説明

ケーソン工法における多液固結型滑材の注入装置

【課題】ニューマチックケーソン工法における漏気防止並びに掘削沈下に伴う地山崩落を防止するための多液固結型滑材の注入装置、およびオープンケーソン工法における掘削沈下に伴う地山崩落を防止するための多液固結型滑材の注入装置を提供すること。
【解決手段】ケーソンの刃口2の先端部近傍に、多液固結型滑材の原材料をそれぞれ圧送する複数の注入管19−1、19−2が接続された多液混合室18を設け、これらの注入管における原材料の吐出方向に対向して多液混合板20を配置し、注入管から導入された原材料を多液混合室18で攪拌して混合し、滑材を生成してケーソンの刃口の先端部近傍の滑材吐出口22から地山方向へ吐出する。この滑材吐出口22を挟んで、ケーソンの刃口外周の全周に帯状に第1、第2の分散誘導壁14−1、14−2を配置し、滑材吐出口から吐出された滑材を刃口外周の全周に導き分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソン工法における漏気防止並びに掘削沈下に伴う地山崩落を防止するための多液固結型滑材の注入装置、およびオープンケーソン工法における掘削沈下に伴う地山崩落を防止するための多液固結型滑材の注入装に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン工法では、地上で構築して設置したケーソン躯体の下部に圧気可能な作業室を設け、この作業室に圧縮空気を送り込んで圧気することにより地下水等の侵入を防止しつつ作業室内の地山を人力や遠隔操作の掘削機で掘削する。オープンケーソン工法では水中掘削等で地山を掘削する。そして、ケーソンを自重で徐々に沈下させ、目的の深さまで到達した後はケーソンを基礎構造物などとする。
【0003】
このため、ニューマチックケーソン工法では掘削の際には作業室の漏気対策が必要となり、従来は漏気回収装置を刃口金物上部に設けたり、ケーソン近傍にブローホールを設けたりして漏気対策をしている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、掘削作業の際に地山崩落が起こると、ケーソン躯体の周面摩擦抵抗が増加して沈下速度が遅くなるので、作業室スラブの直ぐ上のケーソン側壁が立ち上がる部分にフリクションカットと呼ばれる段差部を設けている(例えば特許文献2および特許文献3参照)。このフリクションカットによって、掘削沈下に伴ってケーソン躯体と地山との間に空隙が形成されるので、この空隙に例えばベントナイト溶液(水とベントナイトを混合した滑材)を注入することで周面摩擦抵抗を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−88770号公報
【特許文献2】特開平7−252846号公報
【特許文献3】特開2004−92276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ニューマチックケーソン工法では、従来の漏気回収装置やブローホールによる漏気対策では漏気の一部しか回収することができず、作業室内に圧縮空気を送り込む圧気設備の能力を高めて漏気による作業室内の気圧の低下を補っているのが現状である。
【0007】
また、フリクションカットと滑材による周面摩擦抵抗の低減対策では、硬質地盤(地盤改良体、土丹、岩盤、自立性地山等)に対して地山崩落を十分に防ぐことは困難である。すなわち、硬質地盤では余堀りとなるので、地山とケーソンの刃口間に空隙が形成される。このため、上記特許文献2や特許文献3に記載されているようなフリクションカットでケーソン躯体と地山間に形成した空隙に滑材を注入する前、つまりケーソンの刃口付近で地山が崩落してしまい、漏気や沈下抵抗力の増大につながる恐れがある。
【0008】
しかも、ベントナイト溶液等のような通常の滑材は液状であるので移動しやすく、余掘り部に留まっていないため、漏気防止や沈下抵抗力の低減効果を持続させるのが難しい。さらに、液状の滑材を用いた場合、砂地盤、砂礫地盤および軟弱地盤等ではフリクションカットの段差部に土砂が入り込んで摩擦抵抗が増加し、地山崩壊が発生しやすくなる、という課題もある。
【0009】
本発明は、上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、ニューマチックケーソン工法における漏気防止並びに掘削沈下に伴う地山崩落を防止できる多液固結型滑材の注入装置、およびオープンケーソン工法における掘削沈下に伴う地山崩落を防止するための多液固結型滑材の注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明のケーソン工法における多液固結型滑材の注入装置は、多液固結型滑材の原材料を圧送する複数の注入管19−1、19−2にそれぞれ設けられる逆止弁21−1、21−2と、前記複数の注入管19−1、19−2における原材料の吐出方向に対向して配置される多液混合板20を有し、ニューマチックケーソン工法またはオープンケーソン工法におけるケーソン1の刃口2の先端部近傍に設けられ、前記複数の注入管19−1、19−2から前記逆止弁21−1、21−2を介して、前記多液混合板20に複数の原材料をほぼ直角に噴射して攪拌することにより混合して滑材を生成する多液混合室18と、前記複数の原材料を混合して生成した滑材を、前記ケーソンの刃口2の先端部近傍から地山G方向へ吐出する滑材吐出口22と、前記滑材吐出口22を挟んで、前記ケーソンの刃口2外周の全周に帯状に配置され、前記滑材吐出口22から吐出された滑材を刃口2外周の全周に導き分散させる第1、第2の分散誘導壁14−1、14−2とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の本発明では、掘削沈設によりできたケーソンの刃口と地山の空隙をゲル化した多液固結型滑材により充填することができる。これにより、刃先からの漏気を防止できると共に、掘削沈設に伴うケーソンの刃口近傍からの地山崩落を防止することができる。しかも、多液固結型滑材の吐出口をケーソンの刃口の先端部近傍に設けたことにより、掘削沈設の初期より順次滑材注入を実施していくことができるので、余堀部が形成される硬質地盤での漏気防止および地山崩落防止に大きな効果が得られる。また、逆止弁によって原材料の逆流を阻止できるので、滑材が注入管内で混合されて固化するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係るケーソン工法における多液固結型滑材の注入装置を示すもので、(a)図は上面図、(b)図は正面図、(c)図は(b)図のA−A線縦断面図である。
【図2】図1に示したケーソンの刃口近傍の縦断正面図である。
【図3】図2に示したケーソンにおける刃口の先端部近傍のB−B線に沿った断面図である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施例に係るケーソン工法における多液固結型滑材の注入装置を示すもので、(a)図は上面図、(b)図は正面図、(c)図は(b)図のA−A線縦断面図である。図2は図1に示したケーソンの刃口近傍の縦断正面図、図3は図2に示したケーソンにおける刃口の先端部近傍のB−B線に沿った断面図である。
【0015】
図2に示す如く、ケーソン1の下部には刃口2が形成されており、この刃口2の内面と作業室スラブ4の下面とに囲まれて作業室3が形成されている。上記作業室スラブ4の直ぐ上のケーソン側壁が立ち上がる部分には、側壁フリクションカット6aが設けられており、ケーソン躯体1aの側壁と地山Gとの空隙に図示しない注入管からベントナイト溶液等の滑材11aが注入されて充填されている。
【0016】
上記ケーソン1の刃口2の先端部には、刃口外周の全周に渡って帯状の刃先フリクションカット12が設けられている。そして、この刃先フリクションカット12の上部に、多液固結型滑材の注入装置13が設けられている。この注入装置13は、複数の原材料を混合して生成した滑材(多液固結型滑材)を、ケーソン1の刃口2の先端部近傍から地山G方向へ吐出するものである。吐出された滑材は、滑材吐出口22を挟んでケーソン1の刃口2外周の全周に帯状に配置された第1、第2の分散誘導壁14−1、14−2により、流失が防止されつつ刃口2外周の全周に導かれて分散される。この注入装置13には、圧送設備から滑材の原材料が矢印15で示すように供給される。
【0017】
上記注入装置13は、例えば図3に示すようにケーソン1の刃口2の外周部にほぼ等ピッチで設けられている。図3では、直径が6.6mの中空円筒形状のケーソン1の刃口2の外周部に、8個の注入装置13−1〜13−8が2.7mピッチで配置される例を示している。また、本例では、ケーソン躯体1aの各ロットが周方向に16のピース16−1〜16−6に分割されており、刃口金物は4つの継手部17−1〜17−4で接続されている。
【0018】
上記直径6.6mのケーソン1の場合、一例をあげると各サイズは下記の通りである。
作業室3の高さ:2300mm
作業室スラブ4の厚さ:1500mm
ケーソン躯体1aの厚さ:700mm
作業室スラブ4の下面付近の刃口2の厚さ:750mm
側壁フリクションカット6aによる段差:20〜100mm
刃先フリクションカット12の幅:100mm程度
刃先フリクションカット12の厚さ:16〜22mm
分散誘導壁14−1、14−2の幅:32mm程度
分散誘導壁14−1、14−2の厚さ:16mm程度
刃口2の先端から滑材吐出口22までの距離:300mm程度
【0019】
つぎに、上記注入装置13(13−1〜13−8)の詳細な構成例について、図1(a)〜(c)により説明する。図1(c)に示すように、ケーソン1の刃口2の先端部近傍は、刃口金物2a、2b、2cを組み合わせて構築し、この刃口金物2a、2b、2cで区画された中空部にコンクリート2dが充填された構造になっており、上記注入装置13(13−1〜13−8)はケーソン1の地山G側の刃口金物2aにおける先端部近傍に設けられている。
【0020】
図1(a)〜(c)では、二液固結型の滑材、例えばカントールS(登録商標、株式会社薬材開発センター製)あるいはゲルパック(登録商標、株式会社ヤマワ製)を用いる場合を示しており、多液混合室18、この多液混合室18に水平に連結された2本の注入管19−1、19−2、および多液混合室18の地山G側に設けられた多液混合板20等で構成されている。
【0021】
上記多液混合室18は、多液混合板20を有し、ケーソン1の刃口金物2aの側壁に形成された円筒形の横穴状になっている。上記多液混合板20は、この多液混合室18の上部のほぼ半分を覆う半円板状をなし、注入管19−1、19−2における原材料の吐出方向に対向して配置されており、注入管19−1、19−2から導入された原材料を多液混合室18で攪拌して混合する。
【0022】
上述した直径6.6mのケーソン1の場合、例えば
多液混合室18の直径(内径):110mm程度
多液混合室18の深さ:60mm程度
注入管19−1、19−2の直径(内径):3/4インチ程度
注入管19−1、19−2の間隔:60mm程度
である。
【0023】
上記多液混合室18は注入管19−1、19−2の断面積の和よりも断面積が大きくなっており、複数の原材料を多液混合板20にほぼ直角に噴射して多液混合室18で攪拌することにより混合してゲル化した滑材を生成する。これらの注入管19−1、19−2には、それぞれ逆止弁21−1、21−2が設けられており、原材料の流れを常に多液混合室18に向かう方向に保ち、原材料が逆流して管内で固化するのを防止するようになっている。そして、多液混合室18の下部に設けられた滑材吐出口22から地山G方向にゲル化した滑材が吐出される。
【0024】
上記のような構成において、圧送設備から逆止弁21−1、21−2を介して注入管19−1、19−2にそれぞれ適量の混合比になるように原材料を圧送し、多液混合板20に噴射することにより多液混合室18内で攪拌、混合してゲル化した二液固結型滑材を生成する。この際、注入管19−1、19−2の断面積の和よりも多液混合室の断面積が大きいことで多液混合室18内での攪拌効果が高まり、原材料を多液混合板20にほぼ直角に噴射することで原材料を効果的に攪拌して混合することができる。また、各注入管19−1、19−2に逆止弁21−1、21−2を設ける際、図1に示したように水平に配置したので、特殊な構造のバルブを用いることなく汎用で低コストなものを利用できる。そして、このゲル化した二液固結型滑材を、第1、第2の分散誘導壁14−1、14−2により、流失を防止しつつ刃口2外周の全周に導き分散させる。
【0025】
従って、上記のような構成の注入装置13によれば、二液固結型の滑材を注入することで、掘削沈設によりできたケーソン1の刃口2と地山Gとの間の空隙を、刃口2外周の全周に渡ってゲル化した滑材により充填することができる。これにより、刃先からの漏気を防止できると共に、摩擦抵抗も低減でき、掘削沈設に伴う地山崩落を防止することができる。しかも、掘削沈設の初期より順次滑材注入を実施していくことで、二液固結型の滑材がケーソン1の刃口2の余堀部に充填されるので、硬質地盤での漏気防止および地山崩落防止に大きな効果が得られる。
【0026】
なお、上記実施例では、説明を簡単にするために二液固結型の滑材を用いる場合を例に取るが、三液以上の多液固結型滑材を用い、3本以上の注入管から多液混合室18に導入しても良いのはもちろんである。
【0027】
また、上記実施例では第1、第2の分散誘導壁14−1、14−2で滑材吐出口22を挟むように配置する構成を例に取って説明したが、一方の分散誘導壁14−2をケーソン1の刃口2の先端部に幅広の帯状に設け、刃先フリクションカット12として機能させるようにしても良い。あるいは、分散誘導壁14−2を設けずに、刃先フリクションカット12に分散誘導壁の機能を持たせることもできる。このように、分散誘導壁14−2と刃先フリクションカット12とを共用することで、注入装置13の簡単化と低コスト化が図れる。
【0028】
さらにまた、多液混合板20が多液混合室18の上部のほぼ半分を覆い、下部に滑材吐出口22が形成された構造を例に取って説明したが、この構造に限定されるものではなく、多液混合板20が複数の注入管19−1、19−2における原材料の吐出方向に対向して配置されていれば良く、原材料を多液混合板20に噴射することで、多液混合室18で攪拌できる。また、多液混合室18の形状も円筒形の横穴状に限らない。
【0029】
上記実施例ではケーソン1の平面形状が円形の場合を例に取って説明したが、長円形、矩形、馬蹄形等の種々の形状に適用できるのはもちろんであり、外周部に8個の注入装置13−1〜13−8を配置する例を示したが、大型のケーソン1であればより多く、小型であればより少なくても良いのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0030】
1 ケーソン
1a ケーソン躯体
2 刃口
2a、2b、2c 刃口金物
2d コンクリート
3 作業室
4 作業室スラブ
6a 側壁フリクションカット
11a 滑材
12 刃先フリクションカット
13、13−1〜13−8 多液固結型滑材の注入装置
14−1、14−2 分散誘導壁
16−1〜16−6 ピース
17−1〜17−4 継手部
18 多液混合室
19−1、19−2 注入管
20 多液混合板
21−1、21−2 逆止弁
22 滑材吐出口
G 地山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多液固結型滑材の原材料を圧送する複数の注入管(19−1、19−2)にそれぞれ設けられる逆止弁(21−1、21−2)と、
前記複数の注入管(19−1、19−2)における原材料の吐出方向に対向して配置される多液混合板(20)を有し、ニューマチックケーソン工法またはオープンケーソン工法におけるケーソン(1)の刃口(2)の先端部近傍に設けられ、前記複数の注入管(19−1、19−2)から前記逆止弁(21−1、21−2)を介して、前記多液混合板(20)に複数の原材料をほぼ直角に噴射して攪拌することにより混合して滑材を生成する多液混合室(18)と、
前記複数の原材料を混合して生成した滑材を、前記ケーソンの刃口(2)の先端部近傍から地山(G)方向へ吐出する滑材吐出口(22)と、
前記滑材吐出口(22)を挟んで、前記ケーソンの刃口(2)外周の全周に帯状に配置され、前記滑材吐出口(22)から吐出された滑材を刃口(2)外周の全周に導き分散させる第1、第2の分散誘導壁(14−1、14−2)と
を具備することを特徴とするケーソン工法における多液固結型滑材の注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136882(P2012−136882A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290572(P2010−290572)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000207780)大豊建設株式会社 (77)