説明

ケーブル、その接続構造およびモータ駆動制御システム

【課題】高周波ノイズを十分に抑制でき、外部端子への接続が容易であり、軽量でフレキシビリティを有するケーブル、その接続構造およびモータ駆動制御システムを提供する。
【解決手段】導体線12と、導体線12の長手方向に沿って絶縁体14を介して配置された抵抗体薄膜24とを有し、抵抗体薄膜24に接触する導電性材料を有していないケーブル1;導体線12が外部端子に接続され、抵抗体薄膜24が外部端子を含む外部導電体に接続されていないケーブル1の接続構造;インバータと、インバータによって駆動が制御されるモータと、ケーブル1とを備え、導体線12の一方の端部がインバータの端子に接続され、導体線12の他方の端部がモータの端子に接続され、抵抗体薄膜24が端子を含む外部導電体に接続されていないモータ駆動制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル、その接続構造および該接続構造を有するモータ駆動制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インバータによってモータの駆動が制御されるモータ駆動制御システムにおいては、最近、制御パルスのライズタイムが早まり、また高電圧化している。そのため、インピーダンスの異なる箇所での反射共鳴によってサージノイズが発生し、インバータとモータとを接続するケーブルにおける信号品質を落とし、駆動制御信号が正確に伝わらないという問題が生じている。また、サージノイズによってケーブルから発生する放射ノイズによって、周辺機器の誤動作が問題となっている。
【0003】
サージノイズ、放射ノイズ等の高周波ノイズが抑制されたモータ駆動ケーブルとしては、例えば、下記のものが提案されている。
(1)モータに接続される主線と、一端がモータ側の主線から分岐し、他端が開放した補助線とを組み合わせた反射型サージ抑制ケーブル(特許文献1)。
(2)モータに接続される主線の近傍に、グランドに接続される電流リターン線を隣接させたモータ駆動ケーブル(特許文献2)。
【0004】
(1)のケーブルにおいては、高域ノイズ成分を抑制するために、抵抗および/またはインダクタンスを増加させるような、抵抗が大きく、複素透磁率が大きな材料を補助線にメッキしている。そして、モータにて反射したノイズ電流を、補助線に導き、サージノイズを抑制するとされている。
しかし、インバータとモータとの間のインピーダンス不整合等で生じたノイズ電流は、異なるインピーダンスを有する補助線においても反射するため、ノイズ電流を補助線に十分に導入することができない。そのため、サージノイズの抑制効果が小さいものとなる。
【0005】
(2)のケーブルにおいては、電流リターン線の断面積は、十分なリターンパスとしての機能を発揮するために、主線の断面積の1/3より大きくされている。そして、低いループインダクタンスによって、効果的に不要な高周波漏れ電流をインバータに戻し、周辺機器の誤動作を防止できるとされている。
しかし、低いインピーダンスでリターンパスを形成したとしても、(1)のケーブルと同様に反射が生じてしまうため、高周波漏れ電流をインバータに戻すことは難しく、また、戻った高周波漏れ電流は、再度インピーダンスの異なるインバータで反射してしまう。そのため、サージノイズの抑制には十分な効果がなかった。
【0006】
また、ケーブルには、軽量で、フレキシビリティを有することが求められるが、(1)、(2)のケーブルにおいては、補助線または電流リターン線の断面積が大きいため、軽量化やフレキシビリティを満足するものではない。さらに、ケーブルをモータ等の機器に接続する際には、主線を外部端子に接続するほか、補助線等も外部端子に接続しなければならず、接続作業が煩雑であった。
【0007】
なお、モータ駆動ケーブル以外のケーブルであって、放射ノイズが抑制された電線・ケーブルとしては、下記のものが知られている。
(3)フィルムの片面に導電性薄膜を介して導電性接着剤層を積層した電磁波シールド材を、電線等に被覆したもの(特許文献3)。
(4)絶縁心線対を複数束ねた心線束を、導電体層および/または抵抗体層と、磁性体層とを積層した被覆材で被覆した通信用ケーブル(特許文献4)。
【0008】
(3)の電線においては、導電性薄膜によって放射ノイズをシールド(反射)できるものの、導電性薄膜自体の抵抗が低い上に導電性薄膜が導電性接着剤層と接触しているため、導電性薄膜が抵抗体薄膜として機能することはない。そのため、放射ノイズの原因となる、電線内の導体線を伝導する高周波ノイズを抑制することはできない。
【0009】
(4)のケーブルにおいては、磁性体層において吸収できない放射ノイズを、導電体層においてシールド(反射)する、および/または抵抗体層において減衰することができるとされている。
しかし、抵抗体層は、磁性体層や導電体層のような導電性を有する層と接触しているため、抵抗を十分に高くすることができない。そのため、(3)の電線と同様に、放射ノイズの原因となる、心線を伝導する高周波ノイズを十分に抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4131686号公報
【特許文献2】国際公開第2008/041708号パンフレット
【特許文献3】特開2003−258480号公報
【特許文献4】特開2005−259385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高周波ノイズを十分に抑制でき、外部端子への接続が容易であり、軽量で、かつフレキシビリティを有するケーブル;ケーブルにおける高周波ノイズを十分に抑制でき、外部端子へのケーブルの接続が容易であり、ケーブルが軽量で、かつフレキシビリティを有するケーブルの接続構造およびモータ駆動制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のケーブルは、導体線と、該導体線の長手方向に沿って絶縁体を介して配置された抵抗体薄膜とを有し、該抵抗体薄膜に接触する導電性材料を有していないことを特徴とする。
【0013】
前記抵抗体薄膜は、前記導体線と同軸である仮想の同心円筒の外周に沿わない部分を有することが好ましい。
前記導体線から、前記抵抗体薄膜のうち前記導体線に最も近い部分までの距離は、1〜100μmであることが好ましい。
前記抵抗体薄膜の表面抵抗は、1〜1000Ωであることが好ましい。
前記抵抗体薄膜の幅は、前記導体線の1本あたり、前記導体線の直径の0.5〜4倍であることが好ましい。
前記抵抗体薄膜の厚さは、5〜100nmであることが好ましい。
【0014】
本発明のケーブルの接続構造は、前記導体線が、外部端子に接続され、前記抵抗体薄膜が、前記外部端子を含む外部導電体に接続されていないことを特徴とする。
本発明のモータ駆動制御システムは、インバータと、該インバータによって駆動が制御されるモータと、本発明のケーブルとを備え、前記導体線の一方の端部が、前記インバータの端子に接続され、前記導体線の他方の端部が、前記モータの端子に接続され、前記抵抗体薄膜が、前記端子を含む外部導電体に接続されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のケーブルは、高周波ノイズを十分に抑制でき、外部端子への接続が容易であり、軽量で、かつフレキシビリティを有する。
本発明のケーブルの接続構造およびモータ駆動制御システムは、ケーブルにおける高周波ノイズを十分に抑制でき、外部端子へのケーブルの接続が容易であり、ケーブルが軽量で、かつフレキシビリティを有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のケーブルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のケーブルの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明のケーブルの他の例を示す断面図である。
【図4】本発明のケーブルの他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のケーブルの他の例を示す断面図である。
【図6】本発明のケーブルにおける導体線と抵抗体薄膜との位置関係の一例を示す断面図である。
【図7】本発明のケーブルにおける導体線と抵抗体薄膜との位置関係の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明のケーブルにおける導体線と抵抗体薄膜との位置関係の他の例を示す断面図である。
【図9】本発明のモータ駆動制御システムの一例を示す概略図である。
【図10】ケーブルの評価方法を説明する図である。
【図11】実施例1のケーブルの高周波エネルギの減衰特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ケーブル>
図1は、本発明のケーブルの第1の実施形態を示す断面図である。ケーブル1は、導体線12を絶縁体14で被覆した断面円形の4本の絶縁心線10と;平行に延びる4本の絶縁心線10のうち上側2本の絶縁心線10と下側2本の絶縁心線10との間に挟まれ、4本の絶縁心線10のそれぞれに接触するように絶縁心線10の長手方向に沿って配置された、フィルム22の片面に抵抗体薄膜24が形成された抵抗体フィルム20と;4本の絶縁心線10を囲むシース30とを有する。
【0018】
図2は、本発明のケーブルの第2の実施形態を示す断面図である。ケーブル2は、導体線12を絶縁体14で被覆した断面円形の4本の絶縁心線10と;平行に延びる4本の絶縁心線10からなる絶縁心線束を被覆し、4本の絶縁心線10のそれぞれに抵抗体薄膜24が接触するように絶縁心線10の長手方向に沿って配置された、フィルム22の片面に抵抗体薄膜24が形成された抵抗体フィルム20と;抵抗体フィルム20をさらに囲むシース30とを有する。
【0019】
図3は、本発明のケーブルの第3の実施形態を示す断面図である。ケーブル3は、導体線12を絶縁体14で被覆した断面円形の4本の絶縁心線10と;平行に延びる4本の絶縁心線10からなる絶縁心線束のうち、上側2本の絶縁心線10および下側2本の絶縁心線10のそれぞれに抵抗体薄膜24が接触するように絶縁心線10の長手方向に沿って配置された、フィルム22の片面に抵抗体薄膜24が形成された2枚の抵抗体フィルム20と;抵抗体フィルム20をさらに囲むシース30とを有する。
【0020】
図4は、本発明のケーブルの第4の実施形態を示す断面図である。ケーブル4は、導体線12を絶縁体14で被覆した断面円形の4本の絶縁心線10と;平行に延びる4本の絶縁心線10からなる絶縁心線束のうち、上側2本の絶縁心線10、下側2本の絶縁心線10、右側2本の絶縁心線10および左側2本の絶縁心線10のそれぞれに抵抗体薄膜24が接触するように絶縁心線10の長手方向に沿って配置された、フィルム22の片面に抵抗体薄膜24が形成された4枚の抵抗体フィルム20と;抵抗体フィルム20をさらに囲むシース30とを有する。
【0021】
図5は、本発明のケーブルの第5の実施形態を示す断面図である。ケーブル5は、導体線12を絶縁体14で被覆した断面三角形の中央絶縁心線16と;中央絶縁心線16の絶縁体14の表面に形成された抵抗体薄膜24と;抵抗体薄膜24に接触するように、絶縁心線10の長手方向に沿って中央絶縁心線16の3面のそれぞれに配置された、導体線12を絶縁体14で被覆した断面円形の3本の絶縁心線10と;3本の絶縁心線10を囲むシース30とを有する。
【0022】
(絶縁心線)
絶縁心線10(中央絶縁心線16を含む。)は、導体線12を絶縁体14で被覆したものである。
絶縁心線10(中央絶縁心線16を含む。)は、導体線12と絶縁体14の材料(樹脂等)とを共押し出しして製造される。
なお、ケーブル内の絶縁心線10(中央絶縁心線16を含む。)の本数は、図示例ように4本に限定されず、1本であってもよく、2〜3本または5本以上であってもよい。
【0023】
(導体線)
導体線12の材料としては、導電性の高い金属(銅、アルミニウム等)が好ましい。
導体線12の断面形状は、通常、略円形である。略円形の導体線12は、円形の開口を有するダイス中を引き抜くことで作製された単線のものであってもよく、複数の細線を束ねた撚線であってもよい。撚線の場合、その断面は表面が粗面化した略円形と見なすことができる。
【0024】
(絶縁体)
絶縁体14の材料は、通常、樹脂またはゴム弾性体である。絶縁体14の材料としては、具体的には、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂等が挙げられる。
絶縁体14の体積抵抗は、1×10Ω以上が好ましい。
【0025】
(抵抗体フィルム)
抵抗体フィルム20は、フィルム22の片面(必要に応じて両面)に抵抗体薄膜24を形成したものである。
【0026】
抵抗体フィルム20は、フィルム22の表面に抵抗体薄膜24の材料(金属、導電性セラミックス、カーボン等)を物理的に蒸着する、またはフィルム22の表面に金属、導電性セラミックス、カーボン等を含むペーストを塗布することによって製造される。
なお、抵抗体フィルムは、図示例の抵抗体フィルム20に限定されず、絶縁体中に金属、導電性セラミックス、カーボン等を分散した材料をフィルム状に成形した成形シート、すなわちこれ自体が絶縁体薄膜を構成するものであってもよい。
【0027】
抵抗体フィルム(前記成形シートを含む。)20の厚さは、10〜500μmが好ましい。抵抗体フィルムの厚さが10μm以上であれば、抵抗体フィルムの耐久性が良好となる。抵抗体フィルムの厚さが500μm以下であれば、ケーブルのフレキシビリティが良好となる。
【0028】
(フィルム)
フィルム22の材料としては、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
フィルム22の厚さは、可とう性の点から、3〜25μmが好ましい。
【0029】
(抵抗体薄膜)
抵抗体薄膜24の材料としては、金属、導電性セラミックス、カーボン等が挙げられる。材料の固有抵抗が低い場合は、抵抗体薄膜24の厚さを薄くすることで、表面抵抗を高く調整できるが、厚さのコントロールが難しくなるため、抵抗体薄膜24の材料としては、比較的高い固有抵抗を有する材料が好ましい。
【0030】
金属としては、強磁性金属、常磁性金属等が挙げられる。
強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄、鉄合金(Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等)、コバルト、ニッケル、これらの合金等が挙げられる。
常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、タンタル、モリブデン、それらの合金、アモルファス合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。
金属としては、酸化に対して抵抗力のある点から、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、クロム、タンタルが好ましく、実用的には、ニッケル、ニッケルクロム合金、鉄クロム合金、タングステン、クロム、タンタルがより好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0031】
導電性セラミックスは、金属に比べ、酸化等の化学的変質がなく安定であることから、抵抗体薄膜24の材料として好ましい。
導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には、窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
導電性セラミックスは、物理的蒸着法における反応性ガスとして、窒素、炭素、ケイ素、ホウ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素を含むガスを用いることによって容易に得られる。
【0032】
抵抗体薄膜24は、例えば、物理的蒸着法(EB蒸着法、イオンビーム蒸着法、スパッタ法等)によって、フィルム22または絶縁体14の表面に抵抗体薄膜24の材料を物理的に蒸着する、またはフィルム22または絶縁体14の表面に金属、導電性セラミックス、カーボン等を含むペーストを塗布することによって形成される。
【0033】
抵抗体薄膜24は、下記の理由から、図6〜8に示すように、導体線12と同軸である仮想の同心円筒Vの外周に沿わない部分を有することが好ましい。
導体線12に流れる高周波ノイズ電流は、導体線12の周囲に電磁界変動を起こしながら流れて行く。この際、高周波ノイズ電流によって電磁界変動すなわち電磁界ベクトルの変化が起こり、電磁誘導原理から抵抗体薄膜24に渦電流が発生し、抵抗体薄膜24による抵抗損によってエネルギが消費される。このようにして、導体線12を流れる高周波ノイズ(サージノイズ)が効率よく減衰していくものと思われる。よって、電磁誘導によって抵抗体薄膜24に渦電流を発生しやすくするために、導体線12と同軸である仮想の同心円筒Vの外周に沿わない部分が抵抗体薄膜24に形成されるように、抵抗体薄膜24を配置することが好ましい。
【0034】
また、電磁誘導によって抵抗体薄膜24に渦電流が発生しやすくなる点から、抵抗体薄膜24は導体線12の近傍に配置されることが好ましい。具体的には、導体線12の表面から、抵抗体薄膜24のうち導体線12に最も近い部分までの距離D(以下、最短距離Dと記す。)は、1〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。最短距離Dが1μm以上であれば、導体線12と抵抗体薄膜24との絶縁性を十分に保つことができる。最短距離Dが100μm以下であれば、十分な高周波ノイズ抑制効果を発揮する。
【0035】
また、抵抗体薄膜24を導体線12の近傍に配置するという点から、抵抗体フィルム20は、抵抗体薄膜24の表面を導体線12側に向けて配置されることが好ましい。
抵抗体薄膜24は、通常、導体線12の長手方向に沿って連続的に配置されているが、後述するように、抵抗体薄膜24は、いかなる導電性材料(外部導体を含む。)にも接続されずに、電気的に完全に浮遊状態であるため、導体線12の長手方向に沿って断続的に配置されていてもよい。
【0036】
抵抗体薄膜24の表面抵抗は、1〜1000Ωが好ましく、10〜500Ωがより好ましい。抵抗体薄膜24の表面抵抗が該範囲内であれば、十分な高周波ノイズ抑制効果を発揮する。すなわち、抵抗体薄膜24の表面抵抗が低すぎると、シールドとして働いて高周波ノイズを反射してしまい、抵抗体薄膜24の表面抵抗が高すぎると、高周波ノイズが抵抗体薄膜24に捕捉されず透過して高周波ノイズを抑制できない。
【0037】
抵抗体薄膜24が、直接、導体線12、シールド材(金属網組、アルミニウム薄膜等)等の導電性材料に接触すると、表面抵抗が低下するため、十分なノイズ抑制効果を発揮できない。よって、後述するように、抵抗体薄膜24は、いかなる導電性材料(導体線12、シールド材、外部導体等)にも接触せずに、電気的に浮遊状態である必要がある。
【0038】
導体線12の長手方向に直交する方向の抵抗体薄膜24の幅は、導体線12の1本あたり、導体線12の直径の0.5〜4倍が好ましく、1〜3倍がより好ましい。抵抗体薄膜24の幅が導体線12の直径の0.5倍以上であれば、十分な高周波ノイズ抑制効果を発揮する。抵抗体薄膜24の幅が導体線12の直径の4倍以下であれば、ケーブル内で余分な体積を占有することがなく、フレキシビリティを損なうことがない。
【0039】
抵抗体薄膜24の厚さは、10〜500nmが好ましく、20〜100nmがより好ましい。抵抗体薄膜24の厚さが10nm以上であれば、十分な高周波ノイズ抑制効果を発揮する。抵抗体薄膜24の厚さが500nm以下であれば、表面抵抗を十分に高くできる。
【0040】
(ケーブルの製造)
ケーブルは、例えば、シース30の材料の押し出しと同時に、あらかじめ準備された絶縁心線10および抵抗体フィルム20を共押し出しすることによって製造できる。この際、抵抗体フィルム20の位置を規制する位置制御材(図示せず)を用いてもよい。
【0041】
(作用効果)
以上説明した本発明のケーブルにあっては、導体線12の長手方向に沿って絶縁体14を介して配置された抵抗体薄膜24を有し、かつ抵抗体薄膜24がいかなる導電性材料に接触していないため、高周波ノイズを十分に抑制できる。
また、本発明のケーブルにあっては、抵抗体薄膜24を、外部導体(外部端子)を含むいかなる導電性材料に接触(接続)させる必要がないため、外部端子への接続が煩雑ではない。
また、本発明のケーブルにあっては、ケーブル内に占める抵抗体薄膜24の断面積が小さいため、軽量で、かつフレキシビリティを有する。
【0042】
<ケーブルの接続構造>
本発明のケーブルの接続構造は、導体線12が外部端子に接続され、抵抗体薄膜24が外部端子を含む外部導電体に接続されていない、すなわち抵抗体薄膜24は、いかなる導電性材料(外部導体を含む。)にも接続されずに、電気的に完全に浮遊状態であることを特徴とするものである。
【0043】
このような本発明のケーブルの接続構造にあっては、抵抗体薄膜24がいかなる外部導電体にも接続していないため、高周波ノイズを十分に抑制できる。
また、本発明のケーブルの接続構造にあっては、抵抗体薄膜24を外部導電体に接続させる必要がないため、外部端子へのケーブルの接続が煩雑ではない。
また、本発明のケーブルの接続構造にあっては、ケーブル内に占める抵抗体薄膜24の断面積が小さいため、ケーブルが軽量で、かつフレキシビリティを有する。
【0044】
<モータ駆動制御システム>
本発明のモータ駆動制御システムは、インバータと、該インバータによって駆動が制御されるモータとが、本発明のケーブルを用いた本発明のケーブルの接続構造によって接続されたものである。
【0045】
図9は、本発明のモータ駆動制御システムの一例を示す概略図である。モータ駆動制御システム40は、インバータ(図示略)と、インバータによって駆動が制御されるモータ60と、ケーブル1とを備え、導体線12の一方の端部が、インバータの端子52に接続され、導体線12の他方の端部が、モータ60の端子62に接続され、抵抗体薄膜24が、端子52および端子62を含むいかなる外部導電体に接続されていないものである。
【0046】
このような本発明のモータ駆動制御システムにあっては、抵抗体薄膜24がいかなる外部導電体にも接続していないため、ケーブル1においてサージノイズを十分に抑制できる。また、サージノイズによってケーブル1から発生する放射ノイズも抑制できる。
また、本発明のモータ駆動制御システムにあっては、抵抗体薄膜24を外部導電体に接続させる必要がないため、外部端子へのケーブル1の接続が煩雑ではない。
また、本発明のモータ駆動制御システムにあっては、ケーブル1内に占める抵抗体薄膜24の断面積が小さいため、ケーブル1が軽量で、かつフレキシビリティを有する。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(抵抗体薄膜の厚さ)
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)を用いてサンプルの断面を観察し、抵抗体薄膜の5箇所の厚さを測定し、平均した。
【0049】
(表面抵抗)
石英ガラス上に金を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上から、被測定物の10mm×20mmの領域を50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定し、この値を表面抵抗とした。
【0050】
(高周波ノイズ抑制効果)
図10に示すように、ケーブル1の導体線の両端と、ネットワークアナライザ70(アンリツ社製、37247D)の端子とを接続用ケーブルで接続し、ケーブルの高周波エネルギの減衰特性を測定した。この際、ケーブル1の抵抗体薄膜には、接続用ケーブルを接続しなかった。
【0051】
〔例1〕
絶縁心線10として、銅線からなる導体線12(長さ:1m、直径:2mm)の表面をポリウレタン樹脂からなる絶縁体14(厚さ:0.1mm)で被覆したものを用意した。
【0052】
ポリイミドフィルム(長さ:1m、幅:4.5mm、厚さ:10μm)の表面の全体に、マグネトロンスパッタ法にて窒素ガス流通下にニッケルを物理的に蒸着させ、厚さ25nmの窒化ニッケルからなる抵抗体薄膜24(表面抵抗:25Ω)を形成し、抵抗体フィルム20を得た。
【0053】
シース30の材料(ポリ塩化ビニル)の押し出しと同時に、4本の絶縁心線10および1枚の抵抗体フィルム20を共押し出しすることによって、図1に示すようなケーブル1(長さ:1m)を得た。
ケーブル1について、高周波エネルギの減衰特性を測定した。結果を図8に示す。サージノイズの高周波成分を十分減衰することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のケーブルは、インバータとモータ等の負荷とを繋ぐ駆動ケーブル(モータ駆動ケーブル等)の他、通信用ケーブル等として有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 ケーブル
2 ケーブル
3 ケーブル
4 ケーブル
5 ケーブル
10 絶縁心線
12 導体線
14 絶縁体
16 中央絶縁心線
20 抵抗体フィルム
22 フィルム
24 抵抗体薄膜
30 シース
40 モータ駆動制御システム
52 端子
60 モータ
62 端子
70 ネットワークアナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線と、
該導体線の長手方向に沿って絶縁体を介して配置された抵抗体薄膜と
を有し、
該抵抗体薄膜に接触する導電性材料を有していない、ケーブル。
【請求項2】
前記抵抗体薄膜が、前記導体線と同軸である仮想の同心円筒の外周に沿わない部分を有する、請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記導体線から、前記抵抗体薄膜のうち前記導体線に最も近い部分までの距離が、1〜100μmである、請求項1または2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記抵抗体薄膜の表面抵抗が、1〜1000Ωである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項5】
前記抵抗体薄膜の幅が、前記導体線の1本あたり、前記導体線の直径の0.5〜4倍である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項6】
前記抵抗体薄膜の厚さが、5〜100nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のケーブル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のケーブルの接続構造であって、
前記導体線が、外部端子に接続され、
前記抵抗体薄膜が、前記外部端子を含む外部導電体に接続されていない、ケーブルの接続構造。
【請求項8】
請求項7に記載のケーブルの接続構造を備えたモータ駆動制御システムであって、
インバータと、
該インバータによって駆動が制御されるモータと、
前記ケーブルと
を備え、
前記導体線の一方の端部が、前記インバータの端子に接続され、
前記導体線の他方の端部が、前記モータの端子に接続され、
前記抵抗体薄膜が、前記端子を含む外部導電体に接続されていない、モータ駆動制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−150980(P2012−150980A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8665(P2011−8665)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】