説明

ケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法

【目的】原料として用いるアミノ官能性シランに由来する反応性の高い一級アミノ基の残存量が少なく、純度の高いケチミン構造含有アルコキシシランを効率よく製造する方法を提供する。
【構成】アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物とを加熱下で反応させ、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去して、ケチミン構造含有アルコキシシランを得ることを特徴とするケチミン構造含有アルコキシシランを製造する方法において、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらにモノカルボニル化合物を導入することを特徴とするケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法、特には、原料として用いるアミノ官能性アルコキシシランに由来する反応性の高い一級アミノ基の残存量が少なく、純度の高いケチミン構造含有アルコキシシランを低いコストで安全かつ簡便に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケチミン構造を含有するオルガノアルコキシシランは、ケチミン基がそれ自身は反応不活性であるが、水分と容易に反応して反応性の高い一級アミノ基を含有するアミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物に分解するという特徴を有することから、水分遮断状態では貯蔵安定性に優れるという特徴があり、各種硬化性樹脂やプライマーの接着向上剤や硬化剤として利用されている。
【0003】
ケチミン構造含有オルガノアルコキシシランの製造方法としては、米国特許第 2,942,019にアミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物とを脱水縮合する方法が記載されている。しかしこの方法では、副生する水によりアルコキシ基が部分加水分解縮合してオリゴマー、すなわち低重合度のオルガノポリシロキサンが生成するため、ケチミン構造含有オルガノアルコキシシランの純度が低下するという問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、特開平03−26341号公報には、非極性の有機溶媒を用いて副生する水分を共沸留去する方法が記載されている。しかしこの方法では、反応が完結せず、反応性の高いアミノ官能性シランが多量に残存するという問題があった。
【0005】
また、特開平7−247295号公報にはモレキュラーシーブや硫酸マグネシウムなどの脱水剤を添加して水分を取り除く方法が記載されている。しかしこの方法では、水の吸着、脱離が平衡反応であるために反応を低温で行う必要があるため、効率が悪く、アルコキシ基が部分加水分解縮合してオリゴマーが生成しやすいため、ケチミン構造含有オルガノアルコキシシランの純度が低下するという問題があった。
【0006】
また、特開平7−247294号公報、特開2000−44817号公報には、加熱したモノカルボニル化合物中にアミノ官能性アルコキシシランを滴下しながら水分を共沸留去する方法が記載されている。しかしこの方法でも、純度の高いケチミン構造含有オルガノアルコキシシラン製品を得ることは困難であった。特にメトキシ基のような加水分解性の高いアルコキシ基を有するケチミン構造含有オルガノアルコキシシランの場合、メトキシシランが部分加水分解縮合してオリゴマーが生成するため、このようなケチミン構造含有オルガノアルコキシシラン製品の純度を高めるためにはさらに蒸留精製工程を経る必要があった。
【0007】
【特許文献1】米国特許第 2,942,019
【特許文献2】特開平03−26341号公報
【特許文献3】特開平7−247295号公報
【特許文献4】特開平7−247294号公報
【特許文献5】特開2000−44817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、原料として用いるアミノ官能性シランに由来する反応性の高い一級アミノ基の残存量が少なく、純度の高いケチミン構造含有アルコキシシランを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法は、
一般式(1)
【化1】

(ここにRは炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基、または式:−R−NH−R−で表される二価の有機基(式中R、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基)、nは1、2または3)で示されるアミノ官能性アルコキシシランと、
一般式(2)
【化2】

(ここにR、Rは同時には水素原子とならない水素原子または炭素原子数1〜10の1価炭化水素基)で示されるモノカルボニル化合物とを加熱下で反応させ、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去して、
一般式(3)
【化3】

(ここにR、R、R、R、R、nは上記に同じ)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランを得ることを特徴とするケチミン構造含有アルコキシシランを製造する方法において、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらにモノカルボニル化合物を導入することを特徴とする。
【0010】
上記モノカルボニル化合物とアミノ官能性アルコキシシランの反応温度が、水とモノカルボニル化合物の共沸温度以上であって、モノカルボニル化合物の沸点を超えない範囲であることが好ましく、上記水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際に、さらに導入するモノカルボニル化合物の配合量は、アミノ官能性アルコキシシラン1モルに対して1〜10モルであることが好ましい。
【0011】
上記アミノ官能性アルコキシシランは、(CH3O)3Si(CH2)3NH2, (CH3CH2O)3Si(CH2)3NH2,(CH3O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2, ,(CH3CH2O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2からなる群から選ばれることが好ましく、上記モノカルボニル化合物は、メチルイソブチルケトンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法は、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際に、さらにモノカルボニル化合物を導入するので、反応系内の水分を効率よく留去でき、アミノ官能性アルコシキシランとモノカルボニル化合物の濃度比を反応中理想的な割合に保つことができることから、反応の完結が早く、効率的である。また、得られるケチミン構造含有アルコキシシランは、アルコキシ基の部分加水分解による低重合度のオルガノポリシロキサン(オリゴマー)の生成が少ない、すなわち、純度が高いため、蒸留単離等の精製工程を省略することができる。特にメトキシ基のような加水分解性の高いアルコキシ基を有するケチミン構造含有オルガノアルコキシシランの製造においても、純度の高いケチミン構造含有オルガノアルコキシシランを得ることができる。また、原料のアミノ官能性アルコシキシランに由来する反応性の高い一級アミノ基の残存量も極めて少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるケチミン構造含有アルコキシシランの製造は前記した一般式(1)で示されるアミノ官能性アルコキシシランと一般式(2)で示されるモノカルボニル化合物とを反応させるものである。ここに使用されるアミノ官能性アルコキシシランは一般式(1)
【化4】


で示される。式中、Rは、炭素原子数が1〜6の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基;ビニル基、プロペニル基などのアルケニル基;フェニル基が例示される。中でもアルキル基、特にはメチル基であることが好ましい。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、−CH(CH)−CH、−CH−CH(CH)−CH、−CH(CH)−CH−CH基などの炭素原子数が1〜4のアルキル基であり、メチル基もしくはエチル基であることが好ましい。nは1、2または3である。
【0014】
上記一般式(1)中、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基または、式:−R−NH−R−で表される二価の有機基である。炭素原子数1〜10の二価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、−(CH−、−(CH−、−(CH10− 、−CHCH(CH)−CH−などのアルキレン基;フェニレン基、
【化5】

などが例示される。中でも、アルキレン基であることが好ましい。
式:−R−NH−R−で表される二価の有機基(式中R、Rは上記Rと同様の炭素原子数1〜10の二価炭化水素基であり、好ましくはアルキレン基である)としては、
【化6】


が例示される。
【0015】
アミノ官能性アルコキシシランとして具体的には、
(CH3O)3Si-CH2-NH2 、(CH3O)3Si-(CH2)3-NH2、(CH3O)3Si-(CH2)6-NH2、(CH3O)3Si-(CH2)10-NH2 、(CH3CH2O)3-Si-CH2-NH2 、(CH3CH2O)3-Si-(CH2)3-NH2、(CH3CH2CH2O)3-Si-CH2-NH2、(CH3CH2CH2O)3-Si-(CH2)6-NH2
(CH3CH2CH2CH2O)3-Si-CH2-NH2 、(CH3CH2CH2CH2O)3-Si-(CH2)6-NH2
【化7】

【化8】

【0016】
(CH3O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3CH2O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2
(CH3O)2(CH3)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3CH2O)2(CH3)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3O)2(C2H5)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3CH2O)2(C2H5)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3O)2(C6H5)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3CH2O)2(C6H5)Si(CH2)3NH(CH2)2NH2
で示されるものが例示される。中でも、
(CH3O)3Si(CH2)3NH2、(CH3CH2O)3Si(CH2)3NH2、(CH3O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2、(CH3CH2O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2
で示されるものであることが好ましい。
【0017】
モノカルボニル化合物は一般式(2)
【化9】

で示され、カルボニル基が上記アミノ官能性アルコキシシランの一級アミノ基と脱水反応してケチミン構造を形成する。式中、R、Rは炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、または水素原子である。ただし、R、Rは、同時に水素原子とはならない。炭素原子数1〜10の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基などが例示される。また、R、Rが連がって環状となっていてもよく、このときには炭素原子数4〜10の二価飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0018】
モノカルボニル化合物として具体的には、
【化10】

【化11】

【0019】
【化12】

【0020】
【化13】

【化14】

が例示される。中でも疎水性の高い、
【化15】

で示されるものが好ましい。モノカルボニル化合物の疎水性が高いと、モノカルボニル化合物中に水が留まりにくくなって反応系中の水が少なくなり、水によりアルコキシ基が部分加水分解してオリゴマーが生成することを抑制できるからである。
【0021】
ケチミン構造含有アルコキシシランは、一般式(3)
【化16】

で表され、式中、R、R 、R、R、R、nは上記の通りである。
【0022】
好ましいケチミン構造含有アルコキシシランとしては、具体的に、
【化17】


【化18】


【化19】

【化20】

が例示される。
【0023】
また、一般式(4)
【化21】

(式中R、R、R、R、R、R、nは上記の通り)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランは、例えば、下記一般式;
【化22】

(式中R、R、R、R、nは上記の通り)で示されるアミノ官能性アルコキシシランと上記モノカルボニル化合物を反応させることで製造することができる。一般式(4)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランは、ケチミン構造そのものが不活性なため、水分遮断状態での貯蔵安定性に優れる一方、水分存在下ではケチミン構造が容易に加水分解して、反応性の高い1級アミンとモノカルボニル化合物が生成するという特徴を有するので、各種硬化性樹脂やプライマーの接着向上剤や硬化剤として有用である。一般式(4)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランは、さらに2級アミンを有しているので、接着向上剤または硬化剤としてのより高度な性能を期待することができ、また、この2級アミン部位を更に化学修飾することもできる。このことから、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂などの一液性の硬化性樹脂や各種プライマー組成物に配合する接着付与剤または硬化剤として有用である。好ましい上記一般式(4)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランとしては、
【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

で示されるものが例示される。中でも、
【化27】

で示されるものが好ましい。
【0024】
本発明のケチミン構造含有アルコキシシランを製造する方法は、アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物とを加熱下で反応させ、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去して、ケチミン構造含有アルコキシシランを得るものであり、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらにモノカルボニル化合物を導入することを特徴とする。ここで、モノカルボニル化合物と水の共沸留去開始以前のアミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物との混合モル比は、アミノ官能性アルコキシシラン1モルに対してモノカルボニル化合物を 1.5〜10モルの範囲とすることが好ましく、 3.0〜10モルの範囲とすることがさらに好ましい。これは、アミノ官能性アルコキシシラン1モルに対してモノカルボニル化合物のモル数が前記範囲未満となると、原料のアミノ官能性アルコキシシランに由来する反応性の高い一級アミノ基が最終製品に残存しやすくなり、また、前記範囲を超えると製造時のポットイールドが低くなりすぎて、コスト的に不利となるからである。
【0025】
アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物の反応装置内への導入方法は任意であるが、上記のアミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物のモル比の範囲を超えないように導入することが好ましい。また、アミノ官能性アルコキシシランおよび/またはモノカルボニル化合物をそれぞれ予熱して反応装置内に導入してもよい。原料の予熱を行う場合の温度は、後述する好適な反応温度の範囲内であることが好ましい。
【0026】
アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物との反応は加熱下で行われる。アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物を反応装置内に導入した後は、速やかにモノカルボニル化合物と水の共沸温度以上であって、モノカルボニル化合物の沸点以下に反応温度を調整することが好ましい。これは、反応温度がモノカルボニル化合物と水の共沸温度より低いと、アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物との反応により生成する水が留去されず系中に留まるので、水によるアミノ官能性アルコキシ基の部分加水分解が促進されてオリゴマーの生成量が増え、純度が低下してしまうからである。一方、反応温度がモノカルボニル化合物の沸点より高いと、モノカルボニル化合物の濃度が急速に減少してモノカルボニル化合物と水の共沸留去の効率が低下し、水によるアミノ官能性アルコキシ基の加水分解が促進されて、オリゴマーの生成量が増えてしまう場合があるからである。
【0027】
上記の反応温度は、反応装置内の圧力や、モノカルボニル化合物の種類によって異なる。例えば、常圧で反応を行い、モノカルボニル化合物がメチルイソブチルケトンである場合は、メチルイソブチルケトンと水との共沸温度がおよそ80℃であり、メチルイソブチルケトンの沸点が 130℃であることから、反応温度を80〜 130℃とすればよい。モノカルボニル化合物がメチルエチルケトンであって常圧で反応を行う場合は、メチルエチルケトンと水との共沸温がおよそ73℃であり、メチルエチルケトンの沸点が80℃であることから、反応温度を73〜80℃とすればよい。
【0028】
本発明のケチミン構造含有アルコキシシランを製造する方法は、反応中生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらにモノカルボニル化合物を導入することを特徴とする。水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入は、共沸留去が始まった直後に開始することが好ましい。水とモノカルボニル化合物の共沸留去の開始は、目視、あるいは、反応装置の気相の温度が、水とモノカルボニル化合物の共沸温度に達することで確認できる。
【0029】
水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際の新たなモノカルボニル化合物の導入量は特に限定されないが、アミノ官能性アルコキシシラン1モルに対してモノカルボニル化合物1.0〜10モルの範囲とすることが好ましく、3.0〜7.0モルの範囲とすることがさらに好ましい。これは、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入量が上記範囲下限未満であると、モノカルボニル化合物と水の共沸留去が十分でなくなって、水によりアルコキシ基が部分加水分解してオリゴマーの生成が促進されて純度が低下したりすることがあるからである。一方、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入量が上記範囲上限を超えた場合は、モノカルボニル化合物の導入や過剰なモノカルボニル化合物の留去に時間がかかりすぎるため副反応が発生したり、コスト的に不利となったりする場合があるからである。
【0030】
水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入方法は、特に限定されないが、水とモノカルボニル化合物の共沸留去を効率よく行うためには、これを液中に直接導入することが好ましい。
【0031】
水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入速度は、特に限定されないが、共沸成分が系外に排出される速度とモノカルボニル化合物の導入速度が等しくなるよう調整することが好ましい。これは、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入速度が速すぎると反応装置内の温度が低下してしまい、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の効率が低下して、水によりアルコキシ基が部分加水分解してオリゴマーの生成が促進され、純度が低下する場合があるからである。また、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入速度が遅すぎると、共沸留去によりモノカルボニル化合物が急速に系外に排出され、反応装置内のアミノ官能性アルコキシシランの濃度がモノカルボニル化合物に対して相対的に増加して、反応が完結しなくなったり、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の効率が低下して、水によりアルコキシ基が部分加水分解してオリゴマーの生成が促進され、純度が低下したりする場合があるからである。
【0032】
アミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物との反応は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス下で行なうことが好ましい。また原料であるアミノ官能性アルコキシシランおよびモノカルボニル化合物中の水分もできるかぎり少なくすることが好ましい。水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際に、さらに導入されるモノカルボニル化合物についても水分をできるかぎり少なくすることが好ましい。
【0033】
反応装置から留去される共沸混合物は、アルコールと水が含まれた、モノカルボニル化合物を主成分とする混合物である。水とアルコールはモレキュラーシーブなどの脱水剤を用いることで簡便かつ安全に取り除くことが出来るので、モノカルボニル化合物の再生と再利用は容易である。
【0034】
また、必要に応じてトルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、エチレンクロライド、クロロホルム、トリクロロエチレン、シクロヘキサンなどの活性水素を含まない有機溶媒を反応溶媒として使用してもよい。しかし、いずれも極性が低い溶媒であるためにアミノ官能性アルコキシシランとモノカルボニル化合物との反応効率が低下して、アミノ官能性アルコキシシランに由来する反応性の高い一級アミノ基が残存することがあるので、これらの有機溶媒を使用しないことが好ましい。
【0035】
また、水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入が完了した後も、共沸留去を継続することが好ましい。水とモノカルボニル化合物の共沸留去の際のモノカルボニル化合物の導入終了後30分〜2時間留去を続けると、系内に水分がなくなるため反応性生物の加水分解は抑制される。さらに、副反応を防止するため、未反応モノカルボニル化合物はできるだけ速やかに系内から留去することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。実施例中%は質量%である。
【0037】
[実施例1]
窒素ガス導入管、温度計、ディーンシュタルク水分補集管、ジムロート型コンデンサーおよび滴下漏斗を備えた1リットルの4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン300g(3.0 モル)及び3−アミノプロピルトリメトキシシラン179.0g(1.0 モル)を導入し加熱、攪拌した。
加熱、攪拌開始から30分後にフラスコ内の液層の温度が82℃に達し、メチルイソブチルケトンと生成した水との還流の開始が目視で確認されたので共沸留去を開始した。この共沸留去開始と同時に、あらかじめ滴下漏斗に計量しておいたメチルイソブチルケトン300g(3.0mol)、の滴下を開始した。メチルイソブチルケトンの滴下は、およそ2時間を要したが、この間、4つ口フラスコ内の液量が一定になるような速度でメチルイソブチルケトンの滴下をおこなった。さらに、滴下中に還流温度が上昇し、最終的にはメチルイソブチルケトンの還流温度118℃に達していた。滴下終了と同時に共沸留去を停止し、冷却した。その後直ちに減圧下で残存する未反応のメチルイソブチルケトンを60℃で留去したところ、弱黄色透明液体が得られた。
【0038】
13C−核磁気共鳴スペクトル分析、赤外分光分析およびGC−MS分析により分析した結果、この弱黄色透明液体は、式:
【化28】


で示される化合物およびその加水分解物であることが確認された。29Si−核磁気共鳴スペクトル分析をおこなったところ、ケチミン構造含有アルコキシシランの純度は95.4%であった。また、13C−核磁気共鳴スペクトル分析による、一級アミンの含有量から、その反応率を求めたところ99.1%であった。
[比較例1]
実施例1における共沸留去開始後のメチルイソブチルケトンの滴下をおこなわない他は、実施例1と同様にして実験をおこなったところ、黄色透明液体が得られた。その反応率、純度を実施例1と同様にして調べ、表1に示した。
【0039】
[実施例2,3,4]
実施例1におけるγ−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに表1に示すアミノ官能性アルコキシシランを用い、実施例1と同様に実験した。その反応率、純度を実施例1と同様にして調べ、表1に示した。
【0040】
[比較例2,3,4]
比較例1に置けるγ−アミノプロピルトリメトキシシランの代わりに表1に示すアミノ官能性アルコキシシランを用い、比較例1と同様に実験した。その反応率、純度を実施例1と同様にして調べ、表1に示した。
【0041】
[実施例5]
実施例1の反応中に留去されたメチルイソブチルケトンと水の共沸成分は323gであった。この共沸成分を1リットルナスフラスコに移液し、モレキュラーシーブ(type4A, 1/13)20gを加え、室温で24時間脱水して、再生した。この再生メチルイソブチルケトンを用いたほかは、実施例2と同様にして実験したところ、淡黄色透明液体が得られた。その反応率、純度を実施例1と同様にして調べ、表1に示した。
【0042】
[比較例5]
窒素ガス導入管、温度計、ディーンシュタルク水分補集管、ジムロート型コンデンサーおよび滴下漏斗を備えた1リットルの4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン500g(5.0 モル)を仕込み118℃で3−アミノプロピルトリメトキシシラン179g(1.0 モル)を3時間かけて滴下した。滴下開始10分後にメチルイソブチルケトンと生成した水との還流の開始が目視で確認されたので共沸留去を開始した。さらに、滴下中に還流温度が上昇し、最終的に135℃に達していた。滴下終了と同時に共沸留去を停止し、直ちに減圧下で残存する未反応のメチルイソブチルケトンを90℃で留去したところ、弱黄色透明液体が得られた。
【0043】
13C−核磁気共鳴スペクトル分析、赤外分光分析およびGC−MS分析により分析した結果、この弱黄色透明液体は、式:
【化29】

で示される化合物およびその加水分解物であることが確認された。29Si−核磁気共鳴スペクトル分析をおこなったところ、ケチミン構造含有アルコキシシランの純度は12.4%であった。また、13C−核磁気共鳴スペクトル分析による、一級アミンの含有量から、その反応率を求めたところ98.6%であった。

[表1]

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法で得られるケチミン構造含有アルコキシシランは、反応生成物の純度が高く、原料のアミノ官能性アルコシキシランに由来する反応性の高い一級アミノ基の残存量も極めて少ないことから、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの各種硬化性樹脂やプライマーなどに接着付与剤や接着向上剤として配合した際、接着性の向上を期待でき、樹脂の流動性や貯蔵安定性を損なうことがない。
中でも、一般式
【化30】

(ここにRは炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、R、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基、R、Rは炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、nは1、2または3)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランは、2級アミンを有しているので、より高度な接着性能を期待することができる。また、2級アミン部位に更に化学修飾を施したりすることもできる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(ここにRは炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基、または式:−R−NH−R−で表される二価の有機基(式中R、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基)、nは1、2または3)で示されるアミノ官能性アルコキシシランと、
一般式(2)
【化2】

(ここにR、Rは同時には水素原子とならない水素原子または炭素原子数1〜10の1価炭化水素基)で示されるモノカルボニル化合物とを加熱下で反応させ、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去して、
一般式(3)
【化3】

(ここにR、R、R、R、R、nは上記に同じ)で示されるケチミン構造含有アルコキシシランを得ることを特徴とするケチミン構造含有アルコキシシランを製造する方法において、生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらにモノカルボニル化合物を導入することを特徴とするケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。
【請求項2】
生成した水をモノカルボニル化合物と共に共沸留去する際、さらに導入するモノカルボニル化合物が、アミノ官能性アルコキシシランに対して等モル量から10倍モル量である、請求項1に記載のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。
【請求項3】
モノカルボニル化合物とアミノ官能性アルコキシシランの反応温度が、水とモノカルボニル化合物の共沸温度以上であって、モノカルボニル化合物の沸点を超えない範囲であることを特徴とする請求項1に記載のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。
【請求項4】
アミノ官能性アルコキシシランが(CH3O)3Si(CH2)3NH2, (CH3CH2O)3Si(CH2)3NH2,(CH3O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2, (CH3CH2O)3Si(CH2)3NH(CH2)2NH2からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。
【請求項5】
モノカルボニル化合物がメチルイソブチルケトンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のケチミン構造含有アルコキシシランの製造方法。
【請求項6】
一般式(4)
【化4】

(ここにRは炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、R、Rは炭素原子数1〜10の二価炭化水素基、R、Rは炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、nは1、2または3)で示されるケチミン構造含有アルコキシシラン。




【公開番号】特開2007−84497(P2007−84497A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276915(P2005−276915)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】