説明

ケナフ種子の超臨界流体抽出法

本発明は、超臨界流体を利用し、200〜600バールの範囲の圧力にて40〜80℃の温度で実施する、ケナフ種子(Hibiscus cannabinus L.)の油を抽出するための超臨界流体抽出(SFE)法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケナフ種子の超臨界流体抽出法を提供する。
【背景技術】
【0002】
Hibiscus cannabinus L.(ケナフ)は、茎にある軟らかい靱皮繊維を目的として栽培される越年生で短日性の草本植物である。ケナフは、アオイ科に属し、経済的及び園芸学的重要性に関して注目すべきである。ケナフは、インド、バングラディシュ、タイ、一部アフリカにおいて、またわずかな程度に東南ヨーロッパにおいて長い栽培史を有していた。アフリカでは4000年にわたり栽培されてきており、ケナフ木の異なる部位が、食料、動物飼料、手工芸品材料、及び地域社会への燃料の供給源として役立ってきた。いくつかの種が、多くの国々で広く生息していることがわかっている。現在、主な農業地帯は、中国全土、インド全土、並びにオーストラリアのマカイ、米国テキサス州(採種圃)、及びメキシコのタマウリパスを含めた他の多くの国々である。
【0003】
マレーシアにおいて、ケナフは、繊維板、バイオコンポジット材料、及び高タンパク質動物飼料原料への幅広い用途を有するために、製造業者からますます注目を浴びている。マレーシア政府は、タバコ農園に代わるものとするため、また農業の多様化を実現するために、国の第4の工芸作物としてケナフを栽培したいと考えている。マレーシアのケナフ生産に関する調査は2000年代初期に開始され、最初のケナフ種子生産事業がセランゴルのSerdangで実施された。しかし、マレーシアにおけるケナフの栽培はまだ実験段階にあり、この植物の産業による利用はまだ最適でない。たとえば、栄養補助的な価値が見込まれる相当な含油量を含んでいるケナフ種子が、ケナフの収穫又は処理の間に屑材料として処分されている。
【0004】
物理的には、ケナフ種子は、比較的小さく(長さ6mm×幅4mm)、紫がかった黒色であり、鋭角の三角形である。ケナフの複数の品種が、36000〜40000種子/kgの範囲に及ぶ幾種類かの種子を実らせる。ケナフ種子の収量は、種子の品種及び栽培場所に応じて決まるところが大きい。マレーシアでは、種子収量は現在約700kg/haにすぎない。1500kg/haの堅実な種子収量を実現することができれば、ケナフは、油抽出率20%をベースとして、有益な脂肪種子作物となり得るはずである。
【0005】
ケナフ種子油の組成は、綿実油中にはゴシポール(毒性のあるフェノール色素)が存在することを除き、綿実に非常に似ている。(ソックスレー抽出によって抽出した)ケナフ種子油には不飽和脂肪酸(76.0%〜81.5%)が多く、このケナフ種子油中の主な脂肪酸はリノール酸(C18:2)(45.9%)である。それ以外に、ケナフ種子油には、リン脂質及び植物ステロールも多い(それぞれ油の6.0%及び0.9%)。ケナフ種子油は、その相当な含油量及び独特な組成により、従来技術において、ヒトが消費する食用油の代替的かつ経済的な供給源として提供できると提案されている。
【0006】
しかし、n−ヘキサンや石油エーテルなどの有機溶媒を使用して抽出される油は、その安全な消費に関して常に疑わしい。したがって、この筋書では超臨界二酸化炭素流体抽出(SFE)が妥当な解決策であるように思われる。SFEは、毒性、爆発性がなく、環境にやさしく、費用効果が高く、時間の節約となり、選択性が調節可能な溶媒(超臨界二酸化炭素流体)を抽出に好都合に使用しようというものである。さらに、SFEでは、低温で油抽出を実施し、抽出の最終段階で溶媒を完全に除去することも可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、超臨界流体を利用し、200〜600バールの範囲の圧力にて40〜80℃の範囲の温度で実施する、ケナフ(Hibiscus cannabinus L.)種子油を抽出するための超臨界流体抽出(SFE)法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、いくつかの新規な特徴と、付随する記述及び図面において以下で十分に説明及び例示する各部分の組合せとからなるが、本発明の範囲から逸脱することも本発明の利点のいずれかを犠牲にすることもなく、細目を様々に変更してもよいことは理解される。
【0009】
本発明は、以下に示す詳細な説明及び添付の図面から十分に理解されることとなるが、これらは実例として示すにすぎず、したがって本発明を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】異なるSFE抽出パラメーターによるケナフ種子油の収率を示すグラフである。
【図2】DPPH補足活性によるケナフ種子油及び市販食用油のIC50値を示すグラフである。
【図3】BCBアッセイによるケナフ種子油及び市販食用油の抗酸化活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ケナフ種子の超臨界流体抽出を提供する。以下、本明細書では、本発明を本発明の好ましい実施形態に従って記述する。しかし、その記述を本発明の好ましい実施形態に限定するのは、単に本発明の論述を容易にするためにすぎないと理解されたく、また当業者が、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更形態及び等価形態を考案してもよいと考える。
【実施例】
【0012】
実施例1 ケナフ種子(Qui Ping 3)抽出物
a.乾燥ケナフ種子の調製
ケナフ種子(品種:Qui Ping 3)の汚れを除き、オーブン(FD115、Fisher Scientific、英国レスターシア州ラフバラ)にて50℃で乾燥させて恒量にした。乾燥に引き続いて、ケナフ種子を抽出前に4℃で保管した。
【0013】
b.超臨界二酸化炭素流体抽出(SFE)
超臨界二酸化炭素抽出装置(Thar 1000F、Thar Technologies,Inc.、米国ペンシルヴェニア州ピッツバーグ)を9通りの異なる抽出パラメーター(圧力(バール)/温度(℃):600/40、600/60、600/80、400/40、400/60、400/80、200/40、200/60、200/80)で使用することにより、ケナフ種子を抽出にかけた。簡潔に述べると、100グラムのケナフ種子をWaringブレンダーで1分間粉砕し、1リットル容抽出容器に入れた。抽出容器をしっかりと密閉した後、所望の抽出温度を設定した。抽出容器内の圧力を、一定の二酸化炭素流量(25g/分)を用いて強め、自動式背圧調節装置によって調節した。望ましい温度及び圧力が得られた後、SFE抽出を開始した。抽出過程は全体で150分間続き、油の収率を30分間刻みで測定した。抽出が完了した後、抽出容器を減圧し、収集容器から油を集めた。この抽出から得られた総油量を、区間収率を合計して算出した。
【0014】
c.ソックスレー抽出
50グラムのケナフ種子をWaringブレンダーで1分間粉砕し、2本の抽出シンブルに等分した。次いで、各シンブルをソックスレー抽出器(Witeg−Labortechnik GmbH、ドイツ国Wertheim)に移した。約300mlのn−ヘキサン(Fisher Scientific、英国レスターシア州ラフバラ)を各フラスコに加え、フラスコを抽出器及び冷却器に接続した。抽出を開始した後、溶媒流量を手動で7分/サイクルに調節した。最後に、抽出過程を、それぞれ20サイクル後(迅速ソックスレー抽出、SOX/S)及び100サイクル後(伝統的ソックスレー抽出、SOX/L)に停止した。抽出が完了した後、ロータリーエバポレーター(Rotavapor R210、Buchi、スイス国Flawil Postfach)を使用して、減圧下にて50℃でn−ヘキサンを除去した。蒸発処理に引き続いて、フラスコを1時間デシケータチャンバーに入れた。得られた油を秤量し、収率を算出した。
【0015】
d.従来型超音波支援溶媒抽出(ultra−sonic assisted solvent extraction)(SONIC)
25グラムのケナフ種子を粉砕し、300mlのn−ヘキサン(Fisher Scientific、英国レスターシア州)と共に13500rpmで3分間ホモジナイズした(Ultra−turax T25 basic、IKA(登録商標)−WERKE GmbH&Co.KG、ドイツ国Staufen)。次いで、混合物を超音波浴(Power sonic 505、HwaShin Technology Co.、韓国ソウル)中で90分間音波処理(高周波数設定)した。音波処理後、混合物を濾紙(Whatman No.1)で濾過し、同じ手順に従って残渣を抽出し直した。最後に、濾液をプールし、ロータリーエバポレーター(Rotavapor R210、Buchi、スイス国Flawil Postfach)を使用して蒸発にかけた。フラスコをデシケータチャンバー中で1時間冷却した後、油の収率を算出した。
【0016】
図1は、9通りの異なるSFE抽出パラメーターによるケナフ種子油の収率を示す。一般に、ケナフ種子油の収率は、150分のSFE抽出後に2.12%〜20.18%であり、二酸化炭素消費量は3.75kgであった。抽出圧の上昇によって、ケナフ種子油の収率が、600/80≧600/60≧600/40≧400/80≧400/40≧400/60>200/40>200/60≧200/80の順に増加していることは明らかである(P<0.05)。収油率が増加するほか、抽出圧の上昇によって抽出過程も促進されることがわかっている。
【0017】
図1に示す抽出傾向によれば、600バールで行った抽出では、60〜90分後に「プラトー」に達したのに対し、400バールでは、抽出してから90〜120分後にならないと「プラトー」段階が認められなかった。収油率が実験の終わりまで30分刻みで有意にまた間断なく増加したことがわかったので、200バールでの抽出過程では「プラトー」段階が認められなかった。この検討において、SFE抽出を高抽出圧及び中程度抽出圧(600バール及び400バール)で行った場合、抽出温度は、油の収率への影響においてあまり決定的な役割を果たしていない(P>0.05)。しかし、低抽出圧(200バール)では、抽出温度の上昇によって、得られる収油率が有意に低下する(P<0.05)。
【0018】
溶媒抽出では、SOX/L、SOX/S、及びSONICの収率が、それぞれ24.81%±0.32、22.40%±0.72、及び21.08%±0.001であった。SOX/Lが溶媒抽出で最高の収率を示し、続いてSOX/S及びSONICとなった(P<0.05)。これにより、熱処理は、ホモジナイズしてから音波処理にかけるよりも、ケナフ種子油抽出をより効率的に補助することが示唆される。これ以外に、ソックスレー抽出の期間を延長することも、得られる収油率を増加させる。この検討における溶媒抽出から得られるケナフ種子の含油量は、ケナフ種子油収率(21.64%〜26.4%)の範囲内である。
【0019】
SFE抽出と比較すると、SOX/Lでは、すべての抽出パラメーターでのSFE抽出(2.12%〜20.18%)より高い含油量(24.81%)が得られた。しかし、SOX/Lによる収油率の数パーセントの上昇は、SOX/Lでは抽出過程全体を遂行するのに12時間より長くかかるので、SFEによる150分と比べて、経済的には有益でない。600バール、SOX/S、及びSONICで抽出された各ケナフ油間に収率の有意な差は認められなかった(P>0.05)。このことは、高圧でのSFE抽出が、溶媒が不要であり、(SOX/Lと比較して)時間の節約になり、また環境にやさしいという特徴を有するので、ケナフ種子油抽出において優れた代替法になり得ることを示唆している。
【0020】
実施例2 7種類の市販料理用油と比較したケナフ種子油(Qui Ping 3)の抗酸化活性
a.DPPHフリーラジカル捕捉活性
ケナフ種子、及び市販の食用油(パームオレイン(FFM Berhad、マレーシア国セランゴル州Sungai Buloh)、Mazolaトウモロコシ油、Mazolaダイズ油、Mazolaカノーラ油、Mazolaヒマワリ種子油(ACH Food Companies,Inc.、米国テネシー州Cordova)、米ぬか油(Amornchai Co.Ltd.、タイ国バンコクBangrak)、純オリーブ油(80%精製オリーブ油及び20%エキストラバージンオリーブ油)(Basso Fedele e figli s.r.l.、イタリア国San Michele di Serino))の抗ラジカル捕捉活性を、Ramadan、Kroh、及びMorsel(2003年)が記載している方法に若干手を加えた方法に従って測定した。α−トコフェロール(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)をこの試験の標準親油性抗酸化物質として使用した。簡潔に述べると、異なる濃度のサンプルトルエン溶液0.1mlに、0.39mlの新鮮なDPPHトルエン溶液(0.1mM)(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)を加えた。次いで、混合物を激しく振盪し、60分間暗所に放置した。最後に、混合物の吸光度を、紫外可視分光光度計(Pharmaspec uv−1700、島津製作所、京都府)を使用して、515nmで純粋トルエン(ブランク)に対して測定した。
【0021】
ケナフ種子及び市販の食用油の抗ラジカル活性を、以下の式から推定した。
抑制%=([A対照−サンプル]/A対照)×100
これにより、
ブランク=対照反応液(サンプルを除くすべての試薬を含有する)の吸光度
サンプル=試験化合物の吸光度
【0022】
サンプルの50%抑制濃度値(IC50)は、mg/mlで示し、線形回帰分析の内挿によって算出した。この試験におけるIC50は、総DPPHフリーラジカルの50%を抑制することのできる油の濃度であると定義した。
【0023】
b.β−カロテン漂白(BCB)アッセイ
ケナフ種子及び市販の食用油のβ−カロテン漂白(BCB)アッセイは、Kumazawaら(2002年)が記載しているプロトコールに従って測定を行った。α−トコフェロールをこの試験の標準親油性抗酸化物質として使用した。簡潔に述べると、40mgのリノール酸(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)及び400mgのTween20(Fisher Scientific、英国レスターシア州ラフバラ)に、3mlのβ−カロテン溶液(100μg/mlクロロホルム)(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)を加えた。次いで、混合物をよく混合し、窒素流中で乾燥させた。即座に、乾燥した混合物に100mlの蒸留水を加えて、β−カロテン/リノール酸エマルションを生成した。1.5ミリリットルのエマルションに、20μlのメタノール(対照)又は5mg/mlメタノールの濃度のサンプルを加えた。その後、サンプルを50℃の水浴中で1時間インキュベートした。最後に、サンプルの吸光度を、紫外可視分光光度計(Pharmaspec uv−1700、島津製作所、京都府)を使用して、470nmで蒸留水(ブランク)に対して測定した。
【0024】
サンプルの抗酸化活性パーセンテージ(%AA)を、次式を使用して算出した。
%AA=100(DR対照−DRサンプル)/DR対照
これにより、
DR=分解速度、(a/b)/60
a=インキュベート前のサンプルの吸光度470nm
b=インキュベート後のサンプルの吸光度470nm
DR対照=対照サンプルの分解速度
DRサンプル=試験したサンプルの分解速度
【0025】
この検討におけるケナフ種子油及び市販食用油の抗酸化活性は、mg α−トコフェロール当量(Teq)/g油サンプルで示した。
【0026】
DPPH捕捉活性によるケナフ種子油及び市販食用油のIC50値を図2に示す。一般に、ケナフ種子油のIC50値は、12.27mg/ml〜39.80mg/mlの範囲であったのに対し、市販料理用油では、その範囲が20.59mg/ml〜70.43mg/mlであった。200/80で抽出したSFEケナフ油は、全試験サンプルと比較して最も高い抗ラジカル活性を示した(P<0.05)。対称的に、オリーブ油は、抗ラジカル活性が最も弱かった(P<0.05)。この結果によって、オリーブ油が、10種の試験植物油の中で最もDPPH抗ラジカル活性の弱いサンプルの1つであることが確実になった。パーム核油及び米ぬか油は、おそらく脂肪酸不飽和及び(トコフェロール、トコトリエノール、γ−オリザノールなどの)抗酸化物質含有量のレベルにより、市販料理用油の中で最も高い抗ラジカル活性を有する(P<0.05)サンプルであることがわかった。DPPHフリーラジカルの抑制における油の有効性の順序は、以下のとおりである。すなわち、ケナフ:200/80>パーム≧米ぬか≧ケナフ:200/60≧ケナフ:200/40≧ケナフ:400/60≧ケナフ:400/40≧ケナフ:SOX/S≧ダイズ≧カノーラ≧ヒマワリ≧トウモロコシ≧ケナフ:600/60≧ケナフ:600/80≧ケナフ:SONIC≧ケナフ:600/40≧ケナフ:400/80≧ケナフ:SOX/L>オリーブ(P<0.05)。400バールを超えるSFEによって抽出したケナフ種子油は、溶媒抽出したケナフ種子油、並びにパーム油、米ぬか油、及びオリーブ油を除く市販料理用油の大多数と同様の抗ラジカル活性を示した(P>0.05)。しかし、これらの市販食用油には、処理の際にBHA、BHT、及びTBHQのような合成の抗酸化物剤が加えられている。したがって、ケナフ種子油は実際、これら市販料理用油と比べたとしても、より良好な抗ラジカル活性を有するといえ、また機能性料理用油として役立てられる可能性を秘めている。
【0027】
図3は、BCBアッセイによるケナフ種子油及び市販料理用油の抗酸化活性を示す。サンプルの抗酸化活性は、α−トコフェロール標準曲線(y=9841.8x−3.1626、r=0.9801)の内挿によって算出し、mg Teq/g油で示した。一般に、検討したサンプルの抗酸化活性は、0.15mg Teq/g油〜1.85mg Teq/g油の範囲であった。DPPH試験とは反対に、BCBアッセイでは抽出温度がSFEケナフ種子油の抗酸化活性を決定する非常に重要な要素であると思われた。400バール及び600バールの抽出圧下で抽出温度が80℃に上昇すると、抗酸化活性が大幅に低下する(P<0.05)。200バールで抽出したケナフ種子油では、サンプルの抗酸化活性が、温度上昇に対応して徐々に低下した(P<0.05)。この結果の根拠となる、考えられる理由は、高圧高温で抽出されるケナフ種子油が、熱分解を受けやすい抗酸化物質特性を含んでいるのではないかということである。この理由のために、これらのサンプルは、熱を用いないDPPH試験では良好な抗酸化活性を示し、BCBアッセイでは逆説的な結果を示すのではないかと思われる。これ以外に、DPPHの捕捉活性は、主としてラジカル反応部位への抗酸化物質の立体的アクセシビリティー(stearic accessibility)に応じて決まるので(Prior、Wu、及びSchaich、2005年)、高温抽出したケナフ種子油中の抗酸化物質が、リノリ(linoly)ラジカル(たとえば、ペルオキシル及びアルキルラジカル)に対してDPPHラジカルより弱い反応性しかもたないことも、この筋書の根拠となる、考えられる理由ではないかと思われる。しかし、Lim及びQuah(2007年)によれば、反応系が異なっているので、BCBアッセイでの結果をDPPHラジカル捕捉アッセイの結果と関係付けることはできない。
【0028】
BCBアッセイでは、試験した7種類の市販食用油の中で、パーム油及びオリーブ油が、それぞれ抗酸化活性が最も強いサンプル及び最も弱いサンプルとなった(P<0.05)。市販食用油と比較すると、市販の油のほとんどが合成の抗酸化剤で補われているにもかかわらず、(ケナフ:400/80及び600/80を除く)ほとんどすべてのケナフ油サンプルが、市販食用油より高い抗酸化活性を示した(P<0.05)。(200/60、200/80、400/80、及び600/80を除く)大多数のSFE抽出ケナフ種子油と溶媒抽出ケナフ種子油とに、抗酸化活性の有意な差は認められなかった(P>0.05)。このことは、熱によって誘発されるリノール酸の過酸化に対して、市販食用油と比べて強力な抗酸化活性を有するケナフ種子油の抽出において、SFEが有機溶媒の代替手段になり得ることを示唆している。
【0029】
実施例3 V36ケナフ種子の油抽出及び抗酸化活性の評価
a.乾燥ケナフ種子の調製
ケナフ種子(品種:V36)の汚れを除き、オーブン(FD115、Fisher Scientific、英国レスターシア州ラフバラ)にて40℃で乾燥させて恒量にした。乾燥に引き続いて、ケナフ種子を抽出前に4℃で保管した。
【0030】
b.超臨界二酸化炭素流体抽出(SFE)
実施例1(b)に記載の方法に従って、超臨界二酸化炭素抽出装置(Thar 1000F、Thar Technologies,Inc.、米国ペンシルヴェニア州ピッツバーグ)を最適な抽出パラメーター(圧力(バール)/温度(℃):600/40及び600/60)で使用することにより、ケナフ種子を抽出にかけた。150分間抽出した後、得られた総油量を算出した。
【0031】
c.従来型超音波支援溶媒抽出(SONIC)
実施例1(d)に記載の方法に従って、V36ケナフ種子の溶媒抽出を行った。
【0032】
d.総フェノール含量の決定
Ramadanら(2003年)が記載している方法に従って、ケナフ種子油の精製処理を行った。簡潔に述べると、2グラムのサンプルをn−ヘキサン(5ml)に溶解させ、ガラス管中でボルテックスして2分間かけて10mlのメタノール−水(80:20、v/v)と混合した。3000rpmで10分間遠心分離した後、パスツールピペットを使用して水アルコール抽出物を脂相から分離した。その後、水アルコール抽出物をプールし、シロップが粘稠になるまで、減圧下にて50℃で濃縮した(Rotavapor R210、Buchi、スイス国Flawil Postfach)。水アルコール抽出物をアセトニトリル(15ml)に溶解し直し、混合物をn−ヘキサン(各15ml)で3回洗浄した。アセトニトリル中の精製された画分を、減圧下にて50℃で濃縮し(Rotavapor R210、Buchi、スイス国Flawil Postfach)、次いで、総フェノール含量分析に向けてメタノールに溶解させた。
【0033】
ケナフ種子油中の総フェノール含量は、Singhら(2002年)の方法に従って求めた。ちょうど100mgの抽出物を10mlのメタノールに溶解させた。半ミリリットルずつの分割量を2.5mlのFolin−Ciocalteu試薬(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、スイス国Buchs)にそれぞれ加えた後、これを2mlの7.5%NaCO(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)と混合した。混合物を十分に混合し、40℃で30分間インキュベートした。サンプルの吸光度を分光光度計によって760nmで測定した(Pharmaspec uv−1700、島津製作所、京都府)。サンプルの総フェノール含量を、没食子酸(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、スイス国Buchs)標準曲線によって決定し、mg没食子酸当量/gサンプル(GAE/gサンプル)で示した。
【0034】
e.DPPHフリーラジカル捕捉活性
DPPHラジカル捕捉アッセイは、Ramadanら(2003年)が記載している方法に多少手を加えた方法に従って実施した。簡潔に述べると、0.1mMのDPPH(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)エタノール溶液0.39mlを、様々な濃度のサンプル抽出物0.1mlと室温で反応させた。混合物を激しく振盪し、60分間暗所に放置した。電子スピン共鳴(ESR)(JEOL FA100、日本電子株式会社、東京都)を以下の条件で使用することにより、読取りを行った。すなわち、変調周波数:100kHz、中心磁場(Center field):336.734mT±5、掃引時間:1分、電力:8mW、変調幅(mod width):0.2mT、時定数=0.15秒、振幅:160。アスコルビン酸(Sigma−Aldrich Chemie GmbH、ドイツ国Steinheim)、及びα−トコフェロール(Sigma−Aldrich Co.、米国ミズーリ州セントルイス)をこの試験の標準物質として使用した。ケナフ種子油のDPPH捕捉活性は、mg α−トコフェロール当量/gサンプル(mg Teq/gサンプル)及びmgアスコルビン酸当量/gサンプル(mg AAeq/gサンプル)で示した。
【0035】
f.ヒドロキシル捕捉活性試験
ヒドロキシル捕捉活性試験は、ESR(JEOL FA100、日本電子株式会社、東京都)を使用して、扁平石英セルで実施した。反応は、40μlのDMPO(ラボテック株式会社、東京都)(400mM)、37.5μlのFeSO(BDH Chemicals Ltd.、英国プール)(0.4mM)、112.5μlのEDTA(Sigma−Aldrich,Inc.、米国ミズーリ州セントルイス)(0.1mM)、60μlの(様々な濃度の)サンプル、及び150μlのH(Bendosen Laboratory Chemicals、ノルウェー国Bendosen)(2mM)を混合してから約2分後に開始した。ESRの条件は、中心磁場:336.45±5、電力:8mw、変調幅:0.1mT、掃引時間:2分、時定数:0.1秒、振幅:160、変調周波数:100kHzとした。ケナフ油のヒドロキシルラジカル捕捉活性は、g DMSO(Fisher Scientific、英国レスターシア州ラフバラ)当量/gサンプル(g DMSOE/gサンプル)で示した(Thomsenら、2000年)。
【0036】
【表1】

【0037】
表1は、V36ケナフ種子油の総フェノール含量、DPPH捕捉活性、及びヒドロキシルラジカル捕捉活性を示す。収率、総フェノール含量、DPPH捕捉活性、及びV36ケナフ種子油のヒドロキシルラジカル捕捉活性は、それぞれ、13.05〜16.60%、0.008〜0.017mg GAE/gサンプル、0.481〜0.594mg Teq/gサンプル及び0.395〜0.484mg AAeq/gサンプル、並びに1.448〜3.349 DMSOE/gサンプルの範囲となった。ヘキサン抽出は、両方のSFE抽出より高い収率を示した(P<0.05)。等圧条件下(600バール)で抽出温度が40℃から60℃に上昇すると、V36ケナフ種子の収油率がわずかに向上した(P<0.05)。
【0038】
この結果は、Qui ping 3ケナフ種子のSFE抽出(実施例1e)での知見に一致している。しかし、結果は、V36ケナフ種子の含油量がQui Ping3と比べて少ないことも示している。V36ケナフ種子のヘキサン、SFE 600/40、及びSFE 600/60の各抽出からの収油率は、Qui Ping 3よりそれぞれ21.3%、35.3%、及び31.4%低い。ヘキサン抽出では、V36ケナフ種子油のフェノール含量及びヒドロキシルラジカル捕捉活性がSFE抽出と比べて向上する(P<0.05)。
【0039】
その上、これらの結果は、等圧条件下(600バール)でSFE抽出温度が40℃から60℃に上昇しても、総フェノール含量及び抗酸化活性(DPPH及びヒドロキシルラジカル捕捉活性)に有意差がないことも示している(P>0.05)。この結果は、Qui ping 3ケナフ種子油のDPPH捕捉活性(実施例2c)での知見に一致している。DPPH捕捉活性試験ではサンプル間に有意差が見られなかった(P>0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体を利用し、200〜600バールの範囲の圧力にて40〜80℃の範囲の温度で実施する、ケナフ種子(Hibiscus cannabinus L.)の油を抽出するための超臨界流体抽出(SFE)法。
【請求項2】
前記超臨界流体が超臨界二酸化炭素である、請求項1に記載のSFE法。
【請求項3】
二酸化炭素消費量が0.025〜3.75kgの範囲である、請求項2に記載のSFE法。
【請求項4】
ケナフ種子の品種がQui Ping 3及びV36である、請求項1に記載のSFE法。
【請求項5】
温度40℃及び圧力600バールでの収油率が20.18%である、請求項1に記載のSFE法。
【請求項6】
温度60℃及び圧力600バールでの収油率が20.85%である、請求項1に記載のSFE法。
【請求項7】
温度80℃及び圧力600バールでの収油率が21.29%である、請求項1に記載のSFE法。
【請求項8】
請求項1に記載のSFE法と溶媒抽出との比較であって、使用する溶媒がn−ヘキサンである、比較。
【請求項9】
SFE法の利点が、溶媒なしの条件下でケナフ種子油を抽出することである、請求項9に記載のSFEと溶媒抽出との比較。
【請求項10】
それぞれ1グラムのケナフ種子油が、0.4〜2mgのα−トコフェロールと同等の抗酸化活性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
200バールで抽出したケナフ種子油が、400バール及び600バールで抽出したケナフ種子油より高い抗ラジカル活性を示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
SFEケナフ種子油が、溶媒抽出したケナフ種子油より2〜3倍高い抗ラジカル活性を示す、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506756(P2011−506756A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541409(P2010−541409)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/MY2009/000113
【国際公開番号】WO2010/064890
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(509142209)ユニヴェルシティ プトラ マレーシア (4)
【Fターム(参考)】