説明

ケラチノサイト成長因子産生促進剤

【課題】 優れたケラチノサイト増殖因子産生促進作用を有するケラチノサイト増殖因子産生促進剤を提供する。
【解決手段】 イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチノサイト増殖因子産生促進剤に関する。さらに詳しくは、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、オドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚科学などの分野では、天然由来成分を用いたさまざまな皮膚細胞における真皮および表皮に関する研究が進められてきたが、その効果は充分満足されるものではなく、さらに有効な成分の開発が求められていた。今回着目したケラチノサイト増殖因子は、真皮線維芽細胞から産生される成分であり、表皮細胞の増殖に関与し、皮膚再癒着(特許文献1参照)や創傷治癒(特許文献2参照)に重要な役割を果たすことが知られている。ケラチノサイト増殖因子は、消化管組織再生賦活剤(特許文献3参照)、肝細胞保護剤(特許文献4参照)、血糖降下剤(特許文献5参照)としての利用方法が知られているが、ケラチノサイト増殖因子の産生を促進するケラチノサイト増殖因子産生促進剤についてはこれまでほとんど知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】特表2000−517174号公報
【特許文献2】特表2006−516264号公報
【特許文献3】特開平10−330283号公報
【特許文献4】特開平10−330284号公報
【特許文献5】特開平10−330285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明においては、ケラチノサイト増殖因子の産生を促進することにより、表皮細胞の増殖を促進し、皮膚の老化症状の予防や改善に寄与するケラチノサイト増殖因子産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、天然由来の種々の成分についてケラチノサイト増殖因子の産生を促進する作用について検討を行った結果、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物に優れたケラチノサイト増殖因子産生促進作用が存在することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ケラチノサイト増殖因子産生促進作用を有するケラチノサイト増殖因子産生促進剤を得ることができる。また、ケラチノサイト増殖因子産生促進剤は、ケラチノサイト増殖因子産生促進作用によって表皮細胞の増殖を促進し、皮膚の老化症状の予防や改善に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のケラチノサイト増殖因子産生促進剤の出発原料となる植物は、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウである。イチョウ(Ginkgo biloba)は、イチョウ科(Ginkgoaceae)に属する雌雄異株の落葉高木である。ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ科(Saxifragaceae)に属する多年草である。コウスイハッカ(メリッサ)(Melissa officinalis)はシソ科(Labiatae)に属する多年草である。タチジャコウソウ(タイム)(Thymus vulgaris)は、シソ科(Labiatae)に属する常緑の小低木である。オドリコソウ(Lamium album)は、シソ科(Labiatae)に属する草本植物である。
【0008】
これらの植物を使用する際は、抽出物を用いるのが一般的である。抽出には、有効性の点から各植物の新芽を用いるのが最も好ましい。抽出の際は、生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切,乾燥,粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。抽出は、抽出溶媒に浸漬するか、超臨界流体や亜臨界流体を用いた抽出方法でも行うことができる。抽出効率を上げるため、撹拌や抽出溶媒中でホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
【0009】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等の低級アルコール、1,3−ブチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル,プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸ブチル,酢酸エチル等のエステル類、アセトン,エチルメチルケトン等のケトン類などの溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。また、生理食塩水,リン酸緩衝液,リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。さらに、水や二酸化炭素,エチレン,プロピレン,エタノール,メタノール,アンモニアなどの1種又は2種以上の超臨界流体や亜臨界流体を用いてもよい。
【0010】
上記溶媒による抽出物は、そのままでも使用することができるが、濃縮,乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解したり、或いはこれらの生理作用を損なわない範囲で脱色,脱臭,脱塩等の精製処理を行ったり、カラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。シラガゴケ科植物の前記抽出物やその処理物及び分画物は、各処理及び分画後に凍結乾燥し、用時に溶媒に溶解して用いることもできる。
【0011】
イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物は、優れたケラチノサイト増殖因子産生促進作用を有し、ケラチノサイト増殖因子産生促進剤として利用することができる。
【0012】
また、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物は、ケラチノサイト増殖因子産生促進剤として単独で使用することができるが、皮膚外用剤に配合することにより、皮膚老化症状の防止・改善に優れた効果を発揮する老化防止改善用の皮膚外用剤を得ることもできる。
【0013】
イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物を皮膚外用剤に配合する際の配合量は、皮膚外用剤の種類や使用目的等によって調整することができるが、効果や安定性などの点から、全量に対して、0.0001〜50.0重量%が好ましく、より好ましくは、0.001〜20.0重量%である。
【0014】
イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物を配合する皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えば、ローションなどの可溶化系、クリームや乳液などの乳化系,カラミンローション等の分散系として提供することができる。さらに、噴射剤と共に充填したエアゾール,軟膏剤,粉末,顆粒などの種々の剤型で提供することもできる。
【0015】
なお、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物を配合する皮膚外用剤には、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物の他に、必要に応じて、通常医薬品,医薬部外品,皮膚化粧料,毛髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分,保湿剤,粉体,色素,乳化剤,可溶化剤,洗浄剤,紫外線吸収剤,増粘剤,薬剤,香料,樹脂,防菌防黴剤,アルコール類等を適宜配合することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、他のケラチノサイト増殖因子産生促進剤や抗老化剤との併用も可能である。
【0016】
以下に、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物の製造例、各作用を評価するための試験、皮膚外用剤としての処方例、使用試験についてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものではない。
【0017】
[製造例1]イチョウ新芽抽出物
イチョウの新芽の乾燥粉砕物1kgに水を20リットル加え、90℃にて6時間還流して抽出した。抽出液をろ過して回収し、溶媒を除去した後、イチョウ新芽抽出物を得た。
【0018】
[製造例2]ユキノシタ新芽抽出物
ユキノシタの新芽の乾燥粉砕物1kgに水を20リットル加え、90℃にて6時間還流して抽出した。抽出液をろ過して回収し、溶媒を除去した後、ユキノシタ新芽抽出物を得た。
【0019】
[製造例3]コウスイハッカ新芽抽出物
コウスイハッカの新芽の乾燥粉砕物1kgに50重量%エタノール水溶液を20リットル加え、室温で3時間攪拌して抽出した。抽出液をろ過して回収し、溶媒を除去した後、コウスイハッカ新芽抽出物を得た。
【0020】
[製造例4]タチジャコウソウ新芽抽出物
タチジャコウソウの新芽の乾燥粉砕物1kgに水を20リットル加え、90℃にて6時間還流して抽出した。抽出液をろ過して回収し、溶媒を除去した後、タチジャコウソウ新芽抽出物を得た。
【0021】
[製造例5]オドリコソウ抽出物
オドリコソウの新芽の乾燥粉砕物1kgに50重量%1,3ブチレングリコール水溶液を9リットル加え、室温で3時間攪拌して抽出した。抽出液をろ過して回収し、溶媒を除去した後、オドリコソウ抽出物を得た。
【0022】
[ケラチノサイト増殖因子産生促進作用の評価]
正常ヒト表皮細胞を1ウェル当たり2.0×10個となるように96穴マイクロプレートに播種した。播種培地には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に5%のウシ胎児血清を添加したものを用いた。24時間培養後、任意の濃度の試料を添加した試験培地に交換し、さらに24時間培養した。ケラチノサイト増殖因子(KGF)の産生量の定量にはQuantikine Human KGF Immunoassayキット(R&D Systems社製)を使用した。マイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。同時にBCA Protein Assay Kitにてタンパク量を測定し、単位タンパク量当たりのケラチノサイト増殖因子の産生量を求めた。評価結果は、試料を含有しないブランクの単位タンパク量当たりのケラチノサイト増殖因子産生量を100とした相対値にて表1〜5に示した。なお、表中の*及び**は、t検定における有意確率P値に対し、有意確率5%未満(P<0.05)を*で、有意確率1%未満(P<0.01)を**で表したものである。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
表1〜5より明らかなように、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウの抽出物を添加した場合に、ブランクの場合と比較して、有意なケラチノサイト増殖因子(KGF)産生促進作用が認められた。このことから、イチョウ新芽、ユキノシタ新芽、コウスイハッカ新芽、タチジャコウソウ新芽、及びオドリコソウの抽出物は、優れたケラチノサイト増殖因子(KGF)産生促進作用を有することが明らかとなった。
【0029】
続いて、本発明に係るシラガゴケ科植物抽出物を配合した皮膚外用剤の処方例を示す。
【0030】
[処方例1]乳液
(1)スクワラン 10.0(重量%)
(2)メチルフェニルポリシロキサン 4.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)モノステアリン酸ポリオキシエチレン
ソルビタン(20E.O.) 1.3
(6)モノステアリン酸ソルビタン 1.0
(7)グリセリン 4.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.15
(10)精製水 53.85
(11)アルギニン(1重量%水溶液) 20.0
(12)イチョウ新芽抽出物[製造例1] 5.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(10)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却を開始し、(11)と(12)を順次加え、均一に混合する。
【0031】
[処方例2]化粧水
(1)エタノール 15.0(重量%)
(2)ポリオキシエチレン(40E.O.)硬化ヒマシ油 0.3
(3)香料 0.1
(4)精製水 78.38
(5)クエン酸 0.02
(6)クエン酸ナトリウム 0.1
(7)グリセリン 1.0
(8)ヒドロキシエチルセルロース 0.1
(9)ユキノシタ新芽抽出物[製造例2] 5.0
製法:(1)に(2)及び(3)を溶解する。溶解後、(4)〜(8)を順次添加した後、十分に攪拌し、(9)を加え、均一に混合する。
【0032】
[処方例3]クリーム
(1)スクワラン 10.0(重量%)
(2)ステアリン酸 2.0
(3)水素添加パーム核油 0.5
(4)水素添加大豆リン脂質 0.1
(5)セタノール 3.6
(6)親油型モノステアリン酸グリセリン 2.0
(7)グリセリン 10.0
(8)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(9)アルギニン(20重量%水溶液) 15.0
(10)精製水 40.7
(11)カルボキシビニルポリマー(1重量%水溶液) 15.0
(12)コウスイハッカ新芽抽出物[製造例3] 1.0
製法:(1)〜(6)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(10)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに前記油相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、(11)を加え、冷却を開始し、40℃にて(12)を加え、均一に混合する。
【0033】
[処方例4]美容液
(1)精製水 27.45(重量%)
(2)グリセリン 10.0
(3)ショ糖脂肪酸エステル 1.3
(4)カルボキシビニルポリマー(1重量%水溶液) 17.5
(5)アルギン酸ナトリウム(1重量%水溶液) 15.0
(6)モノラウリン酸ポリグリセリル 1.0
(7)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 3.0
(8)N-ラウロイル-L-グルタミン酸
ジ(フィトステリル−2−オクチルドデシル) 2.0
(9)硬化パーム油 2.0
(10)スクワラン(オリーブ由来) 1.0
(11)ベヘニルアルコール 0.75
(12)ミツロウ 1.0
(13)ホホバ油 1.0
(14)1,3−ブチレングリコール 10.0
(15)L−アルギニン(10重量%水溶液) 2.0
(16)タチジャコウソウ新芽抽出物[製造例4] 5.0
製法:(1)〜(6)の水相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。一方、(7)〜(14)の油相成分を混合し、75℃にて加熱溶解する。次いで、上記水相成分に油相成分を添加して予備乳化を行った後、ホモミキサーにて均一に乳化する。乳化終了後に冷却を開始し、50℃にて(15)を加える。さらに40℃まで冷却し、(16)を加え、均一に混合する。
【0034】
[処方例5]水性ジェル
(1)カルボキシビニルポリマー 0.5(重量%)
(2)精製水 86.7
(3)水酸化ナトリウム(10重量%水溶液) 0.5
(4)エタノール 10.0
(5)パラオキシ安息香酸メチル 0.1
(6)香料 0.1
(7)オドリコソウ抽出物[製造例5] 2.0
(8)ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 0.1
製法:(1)を(2)に加え、均一に攪拌した後、(3)を加える。均一に攪拌した後,(4)に予め溶解した(5)を加える。均一に攪拌した後、予め混合しておいた(6)〜(8)を加え、均一に攪拌混合する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上詳述したように、本発明によれば、イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、オドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウ、及びオドリコソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤。
【請求項2】
イチョウ、ユキノシタ、コウスイハッカ、タチジャコウソウより選ばれる1種又は2種以上の植物の新芽より抽出した新芽抽出物を有効成分とするケラチノサイト増殖因子産生促進剤。

【公開番号】特開2009−185007(P2009−185007A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29551(P2008−29551)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】