説明

ケーキ用水中油型乳化組成物

【課題】焼成後の比容積がより大きく、形状にも優れ、しかも表面の焼色ムラがより抑えられ、かつ、良好な風味と食感とを有するケーキを製造するのに好適な、水中油型乳化組成物を提供する。
【解決手段】
下記(A)〜(F)を含有する、ケーキ用水中油型乳化組成物:
(A)食用油脂 13〜30質量%、
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%、
(C)リン脂質 0.1〜10質量%、
(D)水 5〜40質量%、
(E)セルロース 0.05〜2.5質量%、及び
(F)増粘多糖類 0.02〜0.5質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ用水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類は、小麦粉、卵、糖類、油脂等を原料としてケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成して製造される。ケーキ類は一般に、比容積が大きく、また、弾力がありながらもソフトで、さらに口どけ感やしっとり感に優れたものが好まれる。このような食感を達成するためには、ケーキ生地を適度に起泡させることが重要であり、通常、多量の空気を包み込むことができる卵がその役割を担っている。
【0003】
一方、比容積及び食感の更なる向上のために、ケーキ生地に、さらに起泡性の乳化組成物を配合することも知られている。この起泡性乳化組成物を使用することで、ケーキ生地の起泡量をより増加させることができる。また、起泡性乳化組成物は、生じた気泡を安定化する役割も担っている。このような起泡性乳化組成物として、増粘剤を含有する乳化組成物が報告されている(例えば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−16554号公報
【特許文献2】特開2009−95246号公報
【特許文献3】特開2009−165369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ケーキ生地を円筒形の型にいれて焼成すると、ケーキ上表面は、中心付近を頂点におよそドーム型に膨れ上がる。本発明者らは、このドーム型の膨らみをより平坦な膨らみとすることができれば、焼成したケーキを無駄なく効率的に利用できるようになると考えた。
また、ケーキ生地を焼成すると、ケーキ表面全体が茶色い焼色で覆われる。本発明者らは、ケーキ上表面外周部分が、その内側部分に比べて濃い焼色になりやすいという見た目上の問題点にも着目した。
本発明は、焼成後の比容積がより大きく、形状にも優れ、しかも表面の焼色ムラがより抑えられ、かつ、良好な風味と食感とを有するケーキを製造するのに好適な、水中油型乳化組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、水相成分にセルロース及び増粘多糖類の双方を含有し、さらに特定の成分を含む水中油型乳化組成物を配合したケーキ生地を焼成すると、生地の膨らみがより増大し、また、上面のドーム型形状がより平坦で整ったものとなり、しかも上面の焼色ムラも改善されたケーキが得られることを見い出した。さらにこのケーキは、風味と食感の双方に優れるものであった。本発明はこれらの知見に基づき完成させるに至ったものである。
【0007】
本発明は、下記(A)〜(F)を含有する、ケーキ用水中油型乳化組成物に関する:
(A)食用油脂 13〜30質量%、
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%、
(C)リン脂質 0.1〜10質量%、
(D)水 5〜40質量%、
(E)セルロース 0.05〜2.5質量%、及び
(F)増粘多糖類 0.02〜0.5質量%。
【0008】
また、本発明は、上記ケーキ用水中油型乳化組成物を含むケーキ生地を焼成して得られるケーキに関する。
【0009】
また、本発明は、
少なくとも穀粉と、卵と、糖類と、上記ケーキ用乳化組成物とを混合してケーキ生地を調製する工程、及び
前記ケーキ生地を焼成する工程
を含む、ケーキの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のケーキ用水中油型乳化組成物は、ケーキ生地に含ませることで、焼成後のケーキの比容積をより増大させることができる。
また、本発明のケーキ用水中油型乳化組成物は、ケーキ生地に含ませることで、焼成後のケーキ上面側への膨らみ(垂直方向への膨らみ)をより均一(より平坦なドーム型)にすることができる。
また、本発明のケーキ用水中油型乳化組成物は、ケーキ生地に含ませることで、焼成後のケーキ上表面の焼色ムラをより抑えることができる。
【0011】
本発明のケーキは、ケーキ上面側への膨らみがより大きく、しかもより均一であり、さらに上表面の焼色ムラも抑えられている。
また、本発明のケーキは、よりソフトでしっとり感にも優れると同時に、しっかりとしたコクをも有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に記載のケーキの形状評価の際に測定したケーキ高さA、B1及びB2を示す図である。
【0013】
本発明の製造方法によれば、上記の効果を有するケーキを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のケーキ用水中油型乳化組成物(以下、単に、本発明の乳化組成物と呼ぶことがある。)について以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明の乳化組成物は、(A)食用油脂、(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール及び(C)リン脂質を少なくとも含む油相成分と、(D)水、(E)セルロース及び(F)増粘多糖類を少なくとも含む水相成分とを乳化して得られる、ケーキの製造に適した起泡性の水中油型乳化組成物である。
【0016】
本発明に用いる食用油脂((A)成分)に特に制限はないが、植物油脂であることが好ましく、例えば、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、綿実油等を用いることができる。(A)成分は、1種類の食用油脂からなるものでもよいし、2種以上の食用油脂からなるものでもよい。本発明の乳化組成物中には(A)成分が13〜30質量%含有されるが、15〜28質量%含有されることがより好ましく、18〜26質量%含有されることが特に好ましい。
本発明に用いる食用油脂は、トリアシルグリセロール及びジアシルグリセロールから構成され、モノアシルグリセロールは含まない。本発明に用いる食用油脂は、トリアシルグリセロールを主成分としており、食用油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、通常には90〜99質量%である。
(A)成分は、本発明の乳化組成物の油相成分を構成する。
【0017】
本発明に用いる、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール((B)成分、以下、飽和モノアシルグリセロールと呼ぶことがある。)とは、グリセリンが有する3つのヒドロキシル基のいずれか1つと、飽和脂肪酸が有するカルボキシル基とがエステル結合した構造を有するモノエステル化合物である。飽和脂肪酸が結合するグリセリンのヒドロキシル基は、α−位であってもβ−位であってもよいが、α位であることが好ましい。
上記飽和脂肪酸に特に制限はないが、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、アラキジン酸(C20:0)であることが好ましく、特にパルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)であることが、ケーキの比容積向上及び焼色ムラの改善の点から好ましい。
【0018】
(B)成分は、1種類の飽和モノアシルグリセロールからなるものでもよいし、2種以上の飽和モノアシルグリセロールからなるものでもよい。本発明の乳化組成物中に(B)成分は2〜20質量%含有されるが、更に3〜15質量%、特に4〜10質量%、尚更5〜8質量%含有されることが、ケーキの比容積向上及び焼色ムラの改善の点から好ましい。
(B)成分は、本発明の乳化組成物の油相成分を構成する。
【0019】
本発明に用いるリン脂質((C)成分)に特に制限はなく、例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸等又はこれらの酵素処理物が挙げられる。また、(C)成分として、大豆レシチンや卵黄レシチン等の天然レシチンやその酵素分解物を用いることもできる。また、リン脂質複合体(例えば、リン脂質とタンパク質との複合体等)を(C)成分として用いてもよい。(C)成分は1種類のリン脂質からなるものでもよいし、2種以上のリン脂質からなるものでもよい。
【0020】
本発明の乳化組成物中の(C)成分の含有量は0.1〜10質量%であるが、0.36〜6.34質量%、さらに0.5〜6.34質量%、特に1〜6質量%、尚更1.2〜3.34質量%であることが、ケーキの比容積向上、焼色ムラの改善、及び風味の向上の点から好ましい。
なお、レシチンにはリン脂質以外の成分を含むものが多いが、このようなレシチンを用いる場合には、(C)成分を構成するのはリン脂質であり、リン脂質以外の成分は(C)成分を構成するものではない。
(C)成分は、本発明の乳化組成物の油相成分を構成する。
【0021】
本発明に用いる水((D)成分)は、飲用水であれば特に制限はなく、例えば、水道水、精製水、イオン交換水、ミネラルウォーター等を用いることができる。
【0022】
本発明の乳化組成物中の(D)成分の含有量は、5〜40質量%であるが、10〜35質量%、さらに20〜30質量%であることが、乳化安定性、保存性(防腐性)の点から好ましい。
(D)成分は、本発明の乳化組成物における水相成分の基剤となる。
【0023】
本発明に用いるセルロース((E)成分)は、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子である。(E)成分は、結晶性セルロース及び/又は非結晶性セルロースからなるが、結晶性セルロースからなることが好ましい。
【0024】
本発明の乳化組成物中の(E)成分の含有量は0.05〜2.5質量%であるが、0.05〜1.8質量%、さらに0.06〜0.6質量%、特に0.08〜0.2質量%、尚更0.12〜0.15質量%であることが、乳化安定性、風味向上、保存性(防腐性)の点から好ましい。
(E)成分は、本発明の乳化組成物の水相成分を構成する。
【0025】
本発明に用いる増粘多糖類((F)成分)は、単糖分子がグリコシド結合によって重合した糖であり、重合している単糖単位の数が10以上のものを意味する。(F)成分は、上記構造を有する限り特に制限はないが、キサンタンガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム及びセルロース誘導体から選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましく、キサンタンガムであることがより好ましい。セルロース誘導体とは、セルロースの構成成分であるグルコースの水酸基が置換されたものである。なお、本発明において、上記セルロースは増粘多糖類として配合されるものではなく、したがって(F)成分を構成するものではない。
【0026】
本発明の乳化組成物中の(F)成分の含有量は0.02〜0.5質量%であるが、0.03〜0.45質量%、さらに0.05〜0.42質量%、特に0.08〜0.4質量%、尚更0.15〜0.4質量%であることが、ケーキの比容積向上、焼色ムラの改善及び風味の観点から好ましい。
(F)成分は、本発明の乳化組成物の水相成分を構成する。
【0027】
本発明の乳化組成物を構成する、水((D)成分)と増粘多糖類((F)成分)から構成される水溶液((D)成分として配合される量の水と(F)成分として配合される量の増粘多糖類からなる組成物)の粘度は10〜10000mPa・sであることが好ましく、さらに100〜9000mPa・s、特に800〜8000mPa・sであることがケーキの比容積向上、焼色ムラの改善の観点から好ましい。上記粘度は、25℃において測定されたものであり、B型粘度計で測定することができる。
【0028】
本発明の乳化組成物には、さらに、不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール((J)成分、以下、不飽和モノアシルグリセロールと呼ぶことがある。)が含まれていてもよい。当該不飽和脂肪酸に特に制限はないが、例えば、パルミトレイン酸(C16:1)、オレイン酸(C18:1)、バクセン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、エレオステアリン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)、ネルボン酸(C24:1)等が挙げられる。
(J)成分は、1種類の不飽和モノアシルグリセロールであってもよく、2種以上の不飽和モノアシルグリセロールからなるものであってもよい。
本発明の乳化組成物に(J)成分が含まれる場合には、当該(J)成分は油相成分を構成する。
【0029】
本発明の乳化組成物は、上記以外に乳化剤((G)成分)、糖類((H)成分)、エタノール((I)成分)等を含有してもよい。
上記(G)成分は、乳化組成物の乳化安定性をより向上させる観点から、HLB値が2〜20の少なくとも1種の乳化剤であることが好ましく、HLB値が2〜8の少なくとも1種の乳化剤及びHLB値が9〜20の少なくとも1種の乳化剤からなることがより好ましい。なお、本発明において、上記(G)成分には、上述したモノアシルグリセロール及びリン脂質は含まれない。
【0030】
本発明において、HLB値は下記の数式で表されるGriffin法(W.C.Griffin,J.Soc.Cosmetic.Chemists.,1,311(1949))により計算した値である。

HLB=20×(親水基部分の分子量)/(界面活性剤の分子量)

【0031】
上記のHLB値が2〜8の乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を挙げることができるが、乳化安定性の観点からソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルを併用するのが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸に特に制限はないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。
本発明の乳化組成物には、上記のHLB値が2〜8の乳化剤が1〜20質量%含有されることが好ましく、2〜10質量%含有されることがより好ましく、4〜7質量%含有されることが特に好ましい。
【0032】
上記のHLB値が9〜20の乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができるが、水への分散性と乳化安定性の観点からショ糖脂肪酸エステルが好適に用いられる。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸等が挙げられる。
本発明の乳化組成物には、上記のHLB値が9〜20の乳化剤が1〜10質量%含有されることが好ましく、2〜8質量%含有されることがより好ましく、3〜6質量%含有されることが特に好ましい。
【0033】
上記(H)成分としては、グルコース、マルトース、フルクトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等の単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、五糖類、六糖類や澱粉加水分解物、又はこれらを還元した糖アルコールが挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物であってもよい。良好な乳化安定性と保存性(防腐性)が得られ、しかもケーキに適度の甘みを付与する観点から、本発明の乳化組成物中における(H)成分の含有量は、5〜50質量%であることが好ましく、さらに乳化組成物をより安定化する観点から、25〜30質量%とすることが好ましい。
【0034】
上記(I)成分は、本発明の乳化組成物中に含有させることで、界面活性作用により乳化物の調製を容易にする。本発明の乳化組成物中における(I)成分の含有量は、0.5〜5質量%であることが好ましく、さらに乳化組成物をより安定化する観点から、1〜4質量%とすることが好ましい。
【0035】
本発明の乳化組成物は、例えば、油相成分と水相成分とを通常の方法で乳化混合することで得ることができる。より具体的には、例えば80℃程度まで加熱した上記油相成分を、ホモミキサーを用いて攪拌し、ここに40℃程度まで加熱した上記水相成分を加えて攪拌乳化することで水中油型乳化組成物を得ることができる。本発明の乳化組成物の乳化安定性を高めるために、上記水相成分は、上記油相成分に対して質量比(水相成分/油相成分)で1.5以上であることが好ましく、1.5〜4であることがより好ましい。
【0036】
本発明の水中油型乳化組成物は、ケーキ製品の製造に用いられる。ケーキ製品としては、スポンジケーキ、バターケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、スイスロール、ブッセ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、蒸しケーキ等が挙げられる。
【0037】
本発明のケーキは、本発明の乳化組成物を含有させたケーキ生地を焼成することで製造される。このケーキ生地は、少なくとも穀粉と、卵と、糖類と、本発明の乳化組成物とを混合して得られる。良好な食感と風味を得る観点から、本発明のケーキは、少なくとも穀粉と、該穀粉100質量部に対して、卵50〜300質量部と、糖類20〜250質量部と、本発明の乳化剤3〜100質量部とを混合して抱気させたケーキ生地を調製し、このケーキ生地を焼成して製造されることが好ましい。より好ましくは、穀粉100質量部に対して、卵を80〜250質量部、糖類を50〜180質量部、本発明の乳化組成物を5〜50質量部の割合で混合し、抱気させたケーキ生地を焼成して製造される。
上記穀粉に特に制限はないが、例えば、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉等が挙げられ、中でも小麦粉が好適に用いられる。
上記卵として、鶏卵、ダチョウ卵、アヒル卵等が挙げられるが、中でも鶏卵が好適に用いられる。また、上記卵は、卵白及び/又は卵黄を意味する。
使用する卵の加工形態に特に制限はなく、生卵、凍結卵、粉末卵、加糖卵、殺菌卵等を用いることができるが、中でも殺菌卵が好適に用いられる。
上記糖類は、前述した(I)成分と同義である。
上記ケーキ生地は、さらに粉乳、ベーキングパウダー、砂糖、食用油、香料等を含んでいてもよい。
【0038】
上記ケーキ生地は、さらに油脂等の他の成分を含有させて調製してもよい。
上記焼成方法に特に制限はないが、通常には、ケーキ生地を所望の型(円筒、三角筒や四角筒等の角筒等)に入れ、オーブン等で焼き上げる(加熱する)ことで行われる。
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
[増粘多糖類水溶液粘度の測定]
増粘多糖類水溶液の粘度は、B形粘度計(TVB−10、東機産業社製)により25℃で測定した。
【0041】
[調製例1 水中油型乳化組成物の調製]
菜種白絞油(日清オイリオ社製)、ステアリン酸モノアシルグリセロール(商品名:エキセルT−95、花王社製)、ソルビタンモノステアレート(HLB4.7、商品名:エマゾール S−10VHL、花王社製)、プロピレングリコールベヘン酸エステル(HLB2〜3、PGMB、花王社製)及び大豆由来リン脂質(商品名:レシチンデラックス、日清オイリオ社製)を下記表1に示す割合で混合し、80℃に加熱して攪拌溶解することで油相成分を調製した。
【0042】
液糖(商品名:ハイマルトースMC−45、日本食品化工社製)、水(水道水)、エタノール(日本アルコール産業社製)、ショ糖脂肪酸エステル(HLB11、商品名:S−1170、三菱化学社製)、キサンタンガム(商品名:ビストップD−3000、三栄源エフ・エフ・アイ社製)、グアーガム(商品名:ビストップD−20、三栄源エフ・エフ・アイ社製)、アラビアガム(商品名:アラビックコールSS、三栄薬品貿易社製)、結晶セルロース(商品名:セオラスFD-101、旭化成工業社製)、メチルセルロース(商品名:MCE−400、信越化学工業社製)を下記表1に示す割合で混合し、40℃に加熱して攪拌溶解することで水相成分を得た。
なお、表1の上欄に記載の各成分の数値は油相成分と水相成分の合計を100質量%としたときの質量%を示す。
【0043】
上記水相成分を上記油相成分に徐々に添加しながらホモミキサー(プライミックス社製)を用いて50℃、7000rpmで攪拌乳化し、水中油型乳化組成物(本発明品1〜19、比較品1〜9)を得た。得られた各乳化組成物を15℃まで冷却し、冷蔵庫(5℃)にて1日保存した後、後述する試験例に用いた。
表1には、各乳化組成物中の食用油脂((A)成分)、飽和モノアシルグリセロール((B)成分)、リン脂質((C)成分)、水((D)成分)、セルロース((E)成分)、増粘多糖類((F)成分)、乳化剤((G)成分)、糖類((H)成分)及びエタノール((I)成分)の各含有量(単位:質量%)、並びに(D)成分と(F)成分とからなる水溶液における増粘多糖類の濃度及び該水溶液の粘度についても併せて示す。
【0044】
[調製例2 ケーキの調製]
卵(生鶏卵)500g、鶏卵白50g、上白糖600gを加え、ミキサー(関東ミキサー社製)で攪拌しながら30℃まで加温した。上記乳化組成物50g、マリッシュスーパー(花王社製)50g及び水150gを加え中速で1分間攪拌した。薄力粉(日清製粉社製)500g、調整粉乳50g及びベーキングパウダー(愛国産業社製)20gを加え、低速で30秒攪拌し、その後ケーキ生地の比重が0.55g/cmになるまで高速で攪拌した。
得られたケーキ生地を、離型油2g塗った丸型スチール型(型6号)に260g流しいれ、上火200℃、下火200℃のオーブンで20分間焼成してケーキを製造し、下記の試験例に用いた。
【0045】
[試験例1 水中油型乳化組成物の安定性]
上記調製例1で調製した水中油型乳化組成物について、40℃で1時間経過した後におけるオイルオフの発生の有無を目視にて調べた。
結果を下記表1に示す。
【0046】
[試験例2 ケーキの焼色評価]
上記調製例2で製造したケーキについて、専門パネル10名にて、ケーキ上表面の焼色を下記基準により評価した。評価数値は協議により決定した。
【0047】
(ケーキの焼色の評価基準)
4:ケーキ上表面の外周部とその内側部分との間で焼色の差がない。
3:ケーキ上表面の外周部とその内側部分との間で焼色の差がわずかにある。
2:ケーキ上表面の外周部とその内側部分との間で焼色の差があるが目立たない。
1:ケーキ上表面の外周部とその内側部分との間で焼色の差が目立つ。
結果を下記表1に示す。
【0048】
[試験例3 ケーキの形状評価]
上記調製例2で製造したケーキについて、ケーキ上表面のドーム型形状の平坦性、すなわち、ケーキ底面が下になるようにケーキを水平に載置した際の、垂直方向へのケーキの膨らみの均一性を、下記計算式を用いて評価した。
【0049】
(計算式)
垂直方向へのケーキの膨らみの均一性(%)=100×[(B1+B2)/2]/A

A:ケーキ中心を通るようにまっすぐ垂直に切断したケーキ断面における中心部の高さ(図1中ラインAの長さ)
B1:上記断面おいて、左端から中心までの距離を2等分した位置における高さ(図1中ラインB1の長さ)
B2:上記断面おいて、右端から中心までの距離を2等分した位置における高さ(図1中ラインB2の長さ)
【0050】
垂直方向へのケーキの膨らみは、上記計算値が100%に近づくほど均一性が高いといえる。
結果を下記表1に示す。
【0051】
[試験例4 ケーキの比容積の測定]
ケーキを焼成後、30分間室温に放置し、品温が20℃となったところでケーキの比容積を測定した。上記「比容積」は、ケーキ1gあたりの容積(単位:cm/g)として算出され、この値が大きいほど、ケーキ生地の焼成による膨らみが大きいことを意味する。ケーキの比容積は、レーザー体積計測機WinVM2000(ASTEX社製)にて測定した。
結果を表1に示す。
【0052】
[試験例5 ケーキ品質の官能評価]
上記調製例2で製造したケーキについて、専門パネル10名にて、風味及び食感を下記評価基準により評価した。評価数値は協議により決定した。
【0053】
(風味の評価基準)
5:食べた時、気道に卵黄の香りが強く残り、強いコクを感じる。
4:食べた時、気道に卵黄の香りが残り、ややコクを感じる。
3:食べた時、気道に卵黄の香りが残りにくく、ややコクが感じられない。
2:食べた時、気道に卵黄の香りが残りにくく、コクが感じられない。
1:食べた時、気道に卵黄の香りが残らなく、コクが感じられない。
【0054】
(食感の評価基準)
5:ケーキの食感がかなりソフトでしっとりしている。
4:ケーキの食感がソフトで僅かにしっとりしている。
3:ケーキの食感にソフトさ、しっとりさが感じられない。
2:ケーキの食感にやや堅さが感じられ、ソフトさが感じられない。
1:ケーキの食感が堅く、パサつきが感じられる。
結果を表1に示す。
【0055】
【表1−1】

【0056】
【表1−2】

【0057】
表1に示すように、増粘多糖類を含まない比較品1、増粘多糖類の含有量が本発明で規定するよりも少ない比較品2、並びに増粘多糖類の量が本発明で規定するよりも多い比較品3及び4では、乳化安定性は高いものの、これらの乳化組成物を用いて製造したケーキは焼色ムラが生じており、焼成による膨らみが比較的小さい(比容積が小さい)上に、垂直方向への膨らみ具合も不均一であった。また、上記比較品3及び4の乳化組成物を用いて製造したケーキは、風味及び食感のいずれかにおいて劣るものであった。
また、リン脂質の含有量が本発明で規定するよりも多い比較品5は、乳化安定性が悪く、ケーキの製造に用いることができなかった。リン脂質を含まない比較品6は、乳化安定性は高かったが、これを用いて製造したケーキは焼色ムラが生じており、焼成による膨らみが比較的小さい上に、垂直方向への膨らみ具合も不均一であった。また、当該ケーキは風味と食感のいずれにおいても劣るものであった。
また、セルロースを含まない比較品7は、乳化安定性は高いものの、これらを用いて製造したケーキは焼色ムラが顕著であり、風味にも劣るものであった。逆に、セルロースの含有量を高めても、その量が本発明で規定するよりも高い場合には、上記の傾向は改善されなかった(比較品8)。また、水溶性のセルロースであるメチルセルロースを使用した場合、焼色ムラが顕著であり、食感は劣るものであった(比較品9)。
【0058】
一方、本発明品1〜19のように、リン脂質、セルロース、及び増粘多糖類のいずれの含有量も本発明で規定する範囲内にあり、かつ、本発明で規定する構成要件のすべてを具備する水中油型乳化組成物は、いずれも乳化安定性に優れていた。そして、これらを用いて製造したケーキは、焼成による膨らみが大きく比容積が高められており、また、焼き上がりの色合いをみると、焼色のムラが顕著に抑えられた良好な色合いを有していた。さらに、焼き上がりの形状をみると、ケーキの垂直方向への膨らみ具合がより均一であることもわかった。
また、本発明品1〜19は、風味と食感の双方にも優れるものであった。
【0059】
以上のように、本発明の乳化組成物を用いることで、外観、風味及び食感のいずれにおいても優れたケーキを製造することができる。しかも、本発明の乳化組成物を用いて製造されたケーキは、比容積が大きく、かつケーキ全体にわたり高さがより均一であるため、ケーキの生産効率及び加工効率を大幅に改善することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(F)を含有する、ケーキ用水中油型乳化組成物:
(A)食用油脂 13〜30質量%、
(B)飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール 2〜20質量%、
(C)リン脂質 0.1〜10質量%、
(D)水 5〜40質量%、
(E)セルロース 0.05〜2.5質量%、及び
(F)増粘多糖類 0.02〜0.5質量%。
【請求項2】
(D)成分及び(F)成分からなる増粘多糖類水溶液の25℃における粘度が、10〜10000mPa・sである、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
(G)乳化剤を含有する、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
(G)成分が、HLB値が2〜8の乳化剤及びHLB値が9〜20の乳化剤を含む、請求項3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
HLB値が2〜8の乳化剤が、ソルビタンモノステアレート及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルである、請求項4に記載の乳化組成物。
【請求項6】
HLB値が9〜20の乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルである、請求項4又は5に記載の乳化組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の乳化組成物を含むケーキ生地を焼成して得られるケーキ。
【請求項8】
少なくとも穀粉と、卵と、糖類と、請求項1〜6のいずれか1項に記載の乳化組成物とを混合してケーキ生地を調製する工程、及び
前記ケーキ生地を焼成する工程
を含む、ケーキの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−170394(P2012−170394A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35174(P2011−35174)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】