説明

ケミカルフィルタ及びその製造方法

【解決課題】イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持されるケミカルフィルタを提供すること。
【解決手段】不織布をプリーツ加工して得られたケミカルフィルタであって、 該不織布が、スパンレース法により、繊維を交絡させて作製されたスパンレース不織布であり、該繊維には、放射線グラフト重合によりイオン交換基が導入されていること、を特徴とするケミカルフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体や液体中から悪臭物質を除去するためや、半導体、液晶、精密電子部品の製造工場のクリーンルーム又はクリーンルーム内で使用される装置に設置され、イオン性のガス状不純物を除去するため等に用いられるケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造、液晶製造等の先端産業では、製品の歩留まりや品質、信頼性を確保するため、クリーンルーム内の空気や製品表面の汚染制御が重要となっている。特に、半導体産業分野では、製品の高集積度化が進むにつれ、HEPA、ULPA等を用いた粒子状汚染物質の制御に加え、イオン性ガス状汚染物質(塩基性ガス及び酸性ガス)の制御が不可欠となっている。このうち、例えば、塩基性ガスであるアンモニアは、半導体製造時の露光工程において、露光時の解像性の悪化や、ウエハー表面の曇りの原因になるとされている。また、酸性ガスであるSOXは、半導体製造時の熱酸化膜形成工程において、基板内に積層欠陥を引き起こして、デバイス特性や信頼性を悪化させる原因となる。
【0003】
このように、イオン性ガス状汚染物質は、半導体製造等において、種々の問題を引き起こすため、半導体製造等で使用されるクリーンルーム内では、イオン性ガス状汚染物質の濃度が1ppb以下であることが望まれている。
【0004】
このような場合、イオン交換基が導入された不織布を加工して得られるケミカルフィルタが用いられる。例えば、特開平11−290702号公報(特許文献1)には、スパンボンド法の一種であるメルトブロー法によって作成された平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維よりなる不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタ、メルトブロー法によって平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維によりウエブが形成され、水流交絡法によって作成された不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタ、及びメルトブロー法によって平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維により作成されたウエブと、平均繊維径が50μm以下のスパンボンド法によって作成されたウエブあるいは短繊維のウエブとの少なくとも2層以上が熱圧着により積層一体化された不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタが開示されている。
【0005】
また、特開平8−199480号公報(特許文献2)には、芯鞘構造の繊維を用いて、サーマルボンド法により得られた不織布に対し、放射線グラフトを行い、不織布にイオン交換基を導入して得られるガス吸着材が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−290702号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−199480号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クリーンルーム等に設置されるケミカルフィルタには、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が高いことに加えて、該除去性能が長期に亘って維持されること、すなわち、寿命が長いことも要求される。
【0008】
ところが、上記特許文献1及び2のケミカルフィルタでは、寿命が不十分であるという問題があった。
【0009】
従って、本発明の課題は、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持されるケミカルフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、不織布をプリーツ加工して得られるケミカルフィルタにおいて、(1)該不織布をスパンレース法により交絡させて作製されたスパンレース不織布とし、且つ、放射線グラフト重合でイオン交換基を導入することにより、イオン交換基が均一に分散されたケミカルフィルタとすることができるので、長寿命のケミカルフィルタが得られること、(2)特に、該不織布を、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上からなるスパンレース不織布とし、且つ、放射線グラフト重合により、カチオン交換基の場合で5.0meq/g以上、アニオン交換基の場合で4.0meq/g以上のイオン交換基を導入することにより、イオン交換基が多量且つ均一に分散されたケミカルフィルタとすることができるので、長寿命のケミカルフィルタが得られること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、不織布をプリーツ加工して得られたケミカルフィルタであって、
該不織布が、スパンレース法により、繊維を交絡させて作製されたスパンレース不織布であり、
該繊維には、放射線グラフト重合によりイオン交換基が導入されていること、
を特徴とするケミカルフィルタを提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、有機繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたスパンレース不織布中の繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られたイオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工することを特徴とするケミカルフィルタの製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたイオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工することを特徴とするケミカルフィルタの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持される長寿命のケミカルフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のケミカルフィルタは、不織布をプリーツ加工して得られたケミカルフィルタであって、
該不織布が、スパンレース法により、繊維を交絡させて作製されたスパンレース不織布であり、
該繊維には、放射線グラフト重合によりイオン交換基が導入されているケミカルフィルタである。
【0016】
本発明のケミカルフィルタは、該不織布をプリーツ加工して得られるケミカルフィルタである。本発明のケミカルフィルタについて、図1を参照して説明する。図1は、本発明のケミカルフィルタの形態例を示す模式的な斜視図である。図1中、ケミカルフィルタ1は、3枚の不織布2を重ね合わせて、山部4で折りたたんで、プリーツ形状に成形したものであり、通常、該不織布2のひだの間には、該不織布2同士が接触しないように、スペーサー3が付設される。そして、該ケミカルフィルタ1では、該不織布2の山部4に対して垂直な方向(符号5a、5bの矢印の方向)に、被処理空気を通過させる。
【0017】
本発明のケミカルフィルタに係る該不織布は、高圧水流で繊維を交絡させるスパンレース法により作製されたスパンレース不織布である。
【0018】
本発明のケミカルフィルタに係る該不織布において、該不織布を形成している該繊維は、有機繊維であり、例えば、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維、コットンリンター繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。そして、該不織布を形成している該有機繊維のうち、イオン交換基の導入量が多くなり、ケミカルフィルタのイオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長くなる点で、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上の組合せが好ましく、レーヨン繊維が特に好ましい。レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維、特に、レーヨン繊維は、放射線グラフト重合の際に、重合モノマー溶液の添着率を高くすることができるので、イオン交換基の導入量が多くなる。また、該有機繊維の繊維径は、特に制限されず、好ましくは5〜20μmである。
【0019】
本発明のケミカルフィルタに係る該不織布において、高圧水流で繊維を交絡させてスパンレース不織布を作製する方法は、一般に、スパンレース法と呼ばれている方法である。該スパンレース法は、ウエブに対して、高圧の水をノズル等から噴射して、水流で繊維を交絡させる方法である。本発明のケミカルフィルタに係る該スパンレース法では、水の圧力や、処理をする回数等は、適宜選択される。
【0020】
該不織布を形成している繊維には、放射線グラフト重合によりイオン交換基が導入されている。よって、該不織布は、イオン交換基が導入されている不織布である。
【0021】
該不織布を形成している繊維に導入されている該イオン交換基は、カチオン交換基又はアニオン交換基のいずれかである。該カチオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基等が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。また、該アニオン交換基としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、メチルアミノ基等が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。
【0022】
本発明のケミカルフィルタにおいて、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法としては、例えば、(1)先ず、該有機繊維、好ましくはレーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維又はコットンリンター繊維を、該スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたスパンレース不織布中の繊維に、重合モノマーを放射線グラフト重合させることにより、該不織布を形成している繊維に、該イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法、(2)先ず、該有機繊維、好ましくはレーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維又はコットンリンター繊維に、重合モノマーを放射線グラフト重合させることにより、該繊維に該イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法が挙げられる。
【0023】
該放射線グラフト重合としては、例えば、(i)先ず、被重合体に対し、放射線を照射し、次いで、放射線照射後の該被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、該被重合体に、重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合、(ii)先ず、被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された被重合体を得、次いで、該被重合体に対し、放射線を照射し、該被重合体に、該重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合が挙げられる。該(i)及び該(ii)の放射線グラフト重合では、放射線を照射する前に、雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスで置換し、不活性雰囲気下で放射線グラフト重合を行う。なお、本発明において、該被重合体とは、該放射線グラフト重合が行われる対象を指し、該重合モノマーの重合鎖が導入されるものを指す。そして、該放射線グラフト重合としては、該(ii)の放射線グラフト重合が、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された被重合体の部分だけ窒素ガス等の不活性雰囲気にするだけでよいので、コスト的に安価であり好ましい。
【0024】
該放射線グラフト重合に係る該重合モノマーは、カチオン交換基を有する重合モノマー、カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマー、アニオン交換基を有する重合モノマー又はアニオン交換基の塩の基を有する重合モノマー、あるいは、該イオン交換基に適宜の方法で官能基変換可能な置換基を有する重合モノマーである。
【0025】
該不織布に導入される該イオン交換基がカチオン交換基の場合、該重合モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸、メタクリル酸、アリルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらは1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。なお、該重合モノマーが、該カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマーの場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、酸処理をすることにより、該カチオン交換基の塩の基を、該カチオン交換基に変換することができる。また、該カチオン交換基の塩の基とは、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムのスルホン酸ナトリウム基(−SONa)のように、カチオン交換基が中和された基を指す。
【0026】
また、例えば、該有機繊維が、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維等のように、水酸基を有する繊維の場合、これらの繊維からなる被重合体に、亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムの水溶液を、含浸させ又は塗布し、次いで、放射線を照射すると、これらの繊維に、スルホン酸基の塩の基(化学式:−SONa)を導入することができる。このように、本発明では、亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムのような、放射線を照射することにより、イオン交換基を繊維に導入することができる化合物も、該重合モノマーに含まれる。
【0027】
また、該不織布に導入される該イオン交換基がアニオン交換基の場合、該重合モノマーとしては、例えば、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクルリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。なお、該重合モノマーが、該アニオン交換基の塩の基を有する重合モノマーの場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、アルカリ処理をすることにより、該アニオン交換基の塩の基を、該アニオン交換基に変換することができる。
【0028】
該放射線グラフト重合において、照射する放射線は、紫外線、電子線、X線、α線、β線又はγ線等であり、好ましくは電子線及びγ線である。該放射線グラフト重合において、該放射線の照射線量は、グラフト重合の重合度により、適宜選択されるが、通常、電子線の場合で30〜200kGyが好ましく、γ線の場合で100〜800kGyが好ましい。
【0029】
該放射線グラフト重合において、該重合モノマー溶液の溶媒としては、水、アルコール等の親水性溶媒が挙げられる。該重合モノマー溶液中、該重合モノマーの濃度は、適宜選択されるが、40〜70質量%が好ましい。
【0030】
該イオン交換基が導入されている不織布のイオン交換容量は、カチオン交換基の場合5.0meq/g以上、好ましくは5.5〜6.0meq/gであり、アニオン交換基の場合4.0meq/g以上、好ましくは4.5〜5.0meq/gである。該不織布のイオン交換容量が、上記範囲内にあることにより、ケミカルフィルタの吸着容量が大きく且つ寿命が長くなる。
【0031】
該イオン交換基が導入されている不織布の目付けは、好ましくは50〜200g/m、特に好ましくは100〜160g/mである。また、該イオン交換基が導入されている不織布の厚みは、好ましくは0.3〜1.5mm、特に好ましくは0.6〜1.0mmである。
【0032】
本発明のケミカルフィルタは、該イオン交換基が導入されている不織布をプリーツ状に加工したものであれば、形状、大きさ、折ピッチ数等は、特に制限されない。また、図1には、該不織布を、3枚重ね合わせてプリーツ状に加工して得られるケミカルフィルタの形態例を示しているが、本発明のケミカルフィルタでは、該不織布を重ね合わせる枚数は、特に制限されず、通常1〜4枚、好ましくは2〜3枚である。
【0033】
本発明のケミカルフィルタは、半導体、液晶、精密電子部品製造工場のクリーンルーム及び該クリーンルーム内で使用される装置に設置されるケミカルフィルタとして好適に用いられる。
【0034】
また、本発明のケミカルフィルタにおいて、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法が、該(1)の方法、つまり、先ず、該有機繊維、好ましくはレーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維又はコットンリンター繊維を、該スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたスパンレース不織布中の繊維に、該重合モノマーを放射線グラフト重合させることにより、該不織布を形成している繊維に、該イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法の場合、該イオン交換基が導入される前の該スパンレース不織布の吸水率は、好ましくは50〜300質量%、特に好ましくは150〜200質量%である。該イオン交換基が導入される前の該スパンレース不織布の吸水率が、上記範囲内にあることにより、イオン交換基の導入量が多くなり、ケミカルフィルタのイオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0035】
なお、本発明において、不織布の吸水率は、以下の操作手順により求められる。先ず、測定対象の不織布を、水面に対して略平行になるように、水に浸漬して、不織布に水を吸水させる。次いで、水を吸水した不織布を、水面に対して略平行にしたまま、水から引き揚げ、水面より上の位置で、水ダレがしなくなるまで不織布を放置する。そして、吸水させる前の不織布の質量をA(g)、水ダレがしなくなった時の不織布の質量をB(g)として、下記式(1):
不織布の吸水率(%)={(B−A)/A}×100 (1)
により、不織布の吸水率を求める。
【0036】
また、本発明のケミカルフィルタにおいて、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法が、該(1)の方法の場合であって、且つ、該放射線グラフト重合が、該(ii)の方法、つまり、先ず、該スパンレース不織布(被重合体)に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された該スパンレース不織布を得、次いで、該スパンレース不織布に対し、放射線を照射し、該スパンレース不織布に、該重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合の場合、該スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率を、50〜300質量%とすることが好ましく、150〜200質量%とすることが特に好ましい。該スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率が、上記範囲内にあることにより、イオン交換基の導入量が多くなり、ケミカルフィルタのイオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長くなる。なお、本発明において、該スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布前の該スパンレース不織布の質量をC(g)、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の該スパンレース不織布の質量をD(g)として、下記式(2):
該スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率(%)={(D−C)/C}×100 (2)
により求められる。なお、該スパンレース不織布が吸収できる量以上の該重合モノマー溶液を含浸又は塗布した場合、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の該スパンレース不織布を、略水平に放置しておくと、該スパンレース不織布から液ダレが起こるので、この場合は、液ダレが起こらなくなった時の該スパンレース不織布の質量を、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の該スパンレース不織布の質量をD(g)とする。
【0037】
本発明の第一の形態のケミカルフィルタの製造方法は、有機繊維、好ましくはレーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたスパンレース不織布中の繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、イオン交換基が導入されている不織布を得、次いで、該イオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工するケミカルフィルタの製造方法である。
【0038】
また、本発明の第二の形態のケミカルフィルタの製造方法は、有機繊維、好ましくはレーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られる繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、イオン交換基が導入されている不織布を得、次いで、該イオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工するケミカルフィルタの製造方法である。
【0039】
本発明の第一の形態のケミカルフィルタの製造方法及び本発明の第二の形態のケミカルフィルタの製造方法において、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法は、本発明のケミカルフィルタにおいて、該イオン交換基が導入されている不織布を得る方法と同様であり、また、本発明の第一の形態のケミカルフィルタの製造方法及び本発明の第二の形態のケミカルフィルタの製造方法に係る該スパンレース法及び該放射線グラフト重合は、本発明のケミカルフィルタに係る該スパンレース法及び該放射線グラフト重合と同様である。
【0040】
本発明のケミカルフィルタでは、ケミカルフィルタを構成する不織布が、スパンレース法によって作製されたスパンレース不織布なので、繊維の分布が均一であり、且つ、該不織布には、イオン交換基が放射線グラフト重合を用いて導入されている。このことから、本発明のケミカルフィルタでは、ケミカルフィルタを構成する不織布中に、イオン交換基が均一に導入されているので、本発明のケミカルフィルタは、除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0041】
更に、本発明のケミカルフィルタでは、被重合体として、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維を用い、且つ、イオン交換基の導入方法として、放射線グラフト重合を用いることにより、ケミカルフィルタを構成する不織布中に、イオン交換基を多量且つ均一に導入することができる。このことにより、本発明のケミカルフィルタは、除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0042】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
(イオン交換基が導入されている不織布の作製)
スパンレース法によって、目付け160g/m、厚み0.9mm、繊維径約20μmのレーヨン製スパンレース不織布を作製した。次いで、得られたレーヨン製スパンレース不織布に、スチレンスルホン酸ナトリウム20質量%、アクリル酸40質量%を含有する重合モノマー水溶液を、300g/mの割合で塗布した。このとき、該レーヨン製スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、187.5%であった。
次いで、重合モノマー水溶液が塗布された不織布に、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射線量は、400kGyであった。
次いで、照射後の不織布を硫酸水溶液と接触させて、該不織布中のナトリウムをプロトン型(H型)に置換し、イオン交換基が導入されている不織布を得た。
該イオン交換基が導入されている不織布のイオン交換容量は5.8meq/gであった。
【0044】
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたイオン交換基が導入されている不織布を、下記の仕様でプリーツ加工し、ケミカルフィルタを製造した。
<仕様>
・ケミカルフィルタの寸法:厚さ150mm×幅130mm×高さ130mm(厚さ:図1中符号6、幅:図1中符号7、高さ:図1中符号8)
・折ピッチ:79山/m
【0045】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを、除去対象ガスをアンモニアとして、下記の試験条件で、寿命試験を行った。除去率が90%まで低下した時点を、ケミカルフィルタの寿命とした。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、400時間であった。
なお、実際のクリーンルーム等で問題となるアンモニアの濃度は、数体積ppbであるが、加速試験として、2000体積ppbの濃度条件で行った。
<試験条件>
・対象ガス:アンモニア 2000体積ppb
・通過風速:0.5m/秒
【0046】
(比較例1)
(イオン交換基が導入されている不織布の作製)
サーマルボンド法によって、目付け160g/m、厚み0.9mm、繊維径約20μmの芯鞘構造の繊維(芯部:ポリエチレンテレフタレート、鞘部:ポリエチレン)製サーマルボンド不織布を作製した。
次いで、得られたサーマルボンド不織布に、スチレンスルホン酸ナトリウム20質量%、アクリル酸40質量%を含有する重合モノマー水溶液を、300g/mの割合で塗布しようとしたが、液ダレが生じ、180g/mしか塗布できなかった。このとき、該サーマルボンド不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、112.5%であった。
次いで、該重合モノマーが塗布されたサーマルボンド不織布を、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射線量は、400kGyであった。
次いで、照射後の不織布を硫酸水溶液と接触させて、該不織布中のナトリウムをプロトン型(H型)に置換し、イオン交換基が導入されている不織布を得た。
該イオン交換基が導入されている不織布のイオン交換容量は4.4meq/gであった。
【0047】
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたイオン交換基が導入されている不織布を用いて、実施例1と同様の方法で行い、ケミカルフィルタを製造した。
【0048】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを用いて、実施例1と同様の方法で、ケミカルフィルタの寿命試験を行った。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、240時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長いケミカルフィルタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のケミカルフィルタの形態例の模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ケミカルフィルタ
2 不織布
3 スペーサー
4 山部
5 被処理空気の通気方向
6 厚み
7 幅
8 高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布をプリーツ加工して得られたケミカルフィルタであって、
該不織布が、スパンレース法により、繊維を交絡させて作製されたスパンレース不織布であり、
該繊維には、放射線グラフト重合によりイオン交換基が導入されていること、
を特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記スパンレース不織布を形成している繊維が、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上であること、
を特徴とする請求項1記載のケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記不織布のイオン交換容量が、前記イオン交換基がカチオン交換基の場合5.0meq/g以上であり、前記イオン交換基がアニオン交換基の場合4.0meq/g以上であること、
を特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
前記放射線グラフト重合において、イオン交換基が導入される前のスパンレース不織布への重合モノマー溶液の添着率が、50〜300質量%であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のケミカルフィルタ。
【請求項5】
前記放射線グラフト重合が、先に、被重合体に重合モノマー溶液を塗布又は含浸させ、次いで、該被重合体に放射線を照射する放射線グラフト重合であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のケミカルフィルタ。
【請求項6】
有機繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、次いで、得られたスパンレース不織布中の繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、イオン交換基が導入されている不織布を得、次いで、該イオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工することを特徴とするケミカルフィルタの製造方法。
【請求項7】
有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた繊維を、スパンレース法により交絡させてスパンレース不織布を作製し、イオン交換基が導入されている不織布を得、次いで、該イオン交換基が導入されている不織布を、プリーツ加工することを特徴とするケミカルフィルタの製造方法。
【請求項8】
前記有機繊維が、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6又は7いずれか1項記載のケミカルフィルタの製造方法。
【請求項9】
前記放射線グラフト重合において、イオン交換基が導入される前のスパンレース不織布への重合モノマー溶液の添着率が、50〜300質量%であることを特徴とする請求項6記載のケミカルフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−226380(P2009−226380A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78799(P2008−78799)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】