説明

ケーソン目地部の止水チューブと止水工法

【課題】隣接するケーソンの目地部に隙間が生じた場合に、特殊工事が不要であり小規模かつ低コストに目地を止水でき、ケーソンの設置環境が厳しい場合でも目地部の変位や隙間拡大に追随可能であり、かつメンテナンスが容易であるケーソン目地部の止水チューブと止水工法を提供する。
【解決手段】ケーソン1の高さHに相当する長さを有し断面が中空円筒形であり両端部が閉じたゴムチューブ12と、ゴムチューブの一端に取付けられ内部に気体を注入可能な気体注入弁14とを有する止水チューブ10を準備する。次いで、(1)止水チューブ10の膨張時の外径D1より小さくかつ収縮時の外径D2より大きい直径Dの直線状の鉛直孔20を隣接するケーソンの目地部2に沿って削孔し、(2)鉛直孔内に、収縮状態の止水チューブ12を挿入し、止水チューブ内に気体注入弁14から圧縮気体を注入して、止水チューブが鉛直孔の直径を塞ぐまで膨張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋土木分野におけるケーソン目地部の止水チューブと止水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
防波堤は、通常複数のケーソンを連ねて接合することで形成されている。かかるケーソンは、鉄筋コンクリート製であり、ケーソン間の目地(継目)は、互いに密着させて間隙を無くし、目地からケーソン背面の土砂が流出しないように設置される。
【0003】
しかし、波浪や地震等により設置済のケーソンに変位が生じ、ケーソンの目地部に隙間が生じることがある。この場合に、目地の隙間からケーソン背面土砂の吸出しが生じ、地盤の陥没や海洋汚染を引き起こす問題があった。
そこで、従来は、ケーソンの変位により生じた隙間に硬化剤(コンクリート、モルタル、セメントミルク等)を注入し、隙間を充填して補修していた。
【0004】
なお、かかる従来の補修工法は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−41549号公報、「ケーソンの目地補修工法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の補修工法は、潜水作業により防波・防砂ガイドを建込む等の特殊工事を必要とし、補修工事が大規模となり、多額の費用を要する問題点があった。また、台風等、ケーソンの設置環境が厳しい場合に、ケーソンの挙動が大きく、再び目地部に隙間が生じやすく、頻繁にメンテナンスを必要とする問題点があった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、隣接するケーソンの目地部に隙間が生じた場合に、特殊工事が不要であり小規模かつ低コストに目地を止水でき、ケーソンの設置環境が厳しい場合でも目地部の変位や隙間拡大に追随可能であり、かつメンテナンスが容易であるケーソン目地部の止水チューブと止水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ケーソンの高さに相当する長さを有し断面が中空円筒形であり両端部が閉じたゴムチューブと、該ゴムチューブの一端に取付けられ内部に気体を注入可能な気体注入弁と、を備えたことを特徴とするケーソン目地部の止水チューブが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、ケーソンの高さに相当する長さを有し断面が中空円筒形であり両端部が閉じたゴムチューブと、該ゴムチューブの一端に取付けられ内部に気体を注入可能な気体注入弁と、を有する止水チューブを準備し、
前記止水チューブの膨張時の外径D1より小さくかつ収縮時の外径D2より大きい直径Dの直線状の鉛直孔を隣接するケーソンの目地部に沿って削孔し、
前記鉛直孔内に、収縮状態の前記止水チューブを挿入し、
前記止水チューブ内に気体注入弁から圧縮気体を注入して、止水チューブが鉛直孔の直径を塞ぐまで膨張させる、ことを特徴とするケーソン目地部の止水工法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の止水チューブと止水工法によれば、隣接するケーソンの目地部に隙間が生じた場合に、(1)ケーソンの目地部に沿って鉛直孔をボーリング等により削孔し、(2)この孔内に収縮状態の止水チューブを挿入し、(3)止水チューブ内に圧縮気体(例えば空気)を注入して膨張させる、という3ステップだけで目地を止水できる。従って、潜水作業等の特殊工事が不要であり小規模かつ低コストに目地を止水できる。
【0011】
また、止水チューブは、ゴムチューブと気体注入弁を有し、圧縮気体で膨張させたゴムチューブは、鉛直孔の変形に追従できるので、ケーソンの設置環境が厳しい場合でも目地部の変位や隙間拡大に追随可能である。
【0012】
さらに、止水チューブの性能確認は内圧の測定により容易にでき、メンテナンスは圧縮気体(例えば空気)の注入のみであり、かつゴムチューブが劣化した時はその取替えのみで対応できるので、メンテナンスが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による止水チューブと止水工法を示す模式図である。
【図2】図1の止水チューブの部分拡大図である。
【図3】ケーソン変形時の止水チューブの変形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による止水チューブと止水工法を示す模式図であり、(A)は側面図、(B)はB−B矢視図である。また、図2は、図1(A)の止水チューブの部分拡大図である。
【0016】
図1、図2において、本発明の止水チューブ10は、ゴムチューブ12、気体注入弁14および圧力計16からなる。
【0017】
ゴムチューブ12は、ケーソン1の高さH(例えば4m)に相当する長さを有し、断面が中空円筒形であり、両端部12a,12bが閉じた形状を有する。ゴムチューブ12の長さは、下端部12bがこの例では基礎割り石3の上部に位置し、上端部12aがこの例ではケーソン1の上面より上方に位置するように設定されている。
なお、図2に示すように、ゴムチューブ12は、例えば自転車のタイヤのように、肉厚で耐摩耗性の高い外層13aと、薄肉で伸縮可能な内層13b(チューブ)とからなるのがよい。
【0018】
気体注入弁14は、図2に示すように、ゴムチューブ12の一端(この図で上端)に取付けられ、内部に気体を注入可能に構成されている。気体注入弁14は、自動車や自転車の空気注入口(バルブ)であっても、その他の開閉弁であってもよい。
気体注入弁14に注入する気体は、好ましくは圧縮空気であるが、その他の気体(窒素ガス等)であってもよい。また、気体の代わりに、液体やウレタンフォーム等の充填材を充填してもよい。
【0019】
この例で、圧力計16は、ゴムチューブ12と気体注入弁14の間に取付けられ、ゴムチューブ12内の圧力を常時観察できるようになっている。なお、圧力計16は必須ではなく、メンテナンス時に別の装置によりゴムチューブ12内の圧力を計測してもよい。
【0020】
上述した止水チューブ10は、ゴムチューブ12内の圧力が高いときに中空円筒形部分の外径が均等に膨張し、圧力が低いときに外径が均等に収縮する。この止水チューブ10の膨張時の外径をD1、収縮時の外径をD2とする。膨張時の外径D1は、例えば22cmであり、収縮時の外径D2は、例えば18cmである。
【0021】
図1において、ケーソン1の厚さBは例えば40〜50cmであり、ケーソン間の目地部2の隙間Gは例えば3〜5cmである。また、各ケーソン1は、鉄筋コンクリート製であり、内部の鉄筋は目地から通常10cm以上離れている。
以下、図1を参照して、本発明の止水工法を説明する。
【0022】
本発明の止水工法は、以下の3ステップからなる。
(1)上述した止水チューブ10の膨張時の外径D1(例えば22cm)より小さく、かつ収縮時の外径D2(例えば18cm)より大きい直径D(例えば20cm)の鉛直孔20を隣接するケーソン1の目地部2に沿って削孔する。
この削孔は、例えば周知のボーリング装置により容易に行うことができる。
(2)削孔した鉛直孔20内に、収縮状態の止水チューブ10を挿入する。この際、目地部2の隙間Gに海水や土砂が詰まっている場合には、これを除去しながら、或いは除去した後に実施するのがよい。
(3)止水チューブ10のゴムチューブ12内に気体注入弁14から圧縮気体(例えば圧縮空気)を注入して、止水チューブ12が鉛直孔20の直径Dを塞ぐまで膨張させる。圧縮気体の圧力は、海水や土砂による外圧より高く設定するのがよい。
【0023】
上述した本発明の止水チューブと止水工法によれば、隣接するケーソン1の目地部2に隙間Gが生じた場合に、(1)ケーソン1の目地部2に沿って鉛直孔20をボーリング等により削孔し、(2)この孔内に収縮状態の止水チューブ10を挿入し、(3)止水チューブ10内に圧縮気体(例えば空気)を注入して膨張させる、という3ステップだけで目地を止水できる。従って、潜水作業等の特殊工事が不要であり小規模かつ低コストに目地を止水できる。
【0024】
また、止水チューブ10は、ゴムチューブ12と気体注入弁14を有し、圧縮気体で膨張させたゴムチューブ12は、鉛直孔20の変形に追従できるので、ケーソンの設置環境が厳しい場合でも目地部の変位や隙間拡大に追随可能である。
【0025】
さらに、止水チューブ10の性能確認は内圧の測定により容易にでき、メンテナンスは圧縮気体(例えば空気)の注入のみであり、かつゴムチューブが劣化した時はその取替えのみで対応できるので、メンテナンスが容易である。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0027】
1 ケーソン、2 目地部、
3 基礎割り石、4 舗装、5 点検用蓋、
10 止水チューブ、12 ゴムチューブ、
12a 端部(上端部)、12b 端部(下端部)
13a 外層、13b 内層、
14 気体注入弁、16 圧力計、
20 鉛直孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーソンの高さに相当する長さを有し断面が中空円筒形であり両端部が閉じたゴムチューブと、該ゴムチューブの一端に取付けられ内部に気体を注入可能な気体注入弁と、を備えたことを特徴とするケーソン目地部の止水チューブ。
【請求項2】
ケーソンの高さに相当する長さを有し断面が中空円筒形であり両端部が閉じたゴムチューブと、該ゴムチューブの一端に取付けられ内部に気体を注入可能な気体注入弁と、を有する止水チューブを準備し、
前記止水チューブの膨張時の外径D1より小さくかつ収縮時の外径D2より大きい直径Dの直線状の鉛直孔を隣接するケーソンの目地部に沿って削孔し、
前記鉛直孔内に、収縮状態の前記止水チューブを挿入し、
前記止水チューブ内に気体注入弁から圧縮気体を注入して、止水チューブが鉛直孔の直径を塞ぐまで膨張させる、ことを特徴とするケーソン目地部の止水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21448(P2011−21448A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169975(P2009−169975)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)