説明

ケーキ類の焼き型およびその焼き型を用いたケーキ類とその製造法

【課題】本発明の目的は、ケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、可食物を充填すること、さらには中心部まで十分な焼成が困難な大きな生地や中心部まで十分に焼成すると表面が焦げるような生地を速やかに十分に焼成する手段を提供することおよび、その手段を用いたケーキ類の製造法を提供することにある。
【解決手段】内部が空洞の柱状物を固定できるように、焼成用焼き型に穴をあけ、その穴に柱状物を貫通、固定化し、それによりケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、柱状物からの熱により、生地中心部に速やかに熱を伝える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成時間を短縮し、且つ可食物を食品中に任意の位置に充填することが可能なケーキ類の焼き型およびその焼き型を用いたケーキ類とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
パウンドケーキに代表されるケーキ類は粉類、卵類、油脂類および糖類などを主原料とした流動性のある生地を容器に流し込んだ後に焼成したもので、構造の中に程よく気泡が分散した柔らかい食感の商品である。
通常パウンドケーキのような生地は芯まで焼成する際、低温で長時間焼成が必要となり、また型が大きくなるにつれ、芯まで十分に焼成することが困難となる。焼成時間が長くなる場合、生地上部表面が焼けすぎる場合がある。パウンドケーキのような生地を芯まで焼成するためには、油脂類及び糖類などを減らすなど、焼成時間を短縮するために配合面での調整がなされる場合が多い。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、局所的な焦げを防止するために、シート材からなる素材を折り曲げることによって、底壁とその底壁の周縁より延びる側壁とからカップ状に形成して容器本体を構成する方法が取られる場合もあるが、型が大きくなり生地充填量が増加すれば、生地の芯まで焼成する前に、生地上部表面が焼けすぎる可能性があり、形も限定されてしまう場合がある。
【0004】
また焼成の熱源が、輻射が主の固定窯は良く用いられているが、熱源が加熱された空気である温風を循環して対象に接触させることで焼成するコンベクションオーブンではパウンドケーキのような生地は十分に焼成することが困難な場合があった。
【0005】
一方で、ケーキ類には可食物と組み合わせる用途があるが、その場合も焼成後生地の切断が一般的である。切断したケーキ類に可食物を挟む形で組み合わせる場合、固形物もしくは保形性のあるものしか挟めず、クリーム、ガナッシュ、ジャム等ペースト状のような流動性の高いものは、ごく少量しか挟むことが出来ないことが多い。
また、特許文献2に記載されているように、焼成したスポンジでフィリングをサンドし、フィリングの厚さ方向に対し傾斜した角度で切断することにより製品表面の少なくとも一つを形成するような方法はあるが、可食物を挟んでから切断する場合、特にパウンドケーキのように生地が密で堅い場合は切断時に大きな圧力が掛かるため、切断面より流出する場合もある。
【0006】
さらに、ケーキ類の生地をくり貫く方法では貫いた部分の余り生地が出るうえ、パウンドケーキのように密で堅く、さらに細長い生地では綺麗に貫くことは非常に難しい場合があり、折角の密で綺麗な組織、さらにはパウンドケーキ全体を壊したりして商品価値を損なう場合がある。
このように、ケーキ類、特にパウンドケーキの焼成時間を短縮したり、大きなものを焼成したり、あるいは流動性のある可食物を十分量組み合わせる方法は、未だ十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−289732号公報
【特許文献2】特開平09−266749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、可食物を充填すること、さらには中心部まで十分な焼成が困難な大きな生地や中心部まで十分に焼成すると表面が焦げるような生地を速やかに十分に焼成する手段を提供することおよび、その手段を用いたケーキ類の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた。その結果、本願課題の解決には、棒のような柱状物を固定できるように、焼成用焼き型に穴をあけ、その穴に柱状物を貫通、固定化し、それによりケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させることが好適であり、また柱状物表面からの加熱により、ケーキ類が満遍なく焼成されることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は
(1)ケーキ類の材料を内部に納める状態において一体に焼かれ使用される焼き型であり、壁部に断面の長径5mm以上である柱状物が貫通できる穴が合計で2ヶ所以上あり、1つの柱状物は1対の穴を貫通し固定される構造を持つ、ケーキ類焼成用の焼き型。
(2)柱状物が貫通している(1)記載のケーキ類焼成用の焼き型。
(3)柱状物の内部が空洞であり、少なくとも一端が開いている事を特徴とし、且つ当該柱状物が1つ以上ある(1)乃至(2)記載のケーキ類焼成用の焼き型。
(4)焼成後に焼き型から抜き出した時点で、抜き出した方向とは異なる方向に貫通した断面の長径5mm以上の中空部が合計で1本以上あるケーキ類。
(5)生地を略貫通するに足る長さと、断面が5mm以上の長径を有する柱状物の共存下、焼き型内で焼成し、焼成後柱状物を焼成物から抜き出すことを特徴とするケーキ類の製造法。
(6)(4)記載の中空部分に可食物を充填したケーキ類の製造法。
(7)ケーキ類の材料を内部に納める状態において一体に焼かれ使用される焼き型において、底面に平行な任意の2断面において上位の面が大きい部位があり、且つその2断面の間に1本以上の柱状物が固定される構造を持つ、ケーキ類焼成用の焼き型。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明で言うところのケーキ類とは、一般的な原料としては小麦粉などの穀粉類、卵類、油脂類および糖類などを主原料とした流動性のある生地を容器に流し込んだ後に焼成したもので、構造の中に程よく気泡が分散した柔らかい食感のが特徴の食品である。一例としてはスポンジケーキやバターケーキ(パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ)、パン類などが挙げられる。
最近ではアレルギー対策で上記原料の一部を配合しないものもあるが、本願発明においては特に特定の原料を使う必要は無く、焼成前の生地が流動性を有し型に流し込んで焼成するものであれば特に限定はされない。
通常、パウンドケーキのような生地の場合は芯まで焼成する際、長時間の焼成が必要となり、生地上部表面が焼成過剰になる場合があるが、本発明により焼成時間を短縮し、上部表面の過剰な焼成を抑制することが出来る。
【0011】
ケーキ類焼成用の焼き型とは、底面と側面を有しケーキ類の焼成前の生地が流れ出ない構造であれば特に限定はされないが、一般的にはパウンドケーキを焼成するパウンド型、ホールケーキを焼成するデコレーション型などを指す。焼成耐性があれば紙製のものでもかまわないが熱伝導性に優れた金属製のものが多く、鉄製、アルミ製、ステンレス製のものが挙げられる。また、上面が無く開口部になっているものが多いが、特にその有無(例えば蓋の存在など)には限定されない。
ケーキ類焼成用の焼き型においては壁部に断面の長径5mm以上である柱状物が貫通できる穴が合計で2ヶ所以上あることが必須であり、ケーキ類を焼成する際にはケーキ類の焼成前の生地を型に流し込むに時点で、柱状物が上記焼き型の穴を貫通し、生地が流れ出ない程度に固定している必要がある。
【0012】
本発明で言う「壁部」とは、焼き型において底面からほぼ垂直に位置し、焼き型の壁を形成している部分をさす。ただしケーキ類を焼成後に焼き型から抜きやすいようにテーパが付いている場合は上部に従い底面よりやや広がった形状になる場合は底面に対して垂直よりやや大きい角度で位置する場合もあるが、本発明においては特に妨げない。
なお、焼き型として底部は長方形であったり楕円であったりし、壁部はそれに応じ四角形であったり、曲面となったりするが、それらの形状いずれへも本発明は適用できる。
【0013】
本発明で言う「柱状物」は、食品用容器などに使用可能で、ケーキ類の焼成の温度に耐える素材による物であればその材質は特に限定はされず、単にケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、焼成後のケーキ類に流動性の可食物を充填することのみが目的の場合は、ケーキ様紙容器に用いられる紙製のものでもかまわない。
ただし、ケーキ類の内部に通された柱状物表面からの加熱により、焼成時間を短縮し、上部表面の焼成を抑制することを目的とする場合は、金属、一例としては鉄製、アルミ製、ステンレス製などの熱伝導性の良好なものが好ましく、さらに柱状物の内部は空洞になっており、望ましくは少なくとも一端が、更に望ましくは両端が開いている形状のものがより好ましい。厚みは特に指定しないが、強度が保てる範囲で薄いものが好ましい。
【0014】
柱状物が熱伝導性の高い金属性であれば、焼き型の外に露出した柱状物の部位より熱が伝導し、焼き型内で接触したケーキ類を焼成することができるが、柱状物が空洞であり、さらにその一端以上が開いていると、開いた箇所から空洞内に温風が流入することにより、柱状物の空洞内部全面からケーキ類をより効率的に焼成することができる。これはパウンドケーキのようなケーキ類の場合に従来よく用いられていた輻射が主の固定窯でも効果があるが、さらに熱源が加熱された空気である温風を循環して対象に接触させることで焼成するコンベクションオーブンにおいては特に効果的であり、従来の焼き型ではでは十分に焼成することが困難であったタイプのケーキ類の焼成も可能となった。
【0015】
上記「柱状物の断面」および「壁部ある柱状物が貫通できる穴」でいうところの長径とは焼き型の穴、もしくは柱状物の断面の形状で最も大きい径を指す。長径は5mm以上であれば限定はされず、その上限は特にないが、望ましくはその柱状物の貫通する穴のある壁の最小の寸法以下、更に望ましくは50mm以下、最も望ましくは30mm以下である。特に長径が大きいことでの障害はないものの、柱状物が占める体積分だけ焼き型の容積が小さくなるため、極端に大きなものはケーキ類が目減りしてしまう為効率的ではない。また、焼成効率を高める目的の場合は太い柱状物1本より細い柱状物を複数本貫通させた方が、例え柱状物が占める体積が同程度でも、生地と接触している面積は後者の方が大きい為、効率的である。
【0016】
上記形状自体は特に限定はされず、一例としては円、楕円、三角形、四角形、星型など多角形などが挙げられる。形状が複雑すぎると焼成後のケーキ類から柱状物を引き抜き難い場合がある。ただし形状が複雑、例えば円よりも星型などの場合、柱状物が占める体積が同程度でも、生地との接触面積は大きい為、上記柱状物が複数本の場合と同様に焼成効率がよい場合もある。引き抜き易さなどと焼成効率、さらには後述の流動性のある可食物との組み合わせた際の外見上のデザインなどから適宜選ぶことができる。
【0017】
焼き型の穴とその柱状物の断面は同じ形状で、穴の大きさが断面の大きさ以上であることが望ましい。形状が異なる、または大きさが極端に異なると穴と柱状物が一致せず、隙間から焼成前の生地が外に流出する場合がある。もっとも、焼成前の生地の粘度によっては隙間が数ミリ程度開いていてもその隙間から漏れでない場合もあり、焼き型の穴と柱状物の形状は用いる焼成前の生地の物性などにより適宜調整して用いることができる。
焼き型の穴より柱状物の断面が大きい場合は穴を貫通させることが出来ないため望ましくない。
本発明で言う「壁部に柱状物が貫通できる穴が合計で2ヶ所以上あり、1つの柱状物は1対の穴を貫通し固定される構造を持つ、ケーキ類焼成用の焼き型」とは、壁部に柱状物の直径と同等の穴が開いている焼き型を指し、かつ柱状物が固定できるよう、穴が合計で2ヶ所以上開いている必要がある。本願発明においては、壁部に柱状物が貫通できる穴が合計で2ヶ所以上必要であるが、これは、1つの柱状物を1対の穴との組み合わせを貫通し固定される構造とするためであり、複数の柱状物を固定するためには、それに応じた数の穴が必要である。
【0018】
また、特に従来のパウンドケーキなどの様な密で火の通りがわるいケーキ類にはよく見られる現象であるが、内部の焼成前に、表面が早く焼き固まってしまい、その後に内部が焼成され膨張し、焼き固まった表面の中で唯一焼き型から開放されている上部表面を膨張した内部組織が突き破る「割れ」が見られる。しかし本願発明の焼き型の場合は表面のみならず貫通した柱状物からの加熱により内部からも焼成されるため、表面と内部の焼き固まるタイムラグが少なくなり、上部表面が「割れ」にくい。パウンドケーキにおいては少々の割れはパウンドケーキらしさとして容認されるが、過度の「割れ」商品価値を損ないかねない。しかし一方でパウンドケーキは火の通りが悪く焼成が難しい為いきおい十分に加熱しようとすると上面の過剰な焦げ色がついたり、「割れ」たりしがちであるが、本願発明はそれらパウンドケーキにおける欠点、そして同様にケーキ類の焼成効率の向上においても効果的である。
また、貫通した柱状物が中空でなくさほど熱伝導性のよくないものであり、加熱により内部からの焼成が余り期待できないものであった場合においても、柱状物がケーキ類の焼成時におこる内部の対流を乱し、内部組織の膨張圧力を弱める働きがあるため、パウンドケーキの「割れ」を抑制する効果がある。
【0019】
本発明で言う「可食物」とは、ケーキ類において一緒に食すことのできるものであり、その素材は特に問わない。たとえば主体となるケーキ類とは異なる食味を有する素材であれば、従来にない、全く新しい食感を表現できる。可食物の形状は特に問わないが、流動性のある素材であれば、本発明により、ケーキ類に形成された穴に比較的容易に充填することができ、好適である。具体的には、クリーム、ガナッシュ、ジャム等ペースト状のものを例示できる、固形状の可食物としては、具体的にはフルーツ、ナッツ、麩菓子、米菓、膨化菓子、チョコレート、クッキーを例示できる。
【0020】
上記「クリーム」とは、ケーキ類に使用できるものであり、具体的には、特定量の乳脂肪および/または植物性油脂、無脂乳固形分、甘味料、卵成分、および乳化剤を含有することを特徴とする水中油型乳化物をホイップしたものを指す。流動性及び保形性を有しているため、生地に空いた穴に容易に充填できることから好適である。
【0021】
上記「ガナッシュ」とは、ケーキ類に使用できるものであり、具体的には、チョコレート成分を含有する水中油型乳化物、若しくは油中水型乳化物を指す。流動性を有しているため、生地に空いた穴に容易に充填できることから好適である。
【0022】
以下に本願発明に係る焼き型を用いたケーキ類とその製造法について説明する。
本願発明に係る焼き型の、任意の高さに柱状物を固定する。この場合、焼き型に存在する穴に柱状物を貫通させ、固定することができる。可食物の充填は、本願発明に係る焼き型を使用しケーキ類を焼成し、焼成後に柱状物を除去すればケーキ類の任意の位置に穴が作製され、その穴に手動、絞り袋、デポジッターを用いて行う。柱状物には予め油脂類を塗布しておけば、焼成した後に除去しやすくなる。
【0023】
本願発明に係る焼き型を模式図(図1・図2)にて概略説明する。
(a)は柱状物を貫通、固定させるための穴であり(b)は柱状物である。
図1では焼き型は直方体で断面が円形の柱状物を1本貫通固定させるために合計2つの円形の穴が設けられている。
ただし、図2のように焼き型自体も、直方体である必要もなく、また、穴の位置も個数も特に限定されない。柱状物も2本以上あっても、断面、そして焼き型の穴も円形でなく例えば星型のようなものでもかまわない。穴の個数や位置は柱状物の本数に応じて適宜設定できる。
上記方法にて得られたケーキ類は、焼成後に貫通した柱状物を焼き型から引き抜き、焼き型の開口部(ふたのあるものはふたを開けた上で)から鉛直方向に抜き出すことができるが、その時点で抜き出した方向とは異なる方向に貫通した柱状物が形成した断面の長径5mm以上の貫通した中空部が合計で1本以上存在している。
従来の方法では、焼き型から取り出した後に別工程にて貫通した中空部を作ること、あるいは焼き型がリング形状(ドーナツ状で穴と鉛直方向に開口部がある焼き型)の場合は抜き出した方向に貫通した中空部が存在するが、焼成後型から抜き出した時点で抜き出した方向と異なる中空部は形成できない。
【0024】
また本発明のケーキ類は、柱状物の共存下において、焼き型内で焼成し、焼成後柱状物を焼成物から抜き出すことを特徴とするケーキ類の製造法であり、柱状物は生地を略貫通するに足る長さと、断面が5mm以上の長径を有する必要がある。
略貫通するとは焼成後のケーキ類から柱状物の一端が露出している状態であり、柱状物は焼き型と一体ではなく、焼成後ケーキ類と共に抜き出すことが出来るものである。
【0025】
また、単にケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、焼成後のケーキ類に流動性の可食物を充填することのみが目的の場合は、柱状物は焼き型内の任意の位置に固定してあるだけでかまわず、焼き型に穴が開いている必要はない。
柱状物は焼き型内の任意の位置に固定する方法は特に限定はされないが、焼き型の壁部は固定金具などがあるとケーキを抜き出す際にケーキを破損する場合があるため、望ましい方法として以下の方法が挙げられる。
【0026】
焼き型から、焼成されたケーキ類を抜き出す際に、底面に平行な任意の2断面(図3のc、d参照)において底面に対して上方の断面が下方の断面より大きい部位があり、且つその2断面の間に上方の断面(図3のc)の幅より小さく下方の断面(図3のd)の幅より大きな1本以上の柱状物を固定する。それぞれの断面に置ける幅とは、底面に垂直な任意の1平面とそれぞれの断面が交わった交線の長さである。通常、焼き型は焼成したケーキ類を抜き出しやすくする為、壁部はテーパが付けられ上方ほど広がった形状をしているものが多いが、その任意の2断面において上記関係が成り立っている場合に柱状物(図3のe)はケーキと共に上方へとは抜き出せるが下方には落ち込まず、焼き型の抜き出す方向が鉛直方向におかれた状態では上記2段面の間に固定される。
上記2断面の条件を満たしていれば特に焼き型の壁部の形状は特に一様でなくともかまわない。図3の側面視の方向から見た側面図は図4のfの形状であるが、図4のgの形状がそれにあたる。
【0027】
この場合の柱状物は焼き型外部には露出しておらず、柱状物表面からの加熱は期待していないため、食品用容器などに使用可能で、ケーキ類の焼成の温度に耐える素材による物であればその材質は特に限定はされず、単にケーキ類中の任意の位置に中空部を発生させ、焼成後のケーキ類に流動性の可食物を充填することのみが目的の場合は、ケーキ様紙容器に用いられる紙製のものでもかまわなし、その一端が開いている必要もない。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。
なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
【0029】
「実施例1」
底面が長方形でテーパが付いている角のある焼き型において、一対の壁部に柱状物を貫通できる穴をそれぞれ2つあけ、対となる2つの穴に柱状物を貫通・固定し、それにより、焼成後のケーキ類の任意の位置に穴を開け、可食物(ガナッシュ)を充填した例。
<パウンドケーキ生地の配合>
バター :100重量部
砂糖 :100重量部
卵 :100重量部
小麦粉(薄力粉) :100重量部
膨張剤 :1.5重量部
<調製方法>
1 小麦粉をふるう。
2 常温に戻したバターを、泡だて器を用いて白っぽくなるまで撹拌する。
3 攪拌したバターに砂糖を数回に分けて、丁寧に混ぜながら加える。
4 さらにバターと砂糖を白っぽくなるまで混ぜ合わせる。
5 割りほぐしておいた卵を、生地を混ぜながら分離しないように少しずつ加えていく。
6 砂糖が完全に溶けたら、小麦粉を一度に加えて全体を混ぜる。
7 底面が長方形でテーパが付いている角のある焼き型(縦×横×高さ=17cm×5.5cm×6.5cm)にて、対となる2つの穴(直径2cm)に柱状物(長さ24.5cm、中空部分の内径1.5cm、柱状物の外径1.9cm)を貫通させる。(図5参照)
8 7の焼き型に生地を1個あたり300g流し入れ、オーブン(製品名:南蛮窯バッケン、株式会社七洋製作所製)にて上火/下火 170/170℃で37分間焼き上げる。
9 焼成後、柱状物を抜き取り、パウンドケーキを型から取り出す。(図6参照)
10 パウンドケーキの穴の開いた部分にガナッシュ(溶解した市販スイートチョコレート(商品名:クーベルチュールスイート、不二製油株式会社製)に80℃の市販クリーム(商品名:ガトーノイエ22、不二製油株式会社製)を等量混ぜ合わせて乳化させたもの)を、絞り袋に入れて充填する。
本願発明の角のある焼き型にて、可食物を充填した状態の模式図を図7に示す。
結果得られたパウンドケーキを、短辺に対し平行に切断したところ、ガナッシュはパウンドケーキの空洞部分に万遍なく充填されていた。
また、パウンドケーキ特有の上部表面に生じる割れがほとんど見られなかった。
【0030】
「比較例1」
実施例と同様に底面が長方形でテーパが付いている角のある焼き型ではあるが、壁部に穴をあけず、柱状物も貫通させない状態で用いた例。
実施例1の7の工程にて壁部に穴をあけず、柱状物も貫通させない以外はまったく同じ形状の焼き型を用い、10のガナッシュを充填する工程を行わず、9の工程で型から取り出してパウンドケーキを得た。
当然ながらパウンドケーキに穴はなく、組み合わせるにはスライスするか新たに穴を開ける必要があった。
また、パウンドケーキ特有の上部表面に生じる割れが見られたうえ、若干生焼け気味下であった。
図8に比較例1と実施例1のパウンドケーキの断面を示す。
【0031】
「実施例2」
底面が丸みを帯びた形状の焼き型において、二対とみなす壁部に柱状物を貫通できる穴をそれぞれ2つあけ、対となる2つの穴に柱状物をそれぞれ貫通・固定し、2本の柱状物が貫通した形状にした。それにより、焼成後のケーキ類の任意の位置に穴を開け、可食物(ガナッシュ)を充填した例。
実施例1の7の工程において「底面が長方形でテーパが付いている角のある焼き型」では「底面が丸みを帯びた形状の焼き型」にて、2対となる2つ(計4つ)の穴に2本の柱状物をそれぞれ貫通させる(図9参照)以外は実施例1と同じ配合、同様の手順にてパウンドケーキを調製した。
結果、得られたパウンドケーキを、底面に対しほぼ垂直に切断したところ、ガナッシュはパウンドケーキの空洞部分に万遍なく充填されていた。
【0032】
「実施例3」
ガナッシュの代わりにクリーム(市販クリーム(商品名:ガトーノイエ22、不二製油株式会社製)100重量部にグラニュー糖8重量部にを加えホイップしたもの)を用いる以外は、実施例1と同じパウンドケーキ生地と焼き型を用いてパウンドケーキを調製した。調製方法も、実施例1と同様である。
結果得られたパウンドケーキを、実施例1同様に切断したところ、クリームはパウンドケーキの空洞部分に万遍なく充填されていた。
【0033】
「実施例4」
本願発明の焼き型を用いてコンベクションオーブンにて焼成した例。
実施例1の8の工程にて、7の焼き型に1個あたり270gに流し入れ、160℃のコンベクションオーブン(製品名:クライマ・プラス・コンビ、株式会社ラショナル・ジャパン製)で35分間焼き上げる以外は実施例1と同じ配合、同様の手順にてパウンドケーキを調製し、9の工程で型から取り出してパウンドケーキを得た。
【0034】
「比較例2」
従来タイプの焼き型を用いてコンベクションオーブンにて焼成した例。
実施例4の焼き型を比較例1で用いた、壁部に穴をあけず、柱状物も貫通させない以外はまったく同じ形状の焼き型を用い、9の工程で型から取り出してパウンドケーキを得た。
結果、実施例4で得られたパウンドケーキは芯まで火が通るが、比較例2のパウンドは生焼けであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明により、パウンドケーキ等のケーキ類において、各種の可食物を容易に充填することが可能となった。これにより、従来はクリーム、ガナッシュのような流動性の可食物をケーキ類に充填するには、ケーキ類を切断して挟む、もしくはケーキ類をくりぬくしか方法がなかったが、挟める量に限界がある、くりぬいた余り生地がでる、綺麗に抜くのが困難なため外観が劣るなどの弊害があった。しかし本願発明により可食物をケーキ類の任意の位置に充分量充填することが可能となるため、食味や外見が改善し、またケーキ類の余り生地がでなくなった。
【0036】
本願発明により、パウンドケーキ等のケーキ類において、生地上部表面を焦がすことなく、生地中心部を焼成することが可能となった。通常パウンドケーキのような生地は芯まで焼成する際、低温で長時間焼成が必要となり、また型が大きくなるにつれ、芯まで十分に焼成することが困難となる。焼成時間が長くなる場合、生地上部表面が焼けすぎる場合がある。パウンドケーキのような生地を芯まで焼成するためには、油脂類及び糖類などを減らすなど、配合面での調整がなされる場合が多い。またチョコレートなどの油脂を含有するものを練りこむ際には焼成時間が長くなり、生地上部表面が焦げやすくなる。しかし本願発明により芯まで充分に焼成することが困難なケーキ類を、生地上部表面を焦がすことなく焼成することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】底面が長方形の焼き型であり、焼き型に固定された柱状物の模式図。
【図2】底面が丸みを帯びた形状の焼き型であり、焼き型に固定された柱状物の模式図。
【図3】底面に対して上方の断面が下方の断面より大きい部位がある焼き型の模式図
【図4】底面に対して上方の断面が下方の断面より大きい部位がある焼き型の側面図
【図5】実施例1で用いた焼き型の全体を示す図面代用写真。
【図6】実施例1で用いた焼き型と取り出されたパウンドケーキを示す図面代用写真。
【図7】実施例1のパウンドケーキのガナッシュが充填時の断面を示す図面代用写真。
【図8】実施例1と比較例1のパウンドケーキの断面を示す図面代用写真。
【図9】実施例2で用いた焼き型の全体を示す模式図。
【符号の説明】
【0038】
a 柱状物を固定するために壁部に開けられた穴。
b 柱状物。
c 底面に対して上方の断面。
d 底面に対して下方の断面。
e 柱状物。
f 壁部の形状が一様の焼き型。
g 壁部の形状が一様ではない焼き型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーキ類の材料を内部に納める状態において一体に焼かれ使用される焼き型であり、壁部に断面の長径5mm以上である柱状物が貫通できる穴が合計で2ヶ所以上あり、1つの柱状物は1対の穴を貫通し固定される構造を持つ、ケーキ類焼成用の焼き型。
【請求項2】
柱状物が貫通している請求項1記載のケーキ類焼成用の焼き型。
【請求項3】
柱状物の内部が空洞であり、少なくとも一端が開いている事を特徴とし、且つ当該柱状物が1つ以上ある請求項1乃至請求項2記載のケーキ類焼成用の焼き型。
【請求項4】
焼成後に焼き型から抜き出した時点で、抜き出した方向とは異なる方向に貫通した断面の長径5mm以上の中空部が合計で1本以上あるケーキ類。
【請求項5】
生地を略貫通するに足る長さと、断面が5mm以上の長径を有する柱状物の共存下、焼き型内で焼成し、焼成後柱状物を焼成物から抜き出すことを特徴とするケーキ類の製造法。
【請求項6】
請求項4記載の中空部分に可食物を充填したケーキ類の製造法。
【請求項7】
ケーキ類の材料を内部に納める状態において一体に焼かれ使用される焼き型において、底面に平行な任意の2断面において上位の面が大きい部位があり、且つその2断面の間に1本以上の柱状物が固定される構造を持つ、ケーキ類焼成用の焼き型。

【図1】
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【図2】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−177095(P2011−177095A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43586(P2010−43586)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】