説明

ケミカルセンサ、ケミカルセンサモジュール、生体分子検出装置及び生体分子検出方法

【課題】高精度に生体分子を検出することが可能なケミカルセンサ、ケミカルセンサモジュール、生体分子検出装置及び生体分子検出方法を提供すること
【解決手段】本技術のケミカルセンサは、基板と、オンチップレンズと、平坦化層とを具備する。基板は、平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成されている。オンチップレンズは、上記基板上に設けられた、入射光を上記フォトダイオードに集光する。平坦化層は、オンチップレンズを被覆して平坦化し、プローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、蛍光発光に基づいて生体分子を検出するためのケミカルセンサ、当該ケミカルセンサを搭載するケミカルセンサモジュール、生体分子検出装置及び当該生体分子検出装置を用いる生体分子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医学、生化学、分子生物学等の分野において、蛋白質、各種抗原分子、DNAdeoxyribonucleic acid)、RNA(ribo nucleic acid)等の生体分子の検出が重要となってきている。特に、これら生体分子のサンプル量が、場合により、pmolからfmolオーダと非常に少ない為、高感度・高精度な検出方法の開発が要求されている。
【0003】
高感度な検出方法として、蛍光を検出する方法が最も一般的に用いられている。この蛍光による検出方法は、例えば、予め検出対象であるターゲット材料を蛍光マーカで標識しておき、当該ターゲット材料と特異的に相互作用するプローブ材料を固着させた光学センサによって、プローブ材料に吸着したターゲット材料からの蛍光を検出するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、有機分子プローブ配置領域が形成されたシリコン基板と固体撮像素子が一体化された有機分子検出用半導体素子が開示されている。当該素子は、有機分子プローブ配置領域に配置された有機分子プローブとターゲット材料の結合によって生じる蛍光が個体撮像素子によって検出される構成となっている。
【0005】
また、特許文献2には、ダブルゲート型トランジスタ(光電変換素子)とプローブ材料からなるスポットの間にオンチップレンズが搭載された生体高分子分析チップが開示されている。当該チップにおいては、プローブ材料と結合したターゲット材料から生じる蛍光がオンチップレンズによって集光され、ダブルゲート型トランジスタによって検出される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−202303
【特許文献2】特開2006−4991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、有機分子プローブからの等方的な発光を、個体撮像素子に導く光学系が存在しないため、充分な光量を得ることができず、感度が低く精度に劣るという問題がある。さらに、等方的な発光は隣接する固体撮像素子にも入り、検出信号にクロストークが発生してしまうおそれがある。また、有機分子プローブを結合させる表面の材質も規定されておらず、有機分子プローブを表面に均一に結合させることによる検出精度の向上も図られていなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の構成では、オンチップレンズの上面に光透過性のトップゲート電極が形成されている。このようなトップゲート電極は、光透過性の電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)やグラフェン等によって形成されるものと考えられる。しかし、これらの材料は低い抵抗値とするためには膜厚を厚くする必要があり、それによって膜の光透過率が低下し、感度劣化を生じることが考えられる。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、高精度に生体分子を検出することが可能なケミカルセンサ、ケミカルセンサモジュール、生体分子検出装置及び生体分子検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るケミカルセンサは、基板と、オンチップレンズと、平坦化層とを具備する。
上記基板は、平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成されている。
上記オンチップレンズは、上記基板上に設けられた、入射光を上記フォトダイオードに集光する。
上記平坦化層は、上記オンチップレンズを被覆して平坦化し、プローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する。
【0011】
この構成によれば、プローブ保持面に保持されたプローブ材料と、測定対象物に含まれたターゲット材料の結合により生じる光は、オンチップレンズによって集光され、フォトダイオードに入射するため、フォトダイオードへの入射効率を向上させ、かつ隣接するフォトダイオードへの光の漏洩(クロストーク)を防止することが可能となる。
【0012】
前記入射光は、前記プローブ材料とターゲット材料の結合に起因する蛍光であってもよい。
【0013】
この構成によれば、フォトダイオードによって蛍光を検出することにより、ターゲット材料を検出することが可能となる。
【0014】
上記ケミカルセンサは、上記基板と上記オンチップレンズの間、又は上記オンチップレンズと上記プローブ保持面の間に積層された、分光材料からなる分光層をさらに具備してもよい。
【0015】
この構成によれば、検出対象外の波長を有する光、例えば蛍光を生じさせるための励起光がケミカルセンサに入射しても、分光層によって減衰されるため、フォトダイオードによって検出対象の光のみが検出され、即ち検出対象の光を高精度に検出することが可能となる。
【0016】
上記ケミカルセンサは、上記平坦化層に積層された、上記プローブ材料が固着する表面層をさらに具備してもよい。
【0017】
この構成によれば、平坦化層によってオンチップレンズが平坦化されているため、表面層の形成が可能となり、表面層にプローブ材料を固着させることが可能となる。
【0018】
上記表面層は、ダイヤモンドからなり、アンモニアガス雰囲気中での紫外線照射による表面処理が施されていてもよい。
【0019】
ダイヤモンドからなる表面層に、アンモニアガス雰囲気中で紫外線を照射することにより、ダイヤモンドをアミノ化させることができる。これにより、プローブ材料にカルボン酸を導入することによって、プローブ材料とダイヤモンドの間でアミノ結合を生成させ、プローブ材料を表面層に化学的に固着させることが可能となる。
【0020】
上記表面処理は、上記オンチップレンズのそれぞれに対向する領域に形成されていてもよい。
【0021】
この構成によれば、表面処理に施された領域にプローブ材料が固着するため、プローブ材料がそれぞれのオンチップレンズに対向して表面層に固着されることになる。即ち、各領域のプローブ材料から生じた光が、それぞれ対応するオンチップレンズによって集光されるため、フォトダイオードへの入射効率を向上させ、クロストークを防止することが可能となる。
【0022】
上記オンチップレンズは、上記フォトダイオードのそれぞれに対して一つずつ設けられ、入射光を上記フォトダイオードのそれぞれに集光してもよい。
【0023】
この構成によれば、一つのオンチップレンズによって一つのフォトダイオードに光が集光されるため、一つのオンチップレンズによって複数のフォトダイオードに光が集光される場合に比べてフォトダイオードへの入射効率を向上させ、クロストークを防止することが可能となる。
【0024】
上記ケミカルセンサは、上記オンチップレンズのそれぞれの間に設けられた遮光壁をさらに具備してもよい。
【0025】
この構成によれば、遮光壁によって、隣接するフォトダイオードとの間のクロストークを完全に防止することが可能となる。
【0026】
上記平坦化層は、上記オンチップレンズとの屈折率差が0.4以上である材料からなるものであってもよい。
【0027】
この構成によれば、オンチップレンズの焦点距離を、平坦化層を大気と置き換えた場合と同適度の焦点距離とすることが可能であり、即ち、オンチップレンズにより光を有効に集光することが可能となる。
【0028】
上記ケミカルセンサは、上記平坦化層に積層されたプローブ材料からなるプローブ材料層をさらに具備してもよい。
【0029】
この構成によれば、プローブ材料層において生じる光を、上記のように高精度に検出することが可能である。
【0030】
上記プローブ材料層と上記フォトダイオードの間の距離は10μm以下であってもよい。
【0031】
この構成によれば、プローブ材料層において生じる光を充分にフォトダイオードに集光することが可能となる。
【0032】
上記プローブ材料層は、上記オンチップレンズのそれぞれに対向するように、区画されていてもよい。
【0033】
この構成によれば、区画されたプローブ材料層毎に異なるプローブ材料を用い、多種のターゲット材料を同時に検出することが可能となる。
【0034】
上記プローブ材料は、DNA、RNA、タンパク質又は抗原であってもよい。
【0035】
本技術に係るケミカルセンサは、これらの生体分子をプローブ材料として用いることが可能である。
【0036】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るケミカルセンサモジュールは、ケミカルセンサと、励起光源とを具備する。
上記ケミカルセンサは、平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有する。
上記励起光源は、上記ケミカルセンサに一体的に装着され、上記ケミカルセンサに励起光を照射する。
【0037】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る生体分子検出装置は、ケミカルセンサと、信号処理回路とを具備する。
上記ケミカルセンサは、平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有する。
上記信号処理回路は、上記ケミカルセンサに接続され、上記フォトダイオードの出力信号を処理する。
【0038】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る生体分子検出方法は、平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサを準備する。
プローブ材料を上記平坦化層に積層させてプローブ材料層を形成する。
測定対象物質を上記プローブ材料層に接触させて、上記測定対象物質に含まれたターゲット材量を上記プローブ材料と結合させる。
上記プローブ材料と結合しなかった測定対象物質を除去する。
上記ケミカルセンサに励起光を照射する。
上記ターゲット材料と上記プローブ材料の結合に起因する蛍光を上記フォトダイオードによって検出する。
【0039】
上記蛍光を検出するステップでは、予め蛍光標識されている上記プローブ材料と上記ターゲット材料の相互作用による蛍光の波長及び輝度の変化を上記フォトダイオードによって検出してもよい。
【0040】
上記蛍光を検出するステップでは、上記プローブ材料と結合した予め蛍光標識されているターゲット材料による蛍光を上記フォトダイオードによって検出してもよい。
【0041】
上記蛍光を検出するステップでは、上記プローブ材料と上記ターゲット材料の結合体に対して蛍光標識を実施し、その蛍光を上記フォトダイオードによって検出してもよい。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本技術によれば、高精度に生体分子を検出することが可能なケミカルセンサ、ケミカルセンサモジュール、生体分子検出装置及び生体分子検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本技術の第1の実施形態に係る生体分子検出装置の構成を示す模式図である。
【図2】本技術の第1の実施形態に係るケミカルセンサの構成を示す断面図である。
【図3】本技術の第1の実施形態に係るケミカルセンサモジュールの構成を示す模式図である。
【図4】本技術の第2の実施形態に係るケミカルセンサの構成を示す断面図である。
【図5】実施例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(第1の実施形態)
本技術の第1の実施形態に係る生体分子検出装置について説明する。
【0045】
[生体分子検出装置の全体構成]
図1は、本実施形態に係る生体分子検出装置1の構成を示す模式図である。同図に示すように、生体分子検出装置1は、基板2上に設けられたケミカルセンサ3と、ケミカルセンサ3を駆動するための周辺回路から構成されている。詳細は後述するが、ケミカルセンサ3は、基板2上に配列された複数のフォトダイオード21を有する。
【0046】
フォトダイオード21の数や配列については限定されず、適宜変更することが可能である。ここでは、フォトダイオード21は基板2の平面上において行列状に配列されているものとし、行の方向を垂直方向、列の方向を水平方向とする。
【0047】
周辺回路は、垂直駆動回路4、カラム信号処理回路5、水平駆動回路6及びシステム制御回路7から構成されている。また、各フォトダイオード21は行毎に画素駆動線8に接続され、かつ列毎に垂直信号線9に接続されている。各画素駆動線8は垂直駆動回路4に接続され、垂直信号線9はカラム信号処理回路5に接続されている。
【0048】
カラム信号処理回路5は、水平駆動回路6に接続され、システム制御回路7は、垂直駆動回路4、カラム信号処理回路5及び水平駆動回路6に接続されている。なお、周辺回路は画素領域に積層される位置、あるいは基板2の反対側等に配置することも可能である。
【0049】
垂直駆動回路4は、例えばシフトレジスタによって構成され、画素駆動線8を選択し、選択された画素駆動線8にフォトダイオード21を駆動するためのパルスを供給し、フォトダイオード21を行単位で駆動する。即ち、垂直駆動回路4は、各フォトダイオード21を行単位で順次垂直方向に選択走査する。そして、画素駆動線8に対して垂直に配線された垂直信号線9を通して、各フォトダイオード21において受光量に応じて生成した信号電荷に基づく画素信号をカラム信号処理回路5に供給する。
【0050】
カラム信号処理回路5は、1行分のフォトダイオード21から出力される信号に対して画素列ごとにノイズ除去等の信号処理を行う。即ちカラム信号処理回路5は、画素固有の固定パターンノイズを除去するための相関二重サンプリング(CDS:Correlated Double Sampling)や、信号増幅、アナログ/デジタル変換(AD:Anlog/Digital Conversion)等の信号処理を行う。
【0051】
水平駆動回路6は、例えばシフトレジスタによって構成され、水平走査パルスを順次出力することによって、カラム信号処理回路5の各々を順番に選択し、カラム信号処理回路5の各々から画素信号を出力させる。
【0052】
システム制御回路7は、入力クロックと、動作モード等を指定するデータを受け取り、またケミカルセンサ3の内部情報等のデータを出力する。即ち、システム制御回路7は、垂直同期信号、水平同期信号及びマスタクロックに基づいて、垂直駆動回路4、カラム信号処理回路5及び水平駆動回路6などの動作の基準となるクロック信号や制御信号を生成する。そして、システム制御回路7は、これらの信号を垂直駆動回路4、カラム信号処理回路5及び水平駆動回路6等に入力する。
【0053】
以上のように、垂直駆動回路4、カラム信号処理回路5、水平駆動回路6及びシステム制御回路7と、後述するフォトダイオード21に設けられた画素回路とによって、各フォトダイオード21を駆動する駆動回路が構成されている。
【0054】
[ケミカルセンサの構造]
上記ケミカルセンサ3の構造について説明する。
【0055】
図2は、本実施形態に係るケミカルセンサ3の構造を示す断面図である。同図に示すようにケミカルセンサ3は、基板2上に形成されたフォトダイオード21と、当該基板2上に形成された保護絶縁層31、分光層32、オンチップレンズ33、反射防止層34、平坦化層35、表面層36及びプローブ材料層37を有する。
【0056】
基板2上に保護絶縁層31が積層され、保護絶縁層31上に分光層32が積層されている。分光層32上にオンチップレンズ33が形成され、オンチップレンズ33は反射防止層34によって被覆されている。反射防止層34上には平坦化層35が積層され、平坦化層35には表面層36が積層されている。表面層36にはプローブ材料層37が積層されている。
【0057】
基板2は例えば単結晶シリコンからなり、基板2の一主面側を受光面とし、受光面側の表面層には、不純物領域からなるフォトダイオード21が形成されている。フォトダイオード21は、図1に示すように、二次元的に配列形成されている。
【0058】
なお、フォトダイオード21は、図示したように基板2における受光面側となる一主面側のみに設けられるか、または一主面側から他の主面側にかけて設けられていても良い。ケミカルセンサ3は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device)型の素子構造であるものとすることができ、必要に応じてここでの図示を省略した素子分離やフローティングディフュージョンなどの他の不純物領域が配置されていることとする。
【0059】
また、フォトダイオード21を含む不純物領域が設けられた基板2上には、ここでの図示を省略したゲート絶縁膜やゲート電極等が配置されていても良い。この場合、ゲート絶縁膜やゲート電極を覆う状態で、保護絶縁層31が配置されているものとする。また、ゲート絶縁膜やゲート電極を含む画素回路は、基板2における受光面とは反対側の面に配置されていても良い。
【0060】
保護絶縁層31は、絶縁性材料からなり、基板2を上層から絶縁する。保護絶縁層31は、少なくとも蛍光波長を透過させるものとする必要がある。
【0061】
分光層32は、励起光波長を減衰させ、蛍光波長を透過させる分光材料からなる。分光層32は、このような顔料や染料を用いたカラーフィルタでもよく、多層膜干渉を用いたカラーフィルタでもよい。なお、分光層32は異なる位置、例えば、平坦化層35と表面層36の間に設けられてもよい。
【0062】
オンチップレンズ33は、入射する蛍光をフォトダイオード21に集光する。オンチップレンズ33は、各フォトダイオード21に対応して設けられ、光入射方向に対して凸となる半球形状を有するものとすることができる。なお、オンチップレンズ33は複数のフォトダイオード21に対して一つが設けられてもよいが、一つのフォトダイオード21に対して一つのオンチップレンズ33が対応している方が効率的に集光することができる。
【0063】
また、オンチップレンズ33の形状も半球形状には限られず、他のレンズ形状とすることも可能である。以下、オンチップレンズ33の屈折率を屈折率n0とする。なお、屈折率n0及び以下で示す屈折率は、撮像波長である可視光の中心付近の波長λ=550nmに対する屈折率であるものとする。
【0064】
オンチップレンズ33は、少なくとも検出対象の蛍光波長域に透過性を有する材料からなり、後述する平坦化層35との屈折率差が大きい材料が好適である。このような材料としては、窒化シリコン(屈折率n0=1.9)、窒化酸化シリコン(屈折率n0=1.85)、酸化チタン分散ポリシロキサン樹脂(屈折率n0=1.8)、酸化チタン分散アクリル樹脂(屈折率n0=1.8)等が挙げられる。
【0065】
反射防止層34は、オンチップレンズ33表面での反射を防止するための層であり、オンチップレンズ33に沿ってコンフォーマルに形成されるものとすることができる。反射防止層34は、窒化酸化シリコン等からなるものとすることができ、図に示すように多層構造とすることも可能である。
【0066】
平坦化層35は、オンチップレンズ33を被覆して、基板2に平行なプローブ保持面35aを形成する。オンチップレンズ33は半球形状等のレンズ形状に形成されているが、平坦化層35はこの形状を埋め込むことによって、プローブ材料を保持するためのプローブ保持面35aを形成するものである。平坦化層35は、は、オンチップレンズ33によるフォトダイオード21への集光特性が維持できる程度に、オンチップレンズ33の屈折率n0との差が十分に大きい屈折率を有する材料によって構成される。以下、平坦化層35の屈折率を屈折率n1とする。
【0067】
ここでは、オンチップレンズ33が凸型のレンズであるため、平坦化層35は屈折率が小さい材料を用いて形成され、オンチップレンズ33の屈折率n0と平坦化層35の屈折率n1とはn1<n0である。平坦化層35の厚さは、オンチップレンズ33のレンズ形状を埋め込むことができる程度の厚さであればよい。
【0068】
オンチップレンズ33には、平坦化層35を大気と置き換えた場合と同程度に小さい焦点距離が求められ、屈折率差|n0−n1|≧0.4となるような材料が選択される。平坦化層35を構成する材料の選択に際しては、平坦化層35の厚膜化を考慮する必要はない。
【0069】
具体的には、オンチップレンズ33が窒化シリコン(屈折率n0=1.9)を用いて構成されている場合であれば、平坦化層35は、屈折率n1=1.5以下の材料を用いることが好ましい。このような材料としては、フッ素含有ポリシロキサン樹脂(屈折率n1=1.42)、フッ素含有アクリル樹脂(屈折率n1=1.42)、中空シリカ粒子含有ポリシロキサン樹脂(屈折率n1=1.35)が例示される。
【0070】
表面層36は、プローブ材料が固着される層である。表面層36は、上記オンチップレンズ33が平坦化層35によって平坦化されているため、平坦に形成することが可能となる。表面層36はダイヤモンド、窒化シリコン、酸化シリコン等からなるものとすることができ、このうち、ダイヤモンドとすることにより、後述する表面処理によってプローブ材料と表面層36の間に強固な結合を形成することが可能となる。
【0071】
表面層36には、プローブ材料との密着性を向上させるための表面処理を施すことができる。表面層36がダイヤモンドからなる場合、アンモニアガス雰囲気中での紫外線照射によりアミノ化させることができる。これにより、プローブ材料を表面層36に固着させる際、プローブ材料にカルボン酸を導入しておくことにより、表面層36とプローブ材料の間でアミノ結合を生成させ、両者を化学的に固着させることが可能となる。また、表面層36が酸化シリコンからなる場合には、シランカップリング処理により官能基を導入し、プローブ材料と結合させることが可能となる。
【0072】
なお、上記表面処理は、表面層36の全体ではなく、任意の領域に限って施すことが可能である。表面処理をオンチップレンズ33に対向する領域毎に施すことによって、後述するプローブ材料をオンチップレンズ33毎に表面層36に固着させることが可能となる。
【0073】
ケミカルセンサ3は、この状態でユーザに提供され、ユーザが任意のプローブ材料をプローブ保持面35aに固着させて用いることも可能である。
【0074】
プローブ材料層37は、プローブ材料(DNA(Deoxyribonucleic acid)、RNA(ribo nucleic acid)、タンパク質又は抗原からなり、プローブ保持面35aに固着されている。上記のようにプローブ保持面35aのオンチップレンズ33に対向する領域に表面処理が施されている場合には、プローブ材料層37は表面処理が施された領域のみに形成される。これにより、プローブ材料層37の一つの領域がそれぞれ一つのオンチップレンズ33及びフォトダイオード21に対応し、高精度な蛍光の検出を可能とする。
【0075】
プローブ材料層37とフォトダイオード21の間の距離は、10μm以下とするのが好適である。これ以上の距離となってしまうと、プローブ材料層37からの発光がフォトダイオード21に充分に集光されず、感度及び精度の劣化するおそれがある。
【0076】
ケミカルセンサ3は以上のように構成される。プローブ材料層37から生じた蛍光は、オンチップレンズ33によってフォトダイオード21に集光され、検出される。平坦化層35又はその直上に形成される表面層36上にプローブ材料層37が積層されるため、プローブ材料層37からフォトダイオード21までの距離を短くすることが可能であり、蛍光の集光率を向上させることが可能である。
【0077】
[ケミカルセンサの作製方法]
上記ケミカルセンサ3の作製方法について説明する。
【0078】
まず単結晶シリコン等からなる基板2の一主面側に、マスク上からのイオン注入と熱処理によって不純物領域からなるフォトダイオード21を形成する。さらに基板2の内部に他の不純物領域を形成し、さらに該基板上にゲート絶縁膜およびゲート電極を形成してもよい。
【0079】
次にフォトダイオード21が形成された基板2上に保護絶縁層31を積層する。この際、保護絶縁層31は、この後に形成するオンチップレンズ33の焦点距離を考慮し、オンチップレンズ33の焦点がフォトダイオード21内に位置する程度の膜厚が好適である。
【0080】
さらに、保護絶縁層31上に、分光層32を積層する。分光層32はスピンコート法等により積層することができる。次に、分光層32上にオンチップレンズ33を形成する。オンチップレンズ33は、オンチップレンズ33の構成材料からなる膜(以下、材料膜)を成膜し、それを成型することによって形成することができる。
【0081】
具体的には、材料膜上に、各フォトダイオード21に対応した島状のレジストパターンを形成する。その後、メルト・フロー法によりレジストパターンを流動させ、表面張力によって凸型のレンズ形状に成型する。
【0082】
凸型のレンズ形状を有するレジストパターンの上部から、レジストパターンと共に材料膜をエッチングすることにより、レジストパターンの曲面形状を材料膜に転写することができる。これにより、凸型のオンチップレンズ33を、各フォトダイオード21上に形成させることができる。オンチップレンズ33上には、必要に応じて反射防止層34を積層することができる。
【0083】
次に、オンチップレンズ33(又は反射防止層34)上に、平坦化層35を積層する。平坦化層35は、スピンコート法等により積層することができる。ここで、平坦化層35の構成材料の溶液(以下、材料溶液)が低粘度である場合、オンチップレンズ33上へのスピンコートによる溶液の塗布膜厚には限界がある。
【0084】
しかしながら、オンチップレンズ33のレンズ形状を埋め込んで材料溶液が塗布されれば良いため、塗布膜厚の厚膜化が要求されることはなく、例えばオンチップレンズ33の頂部から1μm程度の塗布膜厚で材料溶液を塗布することができる。むしろ、材料溶液が低粘度である場合、オンチップレンズ33の埋め込み性が良好となり、ボイド起因による画質欠陥が少ない良好な画質を提供することが可能となる。その後、熱処理等によって、材料溶液を硬化させ、平坦化層35を形成させることができる。
【0085】
さらに、必要に応じて、平坦化層35上に表面層36を積層する。表面層36は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって形成することができる。表面層36は、上記のようにプローブ材料との結合性を向上させる表面処理を施すことができる。なお、この表面処理は、オンチップレンズ33に対向する領域のみに形成することができる。
【0086】
最後に、表面層36又は平坦化層35上にプローブ材料層37を積層する。プローブ材料層37は、プローブ材料を表面層36又は平坦化層35上に滴下等して結合させることにより形成させることができる。表面層36に上記表面処理が施されている場合には、表面処理が施された領域のみにプローブ材料層37を積層することが可能である。
【0087】
ケミカルセンサ3は以上のようにして作製することが可能である。
【0088】
[ケミカルセンサを用いた生体分子検出方法]
上述したケミカルセンサ3を用いた生体分子検出方法について説明する。
【0089】
ターゲット材料の検出においては、たとえば、プローブ材料としてDNAを用いる場合は、5’−fluorescein化されたDNAを用いることができる。この5’−fluorescein化されたDNAに対し、サンプル中に、相補的な配列を有するDNAが含有されていると、ハイブリダイゼーション反応がおき、プローブ材料は、single−stranded DNA(ss−DNA)から、double−stranded DNA(ds−DNA)となる。この変化により、蛍光分子の周囲の誘電率が変化することにより、蛍光の発光波長・強度が変化することを、フォトダイオード21によって検出する。
【0090】
又は、プローブ材料としてDNAを用いる場合は、プローブ材料としては、蛍光標識をしていないDNAを用い、サンプル側に、5’−fluorescein化されたDNAを用いることが例示される。この場合は、プローブ材料としてのDNAに、相補的な配列を有するDNAが、サンプルに含有されていると、ハイブリダイゼーション反応がおき、蛍光標識を有するds−DNAとなる。この蛍光標識からの蛍光の発光をフォトダイオード21によって検出する。
【0091】
もしくは、プローブ材料としてDNAを用いる場合は、プローブ材料としては、蛍光標識をしていないDNAを用い、サンプル側にも蛍光色素を導入しない。この場合は、プローブ材料としてのDNAに、相補的な配列を有するDNAが、サンプルに含有されていると、ハイブリダイゼーション反応がおき、ds−DNAとなる。ついで、ds−DNAのみを選択的に染色し蛍光標識を行う処理を、例えば、Molecular probe社のPicoGreen 2本鎖DNA定量試薬をもって行うことにより、ds−DNA部に蛍光標識を導入する。この蛍光標識からの蛍光の発光をフォトダイオード21によって検出する。
【0092】
上記のようにプローブ材料層37において生じた、ターゲット材料とプローブ材料の結合に起因する蛍光は、表面層36及び平坦化層35を透過して、オンチップレンズ33に入射する。この際、オンチップレンズ33の表面に形成された反射防止層34により、蛍光の反射が防止される。オンチップレンズ33に入射した蛍光は、オンチップレンズ33により集光され、分光層32によって励起光が除去され、保護絶縁層31を透過してフォトダイオード21に到達する。
【0093】
オンチップレンズ33によって蛍光を集光させることにより、フォトダイオード21に到達する蛍光の強度を向上させ、かつ隣接するフォトダイオード21との間でのクロストークを防止することが可能となる。
【0094】
[ケミカルセンサモジュール]
上記ケミカルセンサ3は、ケミカルセンサ3に励起光を照射する励起光源とモジュール化をすることが可能である。図3は、ケミカルセンサモジュール100を示す模式図である。同図に示すように、ケミカルセンサモジュール100は、ケミカルセンサ3に励起光源101が一体的に接続されて構成されている。なお、図3においては、ケミカルセンサ3に励起光源101が密着している形で記載しているが、必ずしも、その必要はなく、ケミカルセンサ3と励起光源101の間にある程度の距離があってもよい。
【0095】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態に係る生体分子検出装置について説明する。本実施形態に係る生体分子検出装置においては、ケミカルセンサの構成が第1の実施形態に係る生体分子検出装置と異なる。以下、本実施形態において、第1の実施形態に係る生体分子検出装置と同一の構成については説明を省略する。
【0096】
[ケミカルセンサの構造]
本実施形態に係る生体分子検出装置のケミカルセンサの構造について説明する。図3は本実施形態に係るケミカルセンサ200の構造を示す模式図である。同図に示すように、ケミカルセンサ3は、第1の実施形態に係るケミカルセンサ3の構造に加え、遮光壁201を有する。
【0097】
遮光壁201は、特定のフォトダイオード21に対応するプローブ材料層37から生じた蛍光が、隣接するフォトダイオード21によって検出されるクロストークを防止するための構造である。遮光壁201は、各オンチップレンズ33の間に、平坦化層35から保護絶縁層31に渡って形成されたものとすることができる。又、遮光壁201は、平坦化層35のみや、平坦化層35及び分光層32等、層構造の一部に渡って形成されたものとしてもよい。
【0098】
遮光壁201は、次のようにして作成することができる。即ち、平坦化層35を設けた後、フォトレジストを塗布し、パターニングをすることで、遮光壁201を作製する部分のフォトレジストを除去する。次に、ドライエッチング法により平坦化層35等を除去し、フォトレジストも除去した後、ネガ型の黒色レジストを塗布し、遮光壁201を作成する部分のみに露光する。これにより、黒色レジストからなる遮光壁201を埋め込むことが可能となる。
【0099】
本実施形態に係るケミカルセンサ200においては、特定のフォトダイオード21に対応するプローブ材料層37から生じた蛍光が遮光壁201によって遮光される。これにより、フォトダイオード21間のクロストークを防止することができ、高い検出精度を得ることが可能である。
【0100】
本技術は上記各実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。
【実施例】
【0101】
下記の実施例又は比較例に示すケミカルセンサを作成し、蛍光強度を測定した。その測定結果を図4に示す。
【0102】
[ケミカルセンサA]
単結晶シリコンからなる基板の一主面側に、マスク上からのイオン注入とその後の熱処理によって不純物領域からなるフォトダイオードを形成し、更に、基板の内部に他の不純物領域を形成し、さらに該基板上にゲート絶縁膜およびゲート電極を形成した。その後、基板上に保護絶縁層を成膜した。この際、保護絶縁層は、以降に形成するオンチップレンズの焦点距離を考慮し、オンチップレンズの焦点がフォトダイオード内に位置するように調整された膜厚とした。
【0103】
その後、保護絶縁層上に、赤色のカラーフィルタ(波長550nm以上を透過)からなる分光層を形成した。次に、分光層上に、窒化シリコン(屈折率n0=1.9)からなるオンチップレンズを形成した。この際、まず分光層上に窒化シリコン膜を成膜し、その上に書くフォトダイオードに対応した島状のレジストパターンを形成した。
【0104】
次に、メルト・フロー法を適用し、熱処理を行うことによりレジストパターンを流動させ、表面張力によって凸型のレンズ形状に整形した。その後、凸型のレンズ形状を有するレジストパターンの上部から、レジストパターンと共に窒化シリコン膜をエッチングし、レジストパターンの曲面形状を窒化シリコン膜に転写した。これにより、窒化シリコンからなる凸型のオンチップレンズを、各フォトダイオード上に形成させた。
【0105】
次いでオンチップレンズのレンズ形状を埋め込む状態で、平坦化層を成膜した。ここでは、オンチップレンズを構成する窒化シリコンに対して、十分な屈折率差を有する透明材料を用いた。このような材料として、ここではフッ素含有ポリシロキサン樹脂(屈折率n1=1.42)を用い、スピンコート法を適用して平坦化層を成膜した。
【0106】
この際、溶媒としてプロプレングリコールモノメチルエーテルアセテ−ト(PEGMEA)にフッ素含有ポリシロキサン樹脂を溶解させた溶液を、オンチップレンズ上にスピンコートした。PEGMEAに対するフッ素含有ポリシロキサン樹脂の飽和溶解量は小さく、溶液は極めて低粘度であるが、オンチップレンズの頂部から1μm程度の塗布膜厚で溶液を塗布した。
【0107】
その後、120℃、1分間の熱処理によって、オンチップレンズ上に塗布した溶液中の溶媒を乾燥除去し、引き続き230℃、5分間の熱処理によってフッ素含有ポリシロキサン樹脂を十分に硬化させた。これにより、オンチップレンズのレンズ形状が埋め込まれ、平坦に成型されたフッ素含有ポリシロキサン樹脂からなる平坦化層を形成した。
【0108】
次に、ダイヤモンドからなる表面層を、メタンと水素からなる混合ガスを用いたCVDにより積層した。更に、アンモニアガス雰囲気中でのUV照射により、ダイヤモンドの表面をアミノ化した。このようにして作製したケミカルセンサのフォトダイオードと表面層表面の間の距離は7μmとなった。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサAとする。
【0109】
[ケミカルセンサB]
上記ケミカルセンサAにおいて、表面層をダイヤモンドに替えてケイ素酸化物からなるものとした。具体的には、平坦化層上に、CVDによりケイ素酸化物を積層した。更に、このケイ素酸化物からなる表面層の酸素アッシング処理し、アミノ系シランカップリング剤にて処理を行い、表面をアミノ化した。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサBとする。
【0110】
[ケミカルセンサC]
上記ケミカルセンサAにおいて、平坦化層を形成する際、スピンコートの膜厚を変え、更に、平坦化層の塗布を4回行うことで平坦化層の膜厚を厚くし、フォトダイオードと表面層表面の間の距離を11μmとした。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサCとする。
【0111】
[ケミカルセンサD]
上記ケミカルセンサBにおいて、平坦化層を形成する際、スピンコートの膜厚を変え、更に、平坦化層の塗布を4回行うことで平坦化層の膜厚を厚くし、フォトダイオードと表面層表面の間の距離を11μmとした。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサDとする。
【0112】
[ケミカルセンサE]
上記ケミカルセンサAにおいて、オンチップレンズを形成せず、オンチップレンズ及び平坦化層の部分に、透明樹脂(アクリル系)をオンチップレンズ及び平坦化層の膜厚と同じになるように形成した。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサEとする。
【0113】
[ケミカルセンサF]
上記ケミカルセンサBにおいて、オンチップレンズを形成せず、オンチップレンズ及び平坦化層の部分に、透明樹脂(アクリル系)をオンチップレンズ及び平坦化層の膜厚と同じになるように形成した。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサFとする。
【0114】
[ケミカルセンサG]
上記ケミカルセンサAにおいて、平坦化層を形成する際、スピンコートの膜厚を変え、更に、平坦化層の塗布を4回行うことで平坦化層の膜厚を厚くし、フォトダイオードと表面層表面の間の距離を10μmとした。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサGとする。
【0115】
[ケミカルセンサH]
上記ケミカルセンサBにおいて、平坦化層を形成する際、スピンコートの膜厚を変え、更に、平坦化層の塗布を4回行うことで平坦化層の膜厚を厚くし、フォトダイオードと表面層表面の間の距離を10μmとした。このようにして作製したケミカルセンサをケミカルセンサHとする。
【0116】
[蛍光強度測定]
上記のようにしてそれぞれ作製したケミカルセンサA〜Hについて、次のようにして蛍光強度測定を実施した。
【0117】
ケミカルセンサにコハク酸による処理を行い、表面にカルボキシル基を生成させ、ついで、5‘−末端をアミノ化したオリゴヌクレオチド(DNA)を反応させた。該オリゴヌクレオチドは、20merであり、その配列は、AAAATAAAATAAAATAAAATである(緩衝液:PBS(Sodium phosphate:10mM;NaCl:0.1M))。緩衝溶液を、ケミカルセンサに滴下し、50℃で、1時間放置した。
【0118】
反応後の洗浄には、PBS−Tween(Sodium phosphate:10mM;NaCl:0.1M;0.65%(w/v)Tween 20)を用いた。
【0119】
これに対して、サンプルDNAとして、5‘−末端が、Fluorescein化されたオリゴヌクレオチドを準備した。尚、準備したオリゴヌクレオチドの配列は、上記配列の相補的な配列であるTTTTATTTTATTTTATTTTA(配列1)と、相補的ではない、CCCCGCCCCGCCCCGCCCCG(配列2)である。
【0120】
これらのサンプルDNAのPBS緩衝液を、ケミカルセンサ上に滴下し、ハイブリダイゼーション反応(1時間)を起こさせたのち、ケミカルセンサを、PBS−Tweenにて洗浄した。
【0121】
洗浄後のケミカルセンサからの蛍光の強度を、波長:490nmの光で励起して計測した。センサのカラーフィルタの特性により、Fluoresceinから出る蛍光のうち、波長:550nm以上の成分の強度を計測する形となった。計測された強度を図4に示す。尚、表中で、「比」とあるのは、配列1と配列2での強度比であり、この比が大きいほど、誤検出の割合を減らすことができる。
【0122】
[測定結果について]
サンプルDNAを充分な信頼性を持って検出するためには、今回用いた計測システムでは、強度として、約200以上の輝度を必要とする。図4より明らかなように、ケミカルセンサのフォトダイオードと表面層の表面の距離が10μmを超えると、充分な強度を得ることができなくなる。又、オンチップレンズを除いても同様で、充分な強度を得ることができなくなってしまう。さらに、配列1と配列2での強度比を見ると、表面層がダイヤモンドである場合の方がケイ素酸化物の場合よりも値が大きくなることが分かる。即ち、表面層の材質としてダイヤモンドを用いることにより、誤検出の少ないより精度のよい検出が可能となる。
【0123】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
【0124】
(1)
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、
上記基板上に設けられた、入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、
上記オンチップレンズを被覆して平坦化し、プローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層と
を具備するケミカルセンサ。
【0125】
(2)
上記(1)に記載のケミカルセンサであって、
前記入射光は、前記プローブ材料とターゲット材料の結合に起因する蛍光である
ケミカルセンサ。
【0126】
(3)
上記(1)又は(2)に記載のケミカルセンサであって、
上記基板と上記オンチップレンズの間、又は上記オンチップレンズと上記プローブ保持面の間に積層された、分光材料からなる分光層
をさらに具備するケミカルセンサ。
【0127】
(4)
上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記平坦化層に積層された、上記プローブ材料が固着する表面層
をさらに具備する
ケミカルセンサ。
【0128】
(5)
上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記表面層は、ダイヤモンドからなり、アンモニアガス雰囲気中での紫外線照射による表面処理が施されている
ケミカルセンサ。
【0129】
(6)
上記(1)から(5)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記表面処理は、上記オンチップレンズのそれぞれに対向する領域に形成されている
ケミカルセンサ。
【0130】
(7)
上記(1)から(6)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって
上記オンチップレンズは、上記フォトダイオードのそれぞれに対して一つずつ設けられ、入射光を上記フォトダイオードのそれぞれに集光する
ケミカルセンサ。
【0131】
(8)
上記(1)から(7)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって
上記オンチップレンズのそれぞれの間に設けられた遮光壁
をさらに具備するケミカルセンサ。
【0132】
(9)
上記(1)から(8)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって
上記平坦化層は、上記オンチップレンズとの屈折率差が0.4以上である材料からなる
ケミカルセンサ。
【0133】
(10)
上記(1)から(9)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって
上記平坦化層に積層されたプローブ材料からなるプローブ材料層
をさらに具備するケミカルセンサ。
【0134】
(11)
上記(1)から(10)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって
上記プローブ材料層と上記フォトダイオードの間の距離は10μm以下である
ケミカルセンサ。
【0135】
(12)
上記(1)から(11)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記プローブ材料層は、上記オンチップレンズのそれぞれに対向するように、区画されている
ケミカルセンサ。
【0136】
(13)
上記(1)から(12)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記プローブ材料は、DNA、RNA、タンパク質又は抗原である
ケミカルセンサ。
【0137】
(14)
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサと、
上記ケミカルセンサに一体的に装着され、上記ケミカルセンサに励起光を照射する励起光源と
を具備するケミカルセンサモジュール。
【0138】
(15)
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサと、
上記ケミカルセンサに接続され、上記フォトダイオードの出力信号を処理する信号処理回路と
を具備する生体分子検出装置。
【0139】
(16)
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、上記基板上に設けられた入射光を上記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、上記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサを準備し、
プローブ材料を上記平坦化層に積層させてプローブ材料層を形成し、
測定対象物質を上記プローブ材料層に接触させて、上記測定対象物質に含まれたターゲット材量を上記プローブ材料と結合させ、
上記プローブ材料と結合しなかった測定対象物質を除去し、
上記ケミカルセンサに励起光を照射し、
上記ターゲット材料と上記プローブ材料の結合に起因する蛍光を上記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【0140】
(17)
上記(16)に記載の生体分子検出方法であって、
上記蛍光を検出するステップでは、予め蛍光標識されている上記プローブ材料と上記ターゲット材料の相互作用による蛍光の波長及び輝度の変化を上記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【0141】
(18)
上記(16)又は(17)に記載の生体分子検出方法であって、
上記蛍光を検出するステップでは、上記プローブ材料と結合した予め蛍光標識されているターゲット材料による蛍光を上記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【0142】
(19)
上記(16)から(18)のうちいずれか一つに記載のケミカルセンサであって、
上記蛍光を検出するステップでは、上記プローブ材料と上記ターゲット材料の結合体に対して蛍光標識を実施し、その蛍光を上記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【符号の説明】
【0143】
1…生体分子検出装置
2…基板
3…ケミカルセンサ
21…フォトダイオード
31…保護絶縁層
32…分光層
33…オンチップレンズ
34…反射防止層
35…平坦化層
35a…プローブ保持面
36…表面層
37…プローブ材料層
100…ケミカルセンサモジュール
101…励起光源
200…ケミカルセンサ
201…遮光壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、
前記基板上に設けられた、入射光を前記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、
前記オンチップレンズを被覆して平坦化し、プローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層と
を具備するケミカルセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記入射光は、前記プローブ材料とターゲット材料の結合に起因する蛍光である
ケミカルセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記基板と前記オンチップレンズの間、又は前記オンチップレンズと前記プローブ保持面の間に積層された分光材料からなる分光層
をさらに具備するケミカルセンサ。
【請求項4】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記平坦化層に積層された、前記プローブ材料が固着する表面層
をさらに具備する
ケミカルセンサ。
【請求項5】
請求項4に記載のケミカルセンサであって、
前記表面層は、ダイヤモンドからなり、アンモニアガス雰囲気中での紫外線照射による表面処理が施されている
ケミカルセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のケミカルセンサであって、
前記表面処理は、前記オンチップレンズのそれぞれに対向する領域に形成されている
ケミカルセンサ。
【請求項7】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記オンチップレンズは、前記フォトダイオードのそれぞれに対して一つずつ設けられ、入射光を前記フォトダイオードのそれぞれに集光する
ケミカルセンサ。
【請求項8】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記オンチップレンズのそれぞれの間に設けられた遮光壁
をさらに具備するケミカルセンサ。
【請求項9】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記平坦化層は、前記オンチップレンズとの屈折率差が0.4以上である材料からなる
ケミカルセンサ。
【請求項10】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記平坦化層に積層されたプローブ材料からなるプローブ材料層
をさらに具備するケミカルセンサ。
【請求項11】
請求項10に記載のケミカルセンサであって、
前記プローブ材料層と前記フォトダイオードの間の距離は10μm以下である
ケミカルセンサ。
【請求項12】
請求項10に記載のケミカルセンサであって、
前記プローブ材料層は、前記オンチップレンズのそれぞれに対向するように、区画されている
ケミカルセンサ。
【請求項13】
請求項1に記載のケミカルセンサであって、
前記プローブ材料は、DNA、RNA、タンパク質又は抗原である
ケミカルセンサ。
【請求項14】
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、前記基板上に設けられた入射光を前記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、前記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサと、
前記ケミカルセンサに一体的に装着され、前記ケミカルセンサに励起光を照射する励起光源と
を具備するケミカルセンサモジュール。
【請求項15】
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、前記基板上に設けられた入射光を前記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、前記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサと、
前記ケミカルセンサに接続され、前記フォトダイオードの出力信号を処理する信号処理回路と
を具備する生体分子検出装置。
【請求項16】
平面状に配列する複数のフォトダイオードが形成された基板と、前記基板上に設けられた入射光を前記フォトダイオードに集光するオンチップレンズと、前記オンチップレンズを被覆して平坦化しプローブ材料を保持するためのプローブ保持面を形成する平坦化層とを有するケミカルセンサを準備し、
プローブ材料を前記平坦化層に積層させてプローブ材料層を形成し、
測定対象物質を前記プローブ材料層に接触させて、前記測定対象物質に含まれたターゲット材量を前記プローブ材料と結合させ、
前記プローブ材料と結合しなかった測定対象物質を除去し、
前記ケミカルセンサに励起光を照射し、
前記ターゲット材料と前記プローブ材料の結合に起因する蛍光を前記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【請求項17】
請求項16に記載の生体分子検出方法であって、
前記蛍光を検出するステップでは、予め蛍光標識されている前記プローブ材料と前記ターゲット材料の相互作用による蛍光の波長及び輝度の変化を前記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【請求項18】
請求項16に記載の生体分子検出方法であって、
前記蛍光を検出するステップでは、前記プローブ材料と結合した予め蛍光標識されているターゲット材料による蛍光を前記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。
【請求項19】
請求項16に記載の生体分子検出方法であって、
前記蛍光を検出するステップでは、前記プローブ材料と前記ターゲット材料の結合体に対して蛍光標識を実施し、その蛍光を前記フォトダイオードによって検出する
生体分子検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88378(P2013−88378A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231470(P2011−231470)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】