説明

ケイ酸カルシウム水和物系建材

【課題】製造コストの低減および天然資源の保全を図ることができると共に、圧縮強度が十分に高く且つ密度が十分に低いケイ酸カルシウム水和物系建材を提供すること。
【解決手段】ケイ酸カルシウム水和物系材料を成形し、オートクレーブ処理してなるケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料は、低熱ポルトランドセメントを主成分とする石灰質材料と、密度が0.6g/cm以上0.9g/cm以下のフライアッシュバルーン、およびシリカフュームを含有するケイ酸質材料と、増粘剤と、分散剤と、を含有しており、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、38質量%以上52質量%以下であり、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記シリカフュームの質量比率は、8質量%以上16質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築や土木の分野における構造物として好適に用いることができるケイ酸カルシウム水和物系建材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オートクレーブ処理を利用したケイ酸カルシウム水和物系建材が、外壁材やオートクレーブ軽量気泡コンクリート(ALC)などとして利用されている。ケイ酸カルシウム水和物系建材は、セメントなどの石灰質材料と、ケイ石微粉末などのケイ酸質材料を混合し、オートクレーブ処理(水熱反応)により、結晶性の優れたトバモライト(5CaO・6SiO・5HO)を生成させているものが多い(例えば、特許文献1)。
また、オートクレーブ処理を利用したケイ酸カルシウム水和物系建材として、フライアッシュバルーンを用いたものも提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−131488号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大塚拓、外3名、「フライアッシュバルーンを用いたケイ酸カルシウム水和物系軽量固化体の水熱合成」、「第64回セメント技術大会 講演要旨」、社団法人セメント協会、平成22年4月30日発行、p188〜189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケイ酸カルシウム水和物系建材においては、所定の圧縮強度を維持しつつ、密度をより小さくすることが要求されているが、この要求を特許文献1に記載のような建材では十分に満たすことができない。また、特許文献1に記載のような建材においては、ケイ酸質材料として、砂鉱として集積された石英を主成分とするケイ石微粉末が利用されているため、採掘、集積、運搬などのコストが多大になると共に、ケイ石の枯渇といった資源保護の問題もある。
また、非特許文献1に記載のような建材では、密度が小さい場合でも、ある程度の圧縮強度を達成することができるが、かかる圧縮強度では未だ必ずしも十分ではない。
【0006】
そこで、本発明は、製造コストの低減および天然資源の保全を図ることができると共に、圧縮強度が十分に高く且つ密度が十分に低いケイ酸カルシウム水和物系建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材は、ケイ酸カルシウム水和物系材料を成形し、オートクレーブ処理してなるケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料は、低熱ポルトランドセメントを主成分とする石灰質材料と、密度が0.6g/cm以上0.9g/cm以下のフライアッシュバルーン、およびシリカフュームを含有するケイ酸質材料と、増粘剤と、分散剤と、を含有しており、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、38質量%以上52質量%以下であり、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記シリカフュームの質量比率は、8質量%以上16質量%以下であることを特徴とするものである。
本発明においては、ケイ酸質材料としてケイ石微粉末に代えて、通常は廃棄されているフライアッシュバルーンを用いることから、製造コストや資源保全の問題を解決できる。また、フライアッシュバルーンはケイ石微粉末などの代替物質として有効に働くため、オートクレーブ処理によりフライアッシュバルーンと石灰質材料とからケイ酸カルシウム水和物が形成される。そして、このようなフライアッシュバルーンは密度が低いことから、建材の圧縮強度を維持しつつ、建材の密度をより小さくすることができる。また、フライアッシュバルーンを用いた場合は材料分離が生じやすいが、増粘剤を併用することにより、材料分離を十分に抑制することができる。
なお、過剰な量のフライアッシュバルーンを用いた場合には、材料の流動性や水熱反応のし易さの観点から、通常は、材料の水粉体比を比較的に高くする必要がある。これに対し、本発明においては、フライアッシュバルーンの他に、シリカフューム、低熱ポルトランドセメントおよび分散剤を併用することで、材料の水粉体比を低下させることが可能となり、結果として、建材の貫通細孔率を低下させ、建材の圧縮強度を向上させることができる。このメカニズムについては必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、材料中においてフライアッシュバルーンは凝集して存在し、この凝集物中に水などが包含される。本発明においては、粒子径の小さいシリカフュームが前記凝集物中に拘束され、その分だけ前記凝集物中に拘束される水(以下、拘束水という)が少なくなる。そして、拘束水以外の水は材料の流動性に寄与するために、材料の流動性を向上させることができる。また、低熱ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントと比較して、形状が球状であって流動性に寄与するC2S((CaO)・SiO)が多く、初期水和が早く流動性に悪影響を与えるC3A((CaO)・Al)が少ない。そのため、水熱反応性を確保しつつ、材料の流動性を向上させることができる。さらに、分散剤により、フライアッシュバルーンの凝集を少なくでき、拘束水を少なくできる。以上のようにして、材料中の水が少なくとも、材料の流動性や水熱反応性を確保できるものと本発明者らは推察する。
【0008】
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材においては、前記ケイ酸カルシウム水和物系建材の密度は1.0g/cm以下であることが好ましい。
本発明においては、密度が低いフライアッシュバルーンを用いることにより、建材の圧縮強度を維持しつつ、建材の密度をより小さくすることができるため、建材の密度を1.0g/cm以下とすることができる。
【0009】
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材においては、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料における水粉体比(水の質量/石灰質材料およびケイ酸質材料の合計量)は0.3以上0.45以下であることが好ましい。
本発明においては、水粉体比を上記範囲内とすることにより、ケイ酸カルシウム水和物系材料としての成形性と、得られる建材の密度および圧縮強度などの諸特性との両立を図ることができる。
【0010】
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材においては、前記オートクレーブ処理における処理温度は170℃以上185℃以下であることが好ましい。
このようにオートクレーブ処理における処理温度を上記範囲とする場合には、ケイ酸カルシウム水和物が生成されやすくなることから、上記本発明の効果をより確実に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】低熱ポルトランドセメント(LHC)およびフライアッシュバルーン(FAB)の合計量に対するフライアッシュバルーンの質量比率[FAB/(LHC+FAB)]に対する充填率の関係を示すグラフである。
【図2】水粉体比およびシリカフューム置換率に対する降伏応力の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体の細孔径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材は、以下説明するケイ酸カルシウム水和物系材料を成形し、オートクレーブ処理してなるものである。先ず、本発明に用いるケイ酸カルシウム水和物系材料について説明する。
本発明に用いるケイ酸カルシウム水和物系材料は、石灰質材料と、フライアッシュバルーン、およびシリカフュームを含有するケイ酸質材料と、増粘剤と、分散剤と、を含有しており、前記フライアッシュバルーンの質量比率は、38質量%以上52質量%以下であり、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記シリカフュームの質量比率は、8質量%以上16質量%以下であるものである。
【0013】
本発明に用いる石灰質材料は、低熱ポルトランドセメントを主成分とするものである。ここで、低熱ポルトランドセメントを主成分とするとは、石灰質材料に対する低熱ポルトランドセメントの質量比率が70質量%以上(より好ましくは、90質量%以上、特に好ましくは、100質量%)であることをいう。このような低熱ポルトランドセメントによれば、水熱反応性を確保しつつ、材料の流動性を向上させることができる。
また、前記石灰質材料は、前記低熱ポルトランドセメント以外に他の石灰質材料を含有してもよい。他の石灰質材料としては、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH))、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントが挙げられる。
【0014】
本発明に用いるケイ酸質材料としては、例えば、ケイ石微粉末、シリカフューム、籾殻灰、フライアッシュ、フライアッシュバルーンが挙げられる。
前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記ケイ酸質材料の質量比率は、特に限定されるものではないが、40質量%以上90質量%以下であることが好ましく、50質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明においては、前記ケイ酸質材料が、密度が0.6g/cm以上0.9g/cm以下のフライアッシュバルーン、およびシリカフュームを含有することが必要である。ここで、フライアッシュバルーンとは、火力発電所の微粉炭の燃焼により発生した灰分が溶けた灰白色の微粉であって、二酸化珪素(SiO)、アルミナ(Al)、酸化鉄(Fe)を主成分とし、バルーン状に形成されていて通常のフライアッシュよりも軽くなっているものをいう。
前記フライアッシュバルーンの密度は、0.6g/cm以上0.9g/cm以下であることが必要であるが、得られる建材における圧縮強度と密度とのバランスという観点から、0.7g/cm以上0.8g/cm以下であることがより好ましい。
前記フライアッシュバルーンの50%体積粒子径は、得られる建材における圧縮強度と密度とのバランスという観点から、100μm以上170μm以下であることが好ましい。なお、50%体積粒子径とは、測定対象の粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブの体積の値が50%となる点の粒子径のことをいう。50%体積粒子径は、例えば、粒度分布測定装置を用いて測定する方法や、顕微鏡写真での画像解析により求めた粒度分布から測定する方法で測定することができる。
【0016】
前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、38質量%以上52質量%以下であることが必要であり、42質量%以上48質量%以下であることがより好ましい。前記フライアッシュバルーンの質量比率が38質量%未満では、高い圧縮強度および低い密度を同時に達成している建材を得ることができず、他方、52質量%を超えると、成形性が不十分となるおそれがあると共に、得られる建材の力学的性能が不足するおそれがある。
また、前記ケイ酸質材料に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、製造コストや資源保全の観点から、55質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
さらに、前記低熱ポルトランドセメントおよび前記フライアッシュバルーンの合計量に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、充填率を高くできるという観点から、40質量%以上60質量%以下であることが好ましく、45質量%以上55質量%以下であることが特に好ましい。
【0017】
また、シリカフュームとは、フェロシリコン、電融ジルコニア、金属シリコンの製造時に発生する、50%体積粒子径が0.05μm以上0.3μm以下の範囲の球状の微粒子のことをいう。
前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記シリカフュームの質量比率は、8質量%以上16質量%以下であることが必要であり、10質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。前記シリカフュームの質量比率が8質量%未満では、材料の水粉体比を低くした場合に流動性を確保することができず、他方、16質量%を超えると、得られる建材の密度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0018】
本発明に用いる増粘剤としては、例えば、セルロース(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニールアルコールなどの水溶性高分子;アニオン系、カチオン系、ノニオン系または両性の界面活性剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの増粘剤の中でも、セルロース、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましく、スルホン基を有する芳香族化合物などのアニオン系界面活性剤とテトラアルキルアンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤とを併用することが特に好ましい。
前記増粘剤の添加量は、特に限定されないが、混練するための水100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明に用いる分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤、ポリエチレングリコール系分散剤、アルキルスルホン酸系分散剤、四級アンモニウム系分散剤、高級アルコールアルキレンオキサイド系分散剤、ポリリン酸塩系分散剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの分散剤の中でも、ポリカルボン酸系分散剤が特に好ましい。
前記分散剤の添加量は、特に限定されないが、全固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いるケイ酸カルシウム水和物系材料は、前記石灰質材料、前記ケイ酸質材料、前記分散剤および前記増粘剤を混練するために、水を含有していることが好ましい。
前記ケイ酸カルシウム水和物系材料における水粉体比(水の質量/石灰質材料およびケイ酸質材料の合計量)は、0.3以上0.45以下であることが好ましく、0.32以上0.4以下であることがより好ましい。前記水粉体比が前記下限未満では、得られる建材の密度が高くなり過ぎるおそれがあり、他方、前記上限を超えると、成形性が低下する傾向にあると共に、得られる建材の力学的性能が不足するおそれがある。
【0021】
本発明に用いるケイ酸カルシウム水和物系材料は、前記石灰質材料、前記ケイ酸質材料、前記分散剤および前記増粘剤を含有するものであるが、必要に応じて、減水剤、急硬材、各種の金属、セラミックス、有機繊維など添加物を更に含有していてもよい。また、これらの添加物を用いる場合には、その添加量は特に限定されない。
【0022】
以上、本発明に用いるケイ酸カルシウム水和物系材料について説明したが、以下、本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材について説明する。
本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材は、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料を成形し、オートクレーブ処理(水熱処理)してなるものである。
【0023】
ケイ酸カルシウム水和物系材料を成形する方法としては、ケイ酸カルシウム水和物系材料を型枠に打設する方法を採用することができる。また、打設したケイ酸カルシウム水和物系材料には、前記オートクレーブ処理を施す前に前養生処理を施すことが好ましい。前養生処理における処理温度は、20℃以上80℃以下の範囲とすることが好ましい。前養生処理における処理湿度は、90%RH以上とすることが好ましい。前養生処理における処理時間は、6時間以上30時間以下の範囲とすることが好ましい。
【0024】
オートクレーブ処理における処理温度は、170℃以上であればよく特に限定されないが、170℃以上185℃以下の範囲とすることが好ましい。温度が前記範囲内であれば、ケイ酸カルシウム水和物が形成されやすいという観点から好ましい。オートクレーブ処理における処理時間は、2.5時間以上12時間以下の範囲とすることが好ましい。なお、オートクレーブ処理とは、被処理物を飽和水蒸気圧下に曝す処理のことをいう。
【0025】
以上説明した本発明のケイ酸カルシウム水和物系建材によれば、以下の作用効果がある。すなわち、本発明においては、ケイ酸質材料としてケイ石微粉末に代えて、通常は廃棄されているフライアッシュバルーンを用いることから、製造コストや資源保全の問題を解決できる。
また、フライアッシュバルーンはケイ石微粉末などの代替物質として有効に働くため、オートクレーブ処理によりフライアッシュバルーンと石灰質材料とからケイ酸カルシウム水和物が形成される。そして、このようなフライアッシュバルーンは密度が低いことから、建材の圧縮強度を維持しつつ、建材の密度をより小さくすることができる。さらに、本発明においては、フライアッシュバルーンの他に、シリカフューム、低熱ポルトランドセメントおよび分散剤を併用することで、材料の水粉体比を低下させることが可能となり、結果として、建材の貫通細孔率を低下させ、建材の圧縮強度を向上させることができる。具体的には、本発明においては、建材の密度を1g/cm以下(より好ましくは0.55g/cm以上0.99g/cm以下の範囲、更により好ましくは0.7g/cm以上0.99g/cm以下の範囲、特に好ましくは0.9g/cm以上0.99g/cm以下の範囲)とすることができる。また、このような場合において、建材の圧縮強度を15N/mm以上(より好ましくは18N/mm以上、特に好ましくは20N/mm以上)とすることができる。
また、フライアッシュバルーンを用いた場合は材料分離が生じやすいが、増粘剤を併用することにより、材料分離を十分に抑制することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例等においては、石灰質材料およびケイ酸質材料として、低熱ポルトランドセメント(LHC)、フライアッシュバルーン(FAB)およびシリカフューム(SF)を用いている。表1に、LHCの主な鉱物組成、50%体積粒子径および密度、並びに、参考として普通ポルトランドセメント(OPC)の主な鉱物組成を示す。表2に、FABの主な鉱物組成、強熱減量(ig.loss)、50%体積粒子径および密度を示す。表3に、SFの主な化学組成および密度を示す。
また、表1中の鉱物組成において、CはCaO、SはSiO、AはAl、FはFeをそれぞれ示しており、例えば、C3Sは(CaO)・SiOを示している。50%体積粒子径は、光学顕微鏡写真での画像解析により測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
[試験例1]
ケイ酸カルシウム水和物系材料中における、低熱ポルトランドセメント(LHC)およびフライアッシュバルーン(FAB)の好適な配合比率を求めるために、LHCおよびFABの合計量に対するFABの質量比率[FAB/(LHC+FAB)]に対する充填率の関係をシミュレーションにより求めた。得られた結果を図1に示す。なお、FABを、篩にかけて粒子径が異なる3つのFABに分けたところ、粒子径が150μm以上のFABの密度は0.81g/cmであり、粒子径が90μm超150μm未満のFABの密度は0.7g/cmであり、粒子径が90μm以下のFABの密度は0.65g/cmであった。上記のシミュレーションでは、このことも加味している。
図1に示す結果からも明らかな通り、[FAB/(LHC+FAB)]の値が50質量%に近くなるほど、充填率が高くなり、例えば、[FAB/(LHC+FAB)]の値が40質量%以上60質量%以下であれば、充填率が十分に高くなることが確認された。なお、[FAB/(LHC+FAB)]の値が50質量%のときの充填率は85.9%であった。
【0031】
[試験例2]
ケイ酸カルシウム水和物系材料中における、シリカフューム(SF)の好適な配合比率を求めるために、水粉体比を0.34、0.36、0.38および0.4と変化させ、シリカフューム置換率(LHC、FABおよびSFの合計量に対するSFの質量比率)を5質量%、10質量%および15質量%と変化させた場合におけるケイ酸カルシウム水和物系材料の降伏応力を測定した。
具体的には、LHC、FAB、SF、水、増粘剤および分散剤を所定の比率で配合し、得られるケイ酸カルシウム水和物系材料の降伏応力を測定した。なお、[FAB/(LHC+FAB)]の値が50質量%になるように配合している。また、降伏応力(単位:Pa)は、応力制御型二重円筒型回転式粘度計を用いて測定した。得られた結果を図2に示す。
図2に示す結果からも明らかな通り、シリカフューム置換率が10質量%および15質量%の場合には、水粉体比が0.34〜0.4の範囲で変化しても、降伏応力が適当な範囲内となることから、材料の成形性が確保できることが確認された。これに対し、シリカフューム置換率が5質量%で、水粉体比が0.34および0.36の場合には、降伏応力が高すぎる(測定不能)ことから、成形性が不十分となることが確認された。
【0032】
[実施例1]
低熱ポルトランドセメント(LHC)45質量部と、フライアッシュバルーン(FAB)45質量部と、シリカフューム(SF)10質量部を混合し、さらに粉体比が0.4となる量の水、水の量に対して0.3質量部となる量の増粘剤(花王(株)製の高性能特殊増粘剤、主成分:アルキルアリルスルホン酸塩およびテトラアルキルアンモニウム塩)、および、全固形分100質量部に対して0.25質量部となる量のポリカルボン酸系分散剤を混合して練り混ぜて、ケイ酸カルシウム水和物系材料を得た。
得られたケイ酸カルシウム水和物系材料を、大きさ2×2×8mmの型枠に流し込んで成形し、温度20℃の湿潤条件にて48時間の前養生処理を施して成形体を得た、得られた成形体を脱枠し、その後、温度180℃の飽和水蒸気圧下にて3時間のオートクレーブ処理を施した。オートクレーブ処理後の成形体を、多量のアセトン中に30分間浸漬させ、アスピレータで30分間吸引した。そして、さらにアスピレータにより温度20℃にて24時間乾燥させ、ケイ酸カルシウム水和物系固化体を得た。
【0033】
[比較例1]
普通ポルトランドセメント(OPC)40質量部と、フライアッシュバルーン(FAB)60質量部とを混合し、さらに粉体比が0.6となる量の水、および、水の量に対して1.5質量部となる量の増粘剤(花王(株)製の高性能特殊増粘剤、主成分:アルキルアリルスルホン酸塩およびテトラアルキルアンモニウム塩)を混合して練り混ぜて、ケイ酸カルシウム水和物系材料を得た。
そして、得られたケイ酸カルシウム水和物系材料を用いた以外は実施例1と同様にしてケイ酸カルシウム水和物系固化体を得た。
【0034】
<密度および圧縮強度の測定>
実施例1〜2で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体の密度(絶乾密度)および圧縮強度を、JIS R5201に記載の方法に準拠して、測定した。得られた結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
表4に示す結果からも明らかな通り、本発明のケイ酸カルシウム水和物系(実施例1〜2で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体)においては、建材の圧縮強度を維持しつつ、建材の密度をより小さくすることができることが確認された。
【0037】
<細孔径分布の測定>
実施例1および比較例1で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体について、水銀圧入法により細孔径分布を測定した。また、貫通細孔率についても測定したところ、実施例1で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体では12.4%であり、比較例1で得られたケイ酸カルシウム水和物系固化体では19.7%であった。得られた結果を図3に示す。
図3に示す結果からも明らかな通り、ケイ酸カルシウム水和物系材料の水粉体比が低いほど、貫通細孔率も小さくなることが確認された。また、本発明のケイ酸カルシウム水和物系材料を用いれば、建材の耐久性の向上が見込めることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、建築や土木の分野における構造物として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸カルシウム水和物系材料を成形し、オートクレーブ処理してなるケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料は、低熱ポルトランドセメントを主成分とする石灰質材料と、密度が0.6g/cm以上0.9g/cm以下のフライアッシュバルーン、およびシリカフュームを含有するケイ酸質材料と、増粘剤と、分散剤と、を含有しており、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記フライアッシュバルーンの質量比率は、38質量%以上52質量%以下であり、前記石灰質材料および前記ケイ酸質材料の合計量に対する前記シリカフュームの質量比率は、8質量%以上16質量%以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム水和物系建材。
【請求項2】
請求項1に記載のケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記ケイ酸カルシウム水和物系建材の密度は1.0g/cm以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム水和物系建材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記ケイ酸カルシウム水和物系材料における水粉体比(水の質量/石灰質材料およびケイ酸質材料の合計量)は0.3以上0.45以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム水和物系建材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のケイ酸カルシウム水和物系建材において、前記オートクレーブ処理における処理温度は170℃以上185℃以下であることを特徴とするケイ酸カルシウム水和物系建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−53043(P2013−53043A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192077(P2011−192077)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人セメント協会が2011年(平成23年)4月30日に発行した、「第65回セメント技術大会 講演要旨」
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】