説明

ケーソンを用いた埋立地仕切護岸

【課題】 水深が10m以上の深い海域で、背の高いケーソンを立設して処分場の遮水壁を構築するに際して、海底地盤での工事を少なくしても、ケーソン下部とその基部での遮水処理を、容易に行ない得るようにする。
【解決手段】 遮水壁を構築する海底地盤1には、浅い溝5を設けて底部を平らに均し、その上に底版15に多数の孔20・・を設けたケーソン11を立設する。そして、ケーソンの底版の孔から、アスファルトを注入して、孔20・・から底版の下部に充満させ、溝全体をアスファルトで満たして、遮水処理した地盤4と一体の遮水壁を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋立地を仕切る護岸に関し、特に大水深の海域に仕切用の護岸を構築可能として、廃棄物の安定化が図られるまで、遮水工を健全に機能させ得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海域を所定の広さに仕切るように構築している、従来より公知の仕切用護岸は、一般に水深10m程度の比較的浅い海域に、所定の範囲を囲むように構築されている。前記護岸を構築するに際しては、その海底地盤を改良することが必要な場合には、地盤を改良する工事を行って支持基盤とした上に、ケーソン等の構造物を1列に並べて構築し、さらに、その構造物を支持する基盤と海底地盤、および構造物の間に海水が流通することのないように、遮水処理を施している。そして、仕切護岸で囲まれた区画の内部に、そのまま埋立てると汚染物質が滲み出して、公害のもととなるような産業廃棄物他の有害物を、仕切用護岸に囲まれた内部に封じ込めている。
【0003】
前記廃棄物を封じ込めるための仕切用護岸は、ケーソンを設置・支持する基盤に対し、海水が漏れ出すことが無いように、遮水処理を施工する。また、地盤上に立設するケーソンのような構造物の間にも、遮水する処理を施し、廃棄物埋立地に投棄される廃棄物を、周囲の海から遮断している。さらに、前記埋立地の仕切内部に封じ込めた廃棄物に触れた汚染水は、無害化処理を施した後に、海に放流する等の管理が行われる。
【0004】
ところが、最近は、護岸を構築するに適した浅い海域が少なくなり、水深が10mを超える海域にも、廃棄物埋立処分場を構築する必要に迫られている。しかしながら、従来より採用されている護岸の構築工法によっては、そのような深い海域ではケーソンの下部や、ケーソン間での遮水工法が容易に適用できないという問題がある。また、大水深の海域でダイバーが遮水処理作業を行うことは、安全管理の面での対策も必要となり、難工事となることが予想される。そして、ダイバーに頼って海底での作業を主として行おうとする場合には、前記海底での工事のために、施工に非常に多くの労力を要し、かつ、安全面の対策も必要となり、工期と工費とを浪費するという大きな問題が発生すると想定される。
【0005】
前述したような大水深の海域で、ケーソン等の構造物を立設して、護岸を構築しようとする場合には、水深に対応した高さと幅を有するケーソンを用いる必要がある。また、前記大水深の海域に、仕切護岸を構築しようとする場合に、従来の技術のように潜水作業員に頼った施工は困難となるという、大きな問題に遭遇することになる。
【0006】
そこで、ダイバーのみに頼った仕事としないで、海底での作業を少なくしようとする場合には、例えば、特開2005−207132号公報等に開示されているような、ケーソンを立設する工法を用いることが考えられる。前記公知の例では、護岸を構築する海底地盤を浅く掘削し、護岸の基礎とする石積みを低く構築するようにしており、基礎の構築コストが高くならず、護岸の構築を容易に行い得るような手段としての、1つの例が開示されているのである(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−207132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の一般に知られているような工法では、工事を容易に行い得ない等の問題の他に、工事のコストが高くなり工事期間が長くなる等の、従来の工法を適用した場合に、問題が生じることが懸念されることに対処するのである。そして、従来の工法では工事が困難と考えられていた深い海底の地盤上に、背の高い大型のケーソンを設置する遮水工事を容易に出来るとともに、永久的に遮水体に対するメンテナンスが可能となる工法を提供するものである。
そして、海底での工事を出来るだけ少なくして、海上または、構造物上から施工する気中工事を多くし、ダイバーの負担する工事を少なくして工費を節約するとともに、工期を短縮できて、安全で信頼性の高い遮水壁の構築を容易に行い得る工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ケーソンを用いた埋立地仕切護岸に関するもので、請求項1の発明は、底版とその4周に立設する側壁とを組み合わせて、上部が開口された中空な略箱形の構造物として構成されたケーソンを用い、海底地盤に所定の幅と深さで設けたケーソン設置用の溝に、前記ケーソンを1列に立設して、遮水処理を施して構築する遮水壁において、
前記ケーソン設置用の溝には、水中コンクリート層または薄い捨石の層を設けて、上面を略平らに均し、
前記ケーソンの底版の下の面は、幅方向の中央部が最も高くなるように略山形に構成して、前記側壁の下部に対応する部分には、滑動防止用のマットを設け、
前記ケーソンの底版には多数の孔を下に貫通するように設けて、必要に応じて前記孔には、側壁の上に迄達する長い注入パイプを接続して設け、
前記注入パイプを用いて注入する遮水材を、前記ケーソンの底版の下面に充填可能として、前記ケーソンの下面に注入した遮水材に、すき間が形成されないように充填することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、前記箱形のケーソンの両側の底版に設ける滑動防止用のマットは、ケーソンの長さ方向の全体部分をカバーするように取付けることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、前記ケーソンの両側の底版に設ける滑動防止用のマットは、短いマット片を所定のすき間を介して取付け、ケーソンの底板に設けた孔から注入する遮水材の一部を、前記マット片間のすき間からケーソン底部の周囲に漏れ出させて、溝の中を満たし、設置したケーソンの底部分に対する位置決めを、遮水材を用いて行うことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、前記ケーソンの底版を貫通させて設ける孔は、用いる遮水材の流動性に対応させて孔の大きさを選択し、
前記孔の各々には、ケーソンを構築位置に設置した状態で、作業船またはケーソン上等から遮水材を注入するためのパイプを前記孔に接続して遮水材の充填を行ない、ケーソンを構築後に外し得るように前記パイプを着脱可能とし、
前記パイプを外してケーソンの底版の上に、任意の遮水材による遮水層を構築して、遮水壁として用いることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、前記ケーソンの下面に遮水材を注入するに際して、海水が入っているパイプを通して遮水材を注入し、前記パイプの中に充満させた海水の重さにより遮水材に圧力を加える作用を継続させ、
ケーソンの下部に注入した遮水材に対して、所定の押圧力を加え続けることにより、遮水材の層の中に空隙等が形成されないようにしながら工事することを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、前記ケーソンの底版に設けた孔に取付けるパイプの一部を、打設した遮水材の観測用等に用いるために残しておき、ケーソンの下部の遮水材の観測を随時行い得るものとし、
観測されたデータに基づいて、必要に応じて遮水材を追加圧入して、遮水層に生じた欠陥を直す等の、メンテナンスをするために用いることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、前記ケーソンの底版の下部に遮水材を注入するパイプの全部、またはその一部を護岸の完成後も残しておき、
残したパイプには、遮水材の上に常時海水を充満させて、ケーソン下部の遮水材の層に対して加圧作用を加え続けるとともに、パイプ中の遮水材の状態を常時監視するために用いることを特長とする。
【0016】
請求項8の発明は、前記ケーソンを列設して構成する遮水壁において、各ケーソンの接続部では、シール部材と遮水材の層とを組み合わせた遮水層を設け、ケーソンの間での遮水処理を行うとともに、前記遮水層の地盤側のケーソン下面には、マットのような遮水層を設けて、遮水材を保持させることを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、前記ケーソンを列設して構築する護岸において、ケーソンを設置する溝には、前記ケーソンの下面の空間を塞ぐ遮水材とともに、ケーソンの基部に所定の高さまで溝を埋める遮水材の層を施工して、護岸の基部を遮水層と一体化したことを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、前記ケーソンが、コンクリート製、ハイブリッド製等の種々の材料を用いて構成されているもので、自立可能なケーソンであることを特徴とする。
【0019】
請求項11の発明は、前記ケーソンに組み合わせて用いる遮水材として、アスファルト混合物の他に、コンクリート系遮水材、土質系遮水材のうちの1種を用いるか、または、施工箇所の特性に応じて、複数種類の材料を適宜組み合わせて用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
前述したように構成したことにより、本発明の護岸においては、背の高い大型のケーソンを列設して遮水性の護岸として構築する場合に、地盤の不透水性と合わせて、仕切護岸で囲まれた区画の内部に汚染された水を封じ込めて、仕切護岸内部から外に廃棄物及び、廃棄物に触れて汚染された水が漏れ出すことを防止でき、仕切護岸としての役目を安定した状態で発揮出来る。また、前述したように構成することにより、背の高いケーソンを安定した状態に立設・保持するために、特に海底地盤を深く掘り下げたりする必要が無く、護岸の基礎の工事内容を簡素化出来るので、大型の仕切護岸の構築を比較的低コストで施工できる。
【0021】
そして、本願においては、海底での作業を比較的少なくでき、作業船またはケーソンの上からの作業によって大部分の作業を処理出来るので、潜水作業を省略出来る分だけ、作業性を大きく向上させることができ、総合的な仕切護岸の構築コストを低く維持出来る。さらに、ケーソンの基部に対応する部分で行なう処理作業が、特に面倒なものとならないことから、工事中の信頼性と、護岸構築後の安定性と、遮水層の永続的な性能を維持出来るものとなる。
【0022】
前記本願の特長に加えて、ケーソン等の大型の構造物の底部と基部の周囲を、遮水材で隙間無く埋めて、その遮水材に欠陥が生じることを阻止出来るので、遮水層のメンテナンスを簡素化して、長い期間の使用に対応させることが出来る。また、護岸の使用中に遮水層に欠陥が発生した場合には、そのことが発生した初期の段階で、遮水層の監視手段を用いて容易に知ることが出来、早期に対処可能とすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の護岸の断面図である。
【図2】本発明で用いるケーソンの上から見た説明図である。
【図3】ケーソンの底面図である。
【図4】図3とは別のマットを取付けたケーソンの底面図である。
【図5】ケーソンの設置後に遮水材を充填する状態の説明図である。
【図6】図5の底から見た説明図である。
【図7】ケーソン間での遮水処理の平面から示す説明図である。
【図8】図7の接続部を断面で示す説明図である。
【図9】工事中または工事後に注入パイプを残して、遮水材の状態を観察可能とする例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図示される例にしたがって、本発明の実施例の構成を説明するが、以下に説明する本発明の実施例において、ケーソンと呼ぶ構造物は、コンクリートまたは鉄筋コンクリートの壁を組み合わせて箱状のものとして構成するもの、または、鋼材・鉄板を組み合わせて構成したものなどが用いられる。その他に、鋼材で作ったケーソン本体の外周部をコンクリートの層でカバーして構成している、いわゆるハイブリッドケーソン等の、近年多く用いられている大型のケーソン等の、任意の構造の大型のケーソンを対象とする。
【0025】
また、前記ケーソンに組み合わせて用いる遮水材として、アスファルト混合物の他に、コンクリート系遮水材、土質系遮水材のうちの1種を用いるか、または、施工箇所の特性に応じて、複数種類の材料を適宜組み合わせて用いることができる。前記各種の遮水材のうち、コンクリート系遮水材では、施工後に固化するような性質を有するものであり、アスファルト系または土質系の遮水材では、流動性を長期間に亘って維持出来るという特性を有するものである。
【0026】
なお、以下に説明する実施例においては、遮水材としてアスファルト系の遮水材を例にしているが、その他の種類の遮水材をアスファルトと同様に使ってもよく、同様な効果を発揮出来る場合には、当然別の種類の遮水材を使うことを否定するものではない。その他に、土質系の遮水材としては、従来より用いられている公知の材料、例えば、海成粘土を主体とする一般的な遮水材、または、「クレイガード」や、「アクアソイル」と名付けられている遮水材を用いることが可能なことは、当然のことである。
【0027】
前記ケーソンを用いた埋立地用護岸としては、護岸で区画した区域の内部に、一般の廃棄物を堆積させて、埋立て処理する管理型廃棄物埋立地用護岸として、従来より用いられている護岸と同様な構成のものとして用いられるものを対象とする。なお、以下に説明する本願の実施例においては、護岸を構築する海域での水深が深いので、当然ケーソンは背が高いものとして構成されたものを用いることに特徴がある。
【0028】
図1に示す例は、ケーソンを設置して構築する遮水壁10の構成を、断面図で説明しているもので、前記遮水壁10を構築する海底地盤1が、断面図のように上側に透水性の土の層3がある場合には、土の層にセメントミルクまたは、従来公知の硬化剤を混入する等の地盤改良処理を行って、護岸を支持する海底地盤の所定の範囲を遮水処理層4として構築する。前記地盤改良した遮水処理層4は、遮水壁10を支持する範囲に設けるもので、そのようにして処理した不透水処理部では、地盤が固くて透水性のない下部の地層と一体化して、遮水壁としての作用を発揮する。
【0029】
前記遮水壁10を構築する部分には、所定の巾と深さに溝5を構築し、その溝5の底面での凹凸を均し、必要に応じて捨石の層、または、水中コンクリートの層を所定の厚さで設けて、ケーソンを安定した状態で支持可能とする支持面を構築する。なお、前記溝5の掘削巾は、当然ケーソン11の巾よりも広く形成されるものであるが、その余裕巾は、出来るだけ小さい値でよく、ケーソンを設置した後に出来る隙間には、後でアスファルト混合物を充填して、地盤と構造物とを一体化した遮水層とする。
【0030】
前記ケーソン11は、前述したように、コンクリート製またはハイブリッド製、または鋼製ケーソンを用いることができるもので、底版15の両側の側壁と、長さ方向の両端部の縦壁とは、図2に説明しているように、所定の厚さを持つものとして構成されている。また、前記図2に説明するように、ケーソン11の長さ方向の両端部の縦壁13,13aには、隣接するケーソンとの間にシールを構築するために、目地用凹溝14を縦方向に設けている。
【0031】
前記ケーソンの底版15は、図1、2に説明しているように構成すると良く、その上面の形状は特に指定しないが、底版の下面は巾方向の中央部が最も高く、両側に下がるように傾斜させて、中央部16cを頂点として、略屋根を下から見た状態に形成した場合で説明している。また、前記底版15には、任意の配列間隔で上下に貫通する孔20を設けており、前記各孔20には打設用パイプ21を立設して、アスファルト混合物等をケーソンの下部に流し込む際に用いる。前記遮水材を流すために用いるパイプ等の補助手段は、その遮水材の特性に応じて、材料と円筒のサイズを選択して使用する。
【0032】
前述したように、ケーソン11の底版に多数の孔を設けて、アスファルトを充填する際には、各孔から流し込むことが出来るが、特に底版の巾方向の中央部の斜面の頂部で、すき間が生じないように充填することが必要である。そのために、図1に見られるように、頂部に開口する孔を用いると、ケーソン底部の遮水層の中に空隙が形成されないように、遮水材を充満させることが出来る。
【0033】
なお、前記底版15に設けた孔16と、孔に接続するパイプ21とは、それを使用した後では、パイプを取り外して孔を埋めるように、コンクリートを底版の上に所定の厚さで施工する等の処理を行なって、孔を塞ぐ処理をしても良い。または、頂部の孔の一部を、パイプをつけたままで残しておき、遮水材の状態を随時観察するために用いることが出来る。そして、充填層にすき間や空隙が出来たことが検出されたときに、その空隙を補修する等の処理を容易に行い得るように、残してあるパイプを有効に用いても良い。
【0034】
前記図1、2に説明されるケーソン11の下部には、図3、4にも示しているように、その巾方向の両側部の下面に、巾の広い平面を設けた突部を設けて、その突部の下面(表面)を覆うように所定の巾で形成したアスファルトマットを設けている。前記マットの実施例において、図3に示すマットの例では、長いマット17をケーソンの両側に設けているものであり、図4に示す例では、短いマット片18、18aを、一定のすき間をあけた状態で取付けている。なお、図示する例では、マット17、18の厚さを誇張して厚いものとして描いているが、実際には、一般に使用されているマットと同様な、5〜10cmの厚さのものを用いているのである。そして、従来公知の取付け手段を用いて固定する方法、または、マットを先に地盤上に敷き込んでから、その上にケーソンを据え付ける方法が用いられる。
【0035】
前記実施例に示すように、ケーソンの側部の下面に滑り止め用のマットを取付けることは、ケーソンを溝内に設置した状態で安定支持できるようにし、底版の下部に遮水材を注入する際の目地(仕切)として働かせる。また、図4に説明するように、マット18,18の小片の間にすき間19を持たせた状態で配置固定する場合には、ケーソンの下部に注入した遮水材の一部は、すき間19を通って図1のマット17の外側に漏れ出して、すき間の一部を埋める状態となる。
【0036】
そして、前記隙間を通ってケーソンの側部に漏れ出した遮水材に対して、後でケーソンの基部の側部で隙間を塞ぐように打設する遮水材を重ねて一体化して、ケーソン横充填遮水層26、26aの一部として用い得るように構成する。なお、前記図3に説明したように、ケーソンの両側の脚の下面に、長いマット17、17aを設けた場合には、ケーソンの下部の側部には遮水材が漏れ出す隙間がないので、図5の例とは異なり、溝5の壁とケーソン11の基部との間に、ケーソン下充填層25から漏れ出した遮水材が充満されるという状態は発生しないと考えられる。
【0037】
しかしながら、実際には、ケーソンを設置する溝の表面が、必ずしも平らに形成されているのではないという現実がある。すなわち、ケーソンを設置する溝の側面で、凹凸の値が、マットの厚さ5〜10cmよりも大きく形成されていたとすれば、マットの一部が地盤の凸部によって潰された状態の部分が生じる。そして、前記マットが潰された部分と、マットの下面が溝の表面に達しなくて隙間が形成された部分等の、種々の理由によって生じた大小の隙間が、ケーソンの下部の随所で発生すると想定されるので、そのような隙間から遮水材が漏れ出して、溝の中に遮水層の一部が形成される。
【0038】
したがって、前述したように、マット片の間に隙間を設けた場合と同様に、長いマットを一体に取付けた場合でも、ケーソンの下面に充填した遮水材が、溝の壁とケーソンの下部との間に漏れ出す状態は、自然に発生し続けると考えられる。そして、マットの下面等に生じた隙間から漏れ出した遮水材に追加して、溝の隙間を満たすように新たな遮水材を施工することによって、最終的には、図1に示すような、ケーソン基部での遮水材の層26、27を形成することになる。
【0039】
前記実施例に説明したように、ケーソンの下部にマットを一体に取付けた場合に、そのマットの大きさに応じて、ケーソン下部での遮水層の施工状態が、若干異なることになるが、実際には、大きな差異は考えなくても良く、ケーソン下部の内外の遮水層の施工は、略同一の処理工程で実施できる。そして、前述したようにして、漏れ出した遮水材によるケーソン横部の遮水層に加えて、追加して施工した前記遮水層の上にさらに、別の遮水材を所定の厚さで施工して、ケーソンの基部の両側へ遮水材を追加したケーソン横追加遮水層27を設け、ケーソン基部での遮水層としての機能を発揮させることが出来る。
【0040】
前記実施例とは別に、前記図3、4に説明した例において、ケーソンの一方の側部にのみマット部材を取付けて、他の側部の下面には、マット設けずにケーソンを施工する必要があるという、特別の事態が要求されることがあり得る。これは、例えば、ケーソンの列が折れ曲がった状態となる接続部や、地盤の条件により、マットがない方が良いと考えられた部分等の、特別のケースで必要とされることがあると推定される。
【0041】
そのような、特別の要求がある部分では、ケーソンの一方の側面下部にマットを設けないことになるために、ケーソン設置後にケーソン下部の下充填層に対して遮水材を注入すると、マットを設けない側の側面から遮水材が大量に漏れ出す恐れがある。そのような欠陥が発生することは、あらかじめ、経験的に予測されていることではあるが、前述したような事態が発生した場合には、ケーソン横追加遮水層27を早期に施工するか、または、その部分の上を抑えるマットを重ねて対応させる手段を設けること等で、対応が可能である。そのような遮水層の上から押圧力を付与する等の追加の対策を施工して、遮水層の形状を維持すると良い。
【0042】
前述したように、ケーソンの下部に設けるマットの状態が、種々異なってはいても、前記実施例または、次に説明する例のようにして、ケーソン基部での遮水層の構築が行なわれる。たとえば、前記図4に説明したように、ケーソン11の底面に対して、短いマット片18・・を、所定の巾のすき間を介して取付けた場合には、ケーソンを設置した後に注入パイプ21を用いて遮水材を注入することにより、図5、6に説明するようにしてケーソンの下部に遮水材が充填される。
【0043】
つまり、注入した遮水材がケーソン下面に充満されて、ケーソン下充填遮水層25として形成される。前記充填層では、底版の下面の上向きの突部で、その最も高い位置にある孔から充填された充填材が、内部に空隙が生じないように流されて、充填層を満たして欠陥が発生しないようにされる。さらに、ケーソンの下のマット間のすき間19を通って、側部に流れ出した遮水材は、溝5の壁とケーソン11の基部との間に充満されて、ケーソン横充填層26の一部が形成される。
【0044】
前記遮水材が充填層26を構成するように流れる状態は、注入する遮水材の流動性、または粘性等の条件に影響されるが、その後に、直接船等から遮水材を注入して、完全な遮水層を形成する。なお、前記図5、6に説明する工程で、ケーソンの下部の側面の遮水層は、注入パイプ21を用いずに、作業船等から任意の注入手段を用いて施工して、ケーソン横充填遮水層27、27aを構築して、溝5内に隙間が生じないように、遮水材で満たすようにする。
【0045】
前記したように、海底地盤に所定の深さの溝5を掘削し、その溝5内に多数のケーソン11を1列状に並べて護岸を構築する場合に、各ケーソンの間に隙間を生じないように処理する必要がある。そこで、図7、8に説明するように、隣接するケーソン11、11Aの間での接続部30では、遮水材を充満させた目地部31を設ける。前記目地部31においては、ケーソンの対向する側壁13、13aに凹溝14、14aを設けて、前記凹溝の両側部にシール材32を挿入して区画し、前記シール材の間に遮水材を注入して、目地部充填層33を構築する。
【0046】
なお、ケーソンの接続部での遮水処理層の中央部を、空隙のままで残さない方が良いとする場合には、前記ケーソンの接続部30の巾方向の両端部のシールの間に、さらに目地部中間充填層33aを設けて、ケーソン間の遮水処理能力を高める。前記シールの間での充填層は、隙間の大きさに応じて、石や他の雑物を投入して、高価な遮水材の使用量を少なくする等の、節約手段を併用すると良い。
【0047】
前記図8に示す例において、ケーソン接続部における遮水層の下部では、マット間の隙間が生じることにもなり、目地部に注入した遮水材がケーソンの下部等に散乱されることが考えられる。そこで、例えば図8に示すように、接続部での両側のマット18、18の間に、ケーソンの巾と同じか、または、溝の巾方向全体をカバーできる大きさのマット34を敷いて、前記接続部のケーソンの下部に、大きな隙間が生じないようにする。
【0048】
前記図8に説明したように、ケーソンの間に隙間を設けた状態で、その隙間の下部にそれぞれ設けているマット18,18の下部に別のマット34を配置した場合には、当然に隙間が大きく形成されることになる。そして、マット34により形成される隙間からは、ケーソン下部に注入された遮水材が漏れ出して、ケーソンの側部と溝の間の隙間を充填する状態となる。そのような状態が発生しても、後で注入する遮水材と一体化した遮水層の一部となるのであるから、その隙間の大きさ等は特に問題となるものではない。
【0049】
また、前記接続部の下部に配置する目地部マット34は、ケーソンの端部にあらかじめ固定して設けておくことが考えられるが、今までの実績では、ケーソンの接続部に合わせてあらかじめマット部材を敷設しておき、その後にケーソンを位置決めして設置する方法を用いることで、ケーソンを並べた状態で、自動的に接続部の下をマット部材がカバー出来るようにする。なお、前記接続部に配置する目地部マット34は、必要とされる巾のものよりも大サイズのものを用いたとしても、ケーソンの重さで潰されるのであるから、特にその形状、サイズ等は考慮しなくても良く、施工性のみを考慮して選択すれば良いのである。
【0050】
図9に示すケーソンの例は、前記図1に示していた例とは、底版の形状が若干異なっているもので、底面16の形状とほぼ同様に、上面を傾斜面として底板15Aとしている。この例において、底版を貫通する孔20,20a・・・の各々に、遮水材注入用のパイプ21,21a・・・・を接続して設けており、任意のパイプまたは全部のパイプを用いて遮水材をケーソンの下部の空間に注入して、ケーソン下充填遮水層25を構築する。
【0051】
前記パイプを用いて注入する遮水材として、アスファルトマスチックを用いた場合に、このマスチッチの比重が2,0で、海水の1、03の略2倍であると仮定すると、前記パイプの中に注入した前記マスチックの高さは、最終的に水深の1/2の高さに維持しても良い。そして、それ以上に、多量のマスチックの注入を続けると、ケーソンの下部の両側の隙間から外に押し出されて、ケーソンを立設した溝の隙間を余分に満たすようになり、ケーソン下部が完全に遮水材で根固めされるので、遮水品質が向上するが、遮水材の施工料が増加する。
【0052】
そこで、コスト低減のため、前述したように、パイプの中にあらかじめ海水を入れておき、そのパイプを通してケーソン下部に遮水材を注入すると、ケーソンの下部の空間部に満たされる遮水材の上部には、常に海水がある状態となっている。したがって、遮水材を注入する際に、比重が1、03の海水がパイプの上にあることから、注入された遮水材に対して余分な押圧作用が加えられることがなくなるので、注入作用に支障が生じることがなくなり、立設したパイプの全てで、海水のレベルが同じになった状態で、注入作用は終了する。
【0053】
また、前記遮水材の注入に用いるパイプの一部または全部を、遮水材の注入後にも残しておくと、護岸を使用している途中に、ケーソンの下部に構築している遮水層で、欠陥が発生した場合に、その欠陥が生じた箇所のパイプ中での遮水層(海水)のレベルに変化が現れる。例えば、ケーソン下部のパイプ21に対応する位置で、遮水材が減少する等の事故が発生した場合には、そのパイプの中に充満されていた遮水材が減って、レベルが下がることになるから、そのパイプの下部で何等かの欠陥が生じていることが、前記遮水層の高さの変化で表現されていることとなる。
【0054】
そこで、その遮水層の欠陥が、何の原因に基づくものかを究明すること、つまり、その欠陥発生箇所の調査等を行うことは勿論であるが、その遮水材の減少した分を追加する等の、補修の作業を同時に行う。したがって、前記ケーソンの下面に遮水材を注入するに際して、海水が入っているパイプを用いて遮水材を注入して、前記パイプの上まで充満させた海水の重さにより遮水材に圧を加える作用を継続させる。そして、ケーソンの下部に注入した遮水材に対して、所定の押圧力を加え続けるようにすることにより、遮水材の層の中に空隙等が形成されないようにしながら工事することが、良いと考えられるのである。
【0055】
さらに、前記ケーソンの底板に設けた孔に取付けるパイプの一部を、打設した遮水材の観測用等に用いるために残しておき、ケーソンの下部の遮水材の観測を随時行い得るものとし、観測されたデータに基づいて、必要に応じて遮水材を追加圧入して、遮水層に生じた欠陥を直す等の、メンテナンスをするために用いることも前述の通りである。前記構成に加えて、前記ケーソンの底板の下部に遮水材を注入するパイプの全部、またはその一部を護岸の完成後に残しておき、残したパイプには、遮水材の上に常時海水を充満させて、ケーソン下部の遮水材の層に対して加圧作用を加え続けるとともに、パイプ中の遮水材の状態を常時監視するために用いると良い。
【符号の説明】
【0056】
1 海底地盤、 2 不透水性地盤、 3 透水層、 4 遮水処理層、
5 設置用溝、 6 底均しコンクリート、
10 遮水壁、 11 ケーソン、 12 外壁、 14 凹溝、
15 底版、 16 底面、 17 アスファルトマット、
18 短いマット、 19 隙間、
20 注入口、 21 注入用パイプ、
25 ケーソン下充填層、 26 ケーソン横充填遮水層、
27 ケーソン横追加遮水層、30 接続部、 31 目地、
32 シール材、 33 目地部充填層 34 目地部マット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版とその4周に立設する側壁とを組み合わせて、上部が開口された中空な略箱形の構造物として構成されたケーソンを用い、海底地盤に所定の幅と深さで設けたケーソン設置用の溝に、前記ケーソンを1列に立設して、遮水処理を施して構築する遮水壁において、
前記ケーソン設置用の溝には、水中コンクリート層または薄い捨石の層を設けて、上面を略平らに均し、
前記ケーソンの底版の下の面は、幅方向の中央部が最も高くなるように略山形に構成して、前記側壁の下部に対応する部分には、滑動防止用のマットを設け、
前記ケーソンの底版には多数の孔を下に貫通するように設けて、必要に応じて前記孔には、側壁の上に迄達する長い注入パイプを接続して設け、
前記注入パイプを用いて注入する遮水材を、前記ケーソンの底版の下面に充填可能として、前記ケーソンの下面に注入した遮水材に、すき間が形成されないように充填することを特徴とするケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項2】
前記箱形のケーソンの両側の底版に設ける滑動防止用のマットは、ケーソンの長さ方向の全体部分をカバーするように取付けることを特徴とする請求項1に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項3】
前記ケーソンの両側の底版に設ける滑動防止用のマットは、短いマット片を所定のすき間を介して取付け、ケーソンの底版に設けた孔から注入する遮水材の一部を、前記マット片間のすき間から、ケーソン底部の周囲に漏れ出させて溝の中を満たし、設置したケーソンの底部分に対する位置決めを、遮水材を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項4】
前記ケーソンの底版を貫通させて設ける孔は、用いる遮水材の流動性に対応させて孔の大きさを選択し、
前記孔の各々には、ケーソンを構築位置に設置した状態で、作業船またはケーソン上等から遮水材を注入するためのパイプを前記孔に接続して遮水材の充填を行ない、ケーソンを構築後に外し得るように前記パイプを着脱可能とし、
前記パイプを外してケーソンの底版の上に、任意の遮水材による遮水層を構築して、遮水壁として用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項5】
前記ケーソンの下面に遮水材を注入するに際して、海水が入っているパイプを通して遮水材を注入し、前記パイプの中に充満させた海水の重さにより遮水材に圧力を加える作用を継続させ、
ケーソンの下部に注入した遮水材に対して、所定の押圧力を加え続けることにより、遮水材の層の中に空隙等が形成されないようにしながら工事することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項6】
前記ケーソンの底版に設けた孔に取付けるパイプの一部を、打設した遮水材の観測用等に用いるために残しておき、ケーソンの下部の遮水材の観測を随時行い得るものとし、
観測されたデータに基づいて、必要に応じて遮水材を追加圧入して、遮水層に生じた欠陥を直す等の、メンテナンスをするために用いることを特徴とするケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項7】
前記ケーソンの底版の下部に遮水材を注入するパイプの全部、またはその一部を護岸の完成後も残しておき、
残したパイプには、遮水材の上に常時海水を充満させて、ケーソン下部の遮水材の層に対して加圧作用を加え続けるとともに、パイプ中の遮水材の状態を常時監視するために用いることを特長とする請求項5または6に記載の請求項1ないし3のいずれかに記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項8】
前記ケーソンを列設して構成する遮水壁において、各ケーソンの接続部では、シール部材と遮水材の層とを組み合わせた遮水層を設け、ケーソンの間での遮水処理を行うとともに、前記遮水層の地盤側のケーソン下面には、マットのような遮水層を設けて、遮水材を保持させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項9】
前記ケーソンを列設して構築する護岸において、ケーソンを設置する溝には、前記ケーソンの下面の空間を塞ぐ遮水材とともに、ケーソンの基部に所定の高さまで溝を埋める遮水材の層を施工して、護岸の基部を遮水層と一体化したことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項10】
前記ケーソンが、コンクリート製、ハイブリッド製等の種々の材料を用いて構成されているもので、自立可能なケーソンであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。
【請求項11】
前記ケーソンに組み合わせて用いる遮水材として、アスファルト混合物の他に、コンクリート系遮水材、土質系遮水材のうちの1種を用いるか、または、施工箇所の特性に応じて、複数種類の材料を適宜組み合わせて用いることを特徴とする請求項10に記載のケーソンを用いた埋立地仕切護岸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−84868(P2011−84868A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236120(P2009−236120)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(594067368)ワールドエンジニアリング株式会社 (21)
【出願人】(000232508)日本道路株式会社 (48)
【出願人】(000230711)日本海上工事株式会社 (25)
【Fターム(参考)】