溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。
【0046】
合成反応(エステル交換反応)の際の反応温度は、原料ケイ酸エステル、芳香環を有するアルコール(Y−A)及び香料アルコール(Y−B)の沸点以下が好ましく、室温(20℃)〜250℃がより好ましく、50〜220℃が更に好ましく、70〜200℃が更により好ましく、90〜180℃が特に好ましい。
【0047】
エステル交換反応は、減圧下で行うと、反応を速やかに進行させることができ好ましい。減圧度は反応温度にもよるが、原料ケイ酸エステル、芳香環を有するアルコール(Y−A)及び香料アルコール(Y−B)の沸点以下で行えばよく、1.3Pa〜常圧(0.1MPa)が好ましく、130Pa〜40kPaがより好ましく、1.3kPa〜13kPaが更に好ましい。反応は反応初期から減圧下で行っても、途中から減圧下で行っても良い。
【0048】
<香料アルコール放出剤>
本発明の香料アルコール放出剤は、上記ケイ酸エステル(1)を含む。また、ケイ酸エステル(1)の他、ケイ酸エステル(1)の製造に際し副生する副生物や製造原料を含んでいても良い。
【0049】
本発明の香料アルコール放出剤はまた、ケイ酸エステル(1)以外に、シロキサンが環状に縮合した重・縮合物を含有していても良い。
【0050】
本発明の香料アルコール放出剤は、使用時における水の存在、例えば空気中の水分や汗等により、容易にかつ長期にわたり香料アルコールを徐放することができ、例えば香料持続剤として有用である。
【0051】
本発明の香料アルコール放出剤は、香料アルコールの使用時における徐放を目的として、様々な製品に配合することができる。例えば、油系消臭芳香剤、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型の消臭剤等非水溶液系製品の他、水溶液系での配合安定性にも優れる特長を活かし、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、液体洗剤・柔軟剤等の繊維処理製品、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の毛髪化粧料製品、液体入浴剤等に使用することができ、各使用態様において香料アルコールの放出を長期間持続させることができる。
【0052】
本発明のケイ酸エステル(1)は、香料アルコール放出剤として用いるだけでなく、洗浄剤組成物、柔軟剤組成物、毛髪化粧料組成物、芳香剤組成物、消臭剤組成物等に配合し、各種の組成物としても用いることもできる。
【0053】
組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は、特に限定されず、その用途に応じて種々変更することができる。洗浄剤組成物や柔軟剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0054】
芳香剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0055】
消臭剤組成物に配合する場合、組成物中のケイ酸エステル(1)の含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を示す。以下の実施例において、「%」は特に断りの無い場合は「質量%」を意味する。
【0057】
実施例の油状物はは多くの成分からなる混合物であるため、本発明のケイ酸エステル(1)の分析は、ガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)により化合物の同定を行い、ガスクロマトグラフ法(GC)により定量し、これと仕込み時に用いた原料の量から算出し行なった。GC−MSとGCの分析条件を以下に示す。
【0058】
<GC−MS分析条件>
装置:Agilent社 6890N
検出器:Agilent社製5975(イオン化法CI)
MS温度:四重極150℃、イオン源230℃
スキャン範囲:m/z75〜1000
カラム:J&W Scientific社製 DB−1HT
(15m×0.25mm×0.1μm)
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:2mL/分
注入法:スプリットレス パージ 1min後 50mL/min
注入量:0.2μL
注入口温度:300℃
【0059】
<GC分析条件>
装置:HEWLETT PACKARD 4890
検出器:FID
カラム:J&W Scientific社製 DB−1HT
(15m×0.25mm×0.1μm)
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス流量:1mL/分
注入法:スプリット(50:1)
注入量:1μL
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
【0060】
<サンプル調製法>
GC分析:サンプル30mgをアセトンなど溶解できる溶媒1mLで希釈し調製
【0061】
合成例1 油状物1の合成
100mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン22.9g(0.11mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール,International Flavors & Fragrances社製)35.3g(0.20mol)、ベンジルアルコール21.5g(0.20mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.19g(0.20mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、130℃で2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、130℃で2時間さらに攪拌した。2時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、60.9gのほぼ無色の油状物を得た(以下、「油状物1」ともいう)。GC分析の結果、油状物1は、表1に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は78.5%であった。
【0062】
【表1】

【0063】
表中、OBnはベンジルアルコールの水酸基から水素原子を除いたもの、OPampはパンプルフルールの水酸基から水素原子を除いたもの、OEtはエタノールの水酸基から水素原子を除いたものを表す(以下同様)。
【0064】
合成例2 油状物2の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン25.0g(0.12mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)38.6g(0.22mol)、2−フェニルオキシエタノール29.9g(0.22mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.23g(0.24mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、127℃で約1.5時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、130℃で1.5時間、1.3kPaまで下げさらに1時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、69.26gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物2」ともいう)。GC分析の結果、油状物2は、表2に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は79.0%であった。
【0065】
【表2】

【0066】
表中、OEtOPhは2−フェニルオキシエタノールの水酸基から水素原子を除いたものを表す(以下同様)。
【0067】
合成例3 油状物3の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8g(0.10mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)32.1g(0.18mol)、4−(n−ブトキシ)フェノール29.9g(0.18mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.55g(0.57mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、119から131℃で約1.5時間、140℃で1時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、140℃で1時間、1.3kPaまで下げさらに1時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、64.9gの黒色油状物を得た(以下、「油状物3」ともいう)。GC分析の結果、油状物3は、表3に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は83.7%であった。
【0068】
【表3】

【0069】
表中、OPhOBuは4−(n−ブトキシ)フェノールの水酸基から水素原子を除いたものを表す(以下同様)。
【0070】
合成例4 油状物4の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン25.0g(0.12mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)48.2g(0.27mol)、2−フェノキシエタノール22.4g(0.16mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をエタノールで5質量倍に希釈したもの)0.24g(0.25mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、126〜131℃で1.5時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、131℃で約1時間、1.3kPaまで下げさらに約1時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、淡黄色油状物を得た(以下、「油状物4」ともいう)。GC分析の結果、油状物4は、表4に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は74.3%であった。
【0071】
【表4】

【0072】
合成例5 油状物5の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8g(0.10mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)48.2g(0.27mol)、4−(n−ブトキシ)フェノール15.0g(0.09mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.45g(0.47mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、126℃で1時間、135℃で30分攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、135℃で1.5時間、1.3kPaまで下げさらに2.5時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、64.6gの濃茶色油状物を得た(以下、「油状物5」ともいう)。GC分析の結果、油状物5は、表5に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は68.8%であった。
【0073】
【表5】

【0074】
合成例6 油状物6の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン25.0g(0.12mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)19.3g(0.11mol)、ベンジルアルコール35.0g(0.32mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.20g(0.21mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、125℃で40分、130℃で2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、130℃で2時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、59.14gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物6」ともいう)。GC分析の結果、油状物6は、表6に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は63.6%であった。
【0075】
【表6】

【0076】
合成例7 油状物7の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン22.92g(0.11mol)、1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オール(カルベオール,SIGMA−ALDRICH社製)21.4g(0.20mol)、ベンジルアルコール30.2g(0.20mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.22g(0.23mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、130℃で30分、148℃で30分攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、150℃で1時間、160℃で1.5時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、54.8gの赤色油状物を得た(以下、「油状物7」ともいう)。GC分析の結果、油状物7は、表7に示す組成であり、本発明のケイ酸エステル(1)の合計の含有量は79.7%であった。
【0077】
【表7】

【0078】
表中、OCarはカルベオールの水酸基から水素原子を除いたものを表す。
【0079】
合成例8 油状物8の合成
100mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8g(0.10mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)64.9g(0.36mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をエタノールで5質量倍に希釈したもの)0.23g(0.24mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、130℃で約2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、133℃で約1時間、1.3kPaで1時間、更に141℃で約1時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、67.54gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物8」ともいう)。GC分析の結果、油状物8は、表8に示す組成であった。
【0080】
【表8】

【0081】
合成例9 油状物9の合成
100mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン20.8g(0.10mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)32.1g(0.18mol)、2−フェニルエタノール22.0g(0.18mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.15g(0.16mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、120℃で2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、120℃で3時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、57.0gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物9」ともいう)。GC分析の結果、油状物9は、表9に示す組成であった。
【0082】
【表9】

【0083】
表中、OEtPhは2−フェニルエタノールの水酸基から水素原子を除いたものを表す。
【0084】
合成例10 油状物10の合成
200mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン25.0g(0.12mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)38.5g(0.22mol)、cis−3−ヘキセノール21.6g(0.22mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をメタノールで5質量倍に希釈したもの)0.31g(0.32mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、110〜129℃で2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、130℃で約2.5時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、64.5gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物10」ともいう)。GC分析の結果、油状物10は、表10に示す組成であった。
【0085】
【表10】

【0086】
表中、OHexはcis−3−ヘキセノールの水酸基から水素原子を除いたものを表す。
【0087】
合成例11 油状物11の合成
100mLの四つ口フラスコに、テトラエトキシシラン31.3g(0.15mol)、2−メチル−4−フェニルペンタノール(パンプルフルール)53.5g(0.30mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬工業社製28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液をエタノールで5質量倍に希釈したもの)0.13g(0.13mmol)を入れ、窒素気流下、エタノールを留出させながら、12℃で2時間攪拌した。その後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら、130℃で3時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、68.7gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物11」ともいう)。GC分析の結果、油状物11は、表11に示す組成であった。
【0088】
【表11】

【0089】
合成例12 油状物12の合成
500mLの四つ口フラスコに、テトラクロロシラン11.9g(0.07mol)、ジクロロメタン70mlを入れ、氷浴を用いて0℃に冷却した。ここに1−メチル−4−イソプロペニル−6−シクロヘキセン−2−オール(カルベオール)42.6g(0.28mol)、ピリジン22.2g(0.28mol)をジクロロメタン115mLで溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。その後、室温に戻し4時間した後、エタノール10mLを加えた。その後、500mL分液ロートに移してイオン交換水100mLで4回水洗した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下溶媒を留去した。更に60℃、27kPaで1時間、50℃、2.7kPaで約30分、更に100℃で0.5時間、低沸物を留去し、43.43gの淡黄色油状物を得た(以下、「油状物12」ともいう)。GC分析の結果、油状物12は、表12に示す組成であった。
【0090】
【表12】

【0091】
実施例1
合成例で得られたケイ酸エステルを含む油状物(表13の組み合わせで選定した2種)と、リファレンス用油状物とを、それぞれ、鋭角となるように裁断したろ紙(匂い紙)の先端に約3mg塗布し、実験室内に室温で放置した。ここで、リファレンス用油状物は、表13の組み合わせで選定した2種のケイ酸エステルに導入された香料アルコール(Y−B)である。ケイ酸エステルを含む油状物中に当初から含まれる未反応香料アルコールの影響を除外するため、各サンプルを3日程度放置し、リファレンス用油状物を塗布したろ紙の香料アルコールの匂いがなくなったことを確認した後、パネラー5人で各サンプルの香り強弱をブラインドで評価した。結果を表13に示す。なお、この評価では、香料アルコールの匂いがなくなった後の香りは、ケイ酸エステルから放出する香料成分による香りである。
【0092】
【表13】

【0093】
表13の評価1〜6及び10の結果から明らかなように、本発明のケイ酸エステル(1)を含む油状物は、対応する香料アルコール(Y−B)残基のみが導入されたケイ酸エステルを含む油状物に比べ、香り強度が高く、このことは本発明のケイ酸エステル(1)が、香料アルコールをより放出しやすいことを示している。
【0094】
評価7〜9では、本発明のケイ酸エステル(1)の一般式(I)又は(II)で表される残基を、一般式(I)及び(II)と構造の異なるアルコール残基で置換したケイ酸エステルを含む油状物の評価を行なった。しかしこの場合は、対応する香料アルコール(Y−B)残基のみが導入されたケイ酸エステルを含む油状物との間に香り強度の差は見られなかった。これらの結果から一般式(I)又は(II)で表される構造の残基を導入することにより、香料アルコール(Y−B)がケイ酸エステルから放出され易くなったことは明らかである。
【0095】
実施例2
合成例で得られたケイ酸エステルを含む油状物と、下記表14の組成からなる未賦香液体柔軟剤Aとを混合して柔軟剤組成物を調製した。その際、合成例で得られたケイ酸エステルを含む油状物は、該油状物/未賦香液体柔軟剤A=0.5/99.5の質量比となるように用いた。
【0096】
木綿タオル24枚を、あらかじめ市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)アタック)を用いて日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、木綿タオルの過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0097】
National電気バケツN−BK2−Aに、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟剤組成物10g/衣料1.0kgとなるように各柔軟剤組成物を溶解させ処理浴を調製した。1分後、上記方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理し、次いで、2枚の木綿タオルをNational電気洗濯機NA−35に移し、3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを8つ折りにし、約20℃の室内に6日間放置した。6日間放置後のタオル(表3中、乾燥時と表記)と、この上記処理済みタオルを4つ折りにし、製品の代わりに蒸留水を入れたリセッシュ(花王(株)製品)のトリガー容器を30cmほど離して1プッシュ(水重量0.4g)することで、蒸留水で湿潤させたタオルの1分後(表3中、湿潤時と表記)について、それぞれ、香り強度専門パネラー5人により、以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。結果を表15に示す。
4:何の香りかがわかり、かつ強く感じる
3:何の香りかがわかり、かつ明らかに感じる
2:何の香りかがわかる
1:何の香りかはわからないが、かすかに何か香りがある
0:香りがない
【0098】
【表14】

【0099】
1)N−(3−アミノプロピル)−N−(2−ヒドロキシエチル)−N−メチルアミンと硬化牛脂脂肪酸を1:1.9のモル比で公知の方法に従って脱水縮合したもの
2)グリセリンと硬化牛脂脂肪酸を1:1.7のモル比で公知の方法に従って脱水縮合したもの
3)未賦香液体柔軟剤AのpHを2.2とするのに必要な量
【0100】
【表15】

【0101】
表15の油状物1〜7と油状物8〜12の結果から、本発明のケイ酸エステル(1)は、水分の影響を受けて速やかに香料アルコール(Y−B)を放出することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ酸エステル。
【化1】


〔式中、
mはシリコーンの平均重合度を示す0〜3の数であり、
Yの少なくとも1つは、(Y1)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の1級アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、(Y2)2位及び3位に不飽和結合を持たない総炭素数6〜24の2級アルコールである香料アルコール(但し環状アルコールである香料アルコールを除く)から水酸基の水素原子を1個除いた残基、及び(Y3)不飽和結合の数が0〜2であり、炭素数1〜5の炭化水素基が置換していても良い総炭素数6〜24の環状アルコールである香料アルコールから水酸基の水素原子を1個除いた残基、から選ばれる基であり、且つ
Yの少なくとも1つは、下記一般式(I)で表される基及び下記一般式(II)で表される基
【化2】


から選ばれる基[式中、aは0〜10の数である。R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR7(R7は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)である。bは0〜10の数である。R4、R5、R6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又はOR8(R8は炭素数1〜10のアルキル基、置換していても良いフェニル基)であり、bが0のときR4、R5、R6の少なくとも1つはOR8である。]である。〕
【請求項2】
請求項1記載のケイ酸エステルを含む香料アルコール放出剤。

【公開番号】特開2011−144128(P2011−144128A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5562(P2010−5562)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】