説明

ケラチナーゼおよびその製造法

【課題】安全な微生物菌株から、新たな性質を有するケラチナーゼを効率よく製造する方法、ならびに該方法により得られるケラチナーゼを提供する。
【解決手段】芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を25℃〜60℃の水に浸漬し、ケラチナーゼを抽出することを特徴とするケラチナーゼの製造方法、ならびに該方法により得られるケラチナーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチナーゼおよびその製造法に関する。詳細には、本発明は、芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を比較的高温の水に浸漬し、抽出を行うことを特徴とするケラチナーゼの製造方法、および該方法により得られるケラチナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケラチナーゼを選抜・取得するための方法としては、ケラチナーゼ活性を有する菌株を養鶏場等の土壌からスクリーニングし、得られた菌体そのものを利用する、あるいはそれらの菌体が有するケラチナーゼをコードする遺伝子をクローニングし、組換え発現させるというものであった(非特許文献1および2)。しかしスクリーニングにより得られた菌株には病原性を有する場合もあり、安全性に問題がある。したがって、安全性の高い菌株を用いてケラチナーゼを製造すること、ならびに安全性の高い菌株由来のケラチナーゼに対する必要性が生じている。
【0003】
さらに、新たな性質を有するケラチナーゼを探索する必要性もある。例えば、近年よく用いられている洗剤は弱酸性のものが多く、かかる条件下でも十分に作用するケラチナーゼを洗剤に配合する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Singh, C.J. "Characterization of an extracellular keratinase of Trichophyton simii and its role in keratin degradation." Mycopathologia, 137, 13-16 (1997)
【非特許文献2】Descamps, F., Brouta, F., Vermout, S., Monod, M., Losson, B., Mignon, B. "Recombinant expression and antigenic properties of a 31.5-kDa keratinolytic subtilisin-like serine protease from Microsporum canis."FEMS Immunol Med Microbiol.38, 29-34 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全な微生物菌株から、新たな性質を有するケラチナーゼを効率よく製造する方法を開発すること、ならびにそのような方法により得られるケラチナーゼを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記現状および課題に鑑みて鋭意研究を重ね、芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を比較的高温の水に浸漬し、抽出を行うことにより得られる抽出液がケラチナーゼを含有すること、得られたケラチナーゼが酸性領域において高い活性を有する新規なタイプのものであること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のものを提供する:
(1)芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を25℃〜60℃の水に浸漬し、ケラチナーゼを抽出することを特徴とするケラチナーゼの製造方法。
(2)穀物類が米または麦である(1)記載の方法。
(3)Aspergillus属が、酒造、焼酎、味噌、醤油製造用のものである(1)または(2)記載の方法。
(4)培養物を50〜60℃の水に浸漬する(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により得られるケラチナーゼ。
(6)至適pHがpH約3.5〜pH約5である(5)記載のケラチナーゼ。
(7)下記の特徴:
ケラチンに作用し、エラスチン、コラーゲンに作用しない
至適pHがpH約3.5〜pH約5である
pH4〜pH6で25℃、16時間置いた後に失活が認められない
約55℃までの温度にてpH4.5で1時間置いた後に失活が認められない
を有するAspergillus属由来のケラチナーゼ。
(8)(5)、(6)または(7)記載のケラチナーゼを含有する洗剤、化粧品または入浴剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効率的なケラチンの製造方法、ならびに酸性領域および高温において高い活性を有する新規ケラチナーゼが提供される。しかも本発明において使用する菌株は麹菌などの食品醸造用の菌株であるため安全性が高く、得られるケラチナーゼの毒性に関しても心配はない。また本発明により得られるケラチナーゼは、廃棄物中の毛髪などのケラチン含有タンパク質の分解や皮膚、爪及び毛髪のケア用化粧品・入浴剤などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のケラチナーゼ活性の経時的変化を示す。
【図2】本発明のケラチナーゼの至適pHを示す。
【図3】本発明のケラチナーゼのpH安定性を示す。
【図4】本発明のケラチナーゼの温度安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、1の態様において、芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を約25℃〜約60℃の水に浸漬し、ケラチナーゼの抽出を行うことを特徴とするケラチナーゼの製造方法に関するものである。
【0011】
本発明のケラチナーゼの製造方法の第1の工程は、芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行う工程である。Aspergillus属の微生物を接種する芋、豆、穀物類はAspergillus属の微生物が増殖しケラチナーゼを産生しうるものであればいずれの種類であってもよく、限定されない。芋の例としてはバレイショ、サツマイモ、キャッサバなどが挙げられる。豆の例としてはダイズ、アズキ、ナタマメなどが挙げられる。穀物類の例としては米、麦、アワ、キビ、ヒエ、コウリャンなどが例示される。Aspergillus属の微生物を接種して固体培養を行うのに好ましい穀物類は米および麦であり、なかでも米が好ましい。芋、豆、穀物類へのAspergillus属の微生物の接種方法はいずれの方法であってもよいが、好ましくは胞子を形成したAspergillus属の微生物の菌体またはAspergillus属の微生物の胞子を適量接種する。接種後、よく混合することが好ましい。典型的には種麹を芋、豆、穀物類に適量接種する。芋、豆、穀物類は加熱処理をしていなくてもよく、蒸煮などの加熱処理をしたものであってもよい。接種量は、使用する芋、豆、穀物類の種類、量および加熱処理の有無、接種されるAspergillus属の微生物の種類、固体培養条件などに応じて当業者が適宜決定することができる。
【0012】
固体培養は、Aspergillus属の微生物の発芽および増殖、ならびにケラチナーゼ産生に適した条件下で行うことが好ましい。温度、培養時間、水分量、通気量などの固体培養の諸条件もまた、使用する芋、豆、穀物類の種類、量および加熱処理の有無、接種されるAspergillus属の微生物の種類などに応じて当業者が適宜決定することができる。固体培養中は培養物の温度を適温に保ち、通気を図って菌の増殖および酵素の産生を促進するために、いわゆる「切返し」「盛り」「手入れ」等の作業を適宜行うことが好ましい。菌株や培養条件により異なるが、十分な菌糸の生育が見られた時点ないし十分な胞子の着生が見られた時点で、次の浸漬工程に移す。
【0013】
上で説明した固体培養は、公知の製麹方法に従って行うこともできる。麹は、糸状菌を米、麦等の穀物類、大豆等の豆類、あるいは芋類などの食品素材に接種して発育させたものをいう。本発明において用いる芋、豆、穀物類は1種類であってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。本発明に使用されるAspergillus属の微生物の菌株は、ケラチナーゼを産生しうる菌株であればいずいれの菌株であってもよいが、Aspergillus属の微生物が好ましい。なかでも酒造、焼酎、味噌、醤油製造用の麹菌が安全性の点から特に好ましい。好ましい麹菌の具体例としては、Aspergillus awamori、Aspergillus saitoi、Aspergillus saitoi var. kagoshimaensis、Aspergillus usami、Aspergillus sojae、Aspergillus oryzae、Aspergillusvar. kawachiiなどが挙げられる。本発明に用いるAspergillus属の菌株は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。また、本発明に使用するAspergillus属の菌株として、種麹を用いてもよい。種麹は市販されており、適宜選択して使用することができる。本発明に使用できる好ましい種麹としては、株式会社菱六から市販されている「菱六もやし 糖化マイティ」、「菱六もやし 改良長白菌」、「菱六もやし SR-108」、「菱六もやし 長白菌」、「菱六もやし A-27」、「菱六もやし 白夜」、「菱六もやし 月下氷吟」、「菱六もやし 焼酎用白麹菌No.198」、「菱六もやし 焼酎用くろ」、「菱六もやし 醤油用旭菌」、「菱六もやし 特撰自動製麹用」または「菱六もやし 特殊吟醸用」などが例示される。
【0014】
本発明のケラチナーゼの製造方法の第2の工程は、上記工程で得られた培養物を約25℃〜約60℃の水に浸漬し、ケラチナーゼを抽出する工程である。浸漬は培養物と水が十分に混ざるようにすればよい。浸漬の態様は特に限定はないが、培養物を水に浸してもよく、懸濁してもよい。水の量は、浸漬中にケラチナーゼの抽出が十分に行われるような量とする。浸漬中に適宜撹拌してケラチナーゼの抽出を促進してもよい。浸漬中に菌が増殖してもよく、増殖しなくてもよい。浸漬に用いる水の温度は約25℃〜約60℃、好ましくはより高温の約45℃〜約60℃、さらに好ましくは約50℃〜約60℃であり、例えば、約50℃〜約55℃、約53℃〜約57℃、あるいは約55℃などの水に浸漬することができる。浸漬温度が低すぎるとケラチナーゼ以外の酵素の失活が抑制され、得られるケラチナーゼの純度が低下する。さらに酵素の抽出効率も低下する。浸漬温度が高すぎるとケラチナーゼの失活も進み、ケラチナーゼの収量が低下する。浸漬時間は、ケラチナーゼが十分に抽出される時間であればよい。通常は約24時間〜約96時間、好ましくは約36時間〜約96時間、例えば約36時間〜約84時間、約40時間〜約48時間、約48時間〜約72時間などである。浸漬時間が短すぎるとケラチナーゼの抽出が不十分となり、その収量が低下する。浸漬時間が長すぎるとケラチナーゼの失活が進み、さらには雑菌が繁殖してケラチナーゼが分解され、雑菌酵素の混入によりケラチナーゼの純度が低下してしまう。浸漬の水温および浸漬時間は上記範囲でなくてもよく、当業者が諸条件に応じて適宜決定することができる。
【0015】
浸漬・抽出が終了したら抽出液をケラチナーゼ酵素液として得る。抽出液を固液分離して上清をケラチナーゼ酵素液としてもよい。したがって、本発明の製造方法における抽出は、上清を得る操作も包含しうる。上清は、公知の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、布で絞る等の方法を用いて得ることができる。得られたケラチナーゼ酵素液をそのままケラチナーゼとして使用してもよいが、酵素液を硫安等で濃縮してもよく、凍結乾燥等の処理を行ってから用いてもよい。さらに、酵素液を公知の手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニィークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、HPLC、電気泳動などの手段にて精製して、ケラチナーゼの純度を高めてから用いてもよい。
【0016】
本発明のケラチナーの製造方法において、例えば50℃以上の生体においては高温とされる温度で、例えば48時間以上の比較的長時間の浸漬・抽出を行うことが特徴である。これらの条件下で安定して存在する酵素は少ないので、比較的簡単な操作、かつ低コストで、かつ遺伝子組換え技術等を用いることなく純度の高いケラチナーゼを得ることができる。また、かかる比較的高温での工程はバイオリアクターにおける酵素生産において冷却エネルギーを削減できる。さらに、本発明の製造方法は、既存の清酒や味噌、醤油などに代表される発酵食品を製造する糖化の工程を流用あるいは部分的に改変するだけで実施しうるという利点もある。
【0017】
そのうえ、酒造、焼酎、味噌、醤油製造用の麹菌を用いてケラチナーゼを製造する場合には、得られるケラチナーゼ製品の安全性が保証されているので、ヒトやペットが日常使用する洗剤、爪または毛髪のケア用化粧品、入浴剤などへの適用において有利である。
【0018】
本発明により得られるAspergillus属由来のケラチナーゼは、酸性・高温条件下、例えばpH約3.5〜pH約5、約55℃において高いケラチン分解活性を有し、安定である等の従来のケラチナーゼには見られない特徴を有する。すなわち、本発明により得られるケラチナーゼは、
ケラチンに作用し、エラスチン、コラーゲンに作用しない
ケラチン分解活性の至適pHがpH約3.5〜pH約5である
pH4〜pH6で25℃、16時間置いた後にケラチン分解活性の失活が認められない
約55℃までの温度にてpH4.5で60分間置いた後にケラチン分解活性の失活が認められない
という特徴を有する。
【0019】
上述のごとく、従来のケラチナーゼは中性からアルカリ性領域で活性を有するものが多いが、本発明のケラチナーゼは酸性領域において安定で高い活性を有する。最近の洗剤や化粧品は弱酸性のものが多く、本発明のケラチナーゼはこれらの洗剤や化粧品に好適に用いられる。本発明のケラチナーゼは、廃棄物中の毛髪などのケラチン含有タンパク質の分解、例えば、廃棄物処理剤や水質改善剤、下水処理剤の有効成分として用いられるほか、皮膚、爪および毛髪のケア用化粧品、入浴剤、洗剤などに添加して用いることができる。
【0020】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでも例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
実施例1:ケラチナーゼの製造
洗米、浸漬、蒸煮が終了した原料米を40℃程度に冷却し、種麹「菱六もやし 糖化マイティ」を所定重量比(0.3%w/w)だけ接種し、両者が均一となるまで混合した。その後、混合物を製麹装置内に投入して、初期温度を32〜34℃程度に加温した状態で固体培養(製麹)を行った。製麹装置内の培養物の温度は、製麹が進行するに従って時間的に変化していくので、「切返し」「盛り」「手入れ」等の作業により、36〜40℃程度を保持し、種麹接種後40〜48時間で製麹を終了した。
【0022】
得られた固体培養物(麹)と水を2:3(w/w)の比率で混合し、55℃にて72時間浸漬し、酵素を抽出した。得られた抽出物を0.45μmのフィルターにてろ過し、ろ液に70%の飽和硫酸アンモニウムを加えて十分に沈殿を生じさせた後、10,000gにて1時間遠心し、上清画分を回収した。この上清画分を2M 硫酸アンモニウムにて平衡化した疎水カラム(Phenyl sepharose fast flow)にかけタンパク質を吸着させ、2M 硫酸アンモニウムで非結合のタンパク質を洗い流した後、1.3M硫酸アンモニウムで溶出させ回収した。この回収画分について透析を行い酵素溶液とした。
【実施例2】
【0023】
実施例2:ケラチナーゼの性質
実施例で得られた酵素溶液にケラチナーゼ活性を以下のようにして測定した。ケラチン分解の活性測定に用いた基質を下記のごとく調製した。トリ羽毛2.0gに対してジメチルスルホキシド100mlを加え100℃にて2時間処理し、ろ過を行いケラチンを含むタンパク溶出液を回収した。回収したタンパク溶液に2倍量のアセトンを加え−20℃で16時間静置しタンパク質を沈殿させた。16時間後、沈殿溶液を6,000gで遠心し、沈殿を蒸留水で洗い、再度蒸留水を加えたものを基質とした。
【0024】
ケラチン分解活性測定方法について説明する。0〜50mM 酢酸‐ナトリウムバッファー(pH4.5)中に、8mg/ml濃度になるように基質を加え基質溶液とした。基質溶液に1/10 v/vの酵素溶液を加え55℃にて一時間反応させた。氷冷することで反応を停止させた。酵素を加えずに基質溶液のみのものも55℃一時間反応させ、氷冷したのちに酵素を1/10 v/v加えゼロタイム(反応開始時)のサンプルとした。反応停止させた液を12,000g、4℃で10分間遠心し、上清を回収した。回収した上清に2倍量のニンヒドリン溶液を加え100℃で5分発色反応を行い、570nmの吸光度を測定し、1時間反応液とゼロタイム反応液の吸光度を比較することで活性の有無を判定した。図1に10倍に希釈した培養液を用いて酵素活性の時間経過を追ったデータを示す。グラフから明らかなように時間経過とともに基質と酵素溶液を含む反応液においてはアミノ酸量が増加していることが認められている一方で、酵素溶液のみの反応液ではアミノ酸量が増加していないことから酵素の自己消化は認められず、アミノ酸の増加が基質であるケラチンが分解されたためであることが確認された。比活性は570nm/280nmで計算すると、培養抽出液の段階で0.0046、疎水カラム溶出後のサンプルで1.24であった。
【0025】
次に、疎水カラム溶出後のサンプルについて、ケラチナーゼの諸性質を調べた。活性測定は上記ごとくケラチンを基質として行った。
(a)至適pH
それぞれのpHで基質と酵素を55℃で1時間反応させ活性測定を行った。それぞれのバッファーは、50mM ギ酸−ナトリウムバッファー(pH2.5〜3.5)、50mM 酢酸−ナトリウムバッファー(pH3.5〜6)、50mM リン酸−ナトリウムバッファー(pH6〜8)を用いた。結果を図2に示す。本発明のケラチナーゼは酸性側で活性が高く、pH3.5〜pH5が至適pHと考えられた。本発明のケラチナーゼはpH4.5において最も活性が高かった。
【0026】
(b)pH安定性
酵素溶液をそれぞれのpH下で16時間インキュベートした後、50mM 酢酸−ナトリウムバッファー(pH4.5)中で,基質と酵素を55℃で1時間反応させて活性測定を行った。それぞれのバッファーは、10mM ギ酸−ナトリウムバッファー(pH3)、10 mM酢酸−ナトリウムバッファー(pH4〜6)、10mM リン酸−ナトリウムバッファー(pH6〜8)、10mM Tris−HClバッファー(pH9)を用いた。結果を図3に示す。本発明のケラチナーゼは酸性側で安定で、pH4〜6で最も安定であり、これらのpHに25℃、16時間置いた後であっても失活は認められなかった。
【0027】
(c)温度安定性
基質以外の反応液をそれぞれの温度にて事前に1時間インキュベートし(50mM酢酸−ナトリウムバッファー中)、一度氷中で冷却したあと、50mM 酢酸−ナトリウムバッファー(pH4.5)中で基質と酵素を55℃で、1時間反応させた。結果を図4に示す。本発明のケラチナーゼは55℃までの温度(1時間保持)では失活が認められなかった。
【0028】
(d)基質特異性
50mM酢酸−ナトリウムバッファー(pH4.5)中それぞれの基質濃度が8mg/mlとなるように調製し、酵素溶液を加え55℃にて1時間反応させて活性を測定した。結果を表1に示す。本発明のケラチナーゼはケラチンを最も強く分解した。ゼラチンおよびカゼインも分解されたが、ケラチンほどではなかった。コラーゲンおよびエラスチンは本発明のケラチナーゼによっては分解されなかった。
【表1】


分解活性の強さ ++>+
−は分解が認められないことを示す。
【0029】
(e)阻害剤
50mM酢酸−ナトリウムバッファー(pH4.5)中の阻害剤(表2参照)および基質に酵素溶液を加え、55℃にて1時間反応させて活性を測定した。本発明のケラチナーゼはSDS、PMSFおよびペプスタチンAによって阻害されることがわかった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、洗剤、爪または毛髪のケア用化粧品、入浴剤などの製造、ならびに下水処理や水質改善等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋、豆、穀物類にAspergillus属の微生物を接種して固体培養を行い、得られた培養物を25℃〜60℃の水に浸漬し、ケラチナーゼを抽出することを特徴とするケラチナーゼの製造方法。
【請求項2】
穀物類が米または麦である請求項1記載の方法。
【請求項3】
Aspergillus属が、酒造、焼酎、味噌、醤油製造用のものである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
培養物を50〜60℃の水に浸漬する請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られるケラチナーゼ。
【請求項6】
至適pHがpH3.5〜pH5である請求項5記載のケラチナーゼ。
【請求項7】
下記の特徴:
ケラチンに作用し、エラスチン、コラーゲンに作用しない
至適pHがpH3.5〜pH5である
pH4〜pH6で25℃、16時間置いた後に失活が認められない
55℃までの温度にてpH4.5で1時間置いた後に失活が認められない
を有するAspergillus属由来のケラチナーゼ。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか一項に記載のケラチナーゼを含有する洗剤、化粧品または入浴剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−182674(P2011−182674A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49279(P2010−49279)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(510062192)
【出願人】(510063247)
【出願人】(510062206)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(500158096)
【出願人】(506202076)
【出願人】(510062217)
【出願人】(510062228)
【出願人】(510062239)
【Fターム(参考)】