説明

ケイ酸カルシウム系複合セメントおよびその調製方法

【課題】リン酸カルシウム骨用セメントにおいて、良好な生体適合性、高い生体活性および卓越した結合特性を有することに加え、機械的性質を減少させずに、セラミックの脆性の問題を解決する。
【解決手段】ポリマーを含有するリン酸カルシウム骨用セメントのための組成物は、(a)カルシウム塩、(b)ケイ素化合物、(c)塑性を増すための材料、および(d)塑性を増すための材料の有無にかかわらない薬理学的に許容される溶液、を含む。塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨用セメント、特に、ポリマーおよび/またはオリゴマーを含有するケイ酸カルシウム系の骨用セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
骨形成の初期段階における重要な微量元素であるケイ素(Si)は、比較的低いカルシウム濃度ではカルシウムと共に正比例で増加し、次いで、ハイドロキシアパタイトに近づく組成で検出限界を下回る(非特許文献1)。可溶性形態のケイ素は、ヒト骨芽細胞様細胞における骨芽細胞分化およびI型コラーゲンの合成を刺激する(非特許文献2)。ケイ酸塩系材料は、前頭洞と脊椎の再構成、頭蓋骨格欠損と骨粗鬆症に対する増補、歯内治療学、および歯周骨欠損の修復への使用に期待されている。CaSiO3などのケイ酸カルシウム系セラミック(非特許文献3および4)、生体活性ガラス(非特許文献5)、およびミネラルトリオキサイドアグリゲート(MTA)(非特許文献6)は、生体活性が優れているので、整形外科および歯科外科における骨欠損の修復のための良好な生体活性材料であった。
【0003】
ゾルゲル由来のケイ酸カルシウム材料が、張出し台(bulk)または足場(scaffold)に使用するために研究されてきた。Izquierdo-Barba等は、ゾルゲル法によって80%のSiO2/20%のCaO(モル%)の組成を有する生体活性ガラスを合成した(非特許文献7)。同じ研究グループが、擬似体液中に浸したときに、SiO2が少ない(50〜70モル%)SiO2−CaOガラスについてのアパタイトの形成率が、SiO2が多い(80〜90モル%)ガラスよりも高いことを発見した(非特許文献8)。
【0004】
自己硬化性セメントは、外科医によってペースト形態で取り扱われ、骨の空洞や欠損部中に注入することができる。そのセメントは硬化して、鉱物基質を形成する。硬化時間は、臨床上最も重要な要因の1つである。硬化時間が長くなると、セメントは、この期間中に形状を維持し、応力を支えることができないので、臨床問題が生じ得る(非特許文献9)。粉末の粒径、焼結温度、液相、および組成、並びに粉末に対する液体の比率が、ペースト材料の硬化時間に重大な役割を果たす。一方で、材料が生きている骨に結合するための必要条件は、骨本体の表面上の、生体活性の指標である「骨状」アパタイト層の形成(生きている組織との化学結合を形成する能力)である。このセメントは、生理溶液に曝露されたときに、セメント表面上の「骨状」HA層の沈着を促進させなければならない。このことは、生きている組織と一体化する能力を支援するであろう。
【0005】
ゾルゲル由来のケイ酸カルシウムセメントに関して、Changと共同研究者等は、ゾルゲル法を用いて、ケイ酸二カルシウム粉末およびケイ酸三カルシウム粉末を調製した。ケイ酸二カルシウム粉末について、その粉末を水と混合して、1時間より長い初期硬化時間でケイ酸カルシウムセメントを製造することができるが、その上にアパタイトが沈着するには擬似体液中で数日かかった(非特許文献10および11)。ごく最近、本出願人等は、固相としてのゾルゲル由来のケイ酸カルシウム粉末および液相としてのリン酸アンモニウム溶液からなるケイ酸カルシウムセメントの調製を提案した。得られたセメントは、9分以内の速い硬化性、並びに高い生体活性を示しただけでなく、細胞増殖と分化も向上させた(非特許文献12)。しかしながら、要求される部位に供給することが難しい可能性があり、セラミック系セメントの脆性抵抗が比較的不十分であるために適切に緻密化することが難しい。キトサン、アルギン酸塩、およびゼラチンなどの高分子材料には、その固有の弾性のために、ケイ酸カルシウムセメントの取扱適性を改善する可能性があるはずである。
【0006】
骨と歯は、有機基質(コラーゲン)および鉱物相(ハイドロキシアパタイト)から主になる複合材料である。骨置換材料の設計をうまくいかせるには、骨の構造を正しく理解する必要がある。それゆえ、良好な生体適合性、高い生体活性および卓越した結合特性を有することに加え、天然の骨の形態学と性質に似た、生体ポリマーとケイ酸カルシウムからなるハイブリッド複合体を使用することが、機械的性質を低下させずにセラミックの脆性の問題を解決する1つの方法であろう。
【0007】
キトサンは、天然のキチンの脱アセチル化により得られる豊富にある天然に生じる多糖類であり、セルロースのグルコース残基のC2位置に遊離アミノ基を有する、多糖類の一種である(非特許文献13)。その数多くの望ましい性質、例えば、低コスト、無抗原性、化学的不活性、低い毒性、高い親水性、および膜形成特性のために(非特許文献14および15)、キトサンは、ミクロスフェア、膜、および足場などの生物医学用途にとって当然選ばれるようになってきた。Liuと同僚等は、キトサン、クエン酸および液相としてのグルコース溶液、並びに固相としてのリン酸三カルシウムからなる注射可能な骨置換材料を開発した(非特許文献16)。この材料は、混合後のペースト粘稠度のために、成形可能であった。Yokoyama等は、チューインガム状の粘稠度のために、任意の所望の形状に成形できるキトサン含有リン酸カルシウムセメントを開発した(非特許文献17)。XuおよびSimon等は、新規の移植片の骨芽細胞株および酵素アッセイとの生体適合性を試験するために、キトサンおよび水溶性マンニトールを含ませることによって、強力でマクロ孔質のCPC足場を開発した(非特許文献18)。
【0008】
ゼラチンは天然高分子であり、これは、コラーゲンの熱変性または物理化学的分解によりウシの骨から得られる。ゼラチンは、生体適合性、生分解性および非毒性のために、ヒト組織工学または薬物担体の分野における足場材料として広く用いられてきた(非特許文献19および20)。ゼラチンの利点は、異なる電荷での使用性および化学修飾の容易さである。Fujishiroと共同研究者等は、ゼラチンゲルをα−リン酸三カルシウムに付加すると、ゼラチンゲルの含有量を増加させることによりその細孔径が増加した、直径が20〜100μmの細孔を有する多孔質固体が形成されることを発見した(非特許文献21)。α−リン酸三カルシウムの圧縮強度は、ゼラチンゲルの含有量を5質量%まで増加させることにより、1週間後に9.0から14.1MPaまで増加し、その後減少した。キトサン繊維およびゼラチンの使用は、CPCの機械的性質を補強するためである(非特許文献22)。5%の質量分画のゼラチンおよび30%の体積分画のキトサン繊維が、この補強態様にとって最適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Carlisle EM, Silicon: a possible factor in bone calcification. Science 1970;167:279-280
【非特許文献2】Reffitt DM, Ogston N, Jygdaohsingh R. Orthosilicic acid stimulates collagen type I synthesis and osteoblastic differentiation in human osteoblast-like cells in vitro. Bone 2003;32:127-135.
【非特許文献3】Siriphannon P, Kameshima Y, Yasumori A, Okada K, Hayashi S. Influence of preparation conditions on the microstructure and bioactivity of α-CaSiO3 ceramics: formation of hydroxyapatite in simulated body fluid. J Biomed Mater Res 2000;52:30-39
【非特許文献4】Sarmento C, Luklinska ZB, Brown L, Anseau M, De Aza PN, De Aza S. In vitro behavior of osteoblastic cells cultured in the presence of pseudowollastonite ceramic. J Biomed Mater Res 2004;69A:351-358.
【非特許文献5】Saravanapavan P, Jones JR, Pryce RS, Hench LL. Bioactivity of gel-glass powders in the CaO-SiO2 system: A comparison with ternary (CaO-P2O5-SiO2) and quaternary glasses (SiO2-CaO-P2O5-Na2O). J Biomed Mater Res 2003;66A:110-119.
【非特許文献6】Ribeiro DA, Duarte MAH, Matsumoto MA, Marques MEA, Salvadori DMF. Biocompatibility in vitro tests of mineral trioxide aggregate and regular and white Portland cements. J Endod 2005;31:605-607.
【非特許文献7】Izquierdo-Barba I, Salinas AJ, Vallet-Regi M. In vitro calcium phosphate layer formation on sol-gel glasses of the CaO-SiO2 system. J Biomed Mater Res 1999;47:243-250.
【非特許文献8】Martinez A, Izquierdo-Barba I, Vallet-Regi M. Bioactivity of a CaO-SiO2 binary glasses system. Chem Mater 2000;12:3080-3088.
【非特許文献9】Ishikawa K, Miyamoto Y, Takechi M, Toh T, Kon M, Nagayama M, Asaoka K. Non-decay type fast-setting calcium phosphate cement:hydroxyapatite putty containing an increased amount of sodium alginate. J Biomed Mater Res 1997;36:393-399.
【非特許文献10】Zhao W, Wang J, Zhai W, Wang Z, Chang J. The self-setting properties and in vitro bioactivity of tricalcium silicate. Biomaterials 2005;26:6113-6121
【非特許文献11】Gou Z, Chang J, Zhai W, Wang J. Study on the self-setting property and the in vitro bioactivity of β-Ca2SiO4. J Biomed Mater Res 2005;73B:244-251.
【非特許文献12】Ding SJ, Shie MY, Wang CY. Novel fast-setting calcium silicate bone cements with high bioactivity and enhanced osteogenesis in vitro. J Mater Chem. DOI: 10.1039/B819033J, 2009, in press
【非特許文献13】Francis Suh JK, Matthew HWT. Application of chitosan-based polysaccharide biomaterials in cartilage tissue engineering: a review. Biomaterials 2000;21:2589-2598.
【非特許文献14】Denkbas EB, Odabasi M. Chitosan microspheres and sponges: preparation and characterization. J Appl Polym Sci 2000;76:1637-1643
【非特許文献15】VandeVord PJ, Matthew HWT, DeSilva SP, Mayton L, Wu B, Wooley PH. Evaluation of the biocompatibility of a chitosan scaffold in mice. J Biomed Mater Res 2002;59:585-590.
【非特許文献16】Liu H, Li H, Cheng W, Yang Y, Zhu M, Zhou C. Novel injectable calcium phosphate/chitosan composites for bone substitute materials. Acta Biomater 2006;2:557-565.
【非特許文献17】Yokoyama A, Yamamoto S, Kawasaki T, Kohgo T, Nakasu M. Development of calcium phosphate cement using chitosan and citric acid for bone substitute materials. Biomaterials 2002;23:1091-1101.
【非特許文献18】Hockin H.K. Xu, Carl G. Simon Jr. Fast setting calcium phosphate-chitosan scaffold: mechanical properties and biocompatibility. Biomaterials 2005;26:1337-1348.
【非特許文献19】Olsen D, Yang C, Bodo M, Chang R, Leigh S, Baez J, Carmichael D, Peraelae M, Haemaelaeinen ER, Jarvinen M, Polarek J. Recombinant collagen and gelatin for drug delivery. Adv Drug Delivery Rev 2003;55:1547-1567
【非特許文献20】Tabata Y, Hong L, Miyamoto S, Miyao M, Hashimoto N, Ikada Y. Bone formation at a rabbit skull defect by autologous bone marrow cells combined with gelatin microspheres containing TGF-β1. J Biomater Sci Polym Edn 2000;11:891-901.
【非特許文献21】Fujishiro Y, Takahashi K, Sato T. Preparation and compressive strength of α-tricalcium phosphate/gelatin gel composite cement. J Biomed Mater Res 2001;54:525-530.
【非特許文献22】Pan Z, Jiang P, Fan Q, Ma B, Cai H. Mechanical and biocompatible influences of chitosan fiber and gelatin on calcium phosphate cement. J Biomed Mater Res 2007;82B:246-252.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、機械的性質を減少させずに、セラミックの脆性の問題を解決する、ケイ酸カルシウム系骨用セメントのための組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ケイ酸カルシウム系骨用セメントを製造する方法であって、(a)カルシウム塩をケイ素化合物と混合し;(b)工程(a)の混合物をゾルゲル法で処理し;(c)工程(b)の混合物を加熱し;(d)工程(c)の混合物に、塑性を増すための材料を添加し;(e)工程(d)の混合物を粉末に粉砕し;(f)塑性を増すための材料と共にまたはこの材料はなく、粉末を水またはリン酸溶液に添加する各工程を有してなり、塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択される方法を提供する。
【0012】
本発明はさらに、(a)カルシウム塩、(b)ケイ素化合物、(c)塑性を増すための材料、および(d)薬理学的に許容される溶液を含むポリマー含有リン酸カルシウム骨用セメントのための組成物であって、塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択される組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
実施例により与えられ、本発明をここに記載された実施の形態に限定することを意図したものではない以下の詳細な説明は、添付の図面と併せると最もよく理解されるであろう。
【図1−1】異なる温度での焼結後の(A)S60C40粉末および(B)S50C50粉末に関するXRDパターン
【図1−2】異なる温度での焼結後の(C)S40C60粉末および(D)S30C70粉末に関するXRDパターン
【図2】粉末が800℃での焼結により調製され、液相が水であった、5種類のセメントに関するXRDパターン
【図3】(A)ゼラチンまたは(B)キトサンを含有する5種類のケイ酸カルシウム系セメントに関するXRDパターン
【図4】異なる量のゼラチン(GLT)を含有する5種類のケイ酸カルシウム系セメントのDTS値を示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図5】5質量%のゼラチン(GLT)を含むものと含まない5種類のケイ酸カルシウム系セメントの硬化時間値を示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図6】5質量%のゼラチン(GLT)を含むものと含まないS50C50セメントの注射可能性を示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図7−1】所定の期間に亘る擬似体液中への浸漬の前後の、5質量%のゼラチン(GLT)を含むものと含まない(A)S60C40および(B)S50C50セメント試験体のDTS値を示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図7−2】所定の期間に亘る擬似体液中への浸漬の前後の、5質量%のゼラチン(GLT)を含むものと含まない(C)S40C60および(D)S30C70セメント試験体のDTS値を示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図8】擬似体液中の1日間の浸漬後の(A)S60C40、(B)S50C50、(C)S40C60および(D)S30C70セメント試験体の表面SEM顕微鏡写真。セメント試験体を調製するために、液相として水を用いた
【図9】1時間に亘る擬似体液中への浸漬後の、(A)硬化済みS50C50セメント試験体、その(B)ゼラチンを含むもの、(C)キトサンを含むもの、および(D)ゼラチンとキトサンを含むものの表面SEM顕微鏡写真。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた。矢印は、アパタイトの沈着を示す
【図10】様々な培養期間での5質量%のゼラチン(GLT)を含むものと含まないS50C50セメント上で培養されたヒト間葉幹細胞の付着と増殖に関するWST−1アッセイを示すグラフ。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【図11】1日間の(A)硬化済みS50C50セメント試験体、その(B)ゼラチンを含むもの、(C)キトサンを含むもの、および(D)ゼラチンとキトサンを含むものの上で培養されたヒト間葉幹細胞のSEM顕微鏡写真。セメント試験体を調製するために、液相として水および5質量%のキトサン(CTS)溶液を用いた
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ケイ酸カルシウム系骨用セメントを製造する方法であって、
(a)カルシウム塩をケイ素化合物と混合し;
(b)工程(a)の混合物をゾルゲル法で処理し;
(c)工程(b)の混合物を加熱し;
(d)工程(c)の混合物に、塑性を増すための材料を添加し;
(e)工程(d)の混合物を粉末に粉砕し;
(f)塑性を増すための材料のと共にまたはこの材料はなく、粉末を水またはリン酸溶液に添加する、
各工程を有してなる方法を提供する。
【0015】
好ましい実施の形態において、塑性を増すための材料は、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択される。
【0016】
好ましい実施の形態において、ポリマーおよびオリゴマー材料は、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、キチン、セルロース、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸−グリコール酸)からなる群より選択される。固相または液相としての塑性を増すための材料は、1から50質量%の範囲の量である。塑性を増すための材料の量は、2〜30質量%であることが好ましい。
【0017】
好ましい実施の形態において、カルシウム塩は硝酸カルシウムであり、ケイ素化合物は、以下の化学式:
【化1】

【0018】
を有する前記方法によるケイ水素化物であり、ここで、R1、R2、R3またはR4はC1-6アルキルである。
【0019】
より好ましい実施の形態において、本発明の方法のケイ水素化物は、以下の化学式:
【化2】

【0020】
を有し、ここで、R1、R2、R3またはR4はC25である。
【0021】
好ましい実施の形態において、前記混合物は、10から0.1までの範囲の、カルシウムのケイ素に対するモル比を有する。より好ましい実施の形態において、その混合物は、4から0.25までの範囲のカルシウムのケイ素に対するモル比を有する。
【0022】
前記方法のゾルゲル法は、
(a)カルシウム前駆体とケイ素前駆体の混合物を、エタノールおよび硝酸からなる群より選択される希釈溶媒と1〜12時間に亘り混合し、
(b)1〜7日間に亘りこの混合物を20〜100℃の温度に配置し、
(c)この混合物を−40〜150℃で乾燥させる、
各工程を含む。
【0023】
この方法の加熱工程は、
(a)乾燥させた混合物を1〜40℃/分の速度で700〜1300℃に加熱し、
(b)その混合物を700〜1300℃の定温範囲に維持し、
(c)その混合物を、空冷、水冷または高速冷却技法によって室温まで冷却して、ケイ酸カルシウム粉末を得る、
各工程を含む。
【0024】
添加工程は、
(a)塑性を増すための材料をケイ酸カルシウム粉末に添加し、
(b)状態調節ミキサを用いて、この粉末を5〜30分間に亘り混合する、
各工程を含む。
【0025】
粉砕工程は、
(a)塑性を増すための材料を含有するケイ酸カルシウム粉末をアルコールと混合し、
(b)粉末をボールミル粉砕機で0.5〜3日間に亘り粉砕し、
(c)粉末を−40〜60℃で乾燥させる、
各工程を含む。
【0026】
好ましい実施の形態において、粉末の粒径は0.01から50マイクロメートルに及ぶ。
【0027】
好ましい実施の形態において、粉末は10〜60秒間で水に加えられ、水に対する粉末の比は、1g/0.3〜2mlである。より好ましい実施の形態において、水に対する粉末の比は、1g/0.4〜0.8mlである。
【0028】
好ましい実施の形態において、粉末は10〜60秒間でリン酸溶液に加えられ、リン酸溶液に対する粉末の比は、1g/0.3〜2mlである。最良の実施の形態において、リン酸溶液に対する粉末の比は、1g/0.4〜0.8mlである。
【0029】
好ましい実施の形態において、リン酸溶液は、0.12〜5モル濃度で、リン酸イオン(PO43-)、リン酸水素イオン(HPO42-)またはリン酸二水素イオン(H2PO4-)から選択される陰イオンを含有し、またリン酸溶液は、アンモニウム、またはIA族の元素から選択される陽イオンを含有する。
【0030】
リン酸溶液の陽イオンは、アンモニウム、ナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。
【0031】
本発明はさらに、ポリマー含有リン酸カルシウム骨用セメントのための組成物であって、
(a)カルシウム塩、
(b)ケイ素化合物、
(c)塑性を増すための材料、および
(d)薬理学的に許容される溶液、
を含み、
塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択される組成物を提供する。
【0032】
薬理学的に許容される溶液は、水、塩化ナトリウム溶液、塩化カルシウム溶液またはリン酸溶液である。
【0033】
さらに、この組成物は、整形外科手術、脊椎固定手術または歯科用途に適用できる。この組成物は、骨や歯の置換材料としての働きをすることもできる。ヒトに適用する場合、この組成物は、経口投与のための賦形剤をさらに含んで差し支えない。
【実施例】
【0034】
以下の実施例は、非限定的であり、本発明の様々な態様および特徴を単に表すものである。
【0035】
実施例1
ケイ酸カルシウム粉末の相組成
オルトケイ酸テトラエチル(Si(OC254、TEOS)および硝酸カルシウム(Ca(NO32・4H2O)を、それぞれ、SiO2およびCaOの前駆体として用い、硝酸を触媒として用いた。エタノールを溶媒として用いた。SiO2/CaOのモル比は、表1に列記されているように、7/3から3/7の範囲にある。ゾルゲル法によって、様々なケイ酸カルシウム粉末を合成した。加水分解および熟成などのゾルゲル経路の一般手法を採用した。手短に、TEOSを、1時間に亘り、2NのHNO3および無水エタノールを別々に撹拌しながら連続して添加して、加水分解した。必要量のCa(NO32・4H2Oを上記エタノール溶液に添加し、この混合溶液をさらに1時間に亘り撹拌した。(HNO3+H2O):TEOS:エタノールのモル比は、10:1:10であった。ゾル溶液を封止し、1日間に亘り60℃で熟成させた。
【0036】
120℃のオーブン内で上述した混合溶液の溶媒を蒸発させた後、乾燥したままのゲルを空気中で700、800、900、または1000℃まで加熱し2時間保持し、次いで、室温まで冷却して、様々なケイ酸カルシウム粉末を生成した。1°/分の走査速度にて、30kVおよび30mAで動作するNiフィルタを通したCuKα線を用いた島津製作所製のXD−D1 X線回折装置(XRD)を用いて、位相解析を行った。異なる焼結温度で様々な調製したままの粉末のXRDスペクトルが図1に示されている。2θで29°と35°の間の回折最大値は、ウォラストナイトおよびケイ酸二カルシウムなどのケイ酸カルシウムの異なる結晶相によると考えられる。粉末の結晶化度は、焼結温度の上昇と共に増加する。
【表1】

【0037】
実施例2
セメントの硬化時間および直径引張強度への焼結温度の影響
オルトケイ酸テトラエチル(Si(OC254、TEOS)および硝酸カルシウム(Ca(NO32・4H2O)を、それぞれ、SiO2およびCaOの前駆体として用い、硝酸を触媒として用いた。エタノールを溶媒として用いた。S70C30、S60C40、S50C50、S40C60、およびS30C70粉末を、ゾルゲル法により合成し、2時間に亘り800℃、900℃、または1000℃の異なる温度で焼結した。その後、焼結したままの粉末を、レッチェ社(Retsch)製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、0.2gの粉末を0.1mlの水または0.5MのNa2HPO4と混合した。水系セメントに関する国際規格ISO 9917−1(ISO 9917−1、歯科−水系セメント−第1部:粉液(タイプ)酸塩基(反応型)セメント、国際標準化機構、2003)にしたがって、1mmの直径を有する400gのギルモア針を用いて、セメントの硬化時間をテストした。3カ所の別個の区域において針が深さ1mmの圧痕を形成できなかったときに、硬化時間を記録した。混合後、セメント試料を円筒状のステンレス鋼製金型内に入れて、6mm(直径)×3mm(高さ)の寸法の試験体を形成し、これを1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。各群から8個の試験体をテストした。セメント試験体の直径引張テストを、0.5mm/分の荷重速度でEZ−Test試験機(島津製作所、日本国京都府所在)を用いて行った。セメント試験体の直径引張強度(DTS)値は、関係式DTS=2P/πbwから計算した。ここで、Pはピーク荷重(ニュートン)であり、bおよびwは、それぞれ、試験体の直径(mm)および厚さ(mm)である。破損時の最大圧縮荷重は、記録した荷重−たわみ曲線から得た。各群で、少なくとも20個の試験体を用いた。表1は、5種類のケイ酸カルシウムセメント試験体の硬化時間およびDTS値の結果を示している。水と混合した場合、硬化時間は、使用したケイ酸カルシウム粉末に有意に応じて、43分から11分に及んだ。カルシウム成分の濃度が増加すると、セメントの硬化時間は短くなった。6:4から4:6に及ぶSiO2/CaOモル比を有するセメント試験体は、他の2種類のセメント試験体よりも、強度が高かった。固相の調製に用いた焼結温度は、セメント試験体の硬化時間およびDTSに直接影響しなかった。一方で、液相としての0.5MのNa2HPO4は、水と同様の傾向を示した。
【0038】
実施例3
水と混合した後のセメント試験体の相組成
オルトケイ酸テトラエチル(Si(OC254、TEOS)および硝酸カルシウム(Ca(NO32・4H2O)を、それぞれ、SiO2およびCaOの前駆体として用い、硝酸を触媒として用いた。エタノールを溶媒として用いた。S70C30、S60C40、S50C50、S40C60、およびS30C70粉末を、ゾルゲル法により合成し、2時間に亘り800℃で焼結し、次いで、レッチェ社(Retsch)製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、0.4gの粉末を0.2mlの水と混合した。このセメントを1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。X線回折計(XRD)を用いて、固化済みセメント試験体の相組成を分析した。水和工程の生成物は、図2に示されるように、29.3°でのケイ酸カルシウム水和物(CaO−SiO2−H2O、C−S−H)並びに不完全に反応した無機成分相であった。
【0039】
実施例4
前駆体の影響
表2に列記したようなSiO2およびCaOの異なる前駆体を用いた。ケイ素の前駆体は、オルトケイ酸テトラエチル(Si(OC254、TEOS)、二酸化ケイ素(SiO2)、および四酢酸ケイ素(Si(CH3COO)4)であった。カルシウム前駆体は、硝酸カルシウム(Ca(NO32・4H2O)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)、および塩化カルシウム(CaCl2)であった。それぞれ、触媒および溶媒として、硝酸およびエタノールを用いた。等モルのSi/Ca比(S50C50)を有するケイ酸カルシウム粉末をゾルゲル法により合成した。加水分解および熟成などのゾルゲル経路の一般手法を採用した。60℃での熟成と120℃でのオーブン内の溶媒蒸発の後、乾燥させたままのゲルを空気中で900℃に加熱して2時間保持し、次いで、室温まで冷却して、様々なケイ酸カルシウム粉末を生成した。焼結した粉末を、レッチェ社製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、さらにボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、粉末を(NH42HPO4−NH42PO4緩衝液(pH7.4)と混合した。セメントの硬化時間は、水系セメントに関して、国際基準ISO 9917−1にしたがって1mmの直径を有する400gのギルモア針を用いてテストした。さらに、セメント試料を円筒状のステンレス鋼製金型内に入れて、6mm(直径)×3mm(高さ)の寸法の試験体を形成し、これを1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。セメント試験体の直径引張テストを、0.5mm/分の荷重速度でEZ−Test試験機(島津製作所、日本国京都府所在)を用いて行った。各群から10個の試験体をテストした。表2は、セメント試験体の硬化時間およびDTS値の結果を示している。硬化時間およびDTS値は、前駆体の種類にかなり左右された。
【表2】

【0040】
実施例5
ゼラチンおよびキトサンを含有するセメント試験体の相組成
ゾルゲル由来のS70C30、S60C40、S50C50、S40C60、およびS30C70粉末を2時間に亘り800℃で焼結した。5質量%のゼラチンを焼結粉末に加えた。次いで、ゼラチンを含む混合物と含まないものを、レッチェ社製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、0.2gの粉末を0.1mlの水または5質量%のキトサン溶液と混合した。キトサンオリゴ糖乳酸塩粉末を、キトサン/(キトサン+水)=5%の質量分率で蒸留水中に溶解させて、キトサン溶液を調製した。混合後、試験体を1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。XRDを用いて、硬化済みセメント試験体の相組成を分析した。水和工程の生成物は、図3に示されるように、ケイ酸カルシウム水和物ケイ酸カルシウム水和物(CaO−SiO2−H2O、C−S−H)ゲルであった。セメント試験体中にキトサンが存在したために、C−S−Hのピーク強度が減少した(図3B)。
【0041】
実施例6
セメントの直径引張強度および硬化時間へのゼラチンおよびキトサンの含有量の影響
ゾルゲル由来のS70C30、S60C40、S50C50、S40C60、およびS30C70粉末を2時間に亘り800℃で焼結した。5および10質量%のゼラチン(GLT)を焼結粉末に加えた。次いで、ゼラチンを含む混合物と含まないものを、レッチェ社製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、0.2gの粉末を0.1mlの水またはキトサン(CTS)溶液と混合した。キトサンオリゴ糖乳酸塩粉末を、キトサン/(キトサン+水)=5または10%の質量分率で蒸留水中に溶解させて、キトサン溶液を調製した。セメントの硬化時間を、水系セメントに関して、国際基準ISO 9917−1にしたがって1mmの直径を有する400gのギルモア針を用いてテストした。3カ所の別個の区域において針が深さ1mmの圧痕を形成できなかったときに、硬化時間を記録した。各群から8個の試験体をテストした。さらに、セメント試料を円筒状のステンレス鋼製金型内に入れて、6mm(直径)×3mm(高さ)の寸法の試験体を形成し、これを1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。セメント試験体の直径引張テストを、0.5mm/分の荷重速度でEZ−Test試験機(島津製作所、日本国京都府所在)を用いて行った。各群において、少なくとも20個の試験体を用いた。図4は、様々なセメント試験体の直径引張強度(DTS)を示している。ゼラチンまたはキトサンの添加により、セメント試験体のDTSが減少し得た。同様に、それらは、図5に示されるように、硬化時間にも影響を与えるようである。
【0042】
実施例7
セメントの注射可能性
ゾルゲル由来のS50C50粉末を2時間に亘り800℃で焼結した。5質量%のゼラチン(GLT)を焼結粉末に加えた。次いで、ゼラチンを含む混合物と含まないものを、レッチェ社製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、粉末を水または0.6ml/gの液対粉(L/P)比の5質量%のキトサン(CTS)溶液と混合した。注射可能性は、ペーストを、2.0mmの開口を有する針を備えた5mlの使捨て注射器に通して押し出すことによって評価した。適量のセメントペーストを用い、「注射可能性」は、ペーストのこの量の、手作業でそのような注射器から押し出せた割合の質量パーセントを意味するものと解釈した。セメントペーストの注射可能性は、粉末と液体の混合を開始してから2分後に決定した。図6は、ゼラチンおよびキトサンを含むS50C50セメントと含まないものの注射可能性を示している。ゼラチンとキトサンの両方が、セメント試験体の注射可能性を改善できる。
【0043】
実施例8
擬似体液中への浸漬後の様々なセメント試験体に関する直径引張強度および形態学
ゾルゲル由来のS60C40、S50C50、S40C60、およびS30C70粉末を2時間に亘り800℃で焼結した。5質量%のゼラチン(GLT)を焼結粉末に加えた。次いで、ゼラチンを含む混合物と含まないものを、レッチェ社製の遠心ボールミルS100により、12時間に亘って、エタノール媒質中に瑪瑙粉砕媒体を含んだ瑪瑙ジャーを用いて、ボールミル粉砕した。水または5質量%のキトサン(CTS)溶液と混合した後、1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した各固化済み試験体を、37℃で所定の期間に亘り生理的溶液中に浸漬して、セメントの生体活性を評価した。イオン組成がヒトの血漿のものに似ている擬似体液(SBF)を浸漬テストに用いた。SBF溶液は、1000mlの蒸留H2O中の7.9949gのNaCl、0.3528gのNaHCO3、0.2235gのKCl、0.147gのK2HPO4、0.305gのMgCl2・6H2O、0.2775gのCaCl2、0.071gのNa2SO4からなり、塩化水素酸(HCl)およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン((CH2OH)3CNH2)によりpH7.4に緩衝した。振盪水浴中の溶液は、毎日は変えなかった。異なる期間に亘るSBF中の浸漬後、試験体をバイアルから取り出し、EZ−Test試験機を用いて伸張テストを行った。各群から少なくとも12個の試験体をテストした。ほとんどの浸漬済みセメント試験体のDTSが、固化済みセメントよりも大きい値を有した(図7)。浸漬後、試験体をバイアルから取り出して、SEMを用いて形態学を観察した。図8および9は、セメント試験体が、アパタイトスフェルライトの形成を誘発し、これは生体活性を表すことを示している。
【0044】
実施例9
細胞生死判別および形態学
セメントの生体適合性は、継代4でのOsiris(ワージントン・バイオケミカル社(Worthington Biochemical)、ニュージャージー州、レイクウッド所在)から得たヒト骨髄由来の間葉幹細胞(hMSC)との培養によって評価した。ゾルゲル由来のS50C50粉末を2時間に亘り800℃で焼結した。5質量%のゼラチン(GLT)を焼結粉末に加え、12時間に亘り粉砕した。乾燥後、セメントを調製するために、粉末を水または0.5ml/gの液対粉(L/P)比の5質量%のキトサン(CTS)溶液と混合した。セメント試験体を、1日間に亘り100%の相対湿度および37℃で恒温器内に貯蔵した。細胞培養のために、1日硬化させたセメントディスクを、75%のエタノール中に浸漬し、2時間に亘り紫外線(UV)に曝露することによって、殺菌した。hMSC細胞を、24ウェル・プレート内に5×103細胞/ウェルの密度で殺菌済みS50C50セメントに接種した。細胞は、15%のウシ胎仔血清(FBS)、584mg/lのグルタミン、0.1mMのMEMピルビン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、50mg/lのアスコルビン酸、0.1mMのMEM非必須アミノ酸、および100nMのデキサメタゾン並びに10mMのβ−グリセロリン酸二ナトリウム塩水和物が補給されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなる骨形成誘発培地中で増殖させた。培養液は、異なる期間に亘り5%のCO2雰囲気中37℃で培養した。培地は3日毎に変えた。細胞増殖試薬WST−1(ロッシュ・ダイアグノスティクス社(Roche Diagnostics)、独国、マンハイム所在)を用いて、細胞の付着と増殖を評価した。これは、生きている細胞のミトコンドリアデヒドロゲナーゼによるテトラゾリウム塩(WST−1)の開裂に基づく。手短に言えば、培養を終える3時間前に、各ウェルに100μlのWST−1溶液(シグマ社(Sigma))および900μlの培地を加えた。各ウェル内の200μlの溶液を96ウェルの細胞培養プレートに移した。これらのプレートを、650nmの参照波長で、440nmでマイクロタイタ・プレート・リーダ(Bio−Rad Benchmark Plus(商標)マイクロプレート分光光度計)で読んだ。サンプルの分析結果は、4つの別々の実験から三重に得た。細胞培養プレート(TCP)上で培養したhMSCを対照として用いた。図10において、WST−1アッセイは、生存細胞数は培養期間の増加と共に増加し、良好な生体適合性を表すことを示している。キトサン含有セメント試験体は、キトサンを含まない試験体と比較して、良好な生体適合性を示す。セメント表面の細胞形態学は、走査電子顕微鏡(SEM)により調査した。試験体をリン酸緩衝液で3回洗浄し、2時間に亘り4℃で2.5%のグルタルアルデヒドで定着させた。次いで、これらのセメントを、20分間に亘りエタノール系列中において各濃度で脱水させ、一晩乾燥させた。乾燥した試験体をスタブに取り付け、金の層で被覆した。セメント表面の細胞形態学を、JEOL JSM−6700F SEMを用いて観察した。SEM画像を評価して、細胞は、セメント表面上にしっかりと固定されたようであることを確認した(図11)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含有するケイ酸カルシウム系骨用セメントを製造する方法であって、
(a)カルシウム塩をケイ素化合物と混合し;
(b)工程(a)の混合物をゾルゲル法で処理し;
(c)工程(b)の混合物を加熱し;
(d)工程(c)の混合物に、塑性を増すための材料を添加し;
(e)工程(d)の混合物を粉末に粉砕し;
(f)前記塑性を増すための材料と共にまたは該材料はなく、前記粉末を水またはリン酸溶液に添加する、
各工程を有してなり、
前記塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記カルシウム塩が、硝酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、または塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ケイ素化合物が、ケイ水素化物、二酸化ケイ素または四酢酸ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ素化合物がケイ水素化物であり、該ケイ水素化物が、以下の化学式:
【化1】

ここで、R1、R2、R3またはR4がC1-6アルキルである;
を有することを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記混合物が、10から0.1に及ぶカルシウムのケイ素に対するモル比を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記カルシウムのケイ素に対するモル比が4から0.25に及ぶことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーおよびオリゴマー材料が、固相または液相として、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、キチン、セルロース、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸−グリコール酸)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記塑性を増すための材料が、総質量に対して2〜30質量%の範囲で秤量されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記ゾルゲル法が、
(i)前記工程(a)からの混合物を、エタノールおよび硝酸からなる群より選択される希釈溶媒と1〜12時間に亘り混合し、
(ii)前記混合物を1〜7日間に亘り20〜100℃の温度に配置し、
(iii)前記混合物を−40〜150℃で乾燥させる、
各工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記加熱工程が、
(i)前記工程(b)からの混合物を1〜40℃/分の速度で700〜1300℃に加熱し、
(ii)前記混合物を700〜1300℃の定温範囲に維持し、
(iii)前記混合物を、空冷、水冷または高速冷却技法によって室温まで冷却して、ケイ酸カルシウム粉末を得る、
各工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記粉砕工程が、
(i)前記塑性を増すための材料を含有する前記ケイ酸カルシウム粉末をアルコールと混合し、
(ii)前記粉末をボールミル粉砕機で0.5〜3日間に亘り粉砕し、
(iii)前記粉末を−40〜60℃で乾燥させる、
各工程を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記粉末の水またはリン酸溶液に対する比が、1g/0.3〜2mlであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記粉末の水またはリン酸溶液に対する比が、1g/0.4〜0.8mlであることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記リン酸溶液が、リン酸イオン(PO43-)、リン酸水素イオン(HPO42-)またはリン酸二水素イオン(H2PO4-)から選択される陰イオンを含有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記リン酸溶液が、アンモニウム、またはIA族の元素から選択される陽イオンを含有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記陰イオンの濃度が0.12〜5Mであることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
ポリマーを含有するリン酸カルシウム骨用セメントのための組成物であって、
(a)カルシウム塩、
(b)ケイ素化合物、
(c)塑性を増すための材料、および
(d)薬理学的に許容される溶液、
を含み、
前記塑性を増すための材料が、官能基−NH2、−OH、−COまたは−CH3を有するポリマーおよびオリゴマー材料からなる群より選択されることを特徴とする組成物。
【請求項18】
前記薬理学的に許容される溶液が、水、塩化ナトリウム溶液、塩化カルシウム溶液またはリン酸溶液であることを特徴とする請求項17記載の組成物。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−45473(P2011−45473A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195275(P2009−195275)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(509240745)
【氏名又は名称原語表記】DING,SHINN JYH
【Fターム(参考)】