説明

ケラチンフィルムおよびその製造方法

【課題】 優れた物性のケラチンフィルムおよびこれを簡単に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれにとポリオールを混合した後、基材に塗工し、酸化、乾燥することにより得られるケラチンフィルム並びに可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれとポリオールの混合物を基材上に塗工し、更にこの塗工物を酸化、乾燥させた後基材から剥離することを特徴とするケラチンフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性や引っ張り強度等の物性が優れたケラチンフィルムに関し、更に詳細には、羊毛などの獣毛や人毛などを原料として得られるケラチンフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羊毛など、獣毛繊維に代表されるケラチン繊維(α−ケラチン)は、α−へリックス分子からなる結晶性ミクロフィブリルが非晶性マトリックスに包埋された複合構造からなっている。このα−ケラチンは、それら複合構造を有した蛋白質(ケラチン鎖状分子)の分子間および/または分子内に、多量のジスルフィド結合(SS結合)を有し、架橋密度の高い巨大な網目構造を形成した、水に不溶性を示す天然高分子である。
【0003】
従来から、α−ケラチンの吸湿性や、曲げても折れない強靭性などに着目し、種々の新しい用途への応用が試みられている。そして、その一つの方法として、α−ケラチンを可溶化し、これを新たな再生繊維材料の材料とする試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、α−ケラチンとして羊毛を用い、これを多量の尿素(蛋白質変性剤)の存在下で、チオグリコール酸により還元処理した後、酸化剤存在下でさらにチオグリコール酸を反応させることにより、可溶性ケラチンを得る方法が提案されている。この技術では、α−ケラチン内の水素結合を尿素で切断して膨潤させることで、α−ケラチンの可溶化を促進している。
【0005】
しかし、この方法では、多量の蛋白質変性剤の存在下でも可溶性ケラチンの収率(α−ケラチンの可溶化率)は低く、31.7〜51.4%程度であるという問題がある。また、この方法で得られる可溶性α−ケラチンを利用するには、可溶性ケラチン溶液から蛋白質変性剤を除去することが必要であり、透析工程を入れなくてはならないなど工程が複雑になるという問題もあった。
【0006】
本発明者らは先に、蛋白質変性剤を用いずに可溶性ケラチンを得る新しい方法を開発し、報告した(特許文献2)。この方法は、まず、α−ケラチンを、水の存在下でチオグリコール酸ナトリウムと接触させ、次いで得られた処理液に酸化剤を添加して可溶性ケラチンを製造するというものである。
【0007】
このような方法により、収率良く可溶性ケラチンを得ることは可能になり、得られたこの可溶性ケラチンを本発明の方法により得られる可溶性ケラチンは、水に可溶性であるが、再度、還元および酸化を行うことによって、水に不溶性のSS結合を再生させることができる。
【0008】
そして、特許文献2には、このようにして再生されるポリマーは、元のα−ケラチンと同様の性質を有する蛋白質として、各種形状の再生蛋白質フィルムや再生繊維などの再生蛋白質製品の原料に利用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−126296号公報
【特許文献2】特開2009−23924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、収率良く可溶性ケラチンを得ることは可能となり、これからケラチンフィルムを得ることが可能とはなったが、得られたケラチンフィルムの物性には問題があり、実用化には更に研究が必要であった。本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、優れた物性のケラチンフィルムを簡単に製造する方法の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を続けた結果、可溶性ケラチン中にポリオールを加えた後、フィルム形成処理を行えば、優れた物性のケラチンフィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれにとポリオールを混合した後、基材に塗工し、酸化、乾燥することにより得られるケラチンフィルムである。
【0013】
また本発明は、可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれとポリオールの混合物を基材上に塗工し、更にこの塗工物を酸化、乾燥させた後基材から剥離することを特徴とするケラチンフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来にはなかった透明で、適度な柔軟性および延展を有するケラチンフィルムが得られる。そしてこのケラチンフィルムは、ケラチンの持つ優れた機能を持った動物由来機能性高分子材料として、医療用素材、化粧料素材、機能膜素材等への工業的な応用が期待されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のケラチンフィルムは、可溶性ケラチンに還元剤を作用させた後、これにポリオールを添加、混合した後基材上に塗工し、次いでこの塗工物を酸化、乾燥させた後基材から剥離することにより得られる。
【0016】
使用される原料の1つである可溶性ケラチンは、基本的には特許文献2に記載の方法に従って調製されたものを利用することができる。すなわち、水に不溶性である羊毛等のα−ケラチンを、蛋白質変性剤を用いずに、水の存在下でチオグリコール酸ナトリウムと接触させ、次いで得られた処理液に酸化剤を添加することにより得られるものである。
【0017】
この可溶性ケラチンは、ケラチンにチオグリコール酸および過酸化水素等の酸化剤を作用させることで、ケラチンが有するジスルフィド(−SS−)結合が開裂し、このジスルフィド結合の開裂で生じるチオール基(−SH)が更にカルボキシメチルアラニルジスルフィド(CMAD)基に変化したものである。
【0018】
そして、この可溶性ケラチンに再度還元剤を作用させることにより、上記のCMAD基はチオール基に変化し、空気の酸化により、再度ジスルフィド基の形成が可能となるのである。ここで使用される還元剤としては、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、システアミン、ブチルラクトンチオール、亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0019】
また、他方の原料であるポリオールは、水酸基を2つ以上含む化合物を意味し、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が例示される。
【0020】
上記の還元剤を作用させた可溶性ケラチン(以下、「被還元可溶性ケラチン」という)とポリオールの混合物(以下、「可溶性ケラチン混合物」という)は、好ましくはこれらを水等の溶媒中に加え、常法により均一化させることにより調製される。上記混合物中の被還元可溶性ケラチンの量は、ケラチン濃度として、0.5ないし5質量%とすることが好ましい。
【0021】
この可溶性ケラチン混合物における被還元可溶性ケラチンとポリオールの混合割合は、利用するポリオールの種類や目的とするケラチンフィルムの物性等により異なるが、一般には、被還元可溶性ケラチン100重量部に対し、ポリオールが5〜30重量部の範囲が好ましい。ポリオールがこの範囲より少ない場合は、ケラチンフィルムの物性が低下する場合があり、また、これを越える場合は、ケラチンフィルムが形成されない場合がある。
【0022】
上記の、可溶性ケラチン混合物からケラチンフィルムを形成するには、この可溶性ケラチン混合物を適当な基材に塗工し、空気中で酸化、乾燥すればよい。
【0023】
フィルム形成に用いられる基材としては、金属板、ガラス板や、テフロン(登録商標)、PET、ポリスチレン等のプラスチックシート等が挙げられる。また、乾燥は、特に制約されるものではないが、50ないし80℃の温度で行えば良く、基材への塗工も特に制約されるものではないが、仕上った際のケラチンフィルムが、50ないし100μm程度となるようにすればよい。この塗工は、常法に従い、ドクターブレード等を用い行うことができる。
【0024】
以上のようにして得られるケラチンフィルムは、透明なフィルムであるとともに、後記実施例で言及するように、単に可溶性ケラチンから得たフィルムと比べ、柔軟性および強度等に優れたものである。これは、ポリオールがケラチンフィルムの可塑剤として働き、ケラチン分子間および分子内結合力を減少させたためと、ポリオールが構成ケラチンの−OHを含む親水性アミノ酸と結合し、ケラチン分子間に存在する水素結合の形成を阻害したためであると考えられる。
【0025】
このケラチンフィルムは、グリセリン等のポリオールとケラチンで構成されており、かつ上記のように優れた柔軟性と強度を有するため、その機能を生かした医療分野等での応用、例えば創傷被覆材や細胞培養基材のような再生医療材料としての利用の可能性が考えられる。また、これにとどまらず、化粧料素材、機能膜素材としての応用も想定される。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例および参考例を挙げ本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるものではない。
【0027】
参 考 例 1
可溶性ケラチンの製造:
特願2007−187339の方法に準じて可溶性ケラチンを作製した。具体的には、原料として、メリノ種羊毛トップを用い、これを、約4mmの長さに切断して用いた。羊毛は、中性洗剤で洗浄後、水洗および風乾した後、100ml三角フラスコに乾燥重量として1.0gを投入し、可溶化処理に付した。
【0028】
羊毛の可溶化は、pH12に調整した0.2M−TGA水溶液50mlをフラスコ内に添加し、30℃の浴槽中で24時間振とうさせ行なった。反応終了後、反応溶液を吸引ろ過し、溶液と不溶性残渣に分離した。溶液のpHを希塩酸で7.5に調整した後、3%過酸化水素水溶液11.4ml(TGAと等モル量)を加え、室温で3時間撹拌しながら酸化反応を行った。
【0029】
次いで、溶液に酢酸を加え、pH4.0に調整し、沈殿物として可溶化羊毛ケラチン(以下、「可溶化ケラチン」とする)を得た。この沈殿物を蒸留水で洗浄し、凍結乾燥することで粉末状の可溶化ケラチンを回収した。収率は、出発羊毛重量に対し、61%であった。
【0030】
原料羊毛および得られた可溶化ケラチンの分子量を、下記のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって調べた。すなわち、羊毛0.5gを8M尿素、SDS 0.3gおよび7.5%2−メルカプトエタノールを含む水溶液10mlに浸漬し、50℃の浴槽中で12時間振とうさせ、抽出した溶液を原料羊毛の電気泳動用試料とした。標準物質として、LMW Calibration Kit(アマシャム バイオサイエンス株式会社)を用いた。これらの試料を12.5%ポリアクリルアミドゲルに添加し、電気泳動を行なった。
【0031】
この結果、可溶化ケラチンは、原料羊毛とほぼ同様な電気泳動パターンを示した。これは反応過程で分子量低下がほとんど起こらなかったことを示すものである。
【0032】
なお、原料羊毛と、得られた可溶化ケラチンについて、FT−IRスペクトルを調べた結果、原料羊毛および可溶化ケラチンは共に、ケラチンに特有なアミドI(〜1650cm−1)、アミドII(〜1535cm−1)およびアミドIII(〜1240cm−1)の吸収が観察された。さらに可溶化ケラチンには、1710cm−1付近にアミドIと重畳した新たなピークが認められたが、会合カルボン酸の伸縮振動はこの付近に吸収を示すため、このピークは可溶性羊毛ケラチンに存在するカルボキシメチルアラニルジスルフィド(CMAD)基のカルボン酸の吸収に起因するものと解された。
【0033】
また、原料羊毛と可溶化ケラチンの硫黄含量を調べたところ、原料羊毛の硫黄含量は約2.6%であったのに対し、可溶化ケラチンは4%前後であり、可溶化ケラチンでは相対的に硫黄含量が増大したことがわかった。これは、可溶化反応によってシスチン中のSS結合が開裂し、CMAD基に誘導体化されたために硫黄含量が増えたと考えられる。この結果は、羊毛ケラチンのSS結合がCMAD基に誘導体化されたことを示している。
【0034】
実 施 例 1
ケラチンフィルムの作成(1):
(1)参考例1で得た可溶化ケラチンをpH9.5の0.2M−TGA水溶液中で溶解(浴比1:20、室温、2時間)し、可溶化ケラチン溶液とした。TGAのpHは、水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整した。
【0035】
この溶液をセルロース透析チューブ(分画分子量12,000)に投入し、蒸留水を満たした容器内で3日間透析した。このとき、蒸留水は毎日交換した。透析後、溶液を遠心分離(15,000g、30分間)し、不溶物を取り除いた。溶液は冷蔵庫内で保存し、2日以内に使用した。
【0036】
溶液のケラチン濃度は、溶液5mlの重量と、それを乾燥(105℃、5時間)させて得られた乾燥フィルム重量から決定した。ケラチン濃度は平均して2.0質量%であった。
【0037】
(2)上記(1)で得たケラチン溶液に、グリセリンを所定濃度(0.10、0.15、0.20gグリセリン/gケラチン)で加え、30分間撹拌した。混合溶液をテフロンシート上に、0.35g/cmで塗工し、50℃で24時間乾燥させ、ケラチンフィルムを作成した。最終的に得られたフィルムの厚さは、50〜60μmであった。
【0038】
(3)得られたケラチンフィルムの表面は平滑であった。また、このものは、二つ折りにできる強度および柔軟性があるものであった。更に、グリセリン含有量10質量%のケラチンフィルムは、折り畳み後、半分以上まで回復した。さらにグリセリン含有量が増加すると、折り畳み後の再生羊毛ケラチンフィルムの回復は抑えられた。グリセリンの添加によって再生羊毛ケラチンフィルムに柔軟性が付与された。柔軟性はグリセリン添加量の増加に伴い向上することがわかった。これに対し、グリセリンを添加せずに調製したケラチンフィルムは全体的に凹凸が確認され、極めて脆く取り扱いが困難であった。
【0039】
実 施 例 2
ケラチンフィルムの作成(2):
グリセリンを、各々ポリオールであるポリエチレングリコール(分子量200、400、600)に代え、濃度をそれぞれ0.1、0.2および0.3gポリオール/gケラチンとする以外は、実施例1(2)と同様にしてケラチンフィルムを作成した。得られたケラチンフィルムのうち、分子量200のポリエチレングリコールを用いたものの物性は、極めて優れていた。
【0040】
実 施 例 3
ケラチンフィルムの走査型電子顕微鏡観察:
実施例1により得たケラチンフィルムの形態を、走査型電子顕微鏡(SEM)(S−3000N;株式会社日立製作所)を使用し観察した。ケラチンフィルムは、観察前に金−パラジウムを蒸着させ、測定は加速電圧20kVで行なった。
【0041】
SEM観察により、ケラチンフィルムの微細構造を観察したところ、ケラチンフィルムの微細構造は、グリセリン含有に関係なく同様な形態であった。また、全てのサンプルの表面と断面においてしわや亀裂は観察されず、ケラチンフィルムは、分子オーダーで密に結合を形成していると推定された。
【0042】
実 施 例 4
ケラチンフィルムの赤外分光光度計による測定:
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)測定によってケラチンフィルムの化学構造を検討した。測定には赤外線顕微鏡(Continumm II)を備えた、Magna 560 FT−IR spectrometer(ニコレー株式会社)を使用し、測定は赤外線顕微鏡を用いた透過法によって行なった。
【0043】
この結果、グリセリン含有量の異なるケラチンフィルムの全てにおいて、ケラチンに特有なアミドI(〜1650cm−1)、アミドII(〜1535cm−1)およびアミドIII(〜1240cm−1)の吸収が観察された。また、1120cm−1、1040cm−1付近にグリセリンのアルコール性ヒドロキシル基に起因する新たなピークが認められ、再生羊毛ケラチンフィルム内にグリセリンの存在が確認された。
【0044】
更に、注目すべき点として、全てのサンプルには、可溶性羊毛ケラチンのスペクトルに認められたCMAD基の会合カルボン酸に起因するピークが消失したことが挙げられる。このことは、フィルム形成過程でケラチン分子間にSS結合が再生され、ケラチンフィルムは原料羊毛と同様な化学構造に変化したものと解される。
【0045】
実 施 例 5
ケラチンフィルムの熱重量示差熱測定:
熱重量示差熱(TG−DTA)測定は、TG/DTA 6200(セイコーインスツルメンツ株式会社)を使用して行った。測定は、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、30〜500℃の温度範囲で行ない、リファレンスとしてアルミナを用いた。試料重量は、1.00±0.05mgとした。
【0046】
TG−DTA測定により、ケラチンフィルムも高い熱的安定性を示すことがわかった。また、ケラチンフィルムでは、DTA曲線上に明確な吸熱ピークが認められ、これは、ケラチン分子間のSS結合のような架橋の開裂に由来するものと解される。このことから、ケラチンフィルムの分子間にはSS結合が再生されたと判断される。
【0047】
更に、グリセリン含有量の異なるケラチンフィルムのTG−DTA曲線でも、その全てにケラチン分子間のSS結合の開裂に由来するピークが認められた。これはグリセリンを添加しなかったケラチンフィルムでも同様にこのピークが認められたことから、グリセリンの存在下でもケラチン分子間にはSS結合が再生されたことがわかった。
【0048】
実 施 例 6
ケラチンフィルムの引張試験:
引張試験は、小型卓上試験機(EZ Test;株式会社島津製作所)を使用して行った。フィルムは短冊型(40mm×5mm)に切断し、試料長は20mmとした。測定条件は、温度25℃、相対湿度65%、引張速度2mm/分であった。
【0049】
この結果、グリセリン含有量10質量%のケラチンフィルムの応力は伸度5%付近まで増加し最大値に達した後、伸度約9%で破断した。同様な挙動がグリセリン含有量15質量%の再生羊毛ケラチンフィルムにも伸度5%付近まで認められたが、破断伸度は増加した。グリセリン含有量20質量%のケラチンフィルムも他のサンプルと同様に伸度5%付近で応力が最大値に達したが、破断伸度は著しく増加した。これに対し、グリセリンを添加しなかったケラチンフィルムは脆弱であったため、引張試験を行なうことができなかった。
【0050】
グリセリン含量とヤング率、最大点強度および破断伸度の関係を表1に示す。
【表1】

【0051】
この結果、ケラチンフィルムのヤング率はグリセリン含有量10質量%のとき最大値(1441.5±112.9MPa)を示し、それ以上のグリセリン含有量の増加に伴い減少した。同様な傾向が最大点強度においても認められた。これらの結果は、ケラチンフィルム中のケラチン含有率の相違による影響と説明できる。つまり、グリセリン含有量の増加に伴い高分子量のケラチン割合が低下するために、ヤング率および最大点強度が減少したと考えられる。一方、破断伸度はグリセリン含有量の増加に伴い著しく増加し、グリセリン含有量20質量%のとき最大値(63.0±5.8%)を示した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のケラチンフィルムは、従来にはなかった適度な柔軟性および延展を有するものである。従って、このケラチンフィルムは、ケラチンの持つ優れた機能を持った動物由来機能性高分子材料として、再生医療材料、化粧料素材、機能膜素材等への工業的な応用が期待される


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれにとポリオールを混合した後、基材に塗工し、乾燥することにより得られるケラチンフィルム。
【請求項2】
可溶性ケラチンが、α−ケラチンに水の存在下、チオグリコール酸塩および酸化剤を作用させることで得られたものである請求項1記載のケラチンフィルム。
【請求項3】
可溶性ケラチンに作用させる酸化剤が、チオグリコール酸である請求項1または2記載のケラチンフィルム。
【請求項4】
ポリオールが、グリセリンまたはポリエチレングリコールから選ばれたものである請求項1ないし3のいずれかに記載のケラチンフィルム。
【請求項5】
ポリオールの量が、100重量部の可溶性ケラチンに対し、5〜30重量部である請求項1ないし4のいずれかに記載のケラチンフィルム。
【請求項6】
可溶性ケラチンに還元剤を作用させ、次いでこれとポリオールの混合物を基材上に塗工し、更にこの塗工物を酸化、乾燥させた後基材から剥離することを特徴とするケラチンフィルムの製造方法。



【公開番号】特開2011−207858(P2011−207858A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79986(P2010−79986)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第19回日本MRS学術シンポジウム 〔主催者名〕 日本MRS(The Materials Research Society of Japan) 〔開催日〕 平成21年12月7日〜平成21年12月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、 独立行政法人科学技術振興機構、「研究成果最適展開支援事業 フィージビリティスタディ 可能性発掘タイプ 再生機能を有する可溶性羊毛ケラチン蛋白質の工業的製造と用途開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(390006150)大東紡織株式会社 (1)
【Fターム(参考)】